脳筋探偵シルバーの事件簿:ファイル00「トラッポラ家ケーキ盗難事件」

*脳筋探偵シルバー×助手デュースのパロディ作品です。
*探偵ものですが、考えて読んではいけません。何も考えずに読んでください。考えたら負けです。
*一発ネタだと思ってやりたい放題です。なんでも許せる人向け。
*ものは試しにと思って書きたいとこだけ好き勝手に書いたので、裏設定とか続きとか何も考えていません。
 
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 オレの名前は、エース。そしてここはオレの住む街、ベイカー街。
 なんかどこぞの有名な探偵が住んでいた街の名前と似ているが、うちの街は違う。
 『街並みにパン屋さんが多いから』という理由で、baker(ベイカー)街と呼ばれるようになっただけの街だ。
 そんなことはどうでもいい。この、探偵が多すぎて事件が基本爆速解決し、依頼人が取り合いになっているこの街で、今、オレは。
 ……ひとつの探偵事務所の前に、立っていた。
 探偵事務所の名前は、『真剣解決・ヴァンルージュ探偵事務所』。この街にしては、まあまあ普通めの名前だ。
 
 この探偵事務所を選んだ理由は、ひとつだ。家から近くて、依頼料がいちばん安かったから。
 真剣な面持ちで、オレは探偵事務所の扉をノックする。
「すいませーん! やってますー?」
「あっハイ、今出まーす!」
 そうして出てきた男は、群青の短髪を揺らした男で。
「アンタが『名探偵シルバー・ヴァンルージュ』?」
「いや、僕は違う! もしかして依頼人か? 先生は中にいる、入ってくれ!」
 招かれるままに、探偵事務所の中に入る。すると、来客用の応接ソファの反対側で。
「……ぐう」
 ソイツは眠っていた。
「先生っ! 起きてくださいっ、依頼人ですっ!!」
「ん、デュース……? さっきあんなに可愛がってやったのに、もう可愛がってほしいのか、仕方ないな……よしよし……」
「ち、違います、依頼人ですっ!! お仕事ですっ、先生っ!!」
 何を見せられてるんだオレは、と思いつつ、助手っぽい誰かとイチャつきながら起きる探偵をオレは睨む。
「おシゴトですよー、探偵先生。話聞いてもらえます?」
「ん……ああ。分かった。今、聞く。だがその前に、まずは自己紹介をしよう。俺は、この事務所の責任者……。探偵、シルバー・ヴァンルージュだ」
「はいはい、名前は聞いたことありますよ。そっちの青いのは、助手?」
「ああ。紹介する。こちらは俺の助手であるデュースだ。主な仕事は、可愛いをしている。傍にいると俺のやる気が上がる、俺の癒しだ」
「僕としては真面目に働いています! 主な仕事は先生の生活面のお世話ですが、先生普通に生活面がしっかりしているので、僕のやることがなくて、仕方なく可愛い担当に甘んじています! そっちはあんまりできていませんが、よろしくお願いします!」
「な、可愛いだろ?」
「アホなの?」
 思わず出たツッコミはさておいて、まあ依頼さえ解決してくれりゃどんな奇人変人どもでもいいや、この街、探偵とパン屋しかいないせいでそんなんばっかりだし、とオレは本題に入る。
「依頼なんだけど! 実はさあ、オレの大事に取っておいた、超楽しみにしてたケーキがつまみ食いされてたんだけど! 見てこれ!」
 証拠として、つまみ食いされたケーキの写真を取り出す。
「こういうことだから、犯人探してくんない?」
 そう言うと、探偵はふむ、と興味深そうに写真を見つめた。
「ふむ。このケーキは……どこのものか分かるか、デュース。甘いもの好きだろ」
「はい! 最近できた商店街にある『パティスリー・クローバー』の限定ケーキだと思います!」
「じゃあ俺たちが今からそれを買ってくるから、犯人のことは勘弁してあげなさい」
「なんでだよ! ケーキの補填じゃなくて犯人探せっつってんのオレは!」
「いいか。君が本当に欲しいのは、ケーキを食べた犯人に仕返しすることじゃない。失われたケーキへのわくわくを取り戻すことだ。なので、俺たちがこれから買ってくる」
「いやこれ朝4時から並んでようやく買えた限定の特注ケーキだよ!?」
「じゃあオレたちも同じケーキを注文して、明日の朝4時から並ぼう。自慢じゃないが俺は朝が弱いので、寝袋を持ち込む。大丈夫だ、身体は鍛えている。風邪は引かない」
「別に誰も心配してませんけど!?」
「じゃあお前は同じケーキが手に入らなくてもいいって言うのかよ!? 犯人とケーキ、どっちが大事なんだ!?」
 助手にすごまれ、オレは答える。
「……ケーキですけど!」と。
 
 そういうわけで明日、ケーキを買い直すことで決着がついたので、その日はお開きになった。
 だけどオレは、帰り際に探偵助手から言われた一言が、まだ気になっていた。
『ああ、そうそう。僕たちの探偵事務所の名前、読み方間違ってるぞ。それ、「しんけんかいけつ」じゃなくて、「マジでかいけつ」って読むんだ!!』
「やっぱ頼むとこ間違えたんじゃねえかな、オレ?」
 昼下がりの太陽だけが、孤独なオレを照らしていた。ちなみに、家に帰ったら申し訳なさそうな兄貴がケーキを食べたと白状した。今回の依頼料とケーキ代は兄貴に負担させることで、オレは手を打つことにした。
 
 
 依頼人のエースが去ったあと。「真剣解決・ヴァンルージュ探偵事務所」では、事件が起きていた。
「先生! 事件ですっ! 先生の靴下が片方行方不明なんですっ!!」
「ふっ、お前は本当にそそっかしくて可愛いな。洗濯機の底を覗いて見てみなさい」
「あった! ありました! 先生さすがです!!」
 靴下片方行方不明事件という難事件をいとも簡単に解決してみせたシルバー先生は、僕の頭をいい子と撫でる。
 すごいぞ! やっぱり先生はすごい名探偵なんだ!
 僕は、小さい頃から隣のお家に住んでいて、それですごく格好いい探偵になったシルバー先生に憧れて、僕も一緒に探偵をやりたいと思い、今、探偵助手として雇ってもらっている。
 シルバー先生は昔から、そうずっと昔から、僕が初めて先生に会った赤ちゃんの頃からずっと、僕のことを可愛がってくれているらしくって、それで、えっと。……僕が19歳になった今でも、ずっと可愛がってくれているんだ!!
 ちなみに僕に初めて会ったとき、先生は5歳だったらしい。だから先生とは5歳差で、先生は今、えっと……24歳、だな! うん!
「先生! 今日の夕メシは何が食べたいですか!?」
「そうだな。お前の手料理ならなんだってかまわないが……。今日は、肉じゃがが食べたいかな」
「分かりました! 作ります! 肉じゃが!」
「ああ。新婚さんみたいで、いいよな」
 小さくガッツポーズをする先生に、僕は言う。
「もう、去年から何回言うんですか、それ!」
「ふっ。お前が俺の探偵事務所で働きたいと言ってくれたときから、ずっと、嬉しくてな。お前が嫁入りしてくれる日を、毎日夢見て待っていたから」
「もう、大げさですよ!」
「その喋り方も可愛いが、昔みたいに呼んでくれてもいいんだぞ? 『シルバー兄ちゃん』とか」
「ち、小さい頃の話じゃないですか……っ!!」
 そうして僕たちは、手を繋いで一緒に夕飯の買い物に出かける。
「春の陽気は、眠くなるな」
「先生はいつも頭をたくさん使っているから、眠たいんですね!」
「そうかもしれないな……」
 目を擦りながら歩いているシルバー先生に、近所のおばちゃんが声をかける。
「あら~、マジ決さんじゃないの。ちょっといい? このジャムの瓶のふた、開かないのよぉ。アンタたちが一番こういうの得意だからねえ」
「任せろ。……ふんっ!!」
「さすがねえ、ありがとう! 助かったわ~、はいこれお駄賃」
「またいつでも頼ってくださいっ」
 こんなところで依頼が舞い込んでくるとはラッキーでしたね! とシルバー先生に笑うと、そうだな、と先生も笑った。
 そして僕たちは、スーパーで肉じゃがの材料を買い込んで、家へ帰る。
「重たいものは俺が持つ。これも次の依頼のための、鍛錬だ」
「さすがです、先生! よーし、僕も鍛えるぞ!」
 そうして家に帰り、肉じゃがを作る。肉じゃがは先生の好物のひとつだ。
 先生の好みは、家庭料理だ。肉じゃが、シチュー、ハンバーグ。カレーにコロッケ、オムライスにサバの味噌煮。
 僕が作るものでは、家庭を感じる味がいちばん好きなんだって!
 でも、中でもいちばん好きなのは、きのこのリゾットだな。昔からの先生の好物らしい。
 確かに小さい頃もよく目をキラキラさせて食べてたよな! って、いけないいけない。
 今の僕は幼馴染のデュースじゃなくて、先生の助手のデュース・スペードなんだから。ちゃんと線引きしないとな!
「先生できましたよ! 肉じゃがです!!」
「ありがとう。いい匂いだな」
 そうして僕たちは、テーブルについて一緒に肉じゃがを食べる。
 そのあとは、それぞれ事務所でシャワーを浴びて、ちょっとだけ、夜の雰囲気になる。
 うちは誰かが起きてれば24時間依頼は受け付けているが、まあそれでも人の来ない時間ってものはある。
 元々探偵がいすぎて飽和してる街だしな! 夜は基本、来ない。
 だから、えっと。その。なんていうか。
「……おいで、デュース? 今日のお仕事モードは終わりでいいだろ?」
「せ、先生……っ」
「『シルバー』、な?」
「し、シルバー……」
「ふっ。少しずつ慣れていってくれよ? もうお前は、俺のものなんだから」
 ソファにつく先生……シルバーは。僕の腰をぐっと抱き寄せて、そして、頭を撫で、キスをする。
 こうして、誰の邪魔も入らない夜。僕たちは、恋人同士の時間を過ごすのだ。
 これが僕たちの日常。僕たちの過ごす、『真剣解決・ヴァンルージュ探偵事務所』の一日だ。
「あ、明日は早いんですよ……?」
「ああ、そうだな。厄介な依頼だ。……もう少しお前を補給したら、寝袋を持ち、『パティスリー・クローバー』の店前へと向かうことにする」
 お前はいつも通り、俺を叩き起こして連れて行ってくれればいい、とシルバーは言う。
 それから僕は、たくさんシルバー先生に愛されて。ちょっと名残惜しみながら、先生を起こし、問題の店へと向かうのだった。
 
「ここが『パティスリー・クローバー』か。なるほど、人気のようだな。何人か、俺たちの他にも開店待ちがいる」
「ホントですね。聞き込みします?」
「好きにしてかまわないが、得られるのはケーキの情報とヒマつぶしとしての雑談くらいだろうな」
 そうして僕たちは大人しく待機列に並び、朝を待つ。開店してシャッターを開けたケーキ屋に、告げた。
「こんにちは、ヴァンルージュ探偵事務所です!」
「ヴァンルージュ探偵事務所? ええと……、悪い、どっちのだ? ふたつあるだろ、ヴァンルージュ探偵事務所」
「ああ、すまない。『真剣解決(マジでかいけつ)』の方だ」
「アレってそう読むのか!? わ、分かったよ。昨日、電話で注文してくれたお客さんの方だな? 出来てるよ、ほら」
「おお、写真の通りだ! ありがとうございます! これお金です!」
「いえいえ、どういたしまして。朝から来てくれてありがとう、常連さん。またよろしくな?」
「はいっ! また来ます!」
 そうして僕らはエースに渡すケーキを手に入れて、事務所へと帰った。
 
「エースのやつ、遅いな。何かあったのか?」
「もしや、何か事件に巻き込まれているのだろうか。走って迎えに行くか?」
「でもエースの家がどこか分かりませんよ」
「依頼手続きの際に書いてもらった住所があるはずだ」
「あっ確かに! 見てみます!」
 ファイルを取り出してエースの記録を確認しようとする。すると、そのとき事務所のドアが開いた。
「ね~聞いてよ~! 犯人見つかった!! 兄貴だったんだけど~!!」
 で、ケーキ取ってこれた? とエースは言う。
 バッチリだぞ、と僕が言って、ケーキの箱を持って来ると、エースがウィンクした。
「よっしゃ! じゃあ、仕切り直しね! オレ、オレンジジュース瓶で2本持ってきたからさ。みんなで乾杯して食べよこれ! 皿とフォーク出してよ! あとコップも!!」
「せ、先生。どうします?」
「かまわない。出してあげなさい。元々、彼のケーキへのわくわく感を取り戻すことが、俺たちの仕事だったのだからな」
 先生がそう言うのなら、と。僕はコップとフォーク、それから皿を取り出して、ケーキを切り分ける。
「ええっと……? 3人……? どうやって切り分けたらいいんだ?」
「無理せずアプリ使えよな、頭がかわい子ちゃん!」
「う、うるさい! 今インストールしようとしてたんだ! ったく……」
 そしてなんとかケーキを6等分に切り、みんなに2つずつ分ける。
「いっただっきまーす!! ……うん、旨い! 一緒に食ってくれてありがと、ふたりとも!」
 こうして、トラッポラ家のケーキつまみ食い盗難事件は見事シルバー先生の手によって解決した。
 だけど僕は思う。
「今回の事件、僕たち必要でしたかね? エースひとりでも、そのうち解決できたんじゃ……」
 それに対して、シルバー先生は言う。
「俺たち探偵の仕事は、何も、推理や真実を導くことだけではない。その『真実を見つけて欲しい』という言葉の裏にある、本当の気持ちに寄り添うことも、また探偵としての立派な資質だと俺は思う」
 だから、依頼人が笑顔で終わったのなら、それがいいんだ、と先生は言う。
 僕はそれを聞いて、やっぱり先生はすごいなって思った。
「先生はやっぱりすごい人です!」
 僕が懐いて抱きつくと、先生は僕を抱きとめ、頭を撫でる。
「真実はいつも、ひとつではない。大抵はふたつかみっつある、からな。……世界はそう単純じゃない。案外、複雑なんだ」
 人の想いが千差万別、複雑なものである以上。それが絡む真実が、綺麗なひとつきりで済むわけがない。
「なんかむずかしい話してますか?」
 僕がそう言うと、先生は僕に向けてそっとほほ笑んだ。
「ああ。……お前は知らなくていい話さ。さあ、もらったケーキ、まだ余っていたろう。続きを一緒に食べようか」
「はいっ! あーんしてあげますね、先生!」
「ふっ、それは楽しみだ」
 そうして僕たちは、甘いケーキを、甘い時間と共に楽しみあう。
 先生がいつも何を考えているのか、あまり頭の良くない僕には、ぜんぶは分からない。
 でも、僕が先生の傍にいることで、先生が癒されていて、助けになってるなら、それが一番いいって思うんだ!
 
 ――鼻歌を歌いつつ、冷蔵庫からケーキを取り出す無垢なデュースのことを。シルバーは、ただ眩しそうに見つめていた。
 
*おしまい

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