トリックVSハート

*英語は雰囲気です。適当な和訳使ったので間違ってるかもしれません。『先攻、後攻、妨害』などの意味です。
*シルバーとエースがバチバチにやり合ってデュースを取り合う話です。やりたい放題です。
シルバーオチでもエースオチでもどっちでも良い大丈夫! どっちかがハッキリ振られてもOK! というなんでも許せるタイプの方向け。
とはいえ筆者がシルデュ畑の人間なので、シルバー優勢に見えるかもしれません。

以上大丈夫、飲み込めたという方はスクロール↓

 

 

 

 

【Opening – Game Start】
 困った。僕は今、困っている。っていうのも、その……。どうしたらいいか、分からない、からだ。
 事の始まりは、今日の放課後のことだ。部活も終わり、ちらちらと星が瞬く夜の学園内を歩きだそうとしたら、後ろからシルバー先輩に声をかけられて、今日はもう暗いから一緒に帰ろうって誘われた。
 僕はそれにいいですよって返事して、なんか、なんだったかな、同級生の話とか、そんな雑談をしながら帰ってた。……うろ覚えで悪いな。なんせ、そのあとのことが衝撃的過ぎて、前後の記憶が曖昧なんだ。
 鏡舎へと進んでいく道を照らす街路灯の灯かりの下で、シルバー先輩は不意に立ち止まった。
「どうしたんですか?」
 不思議に思って、尋ねると、シルバー先輩は、すう、と深呼吸するように息を吐いて、それから僕の方をじっと見つめた。
「デュース」
「は、はい」
 僕は、いつになく真剣なその眼差しにドキッとしながら、先輩の次の言葉を待った。
 そうしたら、告げられたのは。
「お前のことが、好きだ。良ければ、俺の恋人になってほしい」
 そんな、紛れもない愛の告白で。
「あ、相手、間違えて……ませんか?」
「間違えていない。……こんな大事なことを、間違えたりするものか。デュース、間違いなくお前に、交際を申し込んでいる」
 僕が、そんな急に言われても、と返事に戸惑っていると、シルバー先輩はふっと笑った。
「返事は、急がなくてもいい。だが、もしお前の決心がついたのなら、いつでも……俺は、返事を聞くから」
 ただ、俺は伝えたかっただけなんだ。お前が、あまりに俺のことを良い先輩だと思っていてくれているから。
 ……男として意識してほしい、下心くらいあるんだぞ、と。そう言って、シルバー先輩は僕に手を差し伸べた。
「それじゃあ……今日は帰ろうか、デュース?」
「え、あ……」
 僕はどうしていいか分からなくて、とりあえず、その手を取った。すると、シルバー先輩からぎゅっと手を握られて、そのまま、鏡舎まで歩く羽目になった。
 で、鏡舎まで着くと、この先はまだお預けだな、と言って、シルバー先輩は手を離してくれた。僕はもう、心臓がバクバクドキドキして、なんて言っていいか分からなくて、また明日、なんて言えたかどうかも分からないまま、急いでハーツラビュル寮に逃げ帰った。
 ……これが、ひとつめ。
 それで、逃げ帰ったハーツラビュル寮の部屋で待ち構えてたのは、エースだ。
 先に部屋に帰ってたエースは、脱いだ服も散らかしたまま、ベッドに寝転んでファッション雑誌を読んでたみたいだけど、帰ってきた僕を見るなり不機嫌になって言った。
「お前、何? 走ってきたの? なんで顔赤いワケ」
「え、ええと、その……っ。そ、そうだ! 走ってきたんだ!!」
「ウソでしょ」
 誤魔化そうとした嘘は一瞬でエースにバレる。コイツ、いつも嫌なところばかり鋭いんだからな……!!
「何があったの。教えて」
「な、なんでもないっ!! お前に教えるようなことは何もなかった!!」
「……ふーん」
 それでも誤魔化そうとしていると、エースは立ち上がり、僕をドアへと押し付けた。
「言えよ。何があったワケ?」
「な、何があったって、いいだろ……」
「キスでもされた? 誰かに」
「なっ、そんなワケあるかっ!! だいたい、シルバー先輩は勝手にそんなことするような人じゃないだろ!!」
 言い終わった瞬間、僕は気づいた。墓穴を掘ったことに。
「へえ。シルバー先輩となんかあったんだ」
「……」
「キスとかは別にされてないってことは……告白でもされた?」
「……お前には、関係ないだろ……」
 終わった。エースに知られたってことは、からかわれるかもしれない。あるいは、何か、ちょっとした嫌がらせでもしてくるかもしれない。そこまで底意地の悪いというか、性格の悪い奴ではないと思いたいが、エースだからな。信用ならない。
 と、頭を抱えそうになった、そのとき。僕は別のことでさらに頭を抱えることになった。
「関係あるし。オレもお前のこと、好きなんだけど」
「……は?」
 何を言い出すんだよ、と呆れて顔を上げようとすると、エースの顔が珍しく、赤く染まっていて。
 僕は、シルバー先輩の表情と重なるその顔に、あ、コイツ本気だ、って直感してしまった。
「返事、したの。シルバー先輩に」
「ま、まだ、してない。僕の気持ちが決まってからでいい、って言ってたから……」
 なんで僕、コイツに事情をぺらぺら喋ってるんだろう。でも、今のエースの赤い目には、逆らえない何かがある。
「じゃあ、まだアイツにはしばらく返事しないでよ。オレの返事も、どっちにするか決まってからでいーから」
「……へ?」
「オレとシルバー先輩、どっちがお前のハートを手に入れられるかの勝負ってことでしょ? ……やってやろーじゃん」
 手始めにキスのひとつくらい先に貰っときますか、とエースが僕にキスをしようとしたところで、ようやく僕は我に返って、エースを突き飛ばした。
「ってぇ、何すんだよ!!」
「お前なあ……っ!! ……そ、その、言いたいことは分かった、から!! いきなりアレコレやろうとするな!! 僕の気持ち考えろ!!」
「はいはい、ウブなデュースくんに合わせて今日はカンベンしてやりますよーだ」
「……もう寝るっ!! シャワー浴びて寝るっ!! おやすみ!!」
「おやすみ~」
 それで、その。エースとシルバー先輩、両方からなんか……告白されてる状態に、なっちまったんだ。
 それで、僕は今、ものすごく困っている……。
 っていうのも、エースのこともシルバー先輩のことも、そんな目で見たことはなかったから、どう答えていいか分からないっていうか、二人ともまだ返事はいらないって言うし、その割に手繋いだりキスとかはしようとしてくるし、じゃあ、だったら僕にどうしろって言うんだよ!?
 うう、なんだか当事者の僕がひとりで置いてけぼりな感じがしてならない……!!
 こんなんで明日から大丈夫なのか、と悩みながら、僕は一晩を明かすことになった。

【Play first-Silver’s turn!】
 次の日の朝。朝早く起きた僕は、昨日のこともあり、エースと顔を合わせづらくて、エースが寝ている間に部屋を出た。
 すると、朝早くの学園の廊下で出会ったのは。
「シッ、シルバー先輩……っ」
「……ん? デュースか。おはよう……」
「お、おはよう、ございます……」
 まだ寝ぼけ眼な様子のシルバー先輩に、僕はそうだこっちもこっちでどうにかしなきゃならないんだったと緊張して身体が強張る。
 すると、シルバー先輩がくしゃりと僕の髪を撫でた。
「……そんなに、緊張しなくても大丈夫だ。いきなり取って食ったりしやしない」
「は、はい……。ありがとう、ございます……」
 なんだか照れくさくなって、俯いてしまうと、シルバー先輩は優しく笑った。
 そのほほ笑みがなんだかとても綺麗で、僕は、こんな人に好かれてるんだと胸がきゅっとなるような感覚がした。

【Disruption!】
 照れて黙ってしまった僕をシルバー先輩が眺めている、謎の空間が続きかけていると、後ろからにゅっと手が出てきて、僕に抱き着いてきた。振り向くとそこには、見慣れた赤毛が揺れている。
「エース!」
「どーもおはよーございまーす、シルバー先輩!」
「……ああ、おはよう、エース。何か用か?」
 気のせいだろうか。二人の間に、ひんやりとした冷たい空気が流れてる気がする。僕だけか、冷や汗をかきそうなのは。
「用事っていうか、まあ、宣戦布告、みたいな?」
「……ほう。と、言うと?」
「昨日、デュースに告白したんで。オレ。好きだって」
「そうか。奇遇だな、俺もだ」
 気のせいじゃないな。2人の間に、間違いなく強い静電気みたいな、バチバチしたものが漂ってる気がする。なんていうか、そういう気迫とか気配っていうか。実際出てるわけじゃないけど、そういうものが。
「そういうことなんで、今日からよろしくお願いしまっす! ……オレ、負けるつもりないんで」
「そう言われて、引き下がる男なら……この場には立っていないだろうな」
 これ、2人とも、僕を取り合ってる……んだよな? 嘘だろ、こんな分かりやすくやりあうのか!?
 もういっそ分かりやすく拳で解決しちゃ……ダメか、ダメだよな。優等生の考えじゃないよな、それは。
 そんなことをしている間に、ホームルームの時間が近づいてるのが分かった。
「じゅ、授業に遅れるから!! 行くぞエース!! シルバー先輩、あのっ、……また今度!!」
「ああ、またな。授業、頑張れ」
 僕を追いかけるエースが、シルバー先輩にあっかんべーをしてるのは、気が付かないフリをしておくことにした……。
 
【Draw first-Ace’s Turn!】
 教室に入ると、エースがわざわざ隣の席に座ってくる。別に珍しいことじゃないが、今はちょっと避けたかった。
「と、隣じゃなくてもいいだろ、わざわざ」
「え? 何? 意識してくれてんの? 嬉し~」
「何言ってんだこのバカ!」
「バカにバカって言われたくねえし!!」
 気が付けばいつもの調子で喧嘩が始まりそうになる。エースの奴、口説いてるのかバカにしたいのか、どっちかにしろよ!!
 ふん、とお互いに反発し合ってホームルームが済んで、授業が始まる。一限目は魔法史だ。
 トレイン先生の授業速度になんとかついていきながら、懸命にノートを取ろうとしていると、隣からトントンと肩を叩かれた。
「なんだよ、エース。今僕は忙しい……」
「分かってるって。これだけ」
 トントン、とエースから指でさされた部分を見る。
 エースは、ノートの切れ端をいつの間にか僕のノートに挟み込んでたみたいで、そこには『今朝はごめん』と書いてあった。
「……結構本気で好きだからさ、お前のこと。それだけは分かっててよ」
 それからエースはずっと、照れくさいのかそっぽを向いていたけど、その耳が赤いのを見つけてしまって、僕は、授業が終わるまで、しどろもどろになって、ノートが上手く取れなかった。

【Play first-Silver’s turn!】
 それから、なんかエースとは目も遭わせられないってか、上手く話せないまま、お昼休みになってしまった。
 お前も一緒に昼メシ食うでしょ、とアプローチしてくるエースに、今日はひとりで食べると言って逃げた。
 だってなんか、これ以上あのままエースと一緒にいたら、なんか僕、流されそうだった!!
 ……と、思って、ひとりで食堂に来たのはいいんだけど。
「すまない。ここ、相席いいか?」
「あっはい、どうぞ……って、シ、シルバー先輩!?」
「……会いたかった、デュース」
 僕の取った席の向かいに、シルバー先輩が座った。な、なんで。シルバー先輩はいつもディアソムニアの先輩たちと一緒にご飯食べてるんだろうに、わざわざこんなところに。……と思ったけど、お前に会いに来たとシルバー先輩の顔に書いてある気がして、質問はしなかった。ハッキリ告白されてまでそれを聞くのは、さすがに愚問な気がしたからだ。
「エースとは、何かあったのか?」
「え……っと。ま、まだ……。好きだって、言われ続けてるだけ、です……」
「そうか」
 シルバー先輩は、きのこのリゾットをふう、と冷まして、ひとくち口に運んだ。……何しても絵になるな、この人。ただ食べてるだけでも格好いい……。
「恋敵、とでも言えばいいのか。なかなか手強そうだ」
「え、エースのことは気にしないでください、何考えてるか分からない奴なんで……」
 見惚れてないでこの事態をどうにかしないと、と話の通じそうなシルバー先輩の方からどうにかしようと声をかけると、シルバー先輩は僕の頬に手を伸ばした。
「それは……出来ない相談だな。俺の他に、お前のことを男として見ている奴がいるとあらば、俺も落ち着いてはいられない」
「へ……」
「……それに、お前は無防備すぎるからな。ほら……」
 シルバー先輩の手が、僕の唇をふに、と触った。固まってしまって、何もできないでいると、先輩の指が離れた。
「唇に、ケチャップがついていた。相変わらずオムライスが好きなんだな」
「あ、け、ケチャップ……。取ってくれたんですね、ありがとうございます……」
 指先を紙ナプキンで拭き取るシルバー先輩の上品な仕草に、僕はちょっと恥ずかしくなった。うう、確かに僕、無防備なのかも。
 恥ずかしくなって縮こまっていると、シルバー先輩は愛おしいという気持ちを隠さない笑みで僕を見つめた。
「……なんだ? もしや、緊張させてしまったか? なら、安心してくれ。俺はお前が許さない限り、勝手にくちづけたりはしない」
 お前の気持ちを第一に考えたいからなとシルバー先輩は笑う。僕は、昨日の夜エースからキスされかけた時のことを思い出して、なんで同じ人間なのにこんなに違うんだよ、って思ったりした。
 そんな僕の様子を見て、シルバー先輩は苦笑いをこぼす。
「……羨ましいな、エースが」
「へ?」
「俺は、今の環境に不満を抱いているわけではない。……だが、事がお前のことになると、どうしても……。授業中も、寮の中でも、共に過ごせるエースを、羨ましいと思ってしまう」
 僕は、思った。先輩でも、そんな風に思うことがあるんだ、って。誰かに嫉妬したり、ヤキモチなんて妬かなそうに見えていたから。
「僕は……先輩と一緒に過ごせる人の方が、羨ましいと思います。先輩と一緒にいたら、自分をもっと良くしなきゃ、って気張っていられそうだし……」
「……お前がそう思ってくれているのなら、嬉しい」
 そうやって、昼食は平和に終わった。シルバー先輩と一緒にいる時って、なんだか心地良くて穏やかな時間だな、と思った。

【Draw first-Ace’s Turn!】
 昼メシを食べ終わってシルバー先輩と別れ、参考書を読もうと中庭のベンチに座る。すると、隣に座ってきた奴がいた。……エースだ。
「エース。勉強の邪魔するなよ」
「なんだよ。ケチ。どーせ頭になんか入んないんだから一緒じゃん?」
 本当にコイツと来たら、僕の都合なんか考えちゃくれないな。シルバー先輩と違って……。あの人は僕のこと、すっごく大事にしてくれてるぞ。
 そんなことを考えたのがバレたのか、エースは不機嫌そうにずいっと僕の顔に自分の顔を近づけた。
「ねえ、今他の奴のこと考えたでしょ」
「な、なんだよ。考えてない」
「ウソ。お前、嘘吐くのヘタなんだから、すぐ分かるし。ねえ、誰のこと考えたの? アイツ? シルバー先輩?」
 僕をベンチで押し倒すかのようにぐいぐいと問い詰めてくるエースに、僕は思わず叫ぶ。
「僕が誰のこと考えてたって、お前には関係ないだろ!!」
 そしたらエースは、僕の胸倉を両手で掴んだ。制服に皺が寄るって文句言おうとしたけど、できなかった。
 だってエースが、あんまり泣きそうな表情をしてたから。
「……関係、あるし。だってオレ、お前のこと、好きなんだよ。本気で……」
 他の奴なんかいたら、あんな格好良くて頼りになる人がお前のこと好きだって言ってたら、焦るに決まってんじゃん、って、震える声でエースは言った。僕は、それをなんだか放っておくわけにもいかない気がして、ぽんぽんとエースの頭を撫でて慰めた。
「……その。まだ、決まったわけじゃない、から。僕も、迷ってる……」
 そう言うと、エースはパッと顔を上げて笑ってみせた。
「ホント!? 嘘泣きでもしてみるもんだね!!」
「テメェ……」
 嘘泣きだったのかよ、と上に乗っかっているエースを押し退けて、今度こそ無視して勉強してやろうと参考書を開いた、そのとき。
「……邪魔しないなら、一緒にくらいは、いてもいいよね?」
 制服の袖の、端っこを引かれた。僕は、溜め息を吐いた。
「本当に、邪魔しないならな」
 そうして僕は、昼休み、エースに見守られながら勉強をして過ごした。
 エースといると、落ち着かない。エースの一挙一動に、やたらと心が振り回されるな、と感じた。

【Play first-Silver’s turn!】
 それから、案外何事もなく、放課後。授業中、エースの視線は感じたが、アプローチのし過ぎも良くないと思ったんだろうな。ただやたらと僕を見つめてくる、それ以上のことはしてこなかった。
 それで、放課後になって、陸上部の部活へ出る。エースもシルバー先輩もさすがに部活中まではやってこないみたいで、僕はようやくなんだかリラックスできる心地がして溜め息をついた。今日、なんだか溜め息ばかりついているな。
 そのことが同じ部活のジャックにもバレたみたいで、なんか悩み事でもあんのかって聞かれた。
「勘違いすんなよ。こないだのお前のタイムまだ抜けてないんだ。お前の悩み聞くのは、悩み事を本気出せてねえ言い訳にされたら嫌だからだかんな」
「お前は分かりやすくていいよな、ジャック……」
 そういうわけで、僕はジャックに今までのことを相談した。エースからもシルバー先輩からも告白されて、困ってるってことを。
「お前、意外とモテるんだな」
「そこかよ」
「まあ、お前が好きな方選べばいいんじゃねえか? ってか、面倒なら両方振るって選択肢もあるだろ」
「それも、考えはしたんだけど……。二人とも本気(マジ)で来てくれてっから、一人一人のことを真剣に考えないと、良くないかもって思っちまって……」
 それで気が散ってるんだ、と言うと、ジャックが言った。
「向こうはそんなに気にしてなさそうだけどな。見ろよアレ」
 ジャックは、厩舎の方を指差す。そっちを見ると、ちょうど馬術部が順番にコース練習をしているところだった。
 次がちょうど、シルバー先輩の番だ。相変わらず王子様みたいな恰好してんな……。
「ハイヤッ!!」
 凛々しい掛け声と共に、白馬に乗ったシルバー先輩は次々と難なくハードルを乗り越えていく。
 ……そういえば僕、前は仲間意識とか持ってたなあ。僕も、ウマには乗ってないけどハードル走よくやるから……。
 そんなことを思いながらぼうっとシルバー先輩のことを見つめていると、コースを走り終えてウマから降りたシルバー先輩と、ばちりと目が合った。
 そうしたら、シルバー先輩はグローブを外して、そして、僕と目を合わせたままひらりと手を振った。
 控え目に手を振り返すと、シルバー先輩は胸の前に手を当て、一礼して厩舎の方へと戻っていった。
 お、王子様すぎる。さすがに恥ずかしくなって、振っていた手を握りしめると、ジャックは言った。
「……お前、シルバー先輩の方が好きなのか?」
「わかんねえ……。シルバー先輩は格好良くて、頼りになって、一緒にいると落ち着いて、決して嫌いじゃないし、その、アプローチされればドキドキもする、んだけど、その……」
 だからってエースのことも放っておけないんだ、と言うと、ジャックはどっちつかずでハッキリしねえ奴だな、と僕を嫌った。
 ……うん、僕もそう思う。失礼だよな、これ。二人ともに対して、誠実じゃないな……。

 【Draw first-Ace’s Turn!】

 悩みながら、寮の部屋に帰る。
 すると、僕が部屋に帰るなり、エースが絡んできた。
「おっかえりぃ~」
「なんだよ、気色悪い。妙に機嫌いいな」
「だーって、寮の中はオレのテリトリーじゃん? 邪魔も入んないからね!」
 オレが好きなだけデュースを独り占めできるってワケ、とエースは楽しそうに言う。僕ら四人部屋だぞ、残りの2人に遠慮しろよ。呆れた奴だ。
「はあ……。好きにしろよ、どうせお前は僕の言うことなんか聞かねえんだから」
「やった! 言ったかんな。じゃ、好きにしまーす」
 背中側からやたらとくっついてくるエースを好きにさせつつ、僕は考える。ジャックの言う通り、今のハッキリしなくて煮え切らない状態は僕らしくない、っていうか。僕だってそんな、2人に余計な期待持たせたままハッキリさせないようなのは良くないって思ってる。
 そもそも僕は同時に2人を相手どれるほど器用じゃないし、なんかその時々でそれぞれに流されてるし、と考え続けていると、構ってもらえなくて拗ねたエースが僕の手に指を絡めてきた。
「なに悩んでんの?」
「お前らのことだよ……」
「何、デュース。もう音を上げてるワケ?」
 オレたちの戦いはまだ始まったばかりよ、なんてエースは茶化す。でも、僕は正直、その言葉に頷いてしまいたかった。
「そうだよ。なんか、どっちを選ぶとか、どっちがどうとか……僕が選ばなきゃなんないのかって、こんな大変だと思わなかった……」
 お前も、シルバー先輩も、別の形で大切なんだ、とこぼすと、エースは言った。
「別の形って、どんな風に?」
「……お前といると、落ち着かないよ。お前の行動のひとつひとつが、僕を困らせる。そのくせ、放っとけないような感じも見せるんだからな……」
 エースは僕の指で手遊びをし続けている。
「ふーん。……シルバー先輩は?」
「……あの人と居ると、落ち着く。僕のことを、すごく大事にしてくれて……穏やかで、心地良い関係だと思う」
 たまにドキッとするような姿も見せるけど、あの人相手じゃしょうがないよな、と笑うと、エースは僕のことを抱きしめた。
「……エース?」
「あのさ、デュース。オレ、お前のことが好きだよ」
「……ああ」
「でも、でもさ……。本当に、本当にお前が幸せになれるって言うなら、アイツに、譲ってもいいよ……」
 らしくないエースの言葉に、僕は心配になる。
「どうしたんだよ、エース。お前らしくない。あんなに張り切って先輩に宣戦布告してたのに……」
「だって、……敵わないじゃん。あんな、強くて、格好良くて、頼りになって。お前だって、ドキドキしてるんでしょ!? 好きだって言われてさ……。オレだって、オレだってそんな風に、お前の好きな人になりたいけどっ、でも、ダメじゃん!! ケンカはするし、憎まれ口は出るし、格好いいとこなんか全然だし……っ」
「エース……」
 僕は、エースの頭をくしゃりと撫でた。それで、エースに背中を預けた。
「それはその通りだよな」
「……んだよ。そこは絆されるとこだろ」
「また嘘泣きかもしれないからな」
 それで、ひとつだけ、決めることにした。……まず、エースに、なんて言えばいいのかを。

【Ending-Ace’s Turn】

「あのさ、エース」
「……うん」
 エースは、僕の言葉を待って、聞いてくれてる。
「僕、お前に好きだって言われて、めちゃくちゃびっくりしたよ。お前は僕のこと、嫌いなんだろうなって思ってたから」
「………………うん」
 エースの声が、明らかに鼻を啜るような声になっていて、僕は苦笑いをこぼしてしまう。
「泣くなよ」
「今からフラれるってのに、泣かない奴がいるわけないじゃん……」
「はは。エースはなんでも僕のこと、お見通しなんだな」
 僕が笑うと、エースは当たり前じゃん、好きなんだから、と、すん、と鼻を鳴らした。
「ごめんな、エース」
「……ごめんで済む話じゃねーし」
「それでも、ごめんな。……だけどさ。お前のアピール、結構ドキドキしたよ。……本当だぜ」
「なら、オレでもいいじゃんか……」
 本当、ちっちゃい子みたいに縋るよな。……だから僕は、エースが放っておけなかったんだ。
 そう、――手のかかる弟みたいで、さ。
「明日、アイツに返事するの」
「するよ。……シルバー先輩に決めました、って言う。これからよろしくお願いします、って」
 エースは僕を抱きしめる腕を緩めない。それで、僕の肩に顔を埋めたままでいる。
 未だに振ると決めたエースに向かって、こんな距離感を許してる僕も、大概だな。
「……どうしても?」
「どうしても、だな」
「じゃあ、じゃあさ」
 エースが、ベッドの天蓋を引いた。ベッドの中には、僕とエースが二人きりになる。
「……キス、していい? アイツ、まだしてないんでしょ。だから……デュースの最初のキスだけは、オレに頂戴」
「エース、それは……」
「……お願い、デュース。一生のお願いだから……」
 僕は、迷った。迷ったけど、でも。それで、エースの心にケジメがつくなら、って思って、受け入れた。
「一回だけ、だぞ」
「……ん」
 そうして僕は、目を閉じて、エースのキスを待った。柔らかいものが、唇に触れる感じがして、 ああ、キスって別にレモンの味とかしないんだなって、そんなことを思った。
 そうして、ずっと後ろからすすり泣いたまま抱きしめるエースに離してもらえないままに同じベッドで眠って、僕は翌朝を迎えた。

【Ending-Silver’s turn】

 翌日。僕は昼休み、学園裏の森に、シルバー先輩を呼び出した。
「デュース。話とは――」
「単刀直入に言います。シルバー先輩。僕は……シルバー先輩を、選びます」
 するとシルバー先輩は、僕が言葉を言い終わるか言い終わらないうちに、僕のことを抱きしめた。
「本当か!? 嬉しい、デュース。俺が、選んでもらえるとは思っていなかった。……こんなに嬉しいことがこの世にあるとは、思ってもみなかった……」
 噛み締めるようにこぼすシルバー先輩の言葉に、僕は、慌てて弁明をする。きゅ、急に抱きしめられると、こんなにドキドキするんだな。ってか、やっぱ力強いな、案外。
「そ、その、まだこの話には続きがあって! 最後まで、聞いてくれますか」
「あ、ああ。すまない、逸ってしまったな」
「えっと、その。シルバー先輩を選ぶ、とは言ったし、そう、決めたんですけど……」
 僕が言葉を濁すと、シルバー先輩はすぐに察してくれた。
「……エースのことか」
「ハイ……。僕、アイツのことも、なんだかんだ、放っておけなくて。それが、手のかかる弟に向けるような気持ちだとは、思うんですけど……」
「……そう、か」
 シルバー先輩は僕の言葉にまだ何かを言いたげにしたが、それ以上何も言うことはなかった。
「その、一応、エースとの話はついてるんですけど、あっちからも好きだって言われてた以上、もう少し気持ちの整理とかには時間、かかるかもなって……」
 それでも、シルバー先輩といると、落ち着くし、ドキドキするし、頑張ろうって思う気持ちにもなれるし、だから、その、と僕が上手く言えないでいると、シルバー先輩は僕の頭を優しくくしゃりと撫でた。
「……ああ、大丈夫だ。ゆっくりでいい。俺も、言葉は上手くないから……。自分の気持ちを上手く説明できないときの気持ちや、もどかしさは、よく分かる」
 そうして、僕の手の甲を取って、くちづけた。
「お前の気持ちが整うまで、俺は、いくらでも待とう。……できれば、今、俺を選ぶと決めてくれた気持ちが、揺らがないと嬉しい」
「は、はい……っ」
 どぎまぎしながら、なんとか返事をする。
「では、これからは、遠慮なく……お前に、長ける想いを伝えても構わない、ということか?」
 恋人同士として、とシルバー先輩は言う。僕は、それに、頷きはしなかった。
「あ、ええ、っと、その、僕、まだ恋人とかは……っ、慣れてないので……っ! 友達以上恋人未満っていうか、恋人の一歩手前みたいな、いやその、恋人でもいいんですけど、まだその、踏ん切りつくまではって……!!」
「ふっ、そうか。分かった」
 それでも、ただの先輩後輩だった今までよりはずっといい進歩だ、とシルバー先輩は笑って僕の我侭を受け入れた。
 よ、良かった。エースの提案だったけど、友達以上恋人未満なんて都合の良い関係が許されるとは思わなかった。

【Disruption!】
 と、思っていたら。話し合いをしていた僕らの後ろから、エースが現れた。
 エースはやたらと僕にまとわりつきながら、シルバー先輩に向けて挑発をする。
「ってことで、アンタはまだ恋人『未満』なんで!! ちょっと一回告られたからって、いー気にならないでくださいね?」
「エース!? なんでここにいるんだよ、お前教室にいるんじゃ……!!」
 突然のエースの登場に、シルバー先輩の表情が鋭くなるのが分かった。あ、ヤベ。この流れは。
「……エース。お前との話はついている、と聞いていたが?」
「うん、まあ、一回はね? でもさ……一回フラれたくらいで、諦めるワケなくない? まだ『恋人』が出来たワケでもないのにさ!」
「お前っ、まさか最初からそのつもりで……!!」
「……望むところだ。元より、一度振られたくらいで諦めるような恋敵ではないと思っていた」
「ふーん? あ、そうそう! オレ、もうデュースとキスしちゃったから! よろしくね?」
「……そうか。ならばそれを最後の思い出と、潔く引き下がれば良いものを」
「えー、キスまで許せちゃうのに引き下がる理由とかあります?」
「デュース自身が、俺を選ぶと決めてくれたことが何よりの理由じゃないか?」
 慌てる僕をよそに、シルバー先輩とエースはまたお互いにバチバチと火花を放ち始める。
 僕はそんな2人の様子に、再度頭を抱える羽目になった。
「もう、勘弁してくれーーー!!!!!」
 そんな僕の叫びは、学園中に響き渡ったとか、渡らなかった、とか。

*おしまい

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