・付き合っている設定です。
「……シルバー先輩」
「ああ」
じっと目を見つめて、デュースの頬に手を添える。目の前の可愛い恋人は、一瞬目を逸らし戸惑いながらも俺を見つめ返して、ゆっくりと目を閉じる。近づいた唇に、は、と熱くなった息を吹きかけた。わずかにびくりと動いた腕の中の体を引き寄せて、柔らかな唇に自分のものを触れさせた。
横に置かれたデュースの手に自分のものを重ね、ぎゅっと握る。空いた左手でデュースの身体を抱え、背筋をなぞる。すると、デュースは気持ちよさそうに目を細めて、重ねた唇からん、と声を漏らし、ぎゅっと俺のシャツを掴んだ。
長ったらしい前置きは省くが、俺とデュースは恋人として付き合っている。そして幾度かの逢引を重ねて、今日、ようやくゆっくりと過ごせる二人の時間が取れたということだ。お前はどんな風に俺と過ごしたい、と尋ねれば、人目を避けられる場所で触れ合いたいと願うから、ルームメイトの留守を確認して俺の部屋へと連れ込んだ。そうして、どんな流れでこうなったのかは覚えてもいないが……あるいは、部屋に入った瞬間から、ずっとこの時に向かっていたのかもしれないが、とにかく、今はデュースとキスをすることになっている。ちなみに場所はベッド脇だ。これは単に、他に座らせるところがなかったからにすぎないが。
「……デュース」
「シルバー、先輩……」
互いの名を呼び、見つめ合う。恥ずかしがっているのか、デュースの頬はすでに耳まで真っ赤だ。俺は、デュースに初めてのキスの感想を尋ねた。こうして誰かと唇を重ねるようなことをするのは初めてだから、不備があってはならない。
「どう、だった」
「……えっと……すごく、気持ちよかった、です……」
「……なら、良かった」
沈黙を間に挟みながら、たどたどしく会話する。俺たちはこんなにぎこちない関係だったろうか。目の前のデュースは何かそわそわして、上を見たり俺を上目遣いに見つめてきたりと、落ち着かない様子だ。
「あの、先輩」
「なんだ?」
「……その、もう一回……ダメ、ですか?」
「いや……かまわない」
もう一回。それをねだりたくて落ち着かずにいたのか。心の中に、それをじれったく可愛いと思う感情が芽生えてきて、またデュースに手を伸ばす。取った手の指一本一本にゆっくりと口づけを落とす。親指、人差し指、中指、薬指、小指。こわごわと俺を待ち受けているデュースの顔を見つめて、頬に口づける。左頬、右頬。それから唇を指先で撫でて、また柔らかな唇にゆっくりと口づけた。
ゆっくりとつけた口を、やはりゆっくりと、名残惜しむように離す。すると俺の腕を掴むデュースの口がさらなるねだりを告げた。
「……もっと」
言葉では応えず、またゆっくりとデュースの唇に口づけた。ゆっくりとつけては離すキスを、幾度か繰り返す。デュースの口からも、はあ、と熱い吐息が漏れだしたところで、唇を離し、デュースを腕の中に抱えるようにして身体をぎゅっと抱きしめた。デュースは俺の肩口あたりに頭をもたげ、大人しく抱かれている。触れ合った胸から、心臓の音が伝わってくる。鼓動が早くなっているみたいだ。嬉しい。
「デュース」
「ん、」
デュースの耳に軽くキスをする。そのままかぷりと耳を食むと、びくりとまたデュースの身体が震えた。俺の服を掴むデュースの手の力が強くなる。気持ちいいんだな。たまらなくなって、さらに耳の奥へ舌を伸ばした。
「あ、シルバー、せんぱい……っ」
「ん……気持ちいいか……?」
「なんか、これ、なんかっ……変な気分……なりそ……」
いじめすぎても良くない。最後に軽く吐息をかけ、真っ赤になった耳を解放してやる。まだ睦み始めてから少ししか経っていないのに、デュースはもう、はあ、と熱く乱れた息を吐いている。良くないな。本当に良くないことだが、もっと、そんなデュースに触れたくなる。
デュースの制服の第一ボタンを外して、首筋に口づける。デュースはせんぱい、と慌てた声をあげたが、気にしない。ぢゅ、と音を立ててデュースの首筋に印をつけていく。前髪が肌に触れるのだろうか、俺が首を動かす度、デュースはんん、とくすぐったそうな声をあげた。
可愛い。気持ちいい。嬉しい。もっと触れたい。そんな欲望が、心と身体のどこからかせり上がって、渦巻いてくる。
「デュース」
もう何度目になるか分からない愛しい名前をまた呼んだ。群青色の髪に己の指を絡めて、丸い頭を指先でゆっくりとなぞるように撫でた。孔雀のような緑の目が、とろんと蕩けてこちらを見つめてくる。またデュースの唇を指でなぞって、目を閉じさせた。ゆっくりと口づけたあと、今度は唇を舌でなぞった。薄く空いたデュースの目が逡巡して閉じられ、反対に唇は薄く空いたから、俺はそこへゆっくりと舌先を忍び込ませ、まずは唇を舐めた。
いきなり奥には入れず、少しずつ、探るようにデュースの口内へ進んでいく。唇、その裏、歯列、口蓋。それぞれの場所の形を舌先で取るように、口づけていく。
「ん、んむ、ん……っ」
デュースはまだ慣れない声を漏らしながらも俺に必死でしがみついている。可愛い。奥に引っ込んでいる舌を捕まえて、まずは舌先を握手するように絡め合って手前へと引き出した。それから、舌の表や裏を包み込むようになぞっていく。
「は、んん……っ」
デュースから漏れる吐息が、頬にかかって熱い。唇の柔らかな感触が、俺を離してくれない。叶うならずっとこうしていたい。そんな気持ちにも差し掛かるが、息が苦しそうなデュースを見かねて、一度唇を離してやる。
「は、はあ……っ」
「大丈夫か?」
「だい、じょうぶ、ですけど、その……」
「どうした?」
「……キスって、こんな、気持ちいいんだな、って……思って、」
デュースは恥ずかしそうに目を逸らす。俺が思うよりも、デュースは気持ち良くなってくれていたらしい。嬉しくて、思わずデュースをベッドへと押し倒す。
「あ……」
「……大丈夫だ。キスしかしない」
わずかに不安の色をにじませるデュースの瞳に、また頬に手を添えて安堵を与える。
「ただ、キスは……何度でもするからな」
そう告げてデュースの唇にまたキスをする。上唇と下唇を交互に食み、また口を開けさせた。開いた口に自分の舌をゆっくりと差し込んで、今度はデュースの舌を吸うように舐めた。
「ん……っ」
そのまま今度はすぐに舌を解放してやり、組み敷いたデュースをひっくり返す。それから制服の隙間に見えるうなじへ、ぢゅ、と音を立ててキスを落とした。その拍子に制服のシャツとジャケットがめくれて背筋が見えたから、それにもキスを落としておいた。デュースはベッドに身体を横たえたまま、少し不満気な顔で俺へと手を伸ばしてくる。
「……シルバー先輩ばっかり、ずるいですよ」
今度はデュースが、俺にキスしてくる番だった。俺と同じようにちろちろと舌で唇を舐めて、俺が唇を開き舌を差し出すと、ごくりと喉を鳴らして自分から舌を絡めてきた。真似をしているのだろうか、可愛いな、と思った。それと同時に、背筋にぞくりとする感覚が走った。
思わずデュースをまた、力強くぎゅっと抱きしめた。せんぱい、とデュースが甘えるような声で俺を呼んだ。
「なんだ」
「もう、おしまいですか?」
明らかに残念そうな声がやはり可愛くて、そんなことはない、と返す。するとデュースは、良かった、と嬉しそうにほほ笑んだ。しかし、このままベッドに身体を横たえていては、きっと俺は眠ってしまう。そんなことはないように、俺は身体を起こして、再びデュースを組み敷いた。
「せんぱい、」
「……駄目だな。もっとという欲が溢れて、際限がない。もっとたくさん、口づけよう、デュース」
デュースは俺に手を伸ばして、飴玉のように蕩けた目で見つめながら言う。
「先輩も、気持ちいいんですか?」
「……もちろん」
そうしてまた、デュースの顎を引く。結局この日は、最初から最後まで、ずっと触れ合い、撫であって、ひたすらキスをしていた。なんでもない日の、なんでもない睦み合いのことだった。
*おしまい
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