*脳筋探偵シルバー×助手デュースのパロディ作品『脳筋探偵シルバーの事件簿』シリーズのオマケ番外編です。
*コメディシリーズの番外編だけど、わりとシリアスな設定開示回です。
*最終回その後の時間軸
*なんでも許せる人向け
以上大丈夫な方はスクロール↓
シルバーのご両親の結婚式から、数日。ベイカー街の街中を歩いていると、珍しく事件が起こった。
「スリだ! 捕まえろ!!」
誰かが叫ぶ。ボクは急いで目視で犯人と思しき逃走中の人物を追いかける。すると、それは起こった。
「あいててててて……! 足が! 足がいてえ!!」
「!?」
犯人、のような人物が。突然、足を抱えて痛みを訴え出したのだ。ボクは好機、と彼を捕まえる。
「キミ、何を盗んだんだい? 返しなよ!」
「お、俺は何も……いてえ!!」
「正直に言え! その足、そのまま折ってもいいんだぞ!」
「さ、財布だよ! 旅行客の……!! 分かった、返すから……!!」
そうして男は盗んだ財布を返す。ボクはそれを、追いかけてきた持ち主に返却した。
「さて、キミは警察に身柄引き渡しだ。大人しくお縄についてもらおうか」
「くそっ……、なんなんだよこの街は……!! 意味が分からねえ……!!」
そうしてボクは、隣町から警察を呼び、今月というか今年に入ってからこの街で初めての犯罪者を引き渡した。
この街、事件が起こらなさ過ぎて警察がひとりも常駐してないのどうかと思うよ。いくら警察側のリソース節約と言っても、限度がある。そりゃ住民がそれなりに探偵の心得がある者だらけだから、治安維持には困らないと言えばそうなんだけどさ。
……まったく。それだからってこの平和なベイカー街の昼下がりを荒らそうだなんて、本当に不届きものだよ。
気分を切り替え、ボクは本来の仕事に戻る。
ええと、確か。シルバーのご両親が、シルバーが改めてデュースと結婚の約束をしたのを受けて、それならば、と。
ボクたち同じ面子が揃っているうちに、シルバーたちの方の結婚式も準備を整えてしまいたいって申し出て、シルバーとデュースはふたつ返事で頷いたんだっけ。まあ、彼らいつ結婚するか秒読みくらいのものだったからな。
むしろまだ正式に式を挙げていなかったことにボクは驚きすらしたよ。シルバーのことだから、デュースが18歳になるのと同時に籍を入れて式を挙げるくらいはしているものと思っていたから。
そう彼に話したら「恋人としての甘い同棲期間もやっておきたかった」とか言ってたな。結婚してもキミらあんまり変わらないんじゃないのかい、という言葉は飲み込んだ。結婚の誓いを立てる前と立てたあとじゃ、何か変わるのかもしれないしね。
ボクにはまだ経験のないそこは、彼らに口出しできないところだ。
と、いうわけで。ボクは今、シルバーたちの結婚式準備を手伝っているところだ。
シルバーが「せっかくならデュースの誕生日に合わせて、ジューンブライドの式にしたい」と言ったから、6月3日の式に向けて、みんな急ピッチで準備を進めている。
まあ、とはいえ。ご両親の結婚式をやったばかりだから、みんなそれなりに同じことをすればいいんだって、段取りが手早くなっていたけど。手早くなりすぎてシルバーたちのやることがなくなって、「俺は何をすればいい?」って言ってたくらいだ。
みんなから「親に挨拶でもしてこい」って言われて、その通りにしたようだけど。
親御さんへの挨拶は、上手く行ったらしい。まずは自分の親に「デュースを嫁に迎え入れたい」と話したそうで、そうしたら笑われたそうだ。「お前は昔からデュースくんのことが本当に好きだったものな」と。お母さんの方も、「デュースくんは昔から、まっすぐで素直で良い子です。ぜひ、うちの家族として迎え入れてあげなさい」と言ってくれたと言っていた。隣で聞いていたデュースは照れていたらしい。
そういえば、本人から聞いた話。デュースには、昔、悪いことをしていた時期もあったんだって。でも、本格的に悪くなる前に、警察の人が止めたらしい。ボクはその話を聞いて、デュースには悪いけど、可愛くて少し笑いを堪える羽目になってしまった。デュースがグレた(と本人が思っている時期)、悪いことをしてみせようとしたけど、タバコをこっそり買おうにも近所の人には年齢がバレていて買えなかったし、そのほかの悪事も常に囲む幼馴染たちに阻まれて出来なくて、仕方なく午後の紅茶を午前に飲んだり、ヤンキー座りでココアシガレットをくわえて地面を睨みつけたりしていたそうだ。マレウスさんやシルバー、セベクの幼馴染組は末っ子のデュースがグレてしまったと本気で心配していたそうだけど、警察のお兄さんに「それ、あんまりグレられてないし、たぶん君、悪いこと向いてないからやめておきなさい。お母さんもたぶん笑っているよ」と説得されて、ショックを受けてやめたらしい。……本人の認識としては、元ヤンだそうだね。まあ、言葉遣いは今からじゃ想像できないほど、当時は荒れていたそうだから、改めて頑張って優等生になろうとしているのは、いいことだと思うけど。
それで、その後。シルバーはデュースのお母さんであるディラさんへのご挨拶に向かったそうで、こちらもふたつ返事でOKが取れたらしい。「シルバーくんなら安心ね、昔からよく知っているもの」と。本当に、赤子の頃から毎日デュースに会いに通っていたのを、双方の両親はほほ笑ましく見守っていたのだそうだ。なんなら、シルバーがデュースを貰いに挨拶に来る、その日が来るのを3人とも待っていたのだとか。
可愛らしくてほほ笑ましい話だよね。小さな頃からの一途な片思い、いや両想いかな? が、20年経っても実ったままだという話だなんて。
それで、結婚式は同じ教会を使って同じようにやりたいとシルバーが言い、それなら牧師の役は今度は私が請け負おうとシルバーのお父さんが言った。彼は孝行息子に同じ気持ちを返したかったみたいだね。
でも、そこでシルバーのお母さんが言ったんだ。「だけど、披露宴会場は教会の庭じゃ足りないわ。貴方たちは、街中の人たちに愛されているから。噴水広場を使って、盛大にやりましょう」と。
そこでボクはもちろん6月3日に噴水広場の利用許可を出し、歩行者天国を整えて。
教会から噴水広場までの道を、ウェディング仕様に飾ることを許した。もちろん、終わったらみんなで後片付けをする条件付きでね。
きっと、彼らの式もまた、良い式になるよ。シルバーたち本人には教えていないけれど、ボクら友人たちからのサプライズだって用意してる。
なんだか幸せをおすそ分けしてもらった気分で鼻歌を歌いそうになっていると、ある人に出会った。
「これは、マレウスさんじゃないですか。こんにちは」
「ああ、ローズハートか。今日は良い天気だな」
「ええ、とても。マレウスさんは、お散歩ですか?」
ボクが尋ねると、マレウスさんは首を振った。
「いや。何やら、不穏な気配を感じたのでな。出てきた。だが……どうやらもう、解決したらしい」
この街の探偵たちは優秀で助かるぞ、と彼は言った。
「不穏な気配? 確かに先ほど、間抜けなスリの犯人は捕まえましたが……」
「そうか、お前が捕らえたのか。ならば褒美を取らせねばならないな。……時に、ローズハートよ。お前は、この街の謎を解きたいのだったか?」
「え、ええ。それが本来、ボクがこの街に来た目的でしたから」
謎、あるんですかこの街に? そう尋ねると、マレウスさんは答えた。
「ふっ。本当に何も犯罪が起こらない、交通事故も犯罪率も常に0%、そんな街が当たり前に存在することに、疑問を持たなかったか? ……ついてくるといい、ローズハート。お前の知りたがった謎の答えが、そこにある」
迷ったけれど、ボクはマレウスさんに、ついていくことにした。
マレウスさんは、自分の屋敷にボクを連れて行った。さすが王族の親戚だけあって、豪華な屋敷だ。
「不思議に思わなかったか? 国がやりたい放題のこの街を好きにさせており、僕のような存在を常駐させていることを」
「……この街なら在り得るかな、と飲み込みかけていました」
「ふっ。それには、理由があるのだ。見ろこれを」
マレウスさんは、ボクにあるものの写真を見せた。それは……。
「石碑と、魔法陣、ですか? これは一体……?」
なんらかの呪術的な儀式なのですか、と尋ねると、マレウスさんは答えた。
「そうだ。この街が平和なのは、この魔法陣のお陰……と、されている」
実際に効果を立証したものはいないがな、とマレウスさんは言う。
「僕の家は代々、この魔法陣を守護する役目を仰せつかっている。この魔法陣の場所は誰にも秘密なので、お前にもこのように写真くらいしか見せられないが、このベイカー街の中のどこかには存在している。これは国にとっての、歴史あるお守りのようなものだ」
「どうして、ボクにそんな重大な秘密を?」
「ふっ。お前はそのうち、探偵ギルドはおろか、この街を取りまとめる存在となっていきそうだからな。街の秘密を知る権利があると思った。それに、だ」
マレウスさんは言う。
「この魔法陣が敷く結界の効果は、『街に悪しき影響を及ぼすもの、またそういった思想を弾く』とされている。だから、この街にいる者……結界が許したものについて知られるぶんについては、問題がないのだ」
「ですが、侵入者はいたようです。先ほどのスリのような」
「悪事を働いたらば、すぐに苦しみ始めたろう? 何故だかこの街では、悪事を働いた途端、そのような怪奇現象が起きやすくてな。犯罪者から恐れられているのだ」
「……なるほど。悪人がいても、山のような探偵がまずは捕まえ。そして、探偵が遅れても、結界の効果で悪人は成敗される、と」
なんだかオカルトじみた話ですが、分かりました、と頷く。するとマレウスさんは言った。
「ふっ。お前の追ってきた秘密が、怪談話じみていてがっかりしたか? だがな。僕はこうも思うのだ。……この結界石自体は、この街の平和を象徴するだけの、ただの飾りで。実際は平和を愛する手練れた街の者たちが、こっそりと悪人たちを成敗しているのではないか、とも」
どちらの説を好むかはお前次第だ、とマレウスさんは笑った。そうして、ボクに尋ねる。
「この秘密をどうするかは、お前に任せよう。街の秘密を手柄として持ち帰り、王都に返り咲いても良いのだぞ?」
ボクはそれに笑って答える。
「いいえ、マレウスさん。ボクはまだ、この街でやることがあるんです。まず、まだこの狂った街の景観をまともにしきれていないし。それに、来週には大事な友人たちの結婚式に出なくちゃならないんだ!」
「ふっ、そうか、そうか。奇遇だな、僕も来週には、大事な幼馴染の結婚式に出る用事がある」
それでは、そのときにでもまた会おう、と挨拶を交わし。ボクはマレウスさんと別れた。
ひょんなことから、あんなに知りたかったこのベイカー街の秘密を知ってしまったけれど。
今のボクにはそんなことよりも、シルバーとデュースの結婚式の準備を間に合わせる方がよほど大事だった。
それから、一週間後。無事、シルバーとデュースの結婚式は執り行われた。
彼らの両親がしたのと同じように、それぞれ教会の控え室で、ドレスに着替えて。
シルバーはマレウスさんが仕立てた銀糸と白のドレススーツを。デュースは紫と白の素材を使ったシフォン素材のドレスを。
それぞれめかしこんで、まだ配属されていない牧師の代わりに手配されたシルバーのお父さんの前に立った。
「シルバー・ヴァンルージュ、およびデュース・スペード両名、汝らもまた。病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しきときも。お互いに愛し合い、支え合い。永遠の愛を、誓いますか? ……私たちと、同じように」
そう言って父親から笑いかけられると、シルバーとデュースは顔を見合わせて笑い合い、それから、声を合わせて誓いますと答えた。
そのまま誓いのキスがされ、ボクたちは拍手と歓声で彼らを迎える。
『それでは皆さま、新郎新夫に引き続き、披露宴会場へとお進みください』
式の司会進行を買って出たジェイドがアナウンスするままに、ボクたち教会の中の参列組は急いで裏道から披露宴会場へと赴く。
シルバーとデュースは表の道から、噴水広場までの道を、かつて依頼を受けた人や、教会に入りきれなかった街の人々から、ライスシャワーや白い薔薇の花びらなんかとたくさんの祝福の声を浴びせかけられながら歩いてくるはずだ。
「さあキミたち、余興の用意は十分かい?」
「任せてよ! こないだとは違うプログラム組んでるからね~オレらも!」
「ふふ、サプライズの準備も十分さ! 任せてくれたまえ!」
怪盗ルークとエースの余興組にも準備をさせ、ボクは噴水広場でシルバーたちの到着を待つ。
やがて彼らが姿を現すと、盛大な拍手が彼らを迎えた。
「幸せになれよー!!」
「花嫁姿も可愛いな!!」
「ふっ! 今日のデュースは、世界でいちばん可愛いだろう!! 見てもいいぞ、減るどころか永遠に可愛くなっていくからな!」
「もう、シル兄……シルバーってば、言いすぎだ!」
シルバーは通常運転だけれど、まあいいか。今日は本当に、彼の隣で照れ笑いをしているデュースが、世界一可愛いしな。
嘘じゃないなら彼がああなるのも仕方ないよ。事実だもの!
世界で最も幸福な男は彼だね、と笑いながら、ボクは余興組に合図をする。
「それではここで、新郎新夫のおふたりに、ボクたち友人たちからのささやかな余興をプレゼントいたします!」
そうしてエースのマジックショーが始まり、場を盛り上げる。
続けて怪盗ルークのライブが始まり、盛り上がってきたところで。
なんと、有名タレントのヴィル・シェーンハイト本人が登場し、ふたりに祝いの言葉を述べる。
そしてエペルと共にコラボステージを行い、会場を盛り上げた。
「えっ、すごいすごい! なんで僕らの結婚式にあのヴィル・シェーンハイトが!?」
「驚いた。どうやって依頼したんだ?」
驚くシルバーとデュースに、エペルが説明する。
「ふふ、驚いた? 僕の大事な友達の結婚式があるんだって話をしたら、ヴィルさんが一緒に来てくれたんだ!」
サプライズ大成功だね、とエペルは笑う。ボクたち友人勢も、それに倣い彼らの前に並んだ。
「友人代表として、祝いの言葉を述べよう。今日はおめでとう、シルバー、デュース。シルバーの言う通り、君は本当に世界一可愛らしいよ。そしてシルバー。君はこの世で最も幸福な男だ。嘘や世辞でなく、そう思うよ」
「ありがとう、リドル! みんなも!!」
「ありがとう、みんなっ!! 僕絶対、幸せになるからな!!」
それからデュースが観客席にブーケを思いっきり放り投げて。エースが受け取り、えー、オレ相手いないんだけど! 誰か結婚する? ハイじゃあこれみんなに幸せのおすそ分けね、と。手品でブーケから1輪ずつ増やした薔薇を、みんなにふざけて配り歩いていた。まったく、彼ときたら。デュースと一緒になって仕込んでいたのかな?
そうして、いつまでも絶えることのない賑やかな歓声と拍手の中、シルバーとデュースの結婚式は終わった。
いつもはアルコールを入れないけれど、平和な街中だし、今日くらいいいかと思い、ほろ酔い気分で家に帰る。
そうしてひとりになって、ふと。母様のことを思い出した。
(……母様は、この街に入ってこられるのだろうか? ……街に悪い影響を出す、かは分からないけれど、苛烈な人ではあるからな……)
もし、母様がいつか、少し落ち着いてくれて。今のボクの姿を認めてくれて、この街にも入れるとしたら。そのときはボクも、どんなに良い街かを紹介したいな。
そんなことを思いながら。今は、一輪もらった薔薇の花束を、花瓶に飾るのだった。
*おしまい
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