・バーテンパロシリーズ『Your Affection』の続編です。これまでのお話を読んでないとたぶん意味が分かりません。
・バーテンダーシルバー×若手警察官デュースのパロディ世界です。続編なのでパロディ本棚に入れています。
・シルバーが時々(バーテン営業時)は敬語なので、誰が喋っているか分かりにくいときがあります
以上大丈夫な方はスクロール↓
カラカラと、氷を鳴らす音。銀色に煌めくシェイカー。くるくると回るマドラー。光るカクテルグラスをステアして、今夜も皆さまに素敵な夜をお届けする『Bar Briar(バー・ブライア)』は、絶賛営業中だ。
カランと涼やかなドアベルの音が鳴り、次のお客様が姿を現す。そろそろ俺の可愛いお巡りさんが来る頃だろうかと思い玄関へ迎えに行くと、少し驚いた。今日はおひとり様ではなかったからだ。
「今晩も、いらっしゃいませ、お客様。……そちらのお方は、お連れ様で?」
「え?」
驚いた顔のデュースが振り向くと、後ろに立った赤毛の男は、悪戯が成功した子どものような顔で笑った。
「お連れ様でっす! ってわけで2名、よろしくお願いします!」
「かしこまりました。では、本日はテーブル席へご案内いたしますね。こちらへどうぞ」
にこやかなバーテンダーの仮面を崩さず、店内のボックス席へとふたりを通す。
「では、ごゆっくり。ご注文が決まりましたら、またお声がけください」
一礼して、いったんその場を去ったふりをする。近くで接客しながら聞き耳を立てる。するとこんな会話が耳に入ってきた。
『なんでいるんだよ、エース! まさか署からずっとつけてきたのか!?』
『別に~? お前が恋人出来たって言うから、ガチで色恋営業みたいな騙され方してないか見てやろうと思って! 見に来た!』
『そんなこと言って、どうせ興味本位だろ! お前のことだから!』
『いーじゃん別に細かいことは! ねー何飲む? せっかくだし、俺オススメとか聞いてみよっかな~』
どうやらあの赤毛の男は『エース』と言い、デュースの同僚である警察官のひとりのようだ。……そういえば通い始めの頃、デュースが一度呟いたことがあったな。『色恋営業』だとか、なんだとか。なるほど、あいつがそんなことをデュースに吹き込んだ犯人か。
ならばご挨拶くらいはさせてもらおうと、接客の空いた隙を見て、注文を伺いに行く。
「そろそろご注文はお決まりでしょうか? 良ければお伺いしますよ」
「あっ、ハーイ。どうも! そうだ店員さん、ちょっと聞きたいことあるんですけど!」
「ええ、俺で分かることで良ければ、なんなりと」
エースと呼ばれた赤毛の男は、少しだけ声を潜めて親指でデュースを指し、尋ねる。
「こいつ、このバーに恋人いるみたいなんですけど! 誰だか知りません?」
「ばっ……」
デュースは一瞬でぱっと赤くなって、困った顔をしている。なるほど、こういうのも可愛いな。この可愛い顔を引き出してくれたことには感謝してやるか。
「申し訳ありません。お客様にとってのプライベートな話になりますので、俺からは答えかねます」
「あ~なるほどね、そりゃそっか。OKです! なら、普通に注文しよっかな。ここ店員さんにお任せとかできます? オレ、こういうお店でオススメとか聞くのめっちゃ好きなんで!」
「ええ、かまいませんよ。俺のお勧めで良ければ、お作りします。ちなみに、お酒の強さはいかほどで?」
「それなりです。強すぎると酔っちゃうかもですけど、カクテル1杯くらいならたぶん全然なんでも大丈夫!」
「かしこまりました」
店員である、という立場上。店内で恋人だと堂々と宣言することはできないが、牽制くらいはしておくか。
コイツは少し鈍いデュースと違って、聡そうだ。こんなことでも十分に、俺の思惑を察してくれることだろう。使える。
「では、お巡りさ……おっと。すいません、つい癖で。今日はご友人の前でしたね。改めて、お客様も……俺のお勧めで、構いませんか?」
いつものように、と告げれば、デュースは、ぱくぱくと口を開け閉めしている。バレるようなことをするな、という目で見ているな。だが、断る。俺はこっそり、俺たちの関係をバラしておきたい。特にこういう、俺に似たタイプの、狡そうな男には。
どうやら『エース』は俺の匂わせに気付いたようで、へえ? と面白そうに笑った。
「お、お勧めでいいので!! 作ってきてください、お願いしますっ!!」
「かしこまりました、すぐにお持ちいたしますね」
「ゆっくりでいいです!!」
そんなに慌てていたら俺が匂わせなかろうがそのうちバレていたろう、と少し笑いを堪えながら、カクテルを作りに戻る。
ふたりとも俺のお勧めで構わないということだったが。今宵は何を出してやろうか。
この間、デュースのスマートフォンの画面にカクテルについての辞典アプリが入っているのを見つけた。きっと、今すぐにではなくても、後で気づいてくれることだろう。その場で気づいたら、それはそれで面白い。
今日は『エース』とかいう第三者の乱入付きだが、さてどうやって俺の可愛いお巡りさんを転がしてやろうかといつも通りに笑って策を弄し始めた。さて……お友達の前でも、魅力的な男を演じてやらないとな? デュースを心配してバーについてくる必要がないくらい、頼り甲斐のある男を。
そうだな。まずエース、アイツは……明らかに『悪戯好き』な性格をしていそうだ。定番どころの、カルーアミルクでも作ってやろう。もちろん、美味いと思ってもらえるように調整もする。それは俺のバーテンダーとしてのプライドだ。
それで、こっちが本命。デュースに捧げるカクテルは……。
そうだな。あれにしよう。あとでカクテル言葉の意味を調べたときに、少し惑って『どういう意味ですか』と聞いてくるかもしれないしな。そうしたら答えてやろう。お前のことが好きだという意味だと、いつも通りに。
カクテルを作り終え、ふたりの待つテーブルに持っていく。どうやら俺のことを話していたようで、テーブルからは賑やかな声が聞こえた。
『さっきの人でしょ? すげーイケメンじゃん! ああいうタイプ選ぶようには見えなかったな~、お前』
『別にいいだろ、なんでも! お前ほんとう何しに来たんだよ!』
『バーに来たんだから酒飲みに来たに決まってんじゃん、ついでにデュースくんをからかいに!』
『お前な……』
へえ。デュースを、からかいに。それはいただけない。夜にデュースをからかう、それは俺の仕事だ。
気兼ねのない友人兼同僚のようだし、昼間のお巡りさん時間なら少しくらいは譲ってやらなくもないが、俺のテリトリーまで入ってくるのなら容赦はしない。
「お客様、ご歓談中失礼します。こちらお持ちしました」
どうぞ、と俺はグラスをそれぞれの前に置いていく。
「お任せで、ということでしたので。そちらのお客様にはカルーアミルクを。こちらのお客様には、キス・ミー・クイックをそれぞれご用意させていただきました」
「キッ……!?」
デュースは一瞬で慌てる。出した甲斐があった。このカクテルの名前を聞いたら、動揺すると思ったんだ。
「やった! オレ、カルーアミルク好きなんだよね~、ありがとうございます! ちなみにこれ選んだの、なんか意味あったりします?」
「そうですね。お客様は入店時の様子を拝見する限り、悪戯好きな方のようでしたので。そういった意味のカクテルを選ばせていただきました」
「わはっ、当たってるわ。お兄さん占い師でもやっていけそう!」
「ありがとうございます、それも楽しそうですね」
真っ赤になっているデュースをさておき、エースと談笑していると、デュースは少し赤い頬のまま、俺の袖を引いた。
「あ、あの、店員さん……」
「はい、いかがしましたか?」
デュースの前にかがんで耳元を寄せると、デュースから耳打ちされた。
「すいません、こいつエースって言って僕の同僚なんですけど、恋人だってさっきバレちゃいました……」
なんだそんなことか、と俺は笑って、「ええ、それなら問題ありませんよ。どうぞごゆっくり」と、何か少し聞きにくいことを聞かれた店員風に答えておいた。そうすると、他の席から注文に呼ばれたので、俺は一度そこを立ち去る。
「それでは引き続き、お楽しみくださいね」
「はーい、ありがとうございまっす!」
「ありがとうございます……」
対称的な二人の返事に、俺は少し笑みをこぼした。
それから。バーの営業が終わり、家に帰ると。自宅のソファにはむっとしたデュースが待っていた。可愛かったので、後ろから抱きしめる。
「今日は何でむくれてるんだ、ご機嫌斜めのお巡りさん」
「べ、別にむくれてないですっ! ……あの、えっと。今日すいませんでした……。エースが突然、遊びに来ちゃって……」
「大丈夫だ。それより、彼は俺のことを何か言っていたか? お前の友だちに、悪印象を残していないか気になってな」
「えっと。それは、大丈夫だと思います。『けっこー頼りになりそうなイケメンじゃん! いいな~オレもそういう彼氏とか欲しい~』って言ってたくらいなので……」
「彼氏が欲しいのか」
「アイツ、女の子もいけるけど、ダンディで茶目っ気のあるオジサンとかも案外いけるタイプなんで……」
「それはまた、随分と面白いお友達だな」
「話のネタが尽きない奴ではあります……」
ところで、とデュースは言う。
「……あの。シルバーさんは、どう、思いました?」
「どう、って?」
「えっと。僕の同僚ってか、ダチとか見て……みたい、な」
ああ。なるほど、妬いてほしいのか。それならもう十分俺の心の内ではやったと思うが……。言わなければ、伝わりはしないからな。だが、俺の心の内は、ありのままの形でデュースに見せるには少々問題がある。少し加工するか。
「そうだな。……まずは、驚いたぞ? 仲の良いお友達がいるとは知っていたが、あんなに気さくで、そして……」
ソファの隣に座り、デュースをぐいっと引き寄せ耳元で声を低くし、ささやく。
「……あんなに仲が良いなんて、聞いてなかったからな?」
「べ、別に仲良くないですっ! 向こうがなんか、距離近いだけで!!」
「そうか。だが、俺は妬いたぞ?」
「や、妬いてくれた、んですか……っ」
「ああ、妬いた。俺の知らないお前の時間を知っている彼に、今も妬いてる。嫉妬でこの身が焦げつきそうだ」
するとデュースは、なぜか少しむっとした。おかしいな。ここは照れさせて、仕置きの流れに持っていく予定だったんだが。
「シ、シルバーさんだって。僕の知らない姿があるみたいじゃないですかっ」
「……」
「聞きましたよ、他の店員さんから! 『アイツは昔、接客も下手で、笑顔なんてなかったのだぞ』って!」
俺は驚く。そして、すぐに察する。……言い草からしてセベクだな。アイツ、俺の目を盗んで何してるんだ。
「バーで働き始めの頃は、全然接客慣れしてなくて、無表情だけど天然な感じの、純粋で可愛いって感じだったって……」
今日はマレウス様はいらしていなかったはずだ。……ということは。親父殿まで、何をバラしていらっしゃるんですか。
「僕だってそういう、シルバーさんの可愛い時代の姿も見たかったですっ!」
「俺だって、お前の昼間の姿を見たい。お前がお巡りさんとして頑張っている姿、見られたらいかに誇らしいだろうか」
「そっ……。ぼ、僕だって……僕だって、僕もシルバーさんの昔の話もっと聞きたいですしっ!!」
困った。デュースの願いはなんでも叶えてやりたいが、これは少し……。
「……俺は、昔の話はあまりしたくないのだが」
「なんでですか! ……他の常連さんとか、店員さんは知ってるのに、僕には見せられない、んですか……」
デュースがしょげて、泣きそうな目になってしまう。慌てて俺は取り繕う。
「い、いや、その。見せられない、わけじゃなくて……」
「……じゃあ、なんで」
耳を伏せた犬のように、デュースはしょんぼりした上目遣いにこちらを見つめる。……そんな顔をするな。俺はお前のそういう顔にものすごく弱いんだ。
「……ええと、だから……。その……。ああもう、少し待っていろ!」
物置へ行き、アルバムを引き出す。デュースの前に持ってきて、アルバムのページを開いた。
「これが、開店当時の俺だ! ……見たければ好きに見てくれ」
「これが……昔のシルバーさん……」
2年前。まだ少し若く幼さを残した頃の俺が、写真の中で無表情に佇んでいる。表情筋の柔らかくなった今とは、似ても似つかないだろう。
「こっちはカクテルを作ろうとして、力入れすぎて失敗してて、こっちは常連さんと写真撮ってるのになんか無表情で……。すごい、今と全然違います……」
「……」
アルバムを1枚1枚眺めるデュースに、俺はそっぽを向く。
「シルバーさん? ……あの、僕、無理やりなんか、聞いちゃいました、か?」
不安そうな声が俺を呼ぶ。……不安にさせていたいわけじゃない。だから、俺は口を開いた。
「……無理やり、ではない。自分で見せると決めたのだから。だが、出来ればお前には、見せたくなかった。その、昔の俺は、まだ、未熟だったから。……見せるのが、恥ずかしくて」
「そうだったんですね。……でも、僕は知れて嬉しいです。昔は、こんな人だったんだなって。でもどうして、今みたいになったんですか?」
俺はぎくり、と答えに詰まる。今日のデュースは、随分と核心を突いてくる……。
「……今夜だけ、一度だけしか、言わないからな。お前に相応しい男に、なりたかったんだ」
「えっ?」
「……だから、言ったろう。2年前、俺がこの街に来たばかりで、迷子になったとき。新人警官だったお前が、手を引いてくれた。そのときから、恋に落ちて……。お前を、この賑やかな夜の街で、守れるように。大人の男になって、お前を迎えに行くのに相応しい舞台に立てるようにと、たくさんの人の力を借りて、今日の日まで、努力をしてきた。だから、つまり……」
今まで見てきた俺が、お前にとって魅力的に映ったのなら、それは全部、お前のためにした努力の賜物だ。と告げると、デュースは真っ赤になって、そして。……涙をこぼした。
「デュ、デュース!? 何か、嫌だったか……?」
「ちが、ちがいます。ただ僕、なんか、嬉しくて。……僕が振り向くかどうかも分かんなかったのに、そんなことしてたんですか、シルバーさん」
「……ああ。していた」
「僕があの日、通りがからなかったら、どうする気だったんですか……」
「……どうにか声をかけるタイミングはないかと、よく伺っていたから。次の機会を待ったと思う……」
「もう……シルバーさん、ずるいです。ほんと、こんなの、ずるい」
そう言って涙を拭い、デュースは俺に抱き着いた。勢いでソファに押し倒されたが、デュースを落とさないように抱き留めた。
「シルバーさん、好きです、好き。大好き」
そう言いながら、デュースは俺の頬や唇にキスを繰り返してくれる。……参った。まさか俺のした努力の行きつく先に、こんなご褒美があるなんて。……今宵は、策も何も弄しない、ありのままの。あの日デュースに手を引かれていた俺の、延長線上にある本音が、言える気がした。
「俺もお前が大好きだ、デュース。……ずっと、俺の傍にいてほしい」
「僕も、好きです……、ううん、好きじゃ足りないな。……えっと。その。……愛してますっ、シルバーさん!」
甘くとろけるようなデュースの笑顔が、目の前いっぱいに広がる。
それがただ、嬉しくて。涙が出そうなほど、報われたような気持ちになって。
何も言えなくなって、デュースの身体をただ、ぎゅっと抱きしめた。
「そういえば、シルバーさん。待ってる間に、カクテルの意味調べたんですけど」
ふと、デュースが尋ねる。ああ、キス・ミー・クイックのことか。そういえばそんな仕込みをしていたなと思い出す。
「あれ、『幻の恋』って。どういう意味ですか?」
僕との関係が幻って意味じゃないですよね、とデュースは俺の胸板にくっつきながら尋ねる。頬が柔らかそうだ。つつきたい。
「ああ、あれは単なる牽制だ。もし、あの赤毛の彼……エースって子が、お前を狙おうとしているのなら。それは幻だぞ、と教えられるようにと思っていた」
無駄な心配だったようで何よりだ、と笑ってデュースの頭を撫でて頬をつつくと、デュースは少し考えてから、俺にキスをした。
「なんだ、どうした? 今日はずいぶんサービスしてくれるんだな」
「へへっ。あのカクテルもらったときから、あとでキスしてあげないといけないんだって思ってたので!」
ちょっと恥ずかしいけど、たくさん嬉しかったので、今夜は頑張ってますとデュースは笑う。
……甘い、甘い時間だ。甘さも苦みも、深みもコクも。
幾重にも重なったカクテルの層を、マドラーで混ぜ合うように、俺たちの過去も、現在も。そして未来も、昼も夜も。何もかもが、これからは混ざり合っていく。
まだ、俺たちふたりの行きつく先がどんな味のカクテルになれるのか、それは分からない。それでもデュースとなら、唯一無二の出会いに乾杯ができるような。そんな夜が続く人生を続けていけるだろうと、今日この素敵な夜に、満足して俺は頷き、デュースにまたひとつキスを返した。
*おしまい
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