・雪の精霊シルバー×死神デュースの人外パロです。
・年齢逆転要素アリ。
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長いこと引っ越し先を検討していたが、とうとう、新しい住所が決まった。これからは、商店街と住宅街のちょうど中間地点にあるような、街角に店舗兼住居を構えることになる。土地を借り、何度か下見程度に商売をしたこともあって、何人かの住人はすでに顔見知りだ。
下見の間、わざと僕とシルバーとの関係は隠さなかったから、以前に田舎の村であったような偏見や差別に合うことも少ないだろう。
トラックから引っ越しの荷物を下ろす手伝いをし、引っ越し業者と僕とシルバーと、全員で段ボールの数々を家の中へと運び込んだ。
と言っても、そんなに荷物はなかったんだけどな。引っ越す前に古い雑誌なんかはほとんど捨てたし、人間界に置いてる荷物は最低限の家具くらいのものだったし。
まあ、でも。これからは、シルバーにもひとりの部屋や空間を作ってやれる。前のアパートは1LDKだったから、寝室も何も一緒くたにしていたけど、アイツだってたまにはひとりになりたいときもあるだろう。自分の部屋ができたら、きっと喜ぶぞ。
と、僕は思っていたのだけれど。
「……これからは別々に寝るのか?」
なんて淋しそうに言うから、寝室は結局一緒になってしまった。まったく、仕方ないなうちの王子さまは。
荷ほどきが終わり次第、両隣の家くらいには挨拶をしておく。店をやるので、うるさくなるかもしれませんすみません、というお詫びも添えて。お隣さんは両方ともありがたいことに店の方に興味を持ってくれて、ドリンクパーラーのようなスタンドの店でかき氷やフローズンドリンクも出しますと説明すれば、家事や仕事の帰り道にでも買ってみようかと言ってもらえた。
あとの近所には開店を知らせるチラシくらい十数枚ほど出しておいて、新生活の開始となる。
まず気になるのは店の評判や売り上げだが、これは上々。どうやらシルバーの容姿がウケたみたいで、イケメン店員のドリンクパーラー、みたいな盛り上がり方をしてしまった。シルバーはともかく、僕までイケメン店員扱いされることもあって、噂の効果ってすごいなと思う。
それから、生活環境だが。今は冬なのもあって、シルバーは昼間も活動できている。店内を兼ねた家の中は冬の空気にしているから、これから春や夏になっていっても過ごしやすいはずだ。外に出るときはさすがに注意しなきゃならないけど、初めての夏ほど大変じゃないだろう。もし誰かが来ても、店の氷が溶けないように冷房を強く入れているから家の中は寒いんだと言えばいいしな。
近所づきあいもなかなかのもんで、僕とシルバーの関係に何か表立って言ってくる人も、裏で嫌がらせしてくるような人もいない。
うん、しっかり下調べや準備した甲斐があったんじゃないか。生前の警察時代、新人の頃はもっとちゃんと準備しろ、入念に下調べして裏を取ってから行動しろ、って口酸っぱく言われてたしなあ。懐かしい……。……今もわりとローズハート様に言われてるか。
そんなこんなで、とにかく引っ越しの手続きは全部終わった。さすがに疲れたなと広げたばかりのベッドへ大の字になって倒れていると、いつの間にか眠ってしまったらしかった。
僕はあまり、夢を見る方じゃない。だからと言えばいいのかなんなのか、夢を見るときは必ずと言っていいほど悪夢だ。
何かを気に病み、思い悩んでいるときほど夢を見る。そして僕が気に病むのは、いつも決まって最期の日のことだ。
だけど今日は本当に疲れているみたいで、夢は見なかった。それが、ありがたかった。悪夢を見ないためにも、もっと自分を忙しくした方がいいかもしれない、と思うくらいには。
……? 何か、唇に柔らかな感触がする。優しく肌を撫でられている感じも、だ。
「ん……」
心地いい。嫌な感じのすることじゃないから好きにさせて、放っておく。すると、柔らかな感触は首筋や耳にも降りてきて、やがて肌を撫でる手が服の裾から素肌をなぞっていくようになる。
「……」
もう少し好きにさせていてもいいけどな、と思いながらゆっくりと目を開けると、そこにはやっぱりシルバーがいた。
「おはよう」
「お、おはよう」
いたずらが見つかって、ばつが悪そうなシルバーの頭を撫でる。
「何してるんだ?」
笑って聞けば、シルバーは、いやその、と気まずそうに返事を待たせた。
「触りたくなったか?」
「……すまない……」
「いいよ。好きに触ってくれ」
ほら、もう終わりか、と聞けば、シルバーは再び頬にキスをしてくる。今日はヤりたいって言うより、なんだかじゃれ合いたい気分みたいだな。タイミングのいいことに、僕もそんな気分だ。
「デュース」
「ふはっ。引っ越し終わったばかりなのに、元気だな」
「疲れているか?」
「んー……まあ、ちょっと疲れたけど、せっかくシルバーがその気なんだしな」
もったいないからイチャつく、と言えば、シルバーは、分かった、と答えて僕のことを抱き寄せ、ベッドにごろりと転がった。
「何? 抱きしめてくれんの?」
「疲れているのなら、甘やかそうと思った」
「はは、ありがとな」
シルバーの手がゆったりと髪や背中を撫でる。その手の動きが、すごく心地いい。こんなに幸せなことって、他にないよな。
「バタバタしててあまりかまってやれなかったけど、そっちはどうだった? 何か気になることとかあったか?」
「気になることか。今のところ、気に留めるほどのことは特に起きていないが、赤子が多いなと思った」
「ああ、確かに。小さな子がいっぱいいたな。前の街より」
「ああ。俺はあまり愛想が良くないから、怖がられて泣かれてしまわないか、心配だ」
「ははっ。大丈夫だよ、たぶん」
シルバーだってまだまだ赤ちゃんみたいなものだしな、似たようなものだろと言葉にしないで付け加える。だけどそれはどうやらバレたみたいだ。
「君はまた俺を子ども扱いしていないか?」
「おっ、バレたか」
「まったく」
指で頬をぐに、と押され、なにふんだ、とシルバーにもお返しをする。そうして笑い合って、こんなひとときがいつまでも続けばいいと思った。
それから、しばらくが経って店の盛り上がりも落ち着き、僕たちも新たな街に馴染み始めた頃。
お客さんからこんなことを聞いた。
「不審者、ですか?」
「そうなのよ、ここら辺学校が近いでしょ。心配で……」
「どんな見た目のやつですか?」
「眼鏡をかけてる、中肉中背の男らしいわ。晴れの日でも傘を持っていて、塾帰りの子どもを狙ってるみたい」
どうやらこの街には、不審者が出るらしい。気を付けて見ておきます、と言えば、心強いわ、と返された。
涼しい店の奥で作業をしていたシルバーにも情報を共有する。
「不審者が出るんだってさ。シルバーも気をつけろよ」
「物騒だな」
「この辺、小さい子多いからなあ。早めに捕まえられりゃいいんだけど」
散歩代わりにパトロールでもしようかな、と呟けば、あまり危ない真似はしないでくれ、と言われてしまった。分かったよ、心配性だなシルバーは、なんて返事をする。だけど僕は、やれることがあるのにやらないのは落ち着かないタチで。
その日の夜、塾帰りの子どもたちが帰宅を始めようとするだろう時間に、買い物をするフリをしてそっと出かけて行った。
塾の横を通りかかれば、お店のお兄さんこんばんは、なんて挨拶をしてくれる子どもたちに、はいこんばんは、なんて挨拶をして、お父さんとお母さんと一緒に気を付けて帰るんだぞ、なるべく1人にならず、人の多くて明るい道を通れよ、と声掛けをする。変な人見なかったか、と聞けば、今のところ見ていないと言われ安堵の息を吐いた。
気を付けて帰るんだぞ、と声をかけて怪しい場所を探し始めようとすると、大人しそうな子に服の裾を引かれた。
「ん、どうした? ひとりで帰らなきゃいけなくて怖いとかか? それなら僕が送ってくぞ」
「お兄さん……あの人……誰か知ってる?」
あの人? 子どもが指さす方向を見ると、眼鏡をかけたひとりの男が立っている。
「塾の先生とか、誰かのお父さんとかじゃないのか?」
「先生じゃない。みんな、誰かのお父さんだったりする?」
「違うよ」
「知らなーい」
子どもたちは口々に言う。僕は子どもたちの言葉に、警戒を高めた。良く見れば男は手に何か持っている気がする。
「みんな、塾の中でお迎えを待った方がいいかもな。ひとりにならないで行くんだぞ」
「お兄さんも、ついてきて」
「分かった、分かった」
ちびっこたちに手を引かれ、塾の入り口の方へ向かおうとする。その瞬間、何か、攻撃的な気配を感じた。
「不審者め!」
「誰だ!?」
バシ、と受け止めると、そこには1本の折れた蝙蝠傘を持った眼鏡の男が立っていた。
「子どもたちに何をする気だ!」
「何もしてないだろ! 落ち着けって! こいつらがケガしたらどうすんだ!!」
バシ、バシと傘で殴り掛かってる男を宥める。目が血走っていて、まずいな、コイツ。正気じゃない。
「お前たち、走って塾の中に隠れてろ!」
男の攻撃を抑えながら、怯える子どもたちを逃がす。だいたいの子は塾の扉の中へ逃げ切ってしまったが、1人、転んで逃げ遅れた子がいた。蝙蝠傘を持つ男は、何かを呟きながらその子を抱き上げようとする。
「こんな可愛い子どもたちは、僕が守るんだ……守らなきゃ……」
「いや!」
「その子を離せ、怖がってるだろ!」
男より先に走って子どもを抱きかかえ、塾の玄関へと下ろす。中に入ってカギかけてろ、と言って半ば押し込むように塾の中へとその子を放り込んだ。
あとは僕と不審者との対峙になる。
「子どもを狙う不審者め!」
「それはお前だろ!? 眼鏡に、傘に、中肉中背。お前の特徴じゃないか!」
「うるさい! 子どもたちに取り入って、何をする気だった!」
ああ、この手合いか。自分がやましいことを考えているから、他人もそうに違いないと考えているタイプの犯罪者だ。まだ犯行には及んでないから犯罪者と呼ぶのは間違いかもしれないが、そうなる一歩手前のやつだって警官時代にはたくさん見てきたから、分かる。こいつはその手合いだ。
塾の扉はガラス張りだ。誰かが状況を目撃しているだろう。それなら、アイツが次に傘で攻撃してきたら正当防衛で確保できるな、と算段をつける。
そうして、本当に顔めがけて傘の柄の先端が飛んできたので、それを難なく手で受け止めて傘ごとぐるりと攻防を一転させ、羽交い絞めにして不審者を確保した。素人め。
「っしゃ確保! ……って、確保したのはいいけど、今無線もないから警察呼べないよな。子どもたちにドア開けさせるわけにもいかないし……」
うーん、と考えていると、後ろから、それなら俺が呼ぼう、と不機嫌な顔のシルバーが姿を現した。
「110、だったか?」
「あ~……うん。合ってるよ、頼んだ……」
僕は気まずい顔を隠さないまま、不機嫌に腕を組むシルバーに警察を呼ぶよう頼んだのだった。
それから警察が到着して、塾講師やスタッフ、迎えに来てた親御さんなどにもう大丈夫ですよと告げ、不審者と共に警察に連行された。事情聴取のため、ということだった。
僕は不審者が出るということで、子どもたちを心配して散歩がてらパトロールしていたと正直に言えば、相手も同じ主張をしていたらしい。だが、最近出る不審者の特徴に相手の方が合致していたこと、一部始終を見ていた子どもたちや塾講師の人たちの証言から、先に攻撃したのは不審者の方だったと分かり、向こうは要監視対象となるようだ。
「一般の方なんですから、あまり無茶はしないでくださいね。我々の仕事なので」
「あー、ハイ。気を付けます」
警察には呆れ顔をされたものの、腕に覚えはあるし、これでも元警察官なんだが、そんなことを言って下手に素性を調べられても困る。100年以上前に殉職したはずの警察官と同じ名前と顔のやつがいるとか、調べたところで向こうもビックリするだろう。
ともかく、人間界用の仮名でもなんでも使い、一般人のフリをしてやり過ごした。
それから家に帰ると、もうひとつ大仕事が待っていた。それは、怒っているシルバーを宥めることだ。
「俺は無茶をしないでくれと言ったはずだが」
「ごめんって。でも、僕は元警官だ。守る力があるくせに、守れるはずだったものを守らないでいるのは、我慢できなかったんだ」
「不審者を確保するまではいい。あのとき俺がいなかったら、どうする気だったんだ?」
「どうにかして、誰かに通報してもらって……」
「行き当たりばったりすぎる!」
シルバーの怒鳴り声は、初めて聞いたかもしれない。これは相当怒ってるな。
「君がどうしても守りたいものがあってそうしたいというのなら、俺だって止めはしない。だけど、どうして俺を頼ってくれなかった。1人と2人では、危険度も、できることも変わってくるだろう!」
「それは……ごめん。話したら、止められると思ったんだ。シルバーは本当に、僕のことを心配してくれるから」
「当たり前だ! 君のことだから、すぐ無茶をするだろう。自分は死んでも生き返れるから、と言って……。その度に俺の、潰れそうになる心臓のことなど考えてはくれずに!」
「うっ……それはその、ごめん」
「俺は君を理解した。君という人物を、今回の件でよく理解した。次からは隠しごとはなしだ。君の持つ正義の心は美点かもしれないが、そのために危険な真似をするのなら、必ず俺を巻き込んでくれ。いいな?」
「……はい」
何も言えなくなり、僕がうなだれてうなずくと、シルバーが僕の身体を抱きしめた。
「……無事で良かった。下手に混ざっても君の戦闘の邪魔になると思い、最後まで手を出せなかったが、本当は君が攻撃をされている間もずっと、傍に駆け付けて、何をすると言ってやりたかった」
「そう、だったのか」
「もう、ひとりで無茶をしないでくれ。……こんなこと、何度も、言わせないでくれ」
「ん……ごめん。心配かけてごめんな、シルバー」
それから僕は、シルバーの頭をずっと撫でていた。
翌日。さらわれかけた子のお母さんが、お礼にと言って菓子折りを持ってきてくれた。子どもの方も、お兄さんありがとうございましたと言ってくれたので、怖い目に遭って大変だったな、今度飲みに来いよとドリンクのサービス券とちょっとしたお菓子なんかを渡せば、逆にお母さんの方から恐縮されてしまった。
シルバーはそれをわずかに不服そうな顔で見ていたが、何も言うことはなかった。そうだな、悪いのは僕だからな。この子たちは何も悪くない。
子どもと母親が無事に帰っていって、それを満足そうな顔で見つめていると、シルバーが君はこれで満足か、と呟いた。
「ああ、うん。やっぱり、親子は無事で一緒にいなきゃな」
「……それは、そうだな」
シルバーは溜め息をつく。とうとう呆れて愛想を尽かされないかがちょっと心配にはなるが、それでも僕にも曲げられないことはある。
「まだ怒ってる、か?」
「怒ってはいない。君が反省しているのなら」
「……シルバーに何も言わなかったのは悪いと思ってる」
「なら、いい。……君のしたことは危ないことで、俺に隠すように危ない真似をしたことには腹を立てたが、俺は、君が間違ったことをしたとは思わないから」
複雑なんだ、とシルバーは言った。僕はそれに、ありがとな、と返した。
これからも僕は時々、こうやってシルバーを振り回すんだろう。それでも、「もうするな」ではなく、「俺を巻き込んでくれ」とそう言ってくれるシルバーがいるなら、案外なんとなるような気がしていた。
*おしまい
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