灯篭恋願譚

・メインスト7章(完結まで)のネタバレが含まれます
・吸血鬼パロディです。「幕間」の続編。
・転生・生まれ変わりネタが含まれます。
・この他、いろいろと独自設定が含まれます。
・上記のため、矛盾点などがあるかもしれません。
・なんでも許せる人向け。

以上大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 人々が強くなる暑さを憂う中、吸血鬼たちの住まう古城にも同じように夏は訪れていた。とはいえ彼らは夜の生き物であるから、日光の強くなる日中にはあまり活動をしない。それでも、夜の蒸し暑さが彼らを蝕み始めていた。
 そんな中、ひとり元気な下位吸血鬼が古城の郵便受けを覗く。いくつかの郵便物を手にして、デュースは足早に古城の中へと戻った。
「シルバー、見てくれ! これ!」
 古城の中に入るなり、デュースは手にした郵便物を俺に見せびらかす。郵便物の集荷や振り分けなどの雑用も、このマレウス様がおわす古城での俺たちの仕事だ。
「どうしたんだ? そんなにはしゃいで……」
「近くの街で、祭りがあるんだって!」
「ああ……あの祭りか」
 デュースが手にしたチラシには、近所ゆえによく知った祭りの開催と日時の報せが書かれていた。はしゃぐように興奮した様子のデュースを見ていると、可愛くてつい、ふっと笑いがこぼれてしまう。
「行きたいのか?」
「……行きたい!」
「分かった、ならば一緒に行こう」
「本当か!? ありがとう、シルバー!」
 こうして俺たちは、祭りへと参加することになったのだった。マレウス様と親父殿、セベクも誘ってはみたのだが、マレウス様と親父殿は、行きたいのはやまやまだが、こう夜まで蒸し暑くては外に出るのも敵わないと古城での留守番を決め、また二人の逢引を邪魔してはならないだろうとセベクもからかうようにしてそれに倣った。
 それではせめて、何か土産だけでも買ってきますと言えば、楽しみにしているぞと言葉をかけて頂けた。同時に、マレウス様からはこうも告げられた。
『そうだ。この機会に、スペードの服もいくらか見繕ってやるといい。どれも古くなっているし、旅をしていた頃の服ばかりでは不便だろう』と。
 なので、俺は一日ほど休みを頂き、日中は街へデュースの服を買いに、夜は祭りへと赴くことにした。
 どうせ一度街まで出るのならと、リドルとエースの暮らす街へ立ち寄る。到着するなり二人は俺たちを歓迎してくれ、また、服の買い付けに来たことを伝えると、エースがいくつかを見繕ってくれた。俺は服に詳しくないから、それは助かることだと感じた。
「アンタ、他の男が選んだ服着せて平気なの?」
「……それもそうだな。何故か今は、気にしていなかった。だが、俺が選ぶよりも良い結果になると思う。俺が服を選ぶと……あまり、良い結果は生まない」
「何それ。まあ、アイツ自身に任せても変なのばっか選ぶから、オレが選んでいいんだけどさ……」
 そんな雑談をエースとしている内に、デュースは服を選び終わったらしい。楽しそうに色々な服を見繕う姿に、そうか、デュースにはこんな一面もあったのだなと改めて感じた。
 俺はデュースと会ってから、弱く、脆いところばかりを見ていた気がする。だから、アルの記憶にあるような、本来の快活で元気なのであろうデュースの姿を見られたことは、まだ少ない。
 これから、親しく大切な人たちに囲まれて、時間をかけて元の元気を取り戻していければいいとそう考えた。
 世話になった、とエースとリドルの二人に別れを告げ、一度古城へと戻る。
 日差しの強い日中に起きていたから少し眠いと言うので、デュースに少量血を飲ませたあと、仮眠を取らせた。
 その間に、自分自身も祭へと向かう準備を整え、空が夕焼けに染まり、やがて薄藍色のコントラストを求め始めたところでデュースを起こした。
「すぐに着替えてくる。待っててくれ!」
「ああ、分かった」
 買ったばかりの服を卸して、デュースはお待たせ、と俺の元へ戻ってくる。似合っているぞと声をかければ、照れたように笑ってくれた。
 馬車を走らせ、祭りが開かれている街へとたどり着く。並ぶ屋台と人々の賑わいが、俺たちを出迎えた。
「すごい、すごいな! 本当にお祭りだ! 何から見ようか、シルバー!」
「デュース。そんなに慌てると、はぐれてしまうぞ」
 だから、ほら、と手を差し出すと、デュースは少し遠慮がちに、本当に大丈夫なのだろうかという目線で俺の手を握った。
 デュースもかなり恋人としての振る舞いに慣れてきたとはいえ、まだ、人混みの中で堂々と恋人のような振る舞いをすることには不安が残るのだろう。
 大丈夫だとその手をしっかりと握り返して、俺たちは祭りの屋台へと赴いた。
「すごいな、虹色のわたあめがある! 綺麗だ!」
「あれは、マレウス様もお好みのものだな。食べたいか?」
「うん!」
「なら、デュースの分と、土産にする分を買っていこう」
 店主に声をかけて、料金と引き換えに二つのわたあめを頂く。袋に入っていない方のわたあめをデュースに差し出すと、きらきらとした目でそれを眺めていて、まるで今日の夜空の星をデュースの瞳に閉じ込めたようだと、自分で恥ずかしくなるようなことを思った。
「困ったな、どの屋台も楽しそうだし、旨そうだ……」
「まずは一通りの屋台を見てみるといい。それで、気になったものはもう一度回ろう」
「うん!」
 わたあめを食べながら、あれはなんだこれはなんだとデュースは元気にあちこちをきょろきょろと見て興味を持つ。ああ、こんなに元気にはしゃぐ姿を見られるのなら、知った祭りでも共に来られて良かったと感じた。
 広い街の屋台を一通り見て回り、休憩用に椅子と机が用意された広場のような場所で一度休憩を取る。
「ふー、さすがに疲れたな」
「とても元気にはしゃぎまわっていたものな」
 吸血鬼は太陽や夏の暑さに弱いものだと思っていたが、君はとても元気だ、と付け加えれば、デュースは笑った。
「だって、楽しくって。……今年の夏は、シルバーがいてくれるからかな」
 その言葉で、俺は気づいた。ああ。デュースは何年、一人で苦しい夏を過ごしてきたのだろう、と。千年の孤独は、人間である俺には気が遠くなりそうな時間で、どうにも実感として分かることはできないが、それでも、とても淋しかったのだろうと追想と共感をすることはできる。そう考えると、デュースだけでなく、その生を別たれた恋人にも、ひとときの逢瀬を与えてやりたくなった。
「なあ、デュース。この後、もう一度祭りを見て回ろうか」
「もちろん、そのつもりだ! いくつか、気になる屋台があったんだよ。ええとな……」
「分かった、分かった。きちんと聞くが、その前に」
 デュースの手を握る。
「……少しの間だけだが。アルとも、過ごすといい」
 そうして意識を手離し、俺とアルの意識を交代すると、デュースは目を丸くして驚いていたが、すぐに明るい笑顔になった。
「アル……だよな! せっかくシルバーが時間をくれたんだ、アルも一緒に祭りを回ろう」
「……ああ、そうだな。共に祭りへ赴けるのなんて、初めてのことだ」
 アルとデュースは、こわごわと二人手を握りながら、連れ立って、祭りの喧騒へと埋もれていく。
 本当に何も言われないのだなと確かめるように二人が祭りを見ている最中、ひとつの屋台の店主が、アルに声をかけた。
「ようそこの兄ちゃんたち! 仲がいいんだな、ここは格好いいとこ見せてやんなよ、おひとつどうだい!?」
 それは、ただの売り文句。当たり前の、商売文句。二人にその気がないことを知るや否や次の誰かに声をかけるような。だが、かつてそれさえも与えられなかったデュースとアルには、その、誰ともつかない、見知らぬ店主の一言が深い衝撃を与えた。
「……本当に、何も言われないどころか……。当たり前に、祝福され……受け入れられるのだな」
「……な。僕も、信じられない……」
 デュースとアルは、お互いに手をしっかりと絡め合った。
 恐怖から解き放たれた二人が今度こそ出店を改めて楽しむのを見て、俺は、やはりこうして良かったと感じた。
 俺にとってはデュースと同じくらい、アルも大切な存在なのだから。

 やがて、一通りの屋台を見回ったデュースとアルは祭りの喧騒から少し離れた木陰に戻ってくる。
 アルは、十分楽しい時間を過ごさせてもらったと礼を言い、俺に身体を返した。
「デュース。楽しかったか?」
「うん。シルバー、ありがとう……本当に」
 アルとこうして堂々と祭りを見回れるなんて思ってなかったから、本当に嬉しかったとデュースは笑う。
「それは良かった。だが……ここからは、俺の時間だ」
 行こう、デュース。手を引いて、祭りの出店を抜け、川沿いへと向かう。
「この祭りには、メインイベントがあるんだ」
「メイン? なんだ?」
「それは……着いてからの楽しみだな」
 デュースの手を引き、着いた先は河原だった。人々はそれぞれ手にランタンを持ち、それを川に流している。
 矢継ぎ早に川へと流れていくランタンが、幻想的な風景を作りだしていた。
「はあ~……、綺麗だな……」
 景色に見惚れるデュースに、祭りの意図を解説する。
「俺も詳しいことは知らないが……遠い国の文化が伝わって、この形の祭りになったらしい。故郷に残してきた親や、死別した恋人など……遠方にある人を想い、ランタンを水に流すのが一般的だそうだ」
「そうなんだな。……僕も、やっていいのか?」
「ああ。あちらで、ランタンをもらってくる」
 受付で配っているランタンを、デュースと俺の二人分を受け取る。
 そうして、その片方をデュースに渡した。
「ランタンに祈りを捧げながら火を点け、それを川に流すんだ」
「……ん」
 デュースは、真面目な顔で、ランタンに火を点けた。
 俺も同じように、祈りを捧げながらランタンに火を点けることにした。
 ……そうだな。俺が祈りを捧げるのなら―― やはり、彼らだろうか。
 それぞれの想いを込めた俺たちのランタンは、幻想的に水面を照らしながら、ゆるやかに流れていった。
「……」
 デュースはそれを、神妙な面持ちで見守っている。
「尋ねてもいいだろうか。デュースは一体、誰のことを考えてランタンを流したんだ?」
「僕は……。故郷に遺した、母さんのことや、昔庇ってくれた村の人たちのことを……考えてたんだ」
 僕は今もこうやってるけど、みんなはもうシルバーみたいに生まれ変わってるかもしれない。もし、そうでないなら、安らかに過ごせてるように、って。
「そうか」
 デュースらしい答えに、俺は納得するように頷いた。
「シルバーは、誰のことを考えたんだ?」
「俺か? 俺は、まず、自分の……本当の父母だ。親父殿が俺を見つけたときには、もう事切れていたらしい。今でもどこかで俺のことを見守ってくれているのなら、どうか安らかに、と」
「そっか。シルバー、ヴァンルージュ様のことは血の繋がりはないお父さんだって言ってたもんな」
「ああ。それと、あとは、君と……アルに、祈っていた」
「僕らに?」
「……ああ。と言っても、ここにいる君たちに、ではない。かつて君は火に焼かれ、アルは何度も生まれ変わった……今ここに辿り着くまでの、君たちの繰り返した死と生に、安らぎが与えられるといいと思った」
 デュースやアルにも思うところはあるだろうが、過去の憂いが少しでも落ち着き、晴れるといいと思ったんだ。
 そうデュースに告げると、デュースは俺の腕に、腕を回して身体を寄せた。どきりと心臓が音を立てた。
「デュース?」
「……ありがとう。僕、アルが生まれ変わったのがシルバーで、本当に良かった」
 僕のこともアルのことも、本当に大切にしてくれる。こんな幸せな結果になれたのは、他の誰でもなくてシルバーだからこそだって思うから、とデュースは言ってくれた。
「俺には、過ぎた言葉だ。だが……どういたしまして、デュース」
「うん。……な、シルバー。今日は手、繋いで帰ろう。なんだかすごく、そうしてたい気分なんだ」
「ああ。君が望むのなら、いつまででも」
 水面にランタンの光が照り返す中、デュースを腕の中に抱き寄せる。金色の光が俺たちを包む中、優しく穏やかな風が、俺の頭を撫でるようにそよいだ。それは、亡き両親だろうか。それとも、これを見ていたアルだろうか。誰であるにせよ、俺の大切な人からの伝言であることには変わりがないなと結論を出し、再度、祈りを捧げる。
(俺の大切な人が、親しい人が、皆……どうか、心安らかに在るように)
 目を閉じれば浮かんでくる大切な人たちの顔が、光る水面に揺らめいた気がした。その表情は誰も、ほほ笑みを浮かべていた。

*おしまい

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