・わずかにマレ←セベ要素入ってます。
・♡喘ぎあり
・R18程度の性描写があります。高校卒業以下または満18歳以下の方の閲覧はお控えください。
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昔から、危なっかしいものによく惹かれた。
惹かれた、というか。そういったものには、俺が守ってやらなくてはいけない、目を離してはいけないという気持ちにさせられることが多かった。
そんな俺が、アイツに惹かれることになったのは必然だったのかもしれない。
彼の名はデュース・スペード。ひとつ年下の後輩で、本人もそれを欠点として自覚している通り、まわりの仲間たちよりも少しだけ要領が悪く、危なっかしいところがある。
俺は、そんな彼のことを初めて知った日から、目が離せなくなった。
初めてデュースのことを知ることになったのは、入学式から少し経ったあとのこと。
何やら急いで走っているデュースが転びそうになったところを、つい支えてやったのが始まりだ。
「危ないぞ」
「すいません、急いでたもんで……僕、すぐ転んじゃうんです。ドジですね」
そう苦笑いをして走り去るデュースの背中を、俺はただじっと見ていた。
それからは、ふとしたときにデュースのことを考えるようになった。あの少しそそっかしい後輩は、またどこかで転んでやしないだろうか、どこか俺の知らない場所で大きな怪我をしていなければいいが、と。
だから、デュースが食堂で元気そうに友人たちと話しているのを見る度、何か安心するような心地がした。それと同時に、たまに絆創膏やテーピングが顔や手足についているのを見かけて、ああやはり、と心配になる気持ちがする日もあった。
そんなある日。デュースが彼の地元である時計の街へ友人たちを誘って遊びに行くという話を聞いた。俺は、話すきっかけになればいいと思い、前から欲しかった目覚まし時計を買ってくるようにお使いを頼んだのだが、向こうから一緒に行こうと誘ってくれたので、共に時計の街へと赴くことになった。
時計の街では、デュースの母君と共に過ごすことになり、彼女が作った衣装を着て、みんなで街を練り歩いた。そのとき、デュースが恥ずかしがって扉の影に隠れてしまったのを見つけて、何か心臓がどきりと音を立てたのを覚えている。
……いや、誤魔化すのは良くないな。可愛い、と思ったんだ。
エペルやオルトも、後輩としてとても可愛らしかったが、デュースのことは、それとは別にまた、なぜか……改めて、可愛いと思った。本人が明らかに可愛いと言われたくないようだったので、口にまではしなかったが……。
そのときはまだ、内気な幼子に思うような可愛らしさの類なのだろうと思っていたのをよく覚えている。
その後、ブラックバニーという不良チームに絡まれたデュースは、威勢よく威嚇をして、ラビット・ラン・レースで勝負をすることになった。俺は、母君のために怒り、なおかつ母君のために自分を制するその姿に、先ほど感じた可愛らしさに加えて、こんな一面もあるのかと強い魅力を感じた。
また、その少し後に開催された星送りの祭りでは、何度も努力を重ねたのだろう、輝く星灯かりの元で、切なく美しい表情の舞を見せてくれた。一生懸命にどこか一点を見つめて、ひたすらに星に願いを捧げるその姿は、まるで、この世のものではないような美しさに思えて、俺は『綺麗だ』なんて陳腐な感想すら、何にも言えなくなった。
出会う度に新たな一面を見せるデュースに、俺の心は惹かれていっていたのだと思う。
だが、これが恋なのだと自覚をしたのは、もう少し後の話だ。
星送りの祭りを過ぎた頃からは、デュースと話す機会も前よりうんと増えていた。そのとき。デュースの話には、様々な人物が出てくることに気づいた。
とりわけ数が多いのは、エース、監督生、グリム、ジャック、エペル、オルト、セベクといった同級生の面々の名前。それ以外にも、ローズハート寮長、クローバー先輩、ダイヤモンド先輩と同じ寮の上級生の名前が並び。バイパー先輩、アーシェングロット先輩、ハント先輩と他寮の先輩の名前が並んだかと思えば、果てはドラコニア先輩にヴァンルージュ先輩と、俺と関わりの深い方々の名前まで出てくる始末だ。
みんなの気持ちは、よく分かる。デュースは飲み込み自体は遅いものの、それでも素直でよく言うことを聞く、可愛い後輩だ。やればできるまで一生懸命に努力をするから、打てば響いていくので、誰もがついあれこれ教えたくなってしまう良い生徒なのは間違いないだろう。俺だってその1人だ。
だが、俺は、その中のただの1人であることにわずかな不満を覚えていた。ただの先輩の中の1人ではなく、デュースの中で抜きんでた1人になりたい、と。
これは人間関係に不和を起こす良くない感情なのではないかと思い悩み、親父殿に相談すると、「お前あやつのことが好きなんか」と物珍しそうに言われてしまった。
俺はそのとき、そんなわけでは、とつい否定をしてしまったが、よくよく考えると、親父殿の言う通りなのかもしれないと今までのことに思い当たる節があるのに気づき始めた。
だが、俺はついぞ恋なんてしたことがなかった。だからこれが正解なのか分からなくて、どうにも頭から離れなくて悩んでいたとき、当のデュースに言われた。
「シルバー先輩、ため息なんてついてどうしたんですか? 何か悩み事でもあるんですか?」
「ああ……気にするな。大したことではない」
「そうなんですか。でも、ほんとに大変だったら、いつでも言ってくださいね! 僕だって、愚痴くらいなら聞けますし……。それに、シルバー先輩が辛いとき、頼れる人になりたいですから!」
そう言って拳を握り笑うデュースを目にして、俺の悩みは解決した。
ああ、そうか。そうだったのだな、と。何も恐れることはなかった。ただ、目の前のデュースが好きだという気持ちを大事にすれば良かったのだ、と。
それからの俺は、恋愛というものについてまずは勉強をすることにした。今まで色恋沙汰に興味はなくて、自分の気持ちを自覚するのも遅かったくらいなので、先人たちの知恵を借りたかったから。
セベクに、色恋に関する本を教えてくれと言った日には、熱でも出たのか貴様、と言われてしまったが……。まあそれは些細なことだ。好きな人ができたから勉強したいと素直に告げれば、セベクは一体誰が貴様のような朴念仁を好きにさせたのだと憎まれ口を叩きながらお勧めの教本や小説を教えてくれた。セベク自身にはどれくらい参考になったのか尋ねると、本の効果はあまり芳しくないのか、聞いてくれるな、と言われた。……まあ、それに関しては、恐らくセベクの想定する相手はマレウス様だからだろう。アイツはアイツで、真面目に恋をしている気持ちなのならば俺から言うことは何もない。
ともかく、俺はセベクから借りた書籍を参考に、デュースに恋心を伝えていくことにした。
とは言っても、あまり直接的に最初から好きだとは言ってはいけないらしい。何故だろうかと眠たい目を必死でこすりながら次のページをめくっていくと、その記述はあった。まだ『脈』とやらがないときに好きだとアピールしすぎると引かれたり逃げられてしまったりすることがある、と書かれている。
(確かに、俺も好意のない女性から恋文や贈り物をもらったとき、困ることがあるな)
デュースをそうした気持ちにさせてはならないな、と書籍を読み進める。途中で寝落ちすることも多く、読みきるのに時間はかかったが、いつでも書籍を持ち歩いたお陰でなんとか読み切ることはできた。
ただ、副産物として、2年生の間で『どうにもシルバーが恋をしているらしい』とちょっとした噂にはなってしまったが。まあ、事実なのでいいだろう。困ることでもないので放っておく。
書籍に書いてあったことを試すため、俺はデュースの姿をよく探すようになった。まずは話す機会を増やすべきだ、と書かれてあったからだ。確かに、まず会うことがなければ親交を深めるも何もない。その通りだなと納得した。
中庭や図書館、時には廊下にいるデュースを見つけ、なんでも良いから話しかける。
するとデュースはいつでもにこやかに「こんにちは、シルバー先輩」と挨拶をしてくれて、そして口下手な俺の振る話題にいつでも乗ってくれた。デュースは聞き上手なのだな、と思う。
プライベートな話を少しずつ開示していくべきだ、と教本には書かれていたので、親父殿と俺の話をデュースにはよくした。……が、話しているうちに、これはいつも俺がしていたことではないのか、と思うようになった。よくよく考えたら、前からデュースには片親同士ということで親近感を覚えていて、よく親父殿のことを話していたような気がする。
というわけで、知らずにもう第一段階をクリアしていたことに驚き、新たな作戦へと移行した。
次は、『恋愛関連の質問を増やす』ことだと書かれていた。なので俺は、デュースに対して尋ねた。
「デュース。お前は恋をしたことがあるか?」
「えっ!? ええっと、今のとこないです!」
「そうか」
「や、えっと、街で見かけた女の子とか、『あっ、あの店員さん美人だな……』とか思うことはありますけど、ほんとそれくらいで!」
「どういう人をそう思うんだ? もっと聞かせてほしい」
「えっ!? ええっと……!!」
まごつくデュースから聞き出した話によると、年上の、小奇麗な印象の女性にはついドキドキしてしまうということだった。それ以外にも、同年代だろうと年下だろうとゴーストの姫だろうとドギマギして喋れなくなってしまい、果ては明らかに小さな女の子だろうと、ちょっと動揺してしまうと言っていた。
なるほど、デュースはかなりシャイな性格のようだ。……そして俺とは今、普通に喋れているということは、あまり意識されていない、ということも本当のようだな。……今の段階では、と強がりを言わせてもらいたいが。
「で、でもなんで急に、シルバー先輩がそんなことを? あっ、今噂になってるアレのせいですか? 先輩が恋をしているっていう……」
「ああ、そうだ」
ん? デュースの前で肯定して良かったのだろうか。まあ、だが噂になっているくらいだ。否定しても仕方ないだろう。
「そうだったんですね! 1年の間でも噂になってますよ。先輩みたいな格好いい人に好かれたラッキーな子は誰なんだろう、って」
「そんなことが……」
知らなかった。しかし後輩たちは俺のことを格好いい先輩だと思ってくれているのか。ありがたいな。彼らの期待に応えるためにも、もっと精進せねばならない。
「もし良かったら、教えてもらえると応援したりも出来るかもしれないんですけど……」
さすがにダメですかね、とデュースは言う。俺は、言うか迷った。告げるにしても、まだ早いのではないか、俺を悪しからず思ってくれていたとしても、デュースのこの様子を見るに、時期尚早だろう、と。だから、それをそのまま告げた。
「教えてもいいのだが……。お前に告げるには、まだ早いと思う」
「えっ? どういうことですか?」
「そのままの意味だ。もう少し経って俺がいいと思った頃には、教えても構わない」
「は、はい……分かりました」
デュースは疑問符を浮かべたまま、それでも僕応援してますから、と気合を入れる。むん、と謎の力を込めている様子が可愛らしいな、と思った。
それから。第三段階の作戦。連絡頻度を高くする、というものだ。
しかし俺はほとんどマジカメのチャットやメッセージ欄というものを使わない。急に連絡して心配されないだろうかと思った。また、連絡をしようにも、何も思いつかなかった。
普段、こんなもの事務連絡にくらいしか使わないからな……。なんでもいいから送れ、と書籍には書かれているが、送るものがない。
悩んでいたそのとき、ちょうど窓際に小鳥が遊びに来ていたので、それを写真に撮って送ってみた。
『小鳥が遊びに来ている』
デュースからの返信は早かった。
『ふくふくしてて可愛いですね!』
嬉しい。返事が返ってきた。……だが、ええと。この後、何を言えばいいのか分からない。困っていると、デュースから追加のメッセージが来た。
『先輩からメッセージ来るの珍しいから、びっくりしちゃいました』
『でも、小鳥可愛いの見せたい気持ち、わかります!』
『僕で良ければまたいつでも送ってください!』
俺は、一通りメッセージを見終わったあとで、『また送る。ありがとう』とだけ返して、そして、少し落ち込んだ。……俺は、文字でのやり取りに慣れていなさすぎるようだ。
だが、少しでも会話できたのは進展だ。きっかけになった小鳥たちを撫でてエサをやり、礼をした。
こうして、第三段階の作戦はやや失敗気味に幕を閉じた。
*
なんだか最近、シルバー先輩からやけに可愛がってもらえてる気がする。
僕の気のせいかな、と思ってたけど、そうでもないみたいだ。だって、エースが『最近なんかお前だけ先輩に可愛がられててずるくない?』と愚痴をこぼしていた。
人間関係に敏感なアイツから見てもそう見えてるってことは、やっぱり僕の勘違いじゃないみたいだ。
……そういえばシルバー先輩、最近恋をしているとか噂になってたし。僕には好きな人を教えてもいいけど今じゃない、みたいなこと言ってたし。ひょっとしたらひょっとするのかも、なんて思ったけど、一方で確証もないのに失礼じゃないか、なんて思ったりして。
そんなことを考えて、シルバー先輩のことを勝手に意識しているうちに、いつの間にか僕の方が好きになってしまったみたいだ。
おかげで、最近時々シルバー先輩から送られてくるようになった動物の写真に返事をすると、いつ既読がついて返事が来るか、ドキドキして待つようになった。……これも、なんで急に送ってくれるようになったんだろうな?
そのついでに、あれこれすぐ既読ついたら僕ずっとメッセージ見てると思われないか、とか、返信早すぎないかな気持ち悪く思われたりしないか? なんて悩んじまったり。
先輩の言動ひとつひとつを深読みして、一喜一憂なんかしててさ。自分でも、なんか学生らしい片思いしてるなーって思うことさえある。
シルバー先輩から恋の相談っぽいことをされる度に、ひょっとしてこれ僕のことかな、なんて思ってちょっと浮かれてこのまま告白されて付き合えちゃったりなんかして、みたいな幸せな妄想をしてしまったり、かと思えばあれ、先輩の口ぶりからしてやっぱりこれ僕のことじゃないかもしれないな、なんて落ち込んだり。
とにかく一喜一憂する毎日を、監督生やエースたちに時々話してる。元々は話すつもりなかったんだが、僕があまりにもわかりやすかったらしくて、聡い2人にはすぐバレた。2人にバレたので、グリムにもついでにバレた。
お前先輩のこと見すぎだからバレバレだったし、とか言われたな……。
ユウもユウで勘が妙に良くて、今あの辺のスポットとシチュエーションで告白できたらとか考えなかった? とか、今先輩とこんなシチュでなんかイチャイチャする妄想してたでしょ、とか言われたし。そして、まさにその通りだったからな……。
でも、そんな鋭い2人が僕をあの人はお前に脈ねえよやめとけって止めてこない以上、脈アリなんじゃないかなって僕は思う! ……思うだけだが。
いつまでもビビってんのはらしくねえし、勇気出してこの気持ちを先輩に言ってみようかと思うことはあるんだが、なんていうか、やっぱり言葉にしようとすると口が固まって出てこなくなる……。うう、なんで僕はいつもこうなんだ!
そういうわけで、シルバー先輩と僕の片思いなのか両想いなのかよく分からない平行線はまだ続いている。
でも、このままじゃいけねえって思う。だから、僕は部活帰り、シルバー先輩を待ち伏せした。
「あのっ! ……今日、一緒に帰りませんか!」
「俺で良ければ、喜んで」
こうして僕は、少し暗い夜道をシルバー先輩と一緒に帰ることになった。
……ほんのわずかな時間だけど、やっぱり、好きだと思ってる人と一緒にいられるのって、嬉しいよな。
街灯のついた薄暗い夜の道を、2人で歩く。
「そ、その……。今日はゆっくり、歩きませんか。せっかくですし!」
「ああ」
ゆったりと歩く僕にシルバー先輩が歩調を合わせてくれて、つい急いてしまいそうになる足を僕はゆっくり歩けとせき止める。
「そ、そういえば! 最近よくメッセージ送ってくれますよね! 動物の! 可愛くて癒されてます!」
「ああ。お前の憩いになっているのなら、良かった」
何か話さなきゃな、と思って、挙動不審になりながら話題を探る。それでもシルバー先輩は嫌な顔ひとつしないで聞いてくれて、ありがたい。でも、表情が変わらないから、実のところどう思っているのかはちょっと分かりにくい。
そんなしどろもどろで挙動不審な会話を続けながら、僕たちの足はいつのまにか鏡舎の前に辿り着いていた。
好きな人と過ごせる時間は、なんて短いんだろう。光よりも早く過ぎていく。
もう着いてしまったな、とシルバー先輩が言う。たくさんの勇気を振り絞ったのに、もうお別れしなきゃならない時間だ。
……何度でも言う。僕は、シルバー先輩が好きだ。好きだから、諦めたくないし、もし、シルバー先輩の好きな人が他の誰か知らない女の子だったりして、その子とキスとか、えっちなことなんかしたりするのかって思うと、むしゃくしゃしてしょうがない。その立場は僕がやりたいのに、って思う。シルバー先輩が僕以外の誰かのために今、時間を使っているんだって思うと、ワケわかんないくらいイライラしたり、モヤモヤしたりすることがある。シルバー先輩は僕よりもその子の方が大好きなんだって思うと、嫌で嫌で仕方ない。
もうそれくらいには、シルバー先輩のことを好きになってる。
だから、今、もっと勇気を出さなきゃいけない。
一緒に帰りましょう、って言うよりも、ずっともっとたくさんの勇気を。
でも、大丈夫だ。僕は。無謀な場面で勇気を出すことなら、大の得意だから。
挫けたって、失敗したって、断られたって、そりゃ悲しいけどかまいやしない。まずは挑戦していたいから。
「あっ、あの……」
「どうした?」
シルバー先輩は僕の言葉を待ってくれる。誠実な人だ。僕が何かを言いかけたときは、必ず、言葉にできるまで待ってくれる。何もかも遅い僕に呆れてどこかに行ってしまう人も多い中で、その、どっしり構えてくれる優しさと器の広さが、とても嬉しい。
大丈夫だ、きっと。だから、さあ、僕。言葉にしよう。
大好きな先輩に、言うんだ。勇気を出して!!
「その……っ、シルバー先輩が良ければ、なんですけど!」
「ああ」
「今度の休日っ、どっか一緒に出かけませんか……っ、2人で!!」
言えたっ!! 偉いぞ、僕!!
「かまわない」
言葉にできた喜びを噛み締める間もないうちに、先輩からは瞬発入れず答えが返ってきた。
「えっ!? いいんですか!? 先輩、鍛錬や任務とかで忙しいんじゃ……」
「確かに、普通よりは忙しいかもしれないが……。俺にも休日くらいはある。そして、時には身体や筋肉を休ませる日も必要だからな」
気にするな、誘ってくれてありがとうとシルバー先輩は笑った。僕は、嬉しくなって、へへっと照れくさく笑った。
こうして、僕はシルバー先輩と初めてのデートをすることになったんだ。……そ、そう思ってるのは僕だけかもしれないけどな、うん。
*
デュースから、2人で一緒に出かけないか、と誘いを受けた。嬉しい。まさか、向こうからそのようなことを提案してくれるとは思わなかった。俺の想いを伝えようとする努力が実ったのだろうか。……分からない。元々、デュースからは意識されていなかったから。ひょっとしたら、今でもそうなのかもしれない。
それでも、このチャンスを不意にするわけにはいかない。告白までは行かずとも、もっと今よりも親しくなれるように努めなければ。これは逢引だろう、なんて浮かれているのは俺ばかりかもしれないが、デュースに俺のことを詳しく知ってもらい、好きになってもらいたい。
……と、気合を入れていたのに。
案の定寝坊した俺は、当日の待ち合わせでギリギリの時間になってしまった。
待たせてすまない、とデュースに言うと、実は僕も今走ってきて着いたところなんです、とデュースは笑った。
汗をかいたり、服装が乱れているようには見えなかったから、きっとそれはデュースの優しい嘘なのだろう。
気を取り直して今日は楽しみましょうね、と笑ってくれるデュースに、俺は、改めて気合を入れ直しうなずいた。
出かける内容は、ありふれたものだった。麓の街を歩いて、気になる店や施設に片っ端から入ってみる。腹が空いたら飲食店で小腹を満たし、また歩き出す。
たったそれだけの時間を過ごしている、ただそれだけなのに、俺の目はいつでもデュースを捉えて離さなかった。
「あ、見てください。ちっちゃいヒヨコのぬいぐるみがありますよ。可愛いな……もふもふ、ふわふわしてる」
こんなつぶらな目で見られると、連れて帰りたくなっちゃいますね、と照れくさそうに笑うデュースに、俺は1匹拾い上げて、会計へと持って行った。
「ほら。今日の礼だ、連れて帰るといい」
「えっ、いいんすか!? ありがとうございます、大切に可愛がります!!」
本当は、ただヒヨコを見つめるデュースの可愛さに負けてつい買い与えてしまっただけなのだが。想い人の前だからか、つい、格好をつけてしまった。まあ、それでも。デュースが「お前今日から僕のとこの子だぞ、よろしくな」と本当に嬉しそうにヒヨコを撫でているのが可愛らしいので、良しとしよう。
それから。それから、また街を散策したが。買い食いをしていても、店の商品を輝いた目で見ていても、欲しい商品を財布と相談して唸っていても、デュースの見せるその一挙一動が、すべて逐一可愛らしい、と思った。見慣れた街の景色、世界のすべてが何もかも、シャンデリアの光で照らされているかのように、輝いて見えた。
重症だな、とため息をつく。するとデュースが、何か怪我でもしたんですかと慌てる。そんなことはない、心配するなと笑ってやれば、デュースはぱっと目を逸らしてしまった。
……その耳が赤く染まっているように見えたのは、俺の勘違いでなければいいのだが。
歩き続けた俺たちは、やがて海沿いの道に出る。そろそろ戻り始めるかと声をかけると、デュースは、楽しい時間ってあっという間に過ぎますね、と答えた。
楽しいと思ってくれていたのか。俺との時間を。俺は口が上手くなく、喋るのが得意でないから、デュースがあれこれ話しかけてくれていてもあまり答えてやれなかったように思っていた。だけど、それでも、デュースは俺と過ごす時間を楽しいと思ってくれていたらしい。
……ああ、嬉しいな。
「潮風が寒くはないか? 着ていろ」
デュースの肩に、着ていた上着をかけた。するとデュースはおずおずと遠慮がちに、上目遣いで俺を見上げる。今が薄暗くなり始めた夕方で、残念だ。空が明るければ、その顔をもっとよく見られただろうに。
「先輩は寒くないですか?」
「これくらいなら、平気だ。茨の谷も寒いところだったから」
「そうなんですね」
「ああ。それよりも、だ」
俺の上着を着たデュースを、抱き寄せてぎゅっと腕の中に抱きしめる。
ドクドクと、鼓動が鳴るのが聞こえた。
「お前に、聞いてほしい話がある」
「……は、い」
デュースは俺の腕の中で、大人しくしている。少なくとも、腕に抱かれたところで、俺を嫌ってすぐにでも逃げ出してしまうようなつもりはないようだ。……良かった。
「その、こういったことは初めてで、なんと言えばいいのか分からないのだが……分からないなりに、単刀直入に言わせてもらう」
「……」
世界が止まったような沈黙が、2人の空間を支配した。夕闇の帳が幕を降ろして、一番星を筆頭に、空の星々が瞬き始める。ふう、と息を吐き、吸い込んで、俺はついにそれを言葉にした。
「好きだ、デュース」
伝われ、伝われ、伝われ。どんな意味か、伝わってほしい。俺の気持ちが、伝わるように。ぎゅっと、抱きしめる腕に力を込める。するとデュースは、ゆっくりと俺の背中に腕を回してきた。
「僕、も……。好きです、シルバー先輩……」
ともすれば波音の中に混ざって消えてしまいそうな、か細い声。それでも、俺の耳はそれを聞き逃さなかった。
「本当か?」
ついデュースの肩を掴んで、問い詰めてしまう。本当か、嘘じゃないだろうか、と。信じられない、という気持ちで。
「ほ、本当です……っ、嘘じゃないですっ!!」
真っ赤な顔をしたデュースが少しむっとして俺の方を睨んでいるのを見て、俺はこれが夢ではないと実感した。自分の頬をつねってでもみようかと思ったが、やめた。腕の中のぬくもりが、デュースの吐息が、十分に俺をこれが現実だと伝えてくれるから。
「はは……そうか。そうなんだな」
またデュースを抱きしめ、喜びを露わにする。デュースは、先輩、ちょっと苦しいです、と慌てたように俺を制止した。
しばらくは抱きしめ合っていたが、やがて人並みも増えてきたので、少し離れて歩き始めた。そのうちに、離れているのが淋しくなったので、デュースの手を取り、手を繋いで少し暗い道を歩いた。
デュースは何も言わず、俺の手をぎゅっと握り返してくれた。
間違いなく、今現在世界で一番の幸せ者というのは俺のことだと誰もに胸を張って言えるような気がした。
それからしばらくは、本当に幸せな日々が続いた。
付き合い始めてから、デュースの態度が明らかに変わってくれて、嬉しかった。
以前は俺の姿を見つけるなり元気に挨拶をしながら駆け寄ってきてくれて、それも子犬のようで可愛かったのだが、今は少し恥ずかしそうに少しずつ、シルバー先輩、と寄ってくるようになった。きっと、照れているのだろうな。それでも俺に近づきたいという態度が、バレバレだ。
それが可愛くて、俺は会う度にデュースの頭を撫でてやった。するとデュースはすぐに真っ赤になるから、またそれが可愛くて、なんてことを繰り返していたから、俺とデュースの交際はすぐに友人や後輩たちにバレてしまった。
まあ、いいだろう。隠し立てすることでもないからな。デュースは恥ずかしがっていたが、向こうも元々、俺への気持ちを友人たちには相談していたのだと言っていたしな。
こうして交際が始まった俺たちは、忙しい日々の合間に時間を作ってはよく会うようになった。マジカメのメッセージチャットでどうにか連絡を取り、会える日は昼休みや放課後の中庭や空き教室で会った。
そして、会った先では、いろいろなことをした。
図書室へ呼ばれれば、デュースの勉強を見てやりながら、自分の勉強もしていたし、その一方で一生懸命に教科書へ唸っているデュースの顔をじっと見つめてしまったり、そのまま眠ってしまってデュースに起こされたり。
人目につかず2人きりになれる空き教室の中なんかでは、デュースを抱きしめて、耳元で名前を呼んでやれば、デュースはいっぱいいっぱいだという様子ではい、シルバー先輩、と返事をする。それも可愛くて仕方なくて、髪やこめかみについくちづけると、デュースはもっと真っ赤になって慌ててしまって、俺はどうにもたまらなくなる。
初めてその感情に昂ったとき、そのままデュースの顔を上げさせて、初めてのキスをしてしまったことを覚えている。
デュースは一瞬固まっていたが、気づくと顔を真っ赤にして、口を手で塞ぎ、え、僕、今、キス、と混乱した様子を見せていた。
そうだぞ、もう一回するか、とからかってやると、……お願いします、と胸元にそっと飛び込みながら言われたので、俺は一回と言わず何回でもキスを返してやった。
結局その日は寮への帰宅を促すチャイムが鳴るまで、ずっとそうしていたのではなかったろうか。
明日、唇痛くなったりしませんよね、なんて心配をデュースがしていたのを覚えている。それでも、やめることができなかったのも。
昼休みの中庭では、暖かな日差しに俺が眠くなってしまうことが多くて、デュースにすまないと伝えると、じゃあ僕を枕にしますか、と笑われてしまった。どういうことかと尋ねると、どうやら膝枕を提案しているようだったから、それでは遠慮なくとデュースの膝に頭を乗せれば、デュースはくすぐったいですね、と顔を赤らめて笑った。
膝の上から手を伸ばしてデュースの頬や喉をくすぐると、んっ、もうと少しだけ色っぽい声が聞こえて、俺はわずかにこの先の未来への欲を覚えながら眠りに落ちた。
部活帰りのわずかな時間にも、互いを待ち合わせて帰ることが多くなった。あまり遅くなるようなときには、先に帰っていてくれと伝えることもあるが、大抵は鏡舎までの間を共に帰ることにしていた。
逢引というにはとても短い時間だが、それでも俺たちはいつもよりもずっとゆっくりと歩いて、その短い時間を大事にした。
それが誰に見られていても、かまうことはなかった。そう、誰に見られていようとも。
ある日。デュースの様子が、少し妙だった。
「デュース。どうかしたのか? 元気がないように見えるが……」
「あ、いえ……なんでもないんです。もうすぐテストが近いから、ちゃんと点数取れるかなって、ちょっと不安で」
「そうか。普段からしっかり勉強していれば、きっと大丈夫だ。お前ならやれる。信じているぞ」
「ありがとうございます」
そのときは、デュースの言葉を信じていた。デュースがそう言うのなら、きっと大丈夫なのだろう、と。俺の力がなくとも、耐えられることなのだろう、と。
だが。日に日に、デュースと会える時間は減っていった。初めはただ、忙しいのだろうとばかり思っていたのだが。
ある日、廊下で顔を合わせたとき、デュースから目を逸らされた。
いつもなら、声をかけたり、寄ってきてくれるはずなのに。
何かが起きている、と感じた。もう一度デュースと話をしなければ、と思った。
そんな折。俺の元に、恋文……のようなものが、届いた。
『シルバーさんへ いつも見ています 大好きです』
手紙を開けるまでの一瞬は、デュースからのものかと思ったが、筆跡が明らかに違う。一体誰からのものだろうか、とは思ったが、こうしたものが届くのはわりと日常茶飯事だ。
今、俺にこういったものの相手をする気はないと、申し訳ないが供養のつもりで、火の魔法を使い燃やさせてもらった。
しかし。恋文の配達は、その次の日も続いた。
『シルバーさんへ 燃やしちゃうなんてひどいじゃないですか 今日は取っておいてくださいね 大好きです』
……昨日の行いを、どこかで見られていたのだろうか。だが、こんな恋文というか、怪文書に近いものの言うことを聞いても仕方がない。俺は人目につく前にと手紙を燃すと、塵をダストボックスに入れた。
翌日。やはり、恋文……とも言いたくないが、その手紙が届いた。
『シルバーさんへ 今日も燃やしちゃうんですか? そしたらひどいですよ 大好きです』
……こうも毎日手紙を届けられるとは。そして、俺の行いを知っているとは。学園内の関係者だろうか、と考え始める。
ひどいですよ、と抽象的な脅しをかけられていることも考えると、まわりの人にも危害が及ぶかもしれないと思い、俺は手紙を一度預かり、親父殿へと相談することにした。
「なんじゃシルバー、元気がないのう」
「親父殿。実は……」
俺は、最近妙な手紙が届くことを親父殿に話した。
「ふむ。ストーカーっちゅうやつじゃろうか。お前はモテるからのう」
「困ります。最近、デュースとも話が出来ていないのに……」
「そうなんか?」
「ええ。なぜか、避けられているようで」
「ふむ……。何やら困ったことが起きていそうじゃの。ちょいと調べてみるか」
また何かあればすぐに言ってくれ、と親父殿は言い残し、どこかへと飛び去った。
俺は部屋に戻り、そのついでにセベクの元を訪ね、この手紙の筆跡に心当たりがないかと質問をした。
「ううむ……、僕の知る限り、どこかで見たような筆跡ではないな」
「そうか。ディアソムニア寮の内部のものなら、見たことがあるかと思ったのだが」
「何を馬鹿なことを言っている。我がディアソムニア寮にストーカーなどいるわけないだろう、まったく」
それもそう、かもしれない。身内を疑うようで心苦しいのは確かだ。だが……。なら、一体誰が、どこから俺のことをずっと把握しているんだ?
「……気味が悪いな」
「ふん。こういうのは放置するともっと気色悪くなっていくぞ。エスカレートする前に解決してしまえ」
「ああ、そうしたい」
そうしてセベクと別れた。その後、もう一度部屋へ戻り、デュースにチャットを送る。
『デュース。お前の身の回りに、何か変わったことはないか? 危ない目には遭っていないだろうか』
送ってから10分くらいした頃だろうか。やがて、返信が届く。
『僕は大丈夫です。シルバー先輩こそ、何かあったんですか?』
俺は正直に答える。
『最近、妙な手紙が届くようになった。親父殿が言うには、ストーカーの類だと言う。今のところただ奇妙な手紙が届くだけだが、今後、誰にどう被害が出るか分からないから、お前も身の回りには気をつけていてくれ』
『分かりました。心配してくれてありがとうございます』
そのままチャットを終えようかと俺は思ったが、ふと、気になることが今なら聞けるのではないかと思った。
『それとは別の話になるのだが、デュース。お前、最近俺を避けてはいないか?』
『勘違いならば、すまない。だが、事情があるのなら、そう言ってほしい。淋しく思っている』
少し間を置いて、デュースからは返信があった。
『ちょっと忙しかっただけですよ。淋しくさせちゃってすいません』
『そうか。手間を取らせて悪かった』
『いえ。もしまた淋しくなったら、いつでも言ってくださいね。好きです、シルバー先輩』
『ああ、俺もだ。好きだ、デュース』
……なんだ。デュースはまだ、俺のことを好きでいてくれたんだな。心配することはなかったと、安堵した気持ちで眠りに落ちた。
眠りに落ちて。次に目が覚めたとき。俺は、驚くことになった。
机の上に置いておいたはずのスマートフォンがなくなっていたからだ。
ここは俺の部屋だ。ディアソムニア寮の、中の。ドアの鍵はかけていなかったかもしれないが……。俺の寝ている間に、動物たちがおもちゃだと思って持って行ってしまったわけでもあるまい。
「なくて困るものではないが、親父殿から買い与えられた高価なものだ。なくしてしまっては良くない。探さなくては……」
とはいえ、どこに行ってしまったのだろうか。困っていると、親父殿がちょうど帰ってきた。
「うーん、あまり良い収穫はなかったのう」
「親父殿。実は……」
スマートフォンをなくしてしまったことを伝えると、親父殿はなんじゃって、と慌てた。
「どこかに盗人がおるのかもしれん。お前のスマホを使って何らかの悪事でも働こうとしとるんじゃろう」
「そんな、止めなければ」
「うむ。確か位置情報は入りっぱなしじゃったじゃろ。こういうときのために見守りアプリも一応入れとったと思うから、そこから位置を割り出して……」
親父殿は自分のスマホを軽々と操作して、俺のスマートフォンの位置を割り出す。さすがだ。もう相当な御年だと思うのに、最新の機械工学にも明るい親父殿のことを、見習っていきたい。
「あったぞ、シルバー。向かってみよう」
「はい」
2人でその場所へ向かうと、そこには一見、誰もいなかった。ように見えた。
が、俺も親父殿も、その気配には気づいていた。茂みの影に隠れて、何かコソコソとしている。
「お前、何をしている!」
急いで捕縛すると、ソイツはヒッと声を上げた。
「し、シルバーさん……」
「お前は……」
そいつは、ディアソムニア寮に所属する後輩の1人だった。マレウス様に対するセベクのような、熱狂的な思いを時々俺にぶつけてくることがある。たまに情熱が過ぎるだけで、悪人だとは思っていなかったのだが……。
「シルバーさんが悪いんですよ、この僕を差し置いて、あんなポンコツと付き合ったりするから……っ!!」
「……お前は、俺のことを愛しているのだな。歪んではいるが……」
捕縛を一瞬緩めたフリをする。
「なら、愛した人の愛したものくらい、認めたらどうだ!!」
喉に警棒を突き立てると、なんで、とその後輩は慄くような目で俺を見た。
「ふむ。こやつの処分、どうするかのう」
後ろから出てきた親父殿が、手慣れた作業でクルクルと後輩を縄で巻き付ける。身動きの取れなくなった後輩からスマートフォンを回収して、どうにか俺の手元にスマートフォンは返ってきた。
「今までの手紙を送ってきたのも、俺のことを監視していたのもお前の仕業か?」
「ふ……ふふ……」
「答えろ」
「もう遅いよ……僕を捕まえたって……もう遅い……」
うわごとのように繰り返すだけの男に、どうしようもないなと呆れのため息をつく。
親父殿が、ひとまずこやつは預かっておくわ、あとはマレウスと話して処分を決めると言うので、俺はその背中を見送った。
一応、スマートフォンがおかしなことになっていないかを確認する。カメラロールがいくつか俺の隠し撮り写真になっている以外に、目立ったおかしなことはなかった。
金銭や詐欺犯罪などの目的ではなさそうだから、そうした悪用はされていないようだ。
あとでイデア先輩やオルトにも事情を話して一応見てみてもらおうか、と思ったとき。ふと、マジカメのチャットのメッセージ欄にその言葉が並んでいるのを見かけた。
『デュース。すまないが、他に好きな人が出来たんだ。俺と別れてくれないか?』
そこに並んでいたのは、俺が打った覚えのない言葉。考えたこともなかった言葉。その文字の羅列が意味するところを理解するのに、俺の頭は結構な時間を要した。
ハッと気が付いたとき、思った。弁解しなくては。これは俺の不注意でスマートフォンを盗まれてしまって、その盗人が勝手に書いたメッセージで、俺はそんなこと、露ほども思っていないのだ、と。
そう書き込もうとしたとき。返信の通知が鳴った。
『分かりました。今までありがとうございました』
俺は、この世のすべての絶望が自分に降りかかったかのように、その場にくずおれた。
それから。あまりのショックに、気を失うかのように眠ってしまっていたらしい。
目が覚めると、辺りは夜だった。
……この時間では、ハーツラビュルに赴いて、デュースに面会を申し込むことさえ簡単ではない。今日のところは諦めて、明日、また機会を見て事情を話そうとのろのろと身体を起こす。ひとまず寮へ帰ろうと所在なく歩いていると、どこからか泣き声が聞こえた。
泣き声は、下の方からくぐもって聞こえる。どこかで誰かが、うずくまって泣いているのだろうか。
このまま泣き声を放ってはおけないな、とどこか感傷的な気分になりながら、俺はその泣き声がする方向へとふらりと歩いていった。
「うっ……ぐすっ。なんで……」
泣き声に近づく度に、確信へと近づいていく。この愛しい声は、彼のものだ。俺の愛する、デュースの。
「なんでだよ……、ちくしょう……っ!」
俺は、木陰からデュースの様子を伺い見る。今の俺がいきなり飛び出しては、デュースを驚かせてしまうかもしれないからだ。勘違いとはいえ、今の俺は、向こうからすれば、突然一方的に別れを切り出してきた元恋人の先輩なのだから。
「僕は、精一杯やったのに、僕のこと好きだって言ってたのに……全部ウソだったのかよ、そんな簡単に心変わりすんなら、はじめから、好きだなんて、言うんじゃねえよ……っ!!」
「……デュース」
つい、俺は足を踏み出していた。デュースの慟哭を聞いて、いてもたってもいられなくなったから。
足の速いデュースが逃げてしまう前に、腕の中に閉じ込める。そして、一刻も早くその涙が止まるようにと、俺は弁解を始めた。
「デュース。嘘だと思うかもしれないが、聞いてほしい。俺は、お前と別れようなんて思っていない」
「……え?」
「もし、俺にまだ気持ちが残っているのなら……もう一度、チャンスをくれないか」
どういうことですか、とデュースは言った。俺は、今までのことをデュースに説明しはじめた。
「最近、謎の手紙を送ってくる者、いわゆるストーカーに悩まされていると言っただろう。詳しくは省くが、居眠りしているすきにそのストーカーにスマートフォンを盗まれてしまった。それで、ソイツが俺のフリをしてお前に勝手な別れの言葉を送ってしまったんだ」
だから、俺自身はそんなことをちっとも思ったりしていない、とデュースの目を見てまっすぐに言う。信じて、くれるだろうか。こんな荒唐無稽で、嘘みたいな話を。
「……僕、すっごい傷ついたんですよ」
「……ああ……すまない。俺の不注意が招いたことだ」
「せっかく両想いになれたのに、シルバー先輩には、もう、僕はいらないんだ、って……」
「そんなことはない。俺にはお前が必要だ」
「……」
「どうか俺の元へ、戻ってきてくれないか、デュース」
沈黙が2人を包む。こんなにも重い沈黙は、恋人として付き合う前からも、付き合ってから今までにも、初めてのことだったように思う。やがて、デュースが口を開いた。
「……信じます」
「ほ、本当か?」
「本当です。……シルバー先輩が、ストーカーに悩まされてるって言ってたのはホントだし、それが本当に本当の話かどうかは、まわりに聞いてみれば分かると思うし……それに、」
何より僕が、まだシルバー先輩を信じていたいです、とデュースは言った。
俺は嬉しくて、嬉しくて、デュースをぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう……デュース。また、お前とやっていきたい」
「はい、僕もです」
ストーカーの人は捕まったんですか、とデュースが尋ねる。
「ああ。親父殿が捕縛して、マレウス様の元へ連れて行った。適正な制裁処置が成されることだろう」
「そっか……なら、僕もまた、元通りになれますね」
「元通りに? どういうことだ?」
「あっ、ええと……」
「……話してもらおうか」
デュースから聞き出した話は、こうだった。俺を避け始めたのは、デュースの方にもストーカーからの手紙が届いていたからだという。その手紙の内容は、俺に送っていたものとは違い、恨みつらみや罵詈雑言が立ち並び、時にはカミソリなどの刃物も入っていたという。黙って耐えていたが、そんなときに俺から別れ話が来てしまったことで、自分よりそんな奴を選ぶのかと参ってしまったのだと。
「そんな危険な目に遭っていたのなら、なぜもっと早く言わなかった!」
「し、心配かけちまうと思って……。それに、その。僕がシルバー先輩に近づけば、先輩に危ない真似をするかもって思ったんで……迷惑とかに、なりたくなくて」
「心配など、かけていい。迷惑なんて、かけたのは俺の方じゃないか。お前が知らない間に傷ついている方が、よほど悲しい」
無事で良かったが、もう無茶はしないでくれ、とデュースを改めて抱きしめる。
はい、ごめんなさい、とデュースは俺の腕の中で、申し訳なさげにしていた。
それから、俺たちは、2人でディアソムニア寮へと戻った。
デュースはハーツラビュル寮を抜け出してきていたそうだから、寮へ帰るかと思ったが、今夜怒られるのも明日怒られるのも同じだし、もう少し今夜は一緒にいたいので、と言うから、俺は翌朝のリドルの怒号を想像しながらも、デュースの逃避行は見逃してやることにした。
……俺もまだ、デュースと一緒にいたかったしな。
デュースを連れてディアソムニア寮へと帰ると、マレウス様が現れて仰った。
「ああ、シルバー。帰ったか。スペードも一緒だな」
「マレウス様。ただいま戻りました」
「こんばんは、お邪魔してますっ!!」
「ああ。よく来たな。シルバー、例の男には、然るべき処分を下しておいた。もう心配することはないぞ。穏やかな心地で、2人ゆっくりと過ごすといい」
「ありがとうございます、お手間をおかけしました」
「良い」
ではな、とマレウス様は部屋へと戻られる。俺はデュースを連れ、自室へと戻った。
相部屋の者は留守にしているから、今宵は部屋を気兼ねなく使うことができるはずだ。
「シルバー先輩の部屋に入るの、久々ですね」
「そうだな。いつも空き教室や中庭での逢引で、部屋まで来ることは少なかったから……」
と、いうか。デュースを恋人として部屋へ連れてくるのは、もしかすると、交際してから初めてのことではないだろうか。
「は、はは。なんだか緊張して……照れますね」
「そう、だな」
どこか気まずい沈黙が2人を包む。お互い、分かっていた。このまま何事もなく、ベッドで寝ておしまい、というわけにはいかないだろうこと。そんなことで、想いを再び確かめ合えたこの夜を終わらせたくないことを。
「なあ、デュース」
「……はい」
窓の外を見ながら、精一杯の勇気を出す。
「お前の方さえ良ければ、なのだが」
「……」
デュースは、息を呑んで黙っている。続く俺の言葉が、分かっているのだろう。
「その……俺と、共寝をしてくれないか」
「い、いです……よ」
デュースが頷いてくれたのを認めると、俺は、デュースの手を引き、ベッドへと腰かけた。
「……本当に、心臓が潰れるかと思った。あのメッセージを見たとき……」
「僕も、です。でも、勘違いで良かった、って……今は、思います」
あの、先輩、とデュースが言った。
「ああ、なんだ?」
「僕。……ストーカーの奴の気持ちも、分かる、って思ったんです。シルバー先輩のことが好きすぎてどうしようもない気持ちで、ワケわかんなくなって、自分がいたい場所にいる僕にムカついて、ついやっちまったんだろう、って。その気持ちは、痛いほど分かる……」
でも、とデュースは続ける。
「同情はしない。僕は、アンタを好きな人たちの気持ちはめちゃくちゃ分かるけど、それでも! ……そんなの何度だって蹴散らして、アンタの隣に立ち続けていたい、です」
「……デュース」
俺と共にいる覚悟を、してくれるんだな。尋ねると、デュースはまっすぐな目で、はい、と答えた。
もう、俺に、自分を止める理由はなかった。デュースが、どんな目に遭おうが、俺の隣に立っていたいと言ってくれるのなら。……もう、怖いものなど、ないよな。
少しの沈黙のあと、隣に座るデュースの肩を抱き寄せ、そのまま抱きしめる。互いの鼓動が聞こえ、吐息が重なったあとに、改めてぎゅっと力を込めれば、デュースはびくりと身体を震わせた。
「怖がらなくていい。……大丈夫だ。優しくする」
「は、はい……」
デュースをそっと、ベッドに押し倒す。俺たちだけのめくるめく夜の時間が、始まろうとしていた。
薄い唇に、己のものを重ねる。ぢゅ、というリップ音が、ついては離れてを繰り返した。
ああ、クラクラしそうだ。デュースが、俺のくちづけを受け入れてくれている。何度だって、そう、何度だって。
どうしてくちづけているだけで、こんなにももう俺の頭は酩酊感に酔いしれているのだろうか。デュースの仕業だろうか。きっとそうだと結論づけて、俺の唇はデュースの首筋へと降りて行った。
……叶うなら、ずっとキスしていたい。なんなら、デュースを愛撫するための唇が2つ欲しい。
そんな愚かな欲望に、俺の頭は埋もれていく。一度ハマると抜け出せない、蟻地獄のようだ。
制服のジャケットを脱がせると、デュースはベストのボタンを自ら外した。ぷち、ぷちと1つずつボタンの外れていく音が、俺の心を高揚させた。
デュースがベストまで脱ぎ終わると、俺は、俺もジャケットを放った。あとで手入れはするから許してくれ、と誰にするでもない許しを請うて。
頬に手を触れさせると、デュースはそれに頬ずりをして、それから俺の手袋をゆっくりと外した。
「その。手袋越しじゃなくて、直接、触ってほしいです……」
……俺への殺し文句を添えて。
俺はたまらなくなって、デュースのシャツを脱がせることも忘れたまま、シャツの裾から手を入れた。と同時に、デュースの胸元へもくちづけていく。くちづけはシャツ越しだが、シャツの下の素肌を撫でていくうちに、突起がある一点が盛り上がっていくのが分かった。
俺は、胸板ごと舐めるようにしてシャツ越しにそれを口に含んだ。たっぷりの唾液で濡らしてねぶると、間もなくデュースの口から声が上がり始めた。
「んっ、ゃ……」
「……は……デュース」
もっとだ。もっともっと、聞きたい。その声で、俺をかき乱してくれ。嬉しい。目の前のデュースに、好きなだけ狂える時間がありがたい。俺をもっと、おかしくしてくれ。普段からじゃ考えられないくらい、お前という欲望しかない獣にしてくれ。……そんなわけのわからない気持ちと衝動があふれて、堪らない。
ぷち、ぷちとシャツのボタンを下からひとつずつ外していきながら、胸元への愛撫はやめない。
「ん……ゃ……ぁ……っ」
まだデュースの声は控え目だが、それでも快感を感じ始めている。その事実に、俺は身震いするような心地がした。背筋にゾクリとしたものが走って、妙な笑みが俺の表情筋を支配する。こいつは今夜、俺のものにする。それだけのために今、俺は動いている。
シャツのボタンがすべて外し終わり、するりと白い布を退かせる。すると、デュースの肌が見えた。
腹筋に唇を寄せていると、デュースがもう涙目になっていることに気づいた。羞恥からか快感からか、分からないが、赤く染まったその表情は俺の欲をそそって仕方がない。
「せん、ぱい」
「好きだ……デュース」
お前に参っている、と告げ、今度は肌に直接、デュースの乳首を舐めた。
「ぁ……っ、……ゃあ、ん……っ!」
快感に耐えようと震えながら首を振るデュースに満足して、空いていた手で反対の乳首をいじりはじめる。初めは優しくすりすりとこすりながら、だんだんとつまんで、転がして、くにくにとこねくり回して、ときにはぴんと弾くように。
「ゃ、あ、せんぱ、両方、だめ……っ、ん、んん……っ、は、ぁ、あっ、そんなの……っ、あ、あ、あ……っ、は、はあ……、……ひ、ゃん……っ!!」
どんな触り方をしてもいい反応を返す。指先でつうと背筋をなぞると、デュースはもどかしそうに身体をもじらせた。
そろそろ、いいだろうか? デュースの身体を触る手を、だんだんと下の方へ滑らせていく。
鼠径部を焦らすように撫でると、デュースのズボンの一部がだんだんと膨らんでいくのが分かった。……ふっ。期待しているんだな。可愛らしい。
もう少し焦らして、可愛らしい表情を拝んでやろうと、デュースのズボンのベルトを外し、つま先にちゅ、とキスをする。
足首を舐め、くるぶしをねぶり、徐々に舌と手での愛撫を腰元へと上げていく。
「……っ」
デュースは、声こそあげないが、ぎゅっと目をつぶり、ふる、と身体を震わせている。ああ、たまらないだろう。欲しいだろう。俺が。俺の与える、快感が。もっとだ。もっともっと、俺を欲してくれ。お前に狂わされている俺と同じくらい、お前も俺に狂ってくれ。
「も、せんぱい……っ」
こらえきれなくなったデュースが切ない声で俺を呼ぶ。ぺろりと舌なめずりをして、デュースのズボンの中へと手を差し込んだ。
「ここだろう? 分かっている」
「あっ……、あ、あっ……!!」
急に差し込まれた指での刺激に、デュースは成す術もない。今までは嬌声を抑えようとしていた手も忘れて、ただ喘ぎ声を上げるしかできなくなり始めている。
「デュース……、ふっ、可愛いな。好きだ、デュース」
「あ、ああ、や、せんぱい、そんなとこ、……あっ、そ、そんな触り方……っ、や、やぁ……っ」
「どうだ、気持ちいいか? ……それなら、もっと気持ち良くしてやろう」
「えっ、あ、せんぱ……っ」
下を触ったまま、再びデュースの乳首を口に含む。
「ゃ、上も下もだめ、ゃっ、やだぁ、せなかゾクゾクする、僕へんになる、ぅ、ぁ、ぁあ……っ! も、やだぁ……っ!!」
ああ、今、デュースを食べている。味わい尽くしている。……恍惚とも言える感情が、俺の中に頭をもたげてくるのを感じた。
ぴちゃ、ぴちゃと淫靡な音と、デュースの嬌声だけが静かな部屋に響く。ゾクゾクとした感覚が背筋を駆け上り続けることをやめてくれない。今食べているのに、もっと欲しいという欲望ばかりが次から次へと湧き出てくる。
「嫌でも、やめてやれないぞ。悪いな」
「せんぱい、せんぱ……っ、あ、ん、あ……っ」
デュースの中に差し込んでから、俺の手はずっと動き続けているから、デュースは息つく暇もなさそうだ。つかせる気もさらさらないが。
「気持ちいいか?」
「んっ、んぅ、ん……っ!」
聞けば、こくこく、とデュースは頷く。
「もっと欲しいだろ?」
「そっ、は……」
はあ、と息切れしたようなので、軽く手を止める。
「なあ、どうだ?」
「や、止めないで……っ、欲しい、です……っ」
向こうからねだられたのであれば、仕方ないよな。再び、デュースを息つく間もなく攻め立てようと俺の手はデュースの息も整わないうちから動き始める。最後まで、もう息を整えさせる気などないからな。
「デュース……俺が欲しいと、言え」
「あ、ん、も……っ、ほしい、ぼく、欲しい、です、シルバーせんぱい……っ、せんぱいが、ん、ほしくて、たまんない……っ!!」
「……いい子だ」
空いた手でデュースの頭を撫でて、それでデュースのものから一度手を離す。
「いい子には、褒美をやらなくてはな」
デュースのズボンを脱がせ、後孔へと手を伸ばした。
「ゃ……っ♡ も、むり、むり……っ」
「無理じゃない、まだ出来るだろう? ほら、もっと、だ。デュース」
「ゃ、ゃあ、やだぁ……っ、あ、へん、ぼく、へんん……っ♡」
後ろをいじり始めれば、デュースの感部はすぐに見つけられた。あまりにも、どこが気持ちいいと思っているか分かりやすかったから。俺がそこをいじれば声をあげ、身体をもじらせるものだから、動く腰を抑えつけて、半ば無理やり感部をいじっている。
「ゃあ、せんぱい、なか、なかなんか入ってるぅ……っ」
「俺の指だ。ほら、今お前の中で動いてる。……分かるか?」
トントン、と動かすと、デュースはそれに合わせてまたあ、ああと声を上げた。
「可愛いな……デュース。俺のデュース、可愛い」
俺は語彙をどこかに置き忘れてきたようだ。まあいいか、と思う。可愛いと好きだ以外の言葉が、今この場に必要あるとも思えない。
「デュース、気持ちいいな?」
「うっ、うう、ふっ、う~……っ……♡」
もはや泣き声のようになってきたデュースの喘ぎ声に、もっと泣かせたいな、という気持ちが湧いたことには少し驚いた。俺にそうした嗜虐趣味のようなものがあるとは思っていなかったから。だけど、生まれたての姿で赤子のように泣いて俺にされるがままになっているデュースの姿に、妙な庇護欲が掻き立てられているのも確かだ。
「もっと気持ち良くなろうな」
「ふ、ぇ? ぁっ、や、あ、それ、それほんとにだめっ、せんぱ……っ、あ、あああ……っ!!」
デュースの後ろをいじりながら、前に勃っているものも口に入れてしまう。吸ったり、舐めたり、先端をねぶったりと後孔をいじるのに合わせて愛撫をすれば、デュースはこの快感から逃げ出したいとでもいうように身体を大きくもじらせた。
「は……デュース、逃げるな」
「やぁ、だって、ぇ、かって、からだ、うご、く、ぁ、あ……っ♡ だめ、なか、ゆびといっしょ、だめぇ……っ♡」
はあ、はあとデュースは荒い息を繰り返す。そうだろうな。もう、いじりはじめてからずっと声を上げている。頑張っているな。
汗をかいているようだから、一度手を止め、張り付いた前髪をどかしてやった。
「……挿れよう、デュース」
「……は、い……」
デュースの反応が可愛くて後ろをいじり続けているうちに、もう十分、受け入れの準備は整った。あとは、繋がるだけだ。
「せ、んぱい」
「ああ、なんだ? ……恐ろしい、か?」
ここまで来てなんだが、デュースが怖いというのなら止まってやらなければならない。己を殴ってでも。だが、デュースの答えは違った。
「きて、ください。はやく、せんぱいがほしい。ひとつになりたい、です」
「……っ、お前というやつは……っ」
ああ、デュースという奴は。俺の理性を壊す術をよく知っているらしいな。
俺は性急に、そそり立っていた自分のものを曝け出し、デュースの後ろに当てた。
「は……、行くぞ」
「……ん……」
デュースがうなずいたのを認めて、ゆっくりとものを挿入していく。
「ん、んん……ん……♡」
奥に入っていくにつれて、目に見えてデュースの反応が良くなっていくのが分かった。たまらず打ち付けたくなるのをこらえて、一度、奥まで挿れ切ってしまう。
「……全部、入ったぞ」
「ぜん、ぶ……」
デュースは、意識的にか無意識にか、太ももで俺の腰を挟み込む。挑発だとしたら、ずいぶん上手いことだ。
「ふ、は、あ……。せんぱい、も、ぼく、まてない……、この先、ください……」
じれったそうに腰を動かすデュースに、俺は、いいんだな、と了承を取る間もなく、動かし始めていた。
「行くぞ、デュース……っ」
「ゃ、やぁ、も、うごいてる……っ、あ、ぁ、だめ、それすごい、だめぇ……っ♡」
ふ、ふぁ、やぁ、せんぱい、シルバーせんぱいっ、喘ぎ声と共に、そんな切ない声が何度も俺の名を呼ぶ。
「ああ……ここにいる」
「ひゃ、うぁ、あん、も、もう……っ、だめ、だめ、だめ……っ♡ ぁ、ぁあ……っ! や、なんかきもちいの、なみくる、つぎくるぅ……っ♡」
ギシギシと音を立て、俺に身体を揺らされて、ぐちゃぐちゃになっていくデュース。ああ、いいな。……たまらないな。
「デュース、デュース……っ!」
「ぁ、せんぱ、やだ、あ、きもちいの、なみ、みじかくなって……っ、ぁ、ん、ぁ、ふぇ、あああ……っ♡」
「は、好きだ、愛してる……っ!!」
「ゃ、も、だめ、だめ、きもちいの、はなれない、ぼく、だめ、へんなる、へんなる、やだ、あ、ぼくどうな……っ、ふっ、あ、は、~~~~~~~……っ♡」
「……イけ、デュース」
「ひゃ、だぁ、だ、め、も、ん、んぅ、ふぁ、や、ぇうっ、……あ、ふぁあああああ、ん……っ♡ ひゃ、ひゃあ、ん、せんぱ、せんぱい止まって、や、ぼくイッ……イッ、あ、ふぁっ、はう、あ、ひぁああああ、ぁ、ア、んぐ、ぅ~~~……っ!!」
「く、ふ、ぅ……っ!!」
悲鳴にも似た嬌声と共に、デュースの足が、がくがくと痙攣する。強い挟み込みにつられて、俺も同時に達した。
ぜえ、はあ、と2人、荒い息をこぼす。
「しるば、せんぱい……♡」
「……ああ、デュース」
互いの手を握り、指と指を絡め、こつんと額を合わせる。幸せだ。間違いなく、俺もデュースも幸せだと言えた。
翌朝。けたたましい目覚まし時計の音……ではなく。誰かに頬を撫でられている心地で目が覚めた。
「ん……」
「あ……おはよう、ございます」
目の前には、少し照れた顔のデュース。ずいぶんいい寝覚めだなと思っていると、昨夜のことが思い起こされた。ああ、そうか。昨日、デュースと結ばれたのだったな。
「身体は痛くないか?」
「平気です」
それよりも、とデュースは続ける。
「あの、せんぱい」
まだ舌ったらずな少し枯れた声でデュースが言う。
「その、昨夜のこと……。恥ずかしかったけど、すごく、気持ち良くて、嬉しくて……だから、他のやつにこういうのをぜんぶ取られんの、すげえやだな、って思って」
だから、とデュースは言う。
「昨日も言いましたけど、どんなやつが来たって、僕はこの場所……譲る気、ないですから」
そうか、と笑ってデュースの頭をぽんぽんと撫でる。
「嬉しい。俺も、同じ気持ちだ」
「……へへっ」
ああ、幸せだな、と思った。これからも、何度でもデュースとは、このような時間を積み重ねて行ける。そう、思った。
「これからもよろしく、デュース」
「はいっ、シルバー先輩!」
俺たちの日々は、続いていく。たくさんの時間を、些細なことも、大変なことも、嬉しいことも、悩めることも積み重ねながら。これからも、何度だって。
いつか、終わりが来るその日まで。いいや、終わりが来てからも、それでも。俺たちだけの物語を紡いでいこう。
――なんの祝いなのかは分からないが、2人とも無性に落ち着かなくて、水分補給に注いできた水のグラスで乾杯をした。
*おしまい
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