Don’t stop to love me - 1/2

*バーテンダー⚔×若手警察官♠をやりたくて書き出してしまったバーテンパロです。
*奏音69さんの楽曲『チェリーハント』の影響を色濃く受けております。
*飲酒描写があるため、キャラクターは皆、成人後の年齢操作をされています。
*⚔がずっと敬語なので、ひょっとしたら誰が喋ってるか分かりにくいかもしれません。

以上大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 

 

 ――僕の住む街には、ひとつのバーがある。『Bar Briar(バー・ブライア)』という名前の、お洒落なバーだ。
 仕事の帰り道、歩くその場所を、僕は看板と名前だけ知っていた。
 でも、ある日。その店の『OPEN/CLOSE』のドアサインを返していた、ひとりのバーテンダーさんを見かけて。
「……いかがしましたか?」
 僕は、一目で恋に落ちてしまったんだ。

「あっ、いや、そのっ! 見てただけですっ! えっと、いつも見かけるお店だなと思ってて!!」
「そうでしたか。……せっかくなら、中にも入っていかれませんか? ちょうど、オープンしたところなんです」
 そう言って、銀髪の店員さんは、さあ、こちらへどうぞと僕を店内へと招き入れる。
 僕は夢見心地で、誘われるままにカウンターへと着いた。
 こんな大人っぽい場所に入ったのは初めてだから、落ち着かなくて、少し店内を見回す。
 ――深いモスグリーンの壁紙に、アンティーク調の黒い木製カウンター。照明は極限まで落とされていて、カウンターには黒い薔薇の花が置かれている。
「こういうところは初めてでいらっしゃいますか?」
「えっ、あっ……。は、ハイ……。実は……」
 銀髪の店員さんは、あからさまに上がってしまっている僕の緊張をほぐすように、笑いかける。
「そうでしたか。では……若いお巡りさん。お酒は強い方ですか?」
「え? なんで僕のこと、知って……」
 まだ僕は自分が警察官だなんて、一言も言ってないはずだ。驚いていると、店員さんは僕の唇にちょん、と人差し指を当てた。
「内緒です。……こういう場所にいる人間には、秘密も多い方がそそられるでしょう?」
 僕はその仕草にドキッとして、つい顔を赤くしてしまう。店員さんが、そんな僕を見てくすりと笑った気がした。
「ご注文は?」
「えっと……」
 メニューを一通り見てみる。酒には弱くない方だけど、オシャレなカクテルのことなんて何も分からない。
「て、店員さんのオススメで……。僕、酒は弱くないので、たぶん、なんでも飲めるので……」
「かしこまりました」
 ふっと笑って、店員さんはテキパキと手早くカクテルを作っていく。
 洗練された動きに見惚れていると、やがて僕の前に一杯のグラスが差し出された。
「どうぞ。こちら『バイオレット・フィズ』でございます」
「綺麗な色ですね……。いただきます」
 グラスを傾け、ひとくち味わう。レモンの風味が爽やかで、とても飲みやすい。
「……うまい」
「何よりの褒め言葉です」
 店員さんは、綺麗な伏し目で笑顔を作り、僕のことを穏やかに見つめている。
 ……い、入口にいたときから思っていたけど、この人、綺麗すぎやしないか。
 なんていうか、なんか。こんな、大人っぽい場所で、こんな綺麗な人といるなんて、それだけで、ドキドキする。
「どうしたんですか? そんなに見つめて……」
 じっと見ていたのが気づかれてしまったのか、不思議そうな顔でほほ笑まれる。
「あっ、いや、その! な、なんでもない、ですっ……!」
 僕が明らかに慌てていると、店員さんは言った。
「……もしかして、もう、酔ってしまいましたか? それとも……俺に、何か? ああ、もしかして、見惚れていました?」
 よくいるんです、そういう方。その言葉に、かっと顔が熱くなる。からかわれてるんだ、と分かってしまったから。
「いっ、いえ! ジロジロ見ちゃってすいません! お、お酒おいしかったです、また来ます!」
 これお代です、と1000マドル札を置いて、僕は忙しなくバーを出ていく。
 2階のガラス窓から店を出ていく僕を眺めている店員さんが、ぺろりと舌なめずりをしたのは、まだあの頃の僕には見えていないことだった。

 翌夜。僕は、また、『Bar Briar(バー・ブライア)』を、訪ねていた。
「いらっしゃいませ、こんばんは。……ああ。またいらしてくれたんですね、お巡りさん」
「は、はいっ。きまし、た」
 店に入るなり、銀髪の店員さんがカウンターへと案内してくれる。
「本日のご注文は?」
「あ、えっと……。バーに来ておいてなんなんですけど、僕、実はお酒とかカクテルに詳しくなくて……」
 申し訳ないやら恥ずかしいやらで店員さんの目を見られず答えると、そういう方もよくいらっしゃいますよ、これから知る楽しみがあるのだと思ってお気になさらず、と店員さんは言ってくれた。
「では、今日あった出来事なんかを聞かせていただけますか? 貴方にぴったりの一杯をご用意いたします」
「えっと、じゃあ……仕事に差し支えないことを、少しだけ」
 今日は迷子の道案内をしたということや、僕はまだ新米だから大きな仕事は任せてもらえず、現場での小さな下積みから始まっていることを話した。
「なるほど。それでは、お巡りさんにはこちらのカクテルがお似合いかもしれませんね」
 そうして差し出されたのは、綺麗な青色のカクテルだ。
「こちら、『ブルー・ラグーン』になります」
「綺麗ですね」
「ええ。爽やかな青色が美しい、夏を思わせるカクテルですよね。まるで貴方のようだ」
 さ、さすがバーの店員さん。お世辞までお洒落でカッコいいな。僕が照れながら、ひとくち飲むと、店員さんが言った。
「ああ、いけない。忘れていた。……お客様、時にお尋ねしますが……。甘いものはお好きですか?」
「え? はい。好きです」
「良かった。それなら……」
 す、と僕の唇に、何かが押し当てられる。春を思わせる桜の匂いが、僕の鼻先を通り抜けた。
「少しだけ、口を開けて」
 僕が言われるままに口を開けると、とん、とそれが押され、僕の口の中に甘酸っぱいシロップ漬けのチェリーの味が広がった。
「すいません。本当はグラスに添えなくてはいけなかったのですが、忘れてしまったので」
 内緒ですよ、と店員さんは口元に人差し指を添える。僕はただ真っ赤になって、ぽうと固まっていることしかできなかった。

 それから、僕は『Bar Briar(バー・ブライア)』へ通うようになった。
 ある日、適当に出してもらったカクテル……これ、なんだったかな? 確か、『ライラ』ってやつだったかな。それを呑みながら、同僚のエースへの愚痴を言っていると、銀髪の店員さんが言った。
「そうですか。そんなに仲の良い同僚の方がいらっしゃる……それは、妬けますね」
 僕は困惑して、言った。
「や、妬けるってなんですかっ。僕のこと好きなんですかっ!?」
 すると店員さんは驚いたように目を丸くして、そしてふっと余裕そうにほほ笑んだ。
「どう思います? ……俺のことが、気になりますか?」
「え、いや、その……っ!」
「おや? 顔が赤いように見えますね。俺のことを好きなのは、もしかして、お巡りさんの方なのでは……」
「ま、また来ますっ!! これお代っ!!」
「ふっ、またのご来店を」
 また、またからかわれた……!! 僕はこの頃、『Bar Briar(バー・ブライア)』へ通っていたが。どうにも、僕の気持ちは見抜かれてしまっている気がする。その上で、転がされてる。どうにもそんな気がしてならない。
「僕、そんなに単純なのかなあ……!?」
 翌日、同僚のエースにそんな疑問をこぼすと、何かあったの、と聞かれた。
 バーであったことを一通り話すと、エースは言った。
「それ、『色恋営業』ってやつじゃないの!? お前、騙されてんだよ! 恋心みたいなの、利用されてんだって! その証拠に、まんまと常連になっちゃってるじゃん!」
「うっ、そんな、はずは……!!」
「ないワケないって!! 絶対そーじゃん!! 信じちゃダメだってああいうとこで働いてるヤツの甘い言葉は!!」
 エースの言葉に、僕は一理ないこともないかもな、と感じながらも。
 それでも仕事帰り、僕の足はあのバーに向くのだった。

「いらっしゃいませ、こんばんは。……ああ、お待ちしておりました」
「どうも……」
 いつものカウンター席に通され、僕は少し俯きながら椅子にかける。
「どうされました? なんだか、浮かない様子ですが」
「あ、いえ……」
 僕が、なんと言ったものかと思っていると、店員さんが、僕に向けて少し顔を近づけてきた。え、何、なんだ?
 思わずぎゅっと目を閉じると、銀髪の店員さんは、僕の耳元でささやいた。
「……お巡りさん、煙草をやるんですか? いけない子だ」
「こ、これはその! ちょ、ちょっと上司との付き合いで吸っちまっただけで……っ、普段は全然!」
 店員さんは、グラスの縁を指でなぞりながら、言った。
「俺は、煙草を吸わない人の方が好みですね」
 あ、もう、色恋営業でもなんでもいいや。そう思った僕の口からは、勝手に言葉が漏れ出ていた。
「……禁煙します……」
 そうすると、いい子だ、と1杯のカクテルを差し出された。今日のカクテルは、『ブルドッグ』と言うらしい。
 頭がなんだか、グラグラする。なんていうか、クラクラして。酒に酔ったわけじゃない。この人自体に、僕はきっと酔ってるんだ。
「エースも、馬鹿だよな……。『色恋営業』だなんて、そんなことする人には、思えないのに……」
 僕がぽつりと、ひとり言のようにそんなことをこぼすと、銀髪の店員さんは、グラスを拭きながら、何かを言った気がした。
「本気ですよ」
「え? 今、なにか」
「いいえ。……ひとり言です。お気になさらず」
 
 それからまた、僕はあのバーに通おうと思っていた、んだが。仕事の書類にミスがたくさん見つかって、終わるまで帰さないよと上司に言われてしまい、すっかり遅くなってしまった。
「すいません、まだやってますか……」
「ああ、いらっしゃいませ。遅いから心配していたんですよ。何か、ありましたか? さあ、こちらへどうぞ」
 いつものカウンター席へ通され、僕は言う。
「いえ、ちょっと……。仕事で使う書類に、ミスが見つかっちゃって。しかも、たくさん。僕、ダメダメですね」
「……お巡りさんは、いつも一生懸命頑張られていますよ。嫌なことは、呑んで忘れてしまいましょう。さ、こちらをどうぞ」
 今日差し出されたカクテルは『キャロル』というカクテルだった。少し苦いけど、今の僕にはそれがちょうどいい。
「ありがとうございます……。今日はもう少し、強いのを頼んでもいいですか?」
「ええ、ですが無理はほどほどに。……2杯目は、何かお好きなものをご注文なさいますか? それとも……」
 それから、僕は適当にとにかく強いの、と注文したような気がするが、よく覚えていない。
 次に目が覚めたときは、バーのカウンターだった。
「あれ、僕……?」
 目を覚まして辺りを見回すと、誰もいないバーの中だ。……嘘だろ僕、まさか、バーの閉店後まで眠っちまってたのか。
 申し訳ないなと思いながら一声かけて帰ろうと立ち上がろうとすると、肩にかけてあるものに気付いた。
 ……誰かのジャケットだ。この服をバーの中で見かけたことはないから、店員さんの制服では、なさそうだ。
「あの、すいません……」
 控え目に、誰か店内にいないかと声をかける。勝手に帰るのはマズイだろうと思ったから。
 すると、すぐにパタパタと足音がして、銀髪の店員さんが現れた。……私服だ。このジャケット、あの人のものだったのかな。
「ああ、目が覚めたんですね。良かった」
「す、すいません。僕、酔いつぶれちゃったみたいで……」
「いえ。大丈夫ですよ。カウンター、もう一度座ってください。チェイサーくらい出しますから」
 そう言って店員さんはジャケットを受け取ると、僕を再度カウンターに座らせ、グラスに氷水を用意する。
 僕は申し訳なくなりながらもそれを受け取り、ありがとうございます、と喉に通した。
 冷たい氷水が、喉と頭に染みて、落ち着く。ほう、と溜め息をつくと、店員さんは僕の様子を見ながらカウンターに肘をついた。
「……今日のミスは、そんなに忘れたいほどショックなことだったのか?」
「え? あ、いや。……ミス自体は、そんなに大きくないけど。僕、やっぱり要領が悪いなあって、落ち込みそうになって。……そしたら、つい……」
 突然、いつもと違う喋り方で話しかけられて、僕は内心、少し驚く。
 でも、店員さんの態度は、いつもと変わらない、余裕そうな笑みだった。
 だから、僕も表には出さないことにした。
「そうか。……でも、俺は知ってる。デュース、君が……誰よりも頼りになる、警察官だってことを」
「え……」
 どうして僕の名前、と、口にするよりも前に。口を、塞がれていた。
 まだ名前も知らない、銀髪の店員さんの唇で。
「!?」
 店員さんの指が、僕の唇をなぞる。じっと、オーロラ色の瞳で見つめられて、僕は何も言えなくなった。
「……『シルバー』。俺の名前だ。覚えて、いてほしい」
「し、シルバー、さん」
「ああ。……今日はもう遅い、家へお帰り。ひとりで大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですっ! でも、その……」
 色恋営業だよ、というエースの言葉がちらつく。でも、なあ。いくら営業たってなんたって、キス、なんかまでするものなのか?
 店の出入り口に近づきながら、ちら、とシルバーさんの方を見ていると、別れ際に、こう言われた。
「言っただろ、『本気だ』って。……また店に来い、待ってる」
 カラン、と涼やかなベルが鳴り、店のドアが閉まる。僕は、ひとり、頬をつねって、これが夢じゃないかを確かめた。

 ――薄暗い照明。光るグラス。鳴るシェイカー。今夜も俺は、この『Bar Briar(バー・ブライア)』の中で、ひとりの常連客を待つ。
「シルバー。そろそろお前のお気に入りが来る時間ではないか?」
「親父殿。ええ、そうですね……今日は、彼に何を出してやりましょうか」
「ふん。欲しいならさっさと自分のものにすれば良いものを、何を回りくどい真似をしているんだ貴様は」
「だが、シルバーの気持ちも分かると言うものだ。あの青年、見ているだけでなかなか楽しいではないか? ひとつひとつの言動に、くるくると表情が変わって、まるで子猫のようだ」
 口々に、同僚兼家族である皆はそんなことを言う。俺があの青年――デュースのことをいたく気に入っていることは、共に働く皆の知るところだ。
 だが、もうひとつ。皆の知らない理由が、彼と俺の間にはある。
 それは、二、三年前のこと。この街に来たばかりで迷ってしまった俺を、新米警察官だった彼が、手を引いて助けてくれたのだ。
 俺がそのとき、目立つのを嫌いフードを目深に被っていたせいもあってか、彼は俺と知り合ったことがあることに気付いていないようだが。……それでも。初めて降り立った異郷の地で、絶対に大丈夫だからと言って手を引きながら、一生懸命に、時間をかけて目的地を探してくれた彼の純真さと懸命さには、心が救われた。
 だから、あの日。俺がドアサインを返していた日、彼が俺のことを見つめていたのは、運命だと思ったんだ。
 ――『バイオレット・フィズ』、『ブルー・ラグーン』、『ライラ』、『ブルドッグ』、『キャロル』……。その他にも、彼に出すカクテルにはいつも、俺の秘めた想いを忍ばせてきたが、彼はいつ、それに気づいてくれるだろうか。
 まだ、気づかなくてもかまわない。俺が指先で、口先で翻弄すれば、すぐに真っ赤になってしまう君を、まだ愉しんでいるのも悪くない。
 いつか彼が、グラスに隠したこの想いに気付いて、『XYZ』を注文してくれるその日まで、待つつもりだ。
 さて、今日はどうやってあの純情なお巡りさんの頬を赤く染めてやろうかと、楽しい想像をしながらドアサインを翻す。
 そうすれば、いずれカラン、と涼やかな鐘の音がして、そうして、きっと現れる。
「いらっしゃいませ、こんばんは――ああ、今日も来てくれたんですね。……俺の、お巡りさん」

*おしまい

→オマケ(リリアちゃんの作中カクテル解説講座)

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