・7年後くらいの未来設定(シルバー24才茨の谷近衛兵、デュース23才警察官見習い)捏造
・茨の谷にも電話機器などを使える程度の電気は通った、デュースが優等生になっている、などの未来捏造あり
・白うさイベ、星送りイベのバレあり
・付き合っている設定
・呼び名、口調改変あり
↓大丈夫な方は本文へ
「星を、見に行かないか?」
久しぶりに会ったシルバー先輩は、そんなことを口にした。
僕たちはナイトレイブンカレッジに在籍した学生時代から付き合っている、いわゆる恋人同士だ。高校一年生のときから付き合ったから、もうあれから7年にもなる。7年もあれば、いろんなことが変わる。シルバー先輩たちの住む茨の谷には電気が通っていなくて、機械や電化製品に全然馴染みがなかったらしいけど、なんだかいろいろあって、環境を壊さない程度に最低限の電波が通り、電話くらいは使えるようになったらしい。それでもまだまだ、茨の谷の人たちには機械は普及していないそうだけど。
それで、最初の頃は文通でくらいしかやり取りできなかった僕とシルバー先輩も、最近ではスマートフォンを介してのやり取りでこうして前よりも頻繁に会うことができるようにもなったっていうわけだ。それでもやっぱり、薔薇の王国と茨の谷は遠いから、なかなか会える機会は少ないんだけどな。
そんな中、まとまった休日が取れたからと薔薇の王国へ来てくれて、久々に会ったシルバー先輩が、なんだかそわそわとした態度で言った言葉が「星を見に行きたい」という誘いだった。
「星って、プラネタリウムとか……ですか?」
「それも考えたのだが……今回は、野外での天体観測になる。近く、流星の夜があるそうだ。だから、お前も共に見られれば、と思った」
「いつ頃の予定ですか? 茨の谷で?」
「ああ。場所は茨の谷になる。そうだな、日付は……今日から数えて、二週間ほど後になるだろうか」
「そうですね……」
僕はぱらぱらとスケジュール帳をめくる。その辺りなら、ちょうど連休だ。茨の谷への旅行予定も組めるだろう。
「大丈夫そうです!」
「良かった」
シルバー先輩はあからさまにほっとした安堵の息を吐く。……どうしたんだろう? デートの誘いなんて、これが初めてじゃないのに。今日はなんだかやけに緊張しているな。
「どうかしましたか?」
「い、いや。なんでもない。それでは、当日の交通手段などの予定を詰めていこう」
「はい」
シルバー先輩と相談し、前日と当日の旅程を決めていく。茨の谷へ着いたらすぐにシルバー先輩が迎えてくれるとのことだった。
シルバー先輩との約束前夜。船を降りた僕を、シルバー先輩が迎えてくれた。
「予定通りだな。何事もなく到着したようで良かった」
「へへっ。船旅、けっこう楽しかったです」
「宿は予定通り、俺の家でかまわないな?」
「はい。ヴァンルージュ先輩に会うの、久々だな……」
シルバー先輩には、もうヴァンルージュ先輩との関係を聞いている。初めて聞いたときはびっくりしたけど、シルバー先輩が当然だけど当たり前にヴァンルージュ先輩のことをお父さんとして扱うから、今はもう僕もその態度に慣れたものだ。ヴァンルージュ先輩は元々、僕のことを気にかけてくれていた、尊敬できる先輩のひとりだったしな。
とはいえ、恋人のお父さんとなるとまた話は変わってくる。失礼がないように気張らないと、だ。
「お邪魔します!」
シルバー先輩に案内された家の玄関で、気合いを入れて挨拶すると、NRCにいた頃と変わらない姿のヴァンルージュ先輩が僕たちを迎えてくれた。
「おー、相変わらず元気じゃのう。久方ぶりじゃな、デュース。シルバーから話は聞いとるぞ、さ、入れ入れ」
「ただいま戻りました、親父殿」
「うむ! 何事もなかったようで何よりじゃ」
ヴァンルージュ先輩はにこにこと僕たちを迎え入れる。そして、その部屋の奥では、腕を組んだ元同級生が僕たちを睨みつけるような笑顔で立っていた。
「よくぞ来たな、デュース! 茨の谷の素晴らしさを存分に味わっていくといい」
「セベク、いたのか。久しぶり」
「すまない、デュース……。セベクの奴、お前がここへ来ると聞いてから、ずっと入り浸っているんだ」
はあ、とシルバー先輩は溜め息をつく。
「セベクだけではなく、僕もいるぞ?」
「マレウス様!?」
「ドラコニア先輩!」
ドラコニア先輩が来ていることはシルバー先輩も知らなかったようで、一緒に驚くことになる。
「ふふ、懐かしい学友がこの地を踏むと聞いてな。つい、様子を見に来てしまった」
「そうだったんですね! お久しぶりです、ドラコニア先輩!」
「ああ、久方ぶりだな、スペード。瞬きの間だが、心ゆくまでこの地での滞在を楽しんでいくと良い」
学生時代と変わらない空気に、なんだか笑ってしまう。
「みんな変わらないな! まるで学生時代に戻ったみたいだ」
「はっはっは。良いことじゃ。さ、デュースよ。長旅で疲れておろうが、今日はこやつらの相手をしてもらえるかのう。見ての通り、おぬしが来るのを相当楽しみにしとったんじゃから」
「もちろんです!」
ヴァンルージュ先輩に歓迎されるままに、セベクやドラコニア先輩と歓談を始める。その日の夜は、いつまでも灯かりが絶えることなく思い出話が盛り上がった。
それから夜も更け、セベクもドラコニア先輩もそれぞれの家に帰って、翌日。目覚まし時計のアラームを止めると、ヴァンルージュ先輩もシルバー先輩もまだ眠っているようだった。茨の谷の人たちに比べると、ちょっと早く起きすぎたかな。起こさないように客用のベッドを抜け出したはずなのに、ヴァンルージュ先輩は僕の気配に気付いたのか起き出してしまった。
「ふあ~。デュース、おぬしは起きるのが早いのう。わしは朝は苦手じゃ……」
「すいません、起こしちゃいましたか?」
「うむ、かまわぬ。朝の身支度にはその辺りを使って良いぞ」
ヴァンルージュ先輩に言われるままに流し台や井戸を借り、顔を洗って歯を磨き、朝の身支度をする。
「そうじゃ。シルバーが起きる前に、ちょいとあやつを驚かしてやらんか?」
「驚かす、ですか?」
「うむ! せっかくおぬしがおるんじゃからな。くふふ、あやつどんな顔するじゃろうなあ!」
それからヴァンルージュ先輩……。いや、リリア先輩と少し悪だくみをして、朝食の準備をした。昨晩、シルバー先輩から絶対に親父殿には何を言われても台所の主導権を握らせるなと言われていたから、その通りにして。
「なんじゃ、さてはおぬしシルバーの奴に入れ知恵されたな?」
「あはは……でも、お世話になってるだけなのが嫌なのは本当なので。朝食くらいは、僕が作りますよ」
「ううむ。まあ、そこまで言うなら今日のところはお世話になるかのう」
「と言っても、簡単なものしか作れないですけどね……。でも、目玉焼きには自信あります!」
リリア先輩とお喋りしながら、ソーセージやベーコンを炒め、卵を焼いた簡単な朝食を作っていく。良い香りが漂い始めたところで、いくつものけたたましい目覚まし時計の音が鳴った。その中には以前、僕が学生時代に声を吹き込んだ時計も混ざっている。
『オラァーーー!!! さっさと起きやがれーーーっ!!!』
……うん、相変わらず、この声がリリア先輩も住む家に響いていると思うと微妙な気持ちになるな。以前、吹き替えさせてくださいよと頼んだことがあったけど、シルバー先輩はこれが起きられるし、学生時代のお前の声を思い出せるのが嬉しいからと言って、頑として譲らなかったんだ。
「ううん……」
シルバー先輩はそんなやかましい目覚まし時計が鳴っていても、まだ布団の中でもだもだしている。リリア先輩と目を合わせ、うなずいて構える。リリア先輩が耳をふさぐと、僕はフライパンをお玉で叩きながら叫んだ。
「シルバー! もう朝だぞ、起きろ!!」
ガンガンと鳴る音と共に、大声でシルバー先輩を呼び起こす。すると、シルバー先輩はうるさそうに布団を被るような動作をしてから、少し動きを止めた。
「………………はっ!?」
シルバー先輩は飛び起きて、まわりを見渡す。
「デュース? 今、なぜ……?」
「ははっ、おはようございます、シルバー先輩!」
リリア先輩と手を合わせ、大成功とはしゃぐ。そんな僕たちの姿に、シルバー先輩は朝から驚かされたのだと理解したようだった。
「リリア先輩、大成功ですね!」
「うむ、そうじゃのう!」
シルバー先輩はまだ、何か違和感がある、というような表情を浮かべている。いつ気付くだろうと僕たちがにやにやしていると、ようやくシルバー先輩は合点がいったようだった。
「……俺が寝ている間に、随分デュースと仲良くなりましたね、親父殿。いつから名前で呼ぶようになったんですか……」
「はっはっは! いつまで経ってもおぬしが起きんから、悪だくみついでにちょいと親睦を深めてやっただけじゃ! 良いじゃろ?」
「まったく……。さっきのも、悪だくみの一環か?」
「さっきの?」
僕が首をかしげると、シルバー先輩は僕の額を小突いた。
「シルバー、と呼んで起こしていただろう。驚いたぞ」
「ああ、はい。リリア先輩が、朝から呼び名が変わっていたらきっと驚くぞ、って」
「……まったく。朝から賑やかなことだ」
そう言いながらもシルバー先輩は嬉しそうにほほ笑んで、表の井戸へと顔を洗いに行く。その後も午前中は半ばリリア先輩と遊ぶようにしながら、洗濯などの家事を手伝った。
それから、約束の夜が来た。シルバー先輩に連れられるままに、天体観測会が行われるという高台へ飛んで行く。
「このあたりでいいだろう」
箒から降りて、着地する。学生時代は着地が下手だったけど、今はもう練習して慣れたものだ。だから、手を差し出してくれたシルバー先輩の手を取りながらふわりと着地することだってできる。
「上手になったな」
「優等生として、たくさん練習しましたから!」
ふふんと得意げにすれば、シルバー先輩はぽんぽんと頭を撫でる。もう、いつまで経っても子供扱いなんだからな。僕、もう23だぞ。
シルバー先輩はシートを広げて、地面に敷く。
「天体観測会と言っても、集まって何かをするわけではない。ただ、星を見に来た人たちのために場所を用意しているといった形の自由な催しだ」
「そうなんですね。星の解説とかあるのかと思ってました」
「受付に行けば、辞書や星座盤の貸出などはやっているそうだ。だが、あくまでも自由に星を楽しんで欲しいというコンセプトらしいな」
「へえ! なんだかおおらかで、いいイベントですね」
シートに座り、シルバー先輩と喋りながら空を見上げていると、キラリと夜空に光るものが走る。
「……あ! シルバー先輩、あれ! 流れ星じゃないですか?」
「ああ。話した通り、今夜は流星の夜だ。あれだけじゃなく、もっと降ってくるぞ」
シルバー先輩の言葉通り、最初に流れた星を皮切りに、藍色の夜空には次から次へと流星群が降り注ぎ始めた。
「わあ……!」
「………………」
はしゃぐ僕を見て、シルバー先輩は柔らかくほほ笑む。もう、僕じゃなくて星を見に来たんだろ。
「シルバー先輩、なんで星じゃなくて僕を見てるんですか」
「ちゃんと星も見ている。お前越しに、だが」
「もう……」
相変わらず、ストレートすぎて恥ずかしいことを平気で言うんだからな。
それにしても、星が本当に綺麗だ。以前、学園での星送りのときは、僕はスターゲイザーとして舞に集中していて、長くは見られなかったから、今日はゆっくり見られて嬉しい。
「こうしていると、学園でのことを思い出すな」
どうやら、シルバー先輩も同じことを考えていたみたいだ。
「星送りのことですか? 僕も思い出してました」
「ああ。……忘れることはない。あれは俺が、初めてお前に目を奪われた夜だ」
顔が熱くなってくる。以前にも聞いたことはあったけど、シルバー先輩は星送りの夜、母さんからの電話で涙を流す僕のことを見て、僕のことを好きになったんだって。
その日から今日までずっと、いろいろなことがあったけど、シルバー先輩は変わらず僕のことを好きでいてくれている。それがなんだか、ありがたいと思った。
「あの日からずっと、ずっと……お前のことが好きだった。それは変わることがない、今までも、そしてこれからも」
「先輩……」
シルバー先輩は、ごくりと唾を飲むと、ポケットから何かを取りだし、それを僕に差し出した。僕の目の前に差し出されたのは、高級そうな小さな箱だ。これって、まさか。
「……これからも、俺の人生を隣で歩んで欲しい。結婚、という形にはならないかもしれないが……その誓いを、俺と立ててはくれないだろうか。俺の、新しい家族になってほしい」
「……僕で、いいんですか」
「お前がいい」
恐る恐る小箱を受け取り、中の指輪を見る。
「綺麗だな……。シルバー先輩の瞳と、同じ色だ」
「この日のために、新しく作ってもらったんだ。それで、その……、どう、だろうか?」
シルバー先輩はソワソワと僕の返事を待っている。そっか。それでずっと、あの日からソワソワしてたんだ。それなら、早く返事してあげなきゃな。
「……嬉しいです! これからも、ずっと一緒にいさせてください……!」
「ああ、もちろんだ。……ありがとう、デュース」
思わずシルバー先輩に抱きつくと、シルバー先輩は僕をしっかりと抱き止めてくれる。
それから、シルバー先輩は僕の耳元でささやいた。
「……もうひとつ願いごとをしてもいいだろうか?」
「なんですか?」
シルバー先輩の手が優しく頬に触れる。そして、とても優しい目でじっと真っ直ぐ見つめられた。
「これからは、伴侶として傍にいてほしい。だから、敬語で話すことも……『先輩』も、もうやめにしよう。……これからは、シルバー、と。そう呼んでくれないか」
「せんぱ……」
つい、先輩と呼びそうになった口を慌てて押さえる。ゆっくりでいいぞとシルバー先輩……シルバーは笑った。
「……シルバー」
「ああ」
ぽそりと名前を呼ぶと、シルバーは嬉しそうにほほ笑んだ。
「今朝は、本当に驚いた。俺が言おうとしていたことを、親父殿に先を越されてしまったから」
「ふふ、そうだったんだな」
口元に手を当てて笑うと、シルバーは少し恥ずかしそうに目を逸らした。あ、これはキスの合図だな。人から見られないようにって、まわりの様子を見てるんだ。
目を閉じて待っていると、やっぱりシルバーはキスをくれた。
「いつも、遠く離れていたとき……星を見上げる度に、お前のことを思い出した。同じ空の星の下、どこかで懸命に生きているのだろう、と」
それでもいいと思った、しかし、とシルバーは続ける。
「お前が、もうじき警察学校を卒業すると聞いて……もっと近くで、一緒に生きられたらと、未来を思い描いて……言わずにはいられなかった」
「シルバー……」
星明かりに照らされたシルバーの顔に、今度は僕の方からキスをする。
「……茨の谷に、配属希望出さなきゃな」
「ああ。この誓いを現実のものにするには、まだたくさんの準備をしなくてはならないが……きっと、俺とお前であれば、乗り越えていけるだろう」
流れる星の空の下、二人きりの高台でぎゅっと手を繋ぐ。これからもたくさんのことがあるだろうけど、僕たち二人ならきっと乗り越えて行けるはずだって、そう信じて。
*おしまい
※コメントは最大1500文字、10回まで送信できます