※ドルパロ(ギャラリーに置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
※時系列:ドーム後、交際宣言前
※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、トレイ先輩→トレイさん、など
↓大丈夫な方はスクロールで本文へ
それは、あるなんでも無いはずの日のことだった。今日は仕事は入っておらず、事務所でのレッスンの予定日だ。
僕は朝の身支度を終えて朝食を作り、シルバー先輩を起こしに行く。夢だったドーム公演を終えて以来、僕たち二人は芸能人寮のマンションで一緒に暮らしているけれど、シルバー先輩は眠り病(正式な名前じゃないかもしれないけれど、僕たちはそう呼んでいる)を患ってるのもあって朝にめちゃくちゃ弱いから、朝食作りは自然と僕の担当になった。
「おはようございます、シルバー先輩。朝ですよ!」
シルバー先輩の部屋へ向かい、声をかける。起きない。ベッドサイドに寄って、もう一度起こしてみる。
「シルバー先輩、今日は事務所でレッスンの日です。ローズハート事務所長が首を長くして待ってますよ!」
「ん……」
シルバー先輩の被るシーツをめくり、肩を揺する。すると、なんだかその身体が熱いような気がした。
「……ちょっと失礼しますね」
シルバー先輩と自分の額にそれぞれ手を当て、熱を測る。僕はよく子供体温だと言われるくらいには平熱が高いけれど、シルバー先輩の今の体温はそれよりも熱かった。
「もしかして、風邪か? 今体温計持ってきますね」
急いで取ってきた救急箱から体温計を取り出し、改めてシルバー先輩の体温を測る。そこに書かれた温度は、『38.1℃』。完全に熱がある温度だ。
「どうしよう、この様子じゃレッスンには行けないよな。ええと、まずはローズハート事務所長に連絡しなきゃ」
ひとまず、シルバー先輩の眠るベッドやシーツをキレイに戻し、寝せたままにしておく。それから一応手洗いうがいをし、マスクをした。シルバー先輩からうつったりしたら、気に病ませちゃうからな。
シルバー先輩を起こさないようにとリビングでローズハート事務所長へ通話をかけると、すぐに応答があった。ローズハート事務所長は、僕たちの在籍するハーツラビュル芸能事務所の所長だ。スタッフであるクローバーさんやダイヤモンドさんの話によれば、ローズハート事務所長はかなり厳しい人だけど、なんだかんだで事務所の仲間には甘いところもある、らしい。僕は不良だったせいで入所時にローズハート事務所長とモメたから最初は少し苦手だったけど、何度も仕事でお世話になった今はそんなこともなく、むしろ感謝すらしている。
『おはよう、デュース。キミから連絡があるなんて珍しいね、一体朝からどうしたんだい』
「おはようございます、ローズハート事務所長。実は、僕はなんともないんですけど、シルバー先輩が熱を出しちゃったみたいで、起き上がれもしないみたいなんです。だから、今日のレッスンへの参加は難しそうで……」
『風邪だって? ひどいのかい』
「今のところ、熱が出てて、ちょっと苦しそうですけどずっと寝てはいます。僕で良ければ病院に連れてくことも出来ますけど、どうしましょうか?」
『そうだね……。今後の予定含めてトレイたちと話し合うから、少し待っていてくれるかな。すぐに折り返すよ』
一度通話を切り、リビングで少し待つ。あの様子じゃ、作った朝食は少なくともすぐには食べられなさそうだなとシルバー先輩のぶんにはラップをかけて冷蔵庫にしまっておいた。そして、自分の分を手早く食べて片付けてしまう。
すると、ちょうど片付けきったところでローズハート事務所長から折り返しの通話がかかってきた。
「はい、スペードです」
『デュース、あれから少し話したのだけれどね。今日は事務所でのレッスン予定だったから、それについてはシルバーは欠席ということで構わない。あとは病状にもよるけれど、キミたち二人での仕事は今日を含めず2日程度スケジュールをずらして予備日に仕事を回してもらうから、その間に治すように伝えてくれるかな。キミの方は明日明後日に関しては単体での仕事だけ出てくれればいい。今日中には調整したスケジュールを共有するよ』
「分かりました」
『あとはトレイが車を出してキミたちを病院へ連れていくそうだから、キミもその車に乗っていったん事務所へ来てくれるかな。シルバーが病院で診察を受けている間だけ、事務所でレッスンを受けてくれればいい。帰りは早く抜けて一緒に帰ってかまわないよ』
「いいんですか?」
『いいというよりは、お願いだね。普段ならともかく、弱ったシルバーのことだから、多少病状が悪くても仕事に穴を開けたくないと言って無理して顔を出しそうだ。そこを、出来るだけキミが止めておいてくれ』
「分かりました。できるだけのことはします」
『ああ、頼んだよ。それじゃトレイをすぐに向かわせるから、また後で』
ローズハート事務所長との通話を終わり、シルバー先輩の元へ向かう。ベッドサイドへ寄り添って、シルバー先輩に声をかける。
「シルバー先輩、身体起こせますか?」
「……デュース……?」
「あ、起きてますね。僕の言ってること分かりますか?」
「……ああ」
シルバー先輩はゆっくりと身体を起こす。どうにも見るからに身体がけだるいようで、額を重そうに抑えていた。
「先輩、熱出してるんですよ。ローズハート事務所長が、今日は病院に行って休むように、って。もうすぐトレイさんが迎えに来ますから」
「……レッスンは……」
「シルバー先輩は今日から3日間はお休みだそうです」
シルバー先輩は黙り込む。不満そうにされても、もうスケジュールの調整も始まっちゃってるだろうしな。
「ちゃんと言いつけ通り病院に行って、しっかり休んで、いちばん早く治しましょう?」
「……俺は子どもじゃない、それくらい分かっている」
言い聞かせるように言うと、なんだか拗ねた様子のシルバー先輩に、そうですかと笑って返す。
「クローバーさんが病院に連れてってくれるそうです。着替えられますか?」
「問題、ない」
シルバー先輩は少しふらつきながらもどうにかクローゼットの前まで行き、着替え始める。
「マスクはつけられますか? 息苦しくないですか?」
「大丈夫、だ」
それから二人でソファに座りクローバーさんの迎えを待っていると、やがて部屋のチャイムが鳴った。玄関を開ければ、やはりマスクをした姿のクローバーさんが立っている。
「や、待たせたな」
「クローバーさん、待ってました。今シルバー先輩連れてきますね」
ソファでぐったりしているシルバー先輩に声をかけ、身体を支える。
「シルバー先輩、クローバーさん来ましたよ。車乗りましょう」
「……ひとりで歩ける」
シルバー先輩はやはりちょっとふらついているけど、それなりにしっかりした足取りで玄関へと進んでいく。
「……トレイさん、今日はすまない……」
「はは、そういう堅苦しいのは元気になってからでいいよ。さ、車まで行こう。忘れ物は無いな?」
「えっと……、シルバー先輩の鞄持ってきました! 確かこれにいつも保険証とか財布入ってますよね?」
「ああ……ありがとう」
シルバー先輩は僕から鞄を受け取ると、エレベーターの方へ向かっていく。僕も玄関に鍵をかけて、二人を追っていった。
「それじゃあデュースはここでいったんお別れだな」
「はい」
事務所へ連れられ、車を降りる。クローバーさんが別れ際に窓を開けてくれたので、シルバー先輩にもう一度声をかけた。
「診察、ちゃんと受けてくださいね」
「ああ……分かってる」
「それじゃ、また、あとで……」
事務所へ行こうとすると、呼び止められた。
「デュース」
「はい、なんですか?」
振り向くと、シルバー先輩はなんだか気まずそうに目を逸らした。どうしたんだろう? 僕、何か変だったかな。
「いや……なんでもない。すぐ、戻るんだろう」
「はい、病院が終わったらまた一緒に帰りますよ」
「分かった、それじゃあ、また後で」
「はい、お気を付けて」
シルバー先輩とクローバーさんの乗る車を見送り、事務所へ向かい、レッスン室へ入る。
すると、自称先輩アイドルのエースが声をかけてきた。なぜ自称なのかというと、コイツは確かに僕とシルバー先輩より先にハーツラビュル芸能事務所へ入所したのだが、それがたったの3日違いでしかないからだ。それ、ほぼ同期だろ! ……と、僕は思っているんだが、エースは自分が先輩アイドルだと思っていて、譲らないんだ。特に僕には。
まあ、シルバー先輩のことは年上だからか敬ってるみたいだし、それはいいんだけどな。
「シルバー先輩、風邪だって? 大変じゃん」
「ああ、そうなんだ。朝からすごい熱があって……今もちょっと心配でいる。先輩、ちゃんとお医者さんにかかれたかな……」
「大丈夫でしょ、先輩かなりしっかりした人だし。それよりデュースくんの方が心配じゃない? 先輩なしでちゃんとやれんの? オレはソロでも全然イケてるけど!」
「バカにするなよ、エース。僕だって最近はソロでの仕事も増えてきたんだ!」
「キミたちは揃うと本当にやかましいね。さあ、今日はデュースも早引けだし、時間が惜しい。さっさとレッスンを始めるよ! 返事は!?」
「「はい、事務所長!」」
そして、クローバーさんからシルバー先輩の診察が終わったという連絡が来るまで、僕はローズハート事務所長直々にみっちりしごかれたのたった。
「今日のレッスンもめちゃくちゃ厳しかったです……」
「悪いな。リドルがああ厳しいのは、期待の裏返しってとこもある。お前ならやれると思われてるんだよ」
病院からの帰り道、予定通り事務所に寄って僕を拾ってくれたクローバーさんの車に乗って、芸能人寮へと帰る。診察結果はやはり風邪だそうで、いくつか薬をもらってきたみたいだ。道中、シルバー先輩がこてんと僕の方に頭をもたれてくる。
「シルバー先輩、大丈夫ですか?」
「……大丈夫、だが……」
「気分が悪いなら車を止めるから、早めに正直に言ってくれよ」
「……気分は、悪くない」
もしかしてシルバー先輩、ちょっと甘えたいのかな、となんとなく思う。けれど、口に出したら恥ずかしがってまた無理をしそうな気がしたので、何も言わずに肩を貸しておいた。
やがて芸能人寮の駐車場へたどり着く。
「それじゃ、俺はここまでだな。ゆっくり休むんだぞ?」
「クローバーさん、ありがとうございました!」
「……ありがとう、ございました」
クローバーさんに別れを告げ、シルバー先輩を芸能人寮の部屋へ連れていく。玄関の鍵を開け、ひとまずベッドへ連れていこうとしたら、抵抗されてしまった。
「もう、ちゃんとベッドで寝なきゃダメですよ」
「……お前は、この後どうするんだ?」
「えーっと、まず薬飲んでもらわなきゃだから、とりあえずご飯作ります。リゾット好きでしたよね?」
「なら……、出来るまでは、ソファにいる」
「大丈夫なんですか?」
「……薬を飲んだら、ちゃんと寝る」
仕方ないな、とシルバー先輩をソファに横たえ、キッチンへ急ぐ。今日のシルバー先輩は珍しく聞き分けがなく、甘えん坊だ。やっぱり風邪で弱ってるからなのかな、なんて思いながら僕はシルバー先輩の好きなきのこのリゾットを作り始めた。
「できましたよ、シルバー先輩」
「……ん……」
どうやら半分眠りかかっていたようで、シルバー先輩は目を擦って起き上がる。
「食べられそうですか?」
「……うまそうだ」
匂いにつられたのか、シルバー先輩はリゾットをひとさじすくい、口に運ぶ。
「うまい」
「良かったです。ちょっと味薄いかなって思ったんですけど、風邪の時はこれくらいがちょうどいいですよね」
シルバー先輩が食べている間、調理に使った鍋や食器を片付けようと立ち上がる。すると、シルバー先輩がじっとこっちを見ているのに気付いた。
「キッチンの食器片付けてきますね」
「……ああ」
ふい、とシルバー先輩は僕から視線を外す。なんだろう? 病院に行く車に乗ったときもだったけど、僕に何か言いたいことでもあるのかな。
ざぶざぶと鍋やレードルを洗ってシルバー先輩の元へ戻ると、リゾットを食べ終えたシルバー先輩が薬を取り出しているところだった。
「ちゃんと、飲んでいるぞ」
「はい、見てます」
僕が見ていることに気づいたシルバー先輩がそんなことを主張してくる。そんなにシルバー先輩を子ども扱いしてるように見えたかな、僕。
「あ、食器は僕が片付けるからそのままでいいですよ」
「……何から何まで、すまない」
薬を飲み終えたシルバー先輩が、部屋へ戻ろうと立ち上がる。ドアを開けて部屋へ戻ろうとしたとき、またシルバー先輩は僕を振り返ってじっと見た。
「………………」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。……おやすみ」
なんだろう。僕はシルバー先輩の後ろ姿を見送りながら、ひとまず食べ終えた食器類を片付ける。
洗い物をしながらなんだろうなと考え続けていたら、あることに思い至った。もしかして、シルバー先輩、淋しいのかな。風邪の時は心細くなるって言うし……。でも、僕にうつしたくないとか、恥ずかしいとかで正直に言えないのかも。
そう思うと、なんだか居ても立ってもいられなくなり、僕は少しだけ出かける準備をした。
*
「………………」
不甲斐ない。ひとりベッドの中で、反省をする。体調管理には気を配っていたはずだが、どこかで風邪をもらってきてしまったらしい。お陰で仕事先や世話になっている事務所にも迷惑をかけてしまった。
しかし、引いてしまったものは仕方がない。医者にかかり薬を飲み、安静にして最短で治すのがこれ以上迷惑をかけない方法だと頭では分かっている。
分かってはいるが、何故だかとても、ひとりになると心細く感じて休めずにいた。いつもは不必要なほど眠気が来ると言うのに、皮肉なものだ。それに、デュースには朝からずっと、事務所への連絡や、食事の世話まで何から何まで面倒をかけているのに、それでもまだデュースがどこかへ行こうとすると俺の口は彼を引き留めようとする。なんて、甘えた根性だ。我ながら情けない。
ガチャリという音がして、誰かが部屋を出ていく気配がする。どうやらデュースが部屋を出ていったらしい。本当に、今生活している家の中に誰もいない。そう思うとまた物悲しくなって、余計に眠れないような感じがした。
そのまま時計の針をただぼうと見つめ続けて、15分くらいが経った頃だろうか。ガチャリとまた玄関の開く音がして、ただいまと響く声でデュースが帰ってきたのが分かる。
すると不思議なもので、体に入っていた妙な力が抜け、うとうととした眠気が来るのを感じた。
「シルバー先輩? 寝てるかな」
デュースが、部屋を覗いている気配がする。
「デュー、ス……」
しかし、俺の身体は今度こそ眠気には抗えなかった。
*
「シルバー先輩、今眠っちゃったみたいだな」
ベッドサイドのテーブルに、買ってきたばかりのゼリー飲料やペットボトルを並べる。もし喉が渇いたりしても、すぐに栄養を補給できるようにと買ってきたものだ。
それから、もうひとつ。走って最寄りの雑貨店に行き、買ってきたものをシルバー先輩の眠る枕元に並べた。
「僕、ちょっとご飯食べてきますけど、コイツを代わりに置いてきますから、淋しくないですからね」
そう声をかけて、一緒に買ってきた自分の昼食を取ろうとキッチンへ向かう。その背後でシルバー先輩が虚ろに目を開けていたのは、僕の知らないことだった。
*
わずかに眠れていた気がするが、またすぐに起きてしまった。なぜ、病気の体というのはこうもままならないのだろうか。
眠っている間にデュースが来ていたようで、枕元にはゼリー飲料やペットボトルの類が置いてある。ありがたい。今朝からずっと、身体が重くだるいままなんだ。
視界の端に映る違和感に、ふと目を動かすと、目の前が黄色くふわふわしたもので埋め尽くされた。……なんだこれは?
それを掴んでよく見ると、どうやら手のひらサイズのヒヨコのぬいぐるみのようだった。
なんの意図かは分からないが、デュースが置いていったものらしい。
だが、不思議とそのヒヨコを見ていると、なんとなく傍にデュースがいるのと変わらないような心地がして、また今度はぐっすりと眠れる気がした。
*
昼食を食べ終え、シルバー先輩の様子を見る。あまり騒いで起こしたりしてもいけないし、部屋に入り浸って風邪がうつっても良くないから、ちょっとだけだけど。
そうしたら、僕のいない間に少しだけ起きていたみたいで、僕の置いていったヒヨコのぬいぐるみをしっかりと右手に掴み、顔に抱き寄せるようにしてシルバー先輩は眠っていた。良かった、効果あったみたいだな。
小さい頃、風邪を引いたとき、母さんがいないのは淋しいと泣いていたら、母さんはよくウサギやヒヨコのぬいぐるみを持たせてくれたんだ。
やっぱりシルバー先輩、ちょっと淋しかったんだな。元々、ひとりでいるのには慣れていないからって言って、一人暮らしのときにも僕の部屋に入り浸っていた人だ。風邪を引いた時なんか、なおさらひとりになったことは無かったんだろう。
根はけっこう甘えん坊なのに、いつも自分に厳しくて甘え方を知らないシルバー先輩だから、こんなときくらいは素直になってくれてもいいのにと思う。
でも、今日は甘えてくれた方かな? よく考えたら、車の中でも僕の肩にもたれてくれたし、リゾットが出来るまではソファにいたいってわがまま言ってたし。
そう思うと、僕もシルバー先輩の淋しさを埋められるような存在になれてるんだなって、ちょっとシルバー先輩には悪いけど嬉しく思う。……僕がいなくて淋しがるシルバー先輩、なんだか可愛かったしな。
「おやすみ、シルバー先輩」
シルバー先輩が、静かな寝息を立てているのを確認して、音を立てないようにとドアをそっと静かに閉める。
シルバー先輩が元気になったら、きっと僕にいっぱい甘えたことを恥ずかしがるだろうから、そのときはなんて言ってあげたらいいのかな、なんてことを考えながら、今はひとり、シルバー先輩の快復を待つばかりだった。
*おしまい
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