君の心臓になれたなら

※キャラが酷い目に遭う描写があります。(流血表現など)。多少グロめの描写が含まれます。

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 俺は、デュースが持つ傷と、孤独に晒された百年間を、今まで本当に理解はしていなかったのかもしれない。
 それは、ちょっとした事情から人間界を離れて、はざまの世界へ戻った時のことだ。
 俺たちは、はざまの世界へ何日か滞在することになっていたから、俺は時間があるときにでもマレウス様たちのおわす社へ顔を出し、そのまま人間界に戻る日までは何事もなく滞在していようと思っていた。
 それが叶わなかったのは、デュースを一人にしておきたくなかったからだ。
 
 デュースは強い。俺などいなくとも、一人でもやっていける。それなのに彼を一人にしておきたくないと思ったのは、俺のエゴであり、我侭なのかもしれない。
 何故、俺がそんなエゴイズムを持つことになったのか。それは、はざまの世界に戻って、デュースと歩いていた時にまで遡る。
 久々の帰省だと、デュースと共にはざまの世界の路地を歩いていた。人間界の夏は今年、とても暑かったから、はざまの世界は過ごしやすくて仕方なかった。
 そんな、なんでもない話を、当たり前のようにしていた時。当たり前かのように、耳障りなそれは俺の耳へと滑り込んできた。
『見ろよ。アレ、『大鎌のデュース』だ』
『不死身の死神なんだろ? 不死身って、気持ち悪いな……』
『最後の死神でもあるんだっけか? あまり言うと、俺らの寿命も減らされるかもだぜ! なんたってアイツには、その権限があるんだから……』
 ヒソヒソと、声を潜めるように、それでいて馬鹿にしたように、ソイツらはデュースを嘲った。己の死する魂を導いてくれる存在に、なんてことを言うのだと、俺は食ってかかろうとしたが、デュースは俺を止めた。
「いいよ、シルバー。言わせとけ」
「だが……」
「買う価値もないケンカだ。それに……キリがない」
「……」
 俺は納得がいかなかったが、デュースがやめろというのであればとそれに従った。そして、代わりにデュースの手を強く握った。
「俺は、君の傍にいる。誰になんと言われようとも」
「ん、ありがとな」
 そんな俺たちの背後で、まだ悪意は渦巻いていた。
『死神の横にいるアレ、アイツ、誰だ?』
『真っ白だな。天使様じゃないか?』
『まさか! 天使様が、死神なんかと一緒にいるわけないだろうぜ……』

 それから、俺は躊躇ったものの、大丈夫だと言うデュースと一度別れ、マレウス様と親父殿のおわす社へと帰省した。
「何故、死神というだけであのように迫害されなくてはならないのでしょうか」
「そうじゃのう」
 ふむ、と親父殿は俺の疑問に考え込んだ。
「死というものは、訳も分からず、いつ来るのかも分からず平等に訪れる、恐ろしいものでもある。それを直視したくなくて、嘲って逃げておるのかもしれんのう」
「……恐怖からの逃避、ですか……」
 親父殿は愚かなことよ、と一笑に付したが、マレウス様は、哀れだな、とある種の同情を孕んだ一言を現した。
 俺が何とも言えずにいると、記録の神として持前の千里眼で資料の整理をしていた親父殿が急に声を上げた。
「……ん!? おいシルバー、お前の恋人、大変なことになっておるぞ!」
「何があったのです!?」
「説明は後じゃ、すぐにこの場所へ向かえ! 一刻を争うやもしれぬぞ!」
 詳しい事情も聞かず、親父殿に言われた通りの場所へと走って向かう。すると、そこには、ボロボロになったデュースが倒れていた。
「……、」
「デュース、どうして……」
 虚ろな目で俺を見上げるデュースは、俺の姿をその朧気な眼差しに映すと、ふっと笑った。
「シルバー、良かった……無事、だったんだな……」
 そして、デュースは俺の頬をひと撫ですると、目蓋を閉じ眠りに落ちた。眠りに落ちた、と言ったが、また、デュースは命を落としたようだ。
 身体も服もぼろぼろで、血塗れだ。抱き上げようとすると、ぬるりとしたものが手に触れた。よく見れば、頭もかち割られている。何か、鈍器のようなもので殴り殺されたのだろう。
 一体誰がこんなことを、許せない、と激情に駆られていると、静かな雪が降り出した。
 俺は、雪避けの傘を召喚して、それをデュースに差し掛け、抱き上げた。
「……帰ろう、デュース」
 傷ついたデュースを背に負いながら、俺は、かつてデュースが零した言葉を思い出していた。
『俺はさ、時々、この世界を愛せなくなるよ、シルバー。でもさ、今はお前がいてくれるから、この世界で生きてくのも、まだ悪くないなって思うんだよ。だから、な。僕が世界を諦めたときは、シルバーがもう一度、愛させてほしいんだ。この世界を』
 デュースの言葉を、声を、何度も思い返しながら、痛感していた。すまない、デュース。俺も、君をこんな目に遭わせる世界を、愛せなくなりそうだ……。

 マレウス様の社へと連れ帰り、すぐに手当を行う。デュースの直属の神であるリドル神と、医療の神であるイデア様に連絡を取り、二柱と、それについてきたオルトから処置を行ってもらったため、デュースの容態はそれなりに回復し、意識も戻った。
「デュース、良かった……どうして、あんなことに……」
「シルバー……」
 意識が戻ったデュースの手をぎゅっと握り、事情を聞きだした。
「あんなの、よくあることだよ。不死身の死神だって知られてるからな。憂さ晴らしにボコられることだってあるんだ」
 僕を何度殺したって、死の運命から逃れられるわけじゃないのにな、とデュースは言う。
 それでも、俺は。
「死なないからって、殺していいわけないだろう……!!」
 涙を流して、顔をぐしゃぐしゃに歪めて懇願すると、デュースは申し訳なさそうに笑った。
「ごめんな。僕がもっと強けりゃ、返り討ちに出来たのにな」
 結構粘ったんだけど、やられちまった、と苦笑いをする。違う、違うんだ。俺が聞きたいのはそんな言葉じゃなくて……。
「次は絶対に、君を守る。君のことは、俺が守ってみせる」
「……ごめんな、シルバー」
 デュースは俺の言葉に、頷いてはくれなかった。

 それから、俺は親父殿たちに再び暫しの別れを告げ、デュースの傍から離れないことにした。セベクは戻ったときくらいマレウス様のお傍に控えろと文句を言うかと思ったが、デュースの惨状にアイツも絶句していたからなのか、俺の選択に何も言わなかった。
 それから暫くは、何も起こることがなかった。デュースは、はざまの世界の屋台で買い食いをしたり、書類などの仕事の合間に休養を取ったりして、少しずつ神通力を回復させていった。
 再度、襲撃がないかと俺がずっと警戒をしていたのも、効果があると思いたかった。
 俺は、早く人間界へ戻れれば、と思った。人間よりは、はざまの世界に生きる存在の方が力がある。デュースがよく人間界で過ごすのは、その方がはざまの世界にいるよりも安全だから、なのだろう。誰も近寄らない死神屋敷で過ごしていたのは、その方が楽だったから、なのだろう。俺は、デュースの持つ傷を、孤独を、置かれた状況を、知らなかった。
 知らないままのうのうと、恋人だなんだと浮かれて過ごしていた。……なんと、情けない。
 だが、過ぎた時間は戻らない。起きたことは還らない。過去は、消えない。
 だから俺は、これからの未来をより良いものにしていくために、デュースを傍で守るんだ。

 そう、決心した瞬間、気づいた。様々な種族が行き交う雑踏の中で。
 ひとつの凶刃が、油断しているデュースを狙っていることを。
 だから、俺は。
 咄嗟に、それを庇った。
 身を呈して、庇った。
 腹から心臓にかけて、ナイフで抉られた。
 今まで俺の紡いだわずかな歴史が、走馬灯のように目の前を駆け巡り、蘇る。
 ああ、『死』とは、こういう瞬間のことを言うのか、と。
 納得した頃には、もう俺の意識は失せていた。

「……シルバー!!」
 雑踏を歩いていた。黄泉戸喫(よもつへぐい)のため、はざまの世界で屋台を次々と回りながら、シルバーと二人、買い食いをしていた。そんな穏やかなひとときのはずだった。
 それが。なんで、こんな。急に。いきなり。
 目の前が、真っ赤に染まるんだ?
 雪のように真っ白だったあの子は、薔薇みたいに真っ赤な血を流して倒れている。
 なんで。これは嘘だ、夢だ。違うな、現実だ。夢に逃げるな。
 夢に逃げるなんて、許さない。僕の、俺のシルバーをこんな目に遭わせた奴を、生まれてきたことを後悔させるまで、僕は逃げるのを許さない。
 足の腱をまずは狙おう。動けなくなったところをとっ捕まえて、両手両足を釘で磔にしよう。前に狂った魂にやられたとき、なかなか痛かったからな。今思えば、アイツはなかなか悪趣味な手練れだった。アレだ、アイツのを参考にしよう。その後で生きたまま腸を引きずり出して片目をこの鎌の先で抉り出してそれを裂いた口の中にこじ入れてえづいても無理やり飲み込ませてやる、そうだ全部鎌でやろう大丈夫死にはしないこの鎌は寿命が来ていない魂を殺しはしない。
 そんな計画が頭を過る。それを現実のものにしようとして、騒ぎに乗じて逃げる犯人の背を追おうとした。そのとき。どさ、と音を立てて、シルバーの身体が僕の腕から落ちた。ごめんと呟いて、急いで抱き上げた。ここに一人、シルバーを置いていくわけにはいかないと思った。シルバーの声を、顔を、願いを思い出した。
『君がいつも、この世界を愛せるようになったら、俺は嬉しい。俺は、君が世界を少しでも好きになるための力になりたい。デュース、俺は君を愛している。君は間違いなく、俺の世界だ。……君はどうだ?』
 照れくさそうな笑顔を、まだ覚えてる。僕が今やるべきことは、グロい復讐なんかじゃない。大事な人を、助けることだ。
 目を覚まさないシルバーを抱きかかえて、僕はドラコニア様の社へと駆けていた。
 真っ白に降り積もる雪の道に、点々と赤い血痕を残しながら。

『……どの神様だっていい、お願いします……』
 ……? 誰、だ?
『僕の何もかもをやるから、目玉も心臓もあげるから、あの綺麗な子を返して』
 ……この、声は。デュース……?
『僕の大好きな、あの子を返して』
 強い、祈りだ。強く、手を組んで、祈っている。……俺に、祈っている……?
 うっすらと、意識が戻っていく心地がした。
「なあ、シルバー。お前は、そうやって眠る今だって、天使みたいに綺麗だけど、だけどさ。僕は……、雪みたいに、月の光みたいに、どこまでも真っ白なお前が、好きだったんだ……」
 ひとつ、ふたつ。重い目蓋で、瞬きをする。
「……デュー、ス……?」
 掠れた声で名前を呼ぶと、目の前で俯いていたデュースがばっと顔をあげた。
「シルバー!! 目が覚めたのか……!?」
「うっ、俺は……」
「無理するな、呪い付きのナイフで襲われたんだ。……僕を庇って……」
 なんで、と言いかけた言葉を、デュースは止めた。俺は、デュースの顔を見た。
 ここしばらく、眠っていなかったのだろうか。人間のようにクマなどが出来ているわけではないが、なんとなく、そう思った。
「デュース」
「ああ、なんだ? なんでも言ってくれ。欲しいものとかあるか? 痛いところはないか?」
「大丈夫だ。それよりも、君が……」
「僕? 僕なら心配いらない、大丈夫だ。シルバー、無事で良かった……本当に」
 デュースは俺のことを抱きしめる。それから身体を離すと、ヴァンルージュ様たちにも伝えてくる、と言い残して部屋を去った。
 ここは、親父殿の社にある俺の……部屋、というか。書斎のようなものとして、書き物や書類仕事をするときに使っていた場所だ。基本的な寝所としては、湖水を使っていたから、私室と言えるのかどうかは、定かではない。
 まだぼやける頭を整理していくと、なるほど俺はあのとき人混みの中ナイフで襲われて、そのまま倒れたらしいことを思い出した。恐らく、デュースにもマレウス様たちにも迷惑をかけたのだろうな。情けないことだ。
 すぐにバタバタと急ぎの足音がして、親父殿が現れる。
「気がついたか、シルバーよ」
「親父殿。はい、なんとか……今、状況を整理していたところです」
「うむ。それであれば、手伝おう。ついでに、お前が倒れてからのことも教えてやろう」
 親父殿と共に、デュースの姿があるかと思ったが、それはなかった。親父殿が言うには、デュースは寝かしつけておいた、らしい。
「いくら不眠(ねむらず)でも構わん死神の身とはいえ、それでは精神が健全に保たれんじゃろうからな。そもそもあやつも完全に回復はしておらんかったっちゅうに……」
 と、親父殿は言った。そして、彼が眠っている今のうちに、と、俺が倒れてからのデュースの動向を教えてくれた。
「お前が倒れた後、あやつはわしらに土下座しよってな。守れなかった、ごめんなさい言うて。ひとまずお前の手当が先じゃと諭して、その手伝いに千年氷の採取じゃとか軽い雑用を任せておった。それで一通りの処置が済むと、毎日毎晩、お前の傍を片時も離れず、食事も睡眠もとらずにずっと祈り続けておったよ。見兼ねたセベクが途中でやめさせようともしたんじゃが、……そうしてないと今すぐにでも犯人を捕まえてめちゃくちゃにしかねんっちゅうから、どうしようもなかったんじゃ」
「そんなことが……俺は、どれくらい眠っていたのですか?」
「ざっと一、二週間程度じゃ」
 お前たちを襲撃した犯人どもに関しては、既にお前が寝とる間にリドルが捕まえて法の下に裁きを与えておる、と親父殿は告げた。
「そう、ですか。では、俺たちは回復に専念した方が良いのですね」
「お前は物分かりが良くて助かるわ」
 デュースの相手に相当苦労をしたのだろう、親父殿は溜め息を吐いた。
「改めて、ご心配をおかけしました。親父殿。……食事を摂っても問題ないのであれば、夕餉の際にでもマレウス様にも謁見を賜りたく存じます」
「うむ、早いとこ元気な顔を見せてやれ。身体の方のダメージは回復しとるから、ここからは普通に生活をして問題ないと思うぞ」
 セベクも心配しとったから、そっちにも顔見せしてやるんじゃぞ、と親父殿は言う。デュースの居場所を聞くと、客室で眠っているそうだから、セベクに顔を見せたあと、そちらへ向かうことにした。

 それから。セベクに会って二度とこんな目に遭うな、未熟者めと一喝された後、客室に赴き、眠るデュースの顔を見た。
「ずっと、祈ってくれていたんだな」
 夢の中で、君の声はずっと聞こえていた。
 そう告げて頬を撫でる。デュースはまだ、目覚めなかった。
 しばらくそうしていたが、やがて夕餉の時間になったので、眠るデュースに行ってくると告げてマレウス様にお目通りを願った。
「シルバーか。この度は大変だったな。今は大事なさそうで何よりだ」
「はっ、ありがたきお言葉」
「……ところで、スペードは今日も食事を摂らないつもりか? お前が目覚めたというのに……」
「デュースは今、眠りによる回復に努めています」
「ああ、それならばいい。あやつも回復していないというのに、無理をしていたからな」
 マレウス様からも、親父殿からも、俺が倒れていた間のデュースは相当無茶をしていたという話を聞く。……これは、心配してくれたデュースには悪いが、叱らねばならない案件だろうな。
「にしても……、戻ったのだな」
「戻った、とは?」
「ああ、気が付いていなかったのか? 倒れていた間、お前の髪は金に染まっていたぞ。今は銀髪に戻っているが……」
 お前の中に流れる雪の精霊としての魔力が薄れ、元の天使としての血が表出していたのだろうな、とマレウス様は仰った。
「天使……。血を分けた父が、そう、でしたね」
「ああ。あの儀式でお前は完全にあれらとは縁が切れたもの、と思っていたが……」
 子を想う親の気持ちというのは偉大だということなのかもしれないな、とマレウス様は仰った。俺は、今や遠く離れた実の父母に、複雑ながら感謝をした。
 ……意識が戻るのは遅かったが、俺の身体自体は回復が早かったと親父殿が仰っていた。それが天使の子として、そして雪の精霊として二重に受けた加護の賜物なら、俺はやはり、気が付かなかっただけで、たくさんのものに愛され、守られていたのだな、と。
「まあ、ともかく。無事で何よりだ、シルバー」
「はい、マレウス様。この度は、ご心配とご迷惑をお掛けしました」
「ああ、全くだ。二度とするな」
 そうして無事、謁見を終え、再びデュースの元へ戻る。すると、今度はデュースは身体を起こし、目覚めていた。
「シルバー……」
「デュース、起きていたのか」
「……行かなきゃ、僕……」
「フラフラじゃないか、そんな状態でどこへ行こうと言うんだ?」
 ベッドから立ち上がろうとするデュースを制止する。そうすると、デュースは言った。
「シルバーを、巻き込まない場所に。僕ひとりになれる場所に、行かなきゃ」
「デュース……」
 俺は、デュースの両頬を、ぺしと叩くように挟み込んだ。
「誰がそんなことを頼んだ?」
「でも、僕の傍にいたから、シルバーがこんな目に……っ」
「……デュース。君が以前、悪しき魂に囚われた時、俺は、後悔をした。何故、傍にいなかったのか、君を当たり前のように見送ったのか、と。結果としては君に迷惑をかけてしまったが……。俺は、今回、君を守れたことだけは、悪いことではなかったと思っている」
「何がだよ! そんな目に遭って……っ」
「では、俺に同じ気持ちを味わえと言うのか!?」
「……っ」
「君がこの世のどこかで、孤独に震え、いつか来る死に怯えて、それで、傷つけられ続けるのを、そんなことを総て忘れて、何もせずのうのうとただ生きていろと、そんなことを俺に願うのか……!?」
「……僕は……っ」
「デュース、そんな世界、俺は愛せない!!」
 大きく丸いデュースの瞳が、震えるのが分かった。
「でも、じゃあ、どうすればいいんだよ……。僕は、心臓が潰れるかと思った、シルバーの代わりに僕が死ねばよかったのにって何度も何度も思った、どうしたらいいんだよ……っ!!」
「……俺の弱さと油断が、この事態を招いた。本当にすまない。だから……」
 お互いに、守り合おう。
「へ……?」
「今回のことで、よく分かった。俺は君を、君は俺を守るためなら、きっとなんだって出来る。だから、お互いのために、二人で共に居よう。そして、互いを守り合い、高め合っていこう」
 そんじょそこらの悪しき魂に、もう二度と傷つけられたりしないように。
 細やかな対策も、地力をつけることも含めて、たくさんのことを一緒に考えて、また一緒に努力をしていこう。
 そう告げると、デュースは、ぽつりと言った。
「……シルバーは、そういう世界なら、愛せる、のか?」
「デュース。……君は、俺が、ぬくぬくと……マレウス様と親父殿の加護の元、百年も過ごしている間、何度、命を落とした?」
「分からない、もう、数えてない……」
「……それでも、君は俺と出会ったとき、世界を美しいと感じたか?」
「きれいだと、思ったよ。初めて会ったとき、シルバーのこと。本当に、きれいだと思ったんだ」
「なら、俺も、また世界を愛したい。あの日、再び君が傷つけられたとき、この世界を愛せないかもしれないと感じた。だが……また、君とこの道を往けば、美しい景色も、愛せる場所も見つけられると、俺は信じている」
 何より、俺と君が決めた終わりはこのような形ではなかったはずだ。そこまで告げると、ようやくデュースは頷いてくれた。そして、子どものように泣きじゃくった。俺も、それにつられて涙が滲んだ。
「ごめん、シルバー……っ、守ってやれなくて、ごめん、ごめんな……っ!!」
「大丈夫だ、デュース。俺の方こそ、君を守ってやれず、すまなかった……っ」
 それから、俺たちは抱き合って眠った。二人して涙を流しながら抱き合って、泥のように、眠った。夢うつつの中、俺は願った。
 (俺が、生きる理由になればいい。この地獄のような世界で、生きる君の)
 翌日、窓の外から光が射し込む。俺たちを心配して包み込むような、嫋やかで優しい、夜明けの光だ。
 俺は、隣で眠るデュースをそっと揺すり起こす。
「おはよう、デュース。……見てくれ、空が……」
「ああ……、綺麗だな」
 デュースが、寝ぼけ眼で呟いた。
 薄紫に染まる朝焼けが、七色の光に照らされて。世界はやはり、美しかった。

*おしまい

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