Jelly

 ※ドルパロ(ギャラリーもしくは小説本棚に設定が置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
 ※時系列:ドーム直後、交際宣言前
 ※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、トレイ先輩→トレイさん、など)

大丈夫な方はスクロール↓

 

 

「ただいま、デュース」
「お帰りなさい!」
 慣れ親しんだ玄関のドアを開ければ、お帰りなさいとデュースが出迎えてくれる。ドームライブを終えた後、リドル事務所長に俺たちが付き合っていることが知られて大目玉を喰らい、ついでに俺がデュースの部屋に入り浸っていて寝るとき以外ほぼ自分の部屋に帰っていなかったのもバレて、経費の無駄だから一緒に住めと怒られたため、デュースと同じ部屋で暮らすことになった。
 荷物をすべて移し替えきっていないので、厳密にはまだ俺の部屋ではないのだが、それでもただいまとドアを開ければデュースは当然のようにお帰りなさいと挨拶をしてくれる。
「ふっ、甘い匂いがするな。何か甘いものでも食べていたのか?」
 デュースの頬にキスをすると、ふわりとその首筋から甘い生クリームの香りが漂った。またコンビニのデザートでも食べていたのだろうか。
「えっと……せ、先輩っ」
「ん? なんだ?」
 まだ慣れないのか、慌てた様子のデュースの頬や額にちゅ、ちゅとキスを落とす。
「ただいまのキスくらい、してもいいだろう。これから一緒に暮らすのだから」
 最後にデュースの唇にキスをすると、そうじゃなくてっ、とデュースは軽く俺を押し返した。
「……お客さん来てます、シルバー先輩……」
「何?」
 デュースの言葉に、廊下の奥の方を見れば、デュースの部屋から俺たちの様子を伺う見知った顔がふたつあった。
「マ、マレウス様に……セベク!?」
「……どうやらスペードの手にかかれば、シルバーも形無しのようだな。なあセベク?」
「お、おま、お前……たるんでいるぞ、シルバー!! 僕たちの気配にも気づかず、あんな、あんな……っ!!」
 そこにいたのは心底楽し気なマレウス様と、真っ赤になってわなわなと震えるセベクで……どうやら、今の光景はバッチリ見られていたらしい。
 ともかく、気を取り直して二人が待つデュースの部屋へと向かうことにした。

 

「なぜ、俺の部屋ではなくデュースの部屋にいらっしゃるのですか?」
 素朴な疑問をぶつけると、マレウス様は端的に答えた。
「お前が留守だったからだ。僕たちが玄関先で立往生していると、スペードに声をかけられた。『もしかして、シルバー先輩のご家族ですか?』と。そのようなものだと答えたら、僕たちのことを知っていたようで、中に入って待つよう勧められたんだ」
 その言葉をデュースが捕捉する。
「部屋に入れたはいいんですけど、よく考えたら今、部屋に二人で座れるダイニングテーブルしかなかったので、急いで僕の部屋のちゃぶ台と座布団出すしかなくって。おもてなしの準備できてなくてすいませんって感じです」
「かまわない。シルバーを驚かせようと思って、わざと事前の連絡をせず押しかけたのは僕たちの方だからな。それに、ちゃぶ台と座布団という組み合わせもなかなか新鮮だ」
 どうやらデュースから漂っていた甘い香りは、マレウス様たちに出していたケーキの香りだったようだ。そんなに都合よくケーキがあったのかと尋ねたら、セベクのおもたせだと答えが返ってきた。
「シルバーの部屋とはいえ、手土産もなしに急に尋ねるのは失礼だと思ったからな! 一応買ってきたんだ。まあ、お陰で今回は役に立った」
「なるほど。それで二人ともデュースの部屋でケーキを食べていたのか」
 俺がだいたいの事情を把握すると、セベクは続けた。
「本題はそちらではない! なぜ僕たちがお前を訪ねてきたのか、シルバー貴様、それをすっかり忘れているだろう」
「忘れて? ……ああ。そういえば、セベクが家具を運ぶのを手伝ってくれる約束だったな。今日だったか?」
「そうだ! まったく、頭の隅まで色ボケしてしまったのか?」
「すまない、先ほど出先で少し眠ってしまい、日付感覚が曖昧で……」
 セベクの事情は分かった。俺が忘れていただけで、予定通り家具を運ぶのを手伝いに来てくれたんだな、ありがたい。この後すぐに作業に取り掛かるとしよう。……しかし、マレウス様はどうしたのだろうか?
「マレウス様は、どうされたのですか? まさか家具をお運びになるつもりではありませんよね?」
「やれというのなら吝かではないが、僕が家具運びなど雑事をすることにうるさいのはお前たちだろう。僕はセベクが迷子にならないよう着いてきたついでに、お前の様子を見に来たんだ」
「そうでしたか。気にかけていただき、ありがとうございます」
「ああ。家具を運んでいる間、僕のことはかまわなくて良いぞ。……お前の代わりに、そこのスペードに相手をしてもらうからな」
 ……やはりか。やはり、デュースが目的だったか。マレウス様は、俺たちのファーストライブの際、偶然デュースに出会って、ペンライトの電池を取り付けてもらったことがある。それ以来、デュースのことを気にかけていて、いくつものライブを見守ってきた今、デュースのことをちょっとしたファンとして応援していらっしゃるんだ。
 そのデュースと俺が交際していること、これから一緒に住むことを告げたからには、何かがあると思っていたが……。まさか、直接会いにいらっしゃるとは。
「デュース。……失礼のないように頼むぞ」
「はい、頑張ります!」
 むん、と何故か力を入れてデュースは答える。……心配だ。相性は悪くなさそうだが、二人を放っておいて大丈夫だろうか。そんなことを考えている間もなく、いつまでもダラダラしていないでさっさと家具を運び始めるぞとセベクに引っ張られてしまった。

「えっと、ドラコニアさん?」
「おやおや、随分よそよそしいことだ。シルバーと恋仲であるというのなら、もう少し気楽に呼んでくれても良いのだぞ?」
「じゃあえっと……マレウス、さん?」
「ああ。僕の名を呼んだな? ふふ、良い良い」
 この人が、ドラコニアさん……じゃなくて、マレウスさん。以前シルバー先輩から聞いた話では、先輩のお家にたくさん援助をしてくれたお金持ちのお家の人で、シルバー先輩の大切な人。実際会ってみると、なんだかとても機嫌が良さそうな人だ。
「それなら、僕のこともデュースでいいですよ。気軽に呼んでください」
「そうか、では、デュース」
「はいっ」
 ちょっと緊張する。独特のオーラというか、プレッシャーを持った感じの人だ。いったい、何を言われるんだろう。シルバーと付き合うつもりならこの試練を乗り越えてみろ、とかそんなこと言われたりして……!?
「シルバーと恋仲なのだろう? いったい、あれのどこを好きになったんだ?」
「えっ……」
 緊張の中、言われた言葉は……それは……恋バナだ!! すごくオーラのある御曹司っぽい人が、僕に恋バナをしてきてる!!
「照れずとも良い。さあさあ、正直に話すと良い」
「えっと、そのっ、どこって言われると、恰好良くて、優しくて、お父さん思いで、いつも僕を助けてくれて……頼りになるとこ、とか……」
「ほう、それで? 他にはどのような経緯(いきさつ)があって、あの堅物と恋仲になれたのだ?」
「えっ、えっと、確か最初は、向こうからキスしてきて……っ」
「なんとまあ、シルバーの方からくちづけを……!?」
 僕は尋ねられるまま、しどろもどろになりながら、シルバー先輩と付き合うことになった経緯を説明する。
「なんていうか、シルバー先輩からキスされて、僕のこと好きなのかな、って思ってるうちに、好きになっちゃったっていうか……っ。シルバー先輩はいろいろ悩んでたみたいなんですけど、結局僕を好きになってくれたみたいで……」
「……うん? それはおかしいだろう。シルバーが先に好きになったから、お前にくちづけたのではないのか?」
「い、いえ。最初は僕のこと、好きっていうよりは、手放したくないって感じだったみたいなこと言ってて……」
「まったく、あやつときたら……。昔からあれにまともな恋などできるのだろうかと思っていたが、案の定という感じだな。お前が好きになってやれたのが奇跡に思える」
 その言葉に、僕はちょっとドキリとする。昔のシルバー先輩。この人は、僕の知らないシルバー先輩を知っている人だ。
「あのっ、良ければ……昔のシルバー先輩のこと、教えてもらえませんか?」
「ふふ、いいだろう。その代わり、お前も今のシルバーのことを洗いざらい話すのだぞ? 特に、彼奴が隠すようなことはな」
「はは、それはちょっと難しいかもですけど……、できるだけ頑張ります、よろしくお願いしますっ!」
 それから僕たちは、家具を運び終えたシルバー先輩とセベクが戻って来るまで、シルバー先輩を中心とした恋バナに勤しんだ。

 セベクと共に大型の家具といくつかにまとめた段ボールを俺の部屋になる予定の空き部屋やリビングなど所定の部屋へと運び終え、部屋へ戻る。デュースの部屋からは、楽し気なマレウス様とデュースの歓談の声が聞こえていた。良かった、不仲になったりはしていないよう……だ……?
「それで、もうシルバーと共に夜は過ごしたのか?」
「えっと、それはその……っ!」
「マレウス様!? 何をお尋ねになられているのですか!?」
「おやおや、もう帰ってきてしまったか」
 マレウス様は楽し気にくすくすと笑っているが、さらりととんでもないことを聞かれていたような気がする。俺の聞き間違いや気のせいでなければ、だが。
「何、お前のことを尋ねる度、律儀に照れる此奴が可愛らしくてな。ほんの少し意地悪をしてしまった。許せよ」
「はあ……」
 溜め息をつき、頭を抱える。確かにマレウス様は大切な恩人なのだが……。いかんせん、自由奔放なところがあるのが玉に疵だ。
「さて。戯れはこれくらいにして、そちらの用事が終わったのなら、僕たちはもうそろそろお暇することにしよう、セベク」
「は、はあ。もう、ですか?」
「おやおや。セベクは随分二人との別れが名残惜しいと見える」
「い、いえ、けしてそのようなことはっ!」
「素直になれ、セベク。淋しいと言っても俺は怒らないぞ」
「誰が言うかっ!」
 その後も少しもだもだしていたが、結局、セベクが淋しがるからと言って、マンションの駐車場まで二人を見送ることになった。
「ではな、デュース、シルバー。また、お前たちの舞台は見に行くとしよう」
「僕は本当に淋しがっていないからな! そこのところはよく分かっているんだぞ、いいな!!」
 嵐のように、二人は過ぎ去る。二人が去った駐車場で、デュースがするりと手を繋いできた。
「マ、マンションの中なら……いいですよね?」
「かまわないが……どうしたんだ、急に?」
「い、いえ別にっ! ちょっと、甘えたくなっただけですからっ」
「……そうか」
 甘えてくれるのはかまわないが、恐らく今回のは違う理由だろう。とはいえ、デュースが言いたくないのなら無理に問い質すことでもないと、聞かずに黙っておくことにした。だが、どうやらそれは間違いだったらしい。
 部屋に戻り、力仕事を終え、一息つこうとリビングに運んだばかりのソファでくつろいでいると、デュースがその横に座り、俺の肩にぽてんと頭をもたげてきた。
「どうしたんだ、今日はずいぶん甘えただな。急な来客で疲れたのか?」
 頭を撫でてやると、デュースは恥ずかしそうに大きな丸い目を伏せた。
「ちがいます。僕、焼きもち妬いたんです」
「妬いたのか? 一体、何に」
「……マレウスさん、いい人だったけど……昔のシルバー先輩のこと、いっぱい知ってるんだな、って思って。妬いちゃったんです」
「そうか、妬いちゃったのか」
「はい、妬いちゃったんです」
 ――可愛い。複雑そうなデュースには悪いが、マレウス様に妬いてしまうほど俺のことを好きになってくれたのだなと改めて思い、そしてそれを素直に俺に甘えてきてくれることが、可愛くてしょうがない。あまりにも多大な嫉妬心を持つようなら問題かもしれないが、俺が甘やかせば済む程度の悋気なら可愛いものだ。
「それは大変だな。どうしてやったら治る?」
「……分かんないです、けど、とりあえずぎゅってしてください」
 こんなに素直に甘えてくるデュースは珍しい。俺は嬉しくなり、言われた通りにデュースを抱きしめる。
「えへへ」
「ちょっとは楽になったか?」
「はい、先輩。シルバー先輩」
 デュースは俺の胸にすりすりと顔を寄せる。
「なんだ、まったく。本当に今日は甘えただな」
「甘えたついでに、ちゅーもしてください」
 本当に珍しいことだ。デュースが、ここまで素直に自分からあれこれねだってくるなんて。それだけ強く悋気を起こしていたのだろうか、と内心では心配になりながらも、それでも、俺がそれを晴らすことができるのならばとデュースの甘えを受け入れることにした。
「……まったく、しょうがないな。今日はいい子にしていたから、特別だぞ」
 特別と口では言いながらも、恐らくデュースからねだられれば特別にはなり得ないそれを、俺はデュースの唇に落とす。するとデュースは言った。
「……焼きもちのもやもや、なくなってきたんですけど、まだ、くっついててもいいですか?」
「ふっ、もちろん」
 またいつかこの夜のこともマレウス様にからかわれるのだろうなと思いつつも、今はデュースとの甘い夜を楽しむのだった。

*おしまい

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