竹群奇譚

・雪の精霊シルバー×死神デュースの人外パロです。
・年齢逆転要素アリ。
・なんでも許せる人向け。
・微ホラー要素あり

以上大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 

 8月。茹だるような暑さに、僕もシルバーもやられていた。
「大丈夫か、シルバー……」
「……今はなんとか、大丈夫だ」
 今年の夏は、暑さが異常だ。僕たちが人間界の資金集めに行っているドリンクパーラーの売り上げも、ほとんどが午前中で売り切れてしまうほどに。
 冬の神の力を使って、家には冬の空気になる結界を張っているんだが、それでも暑気に当てられている。
「気候は、君たち四季折々の神が管理しているんじゃないのか……?」
「あー……僕たちも、完全に管理してるわけじゃないんだ。自然とか精霊的なものが、自由にやってるのを調和を取っていくって感じで……」
「そうか……」
 ならダイヤモンド様を説得してもどうにもならないのか、とシルバーはこぼした。うん、まあそうだよな。僕たち季節の神になんとかしろって言いたくもなるよな、この暑さじゃ。でも僕らに言われたってどうにもならないんだよな、と同じ四季の神の一柱として、内部の実情を知る僕は考える。
「あ、それじゃあ。はざまの世界に帰ってみるか?」
「はざまの世界、に?」
「ああ。あっちは気候も安定してるし、霊力にも満ちていて過ごしやすいだろ。盆休みだと思って僕らも帰省してみようぜ」
「それは構わない、のだが……」
 盆というのは、死神業も忙しいのではないか? シルバーに尋ねられ、そういやそうだったと思い出す。
「むしろ、忙しいからこそ、だな。盆は人間界に戻る魂がたくさんいるから……。その管理や回収の手伝いに駆り出されるはずだ」
 だからいっそはざまの世界にこっちから出向いた方が早いんだよ。そう告げると、シルバーはそれならばと頷いた。

 人間界に置いた店に『盆につき休業中』の掲示を出して、僕たちは、はざまの世界へと帰る準備をする。
「シルバーは前の帰省からちょっと間が空いたか?」
「そうだな。親父殿やマレウス様にも、久方ぶりに無事な姿を見せなくては」
「ん。それじゃあ行くぞ」
 ぱん、と両手を叩くと、僕たちの身体は黒いモヤに包まれて。そして、人間界から跡形もなく消え去った。

 はざまの世界へ戻ると、しんとした静寂が僕たちを迎えた。死神屋敷の中だな。
「シルバーはもう社の方に戻るか?」
「そう、だな。何かあったら、連絡してくれ」
「ああ。……ん? どうした?」
 なんだかそわそわした様子のシルバーに、疑問を抱く。
「いや、その。……帰省の間は、君は忙しくて、しばらく会えないのだろう? だから……」
 ああ、とシルバーの言いたいことに思い至って、笑いがこぼれる。ったく、まだまだ甘えん坊だな。
「いーよ。じゃ、これ。行ってらっしゃいのキスな」
 シルバーの口にキスをしてやると、シルバーの方からも改めてキスをして抱きしめられ、名残惜しむように行ってきますと告げられた。
「後で挨拶に行くけど……ドラコニア様とヴァンルージュ様によろしくな!」
「ああ、伝えておく」
 社へと帰っていくシルバーの後ろ姿を見送って、僕も上司であるローズハート様のところへ顔を出すことにした。

 デュースと別れたその後、実家とも呼べる社、その湖水に帰る。居心地は良く懐かしいが、隣にデュースの存在がないことに淋しさを覚えた。そんな思いに耽っていると、親父殿が俺に声をかける。
「シルバーよ。せっかく帰ったのなら、これに行ってみんか?」
「これ、とは……」
「祭りじゃよ!」
 親父殿が見せたのは、このはざまの世界で祭りが行われるというチラシだった。事情があって人間界に帰れない、帰りたくない死者たちの弔いのため、神々も死者も一緒になって、無礼講のような祭りを開催するらしいのだ。
「いいですね。デュースは忙しくて、参加できないかもしれませんが……」
「それは残念じゃ。あやつとは積もる話もあったというのに、のう」
「あとで挨拶には来ると言っていました。その時に話すといいでしょう」
「うむ、そうさせてもらうわ。では、祭りは久々にわしらと共に行くか?」
「そうですね。そう致します」
 俺は、その旨をデュースに伝えた。デュースは予想通り、亡者の管理で、祭りに関してもどちらかというと運営側をやっており、忙しくて一緒には回れないとのことだった。

 それから、祭り当日。
「祭りじゃ、祭りじゃ! このはざまの世界で食って遊んで、たっぷり霊気を養うんじゃぞ~!」
「はしゃぎすぎだぞ、リリア。シルバーたちが置いて行かれてしまう」
「僕たちはすぐに追いつきます! お気になさらず、マレウス様!!」
 いつも通りの家族に囲まれて、俺は祭りを楽しんだ。賑やかな人だかりの喧騒の中をきょろりと見回すが、愛しい人の影はない。
 そんなことをしていたら、セベクにからかわれてしまった。
「なんだ貴様、もう恋人に会いたいのか。恋をして腑抜けたな!」
「……別にいいだろう。大切な人に会いたくて、何が悪い」
「はっはっは、ぬしらは不思議な縁に満ちているんじゃ、放っておいてもそのうち会えようて。今はただ祭りを楽しもうぞ!」
 そうして俺は、家族と共に祭りの屋台を次々と楽しんだ。

 それからしばらくして、俺たちはすっかり祭りを楽しみ終わっていた。
「いやー、食った食った。たこ焼き焼きそばフランクフルトにポテト……。もう腹に入りきらんわい」
「僕はまだ入るぞ。あと何杯か、氷菓を食べてもいいくらいだ」
「では僕が買い付けに行って参ります!! 味の方はいかがいたしましょうか!!」
「任せる」
「はっ」
 セベクはマレウス様のため、かき氷を買いに行くようだ。
「では、俺も。何か飲み物でも買って参ります」
「そうか? では、頼んだぞ」
「はっ、すぐに」
 急がんでも良いぞ~という親父殿の声を背に受けながら、俺は飲み物を売る屋台を探して祭りの喧騒の最中を歩く。
 確か、入口の方に飲み物の屋台はあったはずだと思いながら人をかき分け歩いていく。
 歩いて、いって。何故か、そのうち。人がまばらに避けてきて。気が付いたら、祭り会場とは程遠い静寂の中にいることに気が付いた。
(……迷ってしまったのか?)
 辺りを見回す。ここはどうやら、薄暗い竹林の中のようだ。どうにかして祭りの会場へ戻ろうと、耳を澄ます。……どういうことだ? 何の音も聞こえない。確かにさっきまで、祭りの会場にいたはずなのに。
 そうは離れるほどは歩いていないはずだ、とこの状況を不可思議に思う。
 ともかく、戻らなければと踵を返そうとすると、背後から誰かの声がした。
「そっちじゃない」
「え……」
「こっちだ。こっち……」
 誰かが手招きするような声に、思わず後ろを振り向く。すると、無数に伸びる青白い手が、一瞬見えた気がした。
 ……が、瞬きをすると、それはいなくなっていた。
(……なんなんだ、一体? だが、こちらに歩いていってはいけない、のか?)
 一体どちらへ向かえば元の場所へ戻れるのか、とぐるりと辺りを見回す。
「綺麗だな」
「お前は、とても綺麗だ」
「真っ白な雪の子、天使の子」
「……え?」
 気が付いたら、竹林に三方を囲まれていて、逃げ道はひとつしかなくなっていた。
(……行くしかない!)
 三方から徐々に迫りくる竹林に押しつぶされてはたまらないと、目の前の道へと走りだす。
 突き当たりを右に曲がって、右に曲がって、また右に曲がらされて。
 3回右へ曲がったなら元の道に戻るはずなのに、それでも行き止まりに辿り着くはずなのに。
 気が付いたら、見知らぬ社へと辿り着いていた。目の前には、真っ白な服と帽子の、見知らぬ人物がいる。顔が青白い。生者でも、知り合いの神々でもないのはすぐに分かった。
「よく来たな。雪の子、天使の子」
「何を言って……」
 確かに俺の血を分けた父は、天使だったと聞いている。だが、今はもう雪の精霊に身体は作り替わっているはずだ。俺はそのことをもう知っている。
「お前は綺麗だ。帰したくない、ここに住め」
「断る!」
「何故だ、あの死神がそんなに大事か? 呪われ忌み嫌われた、死神が」
「黙れ! お前がどう思っていようと、あれは俺の大切な人だ!!」
「そうか、我の誘いを断るか。では……」
 お前の気が変わるまで、出口のない竹林で、迷い続けるといい。
 その言葉と共に、目の前の何かが俺を指差したとき。目の前が真っ暗になり、気が付いたら竹林の中に放られていた。
 ……ここを出ないと。
 そう思い、あちこちを走る。目印をつけ、地面に地図を作りながら、竹林を歩く。
 だが。すぐに竹林は形を変え、そして、ループしていることが分かった。
 どうにか竹林の壁を壊そうと警棒で竹を殴ってみたが、パコンといい音を鳴らすだけで、竹林は壊れそうにない。
 通れそうな隙間の影さえ、絵のように、見えない壁があるように、向こう側には行けなかった。
「そんな……」
 ここから出られないのか? もう、家族にもデュースにも、会うことはできない?
 不安と絶望が、俺を襲いそうになった。
 それでも、歩いた。己を叱咤して、歩いた。時には自分の頭を殴り、頬を張り飛ばして、それでも正気を保って歩いた。
 そうして何時間が経っただろうか。立ち止まり、ぼうっと景色を眺めていると、目の前の竹林に、ひび割れのような隙間が現れた。
 光が漏れている。ああ、きっとここから帰れるのだろう。諦めなくて良かった。
 そう思いながら、ひび割れた竹の間に歩みを進めようとした。
 ――そのとき。
「違う、そっちじゃない」
 背後の闇から、俺の目を隠すように、手が伸びてきた。
 そうして、目隠しの手が優しく外されたのと同時に振り向くと、空間を斬り裂くように、竹林の影から大鎌の刃が見えた。
「……デュース」
「遅くなって悪かったな、シルバー」
 俺の力ではびくりともしなかった竹林が、次々と死神の鎌に斬られ、俺の視界は明白になっていく。
「さあ……人のモンに手出そうとした落とし前、キッチリつけてもらうぜ!」
 そう言ってデュースは、竹林を鎌で斬り裂く。すると、俺が竹林の中で見かけた社と、そこにいた人物が現れた。
「……呪いつきの死神風情が……邪魔をするとは」
「悪いな。そりゃこの美人だからな、惚れ込む気持ちは分かるが、コイツは俺が先に目をつけてたんでね」
 そうしてデュースは、社の前の人物の喉元に、大鎌を突きつけた。
「忘れるな。テメェが見下す死神風情は、いつでもお前を殺せる」
「……愚かな」
 デュースは何を言うこともなく、白い何かの首を飛ばした。
 すると、景色が晴れた。周囲を見渡せば、そこは寂れた神社の石段の上であることに気が付き、俺が先ほど歩もうとした竹林の壁があった先には、下が見えないほどの高い崖があったことに気が付いて、ぞっとする心地がした。
「シルバー。大丈夫だったか?」
「俺は、平気だ。デュース……君こそ、大丈夫なのか?」
 格式の高い神か何かの命を奪ってしまったのでは、罰則があるのでは、と尋ねると、デュースはあっけらかんと笑った。
「ああ、違うよ。あれは自分を神だと思い込んでる、低級妖怪だ。本来ならお前に手なんか出せないはずなんだが……」
 祭りの賑わいとか、盆の霊力とかも相まって、変に力持っちまったらしいな。
 デュースの解説を聞いて、俺はそうか、と安堵の溜息をつく。
「……助けてくれて、ありがとう。デュース」
「ん。気をつけろよ、シルバー。お前は変なのに目つけられやすいんだからな、人間界でもこの世界でも……」
「ああ。手を煩わせてしまい、すまなかったな。忙しいのに……」
「こういう治安の悪さを取り締まるのも、僕らの仕事だから。仕事の範疇だよ。この現場に僕が来たのは私情だけどな」
「ふっ、そうか」
「じゃあ、ほら」
 デュースが俺に手を差し伸べる。
「ヴァンルージュ様たちのとこまで、送っていくよ。祭り、続きも楽しめよ? 何があっても、僕が守ってやるからさ」
 頷き、デュースの手を取る。握り合った手のぬくもりが失われなくて良かったと、心の底から感じた。
 そうして。もうひとつ、思った。
(……あのとき、俺は、まやかしの光の方に歩こうとしてしまった。そして、俺を助けてくれたのは、闇から伸びるデュースの手だった。……そうだな。俺はもう、光の方ではなく、愛おしい闇に向けて、歩かなくてはならなかったんだ)
 それが、呪われた運命を生きる死神である、デュースと生きていくということなのだから。
 改めて心の内に決意をし、俺は、デュースの手を握り直した。強く握ると、デュースもしっかりと、俺の手を握り返してくれた。
 ――願わくば、このように手を繋ぐ日々が、いつまでも続きますように。
 そんな俺の祈りは、きっと、どこかの神が……いや。隣に立つ死神が、聞き届けてくれたことだろう。

*おしまい

送信中です

×

※コメントは最大1500文字、10回まで送信できます

送信中です送信しました!