*『トリックVSハート』の続きです。相変わらずバチバチやってます。相変わらず、なんでも許せるタイプの方向け。
シルVSエスの舌戦が楽しすぎて続き書きたくなっただけなので、二人の攻勢バランスは前作よりも悪め(ややシル優勢)です。
以上大丈夫、飲み込めたという方はスクロール↓
なんで、こんなことになってるんだろう。今、僕は、何故か……シルバー先輩と、エースと、遊園地に来ている……。
少し前のこと。僕は、同じ日にシルバー先輩とエースとそれぞれから告白され、で、それぞれからアプローチされて、結局、シルバー先輩の方を選ぶことに決めた。と言っても、まだちゃんとした恋人になったってわけではなくって、『友達以上恋人未満』みたいな……ちょっと、意識はするけどまだハッキリ恋人になったわけじゃない、みたいな曖昧な関係だ。まあ、それを提案してきたのもエースで、アイツが仕掛けた罠だったんだが……。それは、もうこの際いいとしよう。僕の気持ちだって、それを飲んじまうくらいには踏ん切りがついてたわけじゃなかったからな。
とはいえ、どうしてこうなったのか、本当に分からない。確か、エースが僕を遊園地に誘ってきたんだ。チケットを、3枚持って。
「オレと二人きりのデートだったら、お前断るでしょ? だから、こうしようよ。あの人も誘って、三人で行こ? 決まりね~!」
……僕の意見は聞かれたのか聞かれなかったのか、話を聞くなり二つ返事で行くと言ったシルバー先輩とエースの間でトントン拍子に話は進んでいって、今、僕はこうして3人で遊園地の敷地を踏んでいる、ってワケだ。
「遊園地か。こういった娯楽施設に来るのは、初めてかもしれないな」
「そうなんですか?」
「ああ。茨の谷では、遠出して遊園地のような施設に行くことはなかった。森の中で十分遊べていたから」
シルバー先輩は物珍しそうに辺りをきょろきょろと見回している。それがなんだか小さい子みたいで、可愛いなと思った。
「僕も、小さい頃に来たきりかもしれません。なんかヘンなことになっちゃってますけど、せっかくだし今日は楽しみましょうね」
「ああ。……お前と一緒に楽しめると、俺も嬉しい」
やっぱり、シルバー先輩といると落ち着く。ドキドキはするけど、穏やかな時間を過ごせるっていうか。少しこそばゆいけど、落ち着く雰囲気の中に包まれている感じがする。
……なんてことを考えていると、エースが間に入ってきた。
「セッティングしたオレを差し置いていい雰囲気にならないでクダサーイ」
「半ば強引に決めた、の間違いだろ!」
まあ、3人で来た以上、余ってしまう1人をかまってやらないのも申し訳ないから、この辺にしておくが。
エースは園内のMAPを持ってきて、二人ともどこから回る、乗りたいものある? と聞いてきた。
「俺は、遊園地に詳しくない。二人の好きなものに乗ればいいと思う」
「僕も昔来たくらいで、最近は全然だったからな……。あ、でも絶叫系は乗りたい!!」
「オッケー。お前なら絶対そう言うと思って、サーチしてました! 下調べバッチリよ!」
エースは僕の手を取り、ローラーコースターはあっちね! と走りだす。エースに手を引かれながら、お前先輩を置いていくなよ、と僕が慌てていると、シルバー先輩は、ちゃんと着いていくから心配いらないと見守ってくれてるのが見えた。よ、余裕だな、シルバー先輩。
……なんていうか、こんな、僕がエースに手握られたりしてるの見たら、もうちょっと焦ったり、またバチバチ喧嘩したりするのかと思ってたけど。案外、仲いいのか……?
「シルバー先輩ってばヨユーじゃん? オレ、このままデュースをどっかにさらっちゃうかもよ?」
「問題ない。そのときは、迎えに行く。たとえデュースが、世界の果てにいたとしても、だ」
……前言撤回。まだ、バチバチしてた。
それで、僕らはまずローラーコースターに乗ることになった。隣に座ったのは、エースだ。
絶叫系なら前の方が楽しいに決まってんじゃん、と言って譲らなかったから、シルバー先輩が、好きなように楽しむといい、と言ってエースに僕の隣を譲ったんだ。……お前、シルバー先輩から、恋敵っていうか、子ども扱いされてるぞ……。
まあとにかくそんなわけでローラーコースターに乗ったんだが、これがまた楽しかった!! 急勾配のコースは迫力満点で、回転の効きも良くて、どこまでも風を感じられた! 思わずマジホイで飛ばしたときと同じくらいテンション上がっちまったぜ。
だから、コースターを降りる頃には僕はすっかりここに来た理由とか経緯を忘れて、超楽しかったな!! あと何回か乗りたい!! ってはしゃいじまって、エースを呆れさせた。
「お前ねー……。そこまでテンション上がると思わなかったわ」
「べ、別に、いいだろ!! これくらい!! ね、シルバー先輩!! 先輩はいいって思ってくれますよね!?」
話を向けられたシルバー先輩は、ふっと笑った。
「夢渡りの際、夢の回廊を落ちていくときの感覚に、似ていると思った。俺にとっては慣れ親しんだ感覚だ。お前がそんなに喜ぶのなら、俺はあと何度か付き合える」
「本当ですか!? じゃああと3回行ってもらっていいですか!?」
「ああ、もちろん。エースは辛いなら休んでいてもいいぞ?」
「は!? ちょ、ちょっと待って!! オレだってまだ音は上げてないですし!?」
そうして、結局僕は初回を含めシルバー先輩とエースを隣に2回ずつ、計4回コースターへ乗ることになった。
まあ、エースは2回目で『もういいだろ!』ってヘバってたから、シルバー先輩が飲み物を与えて、ベンチで休んでるといい、って休ませてたけど。悔しそうにジュース飲んでたな、エースの奴。あの顔を見ると、なんだか日頃の鬱憤が晴れたような気がする!
で、5回目に関しては、いつまでもエースをひとりで待たせてるのも良くないからって言われて、取りやめになった。
次はゆっくり歩けるようなとこに入ろうよ、ってエースが言うから、僕らはミラーハウスに入ることにした。
ミラーハウスの中は、鏡であちこちが反射して、歩きにくい。その上、迷路のような構造になっているから、ゴールを探すのが大変だ。と思ったんだけど。エースもシルバー先輩も、次々に進路を見つけてスイスイ進んでいく。
「二人とも早くないか!?」
「こんなん余裕じゃない? 迷うことある?」
「すまない、遅れていたか。今そちらへ行く」
僕だけなのか、この迷宮の進路がよく分からないのは。二人とも、自分なりのコースに確信を持って進んでいる気がする。
そう考えると、シルバー先輩に度々手を引かれ、なんとか先へ進んでいる状態は、今の僕にも重なる気がした。
どうにかしてスイスイ進んでいくシルバー先輩の後をついていこうと頑張っていると、横から急に引き寄せられた。
「わぷっ……、エース!?」
「へへ。待ち伏せ~」
鏡の間から出てきたエースに突然抱きしめられ、僕は困惑というか、呆れを持つ。
「何してんだ、ったく」
「何って、アピってるんですけど。せっかく二人きりになれそうなチャンスがあるのに、棒に振るワケないじゃん」
エースは僕を抱きしめたまま、耳元でささやく。
「好きだよ、デュース。アイツなんかやめて、オレにしてよ」
思わずかっと顔が熱くなってしまうが、そんなもの振り払おうと、振り払わなきゃならないと首を振った。
「バカ! も、もう先輩にするって決めたのに、今さらお前を選ぶワケないだろ!」
「へー。その割に顔、赤いけど? ……あ、ひょっとしてドキドキもしてる? ちょっと心臓の音、聞かせてよ」
エースの手が、僕の胸に伸びてこようとする。その瞬間、エースの腕が誰かの手に取られ、目の前の鏡にシルバー先輩の姿が映った。
「何をしている? ……抜け駆けは良くないぞ」
「ちぇっ、見つかっちゃったかあ」
シルバー先輩に見つかった瞬間、ぱっとエースは手を離して、僕を開放してくれた。僕が、すいませんシルバー先輩、と先輩に駆け寄ると、先輩は少し不機嫌そうにむすっとして、ああ、と答えた。
「……先輩、怒ってます……?」
それはそうだろう。皆で楽しく遊んでたのに、二人だけでなんていうか、別に僕がそうしたかったわけじゃないが、イチャついてたりしたら。でも、先輩の不機嫌の理由はそこじゃないみたいだった。
「心配するな。お前に腹を立てたりはしていない。……だが」
シルバー先輩は、僕の耳元でささやいた。
「気を抜きすぎるな。何をされても知らないぞ、エースからも、……俺からも」
そうすると今度は、エースがわざとらしく地図を広げ、僕とシルバー先輩の間に割って入る番だった。
「ハイハイ、次のアトラクション行こうねー!! どこにする、二人とも!」
……分かりやすすぎる邪魔だが、これ以上エースを放っておくのも忍びないので、アトラクション選びの話題に乗ってやることに決めた。
それから、僕たちは、目についたアトラクションを次々と楽しんだ。バイキングに、空中ブランコ。コーヒーカップに、空飛ぶじゅうたん。どれも三人で一緒に楽しめた。まあ、ちらほら二人が僕の隣の席を争うから、順番交代ずつってことにさせたりするようなトラブルもあったが。そういやホラーハウスにも行ったが、思ったより雰囲気や仕掛けが怖かったみたいで、言い出しっぺのエースが一番ビビッていたので、僕とシルバー先輩でエースの脇を固めることになって、お前何しにここに来たんだよって状態になったな。本当に手のかかる奴だ。
ホラーハウスから出たあと、ちょっとトイレ休憩ってことで、エースが席を外した。僕はシルバー先輩に、尋ねた。
「すいません、エースの奴とにかく手がかかって。シルバー先輩は、大丈夫ですか?」
「問題ない」
シルバー先輩はそう言うけど、恋敵がいるデートなんて、嫌じゃないんだろうか。そもそものセッティングとか言い出しっぺはエースだとはいえ、その、僕がシルバー先輩の告白を一応ながら受け入れてから、こういう形での初デートになってしまった。
その辺の機微を上手く伝えられないでうなっていると、シルバー先輩が僕の頭をくしゃりと撫でた。
「……心配いらない。お前は、エースのことを、手のかかる弟のようで、放っておけないと言っていた。お前にとって、家族のように大切な存在であるというのなら、俺も、大切にしたいと思う」
恋敵として負ける気はないがな、と最後に付け足され、僕は、ドキリと胸が疼く。……心臓に悪い。エースがいたから、分かんなくなってたけど、僕、シルバー先輩と二人きりになったら、マジでドキドキして、ドギマギしちまって、何を話せばいいか、分かんないかもしれねえ……。
「あ、りがとう、ございます……」
そんな風に答えるのが、僕の精いっぱいだった。シルバー先輩は、ああ、と、なんだか嬉しそうに笑っていた、気がする。
そんなことをしてたら日が暮れてきて、僕たちは最後に観覧車へ乗ることになった。
「夕陽の中で見る観覧車、絶景でしょ! あ、デュースはオレの隣ね?」
エースはゴンドラに乗るときにもそんなことを言いだすもんだから、僕はそれを制した。
「お前はさっきまでのアトラクションで、1回多く隣にいただろ。次はシルバー先輩の番だ」
「ちぇ。数えてたか!」
拗ねるエースをよそに、シルバー先輩はゴンドラへ乗ったあと、僕へとそっと手を差し出す。
「それなら、手を。足元に気をつけろ」
「あ、ありがとうございます……」
や、やっぱり、ナチュラルに王子様みたいなことするな、シルバー先輩。先輩の手にエスコートされ、僕はようやく観覧車のゴンドラに乗り込む。エースがそんな僕を、呆れたような目で見ていた。……なんだよ、別にいいだろ! 分かってるよ僕だってこういうの似合わねえって!!
それで、ゴンドラに乗ったあと、シルバー先輩の隣に座る。スタッフの人がドアを閉めて、観覧車がゆっくりと頂点に向けて上がり出す。
「こういうものなのか。ゆったりしたアトラクションなのだな」
シルバー先輩が呟いた。
「まあ、そうね。恋人同士の雰囲気づくりだったり、小さい子の思い出作りみたいなロマンチックな感じに使われることが多いですよー」
エースが解説をすると、そうか、教えてくれてありがとう、とシルバー先輩は言った。やっぱり仲いいのか悪いのかわかんねえな、この二人……。……ん、待てよ。悪いとしたら、僕が原因か……? そんな考えに至ったが、僕にはどうしようもないことなので見ないフリをすることにしておいた。
……そこまでは良かった。そこまでは、な。ただ、何故か、いつの間にか。
「オレみたいなやつをのこのこ初デートについてこさせる辺り、ちょっと油断してんじゃない? シルバー先輩?」
「お前がいても問題ないと判断したまでだ。現に、デュースは今俺の隣にいてくれている」
「それ、ただ順番だからってだけだからね? アンタが1回多ければ、オレが隣にいましたー!」
「ふっ、どうだろうな。お前ではなく俺の隣に座るための口実として、用意していたのかもしれないぞ? 俺の時にその言い訳は使われただろうかな」
また、エースとシルバー先輩の舌戦が始まってしまっている。ったく。気を抜くと僕を取り合って喧嘩するんだからな、二人とも!
まあ、でも、こういうのも悪い気はしないかな……なんて。そんなワケないだろ。二人とも相手に夢中になって、僕のこと置き去りになるし!! 普通に恥ずかしいし!! いい加減やめにしてくれ!!
そんな僕の想いを知ってか知らずか、二人の口論はヒートアップしていく。
「センパイってば余裕ぶっちゃってますけど、前も言ったよね? オレ、デュースとはもうキスもした仲だって。アンタはまだなんでしょ? ちょっと気抜きすぎなんじゃないですか~? これならすぐに奪っちゃえそ!」
「俺はデュースの気持ちを尊重したいと思っている。お前のその話だって、聞いたぞ。これで最後だから、と半ば騙すような形でデュースに迫ったそうだな。そうした嘘は良くない。お前自身の誠実さも疑われる」
「恋敵相手の心配なんて、随分ヨユーじゃん?」
「現に、余裕があるからな。俺の余裕ばかり気にしている、余裕のないお前とは違って」
「はあ!?」
あ、これはマズイ。ガチのケンカになりそうだ。僕はいい加減、二人を止めることにした。
「落ち着けよ、二人とも。だいたい、誰の、何のためにケンカしてんだか思い出してみろよ? あ゛あ゛?」
僕が機嫌悪くそう言い放つと、エースもシルバー先輩も、申し訳なさそうに大人しくなった。
気まずい雰囲気のまま、観覧車から降りると、シルバー先輩がまずは口を開いた。
「すまなかった。お前の気持ちも考えず、喧嘩までしてしまい。……不愉快な思いを、させてしまったな」
僕はそれに溜め息を吐いて、許す。
「……エースとの勝負に夢中になるのもいいですけど、僕を忘れちゃ本末転倒だと思いますよ」
「ああ……すまなかった」
そんな僕らを見ていたエースは、オレは謝んないからね、と言った。
「エース、お前なあ……」
「元々、お前らの間を邪魔するのが目的だし! ……目的達成してるのに、謝る理由ある」
エースはそっぽを向いて、弱気にそんなことを言う。さすがにばつが悪くはあるらしいな。
でも、ここで甘やかしちゃエースのためにならない。謝らないならお前は待ってろと言って、僕はもう一度観覧車乗りましょう、今度は二人で、とシルバー先輩に声をかけた。
「いいのか?」
ひそめた声で、シルバー先輩は僕に真意を問う。
「エースには少し、頭冷やす時間が必要なんで」
「そういうことなら、分かった」
そうして僕は、シルバー先輩と二人で観覧車に乗ることになった。
観覧車の中で、僕は、それはそれでシルバー先輩と話すのも気まずいことに気付いた。
「……に、にしても、意外でした。シルバー先輩も、口喧嘩がヒートアップしちゃうこととか、あるんですね」
「ああ、それは……」
シルバー先輩は気まずそうに、というか、なんだか恥ずかしそうに、口元を手で押さえている。なんだか、顔も赤いような……?
「大人気なくて、すまない。……その。エースが、お前と、キスをした、と、何度も自慢、するものだから。……なんというか、つまり……苛、立っていた」
「は……っ」
「……嫉妬だ、すまない……」
シルバー先輩は、そう言ってそっぽを向く。僕は、観覧車の向かいに座ってたけど、立ち上がって、シルバー先輩の隣に移動した。観覧車のゴンドラが、少し揺れて、つまずきかけた僕を、シルバー先輩は受け止めてくれた。
そのまま僕は、じっとシルバー先輩の目を見つめる。
「……あの、シルバー先輩」
「あ、ああ」
ぎゅっと、シルバー先輩の手を握る。びくりと、シルバー先輩の身体が震えた気がした。
「その、こんな理由でするのは、良くないかも、しれないんですけど……。でも、それが理由でエースと喧嘩しちまう、なら」
しましょう、キス。それで、平等です、と僕は言った。
「……デュース」
シルバー先輩は、僕の頬に手を添えて、そっと、キスをした。そうして、離して。
「……平等じゃ、嫌だ。いつも、アイツより……一歩でも、何歩でも。リード、していたい」
何度か、キスを繰り返した。僕はそれを、拒みはしなかった。ぎゅっと、シルバー先輩に抱きしめられる。
「余裕なんか、ないんだ。本当は……。いつ、お前がアイツに持っていかれるかと、気が気でない……」
……抱きしめられた耳元に、少しだけ聞こえてしまったシルバー先輩の本音は、まだ聞こえないフリをしておいた。
こういうとこが僕の、煮え切らない悪いところっていうか……。『恋人未満』な、ところなんだろうな……。
*
……何やってんだろ、オレ。一人、置いてかれたベンチでごちる。デートセッティングして、邪魔しに来たのはいいけどさ。
結局デュースを怒らせて、意地張って素直に謝ることもできなくて、アイツ、シルバー先輩にデュースをかっさらわれてる。
ベンチに一人座って、俯く。顔を上げたら、きっと見たくもないものが見えるだろうから。
……分かってる。分かってるんだよ。これがおとぎ話で、デュースがお姫様なら、王子様はアイツなんだって。
オレはただの、ぼろきれを着たお姫さまを、王子様とお似合いのドレスにして送り出すため魔法をかける、そんな、魔法使いでしかないんだって。
でも、でもさ。思わね? ずっとお姫様のことを見てたのは、傍にいたのは、ぽっと出の王子様なんかじゃなくってさ。ずっと傍にいた、魔法使いの方じゃんねって、オレはそう、思ってならないんだよ。
たとえどんなにお姫さま<デュース>が、王子様<シルバー先輩>に憧れてたって、傍にいたのは魔法使い<オレ>じゃんねって、オレはそう思うんだよ。
全然、負けるつもりなんかない。勝てなくたって、負けなきゃいい。何度フラれたって、100回フラれたって、諦めるつもりなんか、全然ない。
しつこく追いかけてやる気満々でいる。……でも、だけどさ。
「二連敗は、響くよなあ……」
そんなことをこぼして、冷たい缶ジュースを飲み干し頭を冷やした。
*
シルバー先輩に手を引かれ、観覧車のゴンドラを降りる。中での出来事もあってちょっと恥ずかしかったから、パタパタと頬を冷まして、それからベンチに座るエースのところに走って行った。
「エース、ちょっとは頭冷えたかよ」
「……わーるかったよ! これでいい?」
悪態をつきながらも一応謝ってくれたエースに、僕はほっとする。ああ、いつものエースだ。
「お前にしては上出来だな」
お土産買って帰ろう、と言って、落ち込んだ様子のエースを立ち上がらせる。うん、としょげながらも素直についてくるエースに、いつもこれくらいしおらしかったら可愛げもあるんだがな、と思った。
土産屋で土産を選んでいると、トントン、と肩を叩かれた。
「デュース、こっち向いて」
「なんだよ……んっ!?」
エースに、なんかの食べ物を口に放り込まれた。ケーキ、か?
「これなんだ? 試食?」
「卵たっぷり使ったケーキだって。お前好きでしょ、買ってったら?」
「本当か、どこにある?」
すっかり元の調子に戻ったエースに安心して、僕は土産品を探す。シルバー先輩は、そんな僕らの様子をただ静かに見守っている。
疎外感感じさせちゃったかなと思ったから、僕は、うさぎのぬいぐるみを持って、シルバー先輩に声をかけた。
「先輩も一緒に選びましょう。ほら、かまってーって言ってますよ、ウサギも」
「……ああ」
シルバー先輩は、ふっと穏やかに笑って、僕とウサギのぬいぐるみの頭をそれぞれ撫でた。
そうしたら、エースも隣に来て、言った。
「何。デュースだけ可愛がってんの?」
エースの言葉に、シルバー先輩は驚いた顔をした。僕も、驚いた。シルバー先輩に可愛がられたいのか、お前。
「……俺に可愛がられたいのか?」
シルバー先輩も同じことを思ったみたいで、エースにそう問いかけた。
「別に。ただ、嫌われて喧嘩するより、愛嬌振り撒いて可愛がられて、コイツになら譲ってもしょうがないかなーって思われた方がトクじゃんって思って、作戦変更しただけ!」
「ふっ、そうだったか。それは……俺の弱点を突く、恐ろしい作戦だな」
そう言って、シルバー先輩はエースの頭を撫でる。エースはふん、と鼻を鳴らしながらも、満更でもなさそうな様子でそれを受け入れていた。
それから、僕たちはようやく帰路に着く。すっかり暗くなってしまった景色を背に、二人へと振り向いた。
「今日はいろいろあったけど……、なんだかんだ、楽しかったな!」
一応はじめに誘ってくれたのはエースだし、誘ってくれてありがとな、と礼を言う。
「別に? まあ、また誘ってやらなくもないですけど」
エースはそんな憎まれ口を叩くが、機嫌がいいのが目に見えて分かった。
「そうだな、楽しかった。次は俺からも誘うことにしよう」
三人もいいが、二人でもいいな、とシルバー先輩がこぼすと、大人げねー、とエースがそれを非難した。
「正々堂々と勝負しているだけだ」
「あっ、そういうこと言っちゃう?」
ツンとすましてエースの非難を意に介さないシルバー先輩に、エースはなにかやり返したくなったのか、僕に絡み始める。
「そっちが正々堂々やる分には勝手だけどさ。オレはずるい手でもイカサマでも上等なんで!」
「お前なあ……」
エースの言葉に呆れていると、急に口を塞がれる。エースに、キスされていた。
「な、何考えてんだシルバー先輩の前で!!」
「前じゃなきゃいいワケ?」
「いや前じゃなきゃいいとかそんな問題じゃないのはそうなんだが!!」
慌てまくる僕の言葉を、エースはちっとも意に介さない。
「隙だらけじゃん、デュース。オレ、ちょっと気になる人ができたくらいで遠慮なんかするつもりないから、まだまだ覚悟しててよね!」
そう言ってエースが挑発的にシルバー先輩を振り向く。すると、シルバー先輩はこちらにツカツカと歩いてきて、そして、僕をエースから奪うように抱き寄せ、くちづけた。
「んっ!?」
二人から連続でキスされて、僕はもうパニックになる。な、何してんだこいつら!!
シルバー先輩の唇が僕から離れると、エースは機嫌悪く言う。
「……デュースの意思を尊重するんじゃなかったの?」
僕はシルバー先輩に強く抱き止められたまま、動けない。
「尊重はしている。俺はもう、許しを得たからな」
「ふーん……? それっていつ? ってかタイミング的に、さっきの観覧車くらいしかないよね。先輩、正々堂々って言いながら、結構ずっこくない?」
「お互い様だろ? それとも、勝ち目がなくなるからやめてくれ、と泣き落としでもしてみるか?」
「アンタがもーっと気抜いてくれるなら、それもいいかもしんないね?」
「それは、期待できない相談かもな」
互いに睨み合い、バチバチと交わす視線で火花を飛ばし合うエースとシルバー先輩の二人に、僕はやっぱりこう叫ぶのだった。
「〜っ、だから、お前ら……、いい加減にしてくれー!!」
そんな僕の叫びも虚しく、この恋の延長戦はまだまだ続きそうなのであった。
*おしまい
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