※twstクリスマスイベ2025『Lost in the book with Tim Burton’s The Nightmare Before Christmas~初めてのクリスマス~』(通称悪夢イベ)の内容およびネタバレを含みます。
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それは、白い粉雪の降る聖なる夜のこと。
クリスマスタウンのヤドリギの下で、僕はシルバー先輩とキスをした。
柔らかな唇の感触が離れて、僕はシルバー先輩に身体を預けながら、尋ねる。
「先輩、どうして、今なんですか?」
「……」
先輩は、何も答えない。
「僕たち、元の世界に……。ツイステッドワンダーランドに戻ったら、忘れちまうんですよ。全部」
「そう、だな」
シルバー先輩は、悲しそうに目を伏せた。そして、僕の身体を、ぐいと腕で引いて、抱き込んだ。
「それでも、今、伝えるべきだと思った。お前は、すぐに忘れてしまうから」
「何を……?」
「お前のことを、想っている人があることを。お前の無事を、いつも願っている存在がいることを」
今回のことだって、そんな場面がいくつもあった、ひとりで無茶をして、とシルバー先輩は言う。
その手が、なんだか、震えている気がした。これはきっと、寒さから、じゃないな。
「約束する。元の世界に戻って、すべてを忘れてしまっても……。それでも。また、お前に――この想いを告げる、と」
「はい、僕も、きっと……。競争ですね、どっちが先に、伝えられるか」
「ふっ、そうだな。負けないぞ」
それから僕たちは、何事もなかったかのような顔をして、みんなと合流した。
少しだけ首に赤みを残していたのは、きっと僕だけじゃないと信じながら。
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監督生のひょんな思い付きで、クリスマスって祭日のパーティをすることになった。
各寮からいろんな人を招待して、オンボロ寮で開催されることになったパーティだ。
カラフルに飾り付けされた暖かい暖炉のある部屋で、みんながご馳走を食べながら、談笑している。
とても、楽しい時間だ。
そのはずなのに。僕の胸は、まだ何かが足りないって感じているような気がしていた。
ちら、と会場の端を見る。するとそこには、グラスを持ったシルバー先輩が立っている。
2年生の先輩たちと、何かを楽し気に喋っている。僕も、グラスを持っているけど、その光景を見ているとなんだか気になって、つまらないとでも言うようにグラスをくるくる回して、シャンメリーを傾けた。
皆は楽しそうだ。僕だけが、こんな気持ちでいたらいけないな。少し外の空気を吸ってこようと思って、ひとりで会場の外に出た。
オンボロ寮の外は、雪景色だ。外の冷たい空気が、僕の頭を冷やしてくれる。
どうして、シルバー先輩が、他の人と話しているのを見ると、どうしようもなく淋しくなったんだろう。
僕のことなんて、忘れちまったんじゃないかって気分になった。意味が分からないよな。
別に僕は、シルバー先輩に忘れられたからって、文句を言えるような関係じゃない。……少なくとも、今は。
なんて、強がってみてるけど、空から降る水の塊を見ていると、それもなんだか虚しい気がした。
――僕は、シルバー先輩が好きなんだ。
皆で集まった図書室で、クリスマスパーティの計画を練る前から、ずっと。
だから、僕のことなんてどうだって良さそうに、楽しくパーティに参加しているシルバー先輩の姿が気になってしまったんだ。
……だからって、いつまでもここにはいられないよな。監督生やグリムに、心配をかけてしまう。
もう戻らないと、と思ってはあ、と白い息を吐くと、後ろから、声をかけられた。
「デュース? ここにいたのか」
「シルバー、先輩?」
どうして、ここにいるんだろう。
「お前が、会場を抜けていくのが見えたから……つい、追いかけてきてしまった。気分でも悪かったのか?」
「別に、そんなんじゃないですよ。ちょっと外の空気吸いたかっただけで……」
「そうか」
シルバー先輩は、僕に歩み寄ってきて、ぽんと頭を撫でる。
「……また、ひとりで危ないところに行っているのではないのなら、良かった」
「また……?」
「……ん? ああ、すまない。何故か、以前にもこうして、お前がひとりでいなくなったことがあるような気がして……」
最近こんなことが多いな、しっかりしなくては、とシルバー先輩は頭を振った。
「僕も、です。なんだか、このパーティをみんなで考えたとき辺りから、何か……違和感がある、ような気がして」
「そうか、お前も……」
空から降る雪を、僕たちは二人で見つめる。
「……もしかしたら、俺たちが忘れているだけで、前にもこうしていたのかもしれないな」
「シルバー先輩と、ですか?」
「ああ。お前と二人で、空の雪を眺めて……。そんな、朧気な夢を見たような、曖昧な記憶が、どこかにあるような気がするんだ」
不思議な話だが、とシルバー先輩は言った。だけど、僕はそれを否定する気にはなれなかった。
「そういうことも、あるかもしれないですね」
「ああ。……そうだといい」
さ、身体が冷えてしまうぞ、そろそろ会場へ戻ろうとシルバー先輩が言った。
だけど、僕はまだ、何かが。何かが足りないような気がして。……そっと、自分の唇に指を触れさせた。
「なんで、だろう。ずっと、先輩のこと見てると……。何かが、足りない気がするんです」
「その、何か、とは……なんのことだ?」
「……分かんねえ。でも、何かが、ずっと……。僕と、シルバー先輩の間に足りてない、って、思って……」
するとシルバー先輩は、僕の手を引いて、頭を撫でて、耳元でささやいた。
「デュース。今夜、寮を抜け出してこれるか? 二人きりで、会いたい」
「……わ、かりました……」
「秘密だぞ」
では俺は先に戻っている、と言って、シルバー先輩はパーティ会場へと戻っていく。
残された僕は。シルバー先輩と僕の間に足りないものって、なんなのかなって、ずっと、ずっと考えていた。
夜。まだ、雪がちらついている。
寒いけど、上着を一枚羽織って、少しだけだからと見張りのクローバー先輩に見逃してもらって、こっそり寮を抜け出す。
鏡舎を抜け出して、メインストリートに出ると、そこでシルバー先輩に出会った。
「シルバー先輩」
「良かった。無事、会えたな」
見つかりにくい場所に行こう、とシルバー先輩は、メインストリートから少し外れた場所へと移動した。
「どうして、僕を呼んでくれたんですか?」
「お前は、俺との間に、何かが足りていないと言ったな」
「はい」
僕が頷くと、シルバー先輩も白い息を吐いた。
「俺も、同じだ。お前との間に、必要な何かが、足りていないと感じていた」
「先輩も……?」
「ああ。きっと、お前と俺の間には何かがあって、それを、何かの理由で、俺たちは、忘れてしまっているのだと思う」
「そんなこと、あるのかな」
「……あればいいと、俺は、思っている。俺は……」
そのとき、一陣の風が、ごう、と吹いた。真っ白な雪の中に、見覚えのないゴーストが混ざっていた気がした。
だけど僕はなぜか、そのゴーストを知っているような気がした。
「今……」
「どうした?」
シルバー先輩は、気づかなかったみたいだ。
「……いえ。でも、なんとなく……。僕も、あるのかなって思いました。そういう、ことも」
「そうか。良かった」
それで、俺たちの間に足りていないものとは、なんなのだろうか、とシルバー先輩が考えを巡らせる。
僕は、その答えを知っている気がした。でも、その答えには、まだ何かが足りていないと感じた。
うっすらとした曖昧な記憶に、ひとつのシルエットが浮かんだ。それは。
「ヤドリギ……?」
「ヤドリギ……が、どうかしたのか?」
「なんか、わかんないけど。そこに行かなきゃいけない気がするんです」
「分かった。ヤドリギならば、ここからそう遠くない場所に生えている。案内しよう」
そうして、僕はシルバー先輩に連れられるまま、ヤドリギの生える場所に連れていかれた。
「どうだ、何か分かったか?」
「……」
僕はヤドリギをじっと見る。なんだか、とても心が暖かくなるような感じがした。
必要なものが揃ったと、そう感じた。
「先輩、こっちに来てください」
「ああ」
雪の降るヤドリギの下、シルバー先輩の目がじっと僕のことを見つめている。
僕もそれをじっと見つめ返すと、シルバー先輩の手が、僕に伸びてきた。
先輩の手が、僕の頬に添えられる。僕が目を閉じると、シルバー先輩の吐息がかかり、唇が重なる感触がした。
――夢のような時間だと、そう思った。
この瞬間が、ずっとずっと長く続いてくれればいいのにと、そう思った。
でも、どんな時間にも、終わりは訪れる。
ちゅ、と音を立てて、唇は離された。
「……」
「す、すまない。何故か、こうするのが自然だと思った」
「謝らないでください。僕も……こうするべきだって、思ってた」
シルバー先輩の身体に、僕の身体を預ける。するとシルバー先輩は、僕の身体を腕に抱いて、そっと抱きしめてくれた。
「僕らに足りないものは、これだったのかな」
「……分からない。が、今はとても……満たされたような、心地でいる」
「はい、僕もです。……シルバー先輩」
「ああ、デュース」
「好き、です。好きでした。シルバー先輩のことが、ずっと」
「……俺も、好きだ。ずっと、お前のことが……好きだった」
シルバー先輩は、僕のことを、ずっと、ずっと抱きしめてくれていた。
僕は、もう一回ってキスをねだって、シルバー先輩に苦笑いをさせていた。
翌日。あの時間はクリスマスの見せた夢なんじゃないかって思ってぼーっとしていたら、頭を小突かれた。
「なんだ、誰だ……って、シルバー先輩?」
「おはよう、デュース」
少し照れくさそうに笑うシルバー先輩の表情が、それだけで、昨日のことは夢じゃないって伝えてくれる。
だから僕は、つい、顔が熱くなった。
「そんなに赤くならなくても、大丈夫だ。……今日からまたよろしく、デュース」
「は、はい……」
やっぱり、僕の顔は赤くなっているのか。こんなに分かりやすいと、同級生にもからかわれちまいかねない。
気を付けないと、と片手で顔を覆っていると、シルバー先輩がそんな僕を、愛おしげな優しい目で見守ってくれてるのに気が付いた。
「……先輩、目、甘すぎですよ」
「ん、そうだったか?」
「はい」
僕が口を尖らせても、シルバー先輩は、そうか、とほほ笑ましそうに笑うだけで。
こんなこそばゆくて、それでも暖かい気持ちになる時間を手に入れたことに、ちょっぴり感謝を覚えた。
不思議な記憶の導きは、いったい何だったんだろうって、少しの疑問だけを残して。
*おしまい
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