推理風娯楽小説「ミステリに憧れて」 - 3/5

◇調査編

(※見取り図)

 見取り図を開き、デュースと相談する。
「まずはどこから調べましょうか?」
「そうだな……。せっかく目の前にあるのだから、まずはこの、親父殿の部屋を詳しく調べよう」

◆調査1・リリアの部屋

 デュースと手分けして調査を開始しようとしたときのことだった。
「やっぱり、気になるのはこの本棚の血文字ですよね。『Silver』って、先輩の名前が書いてある……」
「ああ。血の乾き具合を見るに、これが書かれたのは……夜中のことだろうか。この文字が意味するのは、やはり……」
「だ、ダイイングメッセージってやつでしょ……。遺言、ってやつ? 殺されたリリア氏が、犯人を伝えようとして、遺したものだと思うよ……」
「イデア先輩!」
 俺たちの背後から、イデア先輩が登場する。
「ちょ、ち、近寄らないで! いつでも逃げられる距離を取ってじゃないと今人と話せないんでホント!」
 ……警戒されている。当然、か。このような状況では、俺が犯人だと言われているようなものだ。だが、ちょうどいい。イデア先輩には聞きたいことができた。
「あなたは先ほど、自室に帰ると言っていたが……。この場所に何か用事か?」
「い、いやっ、事件があったのに全然調べてないのもあとでなんか言われそうだから、一応現場だけ見ておこうかなって思っただけで……っ! ホント、君たちがやるって言うなら今すぐにでも部屋には帰りたいし帰るから……っ!!」
「そうか。なら、帰る前に少し情報を提供してくれないか? 俺たちは昨夜から今朝にかけて、二人で談話室で眠ってしまっていたようで、ほとんど何があったかを知らないんだ」
「よ、夜のうち……って、夕食後、あたりからでいいの? 確か、19時から20時くらいにかけては、皆、食堂に集まって、君らの作ったカレーライスを食べてた、よね。で、その後はそれぞれバスルーム行ったり部屋でのんびりしたり、気ままに自由行動、って感じだったと思うけど……」
「あなたは20時以降から今朝まで、一体どこで何をしていたんだ?」
「え、これ以上なく犯人っぽい人に逆に疑われるとかある……? まあでも、下手打って殺されても困るし……。ぼ、僕は……それこそリリア氏に言われて、娯楽室を自分の部屋代わりにしてたよ。それで、食堂を出たあとは、ずっとひとりで娯楽室で引きこもってネット繋いでゲームしてた……。でも、昨日の夜、雷が落ち始めてから、スマホもネットも圏外になったからゲーム中断! それが22時半頃だったかな、気分最悪だったよ……。でも、そこに救いの神が現れたんすわ! なんと娯楽室にはオフラインで遊べる弾幕系シューティングのレトロゲーがあってさ、だからその後はずっと、今朝までそれやってたんだ」
「……睡眠は取っていないのか? 身体に悪いぞ」
「徹夜ゲームは僕の日常っすわ~! んで、ネトゲのログイン履歴もシューティングのプレイ時間も残ってるから僕のアリバイは証明できるよ、おまけに、娯楽室にはずっと鍵かけてて誰も中に入れてないっ! だからホント何も証拠の目撃とかしてないし、代わりの犯人にも仕立てあげられないし、誰とも関わりとかないんでホント何もしないで……ただの傍観者Bでいさせて……」
「あの。信じてもらえないかもしれないけど、さっきも言った通り、僕とシルバー先輩はずっと一緒に談話室にいて……、犯行が不可能なんです。だから、犯人はシルバー先輩の他にいて……」
「え……。し、信じらんないよ、そんなの。君たちが共犯かもしれないし……もしそうだったら、いくらでも口裏合わせられるじゃん……。てかそうだったとしたら、2対1のこの状況ヤバくない? ……あー、ともかく、僕はホント関係ないんで! このあともさ、ほら、娯楽室に帰って引きこもっとくから、うん! 君達が本当に犯人じゃないって言うなら、真犯人が見つかった頃、いや警察に連れてかれた後とかに呼んで……!」
 イデア先輩は足早に去ってしまう。あの人から聞けた情報は、このくらいか。

【情報1・イデア先輩はずっと娯楽室にいた。ずっと鍵をかけて、部屋に閉じこもっていたらしい。プレイログでアリバイが証明できる。】

 軽くメモに残して、部屋の中を詳しく調べることにした。デュースと手分けをして部屋を調べてみて、気になるところは随時メモをしていく。それで集まった情報は、このようなものだった。

【情報2・部屋一面、壁中すべて刀傷だらけだ。恐らく、俺の剣を使ってつけられたものだろう。……争いでもあったのだろうか?】
【情報3・廊下から玄関へ向けて、何かを引きずったような血と泥の跡がある。恐らく、ここから親父殿の遺体を桜の木の根元まで運んだのだろう。】
【情報4・本棚の本の中身の順番が整列されておらずバラバラだ、とデュースから指摘があったが……。親父殿が使っていた本棚なのであれば、そういうこともあるだろうな……。】
【情報5・今はここにないが、レオナ先輩が俺の剣は親父殿の部屋で拾ったと言っていた。恐らく、この部屋の中にあの剣はあったのだろうな。】

「親父殿の部屋から手に入る情報は、こんなところだろうか」
「調べ忘れたこととか、気になることがあったら、また戻ってきてみましょう。他の場所も、犯人に隠される前にいったん見たいですしね」
「そう、だな。となると……次の手がかりは、あれだろうな……」

◆調査2・遺体発見現場

 デュースと共に、親父殿の遺体のあった場所へと赴く。そこではジェイドとジャミルが、二人で遺体を検分しているようだった。
「ああ、君か」
「犯人は現場に舞い戻る、と言いますが……。まさかこんなに早く戻って来られるとは」
「俺じゃない。俺は夜から朝にかけて、ずっとデュースと共に談話室にいた。犯行は不可能だ」
「ふん、共犯の可能性も疑えるね」
「どいつもこいつも……。僕たちがヴァンルージュ先輩を殺して、何の得があるって言うんですか!」
「得なら、ここにいたみんなにありますよ。何せリリアさんは、とても高価な本をお持ちでしたから」
「……本?」
 俺が尋ねると、ジェイドは言った。
「おや? シルバーさんはもしや、居眠りでもされていたのでしょうか。リリアさんは昨日、食堂にいらした皆さんの前で、とても希少で高価な本……そうですね、1冊で1000万マドルはするものを手に入れたと自慢していらっしゃったではないですか。今回のことは、それを目当てとした犯行じゃないかと僕は睨んでいるのですが……この推理、いかがでしょう?」
「ああ、そうだったな。では、動機は金銭目当て、ということか……?」
「僕はそう考えます。ああ、とはいえ僕は今回の犯人ではないですから、そう睨まないでくださいね? そうそう、あのあとリリアさんから聞いたお話ですと、装丁としては少し古いだけで普通の本と変わらないそうなので、まだ本棚にあったとしても、ジャミルさんやレオナさんのような、目利きの方でなければ気づかないかもしれません」

【情報6・親父殿は1000万マドルの本を持っていた。食堂で皆にそのことを伝えている。本は少し古い装丁だが、普通のものだ。】
【情報7・ジャミルとレオナ先輩の二人は、古本の価値が分かる目利きだ。】

 メモを取りながら、事情を聞いていく。まだまだ、俺たちの持っている情報は少ないみたいだ。
「人を殺してまで、1000万マドルを手に入れたいなんて思いませんよ! それに、持ち主を殺さなくたって、盗むだけにするとか、譲ってもらうとか、命まで取らなくても、他にもっと穏便な方法はあるじゃないですか!」
 怒りを露わにするデュースをジャミルが宥める。
「俺は何も君が殺したとは思っていないさ、デュース。俺はどちらかというと怨恨の線を疑っていてね。もしそうだとしたら、やはりリリア先輩と仲の良かった、シルバーの線が濃いだろう? 関わりが深いってことは、それだけ嫌な面も見るってことだからな」
「俺はデュースと共に、ずっと談話室にいた。犯行は不可能だ」
「そうか? 俺はひねくれ者だから、こう考えるぞ。君が犯人だとして、デュースを脅すんだ。『この犯行を黙っていてくれれば、副産物として出てきた1000万マドルの本を譲ってやる、ただしもし黙らなかったらそのときは、お前かお前の大切な人がこうなるぞ』……なんてな?」
「言うわけないだろう……!」
「そういう可能性も考えられるっていうだけのことだ。怒らないでくれよ。まあ、代わりに平等な情報を提供すると、俺とジェイドは君たちが遺体を発見したと騒いだ後から、ずっとこの遺体の傍にいて、検死していた。だから、この遺体にはまだ誰も細工していないはずだよ。ジェイドが俺の目を盗んで何かしていなければな」
「そういうジャミルさんこそ、同じじゃないですか? ……まあ、僕たちは調査は他の方に任せ、とりあえずこのまま二人で検死とご遺体の見張りを続ける予定です」

【情報8・ジャミルとジェイドは、遺体発見後からずっと遺体の傍にいた。二人が見張っている間、誰も細工はしていないはずだ。】

「どうして二人はこの事件のことを調べないんだ?」
「俺は慎重派でね。うっかり決定的な証拠なんておかしなものを見つけて、口封じに犯人から殺されたくはないのさ」
「僕はむしろ、ご遺体から決定的な証拠が見つかり犯人の方に狙われることができるのではないかと期待して検死を始めたのですが……。とはいえこれはこれで、なかなか興味深くて。ジャミルさんの手際を眺めていようと考えました。あとは、つまらない疑いをかけられないよう、お互いの証人になるにはちょうどいいかと思いまして」
「……まあ、俺もそうだ。いるのがジェイドなのは不満だが、俺の調査中の行動を示す証人にはちょうどいいからな。このままいてもらうよ。それに、昨日俺たちは次の食事当番だと言われたもんでね。犯行時刻も含まれると思われる、夜23時を過ぎた頃から午前1時頃の時間帯まで、キッチンで次の食事の仕込みをしようと一緒にいたからな……。不服ながらも、今は一時的にだが互いに信用できるってわけだ」
「なるほど……。では、遺体の状況を簡単に教えてもらえるか?」
「何をお伝えすればいいでしょうか? お望みなら、内臓の損傷具合まで細かくお伝えできますが――」
「……死因と、分かるなら、俺たちが遺体を見つけた時刻と、死亡推定時刻。それから一年生に聞かせてもかまわないレベルの、遺体の状態を頼む」
「分かった。それじゃあ、うるさいジェイドは黙らせて、俺から説明するぞ」
 ジャミルから聞けた情報は、ざっくりとこんなものだった。

【情報9・死因は多数の切り傷による、出血多量。恐らく、刃物によるものだと思われる。が、どれもナイフのように小さな刀で斬ったような傷跡で、大きな刀傷はない、らしい。】
【情報10・死亡推定時刻は、午前1時ごろ……少なくとも、皆が寝静まった夜中の犯行だと思われる。遺体発見は、午前7時だ。】
【情報11・遺体は桜の木の根元の土に埋められていた。どこからか身体を引きずられたらしい跡がある。】

 ……仮想の話とはいえ、聞いていて気持ちの良いものではない。気分が悪くなってきた。顔色が悪いのだろう俺に、デュースが大丈夫ですか、と気を遣ってくれる。慕ってくれる後輩の前で、弱いところを見せるわけにはいかないな。大丈夫だ、と答えて、なんとか精神を持ち直した。今は辛くとも、耐えろ、俺。これも親父殿からの試練なんだ、耐えきってみせる……!

◆調査3・シルバーの部屋、デュースの部屋、他の人たちの私室

 ここには先輩方がずっといるみたいですし、気持ちが辛いなら別のところから調査を進めてみましょう、とデュースに言われ、ひとまずその場はジャミルとジェイドに任せることにして、辛いが親父殿の傍を離れた。
 ……親父殿の部屋と遺体は調べた。次に調べるべきは……己の部屋、だろうか? レオナ先輩の言葉が確かなら、剣がなくなっているはずだ。そういうわけで、次はそれぞれ、俺とデュースとの部屋を調べてみることにした。
 とは言っても、実際には過ごしていない部屋だ。何が見つかるわけでもなかったが、俺の部屋とされている場所からは、剣の鞘だけが見つかった。

【情報12・俺の部屋には剣の鞘だけが転がっていた。どうやら、犯人は剣を抜き身で持って行ったらしい。】

 デュースの部屋も一応見せてもらったが、特に変わったところやなくなっているものはないそうだ。イデア先輩がいるという娯楽室以外の他の人の部屋もひととおり調べようとノックをして尋ねてみたが、みんな部屋に鍵をかけてどこかに行っているようで、調べられはしなかった。

◆調査4・2F右側(バスルーム、ダイニング、キッチン)
 階段を登って2階へ行き、バスルームやダイニング、キッチンなど右側の部屋をデュースと手分けして調べてみる。昨夜のうちにジェイドとジャミルが仕込んでおいたらしい食材があること以外、変わった様子はない。手に入った情報は、わずかなものだった。

【情報13・キッチンの包丁は揃っている。バスルームやダイニングには、特に変わった様子はない。】

◆調査5・2F左側(談話室・シアタールーム)
 右側の部屋を調査してみたが大した手がかりは得られず、今度は左側の部屋を順番に調べてみようとデュースと共に談話室へと向かう。すると、そこではヴィル先輩とケイト先輩が二人で何かしていた。
「あ、シルバーくんにデュースちゃん。やほ~……って感じでもないか。こんな事件が起きちゃね……。この度は、ご愁傷様」
「アンタたち、何しに来たのよ? 聞き込み? それならさっさと済ませてちょうだい」
 俺は二人に尋ねる。
「あなたたちこそ、ここで何をしているんだ?」
「身の安全を確保してるのよ。犯人の狙いがなんなのか分からない以上、狙われるのはリリアだけとは限らないわ。少なくとも昨日、アタシと長時間一緒にいて犯行がしにくかったはずのケイトと一緒にいることで、追加の犯行をしにくくしているの。目撃者が多ければ多いほど、悪いことはしづらいものでしょう?」
「……なるほど。調査はせず、身の安全を確保するのだな」
「一応、この場で犯人が誰なのかを推理するくらいはしているけど……。わざわざ現場までひとりで出向いて調べ回るのは、殺されに行くようなもんだわ。だからアンタたちも二人で行動しているんでしょう?」
「そのような意図はなかったが……。安全面を考えると、複数人で行動することは確かに理に適っている」
「ちょうどいいわ。アンタたちが調査してきたってんなら、いくらか情報をちょうだい。アタシたちも知っていることを教えるわ」
 俺はヴィル先輩との情報交換に応じることにした。今まで調べてきたことを伝える。
「そ。死亡推定時刻は午前1時頃、なのね? ……良かったわね、アンタたち! 証人がいるわよ、そうでしょう、ケイト?」
「ん~、ヴィルくんあのときもう部屋帰って寝ちゃってたし、オレひとりで証人になるかはビミョーなんだけど! あのさ、オレ、夜中にお腹空いて、カップ麺食べにキッチンへ行ったんだ。そのとき談話室の明かりがついていたから、誰かいるのかな~? って思って覗いたら、デュースちゃんとシルバーくんが一緒に寝てたんだよね。……そうだ! 動かぬ証拠があったじゃん! オレ、あとで見せようと思って二人の写真撮ってたんだ! ちょうど撮ったのは1時頃みたいだよ、ほら」
 ケイト先輩がスマートフォンの画面に映る写真の撮影記録を見せてくれる。そこには確かに、談話室で居眠りをしている俺とデュースの姿があった。
「先輩、これって……!」
「ああ。……この写真を撮ったり、食事を摂っていたそのとき、物音などはしなかったのか?」
「んー……。それが、1Fの物音には気付かなかったんだよね。イデアくんがプレイしてたのかな? 娯楽室から、ずっとゲームの音がしてたからさ。それに、嵐も来てたし、雷も鳴ってたし。何か大きな音がしても、気付けなかったと思うな」

【情報14・俺とデュースが、親父殿の死亡推定時刻である1時頃に眠っていたのをケイト先輩が目撃。証拠の写真も撮っている。】
【情報15・深夜1時ごろ、2Fでは娯楽室からイデア先輩のゲームプレイの音がしていた。また、雷雨で物音は聞こえなかった。】

「ありがとう、参考になった。少なくともあなたたち、というか……ケイト先輩のことは信じて良さそうだ」
「あら、アタシへの疑いは晴れていないの? ならこういうことを教えてあげるわ、アタシもほとんど死亡推定時刻ギリギリまでケイトと一緒にシアタールームで長編映画を見ていたのよ? 犯行は不可能だと思わない?」

【情報16・ヴィル先輩とケイト先輩は、午前1時前まで映画を見ていた。3時間のものだったらしいから、午後10時から見ていることになる。】

「二人とも、ありがとうございました!」
「いえいえ~、ってかオレもこの目で見たデュースちゃんたちのことは信じられるし! また何かあったらよろしくね~」
 少し安堵した気持ちで、談話室を後にする。……ケイト先輩の写真によって、己の潔白が証明できたのもそうだが、デュースの潔白が同時に証明されたことも、嬉しかった。デュースは誰よりも最初に、この場で俺の潔白を信じてくれたから。そんな真っ直ぐな後輩を、ずっと疑っていたくはなかったから。
 一応シアタールームも見てみたが、ケイト先輩たちが映画を見た痕跡がある程度で、おかしなものはなかった。

◆2F左側・娯楽室

 それから、イデア先輩が閉じこもっているはずの娯楽室へ向かう。ノックしてみるが、返事はつれない。
「なっ、なっ、何……? 僕、ずっとこの部屋に引きこもってたし、引き続き引きこもってるって言ったじゃん……。まだ何かあるの……?」
「ゲームのプレイ記録があると言っていたな。どんな時間なのか、見せてほしい」
「い、印刷した紙を渡せばいい……?」
「できれば、今すぐに画面から直接見せてほしいのだが……」
「わ、分かったよ……。けどさ、僕もまだ君たちのこと信じ切れてないし……。1対2じゃ不安だから、せめて他の人もうひとり連れてきてくれない……?」
「……分かった」

 ひとまず引き下がり、書斎へと向かおうとする。いいんですか、とデュースが言った。
「もしシュラウド先輩が犯人なら、機械になんかいろいろして、この間にログを捏造できるかもしれませんよ」
「……だとしても、部屋に引きこもっていたというのが本当なら、あの人は俺たちと会った以降、犯行現場や状況を調べていないはずだ。だから、今捏造したとして、知らないはずの犯行時刻からはずらすことができないだろう」
「あ、そっか。なら、大丈夫ですね!」
「さて……娯楽室は後にするとして、ここが2F最後の部屋だな」

◆2F左側・書斎

 書斎の扉を開けると、そこにはレオナ先輩がいた。この人は俺を誰よりも疑っていた人だ。慎重に渡り合わなければならない。
「よォ、お前らか」
「あなたはここで何を?」
「本を探してたんだよ。本。お前ら、昨日の話は聞いてたんだろ?」
 昨日の話、とは。親父殿が持っていたという、高価な本の話だろうか。
「……リリア先輩が持っていたという、高価な本の話か?」
「そうだ。犯人が金か本が目当てなら、手に入れた本は動かぬ証拠になるから、いったん書斎に隠すだろ? 木を隠すには森の中、うってつけの場所だ」
「あなたは、犯人が金銭目当てだと思っているのか?」
「さあな。たかが本のために、わざわざリリアを殺そうと考えるやつの気なんざ知れねえよ。……その本が普通の本なら、だが」
「どういうことだ……?」
「1000万マドルもする高価な本だぜ。当然表のルートじゃ流通しない本だろ。その本に書いてあるのは、なんだと思う? 誰もが欲しがるような内容、考えてみろよ」
 レオナ先輩の問いを考えてみる。誰もが欲しがるような内容……?
「……分からない……」
「デュース、お前はどうだ?」
「えっと……。不老不死とか、黄金を無限に作る方法とか……?」
「なかなかいい線行ってるじゃねえか。だが、俺はこう考える。あれには『蘇りの秘術』でも書いてあったんじゃねえか、とな」
「蘇りの、秘術……?」
「ああ。誰かを生き返らせたいような動機があるヤツには、うってつけの本だろ。まあ、中身がそうでなくっても、それくらい誰もが欲しがるような価値のある本なのは確かってことだ。知識と、その先にある欲望ってのは、時に人を狂わせる」

【情報17・親父殿の持っていた希少な本に書いてあったのは、蘇りの秘術、のようなことかもしれない……?】

「キングスカラー先輩は、その本が欲しくて探してるんですか?」
「ハッ、馬鹿言うな。まったく必要ねえよ」
「なぜ、あなたはそんなことを俺に伝えてくれるんだ? 俺を、疑っていたのだろう?」
「ああ……そういやお前に返してなかったな。やるよ」
 レオナ先輩は、魔法で召喚した俺の剣をぽんと渡した。付着した血は、いつの間にか綺麗に拭き取られている。部屋にあった鞘を召喚し、剣を納めた。
「どういうことですか? キングスカラー先輩は、シルバー先輩が犯人じゃない、って思ってるんですか?」
「ちょっとは自分でものを考えろよ、ヒヨコ頭。こんなどこからどう見ても犯人ですって名乗りを上げた証拠をそのままにしていく奴が、この世のどこにいるんだよ。リリアの部屋にある本棚もそうだ。堂々とお前の名前が書いてあっただろ? もしお前らが犯人なら、リリアを殺したあと、あれや凶器をそのままにしていくか?」
「……隠蔽、しますね……。間違いなく……。暗くて本棚に気付かなかったとしても、少なくとも隙を見て剣だけは取りに行く、かも」
「そういうこった。俺の仮説が確かなら、逆に考えてお前らは犯人じゃねえんだよ。まあ、そこまで疑う心理を読んだトリックならお見事なもんだが……今、二人がかりで無理に斬りかかってこないことを見ると、そうじゃないらしいからな」
「俺には、今あなたを害するつもりはない。ところで、あなたは夜何をしていたんだ?」
「俺か? 俺はひとり、部屋で寝てたが。アリバイやら証拠やらはないぜ? 疑うんならまあ、自由に疑え。俺を疑ったところで、何も出てこねえがな。叩いても何も出てこないっつうのも、こういうときには大事な情報だ」
「そうか……有益な情報、感謝する。ついでと言っては何だが、もうひとつお願いしてもいいだろうか」
「ん?」
「娯楽室を調査したいのだが、イデア先輩が、俺たち二人だけでは警戒して娯楽室に入れてくれない。俺と敵対していたあなたがいるのなら、イデア先輩も気を許すだろう。だから、あなたも一緒に来てくれ」
「……今回だけだぞ」
 そうしてレオナ先輩を連れ、再びイデア先輩の閉じこもっている娯楽室を調べることになった。

◆2F左側・娯楽室(2回目)

 再び、イデア先輩の待つ娯楽室の扉を叩く。
「ひ、人増えた……? わ、レオナ氏じゃん……。あの展開からよく連れてこれたね……。ま、まあでも、これで二人がかりで斬り伏せられる可能性はない、のかな? じゃあ、プレイログ見たらさっさと帰ってね……」
「ああ。娯楽室もできたら軽く調べさせてはもらいたいが……」
「ま、まあいいけど……。できるだけひとりにはしてほしいけどね……」
「ゴタゴタ言わず、さっさとログ出せカイワレダイコン」
「はいはい……ほんと人使い荒いんだからさ、どいつもこいつも……」
 イデア先輩がゲームのモニターに映したプレイログの時間は、電波が圏外になったという午後22:30から、今朝の午前7:00ごろまでのものが残っていた。

【情報18・イデア先輩のプレイログは、電波が圏外になったという午後22:30から午前7:00ごろまでのものが残っている。】

「シュラウド先輩、夜通しゲームしてたんですか……?」
「徹夜なんて日常茶飯事ですが……?」
「先ほども言ったが……。睡眠時間を削ってまでゲームをプレイするのは、健康に悪影響だ。やめた方がいい」
「よくもまあそこまで中毒な奴が、死体だーなんて叫ばれただけでゲームやめて集まれたもんだなあ、オイ」
「な、なんで突っかかってくるの……? いきなり大きな声がしたから、ビックリして思わずゲーム切ったんだよ……外の様子見てたら皆なんか集まってるし、一応様子見に行かないわけにもいかなくて……」
 イデア先輩自身からは、既にどういう行動をしていたかの話は聞いている。あとは娯楽室を調べさせてもらおう。
「ん……、この部屋にはカーテンがないのか?」
「え、他の部屋にはあるの……? 僕が部屋に入ったときからずっとこうだったから、気付かなかったよ……夜は気にしてなかったけど、さすがに今は眩しいよね……」

【情報19・娯楽室にはカーテンがないようだ。イデア先輩によれば、最初からずっとこうだったらしい。】

 その後も娯楽室をひととおり調べたが、いくつか大型のゲーム筐体やボードゲーム、ダーツ板やビリヤードがあること以外、変わったところはない様子だったので、レオナ先輩と別れる。これで、調査は終了だ。

:→次ページ【情報のまとめ・推理編】

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