奇縁ロマンス

・雪の精霊シルバー×死神デュースの人外パロです。
・年齢逆転要素アリ。
・女体化要素あり。
・なんでも許せる人向け。

以上大丈夫な方はスクロール↓

 

 

「デュース?」
 つい、俺がそう声をかけて手を取ったのは、1人の女性。群青色の長い髪を後ろで編み込んで、花の髪飾りで留めている。華奢で可愛らしい印象だ。いつも短い髪を揺らしていて、俺より細身の背中なのにいつも頼りになる俺の恋人とは、似ても似つかないはずの女性だった。
「え?」
 不思議な様子で振り向いた女性に、慌てて俺は弁解する。
「す、すまない! つい、知り合いに似ていたので……」
「えっと……」
 2人の間に、妙に気まずい沈黙が流れる。ひょっとすると今、俺は不審なのではないだろうか。とりあえず掴んでいた彼女の手から、手を離す。
「その、すまない。気分を害したのなら、詫びをする。本当に、間違えてしまった」
「……間違えたって、誰と?」
「それは、」
 俺の恋人だ、と言っても伝わらないだろう、というか、悪質なナンパだと思われないだろうか。そう思って何も言えずにいると、彼女は笑った。
「いいよ。許してあげる。でもその代わり、お兄さん」
「ああ」
「人違いのお詫びに、私とデートしてくれますか?」
「……」
 困った。俺にはデュースという恋人がいる。他の女性とデートなんてするのは、浮気ではないだろうか。だが、詫びをすると言ってしまったのも俺だ。
「ね、どうしてもダメ?」
「……い、一度だけなら……」
 上目遣いに見つめられて、俺はそう答えざるを得なくなった。……俺はこんなに、押しに弱かったろうか。
「じゃあ、お兄さんが次のお休みの日、またここに来てくださいね!」
「あ、ああ。分かった」
 俺がうなずくと、彼女は悪戯っ子のように手元に口を当てて笑った。
「まだ何か……」
「耳貸して」
 許可する間もなく、彼女は俺の耳にささやいてくる。
「私はディアドラ。ディアでいいよ、シルバーさん!」
「待ってくれ、なぜ俺の名を……っ」
「お兄さんここらじゃ有名なんですよー! じゃあ、またっ!」
 不思議な印象を残し、彼女は風のように去ってしまう。 
 残された俺の胸には、新たな出会いへの期待と不安と、それから、デュースへの後ろめたさが残った。

「お帰り、シルバー」
「あ、ああ。た、だいま」
 家に帰ると、デュースがいつも通り出迎えてくれる。
「なんだよ、ぎこちなくなって。何かあったか?」
「……い、いや。なんでもない」
「そっか」
 我ながら隠しごとが下手だと思う。それでも、デュースは何も追及しようとしてこない。信頼されているのだな、と感じて、同時に、それを裏切ろうとしている自分が悲しくなった。
「……デュース、俺は酷い男だ……」
「なんだ、どうした急に~」
 デュースを抱きしめて、すべてを白状してしまおうかとも思った。だが、俺がデュースを裏切るような真似をしていると告げれば、またデュースは俺を信じることを諦めてしまうかもしれない。……我侭なのは分かっているが、それは嫌だ。
 俺は、次に彼女と会ったとき、きちんと告げようと決めた。一度だけ約束通りデートをして、それから、最後に、俺には恋人がいるから、もう会えない、会ってはならないと告げようと。彼女からすれば寝耳に水な話だろうが、俺にも引けない理由がある。
「……俺は頑張るからな、デュース……!」
「今度は何燃え上がってんだ?」
 ぽんぽんと頭を撫でるデュースの手の感触に、俺は再度負けじと心の火を燃やすのだった。

 それから、デート当日。
 特に気合を入れた格好をするつもりはなかったのだが、ともに歩く女性に恥をかかせてはならないとも考え、それなりに見える恰好を整えた。
 朝からデュースが格好いいなと褒めてくれたのを覚えてる。そんなに気合入れて、今日は誰か特別な子とでもお出かけか? なんてからかわれて、実際その通りなのだと心の中でばつが悪かったことも。
 デュースは気にしてない風だったが、俺は隠しごとが下手だ。……バレているかもしれない、今頃。だが、俺は今日そのためにここへ来たんだ。デュースに、もう会わないと約束したと白状するために。
 1人気合を入れていると、彼女は現れた。
「すいません、待ちましたか?」
「あ、ああいや。俺も今来たところだ……」
 振り向くと。彼女は薄紫のシフォン素材とコットン生地で出来たワンピースと、デニムのジーンズを身にまとっていて、春らしい柔らかな装いだ。
「まだ肌寒いですけど、ちょっと一足先に春っぽい恰好もいいかな~って。どうですか?」
「ああ。よく似合っている。可愛らしいと思うぞ」
「良かった。これ、お兄さんが喜んでくれるかと思って選んだんです」
 そうなのか、ありがたいな……じゃないだろう、俺! 何を普通にデートを楽しみ始めているんだ。これはデュースへの裏切りにも等しい行為なんだぞ。無事別離の約束が出来るまで、けしてデュースには見つからないように過ごさなければ。
「それじゃ、行きましょっか?」
「どこへ行くんだ?」
「もちろん、デートの定番ですよ。遊園地!」
 彼女が俺の手を引く。触れた手の熱さと感触に、どきりと心臓が跳ねるような心地がして、俺は俺に失望した。
(……デュースだけじゃ、なかったのか)

 それから、彼女……ディアと共に、俺は遊園地内を楽しんだ。
 まずはローラーコースターへ乗ってみたいと言うから、共に乗車した。降りたあと髪がぐちゃぐちゃになってしまったと言って、彼女は器用にその場で髪を編み直した。
 ついでに、俺の髪も直そうと言って、朝からついていた寝ぐせごと整えてくれた。ついでに、せっかく格好いいのにネクタイがよれている、と言って、それも。
 その手先、指先の暖かさに、気持ちがじんわりとした熱を帯びていくのが分かった。
 分かったから、もうこのくらいでいい、と彼女に手を離させた。これ以上この気持ちが昂ることに、耐えきれそうになかったから。
 その後は、コーヒーカップやメリーゴーラウンドを楽しんだ。コーヒーカップでは案外ぐるぐると早く回すものだから、また髪が乱れてしまうぞと注意した。彼女は、何度だって直せばいいことだから、と笑っていた。明るくてサッパリしたいい子だな、と思った。
 メリーゴーラウンドでは、一緒に馬に乗ってくださいと頼まれた。頼まれた通りに乗ってみれば、わっ、やっぱり似合うと彼女は喜んで手を叩いた。君は馬車の方がいいんじゃないのかと声をかけたら、せっかく一緒にいるんだから、一緒がいいじゃないですかと頬を膨らませた。案外甘えたがりなのだな、と思った。可愛らしいんだな、という褒め言葉を飲み込んだ。
 その後は、軽食を取ろうと売店でホットドッグやドリンクを購入して、食事にした。ホットドッグのケチャップがついているぞと告げれば、取ってくださいと甘えられたので、紙ナプキンで拭ってやった。
 食んだマスタードの粒で、ほころんだ気持ちを誤魔化した。
 ホラーハウスに入れば、彼女はずんずんと勇んで歩いていき、おばけの造形について、あんまり怖くないですね、と言っていた。怖がるかと思っていたが、案外気丈なのだろうな。
 
 俺は、彼女と過ごしていく中で、確信していた。
 明るくて、サッパリとした性格で、案外甘えたがりな一方、世話焼きな一面もあるディア。
 彼女に対してだんだんと輪郭があらわになっていくその気持ちは、俺にとって、けして持ってはならないものだった。
 
 ――ディアはとても魅力的だ。俺は、この子のことを好きになれる。デュースと同じように。

 
 それを初めて理解してしまったとき、俺は眩暈を覚えた。俺が何度も告げてきた、デュースだけだという言葉は口先だけだったのかと。デュースはそんな俺のことを見越していて、恋人なんて何人作ってもいい、なんて言っていたのかと。
「大丈夫ですか? 連れまわしすぎちゃいましたね、ベンチに座って休憩しましょう」
「ああ……」
 ベンチに座っていると、冷たいジュースと、濡らしたハンカチをディアは持ってきてくれる。キンキンに冷やされたハンカチは、浮かれて熱を持った頭を冷やすにはちょうど良かった。春が近づいてきて、暖かい南風が通ることも増えたから、余計に。
「具合が悪いのなら、もう今日は終わりにしても……」
「……いや。まだ、俺から話したいことがある。どこかゆっくりと、話すことができる場所はあるだろうか」
 そう告げると、ディアは言った。
「なら、最後に観覧車に乗りましょうか。スピードがゆっくりだから、話せる時間はあると思います」
 でも無理はしないでくださいね、と苦笑いするディアの提案を、俺は受け入れた。

 ディアをエスコートして観覧車のゴンドラに乗り込み、静寂が訪れる。
「シルバーさんが話したいことって、なんですか?」
 夕焼けに照らされたディアの横顔が、とても綺麗に見えた。
「……」
 改めて、ディアの顔をじっと見る。……可愛らしいな、と思う。すっきりとした美人であるのに、どこか幼い印象が、どことなくデュースに似ていて。群青色の髪も、孔雀色の目も、愛しいデュースの姿を想起させる。
 明るく笑う顔も、案外気丈なところも、俺に対して姉さんぶって、あれこれ世話を焼いてくるところも。……ディアの何もかもに、俺はデュースの面影を感じている。
 失礼なことだ。ディアはデュースとは別人である女性だというのに。俺は、デュースと彼女を重ねている。
 それでも、俺は彼女に惹かれた。ディアという一個の人物に惹かれた。その事実を否定することは、もはや出来なかった。だから、すべてを正直に告白することにした。
「すまない、ディア。君が俺のことをどう思っているのかは分からないが、俺は、君との関係を今日で終わりにしたい」
「……」
 ディアは神妙な顔で俺の言葉を聞いている。
「俺には、恋人がいるんだ。誰よりも大切な人で……。いつも気丈な割に、目を離すと脆くて壊れそうなときもある。……傍にいて、守りたいんだ」
 だから、と俺は続けた。
「俺は、きっと君のことを好きになれる。でも、だからこそ、俺は君を好きになってしまう前に、この関係を終わらせたい」
 大切な人を想う気持ちを守っていたいから、とディアに告げる。
 すると、ディアは顔を上げてまっすぐに俺のことを見据えた。
「ありがとう、シルバーさん。私のことを真剣に考えてくれて」
「ディア……」
「でもね、私……「僕」も、シルバーさんに内緒にしてたことがあるんだ」
 そう言って、ディアはパチンと指を鳴らす。すると、一瞬で目の前のディアの姿が、あっという間に見慣れたデュースの姿に変化した。
「なっ……デュース!?」
「黙っててごめんな。ちょっとからかうだけのつもりだったんだけど、そんなに悩んじまうとは思ってなくて」
 とりあえずスタッフの人に不審に思われるからいったん格好戻すぞ、と言って、デュースは再びディアの姿になった。
 俺は混乱して、観覧車から降りるなりデュースへと詰め寄る。
「どういうことか説明してもらおうか、デュース」
「ははっ、分かった分かった、分かったから落ち着けって……」
 それから俺たちは、スワンボートの浮かぶ湖畔で改めて話をした。デュースは未だ、ディアの姿でいる。
「……だから、死神として女子刑務所とか、本来は女の子しか入れない場所に入る必要とかもあるだろ。そのときのための姿なんだ」
「そうだったのか」
「ああ。シルバーに見つかるとは思ってなかったけど、僕だって気づいてなかったみたいだから、ちょっとからかおうかなと思って……。元々今日ネタバラシするつもりだったんだぞ?」
「まったく、デュース、君という奴は……!」
 呆れと同時に、安堵の溜め息をつく。……良かった。俺はデュース以外に恋をしていたわけではなかったんだ。むしろ……。
「……シルバーは楽しくなかった、か?」
「楽しくなかった、とは言わないが……。正直、気が気でなかった。ディアに好意を抱く度、これは君を裏切るようなことになっているのではないか、と」
「それはごめん……。シルバーにも、女の子とのデートみたいなものを体験してみてほしくてやったところもあるんだ」
「そう、だったのか……」
 デュースは俺に、いろいろなことを体験してほしいと口癖のように言う。俺はデュースと共にいられるのならば、いくらかのあり得た未来を犠牲にしてもかまわないと、そう思っているのだが。デュースの方は、どうにもそうではないらしい。……それでも。
「君は、楽しめたか?」
「え? うん。悩んでたんなら、シルバーには悪いけど。女の子相手にはこんな感じなんだなーって思って、ちょっと面白かったよ。スマートで格好良かったぞ!」
「そうか。なら……」
 俺はデュースの肩を引き寄せる。女性の姿になっているせいで、いつもより感触が華奢で小柄だ。それでも、触れたそれは間違いなくデュースのぬくもりで。ああ、言われてみれば。どうして俺はこれに気づかなかったんだろうな。こんなにずっと、デュースのぬくもりが傍にあったのに。
「これからも、君が俺にこうしたことは体験させてくれ。……今度は、隠さずに」
「へ? それって、また女の子の姿でデートしてくれ、ってことか?」
「そうだ。先ほども言ったが、俺はディアのことを好きになれる。君と同一人物だと言うのなら、これからは遠慮することもないからな」
「け、結構恥ずかしかったんだぞ!? 可愛い女の子のフリするの!!」
「自業自得だ」
 うー、と唸りながらデュースはそれでも最後には頷いてくれる。俺はそんなデュースに手を差し伸べ、ベンチから立ち上がった。
「さあ、デュース……いや、『ディア』。この後には、まだパレードがあるそうだ。見ていくだろう? まだデートは終わりじゃないぞ」
「……『ちゃんと家まで送ってくださいね、お兄さん』」
 これで満足かよ、と悪態をつきながら、デュースは手を取り立ち上がる。
 その一方で俺は、いつどこで、どんな姿をしていても、また何度でもデュースと恋に落ちられるのだと、心の内で自分を誇りに思った。

*おしまい

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