・含まれるもの
死ネタ(キャラクターの死亡描写)、年齢操作(成人後)、将来の職業・進路や葬儀、地理などの捏造設定、デュースとモブキャラクターとの恋愛(男女問わず、デュモブなどのデュース攻め表現)や性行為の描写(どちらも匂わせ程度)、イベントストーリーネタバレ(ゴーストマリッジ、星送りなど)、キャラクターの飲酒表現(※成人後)
・その他の注意
*7章途中時点で執筆しているため、シルバー成人後の将来もリリアは健在であり、茨の谷の自宅にて隠居している設定となっています。
*将来職業捏造→デュース:警察官、エース:(今回は)営業職、セベク:マレウスの近衛兵
*話はエースの視点で進みます。
以上すべて大丈夫な方はスクロール↓
「アイツのことなど知るか!!」
――喫茶店の中で叫ぶセベクに、オレは溜め息をつく。落ち着けよ、声デカいって! とにかく落ち着いて座れっての! そう呼びかければ、セベクはうむ、すまないとひとつ咳ばらいをして、ようやくテーブルに落ち着いた。
「あのさあ。オレ、ただ『デュースとは最近どう?』って聞いただけだよね。なんでお前が、そんな怒るワケ」
デュースって、ホント懐かしい名前。ナイトレイブンカレッジに通ってた頃は、わりといつでもつるんでた。まあ、でも、卒業してからはちょい疎遠?
ハーツラビュル寮の先輩たちとかとはお互い同窓会的な集まりで会ったりしてたから、そのときついでに顔見たりはしてたけど……。ふらっと街歩いてたらたまに会うくらいにはそこそこ近所に住んでたっぽいから、あえて連絡取って集まって会うようなことしてなかったんだよな。
でも、アイツ、確か学園通ってたときにいたひとつ年上の先輩、そう、ディアソムニア寮にいたシルバー先輩と付き合ってたから、同じ寮にいて、シルバー先輩とも仲良かったらしいセベクとはまだ結構つるんでるんじゃないかって思ってたんだけど! ……これなんか、けっこう面倒なことあったっぽいよなあ。
メンドーなコトに首つっこむのはオレの趣味じゃないんだけど、まあ、セベクくんとは久々に会いましたし? 愚痴くらいは聞いてあげてもバチ当たんないでしょ。オレってばやっさし~。
「アイツ、アイツのことは……マレウス様やリリア様が許しても、この僕が許さん!!」
「いや、だから何があったのか、順を追って説明しろって! 何があったのか、ワケ分かんないからね、オレ!!」
とにかく怒りが先に来ているセベクを落ち着かせて何に怒っているのかを聞き出す。そしたら、もっとワケわかんないことを言われた。
「デュースは、今、シルバーのことを放って……女遊びを繰り返しているんだ!!」
「……はあ~?」
思わず脱力して、肩にかけた上着がずるりと落ちる。いやいや、何、何のジョーダン? とりあえず上着を元に戻しながら、ガムシロップマシマシのアイスティーを飲む。
「いやいや、何の冗談だよ。アイツ、学生時代、ゴーストの姫にすらさあ、『女の人相手だから……』って、緊張して何も言えなくって、ビンタされてたんだぜ? それが、浮気ィ? 女遊びを繰り返して?」
「そうだ!!」
「どうしても嘘つかなきゃいけないにしたって、もう少しマシなのつけって! 浮気も女遊びもキャラじゃないでしょ、あの単純バカの!!」
「嘘じゃない!! 嘘だと思うなら見るがいい、この証拠の写真を!!」
「どれどれ……?」
半信半疑で覗き込む。セベクがたどたどしい手つきで見せてきたスマートフォンのカメラロールには、確かにホテルっぽい場所の入口で、頬に女性の手形をつけたデュースの写真があった。写真に写ったデュースは不愛想な顔をしてこちらを睨んでいる。
「どういう状況で撮ったんだよこれ! お前茨の谷にいたんじゃないの!?」
「前の出張のとき、偶然見かけた奴がフラれた瞬間に撮ったんだ! 証拠だと思ってな!!」
「あ、そ……。それは随分ナイスショットだったね……。いやでも、フラれたなら遊んでないんじゃないの?」
「アイツ、フラれる度に新しい女を作っているんだ。男だったことも数回あるぞ」
「お前が怖いわ! なんでデュースと付き合ってる本人でもない上、普段よその国にいるのにそんなの知ってんだよ!!」
「交際経歴はこのとき本人に聞いたから知っている」
「ええ……。お前らなんなの……?」
なんか、知らない間にダチが変な関係になってるのめちゃくちゃ気まずいんですけど……。いや、でも、それもこれもデュースが浮気なんかするからじゃんね? なんでそんなことすんだろ、アイツ。学生時代めちゃくちゃシルバー先輩シルバー先輩、って尻尾振った犬みたいにお熱だったくせにさあ~。倦怠期にでも入ったの?
「ともかく、セベクはそれで怒ってるってワケね。まあお前、シルバー先輩と仲良かったもんね……ってか幼馴染なんだっけ」
「シルバーは兄弟子だが……まあ、ほぼ一緒に育ってきた、いわば兄弟のようなもの、だろう。向こうは少なくともそう思っている」
「はいはい。それでお兄ちゃんを適当に扱われてキレてるってコトね」
オレは兄貴が恋人に浮気されてるって聞いたら、そこまで怒るかな~。……んー、どうだろ。あーでも、浮気してるって彼女が堂々と家に来てたら冷たくなるくらいはしちゃうかもしんないな、オレも。やっぱ兄貴のこと、キライってワケじゃないし。
「怒っているのではない! いや、怒りも確かにあるが……、僕はアイツに、失望しているんだ!」
「失望?」
「そうだ。アイツは、シルバーと、本当に仲が良かった。仲睦まじかったんだ! 薔薇の王国と、茨の谷で、遠距離恋愛をしている仲ではあったが……。シルバーはいつも、アイツからの連絡が来ると、嬉しそうに照れてみせて、マレウス様がそれを見て、少しなら話してきていいぞ、と許しを与えて……手紙もやり取りして、時折、船に乗り、空を渡り、逢いに行き会って……そんな、うっかりすれば憧れすら抱いてしまうほどの積み重ねを、すべて裏切ったんだ!!」
「え、仲良かったの? オレ、てっきり倦怠期とか来て、だんだんお互い無関心になってったんだと思ってたけど」
「そんなことあるものか。今でも、シルバーはアイツを大切に想っている。間違いのないことだ。なのにアイツと来たら……!」
「じゃあ、デュースが一方的に冷めちゃった、ってこと? 確かにそれはお前とかからしたら怒りたくなることかもね。……っていうか、マレウス先輩とかリリア先輩は? 怒ってないの?」
あの人たちがガチで怒ってたらもうデュースこの世にいなさそうだけど、と付け足すと、セベクは不服そうに言った。
「……マレウス様も、リリア様も、デュースのやることに、何も言わないんだ。『デュースがそうすると決めたのなら、そうさせればいい』と言って……」
「ええ? それもおかしくない? リリア先輩もマレウス先輩も、シルバー先輩と仲良かったでしょ。それでデュースの肩持っちゃうのは、なんつーか、薄情……?」
「そうだろう!? いや、お二人を悪く言うなど、言語道断ではあるのだが……!」
「分かった、分かったって! 分かったから座れ!」
セベクがガタと音を立ててテーブルから立ち上がりかける。いちいちリアクションがオーバーなヤツだよね! 座れっての!! 十段くらいあるデカいパンケーキを勧めて、またセベクをイスに落ち着かせると、セベクは落ち着いて、それをフォークで大きなひとくちぶん口に含んで、飲み下してから言った。
「本当に、おかしなことだ。……いくらシルバーが、もうこの世にはいないとはいえ……」
「だよねー、いくらなんだって、シルバー先輩が……は?」
セベクの言葉を繰り返して、驚く。何、今、コイツなんて言った?
「何、シルバー先輩この世にいないって。え、死んだの?」
「せめて亡くなったと言わんか。……そうだ。つい半年ほど前の雪の夜、星に還った」
「え、オレ全然知らなかったわ……。ご愁傷様……」
いきなり知り合いの訃報聞かされるの、オレもさすがにちょっとショックなんだけど。……それから察しの良いオレは、チェリーパイ口に含みながら、余計なことにも気が付いちゃったりして。
「……ねえ、デュースが女遊び始めたのって、さあ? シルバー先輩が死んじゃってから、だったりしない?」
「む、貴様、何故それを知っている?」
「うわ~、やっぱり。……思った以上にメンドい案件じゃん……」
シルバー先輩、アイツに何やらかしてってくれたのよ……。間違いなく先輩の置き土産じゃん、と、セベクの愚痴に引き続き付き合う。……いやでも、オレ関係なくないコレ……?
「何か思い当たることがあるのか、エース?」
「いやー……。お前は怒ってるけどさ。間違いなくシルバー先輩に何か言われてからやってるでしょ、ソレ」
「何? シルバーが……?」
「逆にお前はなんでそう思わなかったワケ、今の今まで……」
「そう言われても、思い当たらなかった。シルバーは本当に、最期の瞬間までアイツを愛していたから……お前に話せば、何か分かるかもしれないな。では、僕の知っている限りのことを話してやろう」
それからセベクは語りだした。……人が死んでるんじゃ聞かないわけにもいかないし、でも長い話になりそうだし……。あーもう、アイスティーお代わりもらおうかなあ、オレ!
「デュースが女遊びを始めたのは、シルバーの葬儀の直後から翌日にかけてだ」
「そりゃまたずいぶん切り替え早いね!?」
「ああ。まったく、嘆かわしい。アイツがシルバーの葬儀に出て、ぐしゃぐしゃに握りしめた花を供えていったところまでは、良かった。シルバーのことを本気で想っていたのだと、僕はそう思っていた。……だが! 葬儀が終わり、シルバーの遺品を皆で整理したあと……。手伝いの礼に食事くらい取っていけ、と僕はアイツを晩餐に招くため声をかけてやったんだ。そうしたら、アイツは言った」
「うん」
「『これから薔薇の王国戻って、映画見に行くからいい』と」
「……よ、よっぽど見たい映画だったんじゃない? 締め切りギリギリだとか……」
「いいや。よほど見たいものなのか、シルバーと見る約束でもしていたのか、と僕は尋ねたが、そのどちらでもなかった! 『今話題の、動物出るらしい映画。適当な女の子誘うには、うってつけだろ?』と! アイツは!! シルバーの葬儀を終えた直後、その口で……言ったんだ!!」
「……ええ……さすがに引くわ……」
「僕は耳を疑った! だが、リリア様に、行きたいのなら行かせてやれ、と止められて……。……今思えば、シルバーの葬儀の際も、遺品整理の際も、アイツは涙を流していなかった!!」
デュース、アイツ、何してんの? 本気の恋人だったんだろ? そりゃセベクも怒るって。てか、逆にリリア先輩とマレウス先輩はなんで怒ってないの……? あ、逆にもう呆れすぎて怒る気すら失せてる、とか……?
「あれから何度、シルバーが使っていた魔道具で連絡を取ってみても、僕からの文句だと分かるとすぐに通信を切られてしまうし、珍しく会話に応じたときでも、今は誰と付き合っているのだと問えば、毎回違う相手の名前と、『いい女だぞ』だの、『気が合う子だ』だの、ソイツらへの褒め言葉が返ってくる!!」
「は~……」
「アイツは本当に、シルバーを愛していたのか……!?」
セベクが涙を目にちょっと滲ませながら、頭を抱えてる。……あーそっか、そうなのか。セベク、さっき仲いい二人の姿に憧れてたって言ってたし、夢を壊された~って感じなのね。ハイハイ。なるほど……。
……いやでも、聞いた限りな~んかデュースにも事情ありそうだけど……。明らかにシルバー先輩関連っぽいし。
ま、でも話聞いてたら、オレもだんだんムカついてきたかも? だってシルバー先輩、悪い人じゃなかったし。何より、なんかこのワケわかんない話だけ中途半端に聞かされる感じ、すっげーモヤモヤするし。あ、そうだ。せっかくセベクもいるんだし、デュースにならいいだろ! ぶつけにいこうぜ、このモヤモヤ!
「セベっく~ん! オレからひとつ素敵な提案があるんですけど!」
「気色悪い呼び方をするな! ……なんだ?」
「これから一緒にアイツ、事情聴取がてらぶん殴りに行かね? そしたら、何か分かるかもよ?」
こうしてオレたちは、仕事帰りのデュースを待ち構えることになった。
「アイツ、警察勤めだろ。この辺で張ってれば出てくるぜ、たぶん」
「もはや僕たちの方が警察のような張り込みをしているが……まあ、いいだろう。確かに、そろそろ一発強烈なのをお見舞いしてやらねば気が済まないところだ!」
ぶん殴るってのは単に比喩だったんだけど、マジで殴りそうな、コイツ。まあいっか、それがオレらの学生時代からの流儀だし!
で、仕事終わりのデュースが出てくるのを待ってたんだけど……どうやら先客がいたっぽくて。
「お?」
「なんだ?」
「いや、デュース出てきたんだけど、なんか女の子に捕まってるわ。どれどれ……?」
遠巻きに二人の様子を見守る。オレにはちょい遠くて聞こえないけど、耳いいっぽいセベクが、二人が言ってる言葉を訳してくれた。
「『なんでいるんだよ。職場までは来ないでくれって言っただろ』『納得できるわけないじゃん、いきなり「飽きた、別れよう」とか送られて』『文字通りだ。飽きたってか、冷めたんだよ、別れてくれ』『デュース……、もう一回、やり直せないの?』『本当にごめん。はじめから、一回も、ちゃんと好きだと思ったことはない。だから、やり直せないし、やり直しても同じことを繰り返すと思う』」
そこまで訳されたところで、デュースの頬が目の前の女に思いっきり張り飛ばされた。うわ、痛そ~……。てかアイツ、振り方ド下手かよ!
……ん、アイツ、頬張られた拍子に、落としたなんか拾った……? セベクは……気付いてるのか気にしてないのか、意気揚々としてるけど。
「ふむ。先客の用事は済んだらしいな。次は僕たちの番だぞ、エース!」
「今の見て行く気満々なのお前すごいな!? オレはマジだったんだって気持ちでいっぱいですけど!!」
「お前は初めてでも僕には見慣れた光景だ! この半年、薔薇の王国に来る度見ていたからな!」
「お前、薔薇の王国に出張以外の何しに来てるんだよ……」
「本当だよな」
「そーそー、って、え?」
振り向いた先には、さっきまで遠くで女の子と揉めてたデュースが、頬にモミジ張り付けたまんまでそこにいて。
「何してんだ、セベク、エース。お前らまで出待ちして僕の頬を張りに来たのか?」
「……相変わらず足速いね、デュース……」
オレは心当たりしかないデュースの言葉に、苦笑いしかできなくなった。
それから、セベクと一緒に、デュースが今住んでるっていうアパートの一室に招待された。学生時代から変わらず母親と二人暮らしだと思ってたけど、警察に入ってから、犯人とか危ない人から大切な人が狙われることもあるかもしれないってんで、別の場所に家構えてひとり暮らしはじめたらしい。まあ、たった今聞いた話だけどね。
「お前ら来ると思ってなかったから、カフェラテしかないぞ」
「いや、別にそれはいいんだけどさ……」
「もてなしはいらん。僕たちはただお前に用事があって来たんだ」
デュースが大きく、呆れたような溜め息をつく。
「セベク、エースまで巻き込んで……。またあの話だろ? 女遊びやめろ、って」
「そうだ!」
「ああ、だからちゃんと男とも付き合ってやったぞ。これで満足か?」
「上げ足をとるな、馬鹿者!!」
「落ち着けっての、お前ら!」
さっそく口論を始めて、なんなら胸ぐら掴み始めたセベクとデュースに割り入る。オレがまあ言い出しっぺですけど、放っといたらマジで殴りかかりそうじゃん!? ったく、なんでオレが面倒な二人の仲裁なんてしてやんなきゃなんないワケ!?
「デュース、お前セベクに言ってないことあるでしょ! 絶対!! なんかあるなら言えよ、隠してないで!!」
「……どこまで話したんだ?」
「僕の知っている限りのことは、すべて話した。シルバーが星に還ったことも、貴様が、シルバーの葬儀のあとに、すぐ女遊びを始めたことまで、すべてな!」
「……そうか。もう、じゃあ、いいかもな」
デュースは俯く。俯いて、それから、壁に背をつけて、ずるずると座り込んで、言った。
「お前ら、時間あるのか?」
「時間? まあ、なくもないけど……どんくらい?」
「とりあえず、明日の朝まで」
「明日だと? ……まあ、いいだろう」
エースもいいか、と問われ、まあ、明日休みだし、いーけどと答える。予定ないのはホントだし、何より乗りかかった船だし、もう結末の方が気になってしょうがなかった。そしたら、デュースがはは、と乾いた笑い声を立てた。
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれよ。……まずはその辺の店行ってさ、安い酒とツマミでも買って来ようぜ? もうガキじゃねえんだから」
で。適当に買い物して戻ってきたデュースの部屋で、オレは度数低めの缶チューハイ開けてるんだけど。デュース、めちゃくちゃジュースみてえに酒飲むじゃん。強すぎ。オレ酒弱いのに、なんか腹立つ……。で、セベクはオレより弱いらしくて、ノンアルコールとツマミ以外一切口にしないし。まあ、それはいいんだけど!
「オレらなんか普通に酒盛りしちゃってんじゃん! デュース、何のための酒なのコレ!」
「悪い。なかなか酔えなくて。……だが、いい感じに回ってきた。そろそろ言える」
そう言うデュースの頬は、確かにようやくちょっと酒が回って赤くなってる。最低でもオレの3倍は飲んでたよね? どんな代謝してんだよコイツ。
「そうだ貴様! 結局、なぜ女遊びをやめないのだ! 言え!!」
で、セベクはなんで酔ってんだよ。お前飲んでねえだろ。……あ、アルコール入りチョコレートがツマミに混ざってる! まさかコレで!? 確かにオレも酒弱い方だけどさ、それでもチョコでは顔赤くなるほど酔わねえよ!? ツッコミどころ多いわコイツら……。
デュースは追加でウイスキーをグビグビと飲みながら、セベクの言葉に答える。
「……頼まれたから」
「あ?」
「頼まれたんだよ」
「誰にだ! 誰が貴様に女遊びをしろなどと頼むと言うのだ!」
明らかに酔いながら指差すセベクの言葉に(大丈夫かよコイツはコイツで)、デュースが目を伏せた。
「……シルバー」
先輩、と忘れていたかのようにデュースは付け足す。
「……あー、ハイハイ。そんな呼んでたんだね。知らないうちにさ。そんな仲良かったのに……なんで、お前。女遊びなんかしてんだよ」
とうとう本題に切り込む。酔いが回り切る前に、まだ意識がハッキリしてるうちに、聞いとこうと思った。そしたら、デュースは言った。
「あの人、病気で死んだんだ。ある日身体に腫瘍が見つかって、見つかったときにはもう身体中に病巣が広がってしまってて、手遅れで、余命いくばくもないだろう、って。……元々は健康体だったのが、災いして……栄養も病気も、どっちも身体中へ広がりやすかったらしくってな」
セベクは黙って聞いている。……セベクが黙ってるってことは、嘘じゃないってワケね、オーケー。オレ、その辺の事情は初耳なんだけど、まあ、黙っといてやりますよ、今は。
「僕は、先輩の病気が告知されてから、命日まで……しばらく茨の谷にいた。持ってた休暇ぜんぶつぎ込んだ」
デュースは、ぽつりぽつりと話していく。氷浮かべたウイスキーのグラスの水面を眺めながら。
「先輩は、しばらくは元気そうで護衛の仕事にも出てたけど、だんだん身体も弱ってきて、そろそろ入院した方がいいって言われはじめた頃から、余命が決まっているのなら、その間、病院のベッドを埋めるのも忍びないって言って、できるだけ自宅近くで過ごしたがったから……。お医者さんと相談しながら、ずっと、ヴァンルージュ先輩やセベクと、僕と交代で様子を見てた。ヴァンルージュ先輩が、24時間何があっても対応できるように、って、引退した腕のいいお医者さん引っ張ってきて、で、時々、ドラコニア先輩も様子見に来てて……。シルバー……先輩は、『俺なら放っておいても平気だというのに、みんなに世話をかけさせてしまって、すまない』っていつも言ってた。それでも、僕たちは……僕は、あの人をひとりにしたくなかった」
デュースが、急に魔法で手元に何かを召喚した。小さい、ベルベット生地の小箱だ。ちょうど、指輪なんかが、入りそう、な……。……そこまで思い至ったら、だんだん酔いがさめてきた。それは、隣で聞いてるセベクも同じっぽかった。
「さっき、落としたの見てたんだろ、エース。……僕があの日、突っ返された指輪だ。未だに、コートのポケットに、いつも入れてるんだ。……未練ったらしく……」
セベクが、沈痛な面持ちで聞いてる。薄々オレたちは、デュースがあの人に何を遺されたのか、分かり始めていた。
「あの日、セベクはいなかったが……っ。シルバーに、あの人に、俺は、言ったんだ! 言ったんだよ!! こんなもん差し出してさあ、『僕の、一生にひとりの人になってください』って。そしたらさあ……っ、」
デュースは、手で顔を覆って、涙を流してる。情けなく、とは、さすがに言わないよ、オレ。……代わりに缶チューハイ、黙って飲むけどさ。
「言うんだよ、あの人は……っ。一言一句思い出せるぜ、聞いてろよ、『デュース、本当に……、本当に、気持ちはとても嬉しくて、頷いてしまいたいのだが、これは受け取れない。これは、俺が受け取ってはいけないものだ。これを受け取ってしまえば、この先、俺の心臓が止まり、星に還ったあと、お前はずっと、俺のことだけを考えて……ひとりで生きていってしまうだろう。それは俺にとって、とても辛く、悲しいことだ。だから、俺が死んだら、そのときは……どうか、これを渡してもいいと思えるような、そんな人と、もう一度、幸せになって欲しい。きっとお前は、いつか誰かに、また愛されることができるから。俺の、自慢の恋人だったお前へ、一生の、最期のお願いだ』って、さあ……っ!! 指切りまで、させられたんだぜ……!? それをさあ、破れるかよって話じゃねえか……!!」
デュースは、吐き出し続ける。セベクは黙って、握りしめたノンアルの缶ジュースにしわを付けてる。……炭酸だぜ、それ。程々にしなよ。じわじわ汁とか泡とか出始めてるじゃん。
「だからっ、他探そうとして、いい感じの子に声かけてたんだよ……っ! めちゃくちゃタイプの女の子、先輩に似た雰囲気持ったお姉さん、妙に馬が合う野郎、気が合うオッさん、前の人引きずっててもいいよって言ってくれた年下の子……、他にも、いろいろ、いろいろ探したけど……っ、でも、ダメなんだ!」
どんなに好みだろうが、なんだろうが、誰を抱いても、忘れられない、抱いたあとの朝は必ず、嫌悪と罪悪感で吐いちまうし、もし抱かれそうになったら、そのときはその場で別れてた、抱かれるのはあの人だけが良かったから、結婚をチラつかせてきた女とも、すぐに別れた、あの人以外誰ともその気になれなかったから、さっきの子もそうだ、今すぐではなくても、いつか結婚したいみたいなこと言ってたから別れた、
そんなある意味明け透けな事情さえ、デュースはぐちゃぐちゃに吐き出してしまう。それをなんか、オレは……なぜか、いや、なぜかじゃないね、関係ないからこそ、かな。冷静に見つめてた。ある意味、コイツも限界だったんだろうね。シルバー先輩も、コイツのこと分かってるようで分かってない。とんでもない置き土産してくれたもんだよ。コイツの性格なら、ずっと引きずってくれって言われた方が、いっそ楽だったかもしれないのに。……いや、そこまで分かってて、それでも辛い道を選べ、ってことなのかも。先輩も、ヒドいことするなあ。
「他に吐きたいことあるなら、ぜんぶ言えば? ……オレら酔ってるから忘れるし、聞いてやるよ、ついでに」
まあまあ酔いはさめてるけど、酔ってることにして聞いてやる。それくらいしてやっても、別にいいでしょ。今日はそんな気分だし。
「……恩に切る」
怒ってたセベクも、事情を聞いてかなり落ち着いたみたいで、デュースへ静かに語りかけている。
「お前が、女遊びを始めた理由は、よく分かった。葬儀のあと、映画へ行くとすぐに出かけたのも、それが理由か」
「……葬式の、あとは……。泣ける映画を、見に行きたかったんだ。感動する映画だったら、男がひとり、ぐすぐす泣いてても、誰も、何も言わないだろ」
「葬式で泣いてても、誰も何も言わないでしょ」
「僕が、情けなく、未練ったらしく泣いてたら、シルバー先輩が、心配するかもしれなかったから」
「そう、か。そうだったのか。……お二人は、なぜ、そのことを、僕に何も言ってくれなかったのか……」
「きっと、僕がお願いしたからだ。セベクには黙っててくれ、って。一世一代のプロポーズをフラれたなんて、情けないだろ、ってさ……、きっと、ドラコニア先輩とヴァンルージュ先輩は、律儀にそれを守っててくれたんだ」
セベクは、すっかり握りしめて変形させてしまった缶ジュースをテーブルに置くと、デュースに向かって急に勢い良く頭を下げた。
「すまない、デュースッ!! 僕は今まで、お前のことを誤解していた!! なんと薄情な人間なのだろうと……!! だが、お前のそれはすべて、シルバーを想っての行動だった!! 勘違いでお前を責めていたことに関しては、謝ってやろう!!」
「謝ってんのになんか偉そうだな相変わらず!? ……デュース、どうすんの?」
「頭上げてくれ、セベク。お前らしくなくてソワソワするし……。僕は気にしてない、っていうか……。お前が来て、なぜシルバーを想い続けない、って責められる度、ちょっと嬉しかった。そうしてもいいって思ってくれてる人がいるってことが。だから、いいんだ。……まあ、魔道具からの連絡はやめてほしかったけどな。あの人から連絡来たんじゃないかって思って、ガッカリするから。……そんなワケないのにな」
はは、と笑うデュースと、水臭いだろうが、どれもこれも早く言え、とデュースを小突くセベクを、まあ、なんか丸く収まったみたいで良かったんじゃない? って眺めてる。眺めてたら、あることに気付いた。
「でも、肝心の問題は解決してないよね。お前、このままだとまだ女遊び続けるじゃん」
「ああ、そのつもりだが……」
だって、それがシルバー先輩との約束だから、とデュースは言う。
「いや無理でしょ! お前、今の様子見る限り、シルバー先輩のことたぶん一生好きだよ!」
「だ、だが、それは一時的なものかも……」
「ううむ……僕にはとても、そうは思えんが……」
「なあ、デュース。先輩との記憶薄らいだり、この子とならイケるかも、って思った瞬間あった?」
「……ない、が……」
「ほら~! ダメじゃん!! お前もう先輩のことしか考えられないよ!!」
じゃあどうしろって言うんだよ、と投げやりに言うデュースに、セベクもううむ、と頭を抱える。……あー、ガラじゃない! こんなのホントにガラじゃないんだけど、でもこれくらいは言わなきゃオレが首突っ込んだ意味もないってワケで!! 正直オレどうしてここにいるのってレベルで場違いってか、関係ないんだけど!! ……言ってやらなきゃダメなんだよね、こんな単純なことにすら気付かない、馬鹿みたいに真面目なコイツらには!!
「別に、一緒に生きていって、幸せになれる大切な人ってのはさ……。恋愛に限らなくても、いいでしょ! 恋愛ではもうシルバー先輩ひとりだけって決めててもさ、こうやって、たまにオレらダチとつるんで、酒飲んで愚痴こぼしたりしてもさあ、それはそれで『誰かと幸せに』なってるんじゃないの!? それなら約束破ってなくない!?」
「……エース、お前…… 先輩の遺言に、ずいぶんひねくれたこと思いつくな?」
「ひねくれてて悪かったな!! ……でも、お前は少なくとも今はそうした方がいいよ、絶対! セベクもそう思うでしょ!」
「む、いや、そう……か? しかし、それなら確かに、シルバーの遺言と女遊びしないことを両立できる、のか? いや、だが、それがシルバーの願いなら、むしろ推奨すべき、なのか……?」
「それ、幸せになれるなら、だろ!? なれないよコイツ、このままだと! 誰と付き合っても!!」
「なあ、エース。ダチと遊ぶ、それも悪くはない提案だが……。指輪渡してもいいと思える人にって条件もあったんだぞ。どうすんだよこれ。僕、お前らに指輪渡したくないぞ」
「オレだっていらねーよ!」
「僕もいらん! それはシルバー専用だろう、シルバーに渡せ!!」
「僕も渡したくないとはいえ、お前らに拒否されるとなんかそれはそれで腹立つな……。いやでも、ずっと指輪持ち続けたり、未練抱え続けたりしたら、天国で待ってるシルバー先輩に怒られる……」
渋るデュースにだんだん面倒くさくなって、オレは言った。
「いーじゃん、そこはもう、いつか怒られればさ。シルバー先輩はああ言ったけど、やっぱりコイツには無理でしたって怒られてやるよ、そんときはオレたちが一緒にさあ!」
「僕もなのか!?」
「元はと言えばお前から始まった話だろ! ひとりだけ逃げようったってそうはいかねーから!」
「お前ら、僕と心中する気か……? まあ、でも、ありがとな。……確かに、お前らとこうやってつるんでることでも、幸せには、ってか、笑ってはいられるんだよな。好きでもない子と、無理に一緒にいるより……。そう、だよな。先輩に、いつか天国で『約束したはずだが』って、怒られたっていいんだ。むしろ、怒られに行こう! ……先輩を好きでいることがやめられないのなら、僕の勝手な事情で、一般市民に迷惑かけ続けるわけにもいかないしな!」
仏頂面だったデュースがやっと笑顔を見せ始めたのを見て、オレはセベクと顔を見合わせて笑った。これでもう、大丈夫だろ。
「そうだよこの汚職警官!」
「そうだ、警察の不祥事だぞ!!」
「汚職はしてないし、付き合ったのは一回につきひとりずつだ!! 何も後ろ指差されることはしてないぞ!! ……す、好きじゃないのに付き合ったりしたのは悪かったとは思ってるが……!!」
それから、雰囲気暗くなっちゃったしパーッと飲み直しね!! と音頭を取って、もう一度、今度は本当にどうでもいい取り留めのない話をしながら三人だけの飲み会をした。あとでその様子をマジカメに上げたら、エペルには誘って欲しかったって羨ましがられ、ジャックには何やってんだお前らいい年して、って言われたけど!
それから、一か月後。星が綺麗だからビアガーデンのテラスで飲もうぜ、ってデュースに誘われて、オレは誘いに乗った。……まあ、言い出しっぺの責任もあるしね。適当につるんでやりますよ、これからも。
「セベクは来れないって?」
「ああ、やっぱり薔薇の王国と茨の谷は遠いからな。だから、今日はこういう参加になってる」
そう言ってデュースがいくつかのスマホを置く。
「二台どころか三台持ち? エグいね」
「契約はしてない。通信用にだけ機体を二つ買い足して、ネットで調べながら電波だけ通るようにイジったんだ。こうなるからな」
三つのスマホの画面には、それぞれジャック、エペル、セベク……と、セベクの後ろにはリリア先輩の姿もある。
「ふはっ、全員参加かよ!」
『この間抜きにされたの、まだ根に持ってるからね!』
『俺はいいって言ったんだが……まあ、たまにはな』
『電波が入る場所まで来るのは大変だったのだぞ! リリア様もお手伝いしてくださったが……』
『おーおー、フレッシュで懐かしい面々じゃ!』
『あ、リリア先輩! お久しぶりです!』
『……ッス』
それぞれに何か、画面越しにピーチクパーチク喋り始める。主催のオレらはスルーかよ! そう思ってると、デュースが星を見上げながら言った。
「エース」
「何?」
「今日は、こないだのこと皆に軽く説明して、これからもよろしく、良ければ僕とこうしてたまにつるんでくれ、って改めて頼もうと思ってるんだ。あれから考えたんだが、やっぱり、お前の言うようにしても、悪くないと思って」
「……ああ、そう」
「ありがとな。世話になった」
「別に? ま、オレにはカンケーないことだし! お前の納得いくよう、好きにすればってカンジ!」
デュースが背後で、相変わらず素直じゃないな、と笑い声をあげてるような気がしたから、ちょっとムッとする。……けど、まあ。今日のところは喧嘩しないでおいてあげるよ、オレもう大人だし。……シルバー先輩の顔に免じてね!
先に乾杯さえ始めそうなほど盛り上がってるモニター組に、オレらを待てよ! とツッコミを入れながら、酒盛りの席へと帰っていった。頭の上ではキラキラした星が、あの先輩の独特な瞳みたいに光ってる夜のことだった。
……ひょっとしたら先輩ってば、案外今も、あの、ちょっと懐かしい、困ったやつらだな、みたいな笑い方で、オレらのこと見てたりしてね。
なんて、そんなワケないか!
*おしまい
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