ショコラチック*ロマンティカ

※ドルパロ(ギャラリーもしくは小説本棚に設定が置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
※時系列:ドーム後、交際宣言後
※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、トレイ先輩→トレイさん、など)

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 冬のある日。バレンタインも近づいてきて、世間にはチョコレートの香りが充満していく中、僕は、いつも二人くつろいでいるリビングで、シルバー先輩に向けてこんなことを切り出した。
「先輩、今度の2月14日のことなんですけど」
「どうしたんだ?」
「午前中事務所にちらっと顔出して、そのあとバレンタインのミニライブ出演することになってますよね」
「ああ、その予定だな」
 僕たちにはまだ、マネージャーがいない。基本的にはローズハート事務所長が番組とかの交渉をこなしてくれているから、それが誰かと問われればローズハート事務所長やクローバーさんがその役割なのかもしれない。ただ、やっぱりそろそろ僕たちにも専任の人がいた方がいいだろうってローズハート事務所長が準備をしてくれてはいるみたいだけど、なかなか良い人がいないみたいなので、今はローズハート事務所長と、あと僕たち自身でどうにかこうにかスケジュールをこなしている。
「僕、ミニライブ終わった後はちょっと出かける予定があるので、夕方ちょっと席外します」
「分かった。ちょうど、その日は俺も出かけようと思っていたところだ。夜には会えるか?」
「はい、夜には帰ってきます!」
「そうか、分かった。……出かける際は、十分気をつけるように」
 シルバー先輩はそう言って、ぽんぽんと僕の頭を撫でる。アイドルをやっているせいなのか、それとも僕が昔ワルだったせいなのか、ちょっとした事件に巻き込まれがちなお陰で、シルバー先輩に心配をかけてしまっているみたいだ。
「もう、心配性なんだからな」
「大事なものを心配するのは、当たり前のことだろう」
「へへ……っ。そうですね。先輩もお出かけ、気をつけてくださいね」
「ああ」
 シルバー先輩の肩に、頭をもたれかからせる。……やっぱり、好きだなあと思った。優しくて、恰好良くて、頼りになって……。いつも僕に向けて、お前のことが大事だ、大切だって、たくさんの態度で伝えてくれる。だけど、シルバー先輩にもらってばかりなのは嫌だ。僕だってちゃんと、好きだ、大事だって気持ちを返したい。そう思う。
 だから僕は、決めたんだ。バレンタインをきっかけに、とびっきりのプレゼントをしよう、って。正直を言えば別に、バレンタインやチョコレートでなくたっていい。ただ、日頃のお礼っていうか、普段大事にしてくれることへの返事がしたいって、それだけなんだ。きっかけなんて、なんだっていい。ただ、大好きなあの人に改めて気持ちを伝えたいって、バレンタインには当たり前に聞くありふれた表現かもしれないけど、本当にただそれだけの素直な気持ちなんだ。

 そして、来たる2月14日。午前中は一回事務所に顔を出してファンから届いたチョコレートを確認しにおいでとローズハート事務所長に言われているから、僕たちは揃って事務所に顔を出した。
「やあ、来たね二人とも。おはよう」
「おはようございます、ローズハート事務所長!」
「おはよう」
「ステージ前にわざわざ呼び出してすまなかったね。本題だけど、ご覧。これがキミたちに届いたチョコレート……の、ほんの一部だよ」
「うわあ!」
「……すごいな」
 事務所の一角にうず高く積まれた段ボールの山が、スペースを圧迫している。……チョコレートもこれだけの量になると、すごい迫力だな……。
「食べ物となると何が入っているか分からないし、量も大量だから、事務所では適宜処理する手筈になっているけれど……その旨はもちろん、口外しないようにね。もし、SNSなどにバレンタインのお礼を投稿する際は、必ず『おいしくいただきました』と書き添えるように!」
「はい、ローズハート事務所長」
 それから事務所でバレンタインの過ごし方に関するひと通りの注意を受けた後、バレンタインフェアのステージでミニライブをこなし、夕方僕たちはいったん別れることになった。
「それじゃあ、また夜に」
「はい、また夜に!」
 シルバー先輩と別れ、僕は歩き出す。髪のセットを少しだけ変えて、メガネをかける程度の変装をして、チョコレートの甘い香りが漂う街の中へと飛び込んでいった。
 今日、僕が目的としているのは、バレンタインフェアのチョコレートコーナーへ行くことだ。そこで、シルバー先輩に向けたチョコレートを買って、日頃の感謝を伝えようと思う。
 とはいえ、シルバー先輩はそんなに甘いものが特別好きってわけじゃない。コーヒーもいつもブラックで飲んでるくらいだし(本人が言うには、味が好みというよりは眠気覚ましらしいけど)、そこまで甘いものが得意ってわけじゃないはずだ。
 だから、コーヒーを使ったチョコレートなら、ティラミスとか、それこそコーヒー系のチョコレートとか……。そんなことを考えながらチョコレートフェアのコーナーにたどり着くと、僕はちょっと驚いた。……すごい数の女の子でごった返してるな……。僕、あの中に混ざって、無事にチョコレート買って帰れるのか?
 いや、怖気づいてたって始まらないだろ、俺。……どうにか頑張って、シルバー先輩にとっておきのチョコレート買って帰るんだ!
 チョコレートコーナーに入ると、ちょっとだけ女の子たちの目線を引いた、気がする。けど、女の子たちも自分のチョコレートを選ぶことが優先みたいで、そこまで気にされることはなかった。そりゃそうか、バレンタインにチョコレートを買いに来てるような女の子は、それぞれにとって大切な王子様がいるよな。他の男がいたって、目に入るもんか。
 そんな風にひとり納得して、僕も僕の王子様……いや、そういうのは、シルバー先輩には似合うかもしれないけど、僕にはやっぱりちょっと照れくさいな。シルバー先輩に贈るチョコレートを選ぼうと、カウンターに近づいた。ガラスケースには、箱に入ったチョコレートが綺麗にディスプレイされている。きらきらした透明なガラスの置き物や、ライトにも照らされていて、なんていうかすごく綺麗だ。
 ふと、僕の目はその中のある一箱に奪われた。……あのチョコレート、なんだか緑色してるな。チョコミントとか、抹茶の味なのか? いや、それよりも、僕が気になっているのは、あの見た目だ。
 そのチョコレートには、小鳥のイラストが描かれている。シルバー先輩は、小鳥が好きだ。朝からバルコニーにやってくるスズメたちに挨拶してることもある。ひょっとして喜んでくれるかな、なんて思って、僕はそのチョコレートの箱に手を伸ばした。すると、横から同じようにチョコレートの箱に手を伸ばしてきた人の手と重なってしまった。
「あっ、すいません」
「いや、こちらこそ……デュース?」
「えっ、シルバー先輩?」
 驚いた。僕が手を伸ばしたチョコレートに、同時に手を伸ばしたのはシルバー先輩だった。
「どうしてここに?」
「お前こそ。用事があると言っていたのは、この場所だったのか」
 顔を見合わせて驚いていると、シルバー先輩が箱から手を引いて言った。
「それが欲しいのなら、お前が購入してかまわないぞ」
「いいんですか? でも、これ、先輩も買いたかったんじゃ……」
「いや……。俺は、お前に贈るチョコレートを探しに来ただけだったからな。お前が自分で食べたいと思っているのなら、お前が買った方がいい」
「えっ? 僕に?」
「……ああ。お前は、甘いものが好きだろう。だから……」
 探しに来た、そう、どこか照れくさそうに告げるシルバー先輩に、僕は笑ってしまった。
「なら、二人でこれ買って帰りませんか」
「二人で、か?」
「実を言うと、僕もシルバー先輩にあげるチョコレート探しに来てたので」
 正直にそう言うと、今度はシルバー先輩の方が笑う番だった。
「そうか。同じことを考えていたんだな。なら、一緒に買って帰ろう」
「はいっ」
「なんなら、このままデートしてもいいぞ?」
「わ、それもいいなあ! そうしましょう!」
 それから僕たちは、小鳥のチョコレートが入ったチョコレートボックスを一箱だけ買って、バレンタインフェアを後にした。道中、ファンの子に偶然会って撮影をせがまれたので、シルバー先輩にいいですかと確認をして、三人で一緒に写真を撮った。僕たちはもう交際宣言してて、ある意味ではファンの子にとっての夢を壊しちゃったかもしれないっていうのに、まだこうしてアイドルとしての僕たちを応援してくれる人がいるのって、本当にありがたいことだよな。
 その後は街中を適当にぶらついて、アクセサリーの類を見てみたり(僕もシルバー先輩もさほどお洒落に興味はなかったけど、事務所に入ってからというもの、普段からちょっとくらいはお洒落に気を付けておくように、とローズハート事務所長に酸っぱく言われている)、チェーンのコーヒーショップに寄ったりして、お喋りしながら1杯ずつゆっくりエスプレッソを使ったドリンクを飲んで、あとはスーパーマーケットに寄って、冷蔵庫に入れときたい食材とか足りない調味料を買い足した。
 デートっていうには所帯じみてるかもしれないけど、僕もシルバー先輩も、なんだかんだ一緒にいられたらそれでいいんだよな。
 芸能人寮のマンションに帰りつき、そそくさとリビングのテーブルの真ん中にチョコレートボックスを置く。
「ふっ、ずいぶん楽しみにしていたんだな」
「いや、その! なんていうか、僕にとっては特別なチョコレートだったので……」
「特別? 何か、このチョコに思い入れでもあるのか?」
「はい! ……あ、えっと。まずは箱、開けちゃいますね!」
 チョコレートの箱を開けて、緑の鳥が描かれたイラストのチョコをひとつ手に取り、そして、意を決して伝えたい言葉や気持ちと共に、シルバー先輩に差し出した。
「結局、二人で買うことにはなっちゃったんですけど! ……その、いつも、ありがとうとか、大好きですって気持ちを、改めて伝えたくて……。シルバー先輩は、いつも僕のこと大事にしてくれるので! なので、あの、……す、好きですっ!」
「デュース……」
 シルバー先輩は、僕の手から直接、チョコレートを口に含む。
「ん、甘い。……まるで、今のお前の気持ちがこもっているようだな。ありがとう、とても嬉しい」
 ぽんぽんと頭を撫でられ、僕は少し照れてしまう。……もう、ストレートすぎて恥ずかしいことをいつも平気で言えちゃうんだからな……。
「俺からも、返していいか?」
「は、はい! どっからでもかかってきてください!」
「ああ」
 シルバー先輩は黄色い小鳥……たぶんヒヨコだ、ヒヨコのイラストが描かれたチョコレートを手に取り、僕の口元に差し出してくる。
「お前が、新作のチョコレートのCMを見る度、目を輝かせていたから、俺からも、この日に何か贈ってやろうと思っていた。それで、このヒヨコに目を止めて手を伸ばしていたのだが……、まさか、お前が同じように、同じことを考えて、そう行動していて……そして、こんなにも嬉しい気持ちにさせてもらえるとは、思っていなかった。ありがとう。改めて口にしよう。俺も、お前のことが好きだ。ほら、口を開けろ」
「……はい」
 口を開けると、シルバー先輩の指が優しく僕の口の中にチョコレートを放り込む。……甘い。甘くてとろけるその感覚は、まるでシルバー先輩の甘い言葉自体を食べたかのような、シルバー先輩と過ごす、こういうひとときそのものみたいな錯覚を僕に覚えさせる。
「なんだかちょっと、照れくさいですね」
「ああ。だが、悪い心地はしないだろう」
「わっ」
 シルバー先輩が僕の腕を引いて、身体をぐっと抱き寄せる。
「もう、さてはいちゃいちゃするの好きですね?」
「悪いか?」
「……いいえ、全然!」
「そうか」
 シルバー先輩の手が、僕の髪を梳くように撫でる。どっちからともなく、吸い寄せられるようにひとつキスをして、チョコがなくなっちゃうまでこうしてましょうね、と言ったら、なくなったら終わりなのか、と名残惜しそうに言われてしまった。
「ははっ。チョコがなくたって、僕も、ずっとこうしてたいです!」
「ふっ、そうか」
 ずいぶん素直になったな、とシルバー先輩は肩に抱き着く僕の頭を撫でる。ぎゅっと抱きしめてもらって、頭を撫でられて、なんだか甘やかされてる気分だ、っていうか、ほんとに甘やかされてるのかもしれないけど。
「いっぱい一緒にいたから、二人のときくらいは先輩には素直になってもいいんだ、って覚えましたから、僕」
「そうか」
「はい。やっぱり、照れくさいときもあるけど、でも、先輩はいっぱい好きって言ってくれるから……僕も、返さないとフェアじゃないですし」
「……いい子だ」
 シルバー先輩の手が僕の頬を撫でる。お返しにシルバー先輩の頬にキスをすると、同じように反対の頬にキスを返された。
「へへっ。好き、大好き……。大好きです、シルバー先輩!」
「ああ。好きだ、デュース」
 その日は結局、日が落ちて聞き飽きてしまうほどまで、お互いに好きとキスを繰り返すことになるのだった。

*おしまい

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