ニューイヤー・イヴ

※ドルパロ(ギャラリーもしくは小説本棚に設定が置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
※時系列:ドーム後、交際宣言後
※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、トレイ先輩→トレイさん、など)

以上大丈夫な方はスクロール↓

「はー……っ」
 息を吐いて、手を暖める。24日の夜から、25日のクリスマスを実家で過ごした26日午後の僕たちは、今、一度芸能人寮のマンションにある一室に戻って、大掃除をしていた。
「寒くなったら、いつでも部屋に戻って休憩していいからな」
「まだまだ平気です!」
 バルコニーの外側からガラスクリーナーで窓を拭く僕に、室内で掃除機やはたきをかけて回っているシルバー先輩は言う。
 そうしてしばらく窓拭きをし、それが終わり次第、水仕事のついでだとトイレや風呂、脱衣所などの水回りを掃除してしまう。その間にシルバー先輩はリビングダイニングやキッチンを掃除してくれていたようで、あとはそれぞれの室内を残すのみとなった。
 とは言っても、僕もシルバー先輩も部屋をそれほど散らかす方じゃない。軽く物をどかして、全体に掃除機をかけてしまい、気になるところだけ雑巾やクリーナーで拭いてしまえば、大掃除は3時間もかからずに終わった。
「やっぱり普段から綺麗にしてると、大掃除も簡単でいいですね!」
「そうだな」
 ひと段落ついて、綺麗になったリビングのソファで僕たちはくつろぐ。
「……お正月過ぎまで、ちょっとだけお別れですね」
「ああ」
 クリスマスを実家で過ごした僕たちは、26と27の2日間だけはこうして大掃除をするために芸能人寮に戻り、そして28日から三が日までは家族と正月を過ごすためにまた実家に戻ることになっている。移動が慌ただしくなるし、二人で正月を過ごしたっていいんだけど、僕たちは親が大事だ。大切な親に、ひとりで淋しく過ごしてほしくないしたまには顔を見せなくちゃって気持ちが、僕たちをクリスマスや正月の時期に実家に帰らせている。
 これについては、僕もシルバー先輩も同じ価値観を持っている。だから、少し淋しい気持ちはあれど、揉めたりすることはない。
「一週間くらい会えないから、淋しくないように、今のうちにいっぱいいちゃいちゃしておきましょうね!」
「……ああ」
 シルバー先輩はなんだか浮かない顔だ。どうしたんだろう?
「どうかしましたか?」
「その……。お前と出会ってから、長く離れるのはこれが初めてかもしれないと思って。単独のロケなどがあっても、せいぜい、2~3日だったから……いや、それでさえ俺は、よく淋しいと思っていたから。家には親父殿がいるとはいえ、大丈夫だろうか、と」
「ふふっ、もう。淋しがり屋なんだから」
 僕は嬉しくなって、シルバー先輩の肩に寄り添う。はじめのころはあまりこうやって淋しいとかなかなか口に出してくれなかったけど、たくさんの時間を一緒に過ごした最近ではこうして素直にそういう気持ちを僕に見せてくれることが増えた。だから、それが嬉しい。
「大丈夫ですよ。そういう淋しい気持ちをお父さんにさせないためにも、お家に帰るんでしょう?」
「……ああ、そうだ」
「もし、シルバー先輩が淋しくなったら、いつでも電話してくれていいですし……。スマートフォンにも、一緒に撮った写真や動画、たくさん残ってるはずです。離れてても、僕はちゃんと一緒にいますよ」
「そう、か。そうだな」
「実際、シルバー先輩のお家も、僕の家も、そんなに離れてるわけじゃないですし……。初詣には待ち合わせして行くことだって出来るんです」
「ああ。それはいい考えだ。俺も、お前の母君にもご挨拶がしたかった」
「ははっ、そうだったんですか? 僕もシルバー先輩のお父さんにご挨拶したいです。じゃあ初詣では待ち合わせしましょうね」
「ああ。それは楽しみだ」
 シルバー先輩の気持ちが、上を向いてきてくれたみたいだ。嬉しいな。不謹慎かもしれないけど、僕がいないと淋しいと思ってくれて、それで、僕の言葉で、思い出で、勇気づけられてくれるんだ。
「会いたくなったら会えばいいし、声が聞きたくなったら電話すればいい。ですよね?」
「……ふっ、そうだな。ありがとう、デュース」
 シルバー先輩からキスをされる。これでキス納めですね、と言ったら、まだ納めない、明日部屋を出るときまではすると拗ねたように言われてしまった。
「じゃあ、納めるまでにたくさんしておきましょうね。先輩の大好きなキス」
「……お前だって好きだろう」
「ふふっ、はい」
 照れてしまうのか、僕の方がキスが好きだって指摘してくる先輩を笑って受け入れる。いつも落ち着いてて大人びてるのに、たまに子どもっぽいところもあって、そこが可愛いと思ってしまうんだ。
「せーんぱい」
 先輩の方に身体を傾けて、ふにふにとその唇を人差し指でつつく。柔らかいなあ。この唇がいつも僕にたくさんキスしてくれてるんだ。
「……なんだ?」
 シルバー先輩はよく分からないと疑問符を浮かべ、されるがままだ。
「今のうちに先輩のこといっぱい触っておこうかな~、って」
「……なら、俺も触る」
「ん……」
 シルバー先輩の手に、耳や頬を優しく撫でられる。くすぐったいなあ。それから先輩は、やり返すように親指で僕の唇をふにふにと触ってきた。
「なるほど、確かに少し楽しい、かもしれない」
「柔らかいですか?」
「ああ」
 ぱくりとシルバー先輩の指を口で食むと、その指で舌をくすぐられた。
「ん……」
 軽く口内をいじったあと、シルバー先輩は僕の口から指を抜く。
「指より、こちらがいい」
 そして、シルバー先輩は僕にキスをして、直接舌を入れて僕の口内を弄んでいく。
「ん、んむ、ぅん……」
 ぴちゃぴちゃと舌を舐め合い、何度も深くくちづけあう。合間に、ちゅ、ちゅ、と軽いキスも挟んでくれて、先輩は本当にキスが好きなんだな、と思った。そして、それを全部受け入れて、嬉しいと思ってしまう僕も。
「先輩、好き……」
 先輩の膝に跨り、シルバー先輩の首に腕を回す。すると、先輩は僕の背中を抱えて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
 そんな先輩の身体にぎゅっと抱き着き、すうと息を吸うと、コーヒーとミントの匂いがして、ああ、シルバー先輩の香りだと落ち着く感じがした。
「晩ご飯、お鍋にしましょうか。それで、一緒にお風呂入って、手を繋いでベッドで寝るんです。いいでしょ?」
「フルコースだな。……ああ、かまわない」
「何の味がいい? 具、何入れる?」
「そうだな……、キノコは入れたいから、それに合うならなんでもいいが」
 お互いの鼻や頬、額、耳などあちこちにちゅ、ちゅと甘えるようなキスをしながら、今後の予定を相談する。
「この時期いろんなの売ってるから、ちょっと風変わりなのも、王道なのもおいしいですよね。それも一緒に買いに行って選びましょう?」
「ああ、そうだな。……もちろん、手を繋いで」
「はい。あ、でも、お店の中は別、ですからね!」
「そうか、残念だ」
 シルバー先輩の顔に4、5回ほどたくさんキスをして、それから、最後に唇へ少し長めにキスをして、言った。
「お買い物デート、行きましょう?」
「……ああ。すぐに支度する」

 それから、僕たちは手を繋いで近所のスーパーマーケットへ買い出しに行く。こんな風に買い物するのは、これが初めてじゃないけれど、それでもなんだか今日は特別な気分だ。
「何の鍋にしようかな~、っと!」
「ご機嫌だな」
「へへっ、何のだしにしようかって考えてたらお腹空いてきちゃって……あ! 着きましたよ!」
「なんだ、もう着いてしまったのか。……仕方ないな」
「もう、またそんなこと言って!」
 名残惜しそうにシルバー先輩は繋いだ手を離してくれる。僕は買い物カゴを取り、ほら一緒に行きましょうとシルバー先輩の腕を引いた。
「既に店の入り口からだしがいっぱい並んでますね。どれにしようかな……。先輩は好きなだし、ありますか? しょうゆとかみそとか……」
 いろいろなだしが並んでいるのを見て、僕は迷ってしまう。
「俺はあまり鍋のだしにこだわりはないが……あえて言うなら、トマト鍋のだし、だろうか?」
「トマト鍋ですか? それもいいですね。あ、前お父さんがトマトジュース好きなんだって言ってましたね、それでですか?」
「いや……」
 お前と初めて一緒に食べた食事が、トマト鍋だったから、とシルバー先輩は少し恥ずかしそうに言う。
「そ、そうですか! じゃあトマト鍋にします?」
「俺はどちらでもかまわない。お前との思い出を重ねてもいいし、別のものをまたお前との思い出にしたっていい」
「もう、恥ずかしいこと平気で言えちゃうんだからな……」
 そうしていると、ふと目の前にトマトという文字が目についた。けれど、これはトマトの鍋じゃない。でも、目にしてしまったからにはもう口の中がそれを食べたい、って味になってる。
「あのー、これはダメですか? トマトを使ったカレーの鍋……」
「カレー鍋か? かまわないぞ」
「……甘口ですけど」
「甘口の料理を食べるのは、慣れている。幼馴染のセベクが甘めのものしか食べられなかったからな。もし甘すぎれば自分で調整するから、好きに選ぶといい」
 お前がおいしそうに食べている姿が何よりの調味料だからな、とシルバー先輩は僕の頭を撫でる。
「もう、そうやってすぐ僕のこと甘やかすんだから……。じゃあお言葉に甘えてこれにしちゃいますからね!」
「ああ」
「……シメはもちろん、リゾットですよね?」
「ふっ、そうしてくれると嬉しいな」
「卵入れても合いますかね?」
「甘くなりそうだが、合わないことはないんじゃないか? エッグカレーというのもあるだろう」
「じゃあ、ちょっと辛くできる調味料も一緒に買っていきましょう!」
「ああ」
 そうして僕たちはいくつかの棚を回り、買い物を続ける。
(一緒に買い物してると、いつも思うけど、こうしてるとなんか、まるで結婚してるみたいだな……。いや、一緒に住んでるんだし、みんなに交際宣言もしたし、指輪とか式がないだけでもうほとんどそんなもんなのかもしれないけど……! でも、そう思っちゃうんだよな)
「デュース、どうした?」
「あ、えっと……!」
 そんなことを考えてていると、シルバー先輩に下から顔を覗き込まれる。
「……なんかまるで先輩と結婚してるみたいだとか、馬鹿なこと考えてボーッとしてました……」
「そうなのか」
 熱い頬に手を当ててそう答えれば、シルバー先輩はなんだか嬉しそうだ。……顔はクールな無表情のままに見えるけど、これは機嫌がいい。なんていうか、まわりに花が飛んでるような機嫌がいいオーラが出てる気がする。たくさん一緒に過ごしてるうちに、僕もだんだん分かってきたんだ。
「では、会計を済ませて帰ろうか。俺のお嫁さん」
「お、お嫁さん!?」
「……お婿さんの方が良かったか? それとも、ダーリンとかハニーの方か?」
「い、いや、その……! 言いたいことは分かるんですけど!」
 やっぱり違和感あるし、デュースでいいです、と言うと、先輩は分かったとうなずいた。
「では、改めて。帰ろう、俺のデュース」
「……はい……」
 なんで今日そんなにデレデレなんですか、と尋ねると、シルバー先輩はしばらく会えなくて淋しいからだと堂々と開き直った返事をくれた。

 そうして僕たちは一緒に家に帰り、一緒にカレー味の鍋をつつく。
「甘口のカレーに、にんじんの甘さが……! おいしい!!」
「子どもの頃によく食べていたレトルトのカレーに近い味がする。懐かしい」
「レトルトをよく食べてたんですか? 意外だなあ」
「……親父殿の手料理は、その……。あまり、俺の好みではない味つけが多くてな。小さい頃はよく、レトルトの食品をねだったり、マレウス様からそうしたものを贈ってもらったりしていたんだ」
「へえ、先輩にもそんなエピソードがあったんですね!」
「まあ、ないことはない」
 そうしてシメのエッグカレーリゾットまで作ってしまい、存分に鍋を堪能した僕たちは、あらかじめ湯を張っておいたお風呂へと入る。
「昼間に掃除しちゃったから、すぐ入れますね!」
「そうだな。まあ、上がったあとに簡単な手入れは必要かもしれないが、掃除は十分だろう」
「僕、先に入ってますから! 先輩、来てくださいね?」
「なんだ、俺が身体を洗ってやろうかと思っていたのに」
「自分で洗って入って待ってますっ!!」
 シルバー先輩に洗われる前にと、急いで自分の髪と身体を洗い、入浴剤が溶けていくのを見ながらバスタブで先輩の到着を待つ。すぐに全裸のシルバー先輩が堂々と現れ、僕はちょっと恥ずかしくなる。
「もう、ちょっとは隠してくださいよ……」
「お互い見たことがあるのに、今さら隠すこともないだろう」
 先輩も洗い場で身体や髪を洗う。それを眺めていると、本当に、髪の毛の先からつま先まで綺麗なものでできた人だよなという気持ちになった。
「ほら、詰めろ。入るぞ」
「はーい」
 身体を洗い終えた先輩が、バスタブへと入ってくる。
「先輩」
 シルバー先輩の身体にすり寄ると、どうした、と先輩はお湯から手を出して僕の頭を撫でた。
「んー、先輩、綺麗だなって。こんな綺麗な人と、こうやって一緒にお風呂入ったりしてるの、夢みたいな一年だったなーって思ってるんです」
「俺にはお前の方が綺麗に見えるが」
「嘘だあ」
「嘘じゃない。この肌も、背中も、腰も、足も。滑らかで、とても綺麗じゃないか」
「んっ、もう……」
 シルバー先輩の手が僕の身体のあちこちを撫でる。それがくすぐったくて、声が出てしまう。
「ふっ、その気になったか?」
 シルバー先輩は笑う。あ、さてはわざとだな? ちょっといやらしい風に触ったの。もう、えっちな人なんだからな。
「……するなら、お風呂じゃ湯冷めしちゃうから、あったかいベッドの中でしましょう?」
 近くに置いてあったアヒルのおもちゃを拾って、シルバー先輩にキスさせてそう言うと、シルバー先輩はまた僕の頭を撫でた。
「ああ、分かった。なら、もう少し温まったらベッドへ移動するとしようか」
「……服、着せなくてもいいですからね?」
「いいのか?」
 いつもは二人で入ったとき、一緒のお風呂から上がったあと、いったん服を着てからベッドに行ってる。すぐ脱ぐんだから意味はないんじゃないのかと毎回言われるけど、なんとなく恥ずかしかったんだ。けど。今日は、その時間も少しだけ勿体ないから。
「今日は特別……。でも、ベッド濡らさないように、ちゃんと乾かしてから」
「ああ、分かった」
 それから僕たちは、お風呂を上がったあと、暖かい室内で髪と身体をざっくりと乾かしてしまい、ベッドへと生まれたままの身体を転がす。さすがにお互い、タオルくらいは巻いてるけど……。それでもなんだか新鮮な気持ちだ。
「デュース」
「はい……」
 シルバー先輩の手が、僕の頬を撫でる。それからすぐに、少ししっとりとした優しいくちづけが降りてきた。
「……終わったら、手を繋いで寝るんです。約束ですからね?」
「ああ。ちゃんと覚えている、デュース」
「ならいいんです。いっぱい、キスしてください……」
 目を閉じて、指を絡めて、シルバー先輩のキスを受け入れる。もしかして、淋しいのはシルバー先輩じゃなくて僕の方だったのかもな、なんてことを考えながら、僕たちが二人で過ごす、今年最後の夜は更けていくのだった。

*おしまい

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