*某少女漫画にめちゃくちゃ影響を受けたお話です。
*当て馬的モブがたくさん出ます。苦手な人は注意!
*本人的には普通の恋をしているだけなのに周囲がうるせえシルバー先輩を書きたかっただけです
以上すべて大丈夫な方はスクロール↓
僕には、好きな人がいる。
それは、ひとつ年上の、少し存在感が強くて、よく目立つ先輩で。
でも僕は、その先輩とは、寮も、学年も、部活さえも違って。
……だけど。
「デュース。今日は、何を飲んでるんだ?」
「いつも通り、スポドリです」
「そうか。なら、俺も同じものにしようか」
部活の終わった時間、飲み物を売る自販機の前でさ。
シルバー先輩と、ベンチに座って、少しおしゃべりをする。
この時間は、僕だけのものだった。
この時間が始まったのは、今よりもけっこう前のことだ。
まだ、僕が自分の気持ちを自覚するよりも前のこと。
部活中のシルバー先輩が、なんだか少し目を擦っているように見えたから。
僕、そこに走って行って、シルバー先輩に、そのとき持ってた冷たいスポドリのペットボトルを差し出したんだ。
「シルバー先輩。これ、良かったらどうぞ!」
そうしたら先輩、ちょっと驚いた顔で、
「いいのか?」って聞くから。
「はい、どうぞ。先輩、さっき少し眠たそうだったんで。これなら、目覚ましになるかもしれないですよね? 僕はまた、買ってきますから」
そう言って、はいっ、と水滴のついたペットボトルを渡したら。
「……ありがとう。嬉しい」
僕としては、何気なく差し出したつもりだったんだけど。
シルバー先輩は、それを律儀に覚えていてくれたみたいで。
僕がこの自販機で、部活帰りに、何か買おうかな、なんて迷っていたら。
「どれを買うんだ? ……あのときのお返しに、奢ってやる」
と、シルバー先輩が、後ろから声をかけてきて。
僕は、じゃあこれを、ってあのときと同じスポドリを選んだんだ。
それから。僕はよく、っていうか。ほぼ毎日のように、部活帰り。シルバー先輩と、夕方の自販機で、喋るようになった。満杯のペットボトルを空にして、太陽が沈んでしまうまでのごくわずかな時間。僕らは、一緒にいる。
それだけでも、心地が良かった。心地が良いと感じていた、のに。
シルバー先輩は、それだけじゃなくて。
……僕が、張り出されたテストの順位を見に行ったとき。
やっぱり50位以内どころか、100位以内も危うくて、それで落ち込んでいたとき。
『普段あれだけ優等生とか言っといて、デュースお前、バカじゃんか!』
と、同級生に笑われて。つい、カッと顔が熱くなったけど。
その通りだな、って何も言えないでいたら。
「なあ、お前たち。優等生を目指して努力し、それを公言することの、何が愚かなんだ? 俺には、理解ができないが」
「デュースは、前回のテストよりも順位が上がっている。……他人の努力の証を嗤うより、お前たちも、過去の己に勝てるよう努力をするべきだな」
と、ソイツらを一蹴してくれて。
僕は、何も言えなくなって。胸がいっぱいになって。
ありがとうございます、ってお礼を言ったら。
「気にすることはない。お前は、お前なりに頑張っている。それを見ている人は、必ずいる。……俺も、お前を見ている」
今回、順位が上がっていて良かったな。また、部活も勉強も頑張るといい、と。頭をぽんと撫でてくれて。
それで、僕が後日、あのとき庇ってくれたお礼に、ってクローバー先輩と一緒に作った、木苺のタルトを持っていったらさ。
箱からひょいとひとつタルトを取って、ひとくちぱくりと食べて、親指で、口元についたクリームを拭ってさ。
「……うまい。ありがとう」
って、眩しいくらいの笑顔で、優しく笑うから。
僕は。……シルバー先輩のことを、好きになってしまった。
それで、僕は。今、こんな風に、シルバー先輩と、夕方だけの平和で穏やかなひとときを過ごすようになった、んだけど。
……その平穏は、長くは続かなかった。
だって僕は、言われたんだ。
廊下で、すれ違いざまに。
『お前、あんまり調子乗ってんなよ?』とか。
『シルバー先輩に近づくな』『問題児のクセに』……って。
僕は、そんな雑音、気にすることはないと思っていて。だけど、やっぱり優等生を目指しているのに、人からはいつまでもそう見られてるんだ、って。気が重くなることもあって。
「デュース、どうした? ……なんだか、気が重そうだが」
「あ……なんでもないです。明日の小テストの出来が心配なだけで」
「そうか」
そうだ。だからってあんまり暗い顔して、シルバー先輩に迷惑や心配はかけてらんないな。それに、僕に対して『シルバー先輩に近づくな』なんて、お門違いもいいところだ。だって。シルバー先輩から直接聞いて、僕は知っている。
シルバー先輩には、今、『好きな子がいる』ってことを。
きっと、それは僕じゃないのかもしれない。でも、一縷の期待を持ってしまってもいいのかもしれない。だけど、多くを望んだりはしない。僕は、今、こうして。
蝉時雨の中、シルバー先輩と、自販機前で、夜が始まるその瞬間まで、ちょっとお喋りできるだけで、それでもう、十分だから。
そう、思っていたら。ふと、シルバー先輩が言った。
「……なあ、デュース。明日も、こうしてまた、会える、だろうか?」
「え? はい、また明日もここに来ると思い、ますけど……」
何か僕に用事でもあるんですか、と尋ねると。シルバー先輩は、ああ、と頷いた。
「……大事な、話がある。だから、その。明日、この時間を……少し、俺のために、もらいたい」
「大事な、話……? それって、いったい何の……」
「……それも含めて、また、明日に。悪い話では、ないと思う。だから……」
明日を楽しみに、俺のことを考えて、待っていてほしい。
そう告げて、それじゃあ、今日はこれで、と立ち去るシルバー先輩に、ひとりベンチに残された僕は。
(……明日、大事な話がある、って。なんだろう……? まさか、告白、とかじゃない、よな……? ……まさか、まさか、だよな……。いや、でも、あの、言い方……や、でも……!!)
ひとり、ぐるぐると。ずっとシルバー先輩のことだけを考える羽目になったのだった。
それで。次の日の放課後。今日はずっと、ドキドキしたまま、授業にも実験にも、集中できなかった。何を考えていても、シルバー先輩のことだけが浮かんでさ。部活では火照る頬を誤魔化すようにして、グラウンドの中を走り抜けたよ。
それで、部活終わり。シルバー先輩が待つ、自販機前へと向かった。
そうしたら、もうシルバー先輩はそこで待っててさ。冷たい缶コーヒーを手にしてた。
「……来たか」
そうして、空っぽだったらしいコーヒーの缶をごみ箱に放って。
それで。僕に向き直った。
「では、さっそくだが、本題に入らせてもらってもいいだろうか」
「どっ、どうぞ……っ」
僕が少し緊張して答えると。シルバー先輩は、ふっと笑って、その言葉を口にした。
「……好きだ、デュース。俺と、恋人として、交際をして……付き合って、欲しい」
僕は、うわこれガチだ、ガチのやつだ、どうしよう嬉しい、って一瞬で頭の中がぐるぐる巡って。固まってしまっていると。
「……その、いけなかった、だろうか?」
と、シルバー先輩が、困ったように笑うので。
「い、いえ!! その、嬉しすぎて、固まっちまっただけで……っ!! ……僕で良ければ、よろしくお願いしますっ!!」
「……本当か!? 嬉しい、デュース。では、これから……恋人として、よろしく、頼む」
「はっ、はい……!」
そうして。僕は、シルバー先輩と、付き合うことになったんだ。
その夜、僕はハーツラビュルの寮の、自分の部屋のベッドの中で。
(嬉しい……!! めちゃくちゃ嬉しい!! まさか、シルバー先輩も僕のこと……!! 僕と同じように、思ってくれていたなんて!!)
そんな風に、浮かれていたけど。でも。ふと、頭の中をよぎる声があった。
『シルバー先輩に近づくな』
『問題児のクセに』
……そんな、周囲の雑音が。
だから僕は、ひょっとすると、シルバー先輩と付き合っていることは、あまり公言しない方がいいんじゃないかと思って。そのことをシルバー先輩に、メッセージで送ろうかと思ったけど。……送ろうとして、やめた。
そんなこと言ったら、どうしてだって聞かれて、余計ないざこざのことを話さなきゃいけなくなりそうだし。それに、『俺とのことは堂々と言えないのか』って、シルバー先輩を悲しませたくないし、な。
それで、翌朝。廊下を歩いていると。
僕は、いきなりどっかの空き教室へ引っ張り込まれて。
それで、数人の男に囲まれた。同級生も、先輩もいるみたいだ。
「お前さ、ウチのシルバーと付き合ったんだって?」
「……それが、なんですか」
どうやら、ディアソムニア寮の先輩みたいだ。耳が早いっていうか、シルバー先輩自身がディアソムニア寮の中で、誰かに報告したのかもしれないな。
「お前、自分がシルバーに釣り合ってるとか思ってるワケ? 問題児のクセにさ。アイツ、あれでもさ、ウチの寮では優秀な方なんだよな」
先輩の影に隠れていた同級生っぽいやつも、僕に何か言ってくる。
「お前さ、シルバー先輩がどんだけ色んな奴から憧れられてるか分かってんの? ぽっと出の問題児の男が、横を独占していい相手じゃねえんだよ」
「……つまり、アンタら。僕に何が言いたいんだ?」
僕が聞き返すと。このグループのリーダーっぽい男が、足で僕の横の壁をドンと蹴り、低い声で言った。
「身の程を知れ。早く、別れろよな。ハーツラビュルの雑草が」
そうして。今日はこれくらいで勘弁してやるよ、と。
僕を囲んだ学生たちは、その場をぞろぞろと立ち去って行った。
……僕は。シルバー先輩も、人気者で大変だな、と溜め息を吐く。
大丈夫。まだ、僕は頑張れる。耐えられる。僕が負けなきゃいい話だ、こんなのは。そう思って。なんでもない顔で、教室に帰った。
帰った、あと。部活中、シルバー先輩のことをじっと見て。
……そりゃ、嫌がらせみたいなことも言われるし、されるよな、って思った。
だって。あんなにシルバー先輩は、白馬の似合う、格好良くて、渋くて、完璧で。誰よりもお父さん想いの、優しくて素敵な先輩なんだから。そりゃ、誰でも憧れるし好きになる、って。思った。僕じゃなくても、さ。
それで。放課後また、シルバー先輩と、癒しのひとときを過ごして。
「デュース? ……なんだか少し、疲れているか?」
「はは、部活頑張りすぎましたかね。……ところで先輩、ディアソムニア寮で、誰かに僕と付き合ったこと、言ったりしましたか?」
「ああ。マレウス様と、親父殿。それからセベクには報告した。するとマレウス様が、終礼に置いて、祝ってやるように、とその報告をされて。……少し照れくさかったが、ありがたいと受け取った」
「そうでしたか、それで……」
「……誰かが、お前に何かを言ったのか?」
「ああ、いえ。おめでとうって言われただけですよ」
「そうか。それなら、いいのだが」
そう、それはまだ良かった。僕は、男同士のことなら、跳ね除けられる。
正々堂々とぶつかられたなら、まだやりようはある。
そういうことが、二日、三日。1週間、と続いても。
……でも。こういう絡め手には、ちょっと弱かった。
同級生らしき男子に呼び出されて。そしたらそこに、なぜか知らない女の子がいてさ。
「なっ、なんで女の子がウチの学校の敷地に……っ」
「いいだろ、そんな細かいことは。それよりさ、」
と、その女の子を庇うように立っていた男子は、僕に向けて言う。
「こいつさ、俺のダチなんだけど。ずっと前からシルバーのこと好きだったらしくてさ? ぽっと出の問題児、しかも男に奪われるなんて我慢ならないらしいのよ?」
僕はそう言われて、そう来たか、と。息を呑む。
「女の子泣かせる男なんて、最低だってお前も思わね?」
「それは……っ、そう、かもしれない、けど……っ」
すると女の子も、泣き出してしまって。
「あた、あたしの方がっ、1年のアンタよりも先に、シルバーくんのこと知ってて、それで、先に好きだった、のにぃ……っ」
って。女の子を泣かせてしまった、という罪悪感で、僕はいっぱいになって。でも、だからってはいそうですかとシルバー先輩を譲ります、なんて言うワケにもいかなくて。
迷って。迷って。どうしたらいいって、迷いに迷って。
「オイ、なんとか言ったらどうなんだよ!?」
ようやく口に出来た言葉は。
「女の子を泣かすのも、良くないって、それは、そう、なのかもしれないけど……っ、それでも、ごめんけど、それでも僕は……っ、あの人の隣を、譲りたくないんだ!」
本当にごめんけど、と。僕が叫んだとき。シルバー先輩が、やってきてさ。
「何をしている!? ……何故、ここに女子が? 学園の敷地内に、許可もなく部外者を招いたのか!?」
って、その場の情報を紐解こうとして。
そしたら泣いてた女の子が、言って。
「あ、あの、違うの、私、ただシルバーくんのことが好きで……っ!」
そうしたら、シルバー先輩は、こう言って。
「……すまないが、君は誰だ? いきなり好きだと言われても、俺は君のことを、よく、知らないのだが……」
「えっ、麓の街で、よく、会う……」
「……ええと。どこかの店員、とかか……? すまない……覚えていない」
女の子は、好きな人に知られていなかったショックのあまりか、その場を泣きながら走り去ってしまって。一緒にいた男も、あっ、オイどこ行くんだよ、とその子を追いかけて。
その場には、呆然とする僕と、シルバー先輩だけが残された。
僕が、気まずくて振り向けないでいると。シルバー先輩は、言った。
「デュース。先ほど、オルトとエペルが、俺のことを呼びに来たぞ。……こういうことは、これが、初めてじゃないな? どうして、言ってくれなかった」
アイツらが、余計なこと、と僕が思いながら、しどろもどろになって答えると。
「それは、その……っ、……こういうのは、シルバー先輩の傍にいるなら、避けられないことだし、僕が負けなきゃいいって思って……!!」
そうしたら。シルバー先輩は、悲しい顔をして、言うんだ。
「……それでも、告げてくれ。教えてくれ。心配だし、守りたいから。強いお前には、俺に守られるなんて、癪なのかもしれないが……。俺のことを、もっと、頼ってほしい」
そうして。僕の身体を、ぎゅっと。強く優しく、抱きしめるから。
僕は。
「……シルバー、せんぱい……っ」
「ああ」
「僕、付き合う前も、付き合ってからも、みんなに、いろいろ言われて……っ、悔しい……!! 僕、もっとアンタと、釣り合うような人に、なりたいです……っ!!」
「お前は、お前のままで、お前なりのペースで、いいんだ。……もう、誰にも、文句を言わせない。俺が……」
これからは、ちゃんと守るから。だから、ひとりで我慢して、耐えないでくれ。
そう告げるシルバー先輩の言葉に、はい、と。僕は頷いて。
「隠しごとしてて、すいませんでした……」
「……ああ。もう、このようなことは、無しだぞ。約束だからな」
そうして、指切りをした。
それから。シルバー先輩が何か言ったのか、ディアソムニアの人たちからの嫌がらせとか絡みは、さっぱり減った。僕に物申してきた女の子と男の話も、よくよく聞けば男の方がその女の子を好きで、何か少しでもその子のためにしてやりたくて、その当たり先が僕に向かうくらい、拗れていたらしい。
そして、今日も僕はシルバー先輩と、自販機の前で、夕涼みをする。
「……デュース。また、大変な目には遭っていないな?」
「ほんとに大丈夫です。心配しすぎですよ、もう」
「前科があるからな、お前には」
そうしてつーんとした顔で、本当に大丈夫だな、と今日も僕を心配してくれるシルバー先輩に、僕は。本当に大丈夫だから、もっと楽しい話をしましょう、と笑いかけて。ああ、そうだなと笑顔を返してもらって。
「それじゃ……今日も、乾杯!」
僕らを彩る日替わりの飲み物は、今日はカフェラテと缶コーヒーで乾杯をして。
僕は今日も、僕の特別なシルバー先輩と、普通の恋をする。
それで、シルバー先輩には。頼ってくれって言われたとはいえ、まだまだ頼り切れてない部分もあって、ときどき怒られもするけど。でも、そんな風に、大事にされてないわけじゃないって分かるから。だから、僕は今日も、どんな困難があっても、この恋を守ろうと、身体を張って、踏ん張っていけるんだ。
*おしまい
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