Fragments of a graffiti【最終話】

*雪の精霊シルバー×死神デュースの人外パロです。
*設定から何からやりたい放題です。なんでも許せる人向け。
*呼び名とかちょっと変わってます。

大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 目の前が真っ白になって、次に目を覚ましたのは――どこか、知らない景色だった。
 手を見ると、半透明で、薄らいで向こう側が見えている。これは、どうやら過去の記憶だ。幼い頃、親父殿に「わしの仕事を見せてやろう」と言って、幼子に見せても問題がないくらいの、たとえば兎や鶏の雛なんかの誕生する瞬間の、森や農家などを見せてもらった覚えがある。そのときと同じだ。

 ……俺が倒れる前、マレウス様は仰った。『お前は知らねばならない。お前の生まれてきた理由を』と。

 そこに、何が待っているのか。今はまだ分からないが――いや、実はもう薄々分かっているのかもしれないが。何があったのかを、確かめなくては。

 辺りを見回すが、霧が深く、あまり周囲の様子はよく見えない。それに、雪が降っていて、石畳には雪が積もっている。手を伸ばすと、石の壁があった。が、朽ち果てている。崩れた石壁の奥に見えたのは……
「……教会?」
 廃れた様子の、教会だ。俺はそこへ、導かれるように足を踏み入れた。教会の奥、祭壇の前には、二人の人間がいた。
 二人の人間は祈る様子ではなく、祭壇に背中を預けるようにして、寄り添い合っている。その二人の片方を見て、俺は驚いた。……俺とは違い、金色の髪をしているが、二人の男女の男の方は、俺と、顔が瓜二つだったのだ。そして、寄り添う女性は、赤子を抱いている。俺は、もしやこの赤子は、と思った。
 だけど……その赤子は、金の髪だ。俺の髪は、髪の先に霜の降りた、銀の髪。この赤子の持つ太陽のような金色とは違う。ならばこの子は一体、と思っていると、この子の両親と思しき二人が、身体中傷だらけで、凍えていることに気づいた。……どこからか、逃げ出してきたのだろうか?
「……もはや、これまでか。それでも、どうかこの子だけは……」
「ええ。私たちのこの身が凍え果てようとも、せめてこの子だけでも……」
 二人は、赤子を寒さから庇うように身を寄せ合い、近くにあった布をとにかく赤子のまわりに集めた。そして、目を閉じようとした瞬間――目の前に立つ人物を見て、ああ、とほほ笑んだ。
「……貴方が、私たちの神ならば。どうか、お願いします。私の何を差し出しても、この子だけは――」
 そう言い残して、夫婦は事切れた。二人の目の前に立っていたのは。
「親父殿……」
 俺が見間違えるはずもない。それは、若き日の、親父殿。だけど、俺の幻影が傍にいることには気づいていないようだ。……それはそうだ。これはただの、過去にあった記録の再生であり、俺が干渉できる何かではないのだから。
「……何故。久々に人からの祈りを得たと思ったら、このような……。わしは、赤子や家族の守り神ではないのだが……」
 そうして、親父殿は事切れた夫婦の腕から、赤子を見つけ出す。
「お前の両親の強い祈りに呼ばれたとはいえ……わしにしてやれることは、そう多くない。人間界に強く干渉してはならんのでな。せいぜい、この木の実をちょいと与えて、他の者に見つかるまでの時間を稼いでやるくらい……」
 そう言って親父殿は赤子の手に木の実を持たせた。赤子は目を開けると、なぜか、親父殿へとほほ笑んで、手の中に置かれた木の実を親父殿へと差し出した。
「あい」
「あい、って……いやいや、それはわしがお前に渡したものじゃ。お前が食うものなんじゃぞ?」
「あいっ」
 困った顔の親父殿が、渋々木の実を受け取ると、赤子は嬉しそうに笑って、そして再び目を閉じた。
「お前……。飢えて凍えているだろうに、食糧を人にやってしまって。それでは、生きてはいけぬぞ。両親の祈りを、仇にするつもりか……?」
 親父殿は、眉をしかめて頭を抱えると、ええいままよ、と声をあげ、赤子を抱き上げた。
「わしが、今この場所へ呼ばれたことに意味があるのなら……お前を、放ってはおけぬわな」
 親父殿が教会を後にする。そうすると、景色がボロボロと朽ち果てた絵画のように崩れ落ちて、別の場面へと切り替わる。そこは、……地下室だ。だけど、俺の今いる時代のものではない。やはり、これも過去の景色だ。
 若き日の、と言ってもこちらも親父殿と同じく姿の変わらぬマレウス様が、あの後はざまの世界へ戻ったらしい親父殿を迎えている。
「リリア、その赤子は……?」
「……人間界から拾ってきた」
「何を……? 人間界への強い干渉は禁じられている。ましてや、人の赤子を拾うなど……」
「分かっている! ……だが、親に祈られてしまっては……」
「……リリア」
 赤子のことを抱きしめる親父殿の様子を見て、仕方ない、とマレウス様は溜め息をついた。
「赤子の出生に関しては、僕の方で誤魔化すとしよう。だが、その子にはこちらの空気が合わないようだ。どんどん弱ってしまっているぞ」
「ああ、そうなんじゃ。先ほどから、ミルクだの、すりつぶした木の実だの、与えても何も口にしようとせぬ。このままでは……」
「……死神の足音が聞こえてくる。そうでしょう?」
 カツン、と地下室へ歩み入ったのは……黒いローブを着た、死神。
「来たな、死神よ」
「そう、睨まないでください。僕は……その子の魂を回収する気は、ありませんよ」
「何?」
 マレウス様が驚いた顔をした。彼は、ローブを取った。いつか見た群青の髪が、鮮やかに色を見せた。デュースだ。
「僕は、デュース・スペード。……彼の両親の魂を、先ほど回収した、死神です」
「次はこの赤子の魂を回収しに追いかけてきたのではないのか?」
「ええ、そうするべきですね。でも……。……あの夫婦には、とても敵わないな。自分に鎌を向ける瞬間の死神にすら、息子の生を祈り、手を組んだんだ」
 デュースは、目元を、ごし、と拭った。マレウス様と、親父殿の警戒が、解けるのが分かった。
「……初めてだったんだ。死神を、命を担う神だと扱って、祈りを捧げられた。初めて受けた、神としての祈りだったんだ」
 だから、とデュースは言う。
「その子を、助けましょう。術(すべ)があります。貴方がたの、助力が必要ですが」
 マレウス様と親父殿は、顔を見合わせた。
「話を聞こう。手短に頼むぞ」
「はい」
 それからデュースは、術式の説明をした。それは、転生の術式。本来は人間界で死んだ存在が、死後、何らかの役割を得るために行われる儀式だ。デュースも同じ儀式を経て、死後、死神へと転生したのだという。
「この儀式は、魂の資質のほか、あらゆる面において適正のある魂にしか行ってはならないもので、勝手な理由で行えば、禁術となり罰を受けます。術式に関わる貴方は、受ける罰を免れられないでしょう。それでも、この子を救いますか?」
「愚問じゃな」
 マレウス、わしは術式を行うから、見届けは頼んだぞと親父殿はマレウス様に笑った。マレウス様は、お前は言い出したら聞かないからな、と溜息をついた。デュースが赤子の様子を見ようと、手をかざす。
「この子は、天使の子です。父親が、人間と恋に落ちた天使だったようで……。もし、その縁だけを切って、弱った身体に霊力を吹き込み、赤子の身体でも、その魂の変換に耐えることができるなら、こちらの世界の空気をたくさん吸って、このはざまの世界で生きる何かに生まれ変わり、きっと回復するでしょう」
 目の前の憧憬を、どこか他人事のように眺める俺に、どこからか、声が聞こえ始めた。誰かの気持ちが、流れ込んだ。

 ”――本来、繋がっているべきだった縁だ。実の親との縁を切って、将来この子に恨まれるかもしれないな。それでも……。”

『息子だけでも、助けてほしい。どうか、神様』
『……貴方たちの子には天使の血が流れている。はざまの世界で暮らすのなら、これから天に昇るあなた方とは二度とは会えないかもしれないが、それでも?』

 夫婦は、見つめ合ってにこりとほほ笑み、大鎌を構える死神の前で、神に祈りを捧げるように手を組んだ。

「あ……」
 これは、デュースの記憶? 目の前では、禁術が進んでいく。デュースが中心になって何かの術を行う魔法陣の前に立ち、呪文を唱えている。
「準備が出来ました。赤子を、陣の中心へ」
 親父殿が、赤子を魔法陣の中心へと抱き下ろす。三人が顔を見合わせて、頷く。
「……術式を始める前に、僕からお願いです。この術式が成功したら、頼みたいことがある」
「ああ、なんでも申してみよ」
「この子を助けるのは、僕の独断です。死ぬはずだった魂を勝手に生かした僕は、この後、ひどい罰を受けるかもしれない。そのことを、どうか、この子には黙っていてほしいんです。それから、この子が無事に大きくなったら、一目だけでいい。会いたいと思います。どんな風に成長したのか、確かめたいので」
「……それだけで良いのか? 褒美を与えることも、罰を軽くせよと嘆願することも出来るのだぞ?」
「では、消滅の罰だけは免れるように嘆願をお願いします。自分が関わった命ならば、最後まで責任を取りたいので」
「欲のないヤツじゃ。良かろう! 始めてくれ!」
 そして、術式が始まる。僕が手を上げたら魔力を注いでください、と告げたデュースの言葉に合わせて、親父殿は魔力を注いだ。
「くっ……う……、さすが、転生の儀式。下っ端妖怪からの成り上がりの身では、なかなか、なぁ……!」
 辛そうにする親父殿の傍に、そっとマレウス様が寄り添い、魔力を追加した。
「いかん、マレウスお前まで……!」
「お前の罪は僕の罪だ。そうだろう、リリア。先ほどから思っていたが……このような宴に、僕を招かないとは、良くないことだな。この度は共犯と洒落こもうではないか」
「……すまぬ、恩に着る……!」
「魔力はもう、十分ですね……。では、仕上げです。天界との縁だけを切りますよ……出でよ、大鎌!!」
 そうして。赤子に繋がる、金色の糸が切られて。赤子は――赤子の、金色だった髪は。どこかで見たような、霜の降りた銀髪に色を変えた。
「術式は!?」
 ふうー、とデュースが息を吐く。
「成功、です。抱いてあげてください……」
 親父殿が、魔法陣の真ん中に置かれた赤子を抱き上げる。赤子は、むずがゆそうに身体を動かしている。
「ああ……生きておるな。しかと、息もしておる……。確かにこちらの世界の魔力も感じるぞ。しかし、この霜の降りた髪は……?」
「あ、それは……僕が、本業は冬の神なもので。ちょっと魂の形に影響しちゃったかもしれません……」
「ふっ、かまわない。丁度いい、この子はこのはざまの世界に新しく生まれた雪の精霊だということにして、育てれば良いだろう」
 そしてへたり込むデュースの前に、親父殿は赤子を――俺を抱いたまま近づく。
「この度は、本当に助かった。恩に着るぞ、デュース」
「いえ。……あ、じゃあ。もう一個だけ、お願い追加していいですか?」
「なんじゃ?」
「この子が自由に物を言えるようになって、自分で自分の道を選べるようになったとき。今、自分は幸せだと笑った姿が見たいです。この子の両親は、息子の幸せを、僕に願った。死神にそんなことを祈る人間なんて、いやしなかった。……叶えたいです。きっと最初で最後の祈りになる」
「この子の思う幸せ……それはなんとも難しい願いじゃの。だが、そうなるように努力はしよう」
 そしてデュースは立ち上がり、赤子の手に指をつけて、握手をした。
「お前も。約束だぞ。こんなにたくさんの人が頑張ったんだから……絶対、どんなことがあっても、必ず幸せに生きてくんだ。いいな?」
 そして、銀髪の赤子は笑ってデュースの指を握り返した。

 ……ああ。俺は、俺はずっと、マレウス様と、親父殿。命を助けてくれた二人に感謝して生きてきた。でも、もう一人。いや、三人。両親と、デュース。その三人がいたことに、どうして今の今まで、気づかなかったんだ。
 情けない、と悔し涙を擦っていると、また、場面が切り替わった。……裁判場だ。まさか、と俺は思う。しかし、俺の覚悟が出来るよりも先に、その言葉は告げられた。
「判決を下す。デュース・スペード。今回、公式に許可のない転生の儀を行い、主導した罪への罰として――貴殿を『最期の死神』へと、任命する」
「……」
「何か、言いたいことは?」
「ヴァンルージュ様とドラコニア様は、どうなりましたか?」
「彼らは、君と同じく、今の仕事を任意のタイミングで交代できないことになった。よって、これよりは後進の神々の育成に務めてもらう。他に聞きたいことは?」
「いえ、分かりました。慎んで、罰をお受けします」
「よろしい。では、これにて閉廷!」
 ……やはり。ああ、やはり。デュースのことをあれほど苦しめ、恐れさせている『最期の死神』の役目は。デュースがそんなものに任命されてしまったのは。俺を、助けたから、だったんだ。親父殿もマレウス様も、罰を受けていた。なのに、俺は、何をのうのうと、百年も。何も知らずに、知らない顔で……。

 ハッと気が付くと、元の地下室へ、戻ってきていた。ソファに寝かされている。
「親父殿、マレウス様……俺は……」
「随分うなされていたな、シルバー」
 ただ昼寝から起きたかのように、マレウス様は応えた。
「……どうして。どうして俺を助けるために、貴方たちが……」
「おやおや。そんなことを言うために、お前はここへ来たのではないだろう? 目的を見失うな、シルバー」
「そうじゃ。あれとでなければ幸せにならないと啖呵を切って、約束をしたのだろう。本題はここからじゃぞ。それとも、やはり諦めるか? ん?」
「親父殿……マレウス様。俺は、俺は……っ」
 俺は、何も言えなくなって、二人にまとめて抱きつき、抱きしめた。苦しいわ、と親父殿は言い、マレウス様は、力が強くなったな、と言った。

 アパートの部屋で目を覚ます。頭が重くて、目が腫れぼったい。顔を洗いながら思う。ああ、なんか泣き喚いて寝ちゃった気がする。シルバーさんにも八つ当たりでクッションなんか投げつけちゃったし、謝らないとな。……なんて思ってると、気づいた。
 あれ、シルバーさんどこ行った? 夜勤のバイトに出たのかと思ったけど、スマートフォンは置きっぱなしだし、『シフトは休み』のメッセージ通知がそのままだ。
 家の中を探し、風呂桶の水の中まで探したけど、どこにも見当たらない。一人で、外へ出かけたのか?
 でもそれなら置き手紙くらいしていくはずだけど、まさか、あんな姿見せた僕に愛想尽かして出て行っちゃったとか……? なんて思ってると、後ろから声をかけられた。
「デュース」
「へあっ!? え、あれ、家の中、いなかったよな?」
「……その、少々はざまの世界へ行っていた。確かめたいことがあって」
「あ、そ、そうだったのか……」
 そういえば僕がこの間、シュラウド様のところに行って自由に行き来できるアプリ入れたんだった。と、そんなことを思っていると、シルバーさんにグイッと腕を引き寄せられ、抱きしめられた。
「あ、あの……?」
「……君は、眠りに落ちる前。俺が、心変わりしないか不安なのだと言っていたな」
「えっ、やっ、そんなことは……」
 言った、かもしれない。死刑囚の魂の回収でメンタル落ちまくってたから、余計なこと言いまくったかもしれない。
「これが俺の勘違いでないのなら、君も俺のことを、大切な存在だと思ってくれていると思う」
「や、まあ、それは……」
 大切じゃない、なんて言わないけど。いや、でも、今言いたいのってそういうことじゃないよな?
「どうしたんだよ急に、改まって」
「……親父殿に、色々な話を聞いてきた。君と生きるための方法も、君が、俺のためにしてくれたことも、すべて」
「え……」
 い、言わないでくれって頼んだのに! あの人たち……! そんなこと聞いたら、シルバーさんは責任を感じちまうだろ!
「親父殿たちを、責めないで欲しい。俺が無理を言って、聞き出したんだ」
「ど、同情とか責任感で、僕に何か言おうってんなら――」
 先に、シルバーの言葉を拒もうとした。でも、僕の拒絶は、先に拒まれた。
「デュース。君は、俺を愛してくれているだろう。俺も、君からもらい、親父殿とマレウス様と共に育んだこの命で、今、君のことを愛している。どうか、俺と……結魂、してくれないか」
「へ、け、結魂……って?」
「二つの魂をひとつの連理の葉に乗せ、結ぶ方法だ。随分古い儀式で、もうするものもいなくなったそうだが……。その儀式をすれば、魂が溶けあい、罪も罰も同じものを背負い、同じ時を生きられる。その代わり、一度結ぶと、二度とは解けない契約だ」
「それを、僕に……?」
「ああ。俺は、このまま生きていれば、君よりも先にこの身を失うだろう。だが、俺はもう、君を一人にしたくない」
「だ、駄目だ! 僕は、シルバー、お前に幸せになってほしくて……!!」
「……言っただろう。君とでなければ、幸せにならない。そして、幸せになると、君と約束をした。何よりも、君は勝手に俺を救ったんだ。俺も、勝手に君を救いたい。俺は、もうそう決めたんだ」
「……っ」
 シルバーは、僕の薬指にくちづける。僕は、拒みたくて、拒もうとして……拒みきれなかった。シルバーの身体に、抱き縋る。
「……本当は、本当はさ。最期の瞬間、一人ぼっちになった瞬間に、『あのときお前を助けなければ良かった』なんて、思いたくなくて、もし僕がそう思ったり、考えるかもしれないってことを知られたらって思うと、……嫌で。傷つけたくなくって、怖くて……ずっと、シルバーを拒んでたんだ……」
 でも、もうそう思わなくてもいいのか、とデュースは言う。
「後悔など、させるものか。俺をあの日助けたことが正しかったと、君の傍で証明し続けよう」
「……僕が嫌になっても、知らないからな……っ」
「ふっ。そんな日は、来やしないな」

 

 それから。アパートの中、ベッドルームで、シルバーが言う。
「この指輪を互いの左手の薬指に嵌め、意志を持ってくちづけを交わせば、結魂の誓いは完了するらしい」
「へ、へえ……なんか、人間の結婚式みたいだな……」
「そうなのか?」
「……今度、見に行こうな」
「ああ。親父殿とマレウス様からも、俺の魂が変質した後のことについては、心配するなと言われている。君の仕事も、手伝える範囲から手伝っていくつもりだ」
「あ、そうか。罰が大きい分、魂の変化って僕寄りになるのか……つまり、ええと。死神にもなれる、ってことか?」
「君と同じように、本業は雪の精霊であり、副業が死神となるはずだ。君が冬の神でもあることから、雪の精霊として能力は恐らく、そのまま使えるだろうとのことだ。だから、魂の変化については、君のことを助けられる範囲が大きくなる程度のことだと思っている」
「軽いな……」
「何を言う。俺には、とても大きなことだ」
「……ほんとのほんとにいいんだな?」
「何度確認するんだ。いいと言っている。ほら、観念して左手を出してくれ」
「……ん」
 シルバーが、僕の左手に指輪を嵌める。そして、自分の方にも嵌めた。
「デュース、目を閉じてくれ」
「……ああ」
 柔らかく冷たい唇同士が、重なる。何か、優しく暖かい光が、僕の中に流れ込んでくるような感じがした。これが、シルバーの想い……。……じんわりとした暖かさに慣れないまま、唇を離す。
「儀式は成功、だろうか。……ええと……こうか? 『出でよ、大鎌』」
 どうやらシルバーさん用らしい、僕のとはデザインの違った大鎌が出現する。
「お、出せるようになってる。成功、みたいだな」
「ああ。良かった。ところで……デュース」
「ん?」
「これ、どうやって消すんだ?」
 それから僕は大鎌の消し方を教えて、改めてヴァンルージュ様とドラコニア様の元へ挨拶に行き、そして、また、いつも通りの日々へと戻っていった。

「なあ。人間界のことをよく知る修行っての、続けるのか? はざまの世界に帰ってもいいんだろ?」
「ああ、まだしばらくはこの暮らしを続ける。これからはまず、君の補佐、死神見習いとして人間界のことを知っていかなくては」
「……そっか。でも、自分の核とかルーツを知る、みたいなのは達成できたんだろ?」
「ああ。俺の核は、祈りと献身。たくさんの人が、俺のために祈りを捧げ、心を砕いてくれたから、俺はここにいる。俺はその人たち皆に報いるために、日々を生きたい。もちろん、君にもだ、デュース」
 シルバーは髪の毛にキスをしてくる。
「……人間界では、ってか向こうでも、外でイチャつかない!」
「ふっ、シャイなんだな。俺よりも年上なのだろう?」
「調子に乗るなっての」
 それから僕は、月を見上げて、夜の道を振り返り、シルバーに聞いた。
「なあ、シルバー。今、幸せか?」
「ああ。俺は、生まれてきて、ここに生きていて、幸せだ」
 そう言って胸を張るシルバーに、僕は思うんだ。あの日、あのとき。助けて良かったんだ、僕の選択は間違いじゃなかったんだ、って。
 世界が最期を迎える日、その瞬間二人で終わりを迎えるまで、きっと、思い続けられるんだ。

 夏の嵐は去り、秋が来ようとしていた。じきに、冬が来る。そうしたら、あの教会にも一度、花束でも捧げに行くのも悪くないなと二人で口にした。

*おしまい

【Special Thanks】
・執筆ならびに構想中、大変世話になった楽曲たちです。
よろしければメインテーマだけでも読了後に聴いてみて頂けると幸いです。

*メインテーマ(主題歌)
シリウス/BUMP OF CHICKEN

*他楽曲
スノーマン/halyosy
月虹/BUMP OF CHICKEN
ray/BUMP OF CHICKEN
雲外憧憬/FantasticYouth
月を見ていた/米津玄師

・今後こちらの本棚で書かれる話は、不定期に更新される番外編(その後の話)となります。ご縁があれば気まぐれにお付き合いください。

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