君の夜をくれ

※ドルパロ(ギャラリーもしくは小説本棚に設定が置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
※時系列:ドーム直後、交際宣言前
※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、トレイ先輩→トレイさん、など)

 

大丈夫な方はスクロール↓

 

『……ずいぶん、長い間待たせてしまった。だが、ようやく俺からも言葉にできる。好きだ、デュース。これからの人生も、共に俺と歩んでほしい』
 ふたりの夢だったドーム公演を終え、ようやく言えたセリフ。長く、長く待たせてしまった。そして、公演成功の熱が冷めやらないままに、デュースと初めて結ばれた。俺はデュースの部屋に常々入り浸っていたというのに、デュースはろくに俺の部屋に招いていなかったような、その歪さを埋めたがるように、自分の部屋へと連れ込んで。
 事が終わった真夜中のダイニングで、デュースは言った。水分補給になるようにと淹れてやった、暖かいレモネードをほうと息を吐いて飲みながら。
「どうして、僕を好きになってくれたんですか?」
 デュースの向こうに見える窓は、カーテンの隙間から街路灯の灯かりや道行く自動車のライトをちらちらと映している。
 俺は、デュースよりも先に眠らないようにとコーヒーを飲みながら、静かに答えた。
「お前とようやく初めて恋人として結ばれたばかりの、今、この場で言うべきことではないかもしれないが……、あえて、正直に言うならば、あのときはきっと、誰でも良かった」
「え……?」
「……話せば、長くなるが――だが、その前に。誰でも良かったそのときに、傍にいてくれたのが、お前だった。今は、お前が傍にいてくれて本当に良かったと思っている、その前提で聞いてくれ」
「は、はい……」

 ――そもそも、俺は本来、アイドルを目指そうとはしていなかった。父の開いた剣術道場を継ぐか、あるいは、幼い頃から俺と親父殿の生活に多大な援助をしてくれたドラコニア家の次期当主であるマレウス様という方の秘書になるか、それとも護衛やSPの道を目指すか。そういった道のために、研鑽を詰んでいた。
 そのときに一緒にいたのが、幼馴染のセベクだ。セベクは幼い頃から親父殿の剣術道場に通っていて、俺と年もそう変わらない。幼い頃、俺たちの様子を見に来たマレウス様と出会って以来、今日に至る日まで心酔しているのがアイツの大きな特徴だ。
 親父殿、マレウス様、セベク。基本的に、俺の生活はこの三人に囲まれていた。親父殿に見守られながら、セベクと剣術の鍛錬をして、時々様子を見に来たマレウス様の前で、また二人で競い合って……。そんな賑やかな暮らしを送っていた。
 俺は、将来、セベクと共にマレウス様の傍で働くのだろうと思っていた。しかし、ある日、知ってしまったんだ。若き日の親父殿と、亡き父が持っていた『ドーム公演』という夢は、俺が生まれたことで潰えてしまったことを。さらに言えば、マレウス様が、若き日の親父殿の大ファンであったことを知った。マレウス様は幼い頃に親父殿のライブを一度見たきりだそうだが、それでも、今でも当時のグッズを集めるためのお部屋を持っていらっしゃる。
 そんなわけで俺が自分の道に迷っていたとき、街を往く俺にケイトさんが名刺をくれた。これも機会と思い、俺は、親父殿と亡き父の夢を果たし、もう一度、マレウス様にもステージの上に夢を見ていただきたい一心で、アイドルを志すことに決めた。
 それをマレウス様に相談すると、事務所を紹介された。マレウス様の家も昔は芸能事務所を持っていたのだが、親父殿の引退後、経営不振により取り壊されてしまったそうだ。だから、マレウス様が目をかけて投資しているハーツラビュル芸能事務所を紹介されたんだ。
 それで、今の事務所に入ることになり、その日にお前と出会ったんだったな。とはいえ、あの日、お前を助けたのは、気まぐれなどではない。きっとお前は更生できる人間だと信じていたからなんだ、それは分かっていてくれ。
 ……それから、事務所の方針で、今の芸能人寮のマンションに入ることになった。今、お前もいるこの場所だな。俺は、親元を長く離れるのが初めてだったから、あの頃は、とにかく淋しかったのだと思う。家に帰って、ただいまの挨拶をしても、誰も返事をしてくれないこと、ひとりで食べる食事の、味気ないこと。大切な人が誰も傍にいない暮らしが、ほんとうに淋しかった。そんな中で、お前は俺の傍にいてくれて、俺が部屋に入り浸ったり、共に食事をすることを許してくれた。
 また、仕事の中でも、お前はいろいろとアクシデントを起こしていて……。その度に俺が手助けをすることで、スタッフの方々から、『俺がいてくれて良かった』と耳にする機会が増えた。俺は、きっと、親父殿やマレウス様の夢を潰してしまったことに罪悪を感じていた。だから、俺がそこにいてもいいと肯定される場所が、つまりお前の隣が、心地良かったのだと思う。
 だから、きっと、失いたくなかったんだ。とにかくそのとき、傍にいてくれるお前という存在を、失いたくなかったんだ。お前と初めてキスをした日の夜のこと、覚えているか? 俺はよく覚えている。あれは、ファーストライブの夜のことだった。お前が、ドラマのキスシーンを見ながら言ったんだ。
『恋って、したことないなあ。いつか僕も誰かとキスとかするのかな?』
 お前がキスをするような存在ができれば、今、そこにある俺の居場所がソイツに取られてしまう気がした。だから、お前を引き留めようとして、見知らぬ誰かに、俺の居場所を奪われる前に、お前の『特別』になろうとして――キスをしたんだ。
 けれど、それはまだ純粋な好意ではなかった。だから、俺は『好きだ』と口にしようとして、音には乗せられなかった。今思えば、お前をずいぶん振り回してしまったな……。
 しかし、それでもお前は、俺に手を伸ばしてくれた。俺がそんなことをしたあとでも、自分から部屋に招いてくれたろう。自分から、手を重ねてくれただろう。あの頃から、きっと、恋としては意識をし始めたのだと思う。お前のことを可愛いと思い始めた頃だからだ。
 とはいえ、まだ俺はお前のことを、騙していると思っていた。自分の居心地の良さのために、お前のことを好きなふりを続けているんだろうと、自分では思っていたんだ。今思えば、笑える話だ。とっくの昔に、心を奪われていたのだというのに……。
 それから、お前に言われたんだ。『僕ばかり好きなのかと思っていました』と。お前に好きだと言われて、好意を寄せられているとハッキリ言葉にされて、ようやく自覚した。お前のことを、好きなフリをして騙して利用しているような関係なんて嫌だ、と。お前のことが好きになったのだ、と。
 俺は、すべてを白状して謝り、お前と一からやり直そうと思った。好きだと伝えて、やり直そうと。それでも、俺の唇は、今日、この日まで好きだと言葉を紡げないままでいた。それはやはり、父たちの夢を潰してしまった罪悪感からのものだったのだろう。
 だが、お前は、そんな情けない俺さえも、受け入れてみせた。今日、ステージに立つ前に、お前は言ってくれただろう。
『アンタが言えないのなら、アンタの分まで僕が言葉にしてやる。好きだ、シルバー先輩』
 ……あのとき、あの瞬間、本当に俺の心はお前に落とされたのだと思う。俺が自覚するよりももっと早い段階で、既に惚れていたとは思うのだが、なんと言えばいいか……。二度も三度も、より深い恋に落とされたと言えばいいのか。
 ともかく、お前を好きになった理由は、三つ。はじめは、淋しかったから。次は、傍にいてくれたから。最後に、俺という存在を、真正面から受け止め、受け入れてくれたから……と、まとめればいいのだろうか。
 すまない、正直、お前の好きなところは、今思えばたくさんあって……。大きな理由としてあげられるのが、今の三つということなんだ。

 ――そんなシルバー先輩の語りを、僕はただ黙って聞いていた。

『……ずいぶん、長い間待たせてしまった。だが、ようやく俺からも言葉にできる。好きだ、デュース。これからの人生も、共に俺と歩んでほしい』
 ふたりの夢だったドーム公演を終え、ようやく言ってもらえたセリフ。ずっと、ずっと待っていた。公演成功の熱が冷めやらないままに、シルバー先輩と初めて結ばれた。以前、少しだけ入ったことのあったシルバー先輩の寝室へ連れていかれた。嬉しかった。「好きだ」と言葉にしないことで、ずっと境界線を引かれていたようなシルバー先輩の内面に立ち入ることを許された気がして。
 事が終わった真夜中、シルバー先輩に淹れてもらったレモネードが暖かくておいしい。パパーと鳴るクラクションの音を聞きながら、真夜中に佇んでいると、シルバー先輩にふと聞きたくなった。
「どうして、僕を好きになってくれたんですか?」
 シルバー先輩はコーヒーを片手に、落ち着いて答えた。
「お前とようやく初めて恋人として結ばれたばかりの、今、この場で言うべきことではないかもしれないが……、あえて、正直に言うならば、あのときはきっと、誰でも良かった」
「え……?」
 僕は少し、驚いた。誰でも良かった、のか?
「……話せば、長くなるが――だが、その前に。誰でも良かったそのときに、傍にいてくれたのが、お前だった。今は、お前が傍にいてくれて本当に良かったと思っている、その前提で聞いてくれ」
「は、はい……」

 そして、シルバー先輩の話を聞いた。つまり、シルバー先輩はアイドル活動を始めたばかりの頃、淋しくて、傍にいてくれるなら誰でも良かった……ってことらしい。そのとき、偶然傍にいたのが僕だった。でも、交流を重ねていく中で、だんだん、僕がいい、僕じゃなきゃダメだと思うようになっていった、ってこと……。
 少し照れくさくなって、ぬるくなったレモネードをもうひとくち飲んでいると、シルバー先輩が、お前は、と言った。
「俺は洗いざらい話したんだ。お前も、俺を好きになった理由を教えてくれてもいいだろう?」
「僕のは、単純です。シルバー先輩にキスされて、あれ、この人僕のこと好きなのかな、って思って。最初のうちは、それこそコロッと騙されてたんでしょうね。でも、嫌じゃなかったんです。キスされるのも、騙されるのも」
「……騙されるのも、か?」
「はい。シルバー先輩が、ただ僕を好きなだけじゃないんだろうってことは、薄々分かってました。だとしたら、こんなまわりくどい真似しないだろうな、って。でも、もし他の理由があって、騙されたとしても、シルバー先輩なら、きっと何か事情があってそういうことをしているんだろう、それはきっと、僕ではなくても、他の大切な誰かのためなんだろう、って……だんだん、一緒にいるうちに、そういう人だって分かってきてたから。だから、そういう人になら、シルバー先輩相手なら、騙されててもいい、って。……なんていうか、好きになっちゃってたんです。こうやって本当の話聞いたときに、僕のことはじめは好きじゃなかったんですか、って怒るには、もう、僕の方が好きになっちゃってた。いつも誰かのために一生懸命になれる、シルバー先輩のことを」
「デュース……」
 シルバー先輩は、申し訳なさそうな声を出す。
「そんな風にしなくても、僕は、今の話を聞いて、ちゃんと嬉しかったです。シルバー先輩が、僕を好きになった経緯を聞けたことが。シルバー先輩が、そんな風に、内面を曝け出してくれるようになったことが」
「……ありがとう」
 お礼を言うシルバー先輩にえへへと笑えば、前髪ごとこめかみにキスをくれた。
「でも、『マレウス様』って人の話は初耳です。お父さんのためだけじゃなかったんですか?」
 頬をふくらますと、シルバー先輩は困ったなと苦笑いをした。
「そう妬かないでくれ。マレウス様は、俺にとっては、命の恩人なんだ。アイドルを引退して、俺を引き取り暮らしのままならなかった親父殿に、『きっと育てばマレウスの良い友人になる』と言って、ドラコニア家は多大な援助をしてくださった。俺がここに生きているのは、親父殿と、彼らのお陰でもある」
「……先輩の、大切な人なんですね」
「ああ、家族……というのは、俺から言うとおこがましいかもしれないが、それと同じくらい、大切だと言える存在だ」
 正直、まだちょっと複雑だ。そんなに大切な人がいたのなら、もっと早く教えてくれても良かった気がするけど、先輩にとって、それを言える日が今日だったんだろうから。
「むう……なら、いつか会わせてくださいね!」
「あ、ああ。きっといつか」
 なぜかちょっと挙動不審なシルバー先輩に、不審な目を向ける。
「……なんか都合の悪いことでもあるんですか?」
「いや、都合は悪くない、というか、むしろ良いんだが……。お前、駆け出しの頃に、ペンライトの使い方が分からない客に手ほどきしてやったことがあったろう」
「あ、はい。電池の入れ方が分からなかったみたいなんで、やってあげました! 懐かしいなあ」
「……それが、俺の初ライブの様子を見に来たマレウス様だったんだ。だから、その……マレウス様はそれ以来、お前のことを気に入っていて。なんというか、ミニコンサートなどすべてのイベントを見に来たり、グッズを集めるほど熱狂的なわけではないが……、だが、その、一応デビューから大きなライブはすべて見守っていることになるから、ちょっとしたファンとしてのプライドはお持ちになるくらいはお前に興味を持っていて……」
「そ、そうなんですか!?」
「その、マレウス様以外にも、セベクの方も真剣で感情移入しやすいやつだから……。俺の様子を見る成り行き上、デビューから今までを見守ることになったお前のことを、けっこうしっかり目に応援している」
「けっこうしっかり目に応援してくれてるんですか!?」
 僕の知らないところで、シルバー先輩の大切な人たちに認知されて応援されまくっている。さっきとはまた違った複雑な気分だ。僕のファンだったんだ、えっと、ありがとう……!? ありがとうでいいのかこういうときって!?
「……そういうわけで、その……三人とも、お前を連れて行けば、きっと喜ぶと思う。会って仲良くなってくれれば、俺も嬉しい。嘘じゃないぞ」
「わ、分かりました。その日を楽しみにしてます!」
「ああ、きっと」
 その日は案外すぐに来るんだが、それはまた別の話だ。

 それから僕たちは暖かいものを飲んだカップを片付けて、歯みがきをしてベッドに戻った。
「先輩、すぐ寝ちゃわないですよね?」
「……出来るだけ頑張る」
 シルバー先輩はベッドに肘をつき、眠らないように体勢を整える。僕はそんなシルバー先輩にすすすと寄っていった。
「えへへ」
「なんだ、甘えただな」
「僕、恋人ができたら、してみたかったんです。ベッドの中で、いちゃいちゃって」
「いちゃいちゃ……って、どういうことをするんだ?」
「えっと……こうやってくっついたり、腕枕とか……?」
「腕枕……こうか?」
 シルバー先輩は手を伸ばして、腕枕をしてくれる。
「へ、えへへっ……」
「嬉しそうだな」
「ちょっと恥ずかしいけど、嬉しくて……」
「他にはないのか、デュース?」
 ん? とシルバー先輩は続きを促してくれる。お前のしたいこと全部していいぞ、って言われてるみたいだ。僕はそんなシルバー先輩の態度に甘えてしまう。
「あとは、足を絡めたり、ぎゅーってしたり……」
「足?」
「……こんな感じ、ですかね?」
 ベッドのシーツの中で、シルバー先輩の足に自分の足を絡める。そのままシルバー先輩の胸のあたりに密着してくっつくと、シルバー先輩は空いた腕で背中を抱き寄せてくれた。
「なるほど、確かに……ドキドキするな」
「で、でしょう?」
 正直僕もドキドキしてる。けど、夢がもうひとつ叶ったみたいで嬉しい。テンションの高さに任せて、普段言えないことややれないことをしてしまっている気がする。そのまま二人でドキドキしながらくっついていると、やがてシルバー先輩が口を開いた。
「……デュース」
 シルバー先輩が、上まぶたを伏し目がちに、オーロラ色の瞳に影を落としながら、僕の口にキスをする。
「おやす、み……」
 そのまま、シルバー先輩は隣で意識を手放してしまった。……先輩、さては眠くなっちゃったけど、おやすみのキスだけはして寝たかったのかな? なんだかちょっと可愛いなとシルバー先輩の頬をつつく。それでも起きず、すやすやと眠るシルバー先輩を見て、僕はしょうがないなと溜め息をつき、ベッドサイドのランプを消した。カーテンの隙間から覗く街の灯りだけが、僕たちの夜を照らしていた。

*おしまい

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