どっちが好きなの?

 ※ドルパロ(ギャラリーに置いてあるアイドルパロディの世界線のシルデュです。そちらを読まないと意味が分からないことがあるかもしれません)
 ※時系列:ドーム後、交際宣言前
 ※パロディにつき一部呼び名変更あり:リドル寮長→事務所長、ケイト先輩→ケイトさん、など
 ※SNSっぽい記述が含まれます。

 

 

 

『この冬のあなたはキュート派? それともセクシー派?』
 そんなことが書かれたポスターが、街中(まちなか)に大きく堂々と張り出されている。そこに映る人物の片方は、飾り付けられた自分自身だ。あれはついこの間、デュースと共に撮影に臨んだチョコレート菓子の広告だな。確か、俺がラムレーズンを使ったセクシーなイメージのチョコレートの担当で、デュースの方がオレンジピールとブランデーを使ったキュートなイメージのチョコレートの担当だったはずだ。俺たちは二人とも、自分たちに与えられた派閥のイメージに苦戦したからよく覚えている。撮影時に実際の商品をもらったが、どちらのチョコレートにも洋酒が入っていて、これは未成年である自分たちが食べていいのかと二人で悩んだことも記憶に新しい。ちなみにだが、結論としては食べても法的には問題がなかった。
 北風が冷たくなっていく街の中では、俺たちが宣伝したチョコレート以外にも、あちらこちらでショコラだのココアだの、甘くとろけるチョコレートを使ったデザートが隙あらば呼びかけてくる。俺もそんな期間限定の文字につられて、商品を購入しにいく客の中のひとりというわけだ。
 とはいえ、俺自身がそれを欲しがっているわけではない。デュースが飲みたがっていたんだ。芸能人寮で部屋にいるとき、期間限定のショコラカフェラテのCMを見たデュースがおいしそうだ、飲んでみたいと口にしていた。だからというわけではないのだが、日頃の感謝を込めて、今日の土産にそれを買っていってやるのもいいと思った。
 目的の店内に入り、ショコラカフェラテとホットコーヒーを一杯ずつテイクアウトする。シュガーとミルクを断ったとき、店員から『もしかしてVopal Swordのシルバーさんですか?』と声をかけられた。確かに、その通りだ。だが今はプライベートの時間で、下手に騒ぎを起こしてカフェラテを冷やしたくはない。だから、店員に小声で『今はプライベートだ、内緒で頼む』と囁き、人差し指でジェスチャーをすると、店員はコクコクと頷いた。
 目的の商品を手に入れ、帰り道を急ぐ。わざと芸能人寮であるマンションから遠い迷路のような袋小路を歩くのは、ついてくるファンやスクープ狙いの記者を撒くためだ。誰の気配もなくても、油断しないに越したことはない。周囲に誰もいないことを確認してようやく寮の部屋へと帰れば、デュースが出迎えてくれた。
「お帰りなさい! ……あっ、なんかいいもの持ってる!」
「ふっ、目敏いな。ほら、お土産だ。飲みたがっていただろう?」
「わ、限定のショコラカフェラテ! 飲みたかったんです、ありがとうございます!」
 デュースはカフェラテを受け取るなり、記念撮影しなきゃといってパタパタとリビングへ急ぐ。俺もすぐにそちらへ赴こうとコートを脱いで洗面所で手を洗い、リビングへ赴いた。
「へへっ、せっかく先輩が買ってくれたんだし、ファンの子にも自慢したいな~。ダイヤモンドさんにSNS記事としてアップしていいですかって聞こうっと」
 どうやらデュースはファン向けのブログに写真をアップロードしたいようで、俺が買ってきたショコラカフェラテの写真について事務所の許可を取っているみたいだ。
「OKが出たか?」
「はい、今返事待ってて……ん?」
 デュースが不思議そうにスマートフォンの画面をのぞき込む。俺にも画面を見せてもらうと、なぜかやけに焦ったケイトさんのメッセージが映っていた。
『お願い、デュースちゃん! その記事今すぐにアップして!! すぐに!! なる早で!!』
「な、何があったんだろ……? ともかく、記事をアップしてからダイヤモンドさんに事情を聞いてみるか」
 そう言ってデュースは手慣れた作業で写真をブログにアップする。記事の内容はこうだ。俺が買ってきたショコラカフェラテを持ったデュースが、SNSなどにあげるための写真を撮影するために作った、できるだけまわりのものが映り込まないスペースで自分自身を撮っている。このスペースを作るときはケイトさんにどんな風に設営すればいいか詳しくアドバイスを貰ったので、今のところ大きな問題は起きていない。
 その写真の下に、デュースはこう書き足した。
『タイトル:シルバー先輩にお土産もらいました!
 本文:この前一緒にテレビ見てたとき飲みたいって言ったの覚えててくれたみたいで、すごい嬉しい』
「これで投稿、よし……っと。ダイヤモンドさんに電話してみよう」
 デュースがケイトさんに電話を繋ぐ。すると、すぐにケイトさんの声が部屋に響いた。
『あ、デュースちゃん? 今記事見たよ、ありがとうね! や~もう一時はどうなることかと……』
「それはいいんですけど、なんであんなに焦ってたんですか? 何かまずいことでもあったんですか?」
『やー、あのね。あ、今シルバーくんいる?』
「ここにいるが、何か用か?」
『あ、いるんだね! おけおけ、それならそのまま二人とも聞いてくれる? 実はさ……』
 ケイトさんの話した内容はこうだった。俺がショコラカフェラテを購入した店の店員が、あのあとSNSに俺が店に商品を買いに来たことを書き込んだようで、そのときに『プライベート』だと発言し、『二人分』のホット飲料を買っていったから、『実は恋人がいるのではないか』と噂になっていたのだという。
 デュースはスマートフォンで通話しながらノートパソコンを取り出し、投稿を検索する。検索に出てきたその店員の投稿はこうだ。
『今日ヴォパソのシルバーくん来店して『内緒な』ってやってくれたんだけどめちゃくちゃ恰好良かった……(輝く絵文字)。でも、明らかにおひとり様なのに二人分のホット買ってったんだよね(泣く絵文字)。やっぱり彼女いるのかな~? せめてもの報復にいっぱいハート書いといた!』
 ……なるほど。俺の行動と、店員の推測が詳細に書かれている。それに、俺に手渡してくれた商品の、手書き部分の写真までついている。これが火種になって、人々の間で噂になってしまったのだろう。ところで、ハートをたくさん書くのは誰に対する何の報復になるんだ?
『オレたちはもう分かってるけどね、デュースちゃんに買ってるんだろうなー、って。でもファンの子たちはその辺分かんなくて不安かもだからさ。これ以上騒ぎが大きくなる前に早めにデュースちゃんの方からシルバーくんからのお土産だ~って投稿してもらえるとありがたかったんだよね。そういうわけで焦ってたの!』
 なるほど、確かに。デュースが先ほど投稿したブログ記事には、たくさんの安堵のコメントがついているようだ。
『彼女じゃなかったんかい!(笑)』
『そうだろうと思ってました』
『「シルバーくん 彼女」とかいうサジェスト見てデュースくんのブログを真っ先にチェックしにきた甲斐があった』
『安定のデュースくんオチで草も生えない』
『手書き部分が例の投稿と完全に一致。つまりデュースくんは彼女、これはガチ』
 しかし、デュースにばかり対応を任せてはいられない。話を聞けば、元々は俺の迂闊な行動が起こした問題のようじゃないか。
「ケイトさん、俺からも何か言った方がいいだろうか?」
『んー、そうだな。今回はお騒がせしましたって書いて、デュースちゃんとその問題のカフェラテとが映った仲良しツーショ撮ってあげてくれたらそれでいいと思う! あとはそのお店まわりには張り込みがいる可能性あるから、残念だけどもう行かないようにね……』
「分かった、ありがとう」
『いやいや、これがオレのお仕事だからね~! ハーツラビュル芸能事務所のSNS担当けーくんをこれからもヨロシク☆』
「ああ、頼りにしている。それでは、失礼する」
「僕も失礼します、ダイヤモンドさん」
 ケイトさんとの通話が終わり、俺も言われた作業に取りかかる。ノートパソコンは主にブログへの記事投稿と検索程度に使われている共用のものだから、デュースが起動したものをそのまま引き継いだ。
「確か、この辺りから記事が更新できるのだったか?」
「そうです!」
 俺のことが心配なのか、デュースが横から様子を見ている。確かにはじめの頃はSNSやブログの投稿の勝手が分からず、デュースに頼りきりだった。だが、今は作業に慣れてそんなこともない。だから安心してくれてもいいはずだ。
「俺のも一応ケイトさんに送ってチェックしてもらおう。デュース、今撮れるか?」
「いいですよ! じゃあ撮影スペースに立って……」
 撮影スペースに立ち、デュースは件のカフェラテを頬に寄せてポーズを決める。初めのころはぎこちなかったが、今はもう写真を撮られるのにも慣れたものだな。俺はスマートフォンを手に持ち、そんなデュースに顔を寄せてセルフカメラで自分たちを撮る。
「……撮れたか?」
「いい感じです! 足りないとこはダイヤモンドさんの方で加工すると思うんで、一回送ってみましょう」
「ああ」
 言われるまま、投稿予定の文字と写真のデータをケイトさんに送る。すると、すぐに返事が返ってきた。
『仲良し写真、可愛いね! ちょい映り込みあったけどけーくんマジックでパパッと消しといたから、修正後の画像あげてね! 文字はOK!』
 何が変わったのかはよく分からないが、俺はインターネットやSNSには詳しくない。なので、信頼できる詳しい人には従っておいた方がいいだろう。ケイトさんの指示通りに記事を上げる。
『タイトル:例の噂について
 本文:今回は騒がせてすまなかった。
 添付:(デュースとの2ショット)』
 するとすぐに、俺の担当する滅多に更新のないブログの方にも次から次へとコメントが増えていった。
『安心しました(ほほえむ絵文字)』
『詫び写ありがたい……』
『相変わらず仲良しで可愛いです(ハートの絵文字)』
『彼女じゃなくて本当良かった(汗と泣く絵文字)』
 ひとまずはこれで安心だろう。慣れない作業にふうと息を吐いてノートパソコンを閉じると、頬を膨らませたデュースがソファで待っていた。
「どうした、何を拗ねている」
「別に! 僕は彼女じゃないですけど、ハートいっぱい書かれたからってヤキモチなんて妬いてません!」
「……なるほど、妬いたのか」
「ち、違いますよ! 先輩の大事なファンの子に、そんな! ヤキモチなんて!」
 今さらになってファンの投稿の意味が分かる。報復とは、こういうことだったのか。もし恋人がいたら、悋気を起こさせて仲違いでもさせようという腹積もりなのだろう。それは少し、応援している者に対して意地が悪いのではないだろうか。いや、しかし、『恋人がいない』という嘘をついて身を売り出している俺たちの方にも問題がまるきりないとは言えるだろうか……。
 しかし、そんなことは考えても仕方がない。現に俺には恋人がいて、それを隠しているのだから。それを不快に思うファンの些細な意地悪くらいは受け止めよう。だが、それで拗ねた恋人の機嫌を取るくらいの権利は俺にもあるはずだ。
「まったく。お前のために買ってきたものでそう妬かれてしまっては困るな」
「あ、そうだ……! 先輩、僕のせいでお店行けなくなっちゃって……」
「お前のせいじゃない。俺が迂闊な行動をとったせいだ、気に病むな」
 デュースの頭を宥めるようにぽんと撫でる。するとデュースは、申し訳なさそうに眉を下げた。
「……やっぱり、恋人いるのってファンの子にとって良くないのかな」
「デュース……」
 落ち込む様子のデュースに、そっとキスをする。
「恋人とひとくちに言っても、それが誰なのかでもまた変わってくるだろう。もし、いつかお前とのことがファンに知られるときが来ても……そのときに、俺にとってのお前が大切な存在だからと多くの人に納得してもらえるよう、できる限りの努力はするつもりだ」
 だから、と続けた。
「そう気にするな。……それとも、もう俺との関係は終(つい)えてしまいたいか?」
「そんなことないです! ……そうだよな。いつか知られるとしても、シルバー先輩と僕なら、って思ってもらえるようになったらいいんだ。先輩、僕も頑張ります!」
「ああ」
 固い決意を受け、もう一度キスしてやろうとすると、デュースはあ! と声を上げ、ぴょこぴょこと兎のように机へ向かう。
 何事かと思えば、買ってきたカフェラテを両手で抱えてにこりと満面の笑みでこちらを向いた。
「冷める前に飲まなくちゃ、ですよね! せっかくシルバー先輩が買ってきてくれたんだから!」
 キスよりは優先しなくても良かったのだが、と内心では思うが、そんなことを言えばまたデュースにキス魔だと思われそうなので声にまでは出さない。
 ソファに座り、カップからカフェラテを啜っておいしいと笑うデュースの顔を横目に、やれやれと俺もソファにつく。
 すると、タイミングの良いことに正面に置かれた液晶テレビの画面には俺たちが広告を担当したチョコレートのCMが流れてきた。
『この冬のあなたは、キュート派? それともセクシー派?』
 隣にいるデュースをちらりと見やる。無邪気にカフェラテをすすり続ける姿に、俺は今後しばらくはキュート派なのだろうな、と思うばかりだった。

*おしまい

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