・『Don’t stop to love me』の続編です。前編読んでないと意味が分かりません。
・バーテンダーシルバー×若手警察官デュースのパロディ世界です。続編なのでパロディ本棚に入れています。
・こちらは本来のシリーズ2話「XYZ(R18版)」とあらすじや流れはほぼ同じで、性的描写のみ抜いた健全版となります。
・こちら、本来はR描写がありましたが、そういった描写を抜いた健全版となります。性的な詳細描写をざっくりとしたあらすじに書き換えておりますので、未成年の方でもストーリーをお楽しみ頂けるようになっております。こちらの形で良ければぜひ、シリーズ中のひとつのお話としてお楽しみください。
・ただし、R15程度の描写があるものとして読んでいただけると助かります。また、中学校卒業未満・15歳以下の方の閲覧は禁止します。
※本作は直接的な描写はありませんが、恋愛関係の進展を含みます
※未成年の方はご自身の判断で閲覧をお願いします
以上すべて大丈夫な方のみスクロール↓
――ある夜のこと。星の瞬く素敵な夜に、それは訪れた。
「……今日、帰りたくない、な……」
一介のバーテンダーとして、いつも通り、カクテルに己の想いを忍ばせて、『お巡りさん』に提供していた。
すると、彼は俺がグラスに注いだワインクーラーを口にして、ほろ酔いに赤く染まった頬でそんなことをこぼしたのだ。
「何か、嫌なことでもありましたか?」
心の動揺を隠して、平静を装う。すると彼は、少し照れくさそうに目を逸らした。
「あ、いや、その。……そういうわけじゃ、なくて……」
ただ、その。と、上目遣いにちらちらと俺を見てくるその態度は、まるで俺を誘っているかのようだ。
はち切れそうな期待を押し殺して、まだ冷静を装う。冷静を装って、彼の耳元で密やかにささやいた。
「じゃあ……俺のものに、なりたい?」
かっと、一瞬で耳まで真っ赤にするお巡りさんの純情な姿に、思わず笑みがこぼれそうになる。
その姿こそOKの返事だと強引に解釈して、俺はジョッターを取り出し、メモを書きつけ、丸めたそれをグラスの横に置いた。
「それでは、こちらを」
「あ、は、ハイ……」
彼はメモを受け取り、開いて、また顔を赤くしている。
メモに走り書いたのは、『その気があるなら、待っていて』。
俺は、差し出された皿は断らないタイプだ。目の前に据えられた膳ならば、是非頂く。今日、彼を俺のものにしてしまおう。
今日は少し早く上がりますと親父殿たちに了承を得てグラスを磨いていると、他の常連客から声をかけられた。
「今日は随分機嫌が良さそうね。何か良いことがあったのかしら?」
「はい、少し。……私事ですが、ずっと欲しかったものが、あと少しで手に入りそうでして」
「まあ、良かったじゃない。お祝いに、『プリンセス・メアリー』を1杯ずついかが? ご馳走するわ、貴方と私で乾杯しましょ」
「ええ、喜んで」
その後、常連客や新規の客への接客をこなし、終業の時間に差し掛かる。
軽く店の片づけを終え、お先に上がらせてもらいます、とバーテンダーの制服を脱いだ。
……少し遅くなってしまったが、彼は、待っていてくれるだろうか。
終業の間際まで、店内で何かを考えるように、ゆっくりと酒を眺めていたのは見ていたが……。
そう思いながら店の玄関先へと向かえば、そこには群青色の髪をした青年がひとり、立っていた。
「……待っていてくれたんだな」
「あ、て、店員さん……っ、は、はい……っ」
明らかに緊張している、どぎまぎした様子で、青年は返事をする。……なんだ、心配するまでもなかったな。
「……もう、『店員』の時間は終わりだ。こうして二人でいる時は、名前で呼んでほしい。……俺の名前、憶えてるか?」
「は、はい。……シ、シルバー、さん……」
「よくできました。それじゃ……行こうか? デュース」
右手を差し出すと、デュースは戸惑ったようにしながら、左手を乗せる。俺はその手を握り、歩き出した。
「緊張しているな。まずは食事でもするか? ……とは言っても、この時間では同業くらいしか開いていないが」
「うぇ、あ、えっと……っ!!」
どうやら俺のお巡りさんは、緊張が先走ってうまく話せないみたいだ。ここは俺がリードして、ほぐしてやるしかなさそうだな。
「大丈夫。俺に任せて」
俺たちの店よりも少し遅くまでやっているバルに入り、簡単な軽食とカクテルを2杯注文する。
やがてエビとキノコのアヒージョと、キールが2杯テーブルに運ばれてきたのを見て、俺はグラスを手にした。
「ほら、乾杯」
「……乾杯……」
こく、とグラスを傾ける彼の姿を見ると、妬心が湧いてくる。俺が注文したとはいえ、俺以外の誰かが作ったカクテルを飲む彼に向けて、こんな気持ちを抱くなんてな。
そんな感情はおくびにも出さないようにと、ほほ笑みを作る。この仕事を始めてから、随分と表情筋を和らげたものだ。初めの内は、本当に表情が硬かったからな……。客がみな『それはそれでアリ』だと、寛容で助かったが。
今度は俺がそのように、デュースの心をゆったりと解いてやりたい。……いや。心も、身体も、全部。ほどいてしまいたい。
「料理、おいしいぞ。食べてみろ」
「……ほんとだ! うまい!!」
モグモグとアヒージョを咀嚼して飲み込む瞳が、照明を反射してキラキラと輝いた。
「少しは緊張がほぐれたか?」
「あっ、えっと。……もしかして、気遣ってくれてました……? すいません……」
「謝ることはない。……初めてのことに、緊張するのは当然だろう?」
俺が頂いてしまってもいいんだよな、とアヒージョのトマトにフォークを刺しながら尋ねると、お巡りさんは、また真っ赤になって、それでも、……はい、と頷いた。心が、喜びに打ち震える心地がする。まだだ。まだ、抑えていなくては。
「そんなに硬くならずに。今は、俺とこの時間を楽しんでくれればいい」
「は、はい……」
「君はどんな人なんだ? 店で話すよりもっと、たくさんのことを打ち明けてくれると嬉しい」
するとデュースは少しムッとして言い返した。
「……シ、シルバーさんこそ。どんな人なのか、教えてください。僕にも、もっと」
秘密にばっかりしてないで、とデュースは拗ねたように言う。そんな姿さえ可愛らしくて、俺は自然に笑みを浮かべて答える。
「ああ、もちろん。君がそれを知りたいのなら」
そして互いの身の上話に花を咲かせながら、酒と料理に一通り舌鼓を打ち、打ち解けてきた頃。そろそろバルも閉まるだろうと、勘定を済ませて店を出た。
「すいません、ご馳走になっちゃって……」
「いいんだ。いつも店に来てもらっているからな」
どうぞ、と再び手を差し出せば、デュースはまた恐る恐るという様子で握り返した。
手を握り、ネオンライトと街灯の灯かりだけが灯る夜の街を連れゆく。
「どこ、行くんですか?」
「どこだと思う?」
「……えっと……?」
本当に純真だな。俺がこれから連れ込もうとしている場所に、思い当たる節さえないらしい。
「大丈夫だ。俺を信じて、ついてきてくれるか?」
「は、はい……」
そうして、デュースの手を引き、それなりにきれいめのラブホテルへと連れて行く。
ぱっと見は普通のホテルのように見えるから、そこまでの気構えはしなくて済むだろう。
「……」
と、思っていたが。さすがに気づいたらしい。少し気後れするように、きゅ、と俺の手が握り直された。……可愛い。
だが、ここまで来て逃がしてやるつもりも俺にはない。良さげな部屋を注文して、ルームキーを受け取る。
その間、握った手を指で絡めなおしておいた。大丈夫だ、と伝わるように。
黙ったままついてくるデュースを、部屋に連れて行く。部屋の真ん中に置かれたシックなキングサイズのベッドが、存在感を放っていた。……デュースには、本物よりも大きく見えてるかもしれないな。
とりあえず、帰ってきてしまったらしい緊張をほぐしてやろうとベッドに座らせる。
「大丈夫か?」
ベッドに座らせたデュースの前にひざまずいて尋ねると、デュースは、あ、えっとその、と言った。
「……その。こういうところに来るの、初めてで……。何も、わかんなくて」
すいません、とデュースは言う。俺は、なんだそんなことを気にしていたのかと軽く笑い飛ばした。
「初めて店に来たときも、そう言っていたな」
「そう、ですね……。うう、僕、まだ全然子どもなのかな……」
バーとかホテルとか、大人っぽいこと全然知らないや、とデュースはしょげてみせる。
「別に、いいだろう。俺はそういう君も好きだ」
「すっ……、」
デュースは、口をぱくぱくと開け閉めする。……おや? こんなに効果があるとは。
「どうした?」
「シ、シルバーさん、僕のこと、その……好き、で、いてくれたんですか、本当に……」
こんなところまで着いてきておいて、今さら何を言っているのやら。
だが……この子には絡め手よりも、直球の方が効果があるのかもしれないな。
今だけは俺も、『店員さん』のドレスを仮面ごと脱ぎ捨て、ひとりの男として告白させてもらおう。
「ああ、好きだ。デュース、君のことが……」
だから、今夜君を俺のものにしてしまいたい。そう耳元でささやくと、また真っ赤になるかと思った。
確かに、デュースは真っ赤になった。が、俺の予想外のこともしてきた。
耳元でささやいた俺の胸に、とん、と頭をもたれさせて。そして言うんだ。
「……僕、も。シルバーさんのものに、なりたい、です……」
だから、その、ここまで来たんです、とデュースは言う。そうか。……何度も、引き返すチャンスはあったのに、最後まで着いてきてくれたのは。君も……。
俺は、ぺろ、と唇を舌で舐めた。デュースには分からないように。
「上を向いて」
「あ……」
デュースの顎に指を当て、上を向かせる。そっと顔を近づければ、デュースの目がとろんとした様子で閉じられた。
それから俺は、ベッドの中で、デュースに俺の昂る気持ちを伝えた。
2年前、迷子の俺の手を引いてくれたときからずっと、俺がデュースのことを好きだったこと。
そうして、『XYZ』という、3つの秘密の材料で作る、バーテンダーにとって究極のカクテルの話をして。
俺の想い、デュースの想い、そしてふたりの秘密を込めて、デュースを俺の『XYZ』にしてしまった。
――翌朝。
「んん……」
目が覚めると、昨夜、腕の中に抱いたぬくもりがいないことに気付いた。
身体を起こして辺りをきょろきょろと見回すと、すぐに探し人は見つかる。
「おはよう、ございます。……意外と朝、弱いんですね。そろそろ起こそうかなって思ってました」
首から胸元にかけて、昨夜の俺が散々つけた印をのぞかせたまま、シャツ1枚の薄着で笑うその人は、間違いなく昨日、隅から隅まで何もかもを俺のものにした、俺だけのお巡りさんだった。
「ああ、おはよう。君は……ゆっくりしていて、いいのか?」
「は、はい。今日は休みなので……」
俺はベッドから降り、彼が用意していたコーヒーの片方を受け取る。
「……だからあんなことを言いだしたのか? 帰りたくない、なんて……」
「やっ、それは、その、えっと! ……い、いつもからかわれてばっかりだから、たまには僕からも、反撃したくって……」
「ふっ、そうだったのか。……結果の程はどうだ?」
「ご覧の通り、です……」
昨夜、散々染めた頬をまだ赤くして、お巡りさんはしょげてみせる。
「コーヒー、ありがとう。眠気覚ましにちょうどいい」
「……」
「どうした?」
デュースはなんだか惚けた表情で、俺のことを見ている。
「あ、いえ。その。昨日から、思ってたんですけど。……シルバーさん、素だとそんな感じなんだなあ、って」
「幻滅したか?」
「い、いえ! や、その、いつも丁寧っていうか、余裕そうな顔ばっか見てたから、そのっ。……よ、余裕なさそうなところとか、リラックスしたとこも見れて、嬉しかったっていうか、えっと……そんな、感じで……」
俺はさらりとデュースの持つ群青色の髪を撫でる。
「お前になら、もっと、知ってほしい。……夜の姿だけじゃない、昼間や朝の、ありのままの俺の姿も」
「は、はい……」
少しだけ、デュースがうう、ともじもじした様子で言いかけた言葉を飲み込む。
「……何か、気になることでもあるのか?」
「あっ、いや、その。……今までのこと、すごく、手慣れてたから、えっと。……経験豊富なんだろうな、って……」
俺はその言葉に、なんと答えたものか、と考える。別段、俺は、経験豊富……な、わけではないのだが。
単に、バーで働いていると、老若男女問わず妙な客に絡まれることが多かったので、多様なあしらい方を覚えただけだ。
だが、それを素直に言って信じてくれるだろうか。
「……単に、一夜限りの恋心のあしらい方を知っているだけで、こうして本気の恋をするのはお前が初めてだ、と言ったら……お前は、信じてくれるだろうか?」
「ほんとに……?」
「ああ、本当だ」
「……信じます! その方が僕、嬉しいから……!」
信じてくれて、良かった。だが、こうも素直だと、少しばかり心配にもなるな。その純真さを、悪い男に付け込まれたりしないだろうか。……そんなことを考えていると、何故かくしゃみが出てしまった。ずっと上着を着ず、半裸でいたからだろうか……。
「なあ、デュース。良ければ、今度は昼間にも出かけてみるか?」
「だ、大丈夫なんですか? お仕事の時間、眠くなったりとか……」
「確かに、夜の仕事だから昼夜逆転していることも多いが……。午後ならわりと大丈夫だ。休みの日だってあるし、たまになら、早起きも……いや。いっそ、家まで起こしに来てくれれば……」
真剣に悩んでいると、本当に朝、弱いんですねとデュースは笑った。
そんな姿を見ていると、夜を彩るためのドレスも、冷静なバーテンダーの仮面も、すべて脱ぎ捨てて振る舞える気がした。
「……改めて、今、ひとりの男として、お願いしたい。デュース。俺のものに……俺の恋人に、なってくれないか?」
デュースは、一呼吸おいて、俺に飛びついてきた。
「もちろんです……っ!」
俺はそんなデュースを抱き返し、宥めるように頭をぽんぽんと撫でる。
「……こんなに嬉しい日は、人生で何度目だろうか。ありがとう、デュース」
「へへ……。これからよろしくお願いしますね、シルバーさん!」
それから俺たちは、一度ホテルを後にした。いい加減、チェックアウトの時間も近づいていたからだ。
「帰るなら、家まで送っていく」
「いいんですか?」
「……俺が、一緒にいたいだけだ。一秒でも長く、な」
赤くなってしまったデュースの手を繋ぎ、歩き出す。デュースの家に着くと、彼は改めて一時の別れを告げた。
「えっと、シルバー、さん。また、お店も行きますから……」
「ああ。……そうだ。俺の名前は、ほとんどの客に教えていないんだ。だから……」
二人だけの秘密だと思って、大事にしてくれ。デュースの耳元にささやき、頬にキスをする。
デュースはしどろもどろになりながら、は、はい、と返事をして、そして照れくさそうに、俺の頬にキスを返した。
「それじゃあ、また夜に。……待ってる」
「はい、またあとで……」
デュースが家の玄関をくぐるのを見届けて、俺も踵を返す。鼻歌混じりにバーに帰れば、おやおや朝帰りどころか昼帰りとはずいぶん遅いお帰りで、これはまた大人になったものだなとからかい混じりに笑う親父殿たちが待ち構えていて、俺は苦笑いを返す他なかった。
「で? 首尾の方はどうなんじゃ、シルバー。程よく行ったのか?」
「ええ、滞りなく。……今宵もまた彼が来るでしょうが、からかうのは程ほどにしてくださいね、親父殿」
「分かっとるさ。誰もお前の楽しみを取りはせんよ。な、マレウス、セベク?」
「ああ、もちろん」
「ふん。恋人ばかり贔屓するなよ、シルバー? 常連から恋人を選んだと知られたら、また客の間でお前が取り合われても知らないぞ?」
「ああ……気を付ける。心配ありがとう」
俺の楽しみも、これから起こり得るトラブルも、何もかも見透かされているな、と俺はまた苦笑いをする。改めて彼をこの頼りになる家族たちへ引き合わせるのはいつ頃にしようかと、今はただ幸福な未来を思い描いているばかりだった。
*おしまい
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