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 いつからだろう、声を聞くことさえ待ち遠しくなったのは。
 どうしてだろう、何をしていても、ふと、今頃どうしているかが気になってしまうのは。
 ああ、お前のことだ。また、俺の見ていない隙に無茶をしてはいないか?
 ひとつのことへ夢中になりすぎるあまり、頑張りすぎてはいないだろうか。
 どんなことにも一生懸命なのはお前のいいところだが、あまり、張り切りすぎてはくれるな。
 俺はお前が、心配なんだ。
 何故、なぜなら、それは……。
 
 ――これは俺の、けして口には出さない恋文だ。
 
 俺にはひとつ年下の後輩がいる。名前はデュース・スペード。彼には、どうやら好きな人がいるらしい。そして、それは俺じゃない。
 だが、俺の気持ちはその事実とは裏腹に、とても穏やかなものだ。
 何故かと問われれば、そうだな。俺は、この想いを成就させようとは思っていないから、と言えばいいだろうか。
 なぜ、デュースへ特別な想いを持ちながら、それを叶えずにいられるのか。それは、俺がある種の理想をデュースへと描いているからだろう。
 デュースは何にも縛られず、自由でいるのが良く似合う。それは縛るのが俺だとしても同じことからだ。
 だから。デュースが、彼自身の自由な意思で、誰かと結ばれようとするのなら、それでいい。
 もしも誰とも結ばれなくとも、それでいい。俺はただ、いつでも傍にいて、喜びがあれば共に笑みを浮かべ、悲しみがあれば寄り添うだけだ。
 そう、思っていたのだが。

 昼休みの食堂。デュースの隣の席につくと、どうやら話題はちょうど恋の話になっていた。
「もうすぐバレンタインですけど、シルバー先輩もやっぱり、誰かにチョコレート貰いたいとか思うんですか?」
 まさか、想い人本人にそんなことを聞かれるとはな。だが、俺の答えは変わらない。
「俺は、そうしたことにあまり興味はないな」
「そっか……」
「お前は、誰に貰いたいんだ?」
 そう尋ねると、デュースは顔を赤くして慌ててみせた。
「えっ、や、僕は……っ!」
「照れなくてもいい。大切な人がいるというのは、良いことだ」
 そうですよね、なんてデュースは照れくさそうに頬をかいてみせる。だが、デュースにしては頬の赤みが幾分か少ないような気がした。
「何か、不安なことでもあるのか? それなら言ってみろ。俺で出来ることなら、力になろう」
「や、不安とか、あるわけじゃないんですけど……」
「それならいいのだが」
 歯切れの悪いデュースの返答が少々心配だが、あまり首を突っ込むのも良くないだろう。
 そんな風に考えていると、デュースの方から誘われた。
「あの、このあとちょっと時間ありますか!? 相談したいことがあるんです」
 俺は、二つ返事でこれを了承した。
 
「それで、相談したいこと、とは?」
 改めて中庭のベンチに場所を移し、デュースの相談を聞く。わざわざ俺に相談したいことと言うのは、一体なんなのだろうか。知りたい。俺で力になれるのならば、助けたい。それがどんなことであっても。
「えっと……。シルバー先輩は、特別に人を好きになったことってありますか?」
「ああ、あるが」
 というか、今まさにその状態だが。
「えっ!? あるんですか!?」
「……ないと思われていたのか?」
「い、いや、あんまりそういうの興味ない方かなって……えっ、じゃあ好きな人とか……今いるんですか!?」
「……まあ、いなくはない」
 成就させるつもりはあまりないが、隠し立てすることでもないので適当に答えておく。しかし、それがやけにデュースから食いつかれてしまった。
「本当ですか!? それなら僕、先輩に協力したいです!」
「……お前の相談はどこへ行ったんだ?」
 呆れた顔でそう聞けば、デュースはそうだった、と慌ててみせた。まったく。本来の目的を忘れてしまうのは良くないぞ。そそっかしいやつだ。まだまだ俺がしっかり見ていてやらないと。
「僕は、えっと……。なんていうか。相談、したかったんですけど……よく考えたら、良くない気もしてきました」
「俺に聞きたいことがあったんじゃないのか? なら、遠慮せず言うといい」
 ほら、と促せば、デュースは諦めて白状し始めた。
「……実は。僕、好きな人いるって先輩には言ってましたけど、実際、それが本当に好きって気持ちなのかどうか、分からないんです」
「好きかどうか、分からない?」
「はい。はじめは、あ、この子可愛いなって思ったり、なんだか気になるな、って気持ちが、好きってことなんだと思ってた。だから、あ、僕にも好きな人ができたんだ、って思ってて。でも、だんだん、なんか……別の人に、気を取られるようになってって。でも、元の子を可愛いと思う気持ちもまだあって、じゃあそれって、最初の気持ちは好きってことじゃなかったのかな、とか。そしたら新しい気持ちの方は一体なんなんだ、って。ひょっとしたら僕、浮気性なんじゃないかって思ったりもして」
「そうか……複雑なんだな」
 思春期の心は複雑なものだと、親父殿から教わっていた。だから、時には心がそのように揺れ動くこともあるのだろう。俺は、そのことをデュースにそのまま伝えた。
「時期特有のもの、か。それならいいんですけど……」
「ああ。じっくり待っていれば、いずれはどちらかの気持ちに落ち着くだろう」
「それって、どれくらい、なんでしょうか。一年とか二年だったら、さすがに困るなあ」
「そうなのか?」
「はい。もし、どっちかの気持ちに落ち着いたとして、落ち着いた頃にはもう、好きだと思った人がいないってなったら、困っちまうな、って」
「先輩や後輩なのか?」
「もともと気になってたのは、街で見かけた女の子なんです。で、新しく気になった別の人ってのは……その、学校の、先輩で」
「学校の先輩、か」
 この学校は男子校だ。ということは、相手は男性ということなのだろう。デュースはおずおずと俺の顔を伺い見る。
「変だと思いませんか?」
「思わないな。俺の想い人も、同性だ」
「えっ、そうだったんですか」
「ああ」
 すると、ふと、デュースは言った。どこか遠くを眺めるようにして。
「僕の好きな人と、シルバー先輩の好きな人が、お互いだったら良かったのに」
「そうしたら、悩まなくて済んだ……か?」
「はは、ダメですね。僕、すぐ楽な方に行こうとして」
「俺はかまわないが。お前の悩みは、どちらが本当の恋なのか分からない、ということだろう。その悩みは、仮に俺が相手でも変わらないのではないか」
「うっ……、それは、そうですね」
 僕どっちが好きなんだろう、とため息をつくデュースに、俺はぼやく。
「……もし、お前の言っている相手が俺ならば。俺は、お前の本当の恋の相手は、やはり最初の女子なのではないかと思うだろうな」
「へっ? なんでですか?」
 きょとんと驚いた顔をするデュースの頬に触れようとして、やめる。そして、その手をひとり握った。
「お前には、その方が似合っていると思うから」
「シルバー、先輩」
 冷たい冬の風が、俺たちの間を通り抜けた。
 
「では、俺はそろそろお暇しよう。あまり力になれず、すまなかった」
 立ち去ろうとする俺に、デュースは叫んだ。
「あのっ、シルバー先輩」
「なんだ?」
「……もし。もしも本当に、僕の気になってる先輩が、シルバー先輩だったとしたら……、先輩は……やっぱり、同じ答え、なんですか?」
 俺は、その言葉に面食らって。少し考えて、言った。
「もし、そうなら……試せるかもしれないな」
「試す、って?」
「お前の恋が、本物なのかどうか」
 詳しいことはまた連絡する、と告げ、俺は改めてその場を立ち去る。なぜなら。もう、平静でいられる気はしなかったからだ。
 デュースのあの口ぶりからすると、新たに気になった先輩というのは、俺のことなのだろう。俺のこと、だよな? そうでなければ、あのような疑問は出てこない。
 だが、デュースの奴は、同時に同じ口で、可愛らしい女子が気になりもすると言う。デュースの気持ちは分からないが、俺は。俺の方に来ることなどけしてないだろうと諦めていたものが突如として手に入りかけたことで、動揺を隠せなかった。
 口ではデュースを縛りつけたくないと言いながら。それでも、自分だけのものになれば、と、まだどこかで願っていたのだろう。
 ……なんと諦めの悪い。
 だが、まだ、喜ぶには早い。デュースは、自分の気持ちをよく分かっていない。俺もまだ、デュースの本当の気持ちがどう転んでいくか分からない。
 だから。これからどうなったとしても……少しだけ、甘い夢を見させてもらうつもりで。スマートフォンのメッセージ欄を開いて、デュースに、申し込んだ。
『お前が本当に俺のことを気になっているというのなら、試しに付き合ってみるか?』
 デュースからの返事はこうだった。
『明日、顔見て返事させてください』

 改めて翌日、デュースと中庭で落ち合う。向こうも何か覚悟を決めてきたような雰囲気だが、それでもどこかそわそわとして浮き足立っている。
「えっと。……昨日のことなんですけど……」
「ああ」
「せ、先輩は本当にいいんですか? その、好きな人いるって言ってた、のに……」
 ああ。それが気になっていたのか。確かに、デュースからすれば俺の想い人が誰なのか定まっていない。疑問に思うのは当然だろう。
「別に、かまわない。問題はないからな」
「え、それって」
「お前の方は何か問題があるのか?」
「な、ないと思います、たぶん……」
「なら、試してみよう。実際に交際の真似事をしてみて、何か障害が出てくるのなら、そのときにこそ本当の恋なのかどうかわかるだろう」
「……分かりました! じゃあ、お願いします!!」
 こうして、俺はデュースと試しに交際してみることになった。
 と言っても、やることは以前とあまり変わらなかった。一緒に勉強をしてみたり、身体を動かしたり。
 時に2人で街へと出かけてみたり。デュースの方も、初めのうちはいやに緊張していたようだが、だんだんと2人でいることにも慣れてきたのか、そのうち俺との時間に緊張することもなくなっていった。
 折を見て部屋へと招き、これまでの振り返りをする。 
「交際してみて、少し経ったが……驚くほど、障害がないな」
「そうですね……。一緒にいると楽しいし、困ることもそんなにないし……」
「困ったな。これでは、俺がお前の本当の恋なのかどうか分からない」
 俺がひとり頭を悩ませていると、デュースが妙にそわそわとした様子で切り出した。
「えっと。……じゃあ、本当の恋人がするようなこと、してみます?」
「恋人がするようなこと、とは……」
「……キ、スとか……」
 デュースは顔を赤くして、目を逸らす。しかし俺には、そうしていいのかの疑問が残っていた。
「しかしそれは……俺が真実の恋人でなかったときに、後悔しないか?」
 いつか、やっぱり俺が本当の恋でなかったと知ったとき、もし女性が好きだとなったとき、同性の男とくちづけたり、睦み合っていたというような事実はデュースの未来に影を落とすのではないだろうか。俺がそのことを心配していると告げると、デュースは食い下がった。
「そ、うかもしれない、ですけど……」
 なんだかデュースは気まずそうだ。
「……その、正直……今、僕は、先輩と……キスとか、いろいろ……してみたい、って思う。だけどこれが、ただの興味本位なのか、先輩のことが本当に好きだから、そうしたいのか……分かんなくて」
 だからいっそ体験してしまえば、ただの興味なら失せるんじゃないかとも思ったんです、と言う。
「お前もなかなか酷な提案をするな」
 もしそういったことを体験した後に実際興味が失せた場合、残された俺のことは考えていないのだろうか。そのことを指摘されて気が付いたのか、デュースはすっかりしょげてしまった。
「あっ、いやその……そっか、そうですね……」
 何言ってんだ僕の馬鹿、とデュースは己の頭を叩く。俺はその手を取ってやめさせ、隣にひざまずいた。そして、そのままデュースの唇へとくちづける。何もそこまで気にしなくとも、それでお前が興味をなくすならなくすで、俺はかまわないんだ。元より、ひとときの甘い夢のつもりだったのだから。
「……どうだ? 興味は、なくしたか」
「へあ……っ、や、えっと……っ」
 デュースは真っ赤になって、なりながらも、俺にねだる。
「……突然でワケわかんなかったので、もっかい……」
「ああ」
 このデュースの可愛らしいねだりさえ、ただの興味本位で、それに応えて俺が尽くすことでデュースの興味が失せていくのなら、それはそれでいい。そうなったのなら、俺になど構わず、本当に心から求める人の傍に行って、幸せになればいい。そうして俺のことなんて忘れても、それさえも、俺の好きなデュースの一部で、望ましい未来のひとつだ。
 そんなことを考えながらくちづけた。そんな俺の気持ちは知らないのだろうな、知らなくていい、ずっと、と心の中で笑いながら。
 心の中で、それと相反する何かが頭をもたげてくるのを、無理やり抑えつけながら。
「あの! 今、……めちゃくちゃドキドキしてます……」
「大抵はそうなるだろうな」
 お前はシャイな奴だから、と言えば、デュースは変な顔をした。何か不満でもあったのだろうか。
「シルバー先輩は、してないんですか?」
「……していない、ことはないが」
「……してくれないんですか」
 急に、どきり、と胸が打った気がした。俺に、同じように反応してほしいと拗ねるデュースの顔に、俺の鼓動が跳ねた。
 柔らかな唇の感触を思い出して、もっと、という欲が頭を出した。
 ……いけない。本気になっては、いけない。まだ、デュースの心がどうなるか、分からないのだから。
 自由でいてほしいんだ。デュースには、いつでも、俺に縛られずありのままの魅力で輝いていて欲しい。
 デュース自身が幸せなら、隣に立つのは俺でなくてもかまわない。デュースが他の誰を見ていようが、お前さえ幸せならば、俺は喜んで身を引こう。俺のことなどかまわず、忘れ去ってくれたっていいんだと、思い続けた。自分に言い聞かせ続けてきた。
 今だってそうだ。今、この瞬間だって同じ気持ちだ。
 ――そう、思ったのに。思っていたはずなのに、俺は、気が付けばデュースを床に倒していた。
「鼓動など、逸っているに決まっているだろう! お前とくちづけておきながら、平静でいられるものか……!」
「せ、せんぱ……」
「お前が、他に気になっている者がいるというから……! だから、俺は、お前の心が自由であるならと、それを、どうなっても受け入れようと思っていたのに、」
「先輩、」
「何故、そんな……俺を、俺ばかりを、本気にさせるようなことを言うんだ」
 なぜ、と噛みしめて歯を食いしばる。涙さえこぼれそうな視界の中、デュースは俺の頬へと手を触れさせた。
「……僕、なんですよね。シルバー先輩の、好きな人って」
「……」
 俺は答えない。コイツの前で認めてしまったら、もう戻れない。
「僕の気になってる人も、シルバー先輩だったんです」
「……ああ……知っていた」
 知っていた。知っていて、己の気持ちは隠していた。デュースのことを、俺の気持ちで我侭に縛り付けたくはなくて。それ以上に、もし、俺の方が本当の恋に選ばれなかったらと思うと、怖くて。ずっと、一歩退いていた。いつだってデュースを手離してやれると、余裕ぶっていた。本当は。本当はずっと、「やっぱり違いました」と告げられるその日が、甘い夢から覚める日が、怖くて仕方なかったくせに。
 だけど。デュースは、今、その境界線を踏み出そうとしている。ひとときの夢とこれからの現実の境を、壊そうとしている。
「最近、シルバー先輩と一緒にいて、思うんです。もっと一緒にいたい、もっと触れ合いたい、って。でも、それが一時的な興味なのか何なのか、僕にはわかんなくて。……だけど、今、先輩と一緒にいたいんです。いっぱいっぱいになってる先輩を放っておけなくて、今、泣きそうなアンタを、ぎゅって抱きしめてやりたいんです!」
「……そう、か」
「これがほんとの恋じゃないってんなら、何を僕は好きって言えばいいんですか……!」
 床に倒したままのデュースが、涙ぐんだ目で俺を見つめる。……ああ、もう。もう、戻れないなと直感した。
「すまない。もう、お前が今、誰にどのような気持ちを持っていようとも……俺のことを、好きにさせる。そう、決めた」
 デュースの口を塞ぐ。もう、今までの場所へと留まれる気はしなかった。
「んっ、」
「……生涯、言うつもりはなかった。だが、今だけは、口にしよう。お前が好きだ、デュース」
「シルバー、せんぱい……」
「好きだ、デュース……お前のことが。何よりも大切で……だからこそ、俺に縛り付けたくなかった。壊したくなかった。だが、それも、もう今日で終わりにしよう」
 そうして俺は、デュースを俺のものにした。

 ――すべてが終わった後。デュースは、俺の肩にぽふりと頭を乗せた。
「どうした」
「……僕、先輩のものになっちゃったんですね」
「ああ」
「なんか、不思議な気持ちです」
「そうか」
 全てが終わったあと、俺は、一抹の不安を覚えた。本当に、デュースは一時的に性的な関心を持っただけで、俺自身のことにはもう興味をなくしたのではないかと。だが、それは違った。
「え、えっちなことしたら、その人のこと好きになるって言いますけど、あれも、ひょっとしたらほんとなのかもしれないですね……」
「そう、なのか?」
「だって、先輩に……その、抱かれてる間、思ったんです。ああ、こんなこと先輩にされたいって思っちまった時点で、もう好きだったんだろ、って」
「だが、女性への興味もあったのだろう」
「それは、正直ありました。でも、こうやって、実際してみたら、そっちの方が、一時的な興味みたいなものだったのかも、って感じて。なんていうか、いつかはするものだって憧れてた気持ちの名残、みたいな……」
「……あまり、俺を調子に乗せないでくれ」
 デュースの肩を抱く。未だに震える自分の手が、情けないと思った。
「お前がその調子では、いずれお前が心変わりしても、離してやれなくなる」
 するとデュースはむっとして答えた。膨れた頬が可愛らしいなと、似つかわしくないことを思った。
「ここまで来て、まだ手離すつもりなんですか?」
「いい、のか。手離さなくても……」
 本当に、いいのだろうか。ただひとりのデュースを俺だけのものにする、そんな夢想を現実のものにしてしまって。
「いいに決まってる」
 デュースの方からくちづけられる。俺は、目を丸くした。
「急に積極的になったな」
「なんか、僕も先輩のことが分かってきたんで」
「俺のこと?」
「はい。なんていうか……、わりと僕のこと、すぐ諦めようとしちゃうんだなーって!」
 でもそれちょっと腹立つんで、とデュースは言った。
「一瞬でも僕を好きにさせたなら、ずっと、もう二度と離さないってくらいでいてくださいっ」
「しかし、」
「しかしもだってもないですっ!」
 本当にいいのだろうか、と俺の気持ちはまだ諦めの余韻を残しているが、身体は正直にデュースを抱きしめていく。
「ふっ。少なくとも俺の身体は、まだお前と離れたくないと言っているな」
「そ、それでいいと思います……」
 先程までの勢いはどこへ行ったのか、デュースはおずおずと俺の背中に手を回す。
「……こんなことを言葉にして、許される日が来るとは、ついぞ思っていなかった。だが、これからは……いくらでも、伝えられるんだな。俺だけのデュース……お前は、俺のものだ」
「へへっ……はい。僕、もう先輩のものですからね」
 覚えておいてくださいね、とデュースは笑う。元はと言えば、けして伝えないつもりだった想いだが。それが日の当たる場所に連れ出され、報われることがこんなにも喜ばしいことだとは思わなかった。
「俺はずっと、逃げていたのかもしれないな。お前への気持ちと向き合うことに」
 だが、これからはと続ける。
「大切にしよう。お前が、俺の気持ちを見つけてくれたから」
 手の甲にキスをすると、デュースは照れくさそうにしながらも、破顔一笑、眩い笑みをくれたのだった。

*おしまい

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