*カメラマンシルバー×アシ大学生デュースです。どちらも20以上。シルデュに結構年齢差があります。
*別シリーズと同じ名前の写真館が出てきますが、今回はそちらの作品およびシリーズとは関係ありません。
*退廃的でメロい男を書きたかったので、喫煙描写や精神の擦り切れ、紛争などの描写がありますが、特定の思想などは入れておりません。あくまでもフィクションであり、実在の出来事・団体・国家等とは無関係です。
*前作「ホリゾントライト」「結露」「ユアセルフタイマー」の番外編です。前作読んでないとわりと意味がわかりません。
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――蓮花と葉だけが浮かぶ池の中に、身体を揺蕩わせる。
白銀の髪が雨粒に無数の波紋を描く水面に浮かんで、光を照り返した。
サァ、と音を立てて降りそそぐ水滴の冷たさと肌に張りつく濡れ透けた白いシャツに、何か懐かしさを感じ手を伸ばしたところ。
「そのまま、動かないで!」
大切な声で、そのような指示が飛んできて。動きを止めた俺は。フラッシュの眩しさに、少しだけ目を細めた。
「デュース。もう起き上がってもいいか?」
「あ、はい、いいですよ! これタオルどうぞ!」
水面から起き上がった俺がバスタオルを受け取り、びしょ濡れになった身体を拭いていると。
デュースは今撮ったばかりの写真データを見て、己の腕前に惚れ惚れとしているようだった。
「う~……やっぱりシルバーさん絵になりますね!」
「確かに、よく撮れているな。そのうち、お前にも撮影を任せられそうだ」
「そういうことじゃなくってぇ……! いや写真の腕とか褒めてくれるのは嬉しいんですけど!」
俺は、今。デュースの写真撮影の、練習台になっていた。デュースもこれからこの写真館で働いていくに当たって、撮影の腕前を上げた方がいいと、修行とか研修的なものをした方が良いとデュースの方から申し出があったからだ。
だから、まずは構図やシチュエーションなどのセンスを見るために、俺を好きなように飾って撮ってみてくれ、と言ったら。
少し照れくさそうに、『……シルバーさん、水に沈めていいですか……?』と言われて。
俺が、煮るなり焼くなり好きにしろ、と頷くと。このようになった。
準備というか打ち合わせをしていく中で、デュースのやりたいことは分かったので、それならシャワーが必要だとか。
水系のものはカメラを固定して動画で撮り、あとから良かったシーンを切り出す手法もあるとか、そういうことを教えた。
なので今、俺は水浸しにされていた。スタジオにビニールなどを敷き、水は容器の一部に入れての撮影なので、片付けも大変だ。
「気合い入れて片付けますっ!!」とデュースが言うので、俺もシャワーを浴び終わったら手伝うことにした。
……デュースがここ、『銀紅写真館(ぎんこうしゃしんかん)』に住み着き、働くようになってくれてから。今はそんな風に、日々を過ごしている。
……ええと。仕事以外での暮らしぶりは、どうか、というと。
今朝のことだ。俺は、朝、ベッドから起きて。キッチンに赴き、デュースにこれ買いましょう、とねだられて買った赤いコーヒーマシンで、コーヒーをマグカップに淹れて。このマグカップも、デュースが新しく買ってきたものだ。古いものばかりになっていたからな。それで、まだベッドで寝ているデュースの前髪を、そっと撫でる。そうしているうちに、デュースのまぶたはとろんと開いて、
……という、夢を見た。
ああ、そうだ。今語ったのは、すべて夢だ。実際のところは、デュースの方が早く起きて。泥のように眠るようになった俺を揺さぶり起こして。
「おはようございますっ、朝メシ食いましょう!」と。
寝ぼけたままの俺に、エプロン姿で笑っていた。
あとは、ええと。そう、だな。デュースが、何か、空き時間に、小さな生き物の世話を焼くゲームをしていた。だから、俺がその手元とデュースの横顔を見ていたら、デュースに、『シルバーさんもやってみますか? ってか一緒にやりましょう、これ面白いので』と誘われて。デュースがいなくて、やることがない時間にそれをしてみたら、画面の中の小さな生き物たちが俺に懐いて、頼ってきたので。その生き物たちの世話を、思ったよりもしっかりと焼いてしまっていたら、デュースに、『何気に僕よりハマってませんか?』と、言われたこともあった。
……他にも、なにか、いろいろなことがあったような気がするが。今のところ、暮らしとしては、そんな感じだ。
デュースと過ごす、なんでもない時間は、何よりも得難い、穏やかで、尊い時間だと思う。
その、一方で。俺は、どんどん、深みに嵌まってしまっている気がしていた。
ソファに身体を投げ出して、考えることは。昔のことよりも、デュースのことの方が多くなった。
(俺は……デュースがいないと生きていけない、と思っていた。そしてそれは、当時も事実だったのだと思う。だけど。……それが、より深く逃れられない『現在の事実』へと、いつかの未来に必ず来る己の死と同じように、逃れられない不可逆な事実なのだと、目の前にそれが携わるようになった。日に日に、デュースの存在が重くなる。この感覚は、一体なんなのだろうか……)
考え込んだまま。ソファに身体を預け、デュースをじっと見ていると。
「あっ、シルバーさん! ソファ濡らしてないで、早くシャワー浴びてくださいっ! 風邪引きますよっ!」と、怒られた。
なので、デュースに言われた通り、熱いくらいのシャワーを浴びて、服を着替えて。
そうしてスタジオに戻ると、デュースはもうすっかり片づけを終えてしまっていた。
「デュース」
「あ、シャワー終わりました? 僕も今ちょうど片付け終わったところで――」
デュースの身体を、ぎゅっと抱きしめる。水の片づけをしたからなのか、少し冷たかった。
「冷たい」
「はは、そうだろうな。僕もシャワー浴びてきますから、いい子で部屋で待っててください、ね」
ぽんぽんと背中を叩かれ、身体を離す。シャワー室へと行くデュースを見送り、俺はベッドルームで、ふたりのベッドへと倒れ込む。
それで。ひとつ思いついたので、棚から、箱を取り出して、ベッドサイドへ置いておいた。
「シャワーもらいました! さっぱりしたぁ~」
そうして、ベッドルームへと戻ってきたデュースを、ベッドへと押し倒す。
「わっ!?」
「……」
それから。先ほど持ってきた箱から、青く染められた薔薇の花びらを、デュースのまわりに散らした。
馨(かぐわ)しいほどの薔薇の芳香が、辺りに漂って。俺は、青い花びらに囲まれたデュースをじっと見つめて、その柔らかくいたいけな頬に手を添えた。
「……分からない。お前は、知っているか? お前と過ごす日ごとに、その存在が、重くなっていく。俺の中に、お前との思い出が、何十枚も、何百枚も印刷した写真のように降り積もっていく。俺は、そんな風にシャッターを切ったつもりもないのに」
そうしてデュースをじっと見つめていると、デュースは呆れたように溜め息を吐いて。それから、手を伸ばして、俺の頭を撫でた。
「……シルバーさんって、『好き』だとか『愛してる』で済むことを、すごく真面目に、真正面から考えちゃいますよね。でも、僕、それ好きですよ。なんか、シルバーさんだけの、アンタなりにたくさん考えて出てきた、僕にだけ向けるために生まれてきた言葉って感じがして」
デュースの言葉に、俺は驚く。
「……これは、愛、なのか?」
「僕はそう思いますけど……別に、シルバーさんがそう呼んでなくてもいいですよ。その気持ちは苦しいですか?」
「分からない。ときどき、ぎゅうと胸が締めつけられて、苦しくなるときもある。だけど、お前を見ているとき、とても……穏やかで、暖かい心地になることが、多くなって。それが、誰かに、申し訳なくなるほどに」
俺がそう答えると、デュースは、困ったように苦笑いをした。だけどそれは、嫌ではなさそうに見えた。
「はは、そうですか。良かった……シルバーさん、僕といて、幸せなんですね」
「そう、なのかもしれない」
「『存在が重い』なんていうから、迷惑なのかと思いましたよ」
「そんなはずは、ない……」
「なら、良かったです。……ほら、シルバーさん。こっち来て」
デュースは両腕を広げ、俺という存在を、丸ごと受け入れる。……デュースはいつも、俺を受け入れてくれる。
「……ん」
「いつもみたいに、撫で合ってじゃれましょう? まだ、深い場所へ踏み込むのが怖いなら、僕はまだ、それだけでいいですから」
「……デュース。お前に、触れるのは。好きだ、と、思う……」
「そっか。良かったです」
そうして。俺は、青い薔薇の花びらが散らばるシーツの上で。デュースの赤い唇に、音もなくくちづけた。
俺は、踏み込むのが怖いのだろうか。……それもまだ、分からない。ただ、今はまだ何か、俺がデュースと同じ気持ちを同じ言葉で返すには、足りていないのだと思う。
何故なら。俺は、愛だとか、恋だとか。まだ、そういうものが、分からない。分からないというか、理解と実感ができていない。それを好きなように手にしていいものだと、まだ自分に許可を出せていない、のだと思う。だけどデュースは、俺はもうそれを手にしている、そしてそれは自分に向けられていて、それが嬉しいと笑ってくれる。だから、今はそれでいいんだと思う。デュースが傍で笑ってくれるなら、俺はそれだけで――今日も、息が出来るから。
*おしまい
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