脳筋探偵シルバーの事件簿:ファイル04「赤く染まる花嫁」

*脳筋探偵シルバー×助手デュースのパロディ作品です。
*前作『脳筋探偵シルバーの事件簿:ファイル03「ベイカー街連続案内事件」』までを読んでないと意味が分かりません。
*今回はギャグ薄めのシリアス回(!)で、一応の最終回(!!)です。まだいろいろネタ残ってるので番外編書く気はするけど。
*今さらですがこのシリーズ、シルバーがデュースを好きすぎてキャラ崩壊している気がします。大丈夫なのかこれは?
*他にもおかしなことになっているキャラがいるのでは????? 呼び名とか関係性が変わったりしています。
*いろんな設定が過剰に捏造されています。どこかでついていけなくなっても貴方の責任ではありません。
*相変わらず、何かを考えて読んではいけません。何も考えずに読んでください。考えたら負けです。なんでも許せる人向け。
 
 
以上大丈夫な方はスクロール↓
 
 
 
 
 
「結婚式を挙げたいんだ」
「なんだキミたち、まだ式も挙げていなかったの? ちょっと待ってくれよ、もう籍は入れたかい? まずは婚姻届をあげるから、ふたりでよく話し合いながら、それぞれ必要事項を記入して……」
 探偵ギルドに赴き、用事を告げると。まとめ人のリドルが当たり前のように俺たちの結婚を推し進めてこようとする。
 俺たちの結婚に前向きな上、手早いのはありがたいが、今は違う。訂正しなければ。
「違う。確かにデュースとは毎日結婚したいから365枚の婚姻届が欲しいが、今回俺が挙げたいのは、両親の結婚式だ」
「原本1枚あげるから、残り364枚は自分で印刷してよ。へえ、ご両親の結婚式かい。確か、海外に行かれているんじゃなかった? 帰ってくるのかい?」
「はい! 今度、海外へ恵まれない子どもたちの支援活動に行っていた、先生のお父さんとお母さんが帰ってこられるんです!!」
 それで、先生のご両親は先生を身ごもりながら駆け落ちしてたのもあって、ずっとバタバタしていて結婚式を挙げられないでいたから、シルバー先生の誕生日である5月15日に合わせて、おふたりに結婚式をプレゼントしたいんだって言ってます! とデュースが説明した。おおむねその通りだ、と俺は頷く。
「それは、いいことだね。……ボクも母様と、そんな関係を築けたならば良かったのだけれど」
「家族に、何かあるのか?」
「ローズハートさん、お家タイヘンなんですか?」
 しょげた顔をするデュースの頭を優しく撫で、リドルはほほ笑む。
「ひとり言だよ、気にしないで。ボクは見ての通り、今は自由にやれているし、この街で懐かしい人にも会えたからね。……それで、話を戻すけれど。キミたちのやりたいことは分かったよ。親御さんの結婚式の準備だね。で、探偵ギルドは何を手伝えばいいのかな?」
「話が早くて、助かる。実は……」
 そうして俺は、探偵ギルドのまとめ人としてリドルに手伝ってほしいことを説明した。
「なるほどね。結婚式をやるのは、企画も何もかも初めてのことだから、そういうのが得意な探偵を派遣してほしい、と」
「ああ。そうだ」
「ウェディングプランナーもいないのかこの街は、と思ったけど……探してみれば、そういうのも探偵の中にいるのはいるものだね。というか皆、探偵としての生活保障目当てで、別の職能を持った探偵として自分を登録してるのか。最近はこの街のお陰で、案外、探偵って定義が緩いものなのかなと思えてきたよ。ボクも、もっと常識ばかりにとらわれないよう、頭を柔らかくしていかないとね」
 柔軟な発想こそ名探偵には欠かせないものなのだから、とリドルが言うと、デュースは、それすごく探偵っぽいです! と目をキラキラと輝かせた。リドルはまんざらでもなさそうにほほ笑んでいる。
 ふっ。俺以外と話しているときのデュースも、また味が違って可愛い。他のやつに懐きすぎると問題だが、デュースの一番は俺だから問題ないな。
「そういうわけで、まずは結婚式場を建設したい。資金は、このためにコツコツ依頼料の1割を貯金してきたものがある」
「建てるところからやる気かい!? と言っても、キミの誕生日まではあと1か月程度しかないじゃないか。さすがに着工が間に合わないよ」
「そうか……」
 もっと早くから計画しておくべきだったか、と肩を落とすと、リドルが俺を励ました。
「そう気を落とさないで。実は、キミたちの事務所近くの横断商店街に、今は使われなくなった古い教会がある。1から建てるのは間に合わなくても、その教会を綺麗に掃除して、結婚式場に改築するくらいのことなら1か月程度でも出来るはずさ。幸い、それなりの広さの庭もあったとは思うし」
 キミたちがその広い庭と教会内部の掃除や改築の手伝いを頑張れれば、だけど。やれるかい? とリドルが言う。俺が答える前に、デュースが答えた。
「やれますっ!! お義父さんたちのためなら!! ですよね、シルバー先生!」
「……ああ。もちろん、その通りだ」
 俺はほほ笑んで、デュースの言葉に頷いた。
 
 それからリドルは、俺たちをひとりの青年の元へと連れて行ってくれた。
「確かこの事務所だね。ええと、確か……ジャック・ハウル。いるかい?」
「うす。なんすか、探偵ギルドの管理人が、俺に何の用だ?」
 ノックされたドアから出てきたのは、大柄な白髪の青年だ。
「単刀直入に尋ねるけれど、まずは改めて確認させてほしい。キミはパン屋でも探偵でもないね!?」
「なんでその2択しかねえんだよ! 見りゃ分かんだろ、俺はただの工務店員だ!!」
「そうだよね、やった!! 常識人だよふたりとも!!」
「リドル。常識人を探すあまり、お前が常識人から外れてきているぞ」
 そう指摘すると、リドルは少し照れくさそうにコホンと咳ばらいをした。
「すまない、少し取り乱したようだ。改めて工務店員のジャック、キミに依頼人だよ。こちら……ま、『真剣解決(マジでかいけつ)・ヴァンルージュ探偵事務所』のふたりだ」
 そう言ってリドルが俺たちを紹介する。
「人の事務所名を言い淀むな。失礼だぞ」
「ああハイハイ、悪かったよ。ジャック、こちらの銀髪が事務所長のシルバー・ヴァンルージュ。隣が助手のデュース・スペード。今回の依頼人たちだ」
「今紹介された通り、俺が今回の依頼者であるシルバーで、隣が可愛い担当の俺の嫁、デュースだ。よろしく頼む。」
「ああ、ハイ……今なんつった? いやいい、面倒そうだから掘り下げねえぞ俺は。で? ……探偵どもがウチに何の用だ」
 うちは何の変哲もねえ工務店だぞ、とジャックは言う。
「実はこの度、古い教会の改築・リフォームをしようと思っている。人手が足りないので、計画と工事を手伝ってほしい」
「教会? なんで探偵が教会を直すんだよ。犯人捕まえてくれって神頼みでもすんのか?」
「違う。これは、俺の私用だ。機会のなかった両親に、結婚式をプレゼントしたい。だがこの街にはまだ式場が少ない。だから、式場から作って差し上げたい」
 一通りの事情を説明し、どうだろうか、と尋ねる。俺の言葉を聞いて、ジャックはそういうことかよ、と頷いた。
「家族を大事にする奴は嫌いじゃねえ。その依頼、引き受けた!」
「本当か、ありがとう! 恩に着るぞ、土木探偵ジャック!!」
「俺は探偵じゃねえっつってんだろ!!」
「でもパン屋じゃないなら探偵になった方が住みやすいぞ、ジャック! 保障とかたくさんつくし、宣伝もしやすい!!」
「嘘だろこの街パン屋以外は全部探偵に割り振られんのか……?」
 そんなこんなで、俺たちは工務店のジャックの協力を得ることができたのだった。
 
 そうして俺たちは、さっそく教会の掃除・建設を始めることにした。
 様子を見に来たリドルと一緒にやってきたアズールが言う。
「そういうことでしたら、披露宴で出す料理は我らが『モストロ・ラウンジ』にぜひお任せを。素敵な海鮮料理でご両親の結婚式を彩りましょう。シルバーさんでしたら、友人価格で提供して差し上げますよ!」
「本当か、それはありがたい! 頼むぞアズール!!」
「ええ! 支払いは『探ペイ』を通してくださってもかまいませんよ! 意外とセキュリティ面も強固なのが分かりましたので、アレ」
「『電脳探偵』イデア・シュラウドが、日夜趣味でセキュリティを堅牢にしているらしいからね……」
 それから俺たちは教会の庭の藪を取り除いたり、花壇を整えながら、リドルたちと雑談を交わす。
「そういえば、ランドマークの建設はどうだ? うまく行ってるか?」
「難航しているよ。ランドマークはどんなものが良いかアンケートを取ったら、どのストリートにも『真のパン屋通りである』ことを主張するためのパンの銅像を立てたいやつが多くてね」
「では、通りごとにポーズ別のマレウス様の銅像を立ててみるのはどうだろう。デュースの可愛いシーン別でも構わない」
「ああうん、検討の上却下しておくね」
 そんなことを話していると、『パティスリー・クローバー』の店員が通りがかった。
「おっ、なんだ? 掃除中か?」
「あっ! ケーキ屋の店員さん!」
 デュースは眼鏡をかけた緑髪の店員に、懐いて駆け寄る。店員はよしよし、とデュースの頭を撫でて笑った。
「俺はトレイ・クローバーだよ。紹介が遅れて悪かったな。なにぶん、毎日忙しいもんで」
「やあ、トレイ。今度、街に2軒ほど新しくケーキ屋を誘致することにしたから、キミもそのうち休めると思うよ」
「おっ、そうなのか。それは助かる」
 そのふたりの話し方に、俺は違和感を覚える。
「知り合いか?」
「ああ、うん。実は、ボクが王都で探偵をやるきっかけになったのは、このトレイが原因なのさ」
 そうしてリドルは自分の家のことを語り始めた。
「ボクは小さい頃から、厳しいお母さまの元で育っていてね。でも、18になってハイスクールを卒業したとき、トレイが『お前はもう自由になっていいんだ』って、ボクの手を引いて王都へ連れ去ってね。ふふっ。今思えば、人さらいに近いよ、アレ。そして、ボクは探偵ギルドに預けられ、その後、王都でひとり暮らすことになり、ギルドで探偵としてのイロハを叩きこまれ、王立探偵になって、今このベイカー街へ流れ着いたってわけさ」
「そうだったのか」
「ローズハートさんにそんな事情があったなんて……」
「気にしないで。大変なことや葛藤もあったけど、今は、あの日連れ出してくれたトレイに、感謝しているんだ。……この街に来たばかりのときは、そりゃ少しショックも受けたけど。でも、こういう穏やかな平和さも嫌いじゃなかったんだって、改めて知ることができたんだからさ」
 キミたちがこの街の良さを案内してくれたお陰かもね、とリドルは笑う。トレイさんもそれなら良かったよ、と笑い。
 意外なふたりの繋がりに、俺たちは笑みを浮かべるのだった。
「あっそうだ! クローバーさん。結婚式のケーキって注文受け付けてますか?」
「ああ、もちろん。予約してくれれば可能だよ。……ケーキ、注文するのか?」
「ああ。5月15日に、ウェディングケーキを予約したい。頼めるか?」
「分かった。日付が分かってれば、そのための休業日を作ることもできる。5月15日だな、任せといてくれ」
 こうして、メインのケーキの準備も整ったのだった。
 
 そうして、数日作業を続けていると。また、誰かが訪れた。
「何してるの?」
『何してるのかな?』
「ねえねえ、あなたたち、何をしているの?」
「俺たちか? 教会を掃除している。結婚式場を作りたいんだ」
「結婚式! いいな、僕も見てみたいや! 『ORTHO』も見てみたいよね!?」
『うん! 僕も見てみたい!』
 そんなことを話す少年と、そっくりな少年が、ふたりで話すのを見かけて俺は驚く。
「君たちは、双子か?」
「そーだよ。『電脳探偵』イデア・シュラウドって知ってる? あの人の弟なんだ、僕たち!」
「ああ、あの『探ペイ』の開発者の。『電脳探偵』、イデア・シュラウドか」
『うん! こっちは人間のオルト。僕のふたりめの兄さん! で、僕はヒューマノイドの『ORTHO』。オルトがある日、僕にも弟が欲しいって言ったから、兄さん……イデア兄さんの方ね! 兄さんが『任せとけ!』って言って、僕を作ったんだ!』
 だから僕たちは双子なんだよ、とオルトたちは笑う。
「それ、双子じゃねえんじゃねえのか?」
 とジャックは言う。
「いいの! 僕たちが双子だって思ってるなら、それは双子なんだもん! 兄さんもふたりとも大事な弟だよって言ってくれるし!」
『うんうん! 自慢の兄さんだよね!』
 ねー、とオルトたちは頷き合う。俺は、彼らに尋ねた。
「結婚式を見てみたいなら、君たちも参列してもかまわないぞ。ただ、静かにできるな?」
「あっ、子ども扱いしてるね? 僕たちこう見えても、19歳なんだから!」
『そうだよ! 僕だって実質の製造年数は違うけれど、オルトと双子って設定上は19歳なんだから!』
「そうか、すまなかった。式の日取りは、5月15日になる。午後には披露宴会場で立食形式のパーティをする予定だから、そのとき混ざるといい」
「はーい! ありがとう!」
『人間の結婚式、楽しみにしてる!』
 そうしてオルトたちは去った。
 
 それから俺たちは、教会の窓ガラスを張り直したり、割れたステンドグラスを取り除き新しいものに替えたり、朽ちたベンチを買い直して床全体を掃除してワックスがけしたりと、教会を整えていった。
「ケーキはメインの『パティスリー・クローバー』に注文したが。飲み物もアズールのところで用意してくれるのか?」
「ハイ。と、言いたいところですが。実はデザートとドリンクの用意が滞っており……。この街で手配できないか、改めて探しているところです」
 進捗報告に来たアズールがそんなことを告げる。そのとき、教会の扉が開いた。
「それなら、僕に任せてくれないかな!?」
「お前は……誰だ!?」
 デュースの言葉に、可憐な姿の少年が答える。
「僕はエペル。エペル・フェルミエ。少し前までは、この街でアップルパイやりんごジュースを扱うお店をやっていたんだ。だから、そのときの設備やレシピが今も残っているから、それが使えるはずだよ。ジュースとりんごは、いくらでも故郷の村から安く買えるし!」
「本当ですか、エペルさん! それでは仕入れについて僕と詳しくお話しましょう!」
「うん! あ、でも……。今日はこの後忙しくて、難しいかも。僕から連絡するので、名刺、貰ってもいいですか?」
「ええ、こちら僕の名刺になります。僕は『モストロ・ラウンジ』のアズール・アーシェングロット。以後お見知りおきを」
「うん、ありがとう! どうせならどこかのレストランにレシピを売りたいと思ってたから、丁度良かった」
「なんでお前、りんごのお店をやめたんだ? この街でなら、売り上げがなくなるってことはないだろうに」
「それは……」
 デュースの疑問に、エペルがしょんぼりと肩を落とす。
「説明しよう!!」
 何故か教会の扉の向こうに、『昼下がりの怪盗』ルーク・ハントが立っていた。
「ここだけの話、私の素性を明かすと。私はあの『ヴィル・シェーンハイト』のマネージャーでね。彼の魅力を活動すべく、この街で密かに草の根活動をしていたというわけさ」
「何故、この街限定で……」
 リドルの疑問に、怪盗ルークは答える。
「それは、この街がヴィルを布教するに値する平和で美しい街だからさ! トレビアン!! お忍びで来ていたヴィルも褒めていたよ、街の店舗バランス以外はいい街ね、と!」
「褒めていませんね、それ」
「で、そのヴィル・シェーンハイトとエペルに何の関係があるんだ?」
「メルヴェイユ! 良い質問だ。実はね、このエペルくん。この間ヴィルがお忍びで来たときに、ぜひ当事務所の秘蔵っ子にと目をつけられたのさ! 既にアイドルとしてデビュー済みだから、君たちも良ければ彼のことを応援してくれたまえよ!」
「なるほど。スカウトによる転身、ということなのだな。ドラマのようなサクセスストーリーだ」
「僕は正直、りんご屋を続けていたかったけど、うう……。でも、これも、故郷の宣伝のためだから……! 僕はこのチャンスを掴むよ。絶対に芸能界で名を上げて、誰よりもビッグな男になって。故郷の村を、世界一のりんごの名産地にするんだ……!!」
「な、なんだかよく分からないが、お前にも目的があるんだな。頑張れよ、エペル……!!」
 そんなこんなで、式場に関しては。ドリンク・フード・デザートまでの用意が整ったのだった。
 ついでに怪盗ルークとアズールが、ウェディング・プランも考えてくれるという。
「モストロ・ラウンジの系列店にも、結婚式場併設のリストランテはございます。ノウハウは十分かと」
「乗りかかった船だ。ぜひ、私もお手伝いするよ。余興なら任せてくれたまえ!!」
 助かる、とお礼を言おうとすると。さらにもうひとり、協力者が増えた。
「ちょっと待ちな!! 余興なら、オレも呼んでよね! 今、オレ、手品師になるための練習中で、披露する場所探してるんだよ!」
「君は……ムシュー・トラッポラ!! ときどき噴水広場でお会いするね! 彼の手品は一級品だよ、シルバーくん!」
「エース! お前、手品師だったのか!」
「いや今はアパレル店員! でも、オレん家全員エンタメ系だから、じゃあオレも手品師になろっと思ってたまに噴水広場で修行中!」
「そうなのか、ではぜひエースにも協力してもらおう! みんな……ありがとう! 来たる5月15日、最高の式にしてみせよう!!」
 そうして頼もしく愉快な仲間たちの協力の元。俺は、帰って来る両親に、最高の手作り結婚式を送ることになったのだった。
 
 ――そして、5月14日。両親たちが帰ってきたのを見計らい、いったん事務所にデュースを置き、実家に戻った俺は話を切り出す。
「父さん、母さん。長旅お疲れ様でした。明日、時間はあるでしょうか」
「ええ、もちろん。明日は大事なお前の誕生日だから、こうして帰ってきたのですから」
 父さんも、母さんの言葉に合わせて頷く。
「ありがとうございます。それでは、明日一日。俺に、ふたりの時間を頂きたい」
 こうして俺は、無事、両親を式場へと連れていく算段をつけたのだった。
 だが、その後。大変なことに気づいた。父さんと母さんの衣装、ウェディングドレスについて、用意するのを忘れていたのだ。
 
「しまった、今からでも間に合う縫製店は……! ええと、誰に相談すれば……!!」
 と、慌てていると。後ろから、声をかけられた。
「ふっ。やはり忘れていたか。抜けた次男め」
「マレウス様!」
「あやつらのドレスとタキシードじゃろ? わしらが用意しておいてやったぞ!」
「安心しろ、僕らも探偵のはしくれ! サイズは目視でバッチリだ!!」
 そう言って、彼らはきれいな箱に入った両親のウェディング衣装を俺に手渡す。
「ありがとう、みんな……! だけど、どうして……」
 俺が尋ねると。マレウス様の背後から、ひょこりとデュースが姿を現した。
「へへっ。先生、すっかりドレスのこと、忘れてたみたいだから。みんなでサプライズしちゃいましたっ!」
 いつも服のこと考えないから忘れちゃうんですよ、とデュースは言う。
 俺は、そうか、と。頼りになる助手の存在に、心を暖めた。
「これで、用意はすべて整った! ありがとう、みんな!!」
「良い。僕たちも明日の式には参列する。お前もうちの4兄弟のシルバー担当として、胸を張って来るのだぞ」
「ええ。可愛い担当のデュースと可愛い担当のセベク、そして威厳担当のマレウス様、シルバー担当の俺、ですよね。存じております! みんな、明日は頑張ろうな!!」
「「「はい!/ああ!/うむ!」」」
「くふふ、明日が楽しみじゃのう!!」
 こうして、ようやく。すべての準備が整い。両親の結婚式は、開催される運びとなった。
 
 翌朝。デュースにめかしこまされた俺は、両親の元へ赴く。
「シルバー? その恰好は……」
「……父さん、母さん。ふたりとも、何も言わずに、俺の案内する通り、着いてきてください!」
 そうして俺は、ふたりを式場となる教会まで連れていく。
「これは……!」
 教会の様子を見て驚くふたりに、俺は言う。
「さあ、父さん、母さん。まずはお召し替えを!」
 その言葉を聞いた瞬間、親父殿が父さんを控室に引き込む。
 反対側では、リドルの手配した女性探偵が母さんを控室に案内していた。
「さあ、何も言わずに着替えるんじゃ!」
「……わ、分かった! とにかく、これに着替えればいいんだな!?」
「おい、慌てんでいいからゆったり着替えんか!! 破れたら格好がつかんぞ!!」
 父さんはどうやら、親父殿の勢いに流されているようだ。しばらくして、タキシードに着替えた父さんが控室から顔を出す。
「さあ、父さん。貴方はバージンロードの先で、待っていてください。母さんを連れて行きますから」
「シルバー、これは……。いや、そうだな。分かった。まずは、己の役割を果たそう」
 そう言って、父さんは拍手の中、バージンロードを歩き、花嫁を待つ。
 俺は、花嫁の控室をノックし、合図をする。
 するとウェディングドレスに着飾った母さんが出てきて、俺の顔をまじまじと見つめる。
「シルバー、お前という子は……」
「文句ならあとで聞きます。今は、どうぞ。手を」
 そうして、俺は母さんと腕を組み。ページボーイとして母さんのベールを持つ双子のオルトと共にバージンロードを歩いて、父さんに母さんを受け渡す。オルトたちは役目を終えたと、丁寧にベールを整えると、はにかみあってベンチへと戻っていった。
 それから、残った俺はそのまま、空席だった牧師の位置に着いた。
「それでは、長らくお待たせしましたが、皆さま。ここで、新郎新婦より、誓いの言葉を。父さん、母さん。貴方がた両名に問います。ふたりは、病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しきときも。お互いに愛し合い、支え合い。永遠の愛を――もうずっと前から、誓っています、よね?」
 そうして俺がほほ笑みを向けると、くすりと笑って、母さんは答えた。
「ええ、もちろん。誓っています」
「……同じく。誓っています」
「ありがとうございます! それではふたり、誓いのキスを!」
 俺が促すと、ふたりは少し照れくさそうにして。そして、父さんは母さんの被っていたベールを上げ、ひとつキスを落とした。
「良いぞ! ふたりとも!!」
「お義父さん、お義母さん、素敵です!!」
 親父殿やデュースからの賑やかに囃し立てる声が飛ぶ中、会場中が暖かな拍手に包まれて、俺は「ふたりで腕を組んで、外に出てみてください」と促す。バージンロードを歩き、外に出たふたりは、教会の庭にまた賑やかなガーデンパーティが用意されている光景に、目を丸くした。
 俺はふたりの背後についていき、「さ、披露宴はここからですよ! みんなに顔を見せてやってください」と背中を優しく押す。
 そうしてふたりは、俺に促されて庭へ出ると。まわりの景色を見渡して、そうして、俺に向き直って言った。
「シルバー。これは、お前の友だちと一緒に作り上げたのか?」
「ええ、そうです。この街で知り合ったみんなが、手伝ってくれました」
 すると両親は、顔を見合わせて笑った。
「……お前の誕生日、何か欲しいものはないか、淋しく過ごしてはいないか、と。そう思って、戻ってきたのだが。心配、いらなかったようだな。むしろ……」
 父さんは、涙ぐんだ目を指先で拭う。母さんも自分の目をハンカチで拭ったあと、父さんの目を改めて共に拭っていた。
「……こんなにも立派に育った、親思いの息子を持てて、私たちは、本当に嬉しい。シルバー、お前がこの世に生まれてきてくれて……、この街に来て、お前に出会えて、本当に良かったと思う」
「私からもお礼を言わせてちょうだい、シルバー。この街には、逃げるように来たけれど……貴方をここで生んで、そして貴方がここで元気に育ってくれて、本当に良かったと思います」
 そしてふたりは、声と姿勢を合わせて、俺に礼をする。
「「ありがとう、シルバー」」
 俺は、少しだけ涙がこぼれそうになって。デュースが、母さんが父さんにしたのと同じように、俺の涙をハンカチで拭ってくれて。
「……さあ、披露宴はここからが本番です! あとはみんなで楽しみましょう、父さん、母さん!」
 そうして、皆で『モストロ・ラウンジ』からのケータリングと、エペルの店のレシピを使ったアップルパイ、りんごジュースでの乾杯を楽しみ。エースの手品と怪盗ルークのライブという余興で盛り上がり、『パティスリー・クローバー』製のケーキにも入刀したりして。リドルたちも式に関わったからと友人として参列してくれて、サプライズでの結婚式は大成功となり、夢のような時間を過ごしたのだった。
 
 
 
「ん……」
「起きてください、シルバー先生」
 デュースの優しい声と手つきが、俺を揺り起こす。……ここは、探偵事務所か。あのあと、俺は父さんや親父殿と久々に酒を酌み交わしたあと、事務所に戻ったのだったな。
「……少し、飲みすぎたか」
「今お水持ってきますねっ」
 そうして。デュースは俺にグラスに入れた水を差し出したあと、何か花のようなものを花瓶に活けだした。
「デュース、それは?」
「お義母さんから頂いた、ブーケです! 『次は貴方の番ね』って笑ってました!」
「そうか、母さんから……」
 俺は、そんなデュースの元へ赴き、その手を取り、手の甲にちゅ、とくちづける。
「……デュース。今日は、俺の父さんと母さんの、改めての結婚式の日だったが。いつか俺とも、あんな風に、同じ教会を歩いて欲しい」
 いいよな、と確認を取ると。デュースは少しだけ頬を染め、笑う。
「はいっ、先生! ……ううん、シルバー! 僕のことちゃんと、幸せにしてくれよな!」
「ああ、喜んで!」
 そうして、俺はデュースを抱きしめ、キスをする。
 俺たちはこれからも、この何も起こらない平和なベイカー街で、日々、幸せな暮らしを続けていくのだろう。
「明日も楽しい一日だといいですね、先生!」
「ああ、そうだな。……こうして、お前と……お前たちと、なんでもない、愉快で楽しい一日を過ごし続けることができれば。それが、俺の一番の望みだ」
 こうして今日も、何も事件の起こらない、平和なベイカー街の夜は更け往くのであった。
 
*おしまい

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