※ドルパロ(ギャラリーもしくは小説本棚に設定が置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
※時系列:レッスン期間(芸能人寮に引っ越し、シルバーがデュースの部屋に入り浸り始めた頃)
※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、ケイト先輩→ケイトさん、など)
↓以上すべて大丈夫な方はスクロール
「デュース。今日もこのあと、お前の部屋に寄っていいか?」
「はい、大丈夫ですよ。また、今日の振り返りとか反省会ですか?」
「……まあ、そんなところだ」
つい最近、僕はハーツラビュル芸能事務所が持つ芸能人寮のマンションのひと部屋へ引っ越した。アイドルとしてこれから先活動していくなら、ファンやパパラッチみたいな人たちに追われることになるかもしれない、そうしたら家族にも影響が出るかもしれないよとローズハート事務所長に勧められたからだ。同じ理由で、ユニットを組むことになったシルバー先輩もすぐ隣の部屋へ引っ越してきた。だから、僕とシルバー先輩はお隣同士っていうわけだ。だから、会おうと思えばいつでも会えるんだけど、ここのところ、シルバー先輩は毎日のようにこうして帰り際から一緒に居残って、僕の部屋でその日のレッスンのいいところや悪いところの反省だとかを話し合おうとする。次の日にもすぐに事務所やレッスンスタジオで会えるのにも関わらず、だ。
正直、僕はそんな先輩のことを……。
正直、ものすごく尊敬している。意識が高いっていうか、何事にも全力で真面目な人なんだな。せっかく僕を付き合わせてくれてるんだから、負けてらんねえぞ! 僕もシルバー先輩のユニットの相方として釣り合うように、もっと努力しなくちゃな。
そんな風に意気込んでいたら、その日の帰り道、シルバー先輩からこんなことを言われた。
「今日は、反省会の他にも個人的な相談があるのだが、かまわないだろうか?」
「個人的な相談、ですか?」
「ああ。これについては、もし良ければ、なんだが……」
シルバー先輩の相談内容はこうだった。実家に残してきたお父さんと、インターネットなどの通信機器を使って話したい。だけど機械に不慣れで、設営や設定、操作の方法が分からない……と。パソコンの配線とか難しいところは業者の人にセットアップしてもらってるみたいだったし、メッセージアプリの設定くらいなら僕にも分かる。僕は、これを喜んで引き受けた。今はシルバー先輩に助けられてばかりの僕だって、ちょっとでも先輩の役に立っていきたいからな!
「手間をかけてすまないな」
「いえ! これくらい、全然へっちゃらですよ」
シルバー先輩の部屋で、PCの画面を借り、ヘルプページを参照しながらどうにかこうにか設定していく。どうにかひととおり設定できたかな、と思い試しに通話をかけてみると、やがてパッとモニターが明るくなり、画面の向こうに知らない人が映った。
『お? なんじゃ、どこの子じゃ?』
「あ! 映った! 映りましたよ、シルバー先輩!」
傍で待っていたシルバー先輩を呼ぶと、シルバー先輩は近くへやってきて横からモニターを覗き込む。
「ああ、確かに親父殿が映っているな。助かった、ありがとう」
シルバー先輩はモニターに向けて説明をする。
「いきなりすいません、親父殿。俺がこのアプリの設定をよく分からなかったので、ユニットの仲間に助けてもらっていました。……デュース、挨拶するか?」
「いいんですか? ……初めまして、シルバー先輩のお父さん! 僕、デュース・スペードって言います、これからシルバー先輩のユニットの相方としてやっていかせてもらう予定です! よろしくお願いします!!」
『うむ、元気が良くていいことじゃ!』
シルバー先輩のお父さんは画面の向こうで笑う。ちゃんと画面は繋がったし、挨拶もしたし、僕はもういいだろう。あとは親子でゆっくり話してもらうか。
「僕、いったん部屋に戻ってますね。お父さんも、お邪魔しました!」
「ああ、分かった」
『うむ、デュースと言ったか? おぬしも気を付けるんじゃぞ』
部屋に戻り、僕はその後の予定を考える。
「うーん、どうしよっかなあ。反省会するつもりだったけど、シルバー先輩が来るまでは時間空いてるし……」
そうだ、いいことを思いついた。いつもはシルバー先輩、晩御飯の時間になったら帰っちゃうけど、今日は通話のあとなら反省会も遅くなりそうだし……。シルバー先輩を、食事に誘ってみよう。となると、売り切れる前に食材の買い出しにいかなきゃな。
取って置いた近所のスーパーのチラシを見比べる。それから、買い物袋を持っていそいそと玄関を開けた。駅前のスーパーは特に卵が安売りしてるみたいだし、急がなきゃな!
*
『うむ、元気そうで何よりじゃ。それじゃまた、息災での!』
「はい、親父殿。……そちらも、どうかお元気で」
「通話終了」と書かれたボタンを押し、親父殿との通信による会合を無事終了する。親父殿は生活能力がないわけではないが、時に大雑把な人だ。俺がいなくなって家は大丈夫なのかと心配もしていたが、なんとかやっている姿が見られて本当に良かった。設定をしてくれたデュースに、礼をしなければならないな。
近所の店に寄り、いくつかのフレーバーがセットになったアイスを買い込む。今はまだ冷え込む季節だが、期間限定と書いてあるし、確かデュースはこのカップアイスに興味を持っていたはずだ。それも、普通のアイスよりも値段が割高で普段は手が出にくいと言っていたから、ちょっとした礼として買うにはちょうどいいだろう。
マンションへ戻り、デュースの部屋のインターホンを押す。はい、と返事がして、パタパタという足音と共に玄関へデュースが姿を現した。デュースは、エプロンを身に着けていて、部屋の奥からはトマトの良い香りが漂ってくる。調理中だったのだろうか?
「あ、シルバー先輩! 通話終わったんですか?」
「ああ。今回は本当に助かった。だから、礼を持って来た」
今しがた買ってきたばかりのアイスの袋を手渡す。デュースは中身を改めて、わ、いいとこのアイスだ! と喜んだ声をあげた。
「なんかすいません! ありがとうございます、アイス嬉しいな~!!」
「喜んでもらえたのなら、良かった」
「シルバー先輩、上がっていきますよね? 反省会まだでしたし!」
夕餉を作り始めているようだし、今日はもう遅くなってしまったから遠慮しようかと思っていたのだが……。良いのだろうか?
「……いいのか? 既に夕餉も作り始めているようだが……」
「あ、それなんですけど……実は! こっち来てください!」
「分かった、邪魔するぞ」
デュースに迎え入れられるまま、彼の部屋へと向かう。すると、彼の部屋に置かれたちゃぶ台のような小さな机の上には、一組の鍋が用意されていた。トマトの香りは、ここから漂ってきていたらしい。冷凍庫にいそいそとアイスをしまいこんだらしいデュースが得意げな顔で部屋へと入ってくる。
「じゃじゃーん! トマト鍋です!」
「……うまそうだな」
「でしょう!? スーパーでこの鍋のつゆが安く売ってるのを見かけて、これは買いだと思って……!」
楽しそうにデュースは続ける。
「それで、あの……良ければ、なんですけど! ひとりで鍋ってのもなんですし、シルバー先輩、今日は一緒に食べていきませんか?」
「俺も、食べてしまっていいのか?」
「はい! シルバー先輩が今日も来るならと思って、鍋作ろうって買い出しに行ったんで!」
「なら、ありがたくご相伴にあずかるとしよう」
「はは、良かった。タイムセールで食材たくさんゲットしたんで、シメのリゾットまで遠慮なくガンガン食べてくださいね!」
「リゾットは好きだ。嬉しい」
「あはは、良かったです! それじゃ、食べながら反省会と行きましょうか!」
デュースと共に机を囲み、鍋をつつきはじめる。しめじ、えのき、ブロッコリー、キャベツにソーセージ、ホタテにエビ、タラ……。フタが取られた鍋はもくもくと湯気を立てていて、どの具材も赤く色づき、とても旨そうだ。
「好きな具材とかありますか?」
「あえて言うなら、きのこだろうか」
「じゃ、きのこ多めによそいますね! ……はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「それじゃ……いただきます!」
「いただこう」
デュースから皿を受け取り、彼が口にものを運んだのを見て自分も鍋の具をひとつ、炊きたての白米と共に口に運ぶ。ふわりとしたトマトの甘い風味が口の中に広がった。……うまいな。その風味はケチャップやオムライスの味に近くて、小さい子どもなんかは好きそうな味だと思う。なんだかとても久々に、温度と味のある食事を取ったような気がした。食事は通常通り取っていたというのに、おかしなことだ。
「おいし~! やっぱり鍋って誰かと食べてこそ、って感じありますよね!」
「そうだな。親父殿とは初めて離れて暮らしたが、ひとりでの食事は、味気ないことが多い」
「シルバー先輩でも、そういう風に思うことがあるんですね」
デュースの言葉に、俺は一度、箸を置いて答える。
「……ある、どころか……、ここで暮らし始めてから、いつも、味気なさのようなものを感じている。ひとりで部屋にいると、何をしていても、誰もいないことへの空虚さというか……。だから、傍に誰かがいると落ち着く気がして、お前の部屋にも入り浸りがちになってしまっている。いつもすまないな」
「シルバー先輩……」
デュースはもぐもぐと口の中のものを食べながら、少し考えた。そしてごくりと飲み込むと、言った。
「そういうことなら、いくらでも僕の部屋で良ければ寄ってってください! 遠慮もいらないですよ!」
「……いいのか?」
「はい! どうせなら、これからはご飯も一緒に食べちゃいましょう! ひとり分作るより、ふたり分まとめて作った方がお得ですし!」
「本当に、何から何まで……」
すまないな、と言うと、デュースはどんと胸を叩いた。
「いえ! 僕も、母さんの元を離れてホームシックになることあるので、気持ち分かりますし……。それに、せっかく隣の部屋なんて近くにいるのに、シルバー先輩が味気ないご飯を食べてるのは、淋しいですからね!」
淋しい。デュースのその言葉で、ようやく俺は気付いた。ああ、俺は――淋しかったのか。親父殿と離れ、ひとりで暮らしていくことが、淋しくて仕方がなかったのだ。だから、反省会だなんだと理由をつけて、デュースに甘えてしまっていたのだ。
けれど、デュースはそれを受け入れてくれるようだ。俺が淋しいと自分も淋しいから、と、そう言って。再び椀を持ち、鍋のだしを啜る。
……暖かい。暖かくて、それでいて、とても甘く、甘酸っぱい。まるでデュースそのもののようだな、と、淋しさで冷えた心にその家庭的な暖かさが染み渡っていくのをじんわりと感じた。
まだ北風の冷たさが残る、ひとりでは淋しい夜のことだった。
――このとき、デュースに恋心まで暖められていたのだと気付くのは、もう少し後の話で……また、別の話だ。
*おしまい
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