ハピネスバースデー

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*シルデュ付き合ってる設定

 

 

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「デュース、俺はかまわないが……。本当にこれが誕生日祝いでいいのか?」
 6月3日、今日は僕の誕生日。晴れた運動場の空の下、運動着を着て向かい合う僕に、シルバー先輩は不思議そうに何度も聞いた。それでも、僕は今日この日にシルバー先輩からもらうなら、これが良かった。
「はいっ! ……今日は一日、よろしくお願いしますっ!」
「そうか。では……手加減はしない。行くぞ!!」
 それから僕たちは、魔法を使った実戦形式の練習を始めた。傍では、限定的な魔法利用の監督許可を出したローズハート寮長が見守ってくれている。何を隠そう、今日は一日、僕はシルバー先輩からいろんなことを教えてもらうことになってる。それで、最初に教えてもらうのが魔法を使った戦闘のやり方って感じだ。
 僕たちは自由に動き、魔法や周囲のものを使って氷や炎をぶつけたり防御をしたり受け身を取ったりと喧嘩のような動きをして戦うが、だいたいは本当に当たる前に寸止めされ(あるいは、間に合わないときは審判役のローズハート寮長が止めてくれて)、この動きは良くない、この動きは良いと指示してもらう。
 いわゆる、魔法を使った指導試合って感じだ。模擬戦って言ってもいい、のか?
 とはいえ、ずっとこれをやってるってわけじゃない。ローズハート寮長も忙しい人だ。僕たちにずっと付き合っていられるわけじゃないし、僕たち自身もこればかりやってるわけにもいかない。なんたって、今日の予定は山積みなんだからな!
 そんなわけで、2、3試合やったあと、そこまでの合図をローズハート寮長に出され、僕たちはそこで練習を終わりにする。
「3戦3敗か……。やっぱり強いですね、シルバー先輩!」
「お前の動きも、悪くはなかった」
「ははっ、憧れるなあ!」
 僕たちはそれぞれタオルで汗を拭い、傍に置いておいたスポーツドリンクを飲む。するとローズハート寮長に声をかけられた。
「それじゃあ、約束の時間だからボクはそろそろ行くよ、二人とも」
「ハイ! 審判と立ち合い付き合ってくれてありがとうございました、ローズハート寮長!」
「寮生が魔法の利用をする際に監督をするのも、寮長の務めだからね。ボクは決まりに則って仕事をしただけだよ。マレウス先輩の許可も得られているしね」
「助かった、リドル」
「かまわないよ。でも、ボクが立ち去ったらその後は魔法を使った私闘扱いになるから、くれぐれも勝手に続けないように!」
 僕とシルバー先輩は口々に分かりました、分かったと返事をして、去っていくローズハート寮長を見送る。いつもなら忙しいと言って断られるようなことだけど、ローズハート寮長も誕生日だから特別にって思ってくれたのかもしれないなと、なんとなく嬉しくなる。
「よし。じゃあ、魔法の実践訓練はここで終わりにして……次、行っていいですか?」
「ああ。次は……」
「箒を使った、飛行術の特訓ですっ!!」
 そうして今度は、箒を使って学園裏の森から運動場のあたりを、障害物を避けながらシルバー先輩に着いていくようにして飛び回る。僕がバランスを崩して遅れると、少し先で待っていてくれるシルバー先輩の横に並んで尋ねる。
「すごいな、高くて早い。どうやったらそんな風に飛べるんですか?」
「簡単だ。基礎を大事にすればいい。飛行術の授業中も、できるだけ綺麗なフォームの奴を参考にして姿勢や速度を改善している。お前ならリドルやエペルの飛び方をじっくり見てみるのがいいんじゃないか」
「なるほど、ダチや先輩を参考に、ですね! 今度やってみます!」
「ああ」
 それからまた、シルバー先輩の気付いた点を指摘してもらい、いろんなコースをぐるぐると飛び回って、地面に降りた。
「ふー、やっぱり体動かすのって気持ちいいな!」
「そうだな。清々しい気持ちだ。だが、だいぶ汗をかいてしまったな」
 僕はそれならと次の提案をした。
「じゃ、いったんシャワー浴びてお昼食べて、午後の特訓にうつりましょう!!」
 シルバー先輩はこれを快諾してくれ、それぞれシャワーを浴びると、食堂へと移動した。
「たくさん動いたからお腹すいたな! 今日のバイキングは……。やった! オムライスがある!」
「良かったな」
 喜びのままにバイキングからオムライスをもらっていると、シェフゴーストに声をかけられた。
「ああ、デュースくん。持っていく前に、ちょっと待ってくれよ。……そら!」
「わ! これって……」
「バースデーのサービスだよ。ちょっとしたものだけどね」
「ありがとうございますっ! 嬉しいです!」
 シェフゴーストは、僕の取ったオムライスにつまようじと紙でできた旗を刺してくれていた。……小さい頃は好きだったな、こういうの。懐かしい。ってか、覚えててくれてたのが嬉しいよな。それから、ひとくちサイズのケーキも、みんなには内緒だよと言ってトレイに乗せてくれた。こういう些細なサプライズって、嬉しいよな!
 シルバー先輩の元へ戻ると、目敏い先輩もすぐにその旗の存在に気付いてくれた。
「ん? 白い旗が刺さっているな」
「はい! 誕生日だから特別って、シェフゴーストがつけてくれました!」
「そうか。おめでとう」
「ありがとうございます!」
 僕は喜んでオムライスを完食する。食べ終えたあと、その旗どうするんだ、と聞かれたので、捨てるのも忍びないし、せっかくなので持って帰りますと答えたら、先輩は洗浄魔法で旗を綺麗にしてくれた。

 その後、僕たちは図書館へ移動した。誕生日だからって、全部のやりこなさなかった課題がチャラになるわけじゃない。今日までに終わってない課題、予習、復習を順番にこなしていく。
 シルバー先輩も、傍で僕の様子を見ながら、間違っているときはここ違うぞ、と指摘してくれていた。
「……あの、先輩」
「なんだ?」
「今さらですけど、本当に一日もらっちゃって良かったんですか? 先輩も忙しかったんじゃ……」
「大丈夫だ。今日一日、時間をもらう許可は得てきている。それに、俺がやりたくてやっていることだ」
 それに普段もっとわがままを聞いたり、時間を取ってやれない分も、今日くらいは相手してやりたいと思っている、と先輩は答えた。
「……へへっ。じゃあ、遠慮なく、今日は先輩に胸を借りちまいますね!」
「ああ。そうするといい」
 それから僕たちは全部の課題をやりこなした頃、図書館での勉強を終えて、シルバー先輩の部屋へと移動する。途中で眠ってしまったシルバー先輩を起こしてたりしたのなんかもあって(寝顔はいつも通り綺麗だった)、思ったよりも課題を終わらせるのに時間がかかってしまったから、あっという間にもう夕方だ。
「運動もした、勉強もした! あとは、えーっと……」
「ふっ、そう焦るな。まだ時間はある」
 シルバー先輩に頭をぽんと撫でられ、僕はとりあえず深呼吸して落ち着く。特訓や勉強をしている間は良かった。僕がやらなきゃいけないこと、やるべきことが決まってて、決めるのは簡単だった。……こなすのは簡単じゃなかったが。
 だけど、シルバー先輩は言ったんだ。僕が誕生日に、一日特訓を付けてほしいです、って言うと、分かった、だが特訓だけじゃなくて、褒美の時間もつけさせてくれ、って。お前はきっとその日一日頑張るだろうから、ちょっとくらいご褒美があっても罰は当たらない、って。
 だから、今はご褒美を決める時間、なんだが……。
「何がしたいか、決まったか?」
「えっと……」
 僕はご褒美のことを、すっかり忘れていた。目の前のことばっかりに夢中になって、後のことは忘れてしまっていた。だから、今、ご褒美は何がいい、と言われても、ぱっと思い付かない。時間だけが過ぎていく状況を、勿体ないと思うのに。
「……決まるまで時間がかかりそうだな」
「わっ」
 シルバー先輩に腕を引かれ、抱きしめられる。半ば床に倒れるようにもつれ込んだシルバー先輩は、ベッド脇に背中を預けて、僕の身体を支えた。
「お前が褒美を決めるまでは、こうしていよう」
「せ、先輩……」
 シルバー先輩は額や頬にキスをしながら、僕を抱きしめたままでいる。こんなのもう十分ご褒美だ、なんて思うのは、僕がシルバー先輩の恰好良さに参ってしまっているからなんだろうか。
 ……もっとしてほしいな……。シルバー先輩から与えられる、愛情にあふれた優しいくちづけに、僕は嬉しくなって、もっとという欲が出てくる。い、いやいや、別にガッツリエロいことしたいとか、そればっかり考えてるってワケじゃないんだけどな!? もっとこう、なんていうか、もうちょっと深くイチャイチャしたいっていうか……。いつも忙しいシルバー先輩がせっかく時間取ってくれたんだから、ちょっと贅沢に使ってみたいって気もしてて。
 でもそれだけじゃやっぱり勿体ないかな、なんて迷う気持ちも、ガッツリヤっちまうと終わるのもすぐに感じちまうかもな、なんてのもあって。
 どうしようと悩んでいると、シルバー先輩が頬を撫でてくれた。
「どうした? 何か、望みがあるのなら言ってみるといい。俺にできることなら、叶えてやる」
 今日はそのための日だ、とシルバー先輩は言う。僕は散々迷って、結局素直に言うことにした。シルバー先輩相手には、正直なのが一番だ。
「え、えっと。その、イチャイチャするなら、こう、もうちょっとだけ、深く、っていうか……。や、ガチガチのエロいことしたいワケじゃないんですけど! いやしてもいいんですけど、なんていうか、その……っ、すぐ終わっちまうのは勿体ないなって……!!」
「なるほど、分かった」
 しどろもどろになった僕の要領を得ない説明でシルバー先輩は何が分かったのか、僕を持ち上げてベッドへと押し倒す。
「もう少し深く、だな」
 そうして、シルバー先輩は魔法で僕とシルバー先輩のジャケットとベスト、ネクタイと手袋を脱がせ、それからシャツとズボンだけになった僕をひっくり返すと背中にまたがり、何を思ったのか身体を揉み始めた。
「せ、先輩?」
「じっとしていろ。痛かったら言え」
 シルバー先輩の手が、服の上から僕の肩や背中を揉んだり撫でたりと擦っていく。それはまるで……。
「……マッサージ?」
「ああ、そうだ。だが、ただのマッサージではない」
 そう言ってシルバー先輩は僕のうなじに唇を寄せた。その後、背中の服の中に手を入れ、直接肌を撫でられる。でも、あまり僕のやらしい気持ちを煽るような手付きではなかった。ただ、輪郭を確かめたり、筋肉をほぐすような、そんな動きだ。……この人、相変わらずこういう調整がうまいな……。手加減がうまい、って言った方がいいのか?
 僕はまた表にひっくり返され、唇にキスをされる。腹の方や腕なんかも同じようにマッサージされて、首筋にもキスをされて、とろけそうになる。
「シルバー、せんぱい」
「ふっ、なんだ?」
「だめです、これ。……すごい気持ち良くて、眠くなっちまう……」
「眠ってもいい。そのときは、腕に抱いておいてやる」
「いやだ……。ちゃんと起きて、先輩と、まだこうしてたいです」
 だから、と先輩の脇腹をくすぐると、先輩はちょっとだけ身をよじって、やったな、と僕にやり返してきた。
「ふっ、ははっ、くすぐったいです……っ!」
「お前が先に始めたんだろう」
 シルバー先輩の声が楽し気に響く。僕はそんな先輩に、手を伸ばして抱きしめた。すると先輩はくすぐる手を止めて、抱き返してくれる。
「……せんぱい」
「本当は、お前と共に寝転がったまま戯れてでもやれれば良かったんだが。……俺の身体は、すぐに眠ってしまうから」
「そのときは、ちゃんと起こしますよ」
「そうか? なら……」
 シルバー先輩は僕を抱きしめたまま、僕の横に寝転がる。足と足、腕と腕が絡み合って、ただ抱きしめあっているだけなのに、心の底からドキドキする。
 先輩は予想通り眠ってしまったので、ちょっと悪戯心が湧いて、前髪や目元を指で撫でて、唇をはむはむと食んでから先輩、起きてと声をかけると、目を開けたシルバー先輩から、ずいぶん可愛い起こし方だなと笑われてしまった。
「あの、シルバー先輩」
「……ん、なんだ?」
 まだ少し眠たげなシルバー先輩にねだる。
「キス、してください。耳と、口」
「ああ」
「ん……」
 シルバー先輩は僕のねだった通り、耳元と口にちゅ、ちゅとキスを落としてくれる。
「指も、撫でて」
「……」
 先輩の指先が、僕の指先をなぞるようにからめられる。僕は思わず、目の前にある先輩の首筋に顔を埋めた。
「っはあ……。ドキドキする……」
 そうしたら、シルバー先輩から強くぎゅっと抱きしめられた。
「あまり、可愛いねだりばかりするな。我慢できなくなる」
「先輩がしたいなら、僕は……」
「今日は、お前の気持ちが優先だ」
 それでなくとも俺はいつも受け入れてもらってるのだから、とシルバー先輩は固辞する。僕はどうしようかと迷って、最終的に決めた。
「……なら、僕の方が我慢できなくなるくらい、たくさん、か、可愛がってくれませんか……?」
 ご褒美はそれがいいです、と言うと、シルバー先輩はふっと笑って身体を起こした。
「仕方のないやつだ」
 そう言いながらも、シルバー先輩はこの身がお前の褒美になるのならば喜んで差し出そう、と嬉しそうに僕の頬へ手を伸ばす。
 それからぷちぷちとシャツのボタンを外されて、たくさん素肌を触れ合わせてキスをもらいながら、僕はシルバー先輩に一通り愛してもらった。

 ――翌朝。目の前に転がるシルバー先輩の寝顔と、自分の肌についた痕を見比べて、嬉しくて、そして恥ずかしくなる。昨日は先輩に甘えまくっちまったからな……。先輩は可愛いって言ってくれたけど、僕にはやっぱり似合わなかったかもしれない。
 なんて思っていると、寝惚けたままのシルバー先輩が隣にいる僕を探してる風に腕を動かすので、その中に収まる。そうすると、僕の髪に顔を埋め、耳を甘噛みしながら先輩はこう言った。
「デュース……、俺の、可愛い……、誕生日、おめでとう……」
 それを聞いて、思わず僕は笑ってしまう。その言葉は、昨日の夜にもたくさん聞かせてもらったことだったからだ。『誕生日おめでとう、デュース、こうして俺がお前の特別な日をひとり占めして祝えてしまうことを、それを望まれていることを、つい嬉しいと思ってしまう』なんて、恰好つけて言ってくれていたけど。夢の中でまでお祝いしてくれるほど大事に思ってくれていたんだなと、改めて、嬉しいなんて言葉じゃ足りないくらい嬉しく思う。
 ……さあ、たくさん甘えさせてもらったぶん、今日からまた一年間、頑張らなきゃな。気合いを入れて、名残惜しい腕の中からそっと抜け出し、太陽が差す窓辺へ向かって風を感じた。そして、振り向く。
「シルバー先輩、おはようございます! 昨日はありがとうございました、今年もよろしくお願いしますっ!!」
 まだ寝ぼけ眼のシルバー先輩に、そんな挨拶をして。次に迎える誕生日も僕はこの人から同じように想っていてもらえるよう、頑張ろうと決意を新たにするのだった。

*おしまい

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