酔余の戯れ花見酒

この小説には以下の特殊設定が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※シルデュが付き合っている、恋人設定
※シルデュ以外のキスやそれに近い描写
※酔ってキス魔になるシルバー
※紅銀親子のことみんな知ってる、引退してないリリア
※エペルの方言は分からないので標準語側に寄せています。一応、皆と通じるように話したいから、という裏設定あり。
※キャラクターの飲酒表現、ウーロン茶などツイステ世界には存在してないかもしれないドリンクたち
※年齢操作(成人後)、幾人かのキャラクターの未来捏造
※7章途中時点で書いています
※マブの成人後も異世界に帰ってない男監督生(ユウ)がいます。キャラの一人としてそこそこ喋ります。
※大人エース視点
※なんでも許せる人向け

以上大丈夫な方はスクロール↓

 ユウに誘われて、今日は久しぶりにナイトレイブンカレッジに在籍してた頃のメンツで飲み会することになった。メンツはあの頃の一年生を中心に、何人か先輩たちも誘ったらしい。みんな遠いところにいるはずだけど、なんだかんだ都合つけて来るみたい。ちなみに場所は薔薇の王国が一番近い。オレも先輩たち誘いなよって言われて、とりあえず同じ寮だったトレイ先輩、ケイト先輩、リドル寮長(あの頃のクセで未だに寮長って呼んじゃう!)を誘ってみたけど、ケイト先輩とトレイ先輩は忙しかったみたいで、リドル寮長だけが参加することになった。
 リドル寮長、卒業して家を出てからなんだか付き合い良くなったんだよね。ま、それはいいんだけどさ。
 あとはデュース、エペル、セベク、ジャック、オルトって同級生だったメンツが来るらしい。これでもまあ結構な大人数だよね。あとはその辺のメンツが何人かさらに関わりのある先輩たちを連れてくるかもしれない、って話だったんだけど。
 実際着いてみると、聞いてたメンツから確かに2人ほど増えてる。ひとりはシルバー先輩。セベクとデュースの誘いで来たんだろうな。デュースとシルバー先輩はあの学校にいた頃から恋人として付き合ってて、未だに仲良しこよしらしいし。ま、オレには関係ないことだけど。
 ジャックとエペルはヴィル先輩とラギー先輩、レオナ先輩を誘ったらしいけど、全員に忙しいって断られたみたいだ。ってかレオナ先輩はもう今は国に戻ってちゃんと王子様やってんだよね? アイツら気軽に河原での酒飲みに付き合わせようとするとか、勇気あるじゃん。
 タダ飯の機会にラギー先輩来ないなんて意外だねって言うと、お土産は持って帰ってこいと言われたとジャックが言った。相変わらずだね。
 あとは意外なことに、イデア先輩がいんな。学園にいた頃は全然人と関わろうとしてなかったはずだけど、オルトに無理やり連れてこられたんだろうか。「僕やっぱり場違いでは……? ってか同級生ひとりもいなくない? これホントに空気読めてなくない?」とか言ってるし。
 とりあえずユウからここに来いって言われた集合場所に集まって、みんなダベってるみたいなので、オレもそれに割り込む。
「なー、みんないるけどここでホントに合ってんの? まわり何もなさすぎじゃね?」
「川と木と広い場所はあるよ、エースクン」
「飲み会に向いてる、それ? それに、外で飲むならもっと明るいうちの方が良くない……? アイツ何考えてんの?」
「あんまり文句言うなよエース。ユウの世界では飲み会といえばこういうのが常識だったのかもしれないだろ。知らなかったなら僕たちがあとで教えてやれば済む話だ。それに、アイツが今日は全部準備するって張り切ってただろ? 用意してもらっておいて、文句言うのは良くないぞ」
「ま、それもそうね」
 エペルやデュースとそんなことを喋ってると、そのうち大きめのキャンピングカーに乗ったユウが到着した。ユウはあれから異世界に帰らず、こっちの世界に住み着いてる。車の免許も取って、仕事も住む場所も見つけて、ほんと逞しいよね。その仕事がナイトレイブンカレッジの教師っていうのは驚きだけど。だってアイツ魔法使えないじゃん!
 ま、未だにグリムと一緒だからなんとかなってるみたいだけどな。学園で過ごした日々の中で手に入れた情報ややった分の仕事を使って、学園長を脅したり宥めすかしたりしてどうにかしたらしい。先輩たちから良いことも悪いことも受け継いでやがる、と思ったもんだよあのときは。
「みんな、お待たせ!」
「大魔法士様のご到着だゾ!」
 みんなはユウとグリムを口々に歓迎する。
「準備するものがあるのなら、手伝ってやろう。何をすればいいんだ?」
 セベクとシルバー先輩が車の近くに行って、荷物を運ぶ手伝いをしようとする。デュースとジャックも顔を見合わせて頷くと、そこへ一緒に駆けて行った。
「じゃあ、セベクとシルバー先輩はこれをあの木の下に運んでもらって、デュースとジャックはこのシートを敷いてくれる?」
「「分かった」」
 デュースとシルバー先輩の声が重なって、それぞれ準備に動き出す。エペルとオレ、リドル寮長は食べ物が入ったバスケットと酒を運ぶように言われたので、シート組を待って広げることにした。オルトとイデア先輩は、最初にセベクとシルバー先輩が運んだ重たそうな機械を何かいじってる。
「か、監督生氏。できたよ」
「あはは、もう監督生じゃないですよ。ありがとうございます」
「つい慣れで……」
 何かの準備ができたみたい。ユウはイデア先輩に話しかけられてる。
「あの頃は口を開けば帰りたいが口癖だったイデア先輩が、今ボクたちとこうしているなんて、分からないものだね」
「確かに! 言えてる」
 確かに、イデア先輩もこういうときに開口一番に帰りたいって言わなくなったなんて、あの人もちょっとは大人になったんだなーって感慨深くなってみたり。せっかくだし、今日はあえてそんなレアな人と仲良くしてみるのもいいかもね、なんて思ったり。
「ねー、セベク、シルバー先輩。酒大量にあって重たくて運ぶの大変だから手伝ってくんない?」
「酒だな、分かった」
「エース貴様、鍛錬が足りんぞ」
 セベクは文句を言いながらも、なんだかんだ酒を運ぶのを手伝ってくれる。最後の一箱まで運び終わって、設営が終わってしまうと、ユウはとりあえず靴脱いでシートに上がって適当に円組んで座ってと指示をした。
 とりあえずオレたちはみんな言われた通りにする。人前で靴脱ぐのは慣れないけど、今日の主催はユウだしね。ユウのマナーに従うっきゃないでしょ。ユウはみんなに紙コップを配ると、それぞれ酒とかお茶とか好きな飲み物を注いでそのまま持っててと言った。あ、なるほど、乾杯しようってワケね。
 とりあえずオレはビールはあんまり好きじゃないから、ピーチサワーの缶を一本開けてコップにもらうことにする。こうしたら余った分は他の奴でも飲めるし。
 ジャックはビール、普通ね。セベクはウーロン茶、弱いもんなアイツ。エペルは焼酎……焼酎飲むのアイツ? 初っ端から? まあ、酒なんて好き好きだけどさ。デュースはウィスキー、相変わらず強いな……。イデア先輩はミネラルウォーター、この人も弱いのかな? で、シルバー先輩は白ワインを適当なフルーツジュースで割ってるみたい。この人もあんまり強くないのかもな。でもデュースに付き合って飲めるって話は聞いたことあるし、単に深く酔いたくないだけかも。リドル寮長はオレの開けたピーチサワーの缶からもらってもいいかい、って聞いてきたのでOKした。リドル寮長、オレと酒の趣味は合うんだよね。甘いもの好きだし。オルトは飲めないぶん、みんなのアルコール度数とバイタルを計算して悪酔いする奴がいないかを見張ってるっぽい。ってかマジでいろんなもの取り揃えすぎじゃない、ユウ。どんだけ持ってきたの? それでユウ自身はソルティドッグの缶酎ハイ開けて注いでて、グリムにもおすそ分けしてるみたい。アイツら、酒の好みも一緒なの?
 そんな風に皆の様子を観察してると、そのうちユウが音頭を取った。
「じゃあ皆、カップは行き渡った?」
 全員が液体の入ったカップを持ったことを確認すると、ユウはイデア先輩に合図を送る。イデア先輩が機械を操作すると、夜空にいきなりピンク色の大樹が現れた。夜空に照らされた幻想的な木とそこから舞う花びらのホログラムに、みんなの口から感嘆の声が漏れる。
「おお、スゲー!! ユウ、何コレ?」
「これは『SAKURA』って言って、元の世界にあった木なんだ。イデア先輩とオルトに頼んで、外でもホログラムに投影できるプログラムを組んでもらったんだよ。そこでは、このSAKURAの木を見ながらたくさんの人で酒を飲んで食べ物をつまむ『HANAMI』って集まりがあったんだ。それをみんなとやりたいな、と思って!」
 人づてだが似たような話を東の方の国で聞いたことがある、だとか、本当に綺麗な木だなとかいろいろ言われる中、改めてユウが咳ばらいをする。
「では、皆さま、カップを掲げてください。特になんでもない日ですが、今日この良き日に集まってもらったことを祝して、ちょっとした宴を始めましょう……乾杯!!」
「「「「乾杯!!!」」」」
 それぞれが乾杯を口にして、カップを上に掲げたあと、くっとそれぞれの飲み物を口にする。こうして、オレたちの『HANAMI』は始まった。

 ……のは、良かったんだけど! とりあえずみんな、最近どう? なんてお互いの近況報告や、仕事の様子なんかを聞き合って、ツマミに関しても、こんなに用意するのは大変じゃなかったか、とか、学園のシェフゴーストや面倒見の良い生徒に手伝ってもらったからなんとかなった、とか。そういう、当たり前でフツーの話題をしてた頃は良かった。みんなもほろ酔い上機嫌で、SAKURAの木をほんと綺麗だねー、異世界ってこんな木あるんだ、めっちゃ綺麗なとこなのかも、なんて言いながらお代わりをねだったりしててさ、当たり前、普通に楽しい飲み会だった。
 そう、シルバー先輩が酔いだすまでは!!

 それは少し前に遡る。みんなそれなりに酒が回って(飲んでないやつも場の雰囲気に流されて)盛り上がってる中で、シルバー先輩がじっとオレのことを見つめていた。
「なーにー? シルバー先輩。そんなに見つめて、オレのこと好きになっちゃった? デュースくんやめてオレにする~?」
 なんてふざけてると、先輩は黙ってじわじわと顔近づけてくる。え、何? このままじゃゼロ距離になるんじゃね? マジで浮気になるよ? なんて混乱してると、オレもシルバー先輩も、ゼロ距離になる直前で後ろからぐいと首を引かれた。オレの首を引いたのは、リドル寮長だった。
「何をボーッとしているんだい、エース」
「あれ? いや、今の何」
 まわりを見渡すと、シルバー先輩の方の首を引いたのはデュースだったらしい。デュースの傍に引っ張られたシルバー先輩が、何かを言おうとしてるデュースの口にキスをしてた。ん、どういうこと!?
 困惑するオレをよそに、ジャックとエペル、ユウ、イデア先輩、グリム、それからオルトは、そちらの騒動については我々関しません、な態度でそっと顔を背けて雑談を進めてる。薄情なやつらだな!!
 そしてデュースはシルバー先輩の奇行を気にせずそれを受け入れて、口が離れた頃に「膝枕はいります?」とか聞いて「する」と答えられ、シルバー先輩の頭を膝に乗せた。で、そのままシルバー先輩は眠り始める。そこまで見届けてから、デュースはようやく事態を飲み込めないオレに言った。
「悪いな、エース。この人酔うとキス魔になるんだ。いったん寝せたが、起きたらまたやる。離れてた方がいいぞ」
 デュースの横で、大人しくデュースの言うことを聞いていた方がいいぞとセベクが苦い顔で言う。その態度に、オレは何かを察した。
「お前らさては、既に事故ったことあるでしょ」
「くっ、仕方ないだろう! あのときは、僕は初めて酔ったシルバーと酒を飲んだんだ!! たまたまデュースが遊びに来ていたからなんとかなったものの、コイツの酒グセと来たら……!!」
「セベク、なかったことだ。アレはなかったことにしようって、僕とお前の間で決めたじゃないか」
「ああ、そうだったな……。忌々しい思い出だ……」
 なんかデュースとセベクの二人、いやシルバー先輩を入れて三人か? の間に、触れられたくない事件があったっぽい。そっとしておいてやるか、なんて思ってるとリドル寮長がズバッと聞いた。
「何があったんだい?」
 そこ聞いちゃう? と思ったけど、デュースもセベクも酔っているのか、語るも涙という調子でエピソードを語り始めてくれる。……いやちょっと待ってよ、デュースは飲んでるからともかく、セベクは一切アルコール入れてねえの見てたぞオレ!! お前はなんだよ!!
「あれはセベクの成人祝いのとき、初めての飲酒の儀をやるって言うから、ならせっかくだしって思って、僕は酒の差し入れを持って茨の谷に遊びに行ったんだ。シルバー先輩も、俺だけ先に酒を飲んだらセベクが羨ましがるからって言って、表向きは飲んでなかったらしい。……表向きは」
「裏では飲んでいたってこと?」
 オレたちの話に興味を持ったらしいエペルが入ってくる。お前、さっきはオレのこと見捨てたの忘れてないからね。
「ああ。親父さん……リリア先輩と二人きりでは飲んでいたらしい。せっかく成人したんだから、ってことで」
 お前いつの間にリリア先輩のこと名前で呼ぶようになってんのよ、って思ったけど、まあ、シルバー先輩と親しくなったならそれも当然なのか。
 リリア先輩とシルバー先輩の関係については、卒業してからはデュースづてに聞いた。学園を卒業したあとはもう隠す必要もないからってことで、隠してた親子関係も言っていいことになったらしい。まあ、初めて聞いたときはびっくりしたけど、だからあんな仲良かったんだ、って気持ちにはなった。あとはシルバー先輩の言う恰好良い親父さんの姿とリリア先輩がたまに結びつかないなって印象があったくらいで。
「そうだ、そしてリリア様は……知っていた。一足先に、シルバーの酒グセを存じておられたのだ! しかし、僕にはなぜかそれを教えてくださらなかった……!! そしてあの由々しき事故は起きたのだ……!!」
「えーっと……。だいたい察しはつくけど、セベク、お前シルバー先輩に唇でも奪われた?」
 その言葉に、デュースが頷く。
「ああ……。アレは痛ましい事故だった……。リリア先輩はめちゃくちゃ笑ってるし、セベクは地面を両手で叩いて頭を伏せて『初めてだったのに……!!』と嘆いてるし、シルバー先輩を怒ろうにも、近付いたらキスしてきて止まらないし、で……」
「最終的にどう収拾をつけたんだよ、それ」
 さすがに気になったらしいジャックが尋ねる。
「安全地帯ですべてを見ていたマレウス先輩が魔法でシルバー先輩を寝せた」
 マレウス先輩も名前で呼ぶようになったのね、ってか何? 安全地帯って? そんなもんあるならオレも安全地帯にいたいんですけど。
「安全地帯って何?」
「リリア先輩がさりげなくマレウス先輩のまわりはガードしてた」
 あー、なるほどね。それで安全地帯。いやセベクも助けてやれよ、リリア先輩。何、息子の哀れなる犠牲者にしてんの。
「リリア先輩は『やはり初めての酒の席というのはこうでなくてはな!』って言ってめちゃくちゃ笑ってた。笑い上戸なのかな」
 止めてやれって!!
「それで、その後はどうなったの?」
 オルトが尋ねる。
「ああ。シルバーはとりあえず一発殴って気絶させ、部屋に閉じ込めた。あとに残されたのは、気まずい僕とデュースだ」
「そして僕たちは取り決めた。このことはなかったことにしよう、と。明日、先輩がこのことを覚えていたら、謝ってもくれるだろう。だけどもし覚えていなかったら、そのときはセベク、僕もこのことを二度と口にしないから、お前も忘れるんだ、いいな、と。僕たちの友情のために決めた約束だった。僕たちは握りしめた拳を熱く交わした」
「それ、今言って良かったんです……?」
 とうとう無視できなくなってきたらしいイデア先輩もさすがにツッコミを入れる。
「事情説明のためだからな、背に腹は代えられん」
「ああ。それに、僕たちが黙っているのは、何も友情のためだけじゃない」
「……シルバーの酒癖については、リリア様もマレウス様も、何を思ってか本人には黙っていらっしゃる。そして僕たちも黙っていて、シルバー自身は憎らしいことに次の日の朝、綺麗さっぱり出来事のすべてを忘れている。ので、これは僕からの意趣返しでもある!」
「意趣返し、かい?」
「ああ、そうだ! そうなのです、リドル先輩! コイツは自分で知らぬ間に醜態を晒していることを未だに知らぬままでいるのです! それくらいのことがなくて、どうして僕についた心の傷が癒せましょうか!!」
「いやでも、良くね? もうオレらいくつだよ。キスのひとつやふたつくらい。水に流してやんなよ」
「いいや、絶対に許さん。……初めては心に決めた人と、と決めていたのに、それをコイツが台無しに……!! コイツ自身は心に決めた人と済ませたというのに……!! 絶対に許せん!!」
「セベククンは案外、ロマンチストってことだね」
「ま、まあまあ、セベク氏。シルバー氏の犠牲者が出たのはその一回きりなんでしょ? 今回も未遂だったんだしさ……デュース氏もなんかうまくやってたし、対処法覚えたなら、もう教えてあげてもいいんじゃないの?」
 ってか本人が自制してくれないとその酒癖、まわりの方が迷惑ですしおすし、とイデア先輩は言う。それにデュースが同調した。
「確かに、これ以上知らないおじさんを別の世界に連れて行ってもらっても困るよな」
「おい、なんだよその話」
「アレは僕と二人で飲んでいたときのこと、適当に入った居酒屋で隣の席になったおじさんを、シルバー先輩は至近距離に近づけたその美貌で新しい世界に誘ってしまい……」
「もう被害出てるじゃん!! 教えなよ!! 早急に教えよう、ね!?」
「被害は出てない。ギリギリで止めた」
「それ本当に大丈夫なやつだった!? 何にしろ他の被害出る前に教えたげて!?」
 セベクとデュースは顔を見合わせる。教えない理由ないと思うけど、何を気にしてんの、コイツら。
「教えてもいいはいいんだが、シルバー先輩がどれくらい気にするかと思うと、ちょっと言い出しにくくてな」
「ああ。危うく僕とデュースの友情を壊すところだった、とか、恋人以外にくちづけるなど誠実ではなかった、などと気にして妙な落ち込みを見せかねん。言うにしても、言いにくいのだ」
 あー、なるほど。シルバー先輩、酔ってないときはまともだもんね。酔ってないときはね。
「それに、酔うのを嫌がってこうして皆と一緒に飲んでくれなくなっちゃうかもしれないし。……それは僕としても、皆としても淋しいだろ」
「確かに……。シルバーさんとも、またこうしてワイワイしながらお酒を飲んだりしたいよね!」
 オルトが言う。オルト自身は酒飲めないけど、それでもそう思うんだよね。他のみんなも同じ気持ちみたいで、みんなが口々にあーだこーだ解決案を探りだす中で、リドル寮長が唐突に言った。
「だそうだけれど、キミ自身はどう思う、シルバー?」
 ずっとデュースの膝枕で寝ていたシルバー先輩はむくりと身体を起こす。
「せ、先輩? 今の聞いて……?」
 青い顔のデュースとセベクがシルバー先輩を見る。
「……ああ。酔いも醒めて、頭も覚束ない中でのことだが、聞いていた。お前たちには、ずいぶん迷惑をかけてしまっていたみたいだな」
「迷惑なんかじゃ……」
 デュースが言いかけて、セベクがそれを遮る。
「ああ、迷惑だ。非常に迷惑だったぞ、シルバー! まったく、初の飲酒の儀がお前の酒グセのせいで台無しだった! だが、過ぎてみればすべて笑い話だ。今ではリリア様の、『酒の席で話せることなんて作っておくに限る』という言葉がおおいに分かる」
「セベク……」
「ふん、僕はこれからも、お前の酒の席での醜態を散々と話すぞ。それで手打ちにしてやる」
 言い方はツンツンしてるけど、シルバー先輩が酔ってたら気を付けろってまわりに喧伝するってことだよね、要は。
「ああ、お前の気が済むのなら、それでいい。ありがとう」
「礼などいらん。それより、お前の恋人の方に何か言うべきではないのか。僕のことは笑い話にもできるが、向こうはそうではないだろう」
 セベクはデュースを気遣うように言った。アイツ、自分の両親が仲いいからなのかなんなのか、恋愛関係にある人が不仲になりそうだとソワソワするみたいなんだよね。
「……デュース」
 場にぴり、とした緊張が流れる。と思ったら、シルバー先輩が平然と聞いた。
「今日は面倒をかけただろうか」
「いえ、大丈夫です。ちゃんと寸前で止めました」
「そうか、ありがとう」
 オレたちは疑問符を浮かべる。え、何、どういうこと?
「セベク。僕はお前にも言ってなかったことがあるんだが、シルバー先輩は自分の酒癖をもう知ってる。さすがによその人を巻き込みかけたときにヤバイと思って、僕が教えたんだ。シルバー先輩酔うとキス魔になりますよ、って」
「なんだと? ということは、今日の酔いは芝居だったということか!?」
「いいや。本当に酔っていた。だが、デュースやリドルに、俺が何かしでかそうとしたら事前に止めてもらえるよう頼んでおいた」
 なるほど。ってことは、今日やけにズバズバとワケを聞いていくリドル寮長も、妙に冷静なデュースも全部仕込みだったってワケね~! 単に二人とも変わんねーなーとか大人になったじゃんとか思ってたわ! ……てかそれさ、どっちかはシルバー先輩の近くにいたオレにも教えといてくれといても良くなかった!?
「何故そんな回りくどい真似をしたのだ、まったく」
「はは、シルバー先輩と話したんだが、セベクは真っ向から行くと素直に許してくれないかもしれないと思ってな。ひと芝居打たせてもらったぞ」
「シルバーはともかく、デュース貴様まで、いつまで僕を子ども扱いしているんだ! さすがに酒の席での無礼くらい、笑って許せるくらいには僕も大人になっている!」
 早く言えば良かっただろう、と言うセベクに、シルバー先輩は笑って答える。
「ふっ、そうだな。お前は俺が思うよりずっと大人になっていたらしい。騙すような真似をして悪かった、セベク」
「ふん、謝る先は僕ではないだろう」
 そう言ってデュースとシルバー先輩とセベクの三人は笑い合う。ま、なんだかんだ一件落着ってカンジ? ここはムードメーカーとして、ちょっと茶化しに行ってあげますか!
「気にしてないって言う割にはそこそこ根に持ってたように見えたけどね~、セベク!」
「あっ、確かに。セベククン、心に決めた人としたかったって、かなり落ち込んでたよね」
 おっエペル、いい感じの追撃くれるじゃん。
「う、うるさいぞお前たち!」
「そういえばさっき、そんなことを言ってたな。いい加減、お前にもそういういい人とかできたのか。それなら俺にもちょっと言ってみないか」
「お前は僕の父親か!!」
 張り詰めかけた空気が解けて、わいわいと賑やかな雰囲気がまた訪れる。そんな中、オルトがミネラルウォーターを飲むシルバー先輩に酒を差し出した。
「はいっ、シルバーさん! 緊張も解けたところで、もう一杯どうかな!」
「いや、俺はもう……」
「こ、こらこらオルト! さっきの話聞いてたでしょ、シルバー氏はこれ以上酒癖出ないように抑えてるんだから……!」
「もう、だからこそ、だよ! 他のところでは飲めないぶん、今、事情を知ってて、対処ができる皆と飲まなくてどうするの?」
 我慢してた分、どこかよそで飲みたくなってからじゃ遅いんだよ、とオルトは言う。
「ふっ、我慢が利かなくなるほど酒が好きというわけではないのだが……。そうだな。オルト、お前の言うことにも一理はある」
「じゃあ、ハイ! どうぞ!」
 オルトはにっこり笑って、シルバー先輩のカップに酒を注ぐ。シルバー先輩はホログラムの花びらがカップに落ちるのを見届けてから、俺たちの顔をぐるりと見渡すと、「では、後は頼んだ」と笑って、それをくっと飲み干した。デュースとセベクを中心に、皆はそれを「仕方ないな」とでも言いたげな苦笑いで見守っている。シルバー先輩って、昔はこういう無茶とかおふざけとか全然しないようなイメージだったけど、あの人もちょっと変わったってことなのかね。
 そんなことをリドル寮長にこぼすと、寮長は言った。
「彼も信頼してるのさ。ボクたちにならそういう一面を見せても、悪いようにはしないって。いい意味で、気が抜けるようになったんだろう」
 そう言われたら悪い気もしない気がしたから、オレはもうちょっと場を盛り上げたりフォローしたげたりしてもいいかなって気分になった。

 それから、オレたちはさらに盛り上がった。ちょっとした手品やカードゲームなんかをしたり(イデア先輩とセベクとオルト以外全員酔ってるから何一つまともなプレイじゃないけど!)、隙あらばデュースの唇を奪おうとしてるシルバー先輩をアツイねヒューヒューなんて時々冷やかしたり、デュース以外がシルバー先輩に近付かれたときにはその辺にあったものでさりげなく防御したり(寮長がなんか分厚い法律の辞書でシルバー先輩の顔面を真正面から防御した瞬間には、その容赦のなさにビックリした。けどジャックもエペルもそこそこ容赦なく防いでて、気遣ってるオレが異端……? って気分になった。あとデュースも何回か手のひらで防御してて、お前は別に良くない!? って思った)。なんだかんだこの酔ったシルバー先輩がいるって状況も受け入れた上で、難なく宴会は終わりに近付いた。
「それでは食事もなくなりまして、皆さま宴もたけなわですが……」
「もっと食べたかったんだゾ!」
 ユウが堅苦しい挨拶をして、グリムがそれを台無しにしつつグダグダとお開きになる。オレたちはなんとなく、来たときと同じ分担で片付けに入った。とはいえデュースは酔ってまた眠ったシルバー先輩を抱えているので、ジャックがセベクと一緒に重そうなホログラムの機械を運ぶことになったから、オレとエペルでシートと飲食物の片付けをする。ちなみにリドル寮長とユウはテキパキとゴミの分別をしてる。イデア先輩はオルトと何かのチェックや振り返りをしてるみたいだ。
「今日は楽しかったね、エースクン」
「ま、なんだかんだ集まって騒ぐのって楽しいしね! にしても意外だったわ~、あのシルバー先輩がキス魔、ねえ」
「確かにな。まあでも、いいんじゃねえか? なんつーか、そういう一面もあった方が、近寄りがたくねえっつうか……親しみやすくて」
 ホログラムの機械を運び終わったらしいジャックがこっちも手伝ってくれる。
「あれあれ、一匹狼気取ってたジャックくんがなんか珍しいこと言ってる!」
「うるせえ。俺も大人になったんだよ」
 ワイワイ話してるうちに、片付けは済んでしまう。それで、オレたちはそれぞれ自分たちの家やら取った宿やらのある方面にそれぞれ別れていく。ユウは車で来てたけど飲んでたし、帰りどうすんだろって思ってたら、イデア先輩が運転手やってくれて一緒に帰るらしい。それであの人飲んでなかったのね。たぶん、あのホログラムの機械の調整とかもあんだろうな。
 みんなが帰ってしまう前に、オレはシルバー先輩を抱えてるデュースに言った。
「ね、シルバー先輩起きたら言っといてよ。今日すげー楽しかったから、また皆で飲もうって! みんなも同じでしょ?」
 みんなが口々に賛同の声をあげると、デュースは嬉しそうにうなずく。
「ああ、必ず伝えておく!」
 それから皆でじゃーね、またいつかどっかでと手を振り合って、オレも帰り道につく。なんか色々あったけど、ま、なんだかんだ何があってもこういう集まりって楽しいもんだよね!

 そう思ってオレは帰り始めたけど、途中で外した腕時計を忘れてったことに気付いた。踵を返して腕時計を拾う。この時計は学生時代、故郷の土産にってデュースに貰ったものだ。特別な思い入れがあるってわけじゃないんだけど、性能はいいしデザインも悪くないからなんだかんだ愛用してる。だから、見つかって良かった。
 ふと、時計を拾ったとき、まだそこに人が居残ってることに気付いてなんとなく身を隠した。いや別に隠れる必要もないんだけどね? 居残ってたのは、シルバー先輩とデュースみたいだった。先輩の酔いが醒めるまで居残ってたのね。なるほど。
「先輩、そろそろ酔いは醒めましたか?」
「どうだろうか。醒めていないかもしれない。ほら、この通りだ」
 そう言ってシルバー先輩はデュースにキスをする。それは宴会中にやってた適当なやつじゃなくて、しっかりとデュースを見据えて近付ける、紛れもない恋人のキスだ。ダチと先輩のキスシーン見るのって、改めて見ると緊張すんな。宴会中はまったく気にしてなかったけど。
「ったく、醒めてるじゃないか」
 デュースは先輩相手にそんな軽口を叩いて、その胸に身体を寄せた。
「……今日はエースにキスしかけてましたよ」
「そうか、悪かった」
「ローズハート寮長にも、セベクにも、エペルにもジャックにもシュラウド先輩にも、みんなに、です。ちょっと気が多いんじゃないですか?」
 ぐりぐりとデュースはシルバー先輩の胸元に甘えるように頭をすり寄せていた。
「ああ、すまない」
「でも、皆ちゃんと避けてくれてました。一緒に飲んでも、大丈夫でしたよ」
「ふっ。頼りになる友人たちで、良かった」
「はい。これなら、次も大丈夫です。でも、先輩」
「ああ」
「……帰ったら、他の人を構った分まで、ちゃんと埋め合わせしてくださいね」
「もちろんだ」
 そうして手を繋ぎながら、デュースはシルバー先輩と帰っていく。二人の姿が見えなくなったところで、もうそろそろ出ても大丈夫かな、と身を乗り出すと、同じタイミングで草を踏む音がした。
「誰!?」
「むっ、その声は、貴様エースか?」
「なんだセベクじゃん。お前何してるの? デバガメ?」
「貴様こそ何をしていたんだ。僕はシルバーと共にデュースの家にでも泊まる予定だったのだが……。アイツらもまだ酔っていて、忘れているな」
「あー、置いてかれちゃったってワケ。ご愁傷様」
「ああ。今から宿を取るわけにもいかない。そこで相談なのだが、エース」
「何?」
「泊めてくれないか?」
「……しょうがないな~、いーよ! 飲みもんとツマミ持ってきて二次会しよ!」
「僕は飲めんぞ?」
「いーよ、オレもそんな強い方じゃないし、ジュースで。こうなったらあのバカップルの愚痴でも言って盛り上がろうぜ」
「ふっ、シルバーについての愚痴なら一晩では語り尽くせんほどある。任せろ」
「オレもデュースについてはいろいろ言いたいことあるよ。まずはさー……」
 そんなことを語り合いながら、とりあえずセベクを連れてオレも家に帰る。そんな中で、セベクが実はあの二人みたいに何年経っても仲睦まじくなれるような人と付き合ってみたかった、そのためにファーストキスも大事に取ってあったのに、あのシルバー自身が台無しにしてくれて、なんて乙女みたいな話も聞いた。
 その話自体は大概罪な奴らだよね、なんて笑って聞いてたけど、そういえばオレ最近彼女とか恋人作ってないなあ、なんてふと思い出して、オレも一瞬くらいはアイツらみたいな熱愛してみたいかもな、なんて羨ましくは……別に、全然なったりしなかった。
 ま、オレはオレ、アイツらはアイツらってことで。巻き込まれなきゃなんでもいいって!
「そんなことを言うと、たぶんまた奴らに巻き込まれるぞ?」
「嫌な予言すんなっての!」
 そんなことをダベりながら、セベクとの夜は更けていった。これはこれで悪くはないけど……あー、次はオレも恋人とかと夜を明かしたい! 次までに作っとこ! なんて、そんなことを思った夜だった。別に、決して、どっかの誰かさんたちの影響ではないけれどね!!

*おしまい

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