脳筋探偵シルバーの事件簿:ファイル01「王立探偵リドル・ローズハート就任事件」

*脳筋探偵シルバー×助手デュースのパロディ作品です。
*前作『脳筋探偵シルバーの事件簿:ファイル00「トラッポラ家ケーキ盗難事件」』を読んでないと意味が分かりません。読んでいたら意味が分かると思わないでください。
*相変わらず、何かを考えて読んではいけません。何も考えずに読んでください。考えたら負けです。なんでも許せる人向け。
 
 
以上大丈夫な方はスクロール↓
 
 
 
 
 
 
 ボクの名前は、リドル・ローズハート。探偵だ。とは言っても、そんじょそこらの勝手に名乗っているだけの私立探偵とは違うよ。
 王立の探偵として、公的な免許証だって戴いているんだ。まあこの街に来る際、もういらないだろうと剥奪されたのだけど。
 ……だから今は、ただの私立探偵のうちのひとりだ。まあ、それはいい。覚悟の上だ。
 ボクが今いるここは、ベイカー街。これからボクが、たったひとりの私立探偵として暮らしていくことになった街だ。
 この街には、謎がある。それは、この街にはやたらと探偵、あとついでにパン屋が集まっていること。
 普通に考えて、探偵とパン屋しかいない、そんな街があるはずがない。
 だからボクはこう考えた。彼らは探偵やパン屋という仮面を被り、集って悪事を働いているのではないか、と。
 そう睨んだボクは、探偵ギルドの上層部に掛け合った。
『ボクは思うんです!! あの街には、きっと、何か、謎がある!! ボクはその真実を掴みたい!! 必ず、真相を明らかにしてみせます!! ボクをあの街に行かせてください!!』
『あの街に行った探偵は、誰しも、二度と帰ってこない。……それでも?』
『ええ。……行かせてください。この難事件、ボクが絶対に解決してみせます!』
『……残念だよ、ローズハートくん。君ならもっと、上に行けると思っていたのに』
 そうして、ボクは単身、この街の探偵ギルドのまとめ人として、赴任することになった。
 
 駅に着き、汽車を降りる。この街の探偵ギルドに登録されている探偵の誰かが、ボクを案内してくれるはずだ。
 汽車の中で確認した書類によると、探偵助手ふたりと、探偵ひとりがボクを迎えに来てくれるらしい。
 確か――
「おや? もしかして貴方、王立探偵のリドル・ローズハートさんでは?」
「ああ、そうだよ。今は王立探偵ではなく私立だけど――キミが、ボクの案内人?」
 そう言って振り向くと、そこに立っていたのは。事前に貰っていた書類と、全然違う人物だった。
「いえ、違います。こんにちは。貴方の案内をされる方々なら、あちらで仲良く騒いでいらっしゃいますよ」
「え、うん。ありがとう。ところでじゃあ、キミは誰? ボクに何の用事?」
「僕はジェイドです。以後、お見知りおきを。特に貴方に向けて、これといった用事は何ひとつありません。それでは、失礼しますね」
「あ、ああ、うん。さようなら」
 ……え、今の誰? 何? なんで用事がないのにボクに声をかけてきたの? 混乱している内に、ジェイドは去った。
 気を取り直して、駅を出る。……なんだか汽車を降りた瞬間、よく分からない出来事に遭ったな。この街の独特の洗礼か……?
 それとも、悪の集団からボクへの牽制なのだろうか……? そう考えていると、ボクのことを指さす青年が見えた。
「あ! あの人じゃないですか!? この写真に似た、赤毛の人ですよ!」
「おお! どうやらそのようだな!! よくやったぞデュース、手柄ではないか!」
「ふっ。可愛い上に役にも立つなんて、お前は本当に良い子だな、デュース。あとで褒美をやらなくては」
 なんだか騒がしい一団がボクのことを指差している。まさかあの一味じゃないだろうな、ボクの案内人って。
 事前に貰った書類に書かれていた写真と、それぞれの様相は一致しているけれど。騒がしいのは好きじゃないよ。
 銀髪の男がボクに近づいてきて、一礼をする。ふうん、まあ辺境の街の探偵でも、最低限の礼儀はなっているようだね。
「失礼。貴方が今回新しく赴任してきた、探偵ギルドのまとめ人、リドル・ローズハートだろうか」
 どうやらこの賑やかな一団は、本当にボクの案内人だったらしい。銀髪の青年に、群青の髪の青年。それから、黄緑の髪をした大きな青年の3人組が、一気にボクを取り囲んだ。なんなんだい、これ。新しくクラスに来た転校生じゃあるまいし、そう楽しそうに囲まないでもらえるかな。影がかかって圧が凄いよ。距離が近い、少し離れろ。おしくらまんじゅうをしてくる勢いの3人からそれとなく距離を置いて、ボクは答える。
「ああ、そうだよ。ボクがリドル・ローズハートだ、こんにちは」
「はいっ、こんにちは! ローズハートさん! お待ちしてました! 僕は、デュース・スペードです! シルバー先生によると、僕は可愛いの仕事を担当しているらしいです!」
「ああ、『真剣解決(しんけんかいけつ)・ヴァンルージュ探偵事務所』の探偵助手のデュースだね、聞いているよ。何、可愛い担当って。そして自分で仕事内容は把握しきれていないのかな?」
 とりあえずどうぞよろしく、と握手しようとしたとき。シルバーがボクを止める。
「待て、リドル。名前が違う」
「名前? 事前に貰った書類と、顔と名前、特徴もすべて合っているようだけれど……まさか、偽物なのかい!?」
「違う。デュースは偽物ではない。この可愛さは本物にしか出せないから、俺には分かる。違うのは、俺たちの探偵事務所の名前だ。『しんけんかいけつ』ではなく、『マジでかいけつ』と読む。覚えておいてくれ」
「……あ、ああ、そう。そうなんだ。分かった、覚えておくよ……呼ぶかどうかは、別として」
「ぜひ、気軽に呼んでくれ。開業の際、デュースにたくさん考えてつけてもらった大事な名だから、大切にしているんだ」
「長くて呼びにくいときは、『マジ決(まじけつ)』って呼んでもらってもかまわないですっ!」
「ねえキミたち、もしかしてさっきからボクをからかってる? それとも、ふざけているの?」
 そう尋ねると、緑の男――確か、セベク・ジグボルトだったね。彼が言った。
「リドル探偵。混乱する気持ちは分かりますが、コイツらは生憎、ふざけていません。コイツらの言っていることは、すべて真実です。僕はコイツらの幼馴染だから分かるのですが、コイツらは昔から、根っからずっと! こうなのです。天然というか、人の話を聞いていないというか、我が道を往くというか、なんというか……!!」
「ああ、そう。……キミは、探偵助手のセベクか。キミは比較的まともそうだね。所属している事務所の名前以外は」
 セベクのことが記されていた書類のことを思い出す。確かあの事務所の名前は、
「なんだと貴様!? 若様がお決めになった『王立がおがおドラコニア探偵事務所』の何が不満だ!?」
「『がおがお』の部分かな!! 王立の探偵事務所のひとつが、どうして保育園みたいな名前をしているんだい!!」
「若様のお気に召したオモチャの名前から取ってあるのだ!! 親しみやすかろう!! 若様の威厳がありすぎて客が怯えてしまい、依頼が来ないから親しみが出るようにと若様が自ら改名なさったのだ!! 文句は言わせんぞ!!」
 彼は常識人かなと思ったけど、この様子だとダメみたいだな。まあ、いい。私立探偵なんて奇人変人の集まりだよね、うん。
 この街には数多くの探偵が集まっているんだ、彼らくらい変なのもいるさ、たまには。ボクの案内人には選ばないでほしかったけど。
「改めて、俺は『真剣解決(マジでかいけつ)・ヴァンルージュ探偵事務所』の責任者である、探偵シルバー・ヴァンルージュだ。シルバー、と気軽に呼んでくれ。今日はここにいる俺たち3人が、新しく赴任してきたばかりのお前にこの街を案内する。もし荷物を持って歩くのが面倒だったら、鍛錬代わりに俺が持つから、いつでも言ってくれ。というか、ぜひ持たせてくれ。手元が軽いと落ち着かない。もし自分で荷物を持ちたい場合は、俺が代わりにダンベルかデュースを持つことがあるが、許してくれるとありがたい」
「荷物は自分で持つ主義なのだけれど……というか、当然のように悪目立ちしそうなことを提案しないでくれるかな? まあ、いいよ。キミたち、悪人ではなさそうだしね。荷物、頼んだよシルバー。じゃないと奇行に走りそうだし。あとはキミたちも! 道案内、よろしく頼むよ。……まともにね」
「はいっ! 任せてくださいっ!!」
 そうしてデュースに手を引かれ、『ベイカー街案内』珍道中は始まった。
 
「ではまず、この街の全体を紹介しよう。街の名前、ベイカー街の由来だが」
「ああ。聞かなくても分かるよ。かつて小説の中でのみ存在した、有名な探偵の住んでいた街の名前を真似たのだろう? まったく……」
「いや、違う。この街には見ての通り、パン屋がたくさんあるだろう。だから、『ベイカー街』と名付けられた」
「そんなことある!? あとこの商店街、本当にさっきからどこまで行っても街並みにパン屋しかないのはどういう了見なのかな!? いくらパン屋が多いとあっても、せいぜい4~5軒程度がいいところだろうと思っていたのだけれど!? この通りを見るだけで、軽く10軒はあるじゃないか!!」
「うちの街の名物『パン屋通り』だ。凄いだろう」
「そこは『ベイカー・ストリート』じゃないのかい!? ベイカー街にあやかるなら最後まできちんとあやかりなよ!!」
「僕はあの3軒目の『開祖・トゥルーベーカリー1号店』のチョココロネが好きです!」
「僕のオススメは、こちらの角にある『パン屋・宗家家元』のフレンチトーストだ! とても甘くてボリュームがある!」
「そ、そう。皆お気に入りのパン屋っていうか、好みのパンがあるんだね。あとパン屋の名前は何、それは。どっちっていうかどの店が正しい起源なの? ボクの目の前の店には『はじまりのパン屋さん』って書いてあるんだけど。他にも『パンの総本山』とかちらちら見えるんだけど」
「自分なりの推しのパン屋を作ることも、この街の楽しみ方のひとつだ。ああ、そうだ、パン屋といえば、リドル」
「パン屋についての疑問は無視かい? なんだい?」
 道を往くシルバーの言葉に答える。一応、話は聞くべきだ。何故なら、パン屋の情報についても調べておきたい。悪党の隠れ蓑じゃないのかを知るために。
「俺は午後から、新しくできるパン屋『新・元祖パン屋』と『ブーランジェリー・パイオニア』の建設工事を手伝う依頼が入っているので、いったん抜けることになる」
「これ以上まだパン屋を増やすのかい!? しかも2軒も!? パン屋以外を建てなよ!! あと元祖と新で矛盾するな!! あとから建ててるソイツらは確実に元祖でもパイオニアでもないだろ!!」
 思わず全部の要素にツッコミを入れてしまうと、シルバーはおお、とぱちぱち手を叩いて拍手した。慌ててデュースもそれに倣う。何? 可愛い担当の仕事? 若干癒された自分が嫌になる。
「……観察力が鋭いのだな!」
「適当にまとめないでくれるかな!?」
 そうして、ボクは本当にパン屋しかない街並みを抜けた。
 パン屋通りを抜けると、今度は探偵事務所がやたらと並んでいた。
「ああ、本当にパン屋と探偵しかいないんだねこの街……」
 半ば諦めの極致になりかけたところで、ボクは指さし尋ねる。
「あそこがキミたちの事務所? 『ヴァンルージュ探偵事務所』って看板がかかっているようだけど」
「違う。よく見ろ。あれは『元祖・発祥・本家本元ヴァンルージュ探偵事務所』の方だ」
「なんでヴァンルージュ探偵事務所がふたつも同じ街にあるんだい!! あと何、この街には必ず起源を主張するルールでもあるの!?」
「そんなルールはない。ヴァンルージュ探偵事務所がふたつあるのは、俺の親父殿が開いているのがあちらの『元祖・発祥・本家本元ヴァンルージュ探偵事務所』で。その後独立した俺が開いたのがうちの『真剣解決(マジでかいけつ)・ヴァンルージュ探偵事務所』だからだ」
「お父さんと被るなら名前変えようとか思わなかった?」
「デュースが考えてくれたものを無碍にはできない。それに、俺たちが独立して探偵を始めるとき、親父殿も一緒に開業すると仰ったので、開業するまで名前が被っていることは分からなかった」
「この街どうなってるんだい? 主に常識とか」
「そんなもの期待するだけ無駄だぞ!」
 何故か偉そうなセベクに、ボクは呆れた溜め息をつく。本当に何、この街? ここだけ世界が捻じれ狂ってるよ。まるでワンダーランドじゃないか、と思いつつも。理由や世界観はどうあれ、任された仕事はきちんとこなすべきだ、と思い直す。
「街の中心へ近づいてきたね。そろそろ、探偵ギルドに着くのかな」
「ああ。あそこが探偵ギルドだ」
 そう言われて、指さされた先を見る。良かった。探偵ギルドは普通のビルだ。訳の分からないものや、元々パン屋だった建物、あるいはパン屋そのものが飛び出してくるんじゃないかと少し焦ったよ。
 そうしてギルドの建物内に入る。中は少し埃っぽいな。あとで掃除しなくてはならなさそうだ。
「ああ、荷物はそこら辺に置いておいて。案内ありがとう。助かったよ」
「ああ、こちらこそありがとう、リドル。これから同じ探偵の仲間として、よろしく頼む」
「……こちらこそ、よろしく。今日は世話になったね」
 と、シルバーの差し出した手を握り返し、別れの挨拶をしようとする。
 その瞬間に。
「ここにいたのか、マジ決!! 事件だぞ!! あっ、ジグボルトの坊もいるじゃねえか!! お前も来い!」
「何!?」
 誰かがシルバーたちを呼びに来たみたいだ。
「ボクもついていくよ。事件とあっては黙っていられない!」
「本当かリドル、長旅で疲れているのにすまないな。恩に着るぞ!」
「事件の解決は一刻一秒を争います、急ぎましょう!!」
 そうしてボクたちが走って向かった先の現場では。
「あのチビの猫、木から下ろしてやってくれよ。木に登ったまま降りられなくなってるんだ、マジ決これ得意だろ?」
「あとジグ坊とシル坊はこのまま工事手伝っていけな! デュースもやってくか?」
「はい! 僕も力には自信あるので! 工事お手伝いします!」
「すまない、遅れていたか。案内が済んだらすぐに来るつもりだったのだが」
「むっ、本当だ。もう工事の開始時間になっているな。遅れてすまなかったな! どの資材を運べばいい?」
 子猫を木から降ろし、工事現場を手伝い始めたシルバーたちを見て、ボクは言葉を失う。
「え、何、これ?」
「見ての通り、事件だ。子猫が木に登って降りられなくなった。ふっ、デュースのようで可愛らしいな」
「僕は木からちゃんと降りられますっ! 子猫よりすごいですっ!!」
「……緊急の事件は?」
「緊急だろう。子猫が木から降りられないんだぞ? 大変な大事件だ!」
「………………悪の軍団とか、テロリスト集団とか、宗教組織は? パン屋と探偵を隠れ蓑にして、悪事を企んでいるんじゃないの?」
「そうした陰謀論にハマるのは良くないと思うぞ、リドル探偵。触れるにしても程々にしておくべきだ」
 そう言われて、ボクは。……自分がとんでもない間違いを犯したことに、気づき始めた。
「この街って、もしかして、ただの、パン屋と探偵が多いだけの、平和な街、なの……?」
「だから、最初からそう言ってるだろう。『パン屋が多いからベイカー街』だと」
「探偵が多いのは、『ベイカー街なら探偵もいないと!』って思った探偵がたくさん集まってきただけですっ!!」
「ふっ。みな、考えることは同じというわけだな」
 そんなことを口々に話す彼らに、ボクは叫ぶ。
「そ、そんな馬鹿ばっかりなワケあってたまるか……!! 絶対にだ、絶対に……!! ボクはこの街に隠された謎、解き明かしてやるからな!!!?」
「そうか、頑張れ! 応援しているぞ!!」
「それなら今度、この街の七不思議教えてあげますね!!」
「そ、そうだ! 七不思議といえば、この街に行った探偵は、誰ひとり帰ってこないって……!!」
「ああ。それはだな。このベイカー街は街づくりの一環として、探偵業に対する補助や保障、依頼や生活のシステムが行き届いていてな。探偵にとってはまたとなく暮らしやすい街で、誰も自分から出て行かんのだ! なので普通に引っ越せるぞ」
「……そう……」
 セベクの言葉に、最後の希望も打ち砕かれ。あれだけ啖呵を切ったのに、何の成果もなく、手ぶらで王都へと逃げ帰るわけにもいかず。
 こうしてボクは、この『ベイカー街』に赴き、帰ってこない探偵のひとりになったのだった。
「別にいいだろう、リドル。事件なんて起こらない方がいいんだから」
「仮にも探偵がそれを言うかな!?」
 
*おしまい

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