※ドルパロ(ギャラリーもしくは小説本棚に設定が置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
※時系列:ドーム直後
※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、トレイ先輩→トレイさん、など)
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ふと、目が覚めたのは、午前10時を過ぎた頃のこと。マンションの窓には曇り空が広がっていて、どこか気怠い空気だ。
目の前に眠っている、綺麗な顔を見つめ、その指を眺める。昨日、僕たちは、ここ、このベッドで。この唇、この指で……。
なんだか気恥ずかしくなり、やたらと胸がドキドキしてきてしまって、まだ眠っているシルバー先輩の胸にぎゅっと飛び込んですりすりと頭を振る。
それで起きたのか、ぽんぽん、と頭を撫でられる感触がして、顔を上げると、まだ寝ぼけ眼のシルバー先輩が、おはよう、と舌足らずにかすれた声で挨拶をした。
「お、はようございます……」
なんだか照れくさい気分でいると、またシルバー先輩は僕の頭を撫でて、頬にキスをした。
「今は……もう、こんな時間か」
「昨日、遅かったですからね」
ベッドから抜け出しもしないまま、僕たちは今が何時なのかを確認する。昨日は、二人の念願の夢だったドームでのライブ公演だった。シルバー先輩は、お義父さんの代わりにドームライブのステージに立つという夢を叶え、僕も、母さんに立派な姿を見せるという夢を叶えられたんだ、と思う。
その熱狂の中で、シルバー先輩は、僕に今までずっと燻っていた気持ちを伝えてくれて、そして僕も、それに応えて、受け入れて。
……で、熱冷めやらぬ中、そのまま、僕たちにとって初めての夜を過ごしたってわけだ。今は、その翌日。翌朝なんだ。
正直、そういうことをするのは初めてだった。だから、こういうとき、どんな顔をしてたらいいのか、僕にはよく分からない。どんな空気を味わって、どんな態度でいればいいのか、なんて。でも、何も分からない今の僕にも、これだけは分かる。シルバー先輩と、今までよりもずっと距離が近づいたんだろうってこと。
そんなことを考えてたら、ぐう、って腹の音が鳴った。……僕のだ。うう、いい雰囲気だったのに、恥ずかしい。
「ふっ。腹が空いたのか? そうだな。少し遅いが、朝食にするか」
「はい……」
先輩は、冷蔵庫から適当なヨーグルトやフルーツ、それからパンを取り出してトーストすると、手早く簡単な朝食のプレートを作ってくれた。
「ほら、できたぞ。食え」
「ありがとうございます、いただきます」
よく考えたら僕、今シャツにパンツだけってすごい薄着だけど、こんなんでご飯食べちゃっていいのかな。まあいいか、先輩気にしてないみたいだし。
二人で簡単な食事を取り、それから、改めて二人でゆっくり過ごそうとしたけれど、ゆったりできるソファがないことに気づいた。
「来客用のソファくらい、用意しておくべきだったかもしれないな。お前の部屋にばかり入り浸っていたから、気づかなかった」
シルバー先輩はそんなことを言って、ベッドにでも座っていてくれ、と言った。
はい、と答えはしたけど、僕は正直落ち着かない。だって、このベッドは、昨日の夜、先輩と散々……。
ベッドを眺めて撫でていると、シルバー先輩から、何か気になることでもあるのか、と声をかけられた。
「やっ、なんでもないです!」
「そうか? ならいいが」
「その……昨日のこと、思い出しちまって……」
僕がそこまで言うと、シルバー先輩も合点がいったようで、少しだけ頬を赤くした、気がした。
「……ああ」
「……」
どこか気まずくて恥ずかしい沈黙が、僕たち二人の間に流れる。
シルバー先輩が、僕の前に膝をついてきて、手を重ねてキスをした。
「……デュース」
「は、はい……」
ひょっとして、もしかしてこのまま、また、たくさん愛されたりしちまうのかな、なんて思ったけれど、先輩にその気はないようだった。
シルバー先輩の手が、ぽん、と宥めるように僕の頭を撫でる。
「まだ、満腹じゃないだろう。昼の材料でも買いに行こう」
「そ、うですね!」
なんとなく残念な気持ちになって、何残念がってんだよ僕、そんな終わってすぐがっつくようなえっちな奴だと思われたら先輩に呆れられちまうだろ、我慢しろと自分に言い聞かせた。
買い物に行くぞ、という先輩の声に今用意しますと答えて、服を着替える。今日の僕たちはオフだから、ゆっくり買い物をしてられるはずだ。
服を着替えようとすると、僕の着ているものがシルバー先輩のシャツだったことに改めて気づいた。
着せてもらったんだよな、となんとなく恥ずかしくなりながら、ぷちぷちとボタンを外していると、首元や胸元にたくさん痣が残っているのを見つけて、なんだろうって思って、原因に思い当たった瞬間、また余計に顔を赤くする羽目になった。
そんな僕の様子を傍で見ていたシルバー先輩は、俺の服は少しだけお前には大きかったみたいだな、とぼやいた。
僕はただ、そうなんです、って返すことしかできなかった。
外に出て、お昼の材料を買いに行く。外だから手も繋ぐこともできないで、ただ一緒に歩いているだけだけど、それでも、昨日までより近い距離で歩くことが出来ているような気がした。
「歩いて平気か?」
「へ、平気、です」
「そうか。だが、今日の荷物は俺が持とう。お前に無理をさせたくない」
「そんなに気を遣わなくっても、大丈夫ですよ」
「俺が、そうしたいんだ」
シルバー先輩の言葉に押し負けて、近所のスーパーへと辿り着く。何食べましょう、って声をかけたら、お前は何が食べたい、って返されたから、それじゃあグラタンとか作っていいですか、って言って、グラタンの材料を買ってくことになった。
たくさんのマカロニに、玉ねぎとホワイトソースの素、それからグラタン用のチーズと付け合わせのパンや野菜なんかを買って、マンションに戻る。
最初はシルバー先輩の部屋にいたけど、ご飯を食べるならってことで僕の部屋に移動した。
グラタンの下ごしらえをしてオーブンに入れたら、あとは焼き上がりを待つだけだ。
付け合わせの野菜でサラダを作ってくれていた先輩が、先に待機を始めていた僕のところに来た。
「そちらは終わったようだな。あとは待つだけ、か?」
「はい。先輩もサラダ冷やすだけですか?」
「ああ。焼き上がりまで、ゆっくりしていよう」
それで、僕の部屋に戻り、グラタンの焼き上がりを待つ。その間に、僕はどうしても先輩に話しておきたいことがあった。
「あの、先輩」
「ああ。なんだ?」
「ローズハート事務所長が言ってたこと、なんですけど」
「ああ……」
ローズハート事務所長は、僕たちが恋人のような関係だと知るや否や、ものすごく怒っていた。そして、ついでにシルバー先輩が僕の部屋に入り浸っているのを知って、経費の無駄じゃないかと余計に怒っていた。それで、なんやかんやあって、僕らは近いうちに一緒に住む用意をしろって言われたんだ。
「お前は、嫌か?」
「嫌じゃないです。ただ、家具とか、もう少し増やした方がいいかなって」
「そうだな。来客用のソファくらいは必要だろう……。引っ越しの際に持ってくることにする」
「先輩が僕の部屋に来るんですか?」
「寝るときと朝食にくらいしか使っていなかった部屋だからな。その方が、掃除も手間ではないだろう」
良かった。シルバー先輩、僕と暮らすのを嫌だと思ってはないみたいだ。
「……へへ」
「どうした?」
「これからは先輩と、ずーっと一緒なんですね。そう思ったら、なんだか嬉しくて……」
「……ああ、俺も同じ気持ちだ」
シルバー先輩の手が、そっと僕の頬に触れる。目を閉じてキスを待ったら、その瞬間、チン、とオーブンから出来上がりを告げる音がした。
「あ、グラタン……」
「……あとででいい。すぐに出しては、火傷もするだろう」
「……はい」
それから、何度かシルバー先輩にキスをもらって、ちょうどいい具合にグラタンがぬるくなった頃、冷やしていたサラダも盛り付け、僕たちは改めて昼食を取った。
食べ終わった僕は、シルバー先輩に、部屋に来てくれませんか、と誘う。
「何かしたいことでもあるのか?」
「はい……えっと。昨日の今日で、こんなこと頼むのもなんなんですけど」
僕がそう言うと、シルバー先輩はほんのり頬を赤くしたような気がした。
「て、手……繋いで、くれませんか?」
「手? ……で、いいのか?」
「は、はい」
シルバー先輩は僕の隣に座り、そっと手を重ねてぎゅっと握ってくれる。
「これでいいか?」
「……はい」
うなずくと、シルバー先輩は空いてる方の手で僕の頭を撫でてくれた。……昨日の夜も、たくさん頭を撫でてくれたな。
そんなことを思い出すと、恥ずかしくなってシルバー先輩の肩に顔を埋めた。
「くすぐったいぞ」
「う~……。先輩、なんでそんないつも通りなんですか……」
僕はたくさん思い出して、嬉しいやら恥ずかしいやらで大変なのに、って言うと、シルバー先輩は、ふって笑って、俺も同じだぞ、と言った。
「いつも通りなんかじゃない。ずっと、ドキドキしている。お前の前でおかしな姿を見せていないか、心配なくらいだ」
「そうなんですか?」
「そうだ」
そこまで言うと、シルバー先輩は僕を腕の中に抱き寄せてくれた。……やっばい、ドキドキする。
「……せんぱい」
「ああ、なんだ?」
「その、……また、いつか……同じように、してくれます、よね?」
「……大切にする」
シルバー先輩の大きくてゴツゴツした手が、僕の頭を撫でる。僕はそれに応えて、シルバー先輩の頬にキスをした。
そうしたら、シルバー先輩は、お返しだ、と言って、僕の口にまたキスをした。……先輩、やっぱりキス、好きなんだろうな。
そんなことをしていると、窓をコツコツと叩く音が聞こえ始める。
「……雨、降ってきましたね」
「ああ」
口ではそう言ってるのに、僕らは窓も確かめず、お互いばかりを見つめていた。
傍に置かれたシルバー先輩の手に、指を絡める。そうしたら、何を可愛いことをしているんだ、って、指を絡め返された。
……嬉しいな。夢みたいだ。だけど、夢じゃない。先輩と、こんな関係になれたなんて。
「昨夜は……泣かせてしまって、悪かったな」
「へ?」
シルバー先輩が、僕の目元を拭うような仕草をする。
「昨夜、泣いていただろう。俺とのことが、夢じゃないか、と言って」
「あ、あれは、えっと……」
なんていうか、気持ちが昂ってしまっただけで、シルバー先輩が悪いってわけじゃないんです、と告げる。
「そうなのか?」
「た、たぶん。その……。大好きな人とのことなら、そういうこともあるんだって、なんかに書いてありましたし……」
「……そう、なのか。不勉強ですまない」
「い、いえ……」
お互い気恥ずかしくなって、顔を逸らし合う。隣にいたはずがいつの間にか向かい合ってるのに、何してるんだろうな、僕たち。
「あの、先輩」
「なんだ?」
まだ恥ずかしいけれど、でも、これだけは言っておきたいから。シルバー先輩の目を見て、まっすぐに言う。
「好き、です。……大好き……」
大好きなシルバー先輩の目を見て、大好きって言う。こんなの恥ずかしすぎて、それこそ涙が目に滲みそうだ。でも、伝えたいから。
「……デュース、こっちを向け」
シルバー先輩の手が、僕の顎を引く。
「俺も、好きだ。お前のことが。……たくさん待たせて、すまなかった。やっと、迷わずに言えるようになった。これからは、何度でも伝えていく」
「あ、ありがとう……ございます……」
シルバー先輩は、僕の手を取り握ったまま、僕の額にコツンと自分の額を当てる。
「思っているだけでも、言葉にしなければ、伝わらないことは多い。長らく言葉にできなくて、不安や惑いを与えることもあったろう。これからは、そんな過去の自分を省みて、お前に気持ちを伝えていきたい」
「嬉しいです。でも、……先輩の気持ちは、伝わってましたよ」
何も言わなくても、と付け足すと、シルバー先輩は嬉しそうに笑ってくれた。
「ふっ。そうか。では、改めて言おう。これからもよろしく、デュース」
「はい。僕こそ、これからもよろしくお願いします」
――今はもう懐かしい。でも、今でも隣にシルバー先輩がいてくれるだけで、いつだって昨日のように思い出せる、幸せな時間。それが、僕たちの幸せな日々の始まりだった。
*おしまい
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