*現パロ(微ホラー)な雰囲気です
*神様シルバー×人間デュースのパロディのお話
*年齢操作(シルバー???歳、デュース20歳くらい)
*相変わらずやりたい放題です。
*『魅入り輿入れ』の続きです
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それから、輿入れ? 結婚? の、翌々日。
僕は約束通り、鶴来神社(つるぎじんじゃ)に向かっていた。
僕が本殿へ着いて声をかけるなり、シルバーは姿を現す。
『デュース。来たか。この頃は早いな。まだ、警察の仕事は始まっていないのか?』
「ああ、うん。4月からなんだ。だからまあ、3月中はわりと時間が取れるよ。……まあ、引っ越し先の荷解きとか、いろいろやることはあるんだけどな」
合間合間では会いに来れると思う、と僕が言うと、シルバーは綻んで笑った。
『嬉しい。お前が俺との時間を、前向きに取ろうとしてくれていることが』
このまま良い夫婦(めおと)となっていこう、とシルバーは言う。僕はなんとなくまだそれに素直に頷く気にはなれなくて、ちょっと笑って誤魔化した。
それから適当な話をいろいろして、別れ際。
『そうだ。このひと枝を、お前に』
「これって、桜か? 折っちゃったのか?」
『いいや。神主が庭の桜を剪定していたものを、ふたつほど分けてもらった。ひとつは俺の元に飾られている。もうひと枝はお前にやりたいとねだったら、綺麗なものを選んで落とした。当代の神主たちは、仕事ができるな』
「そっか。そうだったのか。綺麗だな、ありがとう。……はは、でもこれ、ちゃんと愛でられるかな? 僕、わりと花より団子なタイプだからなあ」
『……そうか。覚えておく』
そうして、ぽんと優しく頭を撫でられて。その日は別れた。
それで、翌日。僕が神社へ行くと、シルバーはこれを、と皿に乗せた団子を差し出してきた。
「これ、どうしたんだ? 神様のとこの食べ物?」
『違う。人間の世界のものだ。お前が、昨日、自分は花より団子だと言っていたから、神主に用意させた』
僕はそれを聞いて、ちょっと神主さんが気の毒になる。いやそりゃ神様に仕えるのがお仕事なんだろうから、それもやることのうちなんだろうけど。今回は小さなことだったとしても、向こうは断れないのに、いろいろいきなり振り回されちゃ大変だろ。
「用意してくれるのは嬉しいけどさ、神主さんたちだってアンタの神社を綺麗に保つので忙しいんだし。いろいろ雑用させたら、悪いだろ」
『……そういうものか』
「少なくとも、僕はちょっと遠慮しちまうな」
『……分かった』
それからシルバーは、何事か考えていたようだった。
また、その翌日。シルバーは、何故か。……あんまり透けていない? というか。なんか、ぺたぺた触れそうな雰囲気になっている、というか。まあ、なんていうか、つまり。人間っぽい姿になっていた。それでも十分、本当に人か? ってレベルの透明感は残ってるけど。
「どうだ、デュース。人の現身(うつしみ)に顕現してみたぞ」
「おお……人間の姿になってる。そんなこともできたんだな」
「ああ。人の祭りにこっそり混ざる日なんかには、よくこの姿を使う。それで、だ。神主に相談して、団子代を賽銭から分けてもらい。今日は自分で、店まで行って買ってきた」
これならお前も遠慮はないだろう、とシルバーは言う。でも僕はちょっとだけ気になった。これ、お賽銭で買ったものなのか。
いやそりゃまあ、お賽銭は本来、神様のお金なんだからシルバーが好きにしていいんだろうけど。
僕までそれ食べたら、なんか罰当たりじゃないか? そんなことを考えていると、シルバーに小突かれた。
「どうした、何を気にしている?」
「い、いや。シルバーは何も悪くない。ただ、お賽銭で買ったものって、お供え物になるんじゃないかと思って。僕まで一緒に食べたら、罰当たりじゃないか? なんか」
「ふっ。お前はおかしなことを気にするのだな。お前は俺の嫁なのだから、俺がそのことに罰を当てることはあるまい」
それにこれは供物の盗み食いでもなんでもなく、俺との共有だ、とシルバーは言う。
「むしろ、一緒に食べてくれなければ、罰を当てるぞ。そこの縁側で桜を眺めながら、共に団子を食そう」
「はは、神様とのお花見か。いいな、それ。……あ! じゃあ、ちょっとだけ待っててくれ。すぐに戻るよ」
「どこへ行くんだ?」
「内緒! 急いで戻るから、楽しみに待ってろ!」
そうして僕はすぐ近くの売店でオレンジジュースの瓶を2本ほど買い、シルバーの元へと戻る。
「オレンジジュース買ってきた! 団子と一緒に楽しもう!」
「ふっ。そうか、そうか。お前はまだ、花見酒よりジュースなのだな」
それも良い、と言って、シルバーは僕から1本瓶を受け取る。
それからシルバーがどこからか出してくれたお猪口を使って、僕らはオレンジジュースと団子での花見を楽しんだ。
「桜、綺麗だな~。神主さんたちがよく手入れしてるんだろうな」
「ああ。あとふた月もすれば、手水場の紫陽花も綺麗に咲くぞ。その前の五月には、サツキやツツジも見頃になる」
当代の神主たちも俺の庭の手入れをよくやってくれているからな、とシルバーは笑ってお猪口を傾ける。
「ちゃんと神主さんたちにお礼とか労いの言葉、言ってるか? いくら偉くても、感謝を忘れたら駄目なんだぞ」
「おや。……そうだな、人の隣人たる神が、その指標となる振る舞いを忘れてはならないな」
今晩にでも改めて彼奴らには労いを伝えておいてやろう、とシルバーは言った。
そうして、僕の頭を良い子良い子と撫でる。そんなシルバーに僕は照れくさくなって、尋ねた。
「なあ、アンタはなんで僕のこと好きなんだ? ……神様は気まぐれって言ってたけど、嫁がせといて、あとで飽きて放り出したりしないよな?」
するとシルバーはすぐに首を振った。
「それはしない。俺は一途だ。そしてお前を好いた理由は、俺がお前を気に入ったから、だ」
「だからそのどこが気に入ったのかを聞いてんだけど」
「そうだな。お前たち人の子も、道端の石ころをひとつ拾って、宝物のように扱うことがあるだろう。それと同じだ。それでなければならない理由はなかったが、ひとたびそれを手にしたあとは、他には替えが効かず、それでなくてはならないのだ。俺にとって、お前はそういうものだ」
僕は少し、拗ねた。なんだよ。僕だけに見つけた特別な何かがある、とかじゃないかってちょっと期待してたのに。
「……僕、その辺の石ころかよ」
「宝物だ、という意味にとるといい。……お前は俺が嫌いか? それとも、好きではない、か?」
「嫌いでは、ないけど……。正直、今のアンタとはまだ会ったばかりみたいなとこあるし、夫婦とかか恋人みたいな感じで好きになれるかどうか、……まだ、分かんなくて。そもそも僕、誰かを好きになったこともまだなくて……」
「そうか、それは準備が疾く整っていて、何よりだ。あとはお前が俺を好きになれば良いということだな」
「だからそれをどうやったらいいか分かんないんだって」
溜め息をついていると、シルバーが不意に、僕の顎を指先で引いた。
「デュース」
「ん……っ!?」
唇に、ふに、と柔らかいものが触れる。目の前にはシルバーの、本当に綺麗な、真っ白なまつ毛があって。
こ、これって、まさか。き、キス、しちまった、のか。僕初めてだったんだが。
「……ふっ。焦らずとも。抱擁もくちづけも、与えてやる。お前はそれに抗わないまま、この腕(かいな)の中へと抱かれてくれればいい。それだけだ」
「ぼ、ぼく、キス、初めて…っ!」
「そうか? 幼い頃は、自分からよく頬にくちづけてくれたろう。まあ、良い。今となっては初めてのくちづけの感想はどうだ?」
そう言われて、僕は困る。いきなりだったから、よく覚えてないんだ。なんか、柔らかくて妙に暖かかったこととか。
なんか桜吹雪の暖かい風に包み込まれるみたいで、安心するようなふあっとした心地になったこと、なんて。
「……わ、分かんねえ……」
「そうか。ならば、もう一度してやろうか?」
「えっ……」
「……お前次第だ」
シルバーは楽しそうに、でも優しくほほ笑む。僕はそれに対して、もう一度したいかも、でも、と迷う欲が浮かんだ。
「……や、えっと……その……。ま、まだ、やめ、とく……」
だけどもう一度、とねだる勇気はさすがに僕にはなくて。諦めたそのとき、もう一度くちづけられた。
「ん!?」
「……ふっ。可愛らしいな」
「や、やめとくって言ったろ! それにアンタ、僕次第だって!」
「実際興味もあるという顔をしていたものでな。こうしたことなら、いくらでも付き合ってやる。またこうして試しに来るといい」
「……」
少し呆れたジト目でシルバーを見ていると、シルバーは笑って僕の頭を撫でる。
なんか僕、流され始めてないか? とは思ったが。でもまあ、いっか。どうせ夫婦(めおと)ってやつになるんなら。……シルバーにされるキスは、そんな嫌じゃないってことが分かったしな、って、今はなんとなくそう思うのだった。
それから、翌日。ちょっと照れくさかったけど、やっぱり会わない、通わないわけにもいかないよなと思ってシルバーに顔を見せる。
「シルバー、いるか?」
『来てくれたか、デュース。会いたかったぞ』
「あ、今日は人間の姿じゃないんだな」
『ああ。その気になればいくらでも顕現は出来るのだが。人間は、神の姿を見たことにいろいろな意味を見出してしまうからな。特に信心深いものや、氏子には。あまり姿を見せないようにはしている』
彼らが思い描く『特別なときに神は姿を現す』という夢を壊さない方がいいだろう、とシルバーは語る。
「へえ、いろいろ考えてるんだな。でも僕は、人の姿でいつでも会える神様も、それはそれで親しみがあっていいと思うけど」
『そうか?』
「うん、なんていうか……昨日のシルバーは、話しやすかった。今の神様然とした姿だと、ちょっとやっぱり僕が気軽に触れていいものか、喋っていいものか、遠慮しちまうとこもあるっていうか」
『……そんなに畏れることはない。畏まってくれるのは嬉しいが、お前は俺の、特別なのだから』
今どきは夫婦(めおと)というのも対等な立場にあるのだろう、とシルバーは言う。
「案外最近の事情にも詳しいんだな」
『人々を見守る神が、人々の世情に詳しくなくてどうする。今現在という時を知らねば、今現在に悩む人々の悩みは聞き届けてやれないのだぞ』
「そっか。ちゃんと神様の仕事、頑張ってるんだな」
偉い偉い、とシルバーの頭をつい撫でてしまう。そして僕はハッと気づく。これ、不敬とかじゃないのか!?
少し青ざめて慌ててると、シルバーは懐かしそうに笑った。
『ふっ。お前は昔から、変わらない。「痛いの痛いの飛んでいけ」だったか? ……俺が子どもの姿に扮してお前と遊んでいたときも、そう言って俺の頭を撫でた』
よもや神の頭を撫でようとは、度胸のある妻もいたものだ、とシルバーは笑う。なんだよ、と僕が口を尖らせると、お前ならかまわないとシルバーは僕の頬をつついた。
『さあ、デュース。俺の腕の中へ、大人しく抱き寄せられておくれ』
「……いい、けど。できたら、人間の姿にならないか?」
『おや、そちらの方が好みか?』
「……別に。抱きしめてくれるんなら、寄りかかりたいし。それに、アンタの温度を感じて、安心するんだ。あの姿」
『相分かった』
そうしてシルバーは人間姿に顕現して、僕を後ろから抱きしめる。僕はその腕に身体を預けて、なんとなくほっとする。
……なんというか。すごく大きな何かに包み込まれてるみたいで、安心する気持ちになった。
やっぱり、それはシルバーが神様だからなのか。それも、かなり人間に優しい方の。
だから傍にいると、こんなに穏やかで優しい気持ちになるのかな、なんて思った。
「……不思議だ。シルバーにキスされたり、こうして抱きしめられると、すごく落ち着くし、安心するし、なんか……嬉しくも、なる。まだ会ったばかりなのに……」
「ふふ、そうか。デュース。それは不思議でもなんでもない。人々は俺を愛し、俺は人々を愛している。お前もその輪のひとりであったからこそ、今、俺を愛し、俺に愛される下地があったということだ。何故ならばお前たち人の子は、与えられた愛を返さぬでいられない、いじらしい生き物なのだから」
「……えっと……つまり、どういうことだ?」
「ふっ。昔から俺はお前を好きで、お前もずっとうっすら俺を好きでいたということだ」
「僕そんなに信心深くなかったけどなあ……」
「そうか? 正月を祝い、蕎麦や餅を食べ。何かあれば、神頼みをして。親しんでくれていたじゃないか」
「えっ、あっ、そういうのでもいいのか……」
「それと気づかないほど人々の生活に根差すことも、また俺たちの力の源となる」
なんなら、人が神への仁と礼儀を忘れず、四季折々を生き楽しむことだけでも俺たち神々は力を得るのだ、と言った。
「なんか、いいな、それ。いつも傍にいてくれる、って感じがする」
「いつも傍にいるんだ。お前たちが時折忘れてしまうだけで」
そう言って切なそうに笑うシルバーを見て、僕はなんだか、絆されてきてしまう。
ああ、コイツは本当に人が好きなんだなあ、って思って。
「……ふはっ。なあ、シルバー。僕、今日アンタのことをいろいろ聞いて、少しアンタのことが好きになったよ」
「本当か? 嬉しい、デュース」
「うん……前ほどは、嫌じゃない」
でもまあ、だからと言って関係を焦らないでくれよ、と僕が言うと。シルバーは、ああ、と頷く。
そうして夜の帰り道を歩いて。家に帰ったあと、しんとしたひとりの部屋に少し淋しさを感じる。
でもそのとき、穏やかな春の日の暖かさのように、シルバーに抱きしめられたぬくもりも、同時に思い出して。
シルバーって神様の嫁になる、か。まあ、それも僕にとっては案外悪くない道なのかもな、と。
だんだん、そう思い始めてきてしまったのであった。
*おしまい(つづく、のか?)
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