アフターパーティー

*吸血鬼怪盗シルバー×探偵助手デュースの、本編に入りきらなかったシーンなどの詰め合わせ短編になります。
あんまりストーリーはないので、裏小ネタ・設定集のおまけみたいな感じでお楽しみください。

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 あれから僕たちは、恋人になってから初めてのデートとして、また星の瞬く素敵な月夜の晩に、『眠らない街』に遊びに出かけている。最初は、『モストロ・ラウンジ』という、本物の人魚が経営する水中レストランのテラス席で、のんびりお喋りだ。
 まあ、水中レストランって言ってもホントに水中に沈められるわけじゃなくて、まわりがガラスの水槽ってだけなんだけどな。
 それに僕らがいるのはテラス席だから、あまり内装は関係ない。そんなわけで注文したフルーツティー(吸血鬼である僕らへのサービスとして、ガムシロップみたいに血液のシロップがついてきて、ちょっと面白かった)の味を楽しんでいると、シルバーが言った。
「そういえば、この街にもルールがあるんだ。それは、『揉め事無用』。いろいろな種族が楽しく遊び場にする街だから、他種族間での揉め事は禁じられている」
「へえ、そうなんだ。……なあ。アンタの背後のバルで、狼男とフランケンシュタインが、お互いに投げ飛ばし合ってるのが見えるんだけど」
「まあ、建前だからな。もちろん、本気で種族間の断絶に関わるような争いなら、その他の種族総出で止められるが。……実態は見ての通り……。『対立、煽り合い、喧嘩こそが華』という治安の悪さだ。君もこの街をひとりで歩くときには気を付けるんだぞ?」
「僕、腕っぷしは弱くない方だけど。……でも、そうだな。まだこっちの世界のこと詳しくないのに、喧嘩はしない方がいいよな……。気を付ける……」
「よし、いい子だ」
 そうしてシルバーは僕の連れてきたキー坊を少しだけ指先で撫でて。
「ふっ、君の初めての使い魔は、赤子のコウモリが生まれたんだな。君らしくて可愛らしい」
 僕はふと、尋ねてみたくなった。
「……なあ。僕、アンタのこと、もっと知りたいんだ。もう少しいろいろ、教えてくれないか?」
 探偵助手としての探りとしてじゃなく、個人的に知りたい。そう尋ねると、シルバーはいつもの『アズール』って眼鏡をかけた店員に声をかけて、VIPルームを用意してもらった。
「少し、外では話しにくいんだ。中で話そう」
 そう言ってウィンクするシルバーに、僕は大人しくついていく。VIPルームなんて初めてだから、ふかふかのソファに少し緊張する。いつものように血液入りのワインが運ばれてきて、ではごゆっくりと扉が閉められた。
「そうだな。何から話そうか」
 ワイングラスを揺らしながら、シルバーは言う。僕は尋ねた。
「普段は、どんなことしてるんだ? 僕は、その。最近は、血を吸うようにしてる。吸うっていうか、もらってるみたいな感じだけど」
「もらってる? 吸わせてもらえないのか?」
「ええと。なんていうか。ちょっと前まで、『血をくれ』ってやっぱりなんか、言いだしにくくて。探偵事務所の仲間を、食糧として見てるみたいに思われるかなって思ってたんだけど。でも、ローズハート所長が『ボクたちにまだ、言うべきことあるだろ?』って水を向けてくれて。それで、『血をください』ってお願いしたら、エースから怒られて。『お前、そういうのは早く言えよバカ! お前が暴走して襲われるとかヤだかんね!!』って」
「はは、君たちらしいな。それで、どうなったんだ?」
「それで、そのあと。エースから血を貰う流れになったのはいいんだけど、『お前吸うのヘタそうだし加減できなさそうだから、オレのお気に入りの服汚しそうでヤダ! 自分で注射器使うから、別のコップに移して飲んで!!』って、なんていうか、すごいワガママで。でも僕もアイツの血もらう以上、強くも言えなくて、仕方なく、言われた通りコップから飲んでて……みたいな感じだ」
 でもローズハート所長は血液の量を測りながら、ちょうどいい量を飲めるように手首で練習させてくれてるから、全然血を吸うの練習できてないわけじゃないんだ、と告げる。すると、シルバーは笑った。
「それなら、何よりだ。君たちの日常は楽しくていいな。そうだな。お返しに、俺の日常を教えるとするなら……ふむ。言える範囲のことを言うのなら、まず。昼間は基本、寝ている」
「寝てるのか。僕もだ」
「君はけっこう、吸血鬼にしては昼間に起きている方だと思うぞ? ショートスリーパーなのかもしれないな」
「昼間ガッツリ6時間くらい寝てるのにか!?」
「ああ、短いな。俺たちは日中、用事がなければほぼ眠っている。俺はどこでも寝れるが、真祖様方は棺桶で眠られるな」
「へえ~……。僕も棺桶とか気にせず、ベッドとかソファで寝てたや」
「俺たちのような傍系の吸血鬼は、そんなにこだわりもない。寝られればどこでもいいよな」
 僕はその言葉が、ちょっと引っかかった。『俺たちのような傍系の吸血鬼』って、どういうことだ? こいつ、元から吸血鬼じゃなかったのか?
「アンタも元から吸血鬼じゃなかったのか?」
「ああ、俺か。俺は、赤子の頃、高熱で命を落としかけてな。そのときに今世話になっている真祖様のひとり、まあ言うなれば俺の義父だ。その、親父殿が、俺に血を与え、吸血鬼にして。命を救ってくださった。それで、俺は人としての生を失うことなく、実の家族と人としての時間を過ごすことが出来たんだ。その後、人間としての生を終え、家族を皆見送ったあと、彼らに恩を返したいと言って訪ねた俺を、彼らは快く自らの一員として迎えてくださった」
 だから、命の恩人である彼らへの恩返しのために、俺は今、彼らの騎士として仕え、怪盗として表舞台で呪いの美術品を回収しているんだ、とシルバーは言った。
「アンタ、いったい何年くらい生きてるんだ?」
「ざっと、400と17年程度。今よりもずっと昔、まだ、人ならざるものたちと人間たちとの文化の壁が、今よりも薄かった頃。とある国に生まれ落ちた俺のことを、誕生の祝祭で祝いにきてくださった吸血鬼の代表が、俺の仕える真祖様と、親父殿だった」
「誕生の祝祭……? お誕生日会にわざわざ来てくれるなんて、優しい吸血鬼だったんだな」
「はは、確かにそうだな。でも、それだけじゃない。俺はその国の王族だったから」
「王族!? アンタ、吸血鬼で怪盗なのにさらに王子なのか!? 属性が多すぎるだろ!!」
「永く生きていれば、属性くらいいくつか増えることもあるだろう」
「だからあんなにキザなのか!?」
「振る舞いに関しては、怪盗になってから身に着けたものも多いぞ」
「はー……。えっと、じゃあ、政治とかしてたのか? 何番目の王子さまだったんだ?」
「第一王子であったが、俺は王位を継いでいない。継いでいたら、吸血鬼の王として歴史に名が残ったろう。だが、人ならざるものを人の国の王にするのは、反対の声も多くてな。俺も積極的にやりたいわけではなかったから、吸血鬼であることを理由とし、継承権を返上した。その後、王兄の騎士として、近衛隊長などをやり。その後、親戚や、後から生まれた弟が、王位を継いで政をやり、彼らの血を残した。俺はもう詳しく追いかけてはいないが、今もどこかで、子孫が生きているだろうな」
「ほあー……。本気で王子さまだ……。だから、なんかいつもお金に困ってなさそうだったんだな。僕をなんか、高そうなカードで着せ替えたりしてたし!」
「ああ、それに関しては、真祖様に融通して頂いている。あの方は人間界の重鎮でもあるから、人間界として表立っては処理できない、裏の仕事を俺に頼まれて。で、俺はそれをこなすことである程度自由に使うことができる報酬を頂いている、という感じだ」
「ふぁ~……。世界が違う……」
「君もいずれ、飛び込むことになる世界だ。少しずつ慣れていってくれ。探偵である間は堂々とお披露目できないが、俺の家族たちは皆、事件を通して君を知っている。いつか会ったときの挨拶、考えておくんだぞ?」
「うっ、分かった。緊張するけど、頑張って考えとく……」
 はは、皆、心優しい方々だから、そう緊張することはない、礼儀さえ失さなければ鷹揚だ、とシルバーは笑った。
「君のことも、聞かせてくれ。どうしてあの事務所で探偵助手をしているんだ?」
「ああ、それは……。僕、元々は不良でさ。昔世話になった警察官の人に憧れて、あんな風になりたいって、警察官になりたいと思ってて。でも、まだ何回も試験落ちてて、元警察官であるローズハート所長のところで事件や勉強の面倒も見てもらいながら、試験受けてたんだ。でも、今はその……少し、未来を考え直してる。警察としてじゃなく、探偵としてローズハート所長の後を継ぐかもとか、いろいろ。……アンタらのことを通して、人の守り方とか、今の僕と人との関わり方を、考え直してるんだ」
「そうか。折に触れて自分の未来を見つめ直すのは、いいことだ」
「……誰のせいで考え直すことになったと思ってるんだよ」
 そう僕が口を尖らせると、シルバーは笑った。そうか、俺のせいか、と。
「君が俺との未来を見てくれているようで、本当に嬉しい」
「ああもう、言っとくけど、僕は勝手に吸血鬼にされたことはまだ怒ってるんだからな! ったく……」
 それでも楽しそうに笑うシルバーと、またさよならのキスをして。
 僕はその夜を終えたのだった。

 で、朝日が昇り始めた翌朝。事務所に戻ると、もうエースが来ていた。
「早いな、エース」
「お前こそ。朝日昇り始めたから、もう寝始めてるかと思ったけど。……どっか行ってたの?」
「ま、まあな」
 エースはまだ、僕たちのこと、怪盗の真実や、ローズハート所長が内密の協力者であることを、何も知らない。ローズハート所長が、「彼には、この事務所を継がせるときに真実を伝えるから、まだ内緒にしておいてくれ」と言ったから。なんで教えないのかって尋ねたら、「彼にも事実を知るべきタイミングがあるからね」とローズハート所長は言った。「それに、解くべき謎が目の前に転がっているのに、ネタバレしてしまっては可哀想だろう、探偵見習いに対してさ」とも。
「へ~……。まあ、いいけど。今日は血、大丈夫なの?」
「大丈夫だ! こないだ飲んだばっかりだし! さっきもちょろっと飲んできた!」
「どこでだよ」
「うっ、まあ、えっと! そう、お医者さんにもらったやつだ!」
「ふーん……?」
 エースにバレないようにするの、大変だな。ローズハート所長の口ぶりからして、エースが自分から気づくなら、僕も別に隠さなくてもいいんだろうけど。でも、いろいろと説明するのはたぶん僕は下手だから、できるだけバレないようには努めようと頑張るのだった。

 ――もう一人の見習い探偵、エース・トラッポラの物語は、まだ先のお話。探偵事務所長リドル・ローズハートから後継に指名され、真実を知り。なんだかんだ相棒だと思っていたデュースとの、流れる時間の差を肌で知り。彼なりの葛藤を抱える物語が始まるのだが、それはまだ、あと10年、20年後。ひょっとすると、早ければ5年や7年後くらいの、お話になるのだった。

*おしまい

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