◇プロローグ~日常編
「準備はできたかの? それではプロローグ開始じゃぞ、二人とも!」
「はい、リリア先輩」
「はいっ、ヴァンルージュ先輩!」
デュースと共に、VRスペースの外で待つ親父殿へと返事をする。俺たちがこれから挑戦するのは、推理風のVRゲームだ。なぜ、そんなものに挑戦することになったのか、というと。まず、デュースが俺に勉強を教えてほしいというので、図書室で共に勉強していたんだ。しかし、俺がその途中で居眠りをしてしまい、つられてデュースまで眠ってしまった。自分を眠らせてしまうことはおろか、俺を頼ってくれた後輩まで寝せてしまうとは、不甲斐ない……。そんな俺たちの様子を見兼ねた親父殿が、『二人とも、じっとしてたら眠くなるなら、実際に身体を動かしながら思考力を鍛えればいいじゃろ!』と言って、イグニハイドのイデア先輩の元へと赴き、あっという間にバーチャルの空間と推理風のゲームを作らせてしまった。
ゲームのシナリオは、素人である監督生に、デュースでも解けるように頼むぞと言ってざっくりとしたものを頼んだそうなので、登場人物にも馴染みがあり、難易度自体は低いはず、とのことだ。
目を閉じて深呼吸し、ヘッドセットのスイッチをつけた。デュースと協力して、という、いつもとは些か趣の違う鍛錬ではあるが――今回の親父殿からの試練も、きっと乗り越えてみせる。
次に目を開けると、目の前の景色が切り替わり、そこには無事、俺と同じように仮想空間へと入ることができたらしいデュースが立っていた。ここは、ナイトレイブンカレッジの校門前、だろうか?
「ここ、学園の校門前、ですよね。学園で何か事件が起こるんでしょうか」
「確かに……。推理、と言っても、解くべき謎がなければ、思考力を鍛えるも何もないな。一体、どんな謎が提示されるのか……。リリア先輩は、しばらくコマンド通りに進めればいい、と言っていたが……」
コマンドのようなものは、今はまだ見当たらない。デュースと会話をしていると、後ろから声をかけられた。
「おお、もう集まっておったか。おぬしたち、早いのう」
「おや……リリア先輩。あなたも、このゲームの中に来られたのですか?」
「うん? ゲーム? 何の話じゃ。今回は何人かの生徒だけで合宿に行く、っちゅう話じゃったろ?」
どうやら、この親父殿は親父殿が操作しているわけではない、ゲームの中のキャラクターのようだ。ひとまず、話を合わせておこう。今はこの世界の背景や、起こりうる出来事が知りたい。
「ああ、そうでしたね。合宿……には、他に誰が来る予定だったのでしょうか」
「ううむ、誰じゃったかのう。確か、ここにおるわしら3人を含め、全員で9人じゃったのは覚えておるんじゃが……」
「……なるほど。俺たちを含めて、9人……ということは、あと6人の参加者がいるのですね。ありがとうございます」
デュースが、こっそりと俺にささやいた。
「9人もいる、って……その、合宿ってやつで、なんか、起こるんですかね?」
「恐らく、そうだろうな」
そのまま親父殿と雑談をしつつ待っていると、ほかの6人が次々と登場する。
「早いんだな、シルバー。君はどこかで居眠りして遅刻ギリギリかと思ったぞ」
スカラビアのジャミル。
「これはこれは皆さん、お早いお付きで」
オクタヴィネルのジェイド。
「デュースちゃん、せっかくだから一緒に行こうって言ったのに、置いてっちゃうなんてヒドくない!?」
ハーツラビュルのケイト先輩。
「あら、まだ全員揃ってないの? まったく、来てない奴らは相変わらずね」
ポムフィオーレのヴィル先輩。
「……なんで俺が合宿なんかに参加させられるんだか……」
サバナクローのレオナ先輩。
「う、うう、オルトのお願いだから来たけど、やっぱ無理……!! もう帰りたい!!」
そして、イグニハイドのイデア先輩。
全員が揃ったところで、合宿所へと向かうバスに乗り合うことになった。バスの中へと入れば、LOADINGという画面が表示され、背景が別のエリアへと切り替わる。移動時間がスキップされた、ということなのだろうな。
「おお、すごいな……!」
バスを降りてみれば、デュースが声を上げた通り、目の前の景色は見事なものだ。ピンク色の木が連なった中に、2階建ての洋館が建っている。
「ほれほれ! 皆も降りて見てみよ! これは東の国では有名な『サクラ』っちゅう花の咲く木でな。風が吹けば、それは見事な花の吹雪を見せるそうじゃぞ!」
「そう急かすんじゃねえよ……。花なんざ、その気になりゃいつでも見られるだろ」
「なんじゃ、レオナは風情がないのう! ……まあ良いわ、皆、バスを降りたら、それぞれわしから部屋の鍵を受け取って中に入るんじゃぞ。何せ今回のわし、皆のリーダーじゃからのう! 任せるが良い、ひゃっほう!」
「誰よ、リリアを合宿のリーダーにしたのは。心配しかないじゃない!」
皆、バスを降りて、それぞれサクラの花に感嘆の声をあげたり、さっさと鍵を受け取ったりとそれぞれの様子で洋館の中へと入っていく。
「あの、リリア氏。僕の鍵だけなんか部屋番号じゃなくて『娯楽室』って書いてあるんですけど……」
「ああ、すまん。説明を忘れておったな。どうしてもひとり分部屋が足りんかったから、娯楽室をお前の部屋にさせてもらったぞ。おぬしならどうせ娯楽室までゲームしに行くんじゃろうし、いいじゃろ?」
「はあ~、まあ、他の人たちともすれ違わなさそうだし、いいけど……。その代わり、娯楽室にはずっと鍵かけて引きこもるから、他の人は使えないと思ってね……」
俺とデュースも親父殿から部屋の鍵を受け取り、それぞれ自分に割り当てられた部屋へと向かうことにした。
自室では、持ち物の確認ができた。俺が持っているのは、剣術の練習用の、鞘に入った真剣と、警棒。それからスマートフォン、合宿用の着替え。その他はいつも携帯している眠気覚まし用のミントガムくらいの小物だった。
部屋にいると、やがて、トントンとノックの音がする。ドアを開けると、デュースがそこに立っていた。
「ヴァンルージュ先輩から、今日の食事当番はおぬしらじゃぞ、って言われました。キッチンに行って、食事を作りましょう」
「ああ、分かった。すぐに行く」
デュースと共にキッチンへ向かう。合宿所へ到着したのは午後16時だったから、今はそれから少し経って……17時くらいか。このゲームの中では、体感よりも時間の進みが早いようだ。
キッチンへ行くと、俺たちの他に3人の人がいた。ジェイド、ジャミル、ケイト先輩だ。
「君たち二人では食事の用意が大変だろうからな。テーブルセットくらいは手伝ってやろうかと思って来たんだが……嫌なヤツとかち合ってしまった」
「心外ですねえ。僕も、モストロ・ラウンジの一員として、ただ食事の用意をお手伝いしに来ただけなんですが」
「けーくんもお手伝いするからね、デュースちゃん! ……だからハーツラビュルの先輩とも仲良くしてね!? ね!?」
どうやら、この3人は食事の用意を手伝いに来てくれたみたいだ。
「心遣い、感謝する。では、始めよう」
キッチンに入ると、食事の用意をする、というコマンドが表示された。どうやら実際に料理はせずとも、これを選択するだけでいいようだ。
「現実で料理を作るのも、これくらい簡単だったらいいのにって感じですね」
「そうだな……。これは進めてしまっても大丈夫だろうか?」
「はいっ、僕は大丈夫です。確かにこういうときって、何か既に取り返しのつかないことしてるんじゃないかって、ヒヤヒヤしますよね」
もうひとりのプレイヤーであるデュースと適宜相談をしながら、今はただ目の前のコマンドを進めていく。
食事の用意をする、というコマンドを二人で選択すると、時間が進んだようで、19:00と表示された。目の前には、鍋いっぱいにおいしそうなカレーのルーができている。……メニューはカレーだったのか。
食堂には皆が集まって、思い思いに食事を摂っているようだ。俺たちも皿を取って座った方がいいだろうかと適当な席につくと、何やらイベントのような場面が始まった。
「おぬしら、みんなして合宿にあまり乗り気でないようじゃのう。屋敷に着くなり、勉学や鍛錬や恋バナでなく、ひとりで黙々とゲームに興じている者までいる始末ではないか! せっかくなのじゃから皆で青春の思い出を作らんか!」
「そうなるように部屋割り当てたのリリア氏じゃん……」
「つーか、誰が喜んでそんな馴れ合いをすんだよ。何の報酬もなしに……」
「お? 報酬? 報酬つったか、おぬし、レオナ~!」
「なんなんだよ、鬱陶しいな……」
「何かあるのですか、リリアさん?」
「うむ! 今日は、いつもよりものすっごい報酬があるぞ。わし、実は……1000万マドルはする本を今、持っておってのう! この合宿をいちばん頑張ってくれた者には、これをくれてしんぜよう! 大盤振る舞いじゃぞ!」
「えっ、すご~い! ……リリアちゃん、それマジ話じゃないよね?」
「一体どこで手に入れたのよ、そんなもの! 眉唾じゃないの?」
「紛れもなく本物じゃ! わしが保証する!」
「ってか、大事なのは本の価格より、書いてある内容でしょ……。読めない本だったりしたら、もらっても意味ないしさ。何が書いてあるの?」
「そうじゃのう……。禁断の秘術……じゃったりしてな?」
「くだらねえ。メシも食ったし、俺は部屋帰るぜ。これ以上リリアの与太話に付き合ってられねえ。合宿も頑張らねえ」
「なんじゃあやつは!」
「まあまあ、リリアさん。僕は興味を持ちましたよ。その本、ぜひ一読させていただきたいです」
「お? お? 読みたいか? 読みたければぜひ合宿を頑張ってもらいたいのう~!」
「なぜそんなに張り切って……学園長から賄賂でも貰ってるのか、リリア先輩……?」
ジャミルの一言で、どうやらイベントは終わりのようだ。親父殿はただ単に張り切っているだけだと思うが……。
様子を眺めていると、目の前に『食事を終え、食堂を出る』というコマンドが表示された。
「次はどうしたらいいんだろ? えーっと……とりあえず、食堂を出ましょうか」
「そうだな」
食堂を出る。すると、また場面が切り替わり、今度は『23:30 談話室』と表示された。隣にいたデュースも、そのままだ。
「また、時間が経過したみたいですね。僕らはこの時間、談話室にいる、ってことでいいのかな」
「……そのようだな。ソファに何かコマンドがある」
「えーっと……『まわりの状況を確認する』ってありますね。押してみましょうか」
「ああ」
コマンドを押すと、メッセージが表示された。
『いつの間にか、スマートフォンが圏外になっている。また、外からは激しい雷雨の音がする』
メッセージと共に、本当に雷雨の音が窓の辺りからし始めた。立体音響、というやつだろうか。デュースはスマートフォンを触ってみて、本当に圏外になっていることを確かめたようだ。
「……なんだか、嵐が来てるっぽいですね」
「そのようだ。これでは外に出られたものではなさそうだな。今は談話室からの移動もできないようだし……」
ドアノブを回してみても、開く気配がしない。というか、出てはいけない、とでも言いたげなマークが表示されている。これはいわゆる、ゲームシステム上の仕様というやつなのだろう。ソファに次のコマンドが現れる。
「次のコマンドは……『眠る』? じゃ、じゃあとりあえず、他にできることもなさそうだし……。眠る、のコマンドを選んでみましょうか」
「そうだな」
「まだ、何もないですけど……そろそろ、事件とか起きるんですかね?」
「これは推理ゲームだ。何も起きない、と言うことはないと思うが……」
疑問に思いながら、眠る、のコマンドを押す。今回はなかなか長く時間がスキップされたようで、次に表示されたのは『6:30 談話室』という文字だ。だが、そのまま待機しているように俺には指示された。デュースがひとりで行動しているのだろうか。
しばらく待つと、次に『7:00 談話室』という文字が現れて、俺も行動できるようになった。
……どうやら、合宿は2日目に入ったようだ。慌てた声のデュースが、俺を起こすように声をかけた。向こうからは寝ているように見えたらしいな。
「先輩っ、シルバー先輩! 起きてください! ……事件です!!」
「どうした、何があった?」
眠っていたことになっているとはいえ、それはただのゲーム上の設定の話だ。俺はすぐに、デュースに答える。
「ヴァンルージュ先輩の部屋から、血の跡が続いているんです!」
「……なんだって!?」
俺は、デュースの言葉を聞き、急いで談話室を出る。ドアノブはもう開き、自由に移動できるようになっている。親父殿の部屋は、俺の部屋の隣だったはずだ。見れば、廊下には確かに親父殿の部屋から続く血痕がどこかへ向けて引きずられている。
「部屋の中、見てみた方がいいかと思ったんですけど、先にシルバー先輩を呼ぼうって……」
「……待て。この血痕は、部屋の中ではなく、外に向けて引きずられている。なら……!」
デュースの言葉を遮り、俺は血痕を辿って外へと向かう。血痕は、玄関で途切れている。辺りを注意深く見回すと、サクラの並木の一本の根元に、ふと、爪の黒い、人の手のようなものが見えた、気がした。すぐ近くのサクラの木には、おあつらえむきにシャベルが立てかかっている。
「……まさか……!」
俺は、急いでサクラの木の根元の土を掘る。ぶに、と嫌な感触がして、柔らかくなった土を手で避ければ、そこにはやはり、悪い想像をした通りの姿があった。……親父殿の、死体だ。
「そんな、親父殿……、あ、ああ……っ!!」
悲嘆に暮れていると、ピンポンパンポン、とこの場に似つかわしくない放送音が鳴る。そこから聞こえたのは、親父殿の声だった。……そうだ、これはゲーム……フィクションだった。とはいえ、それでも……。
『あー、と。これは特別なアナウンスじゃから、プレイヤーであるおぬしらにしか聞こえとらんと思ってくれよ。……うむ、無事に死体を見つけてくれたようで安心したわい。これでプロローグは終い、本格的なゲームスタートじゃ!』
「どうして……親父殿……」
『ああ、お前は人を疑うのがあまり得意ではない性格じゃからな。ちょいとでも感情移入ができるように、今回はわしを殺させてもらったぞ! さすがにフィクションとはいえ、マレウスやセベクに手をかけるわけにもいかんかったからのう。ま、この通り本物のわしは実際無事でピンピンしとるから、安心してじっくり推理を――』
「……この合宿に参加した者の中に、必ず犯人はいるのですね?」
『うむ、そうじゃが……』
「絶対に、あなたをこんな目に遭わせた犯人を見つけ出してみせます……!」
『……思ったよりやる気に火が点いたのう……。まあ、良いか! ゲームマスターとしてのわしからの連絡は恐らくこれが最後じゃ! それでは、頑張るんじゃぞ!』
ピンポンパンポン、と音が鳴り、親父殿の放送が終わる。これ以降は、ゲームクリア……真犯人を見つけ出すまで、再び親父殿の声を聞くことは、叶わない。フィクションといえど親父殿をこんな目に遭わせた犯人に、強い怒りのようなものが湧いてくる。
「親父殿……。あなたの無念は、俺が必ず……!」
「あ、あの、シルバー先輩?」
「……ああ、なんだ?」
「親父殿、って……?」
……そういえば、隣にデュースがいたのをすっかり忘れていた。今のを聞かれてしまった以上は、誤魔化しが効かないだろう。
「学園の皆を混乱させてしまうかもしれないからと黙っていたが……俺の育ての親というのは、リリア先輩のことだ。今までお前に話してきた父のことも、すべてあの人のことだ」
「えっ!? そうだったんですか!? え、でも、じゃあ、えっと……。僕にとっては、母さんを殺されたようなもん、ってことで……」
デュースは拳をつき合わせる。
「……そんなの、フィクションでも絶対許せねえ! シルバー先輩、僕、出来ること全部、全力で協力します、なんでも言ってくださいっ!!」
「ありがとう、デュース」
デュースは俺の気持ちに共感して、怒ってくれるようだ。頼もしいな。……だが、誰が犯人なのか、まだまったく絞りきれていない。俺より先に行動ができていたらしいデュースが犯人であるという可能性も、できれば考えたくはないが……頭の隅には置いておくとしよう。
「早速ですまないが……、遺体を見つけたと言って、他の人たちを呼んできてくれるか? 俺は、ここで遺体を見張っている」
「はいっ、分かりました!」
走っていくデュースを見送り、少し待てば、他の合宿参加者たちが、次々と俺のいる遺体発見現場へと集まってきた。
「ちょっとちょっと、死体ってどーいうこと~? ……どうもこれは悪い冗談……じゃないみたいだね?」
ハーツラビュルの、ケイト先輩。
「地面の下に死体とは……穏やかではありませんねえ」
オクタヴィネルの、ジェイド。
「やれやれ……。なんだか厄介ごとが始まったみたいだな」
スカラビアのジャミル。
「死体ですって? どうやら、これはただごとじゃないみたいね」
ポムフィオーレの、ヴィル先輩。
「し、しし、死体って……。嘘でしょ、この中に殺人犯がいるってこと……?」
イグニハイドの、イデア先輩。
それから一番最後に遅れて登場したのは――
「おいおい、死体がいると呼ばれて来てみりゃ、死んでるのはリリアじゃねえか。くはっ、いくら偉ぶってみても、死ぬときゃアッサリだなあ?」
――サバナクローの、レオナ先輩。俺は、この瞬間から全員の一挙手一答足を、すべて睨(ね)めつける必要がある。
「単刀直入に聞こう。リリア先輩を殺してこの土の中に埋めた者が、今、この場、この中にいるか? いるのなら、直ちに名乗り出ろ」
もちろん、本当に犯人が名乗り出るとは思っていない。ただ、この問いに動揺する人間がいないかを観察するためのこけおどしだ。だが、やはりというか……誰も、大きな動揺は見せていない。誰も彼も自分ではない、という否定の言葉のあと、口を閉ざすばかりだ。
やがて、イデア先輩が「ぼ、僕……こんな誰が殺人犯かも分からないところにいられないし、部屋帰るね……」と言ったのを皮切りに、それぞれが自由な場所へと歩き始めた。俺は、それを悪手だと止める。
「自由な場所へ行くのは待ってくれないか? もし、この中に犯人がいるのなら、証拠隠滅の機会を与えることになってしまうかもしれない」
俺の言葉には、レオナ先輩が答えた。
「それで? お前は順番にひとりずつ、俺たちを殺すのか?」
「……何を言ってる? もしや、あなたがリリア先輩を殺した犯人で、証拠を隠滅したいからそのようなことを言うのか? そういえば、あなたは先ほどもひとりだけ遅れてきたが、まさか……」
「おいおい、勘弁してくれよ。罪をなすりつけるなんてよォ。大人しい顔してリリアを殺すなんざいい根性してるから、黙っておいてやろうと思ったが、俺を標的にするなら話は別だ。……これ、お前の剣だろ? リリアの部屋に転がってたぜ」
「なっ……!?」
レオナ先輩が召喚して取り出したそれは確かに、剣術の練習に使ってきた、俺の剣だ。名前の部分に『Silver』と彫ってある。だが、なぜかそれは血にまみれている。
「なあ、お前らも、どこぞに引きこもって逃げ回る前に、リリアの部屋を見て来いよ。あそこで探偵面してる銀髪が犯人だって証拠が、堂々と残ってたぜ」
傑作だなァ、と笑いながらレオナ先輩はどこかへ去ってしまう。それに呼応するように、他の人たちも……。だが、今は彼らのことを気にしている場合ではなかった。なぜ、俺の剣が親父殿の部屋に……? 親父殿の部屋には、何がある?
思わず駆け出して、親父殿の部屋へ赴く。そこにあったのは、信じられない光景だった。部屋の中には一面そこら中、家具や壁、床や天井にまで刀傷があり、そして、本棚には、おびただしい量の血の文字で『Silver』と描かれていた。先ほどのレオナ先輩の言葉と合わせれば、そこに残された証拠のすべては、俺がやったということを示すもので。
「まさか……? 嘘だろう、俺、が……?」
絶望と無気力に襲われ、膝を落とす。俺を追いかけてきたらしいデュースが、部屋の惨状を見て、俺の傍にしゃがみ込んだ。
「シルバー先輩……、先輩は、やってないんですよね?」
「当然だ! なぜ、俺が親父殿を……っ!」
しかし、当然だ、といえるのか? 俺はこのゲームのシステムを何も知らされてはいない。自分でも知らない間に、犯行に及んでしまったのではないだろうか? だとしたら、俺はその結末を受け入れられるのか? そんな動揺に震える俺の手に、デュースは手を重ねる。
「なら、信じます。僕はシルバー先輩がやってないって、信じる」
「……俺がやっていないという証拠もないのに、信じてくれる、のか?」
「はい。ちょっと、ゲームの外からの話にはなっちゃうんですけど……。ヴァンルージュ先輩が監督生に頼んで用意したシナリオってことなら、大事なひとり息子に、罪を犯させるような風にはしない、って思うんです。今の、優しいシルバー先輩を育てた人なら、なおさら」
「デュース……、そう、思ってくれるのか」
「はい。だから、見つけましょう。真犯人」
「真犯人……?」
「先輩がやってないなら、これって、誰かが先輩に罪をなすりつけようとしてる……ってことですよね。だから、見つけ出しましょう、犯人を……。僕たちの手で!」
「……そう、だな。ありがとう、デュース。俺も、こんなところで膝を折っている場合ではない」
ひとつ、自身の頬を張る。俺が親父殿に凶刃を向けることなど、どんなことがあろうと、ありはしないんだ。それはきっと、親父殿も分かってくれている。
「親父殿の命を奪い、あろうことか土に埋め、その上罪を俺に重ねようとした人物……絶対に、見つけ出してみせる」
かくして、俺たちの調査は始まった。
◇日常編 終了
次ページ:調査編→
※コメントは最大1500文字、10回まで送信できます