NGパタニティ!

・なんでも許せる人向けです。

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 突然だけど、僕には気になる人がいる。
 その人はいつも渋くて格好良い、憧れの先輩で……。
 でも、こんなことほんとに思っていいのかって、思うんだ。
 シルバー先輩が、まるで。――お父さんみたいだな、なんて。


 
 突然だが、俺には気になる子がいる。
 気になる、というのは、その。まあ、恋愛的に、という意味で……。
 彼は学年が1つ下の後輩で、性格は素直で純粋。少しそそっかしくて騙されやすいところが危なっかしくて、目を離せない。
 どこにでもいる普通の青年のようでいて、どこかまわりの目を引いてしまう魅力がある。
 そんな彼――デュース・スペードのことが気になっている。

 なんとなく道を歩いていると、池のほとりに座すデュースの姿を見つける。何やらデュースは落ちこんでいる様子だった。
「あ、シルバー先輩……」
「どうした、デュース。落ち込んでいるのか?」
「はい。……またテスト、赤点取っちまって……」
 ダメダメですね、僕。池の水鏡を見つめながら、しょげてしまうデュースの隣に座る。そうして、彼の頭を撫でた。
「ダメなことはない」
「ありがとうございます、励ましてくれて……」
「……本当に、そう思っているんだぞ。知っているか? 俺の去年のテストの平均点は、お前と変わらないか、それよりも下ばかりだった」
「えっ!? シルバー先輩が!?」
「ああ。0点や赤点になることもしょっちゅうだ」
「なんか、意外です……」
「俺は、ナイトレイブンカレッジに入学するまで、学校に通っていなかった。だから、テストの受け方も、見直しや予習、復習をするべきだということも、よく知らなくて。リドルに勉強の仕方を教えられるまでは、散々な成績だったんだ」
 だから、お前も。
「勉強のやり方さえ分かってしまえば、きっと、俺と同じ……いいや、それ以上に、成績が良くなると思う。少なくとも、俺はそう信じている。頑張れ、デュース」
「……はいっ!! 頑張ります、シルバー先輩っ!!」
「ああ」
「へへ。シルバー先輩と話してると、元気が出ますね。こういうの、なんて言うんだろ……」
「……さあ、な。それについては、ゆっくり考えてくれていい。俺は、急がないから」
「……はいっ」
 デュースは照れたような顔で、俺の言葉を聞いてくれた。下心から励ましたわけではないが、それでも、わずかに湧き上がる俺の欲は、デュースは俺のことをいい感じに思ってくれたのではないだろうか、とそんなことを考え始めた。

 今日はシルバー先輩に励ましてもらった。なんか、どっしり構えてちょっと後ろから見守ってて、いざというときは背中押してくれるみたいな感じ……。やっぱり、お父さんっぽいよな!
 僕にはお父さんがいないから、余計にそんなこと思っちまうのかもしれないけど。
 はは、こんなこと思ってるだなんて、先輩にバレちまったらどうしよう。
 あ、でも。シルバー先輩、親父さんと仲いいし、案外笑ってくれるかもな!

「シルバー先輩!」
 後日。デュースが満面の笑みで俺の元へと駆けてくる。勢い余って飛び込んでくるデュースを抱き止めると、デュースは嬉しそうに言った。
「見てください、テストの点数良かったんです!! こないだ先輩が励ましてくれたから、頑張ろうって思って、それで」
「分かった、分かった。落ち着け」
 デュースの頭をぽんぽんと撫でる。
「えへへ……、はいっ!」
「良かったな」
「はいっ!!」
 一通り落ち着いたデュースが、俺から身体を離し、大人しくなった。と思ったのも束の間。デュースは、そっと俺に抱き着いてきて、こう言った。
「もうちょっとだけ、こうしててもいいですか?」
「あ、ああ……」
「……先輩にぎゅってされてると、落ち着く……」
 どきどきと心臓が音を立てる。まさかデュースの方から、こんな近づき方をしてくれるなんて。
 悪く思っていない、どころか。俺たちは同じ気持ちを持ち合わせているのではないだろうか、なんて期待が脳裏をよぎる。
 改めて強く抱きしめ返してもいいだろうかと逡巡していると、デュースがぱっと顔をあげた。
「……よし! 充電完了!! 付き合ってくれてありがとうございます、シルバー先輩!」
「あ、ああ」
 あまりにも名残惜しさがなくさっぱりしたその態度に、もしかして先ほどまで思っていたことは俺の幻想ではないかという疑問が湧き立ってくる。しかし、デュースはくるりと振り向いて、俺に笑った。
「先輩。僕、先輩のこと……」
 どきりと、心臓が音を立てた。……が。次に続いたデュースの言葉は、俺の予想だにしないものだった。

「やっぱり、お父さんみたいだなって思います!!」

「……お、父さん、か?」
 ようやく絞り出せた声で尋ねる。
「はい! いつも僕のこと応援してくれて、男らしく見守っててくれる感じがお父さんみたいだなって!! だから、一緒にいたり、ぎゅってされると安心するんだなって……そう思うんです!!」
 お父さん。お父さんか。そうか。俺は、お前のこと好きな子だと思ってるんだが。
「……そうか、お父さんか……」
 ふっ、と口からなんとも言えない溜め息のような笑いが出る。
「先は、長そうだな……」
「はい?」
 きょとんとするデュースを引き寄せて、俺はくちづけた。
「えっ!? シ、シルバー先輩っ!?」
「……お前からしたら『お父さん』かもしれないが……。俺は、『恋人』になりたいからな。覚えておけ」
 どうにも目標地点を間違えてしまったことを認め、修正にかかる。
 デュースはといえば、真っ赤な顔でうろたえていた。
 ……良かった。脈はあるみたいだな。『お父さんだと思ってたのに!!』と青ざめられたらどうしようかと、わりと本気で心配していた。

 それから。
 デュースには、ただのお父さんだと思われないように、俺は努力をすることにした。
 デュースを励ますときにも、応援するときにも、必ず俺のことを男と思ってほしいとアピールをした。
 ……デュースへの純粋な応援が下心から出る発言のように聞こえてしまったかもしれないが、まあ多少は仕方ないだろう。必要な犠牲だ、と思う。
 その甲斐あってか。デュースはだんだんと、俺のことを意識するようになってくれた、気がする。
「デュース」
「わひゃっ!? シルバー先輩っ!?」
 ほらな。耳元に話しかけるだけで、もう真っ赤だ。
「今日は何してるんだ?」
「え、えっと、自習です……っ」
「そうか。見せてみろ」
「……っ、こ、これ……っ」
 デュースの肩越しに、テキストを眺める。熱すぎるほどの熱がちょうどデュースの柔らかな頬のあたりから伝わってくる。
「……」
 ぷに、とデュースの頬を押すと、何するんですかとデュースは膨れてしまった。可愛い。
「可愛いな」
「可愛くないですっ」
 そう拗ねるな、邪魔する気はないとデュースのさらさらとした髪を撫でてやると、デュースは俺のことをじっと見て、それから目を伏せた。
「俺はまだ、お前の『お父さん』か?」
「……わかんないです……」
 ぷしゅうと音を立てるように赤くなりながらテキストに顔を伏せるデュースに、俺はそっと笑みをこぼした。

 そんな日々を過ごしていく中で、デュースの心は、だんだんと俺に向いてくれているのだろうと期待を重ねていく。
 一方で。まだ、それでも『お父さん』だと思われてないだろうかという不安も残っていた。
 ……いや、父親ならしないようなことをデュースにはしてきた。そろそろデュースのその感覚も抜けてきたはずだ。
 そんなことを考えて悩んでいたとき。デュースの方から声をかけられた。
「あ、あのっ、シルバー先輩……っ。話があるんです! 聞いてくれますか……っ」
「……ああ、もちろん」
 ずいぶん緊張した様子で、精一杯の勇気を出して俺に声をかけるデュース。ああ、これはただ事ではないのだろうな。
 ほほ笑ましく思いながら、俺はデュースの言葉を了承した。
 ここではなんだから場所を変えて、というので、俺たちは学園の廊下を移動して学園裏の森の中へと移動した。
「この辺でいいか?」
「は、はい……っ」
 デュースを振り向き、言葉を待つ。
「あの、シルバー先輩……っ」
「ああ」
「前、シルバー先輩は、僕と恋人になりたいんだって、言ってましたけどっ」
「ああ。確かに言ったな。それに、今でも変わらずそう思っている」
「そっ……、は、はい。それが本当ならっ、その……っ」
「……ああ。どうした? 怖がらずに、言ってみろ。笑ったり、怒ったりしないから」
 何を言われても。促すと、デュースはほっと安堵して、それから俺にその言葉をようやく口にした。
「……僕、も。恋人に、なりたいって思います。シルバー、先輩の……」
「ふっ、そうか。そんな気はしていた。だが……それでも、こんなにも、嬉しい」
 デュースのことを腕の中に引き入れ、抱きしめる。前はデュースの方から抱き着いてきたが(そしてお父さん扱いされたが)、今日は俺の方が恋人として抱きしめている。……嬉しいことだ。
「今日から、お前と俺は恋人同士、だな」
「……は、はい……っ」
「緊張しているか?」
「す、少し……その、誰かと、告白とかっ、お付き合いとかするの、初めてなので……っ」
「ふっ。そうか、そうか」
 リラックスしていいとデュースの髪を撫で、前髪にキスをする。するとデュースはぷしゅうと音が出そうなくらい真っ赤になってしまった。
「……ドキドキして、どうにかなっちまいそうです……」
「ああ。もっとドキドキしてくれ。……『お父さん』だなんて、思わないようにな?」
「あっ、えっと、それはその……っ!!」
 まだ根に持ってたんですか、当然だ、結構ショックだったんだぞ。俺はまだ子を成した覚えはない、とデュースと応酬をする。
「悪口じゃないんですよっ! ただ、どっしりかまえて、僕を見守っててくれる感じが、お父さんっぽくて安心したっていうか……っ」
「俺はお前の恋人のつもりだった」
「えっ……、って、それもなんかおかしくないですか!?」
 そうだろうか、と答えれば、そうですよ、とデュースは口を尖らせる。
「いいだろう、結局今は恋人になったんだから」
「それは、そうですけど……」
 もう、と呆れた声を出すデュースの顔を上向かせ、くちづける。
「『お父さん』はおしまいだ。これからよろしく、『恋人』のデュース?」
「……はっ、い……、よろしく、お願いします……っ」
「ああ」
 ぎこちなく返事をするデュースに笑みを返し、指を絡めて手を握る。
「このまま教室の方まで戻ろう」
「このまま、ですか?」
「ああ。お前が友人たちにも『シルバー先輩はお父さんみたいな人だ』と吹聴している可能性があるから、俺は恋人だと思っていると主張していきたい」
「うっ……」
 どうやら心当たりがあるようだな。
「それとも、俺と噂になるのは嫌か?」
「い、嫌じゃない、です……」
「なら、行こうか」
「はい……」
 デュースの手を引き、教室棟へと戻る。途中何人もの学友とすれ違って、不思議そうな目で見つめられたが、その度にほほ笑みを返しておけば、皆俺のことを理解してくれる。こうして、俺とデュースとの交際は始まった。

 シルバー先輩と、恋人になった。
 単純かもしれないが、元々、お父さんみたいな先輩だと思ってたのに、『俺はお前の恋人になりたい』なんて言われちまって、それから『この人僕のこと好きなんだよな』ってすっごい意識して、好きになっちまった。
 だから、僕からも好きになりましたって報告して、恋人になった。のは、いいんだけど。
 恋人になってから、なる前からもだったけど、いっぱい抱きしめたり、キスしたりされて、僕にもだんだん慣れみたいなものが出てきた。シルバー先輩がそうしてくれるのは当たり前、みたいな甘えっていうか、そんなのが……。
 それをシルバー先輩に話したら、かまわない、って嬉しそうに笑ってくれた。
 それで、俺には好きなだけ甘えていい、ってぐしゃって頭を撫でながら僕をぐいって抱き寄せて。なんだか子ども扱いされてないか?
 ……そういうとき、僕はちょっとだけ、未だに思うんだ。やっぱり、ちょっとお父さんみたいだな、って。
 だって、シルバー先輩、僕のことちょっと育ててないか? いろんなことをこうしたらいいぞ、ああしたらいいぞって教えてくれるのは嬉しいけど、偉いな、すごいぞって褒めてくれるのも大好きだけど、そういうところが……なんていうか、先輩っていうか、ちょっと過保護なお父さんみたいなんだよな。
 でも、さ。僕がシルバー先輩の好みに育てるなら、それもいいかな、なんて。今はそう思うんだ。
 だけどこれは内緒なんだ。だって、シルバー先輩。お父さんって言われるの、めちゃくちゃ気にしてるみたいだからな。
 だから……僕だけのヒミツ、だな。シルバー先輩のこと、お父さんでもあり、恋人でもあるって思ってるのは!
「どうした、デュース? なんだか楽しそうに笑っているが……」
「へへっ。……なんでもありません!」

 デュースは俺の膝に転がって、楽しそうに笑っている。まるで幼い子どものような振る舞いだが……甘えてくれているのだろうか。
 恋人として甘えてくれているのならいいが。……ひょっとして、まだ『お父さん』だと思われてないだろうか?
 なんて……そんなはずは、ないよな。
 そんなことを考えながら、柔らかな風が吹きさす午後の柔らかなひと時を楽しんだ。

*おしまい

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