ホンネ

 今日の補習は魔法薬学の実験だ! 授業中に居眠りしていたことで補習にかかったシルバー先輩と一緒に、魔法薬を作る。
 簡単な傷薬のレシピを調合するはずだったが、案の定、材料を適当に入れ間違えて、事件は起きた。
 かき混ぜていた大鍋が爆発し、咄嗟に僕を庇ったシルバー先輩が頭から薬と煙を被ってしまったのだ。
「すいません! 大丈夫ですか、シルバー先輩!?」
「ああ、問題ない……大丈夫、だ」
 煙が晴れる。シルバー先輩はいつも通りの凛々しい顔をしていた。良かった、大丈夫そうだ!
「すいません……また僕やっちまいました……」
 しょげていると、シルバー先輩が僕の頭をぽんと撫でた。
「大丈夫だ。確かに、お前は少しそそっかしいところがありはする。だが、俺はそんなところも可愛いと思ってはいる。なんにせよ俺が傍にいて、守ってやれたら嬉しい」
「うぇっ!? い、言いすぎですよ……!!」
 僕が照れるのと同時に、シルバー先輩は、自分の口を塞ぐ。……どうしたんだろ?
「……な、何故だ? そこまで言うつもりは、なかった、のに。何故か口から勝手に、本音のようなものまで漏れ出てきてしまった」
「本音……!? あれが……!?」
 僕が驚いていると、僕らの様子を見ていたクルーウェル先生が言った。
「BAD BOY!! どうやらお前たち、またしても調合を間違えたらしいな? 様子を見るに、今回は『心の中の本音が出る薬』を作って被ったようだな。これ以上薬を被るのも良くないから、補習はまた次に回してやる。スペード、お前はシルバーが治るまで、責任を持って世話をするように! では、解散!」
「これどれくらいで治るんですか先生っ!!」
「調合次第だ! まあ最悪でも1日経てば治るだろう、そう量の多い薬じゃないはずだ」
 そうして、残された僕らは。
「と、とりあえず。ノートとか買いに行きましょうか、筆談とかも出来た方がいいかもしれないし……」
「ああ……そうだな。面倒をかけて、すまない。だがお前と合法的に過ごすことができて、嬉しい」
「僕と過ごすのに合法とか違法とかあるんですか……!?」
 魔法薬学室を出て、過ごすことになったのだった。

 それから、僕たちは筆談用のノートを持って、いろいろ検証してみることにした。
「本音が出るのは、僕にだけなんですかね? 他の人にも?」
「先生の口ぶりからすると、誰にでも本音が出そうだ。試しに誰かに話しかけてみるか」
 ちょうどそこで通りすがったローズハート寮長に、声をかけてみる。
「すいません! ローズハート寮長。ちょっといいですか?」
「ああ、シルバーにデュース。どうしたんだい?」
「リドル。実は、今、失敗した魔法薬を頭から被ってしまって、やたらと本音が出るようになった。困っている」
「そうなの? キミ、元々本音で話すタイプだし、あまり困っているようには見えないけど」
「いや、困っている。さっきからデュースにやたらと可愛い可愛いと言ってしまって、実際可愛いし、そう思っているのだが、それが口に出てしまって、だから、その、つまり……見ての通り、困っている」
「……ああうん、なるほど。それは困ったね」
「僕可愛くないですよ! シルバー先輩!」
「可愛い」
「あまり困ってなさそうに見えるけど、まあ、シルバーからすれば困っているのは分かったよ。それならいっそ、治るまでは出来るだけ誰とも話さないようにするとか、デュースのことを考えないようにするとか。その手元のノートを使って、筆談をするのもいいんじゃないかな」
「ああ。俺も、そう思う。だが、先ほど筆談を試したら、なんというか。手間がかかって、本音が多少出ていようとさくさく喋れた方がマシだと感じた。つまり、面倒になった。そして、デュースのことを考えないのは、無理だ。この頃いつも、暇があればデュースのことを考えてしまっていた。今頃アイツは何をしているのだろう、何か可愛いことをしでかしているのだろうか、と」
「……キミがデュースを好きなのはよく分かったよ」
「困った……まだ告白もしていない……」
「そ、そう。ならまずはそのことについてを話し合うべきなんじゃないのかな、うん」
「そうだな。ありがとう、リドル。たまにおかしなことを言うが、お前は基本的に頼りになる」
「ありがとう。なんだか引っかかる言い方だけれど、本音の褒め言葉ということで受け取っておいてあげるよ。……大事な話をするのなら、人気のない場所へ向かった方がいいんじゃないかな。キミたち、よく学園裏の森の方にいるだろう。あの辺りとか、植物園とか。人がいなくて静かな場所で改めて話しなよ」
「はいっ! ありがとうございます、ローズハート寮長!」
「規則通りの時間には寮に帰って来るようにね。それじゃボクは次の予定があるから、これで失礼するよ」
 そうしてローズハート寮長は去っていく。
「じゃあシルバー先輩、僕らもふたりで静かに話せる場所に行きましょうか!」
「……ふたりきり、か。そう言われると、少し、緊張するな……」
「なんか僕まで緊張してきます! シルバー先輩!!」
「ふっ、そうか。可愛いな」
 そうして僕たちはローズハート寮長の助言を受け、改めてふたりになれる静かな場所を探し、学園裏の森へと赴くのだった。

「ここまで来れば大丈夫かな! シルバー先輩、この辺静かですよ! うさぎと小鳥とリスはいますけど!」
「そうだな。みんな可愛い。お前含め」
「僕小さい動物じゃないですっ」
「似たようなものだ」
 そうして学園裏の森の湖畔に腰かけ、僕たちは改めて話をする。
「では、改めて話すことにしよう。俺がお前のことを、四六時中考えてしまい、しかもだいたい可愛らしいと思っていることがバレてしまったことについて、だが……」
「僕そんな言われるほど可愛くないですってば! ……でも、へへっ」
「なんだ? 可愛い笑い方をして」
「もしかしてシルバー先輩、僕のこと好きでいてくれたのかなって思って! ……えっと、その。僕も、シルバー先輩のこと、好きだったから……」
 だからそうだったら嬉しいなって、と言うと、シルバー先輩は赤くなった顔を抑えた。
「……今それを尋ねるのは、ずるいだろう……。ああ、好きだ、デュース。そういう、少しずるいところも、好きでたまらない」
「えへへっ! それなら、嬉しいです!」
「……可愛い。抱き寄せてキスしたい……」
「えっ、キ、キス、ですか!? ま、まだ早いですよっ! 今好きだって言ったばっかりなのに、そういうことしたら、なんか、なんていうか、その……!」
「なんだ? 教えてほしい。知りたい、デュース」
「い、嫌なわけじゃないんですけど! なんていうか、その……。え、えっちじゃ、ない、ですか……」
「……可愛すぎる」
 そう言ってシルバー先輩は、僕をその場に押し倒し、ちゅ、ちゅ、と前髪と額にキスを落とす。
「せ、せんぱいっ!? だめです、僕……っ」
「可愛い……デュース。口にはしない、安心しろ。ただ、お前への愛しさが溢れて止まらない」
「ほぁあああ……っ!! む、むりです、せんぱい、もう僕、だめです~っ!!」
「無理じゃない。可愛い、デュース」
「へぁぁあ……っ!!」
 そうしてしばらく、僕はシルバー先輩にたくさん頬やこめかみにキスをされて過ごした。

「そろそろいいか。改めて、お前は俺のものだと感じられて、良い時間だった」
「ぼ、僕は心臓がバクハツして死んじゃうんじゃないかと思いました……」
「……嬉しい、デュース。もうこれからは恋人同士、ということでいいんだよな」
「はっ、はい。そうなる、んですかね!? な、なると思います……。……恋人、恋人同士、か。へ、へへ……っ」
「くっ、可愛い」
 そんなことをしているうちに、日が沈んできたのを僕らは見つける。
「暗くなりそうですね。そろそろ寮に帰らないと」
「そうだな。名残惜しい。このままお前を寮まで持ち帰りたいが、ハーツラビュルに帰してやらなければリドルに怒られてしまう。怒ったときのアイツは恐ろしいからな」
「ははっ、確かにそうですね! シルバー先輩、寮では大丈夫そうですか? これ筆談用のノート、一応持っていってください!」
「ありがとう。お前は、細かいところに気づける子だな。そういうところが、好きになった」
「えへへ……っ、ありがとうございますっ」
 そうして僕はたくさん好きだ、可愛いって言ってもらいながら、シルバー先輩を鏡舎まで送り届けた。
「じゃあ、また明日! 早く治るといいですね!」
「ああ。……お前は少し、治らなくてもいいと思っていそうだが。まあ、それだけ嬉しいと思ってくれているのなら、俺も嬉しい。また、明日」
 そうして僕たちは、いったん別れることになった。

 それから、翌日。朝から姿を見かけたシルバー先輩の元に、僕は駆け寄る。
「シルバー先輩! おはようございますっ、治りましたか?」
 そうするとシルバー先輩は言う。
「おはよう、デュース。今日も可愛いな……」
「あれっ!? まだ治ってないですか、シルバー先輩! おかしいな、一日経てば治るって……!!」
 僕が慌てていると、シルバー先輩は首を振った。
「大丈夫だ。あれから無事、治っている。一晩寝たら、治った。今朝、親父殿やセベクとも治ったことを検証済みだ」
「そうなんですね! 良かったです。あれ、じゃあ、今のは……?」
 僕が首をかしげると、シルバー先輩は、慌てたように手を振った。
「あ、ああ、いや、ええと、その……っ! ……今のは、ただ……。本音が、普通に漏れた、だけだ……」
「そ、そうだったんですね……っ! たくさん可愛いって思ってくれて、ありがとうございますっ! す、好きだって言われてるみたいで、なんていうか、だんだん嬉しくなってきました!!」
「……ああ……」
「……そうだ! 先輩、耳貸してくださいっ」
 そうして僕は、なんだか嬉しくなって、シルバー先輩の耳元にささやく。
 たくさん可愛い、好きだって言ってもらえたから、僕もなんか、お返ししたくなったんだ。
「僕もシルバー先輩のこと、大好きです! 僕の本音ですからね、これ!」
 そうして、逃げるようにパタパタと廊下を走って去り。一瞬だけちら、と振り向くと。
「……」
 真っ赤になって顔を押さえているシルバー先輩が目に入って。
 シルバー先輩、今度はどんな本音を抱えているんだろうな、なんて。
 大好きな恋人の持つ本音を、いろいろ楽しみに考えるのだった。

*おしまい

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