◇解決編・結末
俺たちが向かったのは、娯楽室。イデア先輩が引きこもっている部屋だ。ドンドン、と荒めにドアをノックする。
「ヒッ……! な、な、何? 調査はもう終わったんじゃないの? それとも、犯人見つかったの……?」
「ああ。犯人を見つけた」
デュースと顔を見合わせ、イデア先輩に指先を突きつける。
「犯人はあなただ、イデア先輩」
「なっ、なんのこと……っ!? 僕は、ずっと娯楽室で引きこもってたって言ったじゃん! ゲームのプレイログだってあるんだ、アリバイ完璧なのに、どうしてそういう結論になったわけ!?」
これくらいの反論が来ることは、当然想定の上だ。だが、デュースが気付いてしまった事実がある。ゲームは、プレイしていなくても、プレイしているフリがいくらでもでき、画面上では何もしていなくても、プレイ時間には記録されるんだ。……俺自身にも、親父殿のネットゲームに付き合って、寝落ちしてしまったとき、見知らぬムービーが流れていたり、プレイ時間に睡眠時間を記録されてしまった経験が何度もある。デュース自身も、スマートフォンでできるパズルゲームを遅くまでプレイしていて寝落ちし、その時間も記録されてしまったことがある経験を思い出したことで気づけたらしい。
「ゲームのプレイログ、だったな。……オフラインの、レトロなシューティングゲーム、だったか? そうした古いタイトルのゲームは、起動したらずっと、タイトル画面の時点からプレイ時間が記録されているはずだ。そう、何のボタンを押していない、何の操作をしていなくても、だ。なんなら、デモムービーと呼ばれるプレイ画面が流れることもあるから、プレイしているフリはいくらでもできる……」
「だ、だから……? 僕がそうやって、記録を捏造したはずだ、って言うの? それだけで僕が犯人だって決めつけたいの? それはおかしくない? 他に怪しい人はいなかったの……?」
「アリバイのない人なら、レオナ先輩がいたが……。あの人は、違うと俺の勘が言っていた。あの人を犯人だとするには、不可解な行動が多すぎる。わざわざリリア先輩の部屋から俺の剣を持ち出してみせたり、俺に剣を返したり、調査に協力してくれたり……」
「そんなの、自分に都合のいいように調査を誘導したいからやったのかもしれないじゃん! 勘と誘導で犯人にされちゃたまんないっての、僕が犯人だって言いたいなら、動かぬ証拠でも出してみなよ!」
「……そうか……。分かった。では、部屋に入らせてもらうぞ」
「は?」
「すうー……、……はああっ!!!」
バキリと音がして、娯楽室のドアが外れる。これでイデア先輩が引きこもろうとしても、出入りは自由だな。
「もう逃げられませんよ、シュラウド先輩っ!」
「意味わかんなすぎない!? なんでドア壊したん!?」
「デュース、邪魔しないようにイデア先輩を捕まえておいてくれ」
「はいっ!」
「ちょ、何、なんなの君らほんとに!?」
「大人しくしててくださいっ!」
デュースがイデア先輩を羽交い締めにする。その間に、娯楽室の中にあるゲーム筐体を、レオナ先輩から返してもらった俺の剣で片っ端から叩き斬る。俺の考えが確かなら、どこかにそれがあるはずだ。
「ちょちょちょちょ、何してくれてんの!? 貴重なゲーム筐体が、アーーーー!!」
「……あった!!」
3つ並んだゲーム筐体の真ん中のものを斬ったとき、中からそれは出てきた。破りとられたカーテン、中身が洗濯機に改造されたゲーム筐体、そして、実際の凶器と思わしきナイフ。親父殿の持っていたのであろう、希少な古本。
「これらの物品すべてがあなたが犯行に関わった証拠だろう、イデア先輩。なぜ、娯楽室のゲーム機が洗濯機になっていて、中からこんなものが出てくるんだ?」
「し、知らないし……」
「まだ、しらを切るつもりか。ならば、俺が説明しよう。あなたが何をしたのか……。今までは輪郭がぼやけていたが、証拠を見れば、ハッキリと分かることだ」
それから、俺は自分なりの推理を話し始めた。
「あなたはゲーム機を起動したあと、娯楽室にあったカーテンをロープのように使い、窓からリリア先輩の部屋へと降りたのだろう。そして、リリア先輩を殺害し、隣にあった俺の部屋から盗んだ剣で、部屋中に刀傷をつけ、リリア先輩の血で俺の名前を本棚に描き、そして、リリア先輩を玄関まで引きずり、嵐の中、リリア先輩を埋めたんだ。そのときある程度服が汚れてしまったから、部屋に戻ったあと仕方なくゲーム機を洗濯機に改造し、そこで洗ったのだろう。ケイト先輩がゲームのプレイ音を聞いたと言ったのも、その音を隠すためのデモムービーが、大音量で流れていたからだ」
「……なるほど、君はそう考えたんだ……。でもさ、その推理には穴があるよ」
「穴?」
「確かに、僕はそれをしようとしたときさ、飛行術も得意じゃないから、カーテンをロープ代わりにするかもしれないよ。でも、それってさ……。それができたところで、リリア氏が、窓を開けて自分から僕を招き入れてくれないと成立しない犯罪じゃない?」
「なっ……!?」
「リリア氏って、ナイフを持った僕が窓から入れて~って嵐の夜に言ってきて、素直に部屋に入れるような性格? ……いや、そうだったかもしれないけどさ、でも、そうだとしたら死んでるのは僕の方だって思わない?」
確かに、そうだ。親父殿が犯行に及ぶ気満々のイデア先輩を招き入れたのだとしたら、被害者になるのはどちらかといえばイデア先輩の方……。だったら、どういうことだ? 確かな証拠まで見つかっているのに、俺の推理は、ここまで来て、間違っていたのか?
「はい、ゲームオーバー、ってとこかな? それじゃ、リテイク頑張……」
イデア先輩の言葉を遮り、デュースが言う。
「あの、シルバー先輩。僕たち、間違ってないけど、間違ってる、んじゃないですか……?」
「間違っていないけど、間違っている、とは、どういうことだ、デュース?」
「……その、イデア先輩が犯行に関わってる、ってのは間違いないと思うんですけど。でも、それだけじゃなくって……。僕たちには、この人は絶対に犯人じゃない、って、無意識に頭から外してしまった人が、いると思うんです」
「……まさか、それは……、いくら、なんでも……」
「……でも、そうじゃなきゃ、この推理は、あり得ない。本当の真犯人は……ヴァンルージュ先輩だ」
デュースの言葉に、目の前が真っ暗になりそうになる。親父殿が……?
「そんなこと、あり得るわけがない! 親父殿が、なぜ、俺に罪を被せて、ご自分を……っ!? 親父殿は俺に罪を持たせるような、そんなことをしないと言ったのは、他でもないお前じゃないか、デュース!!」
「……シルバー先輩。もう一度、ヴァンルージュ先輩の部屋へ行ってみませんか。確かめたい、ことがあるんです」
デュースに言われるまま、親父殿の部屋へと赴く。イデア先輩もそのままにしておくわけにはいかないので、ひとまず気を失わせ、問答無用で連れてきた。
親父殿の部屋に着くなり、デュースは本棚の本を並べ替え始める。……そんなことをして、何になると言うんだ……?
「えーっと、これがこうで、こっちがああで……。だから……。あ、これって元はアルファベット順なのか! なら、簡単だな。……よし、できたぞ!」
デュースが並べ替え終わった本棚に浮かんだのは……『lilia』の文字。刀傷が、ちょうど、親父殿の名前を指すようにつけられている。
「何故……っ!?」
「僕、ずっと気になってたんです。本棚の本が、本棚の傷の場所と一致してないことが。なんていうか、こういう元の位置にちゃんと並んでないのって、ローズハート寮長にはすごく怒られるから……。だから、元の位置に綺麗に並べ直してみたら、何か分かるんじゃないかって思ったんです。……まさか名前が書いてあるとは思いませんでしたけど……」
「では、親父殿が、本当にイデア先輩を招き入れて……?」
「……そうだよ」
いつの間にか意識を取り戻したらしいイデア先輩が、すべてを白状する。
「リリア氏は昨日、大人しくゲームプレイしていた僕の部屋に来て、協力するよう言って……いや、半ば脅してきたんだ。『この本にはお前にとって喉から手が出るほど欲しい知識が書いてあるぞ、欲しければ協力しろ』って……。君の推理は半分アタリで、半分ハズレ。ナイフが凶器なのは本当、僕がカーテンをロープにして、リリア氏の部屋に行って、嵐の中苦労して彼を埋めたのも、魔法障壁張っても泥だらけになったから、洗濯機作って服洗ったのも本当。でも、犯行自体はリリア氏がやったんだ。君の部屋から剣を盗んで、部屋を刀傷だらけにしたのも、ダイイングメッセージ残したのも、ナイフで自分の身体に傷つけまくったのも、ぜーんぶリリア氏。僕はただ、事が済んだあとの証拠隠滅を任されただけの、巻き込まれた……いわば共犯でもあり、被害者だよ」
「そんな、どうして……っ、親父殿が……っ!!」
「さあ、ね。リリア氏が何考えてたのか、君とリリア氏がどんな関係なのかも知らないけど……。……今ここにいるこの僕には、さっぱりリリア氏の考えてることは分からないよ」
そう言ったきり、イデア先輩は黙ってしまう。……結末、真相までは辿り着いたはずだが……。まだ、クリアじゃない、ということか?
「……ヴァンルージュ先輩の自殺じゃ、動機が分かんないですね。いったいなんでそんなことを……」
「……動機。……どうして、親父殿がそんなことを……」
ふと、そのとき。最初に言われた、ゲームの外にいる本物の親父殿からの言葉を思い出した。
『シルバーよ。お前は人を疑うのがあまり得意ではない性格じゃ。じゃから、ちょいとでも感情移入ができるように、今回はわしを殺させてもらったぞ!』
『今回はわしを殺させてもらったぞ』という、あの言葉。あれは、この結末を指していたのではないだろうか。だとしたら……。俺は、ゲームの中も、外も、その枠組み、垣根を越えて、最後の推理をしなくてはならない。
「動機は……ここには、ない。あえて言うのならば、俺たちを鍛えるため、ですね。親父殿。あなたはこのゲームが始まる前、既に……最初からすべて、結末を宣言していたんだ! 犯人はあなただ、親父殿!!」
「くふふ……、よくぞ見破った! その通り、わしが今回の犯人じゃ!」
仮想空間の背景が霧のように晴れ、元気な姿の親父殿がそこに立つ。長時間元気な姿を見ていなかったせいか、なんだかそれだけで、胸のすく想いがした。VR装置を外し、本物の親父殿の元へと向かう。
「ああ、親父殿……!」
「推理モノの結末としては陳腐だったかのう? まあ、イデアまで当てられれば上出来と思っとったが、二人ともなかなかやるわい!」
親父殿に駆け寄り、抱きしめる。すると、親父殿は手を伸ばし、ぽんぽんと俺の頭を撫でてくれた。一度身体を離すと、デュースから声をかけられた。
「良かったですね、シルバー先輩」
「ああ、デュース。お前も、今回の協力をありがとう。恐らく俺ひとりでは、この結末には辿りつくことができなかっただろう。今回は人を疑わなければいけない状況の中で、それでも人を信じ、協力することを学べたと思う」
「そんな、僕の方こそ、全然推理はダメダメで……。でも、先輩の役に立てたなら良かったです! 自分の頭ではしっかり考えつくことができなくても、そういうのが得意で、できる人の手伝いをして、頼るって方法もあるんだって学べた気がします!」
デュースが握った拳を差し出してくる。清々しい気持ちで、その手に拳を合わせた。ゲームクリア、だな。
「うむ、二人ともに良い学びがあったようで何よりじゃ! ……して、眠気の方はどうじゃった?」
「途中難しくてちょっと眠くなったけど、確かにこうやって実践っぽいことした方が頭使える気はします!」
「確かに、眠気はほとんどありませんでしたが……。それは精神的なショックによるものが大きかった気もします……」
「はっはっは、良い良い! では、次の機会も楽しみにしておれよ?」
「え、次もあるんですかっ……!? 今回だけでも相当大変だったのに……!?」
「うむ、シナリオやらシステムやらを頼んだイデアと監督生が相当ヘソを曲げてしまったから、まだ暫くはかかるがの。まあ、でもそのうちまたおぬしらを招いてしんぜよう!」
「次はもう少し、精神に負担の少ないものでお願いします……」
そうして、頭を使って疲れただろうから菓子でも食って休憩するが良いと言う親父殿の言葉を区切りに談話室へと向かっていく。そこには、マレウス様とセベクがいつも通りの姿で待っていて。
この日常を守るため、ゲームのようなシナリオを本当にしないため、次の試練も、きっと頑張ろう。デュースを招いた5人でコーヒーや紅茶を飲みながら、今はただそう思うばかりだった。
*おしまい
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