※今書きたいと思っている中編の第一話の草稿です。ちゃんと設定を固めたら書き直すかもしれません。
中編としてこういう話が書きたいな~と思っているものの紹介のようなものです。
※現代学パロです。男子そのまま・女体化キャラ入り交じっています。
※独自設定が多く含まれます。
※今回はシルデュの他にマレセベ♀要素が含まれます。
↓大丈夫な方はスクロール
「好きです、シルバー先輩……っ、ずっと前から、好きでした!!」
――桜舞う、春の入学式。新学期早々、校舎裏に呼び出されてみれば、目の前にいる女子からされたのは、愛の告白だ。正直、こんなことは初めてではなかった。中学の頃から、時折上級生、同級生、下級生の女子に呼び出されては、こんな風に好きだと告白されることが数多くあった。
しかし、俺はそれをすべて断り続けてきた。それは、自分の夢のため。目的のため。幼い頃、実父母を亡くして以来、俺は、引き取り先の親父殿――リリア・ヴァンルージュが仕える名家の跡取り息子であるマレウス様をお守りできる存在になるため、日々の研鑽を積んできた。その目的のためには、恋や愛なんて不要だと思っていた。伴侶が必要になれば、いずれ大人になってから、見合い結婚でもすれば良いと考えていた。マレウス様もそうするのだから、俺だってそれに従うのが自然だ。その気持ちは、今この瞬間だって変わらない。変わらない、はずなのに。
「……髪」
「は、はいっ」
目の前にいる女子の、長い群青色の髪の毛を一房持ち上げる。……よく手入れされていて、艶やかな髪だ。初めて会ったあの日、あのときとは……比べ物にならない。
「俺のために、伸ばしてくれたのか」
「へ、あ、え、えっと……! 先輩のためっていうか、ちょっとでも、女の子らしくなれたらいいなって思って……!!」
しどろもどろになりながら、目の前の女子は俺の言葉を肯定する。……困った。嬉しい。こんな気持ちは、初めてだ。
目の前の女子――デュース・スペードと初めて会ったのは、中学三年生の、陸上競技大会の日に遡る。全員がなんらかの競技に参加することを義務づけられたその大会で、俺はリレーのアンカーを任されていた。が、それは今この場ではあまり重要ではない話だ。
重要なのは、その日、その場所で、俺が中学二年生のデュース・スペードに出会ったということ。彼女は、今目の前にいる長い群青色の髪をたなびかせる女子とは、まったく違う姿だった。
彼女は、髪は男のように短くしていて、色は金に染めていて、顔には生傷をつけて、その上から絆創膏やテープを貼っていた。身体のサイズよりも大きなジャケットを着て、男のように乱暴な言葉遣いをしていた。だから初めは男かと勘違いしていた。今思えば、失礼なことだったな。
俺が初めて見かけたデュースはひとりで、陸上競技場の観客席の最上段から遠巻きに、ベンチの隅で、運動着も着ておらず、競技に参加する生徒たちを眩しそうに眺めていた。
「君は参加しないのか?」
俺が声をかけると、デュースはチッと舌打ちをした。俺はその態度に、多少物を言いたくなった。
「……急に声をかけた俺も失礼かもしれないが、その態度はいかがなものだろうか?」
「うるせえな。俺が何してようが、アンタにゃ関係ねえだろ」
そう言いながら、デュースはその場を立ち去ろうとする。しかし、彼女が行くその先には段差があった。だから、俺は駆け寄って、案の定つまずくデュースの身体を抱きとめた。そのときに気付いたんだ。あまりにも軽い身体、柔らかい感触。この子は、男のような態度を取ってはいるが、実は女性なんじゃないのか……? と。
「は、離せっ!」
デュースは慌てて、俺から離れる。俺も慌てて、腕を離した。
「す、すまない。まさか、女の子だとは思っていなくて」
「お、女の子ぉ!?」
俺が目の前にいるこの子は女性だったのだと自覚すると、デュースは真っ赤になって素っ頓狂な声をあげた。
「ふっ。俺は馬鹿だな。そういう顔をしていると、どこからどう見ても女の子じゃないか」
先ほどまでの態度との落差が可愛らしくなって、思わず俺が笑っていると、デュースは怒ってしまった。
「や、やめろ!! 女の子って言うな!! 俺なんか、どっからどう見たって……可愛げなんかちっともない、男みたいな女でしかないだろ!! お、女の子とかそんなの……俺に似合うわけない!!」
なるほど。この子は、自分のことをそう思っているのだな。だから、自分に自信がなくて、まるで自分は男だとでも言うように強がった態度を取ってしまうのだろう。そう考えた俺は、彼女に告げた。
「そんなことはない。今の態度はともかく、本来の君はとても可愛い女の子だと思う。……この髪、根元が青色のようだが……染めているのか? 勿体ないな。元の色に戻して、伸ばしてみたらいい。そうしたらきっと、ひらひらしたスカートのような女の子らしい服だって似合うようになると思うぞ」
デュースは口をぱくぱくと開け閉めして、なんなんだよアンタ、と言った後に、急にしおらしくなって、髪を耳にかきあげながら言った。
「……アンタは、そういうのが好きなのかよ?」
「そうだな。少なくとも、今のような恰好よりは、見てみたいと思う。……女の子らしくなった君を」
だから女の子って言うな、と怒るデュースに、俺は尋ねる。
「名前は?」
「……デュース・スペード。アンタは?」
「シルバーだ」
そうかよ、とデュースは答える。俺は遠くから、クラスメイトにもうすぐお前の番だぞと呼び出されて、分かったすぐに行くと返事をした。そうして振り向くと、彼女の姿はもう消えていた。それが、デュースとの初めての邂逅。
それ以来、俺たちは会うことがなかった。俺が中学を卒業して、夜鴉学園に入学してからの一年間、一度も。
だから今朝、靴箱を開けたとき、手紙にその名前が書かれていたときは本当に驚いた。
あの日一度出会ったきりではあったが、『デュース・スペード』というその名を、俺はちゃんと覚えていたからだ。
だから、呼び出し先に行ったとき、俺はもう一度驚いた。そこにいたのは、あの日見た、男のような恰好をした、どこか淋し気にやさぐれた風の女子ではなく――どこからどう見ても、ひらりとした制服のスカートが似合う、真面目そうな女子が立っていたからだ。
そして彼女の恰好は、あの日俺が言った通りの、髪の色を地毛の群青色に戻して、長く伸ばした可愛らしい姿になっていて。
……まさか、あの日のあの一言で、俺のために? 一年間以上もかけて、次にいつ会えるかどうかもわからないのに? 俺がそんな疑惑と期待を持って近付くと、彼女に言われたんだ。
「シルバー先輩、お久しぶりです。僕……じゃないっ、私のこと、覚えてますか?」
「ああ。……見違えていて、驚いた。デュース、なのか?」
「はい、覚えててくれたんですね」
デュースはあの日と同じように、耳に髪をかき上げながら、俺に話を続けた。
「あの日から、髪、伸ばし始めたんです。先輩に言われた通り、色も戻して……。言葉遣いも、服装も、できるだけちゃんと女の子らしくするようにってして。そしたらホントに、母さんとかも喜んでくれて。こうやって変わるきっかけくれた先輩には、本当に感謝してます」
「そうなのか。それは良かった」
「それで、その……っ、私なんかにこんなこと言われても、困るだけかもしれないんですけどっ」
……そして冒頭の告白に戻る、というわけだ。
姿を見たときからなんとなくそんな気はしていたが、やはり想いの告白だったのか。……俺の理性は、きっと将来が決められているマレウス様を差し置いて自由恋愛などするのかと、浮かれた気持ちになって主君に悪いとは思わないのか、不実だとは思わないか、断れと警鐘を鳴らす。
けれど、今のデュースが言う、ちょっとでも女の子らしくなれたらいい、という言葉は、俺がもっと女の子らしくなれと言った言葉に基づいているわけで。俺は大きく彼女を変えてしまった、その責任を取らなければいけないんじゃないか、なんて言い訳が次々と頭に湧いてくるわけで。
――正直、この告白はとても嬉しい。あの日からずっと意識していたとか、好きだったとか、そういうわけではないのだが、あのときからずっと、今日この日まで俺のために可愛くなろうとたくさんの努力をしてくれたのだろうなと言う気持ちが伝わってきて、なぜだかそれがとても嬉しくなってしまった。
とはいえ、このままマレウス様の許可も取らず勝手に付き合いを始めるわけにもいかない。そんな葛藤の末、俺が口に出せた言葉は次のようなものだった。
「……一日だけ、考える時間をくれないか」
「は、はいっ、分かりました」
失礼します、と一礼してデュースは去ろうとする。俺はその背を呼び止めた。
「ま、待ってくれ。去る前に、ひとつだけ……」
「……なんですか?」
「その、気持ちは……とても嬉しい。それだけだ」
そう言い残して、デュースが去る前に俺の方がその場を立ち去ってしまう。俺の足は、自然、マレウス様の元へと赴いていた。
「あえてこのように言おう。お前は馬鹿か?」
「えっ……」
マレウス様からシンプルに罵倒され、俺は一瞬固まる。
「将来を決められた身であるこの僕に遠慮して、気になる女子と自由恋愛もできない、だと? 随分とこの僕を虚仮にしてくれるな、シルバー」
「い、いえ、しかし……っ、俺がそのような行為を軽率にすることでマレウス様がお辛い思いをするのであれば、俺は……っ」
はあ、とマレウス様は溜め息をつく。そして俺にこう語った。
「確かに僕は、好いたものに好きとも言えないこの身、立場を憂うこともある。だが、シルバー。だからと言ってお前までそれに付き合えと言った覚えはないぞ?」
「マレウス様……」
「そうだ、シルバー! マレウス様はむしろ、お前が自由に恋をできる身でありながらそうしないことに、腹を立てていらっしゃったぞ!!」
俺たちの話を横で聞いていたセベクも言う。……セベクは、俺の父から共に剣を教えられている、幼馴染の女子だ。そのセベクは、主君であるマレウス様に淡い想いを寄せている。そして、俺が二人を見ている限り、マレウス様もきっと、セベクのことを……。しかし、マレウス様は将来、家のために婚姻を決められる身でいらっしゃるからなのか、なぜかマレウス様の想いにとんと気付かないセベクに、その想いをハッキリと伝えないままでいらっしゃる。俺は、そんな、想い合っているのにすれ違わなくてはならない二人のことを、ずっと見てきた。だからこそ、俺はこの話に遠慮を覚えているのだ。
「セベクの話は本当ですか、マレウス様」
「ああ、そういえばそんなことを零したこともあったな。『彼奴は自由に相手を選べる身でありながら、なぜ相手を選ばないのか』と。まさか僕に遠慮などしているわけではあるまいな、と……。あのときはただ、お前の心に留まる相手がいないのだろうと思って気を静めていたが……」
今となっては話が別だろう? とマレウス様は半ば俺を睨む。……我が主君ながら、ものすごいプレッシャーだ。
「まさかとは思うが……気になる女子と恋を育むことでさえ、主君たる僕からの命令、許可がなければできないなどと告げるつもりではないだろうな? だとしたら、ずいぶん世話の焼ける家臣だ」
「……い、いえ。そのようには……。俺はただ、このことでマレウス様の御心に余計な負荷を与えたくはないと、そう考えただけでして……」
「ならば、その女子の想いを拒む道理や憂慮はあるまい?」
俺が力なくはい、と告げれば、マレウス様は恋の病の前にはお前も形無しだな、と愉快そうにはははと笑った。
翌日。俺は一年生の教室へ向かい、デュースを呼び出した。
「すまないが、デュース・スペードを呼んでもらえるか?」
まだ上級生の存在が珍しいのか、一年生の教室が多少ざわつき、教室の奥からデュースが姿を現す。
「昨日の返事をしようと思って来た。……場所を変えよう」
俺は昨日と同じ、校舎裏にデュースを呼び出す。そして、デュースに俺の想いを告げた。
「その、昨日はありがとう。……突然のことだったから、俺の気持ちとしては、まだ、きちんと恋とか、そういう形としては言えないのだが……」
「……はい」
「俺には、幼い頃から護衛として仕えるべき主君がいて、もし、恋人になったとしても、お前のことをちゃんと優先的に扱ってやれるかは分からなくて」
「はい……」
デュースはだんだんと俯いてしまう。違う、俺はお前の気持ちを断りたいんじゃないんだ。慌ててデュースの肩を掴む。
「だから、その……っ、それでも良かったら、お前の気持ちを受け入れても、いいだろうか」
「……えっ?」
デュースは驚いた顔をして、それからだんだんと顔を赤くした。
「え、え、えっ……。それって……」
「……改めて、俺から言おう。まだ、俺はその、恋とか、そういうのはよく分かっていないのだが、そんな未熟な男でもいいのなら……これから、よろしくお願いしたい」
「……っ」
デュースは口に手を当てて、嘘、と呟く。嘘じゃない、と俺が言うと、デュースはほんとに……と赤い頬に手を当てた。それをなんだか、可愛らしく思った。
「本当に、女の子らしくなったな」
「えっ、あっ、えっと……」
「……お前からも、返事をくれるか?」
「よ……よろしくお願いしますっ!!」
デュースの言葉に、俺は安堵する。俺の方が先に告白された立場だというのに、不思議なものだ。
ともかく、高校二年生になった俺には――新しく「彼女」という存在ができた、らしい。
彼氏だとか、彼女だとか、恋人だとか、まだ実感が湧かないその言葉たちを、俺は何度も心の内に噛み締めては反芻するのだった。
*おしまい
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