重症ディジーズ

※ドルパロ(ギャラリーもしくは小説本棚に設定が置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
※時系列:ドーム後、交際バレ後
※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、トレイ先輩→トレイさん、など)
※嘔吐等の表現あり。苦手な方はご注意ください。
※現実に存在する特定の病気および感染症と関わりを持たせないために、疾患・症状および病院の対応等は捏造しています。

以上大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 

 ……ジリリリリリ!!
 やかましい目覚ましの音でうすらぼんやりとした意識が頭をもたげる。けたたましい音の中に、呻くような声が聞こえた気がした。
「せん、ぱい……、それ、止めて……ください……」
 まだ眠たがる身体をどうにか叱咤して起こし、目覚まし時計の頭を叩く。ようやく大人しくなった時計を見下ろして、ベッドに腰かければ、隣にはなんだかグッタリとした様子のデュースがいた。
 昨夜は俺のベッドで共に眠ったから(共寝するときはいつも俺のベッドだ、デュースのものより広いからな)、隣にデュースがいるのは当たり前なのだが、なんだかそのデュースの様子がおかしい。
「デュース? 大丈夫か?」
「……無理……」
「そうか……ならば無理せず、少し寝ていろ」
 なんだかとても具合が悪そうなので、ひとまず俺は熱を測ってみようと救急箱から体温計を持ってくることにした。

 どうにかこうにかデュースの脇に体温計をねじ込み、身体の熱を測ってみたところ、画面に表示されたのは『38.8℃』の文字。もはや39℃にも及ぼうかという高熱だ。これはまずいと、俺はデュースにそのままベッドで横になっているように指示し、リドル事務所長へと連絡を取った。
「おはようございます。事務所長か?」
『おはよう、シルバー。今朝早くから、どうしたんだい?』
「まずいことになった。デュースが高熱を出していて、今日は仕事に出られなさそうだ」
『そうか……。高熱が出ているのなら、最近はやりの感染症かもしれないね。シルバーは彼と同居していたね? スケジュール調整はしておくから、キミたちは今日のところはひとまず病院に行って、医師の指示を仰いでもらえるかな。その後の連絡でまたスケジュールを決めて連絡するよ』
「分かった。ありがとう」
『運転手が必要なら、トレイを向かわせるから』
「頼んだ」
 リドルとの連絡を終え、トレイさんが到着するまで、ひとまずデュースの様子を見に行く。
「デュース。大丈夫か?」
「……頭痛い……」
「今、リドル事務所長に連絡した。今日は病院に行って休め、ということだ。病院、行けそうか?」
「……わかんね……身体重くて……動けない、わけじゃないけど……なんか、気分も悪いし……」
 デュースはとても気怠そうにしている。見るからに辛そうだ。これは、俺がしっかりせねばならない場面のようだ。
「少し待て。着替えや、必要なものを取ってくる」
 それからすぐに、俺はありとあらゆる事態を想定した必要物資をかき集め、デュースの元へ戻った。
「身体、起こせるか?」
 ベッドに横になっているデュースの傍について、身体を起こせるかと尋ねる。デュースは俺の手を借りて、なんとか身体を起こすことができたようだ。
 だが、どうにも気分が優れないようで、ずっと口元に手を当てている。
「……顔色が悪いな……。赤い上に、青い。本当に具合が悪いみたいだな」
 俺の言葉にも答えず、デュースは黙って俯いている。大丈夫だろうか、と様子を眺めていたが、どうやらその悪い予感は当たったようだ。
「……あ、やべ。吐く……」
「!」
 すかさず洗面器をデュースの前に差し出し、えづきだした背中をさする。そうすれば、みるみる吐瀉物が洗面器の中に溜まっていった。
「うぇっ、はあ……」
「大丈夫か?」
 吐瀉物の匂いで余計に吐いてしまうこともあるだろうと、さっと洗面器を取り外し、代わりに大きめのビニール袋を渡しておく。エチケット袋の代わりだ。
「後処理はしておく。我慢も遠慮もしなくていいからな」
「うう、すいません……」
 吐いて苦しいのか、涙目になりながらデュースは申し訳なさそうにする。気にするなと背中をさすり、先に吐いた吐瀉物の処理をした。

 そうこうしているうちに、玄関のチャイムが鳴った。トレイさんが到着したみたいだ。
「トレイさんが来たようだ。出てくる」
 玄関先に出迎えれば、予想通りトレイさんが立っていた。
「デュースは平気か? 一応マスクはしてきたが……中、入っても平気かな」
「一応リビングはずっと窓を開けて換気と消毒をしているから、心配ならそこにいてくれ。デュースは……とても具合が悪そうだが、どうにか準備させる」
「ま、どうせ車内では一緒になるんだしな。お邪魔するよ」
 トレイさんを招き入れ、俺たちが準備している間に病院を探してくれるというので、デュースの病状を伝える。
「吐き気、頭痛、発熱、身体の怠さ、だな。熱は先ほど測ったところ、38.8℃を記録した」
「そりゃまた、フルコースだな。分かった、伝えるよ」
 トレイさんはどうやらスマホで検索した近場の病院を手当たり次第当たってみるようだ。俺はデュースの元へ戻り、また吐いていないかを確認した。
「デュース。大丈夫か? トレイさんが来てくれたが……準備できそうか? まだ吐き気はするか?」
「一回吐いたら、だいぶ楽にはなりましたけど……まだしばらく、何か食べたり飲んだりはできない、かも」
 それでも水分補給はした方がいいと、備え付けの水入りペットボトルをひとつだけ渡しておいた。
「口をゆすぐくらいのつもりでいいから、5分に1口ずつくらいは飲んでおけ」
「……分かりました」
「無理をする必要はないが……余計に悪くなっても、お前が大変だからな」
 デュースの髪を優しく撫で、落ち着かせる。それから、着替えられるかと尋ねた。
「はい、なんとか……」
「無理するな。着替えさせてやる」
 寝巻き代わりのTシャツを脱がせ、熱で汗ばんだ身体を拭いてやり、外しやすいようにボタンが大きめのシャツを着せ、1枚くらい羽織った方が寒くないだろうと厚手のパーカーを着せる。ズボンも短パンのままでは寒いだろうと、ゆるめのジーンズを履かせてやった。
「下は自分でできますって……」
「気にするな、任せておけ」
「なんかちょっと、楽しんでません……?」
「何を言う。お前が苦しいときに、それを楽しむことなどしない」
 そうかなあ、とデュースは怪訝な目を俺に向けるが、まったくもって心外だ。だが、傷病人相手にそんなことを言い張るのも大人気ないのでひとまず流しておく。
「おーい。病院、見つかったぞ。今から行けるって」
「分かった。すぐに行く」
 トレイさんが呼ぶ声がして、俺はデュースを抱き上げる。
「じ、自分で歩けますよ……」
「お前は袋と水を持っていろ。車やエレベーターに乗るんだ。また、いつ吐くか分からないからな」
 そして、俺はぼうっとした顔でいつもよりずっと大人しいデュースを抱き上げたまま、トレイさんの車へと乗り込んだ。
「窓、少し開けとくからな。寒かったら言ってくれよ」
「俺は問題ない。デュースも、身体にブランケットをかけておく」
「じゃ、出発するぞ」
 静かに車が動き出し、俺たちは病院へと向かうことになった。トレイさんは頭痛がするというデュースに気を遣ってくれているのか、車内には音楽すら流れていない。エンジンと車の駆動音だけが響く静寂が、俺たちを包んでいる。
「……」
 辛いのか、遠慮がちに俺の肩へと寄りかかってくるデュースを優しく抱き寄せる。
「辛いのか? もう少しの辛抱だからな」
「……うん」
「眠っていてもいいぞ、着いたら起こしてやる」
「……眠くは、ないはず……たぶん」
「そうか」
 ひとまずデュースには楽な姿勢でいてもらい、俺は、何かあってもすぐに対処できるようにと手持ちのものを改めて確認した。デュースの保険証や俺の財布など、必要なものは最低限持ってきた。吐瀉物処理用の凝固剤と、ビニール袋、救急箱から回収したエチケット袋の類と、ビニール手袋と、予備のマスクもだ。
 病院への行き帰りの道のりにはこれだけあれば十分だろうと、安堵のため息をつく。そうしているうちに、やがて病院に到着したようだ。
「着いたぞ。俺は車換気しつつ、リドルに状況を連絡しながら待ってるから、シルバーは中まで付き添ってやってくれるか?」
「分かりました」
 車のことはトレイさんに任せ、デュースを連れて待合室へと赴く。受付の女性に保険証を差し出せば、問診表を書くように言われた。
「書けるか? ……無理そうだな」
 デュースはペンを持てそうにもないので、受付へと許可をもらい、どうにかこうにか症状を聞き取ったものを代筆して受付へと差し出した。

 待合室でしばらく待っていると、看護師がやってきて、採血していった。あらかじめ検査をするようだ。デュースは注射が好きではないと言っていたが、今、そんなことにかまってはいられないらしいな。嫌がる様子もなく、随分大人しく採血をされていた。こんなことを言えば子どもじゃないと叱られそうだが、本当に具合が悪いようで、心配だ。
 そのうちに、診察室への案内としてデュースの受付番号が呼ばれる。行くぞ、と告げて肩を貸し、診察室へと入った。老齢と思しき、物腰柔らかな医師が俺たちを応対する。
「はい、こんにちは。デュース・スペードさんですね。そちらは……」
「付き添いのシルバーです。彼とは同居しています。本日はよろしくお願いします」
「はいはい、ルームメイトね。デュースさん、今日は……すごい具合悪いみたいね。熱が出てて、吐き気と頭痛、喉も痛いかな? それじゃあ、まずちょっと口の中見せてもらえる?」
 診察が始まり、俺はそれを脇で邪魔にならないように見守る。そのうちに診断が下ったようで、デュース自身はフラフラなので俺が説明を一緒に聞いておくようにと言われた。病気に関しては、ドクターが診た限り、流行りの感染症ということだった。
「アイドルなんだって? うつっちゃう病気だから、しばらく、最低でも熱が下がってから3日は、お仕事はお休みだね。診断書出しておくから……。喉が大事だけどよく吐いちゃうみたいだから、頭痛薬と吐き気止めの他に、トローチも出しておきますね。安静になさってください。お大事に」
「ありがとうございました」
 問診が終わり、部屋を出る。診察室を消毒している看護師たちを後目に、今度は調剤と会計を待った。この病院は院内で調剤してくれる型の病院のようだから、デュースを二度待たせることもない。診察が終わって安心したのか、デュースは少し元気が出てきたようだ。だが、油断はならない。病気は完全に治るまで、無茶をすれば症状がぶり返すこともあるからな。
「……うう、早く薬飲みたい……」
「ドクターは薬を食後に飲むように言っていたが……何か、食べられそうか? 食べられそうなら、帰りに買っていくが」
「食べにくいだけで、食欲はあります……吐いたからか、腹は減ってて……なんかすごく、とんこつラーメンとかガッツリ食べたいです」
「……それは、今はよした方がいいと思うぞ。油や匂いで、また吐いてしまうかもしれない。弱った胃にも良くはないだろう」
「じゃあ、プリンとかアイス……? でも、腹すきそう……」
「なら、先にそういったものを食べて、薬を飲め。その後に何か作ってやるから、腹が空いたときに食べるといい。リゾットと煮込みうどんなら、どちらがいい?」
「んー……うどんで」
「分かった」
 あらかたの予定を決めてしまうと、やがて会計窓口に名前を呼ばれる。薬と保険証、領収書等を受け取り、支払いを済ませた。
「トレイさんのところに戻ろう」
 駐車場へ戻ると、トレイさんは首尾よく待っていてくれた。
「そろそろかと思ってたよ。どうだった?」
「やはり、流行りの感染症だったらしい。気を付けていて正解だったな」
「そうか……。なら、早めにリドルに報告してやらないとな。そうだ、お前たち、この後は何か食べ物とか買いに、どこか寄るか?」
「ああ。スーパーあたりに寄って、いくらか食糧だけ買わせてもらえるか?」
「分かった。お前らをマンションまで送ったら、俺はまた一度事務所に戻るよ。忙しくなりそうだしな」
 そうして、必要物資を買い込みつつ、トレイさんにマンションまで送ってもらう。
「世話をかけた」
「いいさ。お前たちの世話が俺たちスタッフの仕事なんだからな。ま、俺は長く一緒にいたわけじゃない。これだけ消毒と換気、手洗いうがいをしっかりしてれば大丈夫だろう」
 それじゃあ、と言ってトレイさんは立ち去る。それを見送り、俺は再びデュースを抱えあげ、マンションの部屋へと戻った。

 部屋に入り、デュースをデュースの部屋のベッドへと下ろす。感染症ならば、うつらないようにしばらく部屋を分けなければいけないからだ。あとで、俺の部屋の換気と消毒もしておこう。
「気分はどうだ?」
 デュースはベッドに横たわったまま、怠そうに答える。
「んんー……、吐き気は朝よりマシです。何も腹に入れてないからかな……」
「とりあえず、柔らかいプリンを買ってきたから先に食べて薬を飲んでおけ。その間にうどんを作ってきてやる」
「卵入った、くたくたのやつですか?」
「……そういうのが好きなのか?」
「病気になったときは、いつも、母さんが作ってくれたんです。卵を入れた、くたくたのうどん……」
「分かった、似たものができないか出来るだけ試してみよう。だが、まずはこちらだ。ほら、食っていろ」
 デュースに、生クリーム付きのカスタードプリンと、飲むヨーグルト、ゼリードリンクとスポーツ飲料のペットボトルを渡す。
「いけそうだ、と思うものだけでいい。好きに補給しろ」
「分かりました」
「辛くなったり、また吐いてしまったりしたらいつでも呼んでくれ。……料理してくる。俺が見ていなくても、ちゃんと薬を飲むんだぞ」
 僕そんな子どもじゃないですよ、と笑うデュースの頭を撫で、キッチンへと向かった。

「さて……」
 キッチンへと向かった俺が最初にしたことは、デュースの母君に電話をすることだった。
「こんにちは。シルバーです。お時間大丈夫ですか?」
『大丈夫よ、どうしたの?』
「はい、実は今日、デュースが病気をしてしまいまして……」
『え!? ひどいの!?』
「ええと、確かに症状は重いのですが……。病院にかかったところ、流行りの感染症で、安静にしていれば治るだろうということでした。ただ、今、腹を空かせているようで、母君の作る『卵入りのくたくたのうどん』とやらを食べたがっていて、レシピを教えていただければ、と」
『あっはは、そういうことね! そうね、あの子は昔からしっかり食べてしっかり寝て病気治す子だったものね。ええとね、レシピは、市販のうどんだしにしょうゆ、砂糖、みりんを入れて、とびっきり甘く味付けして、くたくたになるまで煮込んだら卵を割り入れるだけ! 簡単でしょ?』
「それだけでいいのですか?」
『いいのよ! デュースが風邪引いたときはバタバタしてて料理に凝れなかったし……。気分でチーズやかつお節なんかも入れたりしてたから、いつも違う味だったと思うわ。シルバーくんなりの味を作ってあげて!』
「……分かりました。忙しいところ、ありがとうございます」
『いいのよ、こちらこそデュースの世話焼いてくれてありがとう。また何かあったらよろしくね』
「はい、失礼します」
 思った以上にシンプルなレシピで助かった。ともかく、今聞いたレシピ通りの『風邪引きうどん』を作ってやることとしよう。

 ……言われた通り甘すぎるほど甘く味付けした鍋をコトコトと煮込んでいると、不意に、俺も幼い頃、風邪を引いたときのことを思い出した。
 親父殿が、精力がつくように、と、ニンニクやバナナ、ヨーグルト、生姜、スッポンの血……とにかくスタミナのつきそうなものを片っ端から入れた名もなき鍋を作ってくれたんだったな。正直、味はとても食べられたものではなかったが、それでも、俺のためにそれを作ってくれたということ、『うまいか? たくさん食べて、早く元気になれよ』と言いながら、笑顔で見守ってくれたこと。それ自体はとても大事な思い出だ。
 大切な人から大切にしてもらった思い出を、今、俺も、自分で選んだ大切な人へと受け継いでいこう。
 くたくたになったうどんを一切れつまみ、その優しい甘さに、確かにこれなら胃や身体が弱っていても食べられるだろうと太鼓判を押した。

「デュース。起きているか?」
 うどんを入れた椀を載せたトレイを持ち、デュースの部屋へと入る。
「シルバー先輩。はい、起きてます」
「なんだ、雑誌を読んでいたのか。薬は効いたみたいだな」
「はは、確かに薬は効いたんですけど、腹が空いて眠れなくて……。それに、いい匂いもしたから。どうせ寝るなら、食べてからでもいいかなーって。待ってました」
「ふっ。本当に、食べて治すタイプなのだな。ほら、卵のうどんだ。これで合ってるのかは分からないが、出来はしたぞ。食べてみろ」
「いいんですか? それじゃ、いただきます」
 ふうふう、と熱さを冷まして、デュースがうどんを口へ運ぶ。ひとくち食べたデュースは、懐かしそうに目を細めた。
「この味だ、懐かしいなあ。母さん、いつも冷蔵庫にあった違う具で作ってたから、いつも同じ味じゃないんですけど、結局甘くて卵の味がすることは全部一緒だったんですよね。……おいしいな」
「そうか。それは良かった。さあ、続きも食べてしまってくれ。なんなら食べさせてやろうか?」
「じ、自分で食べれますって、もう……」
 どうやら俺の調理は成功したようで、デュースはぺろりと一皿、だし汁までしっかりと平らげてしまった。
「うまかった! ごちそうさまでした」
「食べきったな。それじゃ、今度こそ大人しく寝ているんだぞ」
「はい。……そういえば先輩は? 自分のご飯は食べたんですか?」
「これから食べる。心配するな」
「……すいません、僕の世話でバタバタしてて、食べる隙なかったですよね。……シルバー先輩に迷惑ばっかりかけて、駄目だな、僕」
 俺は一度トレイを脇に置き、デュースの前に膝をついた。
「デュース。お前を守るというのは、俺が決めたことだ。それはいつでも変わらない。だから、身体が病んでいるときに、そのようなことを考えなくてもいい」
「へへ……ありがとうございます」
「ふっ。このあと、眠るまでついててやろうか?」
「それじゃ、先輩にうつっちゃいますよ……。もう大人しく寝ますから、先輩はご飯食べてください」
「分かった。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
 俺はデュースの部屋を後にし、換気しておいたリビングへと向かう。使った食器を消毒して洗い、片付けると、ようやく自分の食事にありついた。
「……甘いな。これがデュースの家で食べてきたうどんか」
 あとで腹が空いたデュースがお代わりしてもいいように、2人分よりも多めに作ったうどんをいくらかもらい、食べる。いつもは埋まっている食卓の椅子が空っぽなことに、一抹の淋しさを覚えた。中座し、バラエティ番組の景品としてもらったデュースお気に入りの大きなヒヨコのぬいぐるみを代わりに座らせておく。
「早く良くなるといいな」
 俺に話しかけられたヒヨコのぬいぐるみは、なんともいえない顔でじっと黙ってこちらを見つめ返していた。

 食事を終え、デュースの様子をドアからちらりと見て確かめる。読んでいた雑誌は枕元に放って、穏やかな寝息を立て眠っているようだ。
「俺も、あまり外に出るのは良くないな」
 あとしなければならないのは、己の部屋の換気と、消毒。それから、風呂や食事をどうするか、これからしばらくの予定について考える。ああ、リドル事務所長からスケジュールの連絡も来るのだったな。
 一気に忙しくなったことに、俺は何故か、どこかで喜びを感じていた。デュースが病気をするのは喜ばしくないことであり、早く治ってもらいたい、とは思うのだが、その一方で、頼られること。デュースの細かい世話を焼けることに、どこかで喜びや優越を感じているのだろうか。
「最低だな……俺は」
 そんなことを呟いても、制止してくれる存在は今日は隣にいない。当然だろう。デュースは今、一人で病気の辛さと戦っているのだから。また元気な姿で早く隣に立ってもらいたい、なんて思う気持ちを抑えながら、やるべきことをやることにした。
「まったく。アイツがいないと駄目になるのは、俺の方だな」
 俺はただ、デュースの病気が早く良くなるように、と、真昼の星に願いを込めることだけで精一杯だった。

*おしまい

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