・雪の精霊シルバー×死神デュースの人外パロです。
・年齢逆転要素アリ。
以上大丈夫な方はスクロール↓
引っ越し先候補の下見を繰り返し、荷造りも少しずつ済ませて、引っ越し準備も佳境に入ってきた頃。それはシルバーのひょんな疑問から始まった。
「最近、街にたくさんチョコレートが売られている。あれはなんだ?」
「ああ、それは近々、バレンタインってお祭りがあるからだよ」
「バレンタイン?」
「好きな人や恋人に、チョコや花束とか、特別な贈り物をする記念日のこと」
「そうなのか」
「せっかくだし、息抜きがてらフェアとか見に行ってみるか?」
「人間界の祭りか。見てみたい」
というわけで、後日。シルバーを連れてデパートのイベント会場へやってきた。
天井には『デザートフェスタ~バレンタインチョコレート特集~』という、リボンを模したピンクの垂れ幕がかかっている。
お客さんは他にも大勢いるが、たいていは女の子か、男女のカップル客でごった返している。
「男2人だと目立つか? でもまあ、男だけの客も他にいないわけじゃないしな。チョコレート目当てってこともある。ともかく、行ってみようぜ」
「ああ」
会場へ入ると、あちらこちらで各ブランドのチョコレートの売り子が呼び込みや営業をかけている。男2人連れでは目立つかと思ったが、みんな、自分の愛やチョコレートに夢中で、まわりの人を気にしている余裕などなさそうだ。この分なら大丈夫だろうと、シルバーに目くばせをした。
「気になるチョコあったら、土産に買って帰るか」
「分かった」
シルバーは物珍しそうに、いろいろなチョコレートを見ている。
目移りしているようだったから、試食いいですか、と尋ねて一口サイズのチョコレートを食べさせると、パフ入りのホワイトチョコレートがお気に召したようだ。
「これは、サクサクしてうまいな」
「そっかそっか。じゃ、これ買って帰るか」
店員さんに声をかけて、シルバーの気に入ったチョコレートをいくつか包んでもらう。
なんか、シルバー見てると、人間界のうまいものとかいろいろ食べさせてみたくなるんだよなあ。僕だけか?
いやそんなはずないよな。だってこんなにキラキラした目で食べてくれるんだし。これを見たら大抵の人は餌付けしたくなる、はずだ!
なんて思いながらシルバーを眺めて包装を待っていると、仲良しなんですね、と店員さんにほほ笑まれてしまい、なんだか気恥ずかしかった。
「他に欲しいものはあるか?」
「あちらに動物の形のものがあった。白いウサギもあるだろうか。もしあったら、ユキにも写真を撮って見せてやらなくては」
まるで小さい子のようにはしゃぎまわるシルバーに、僕は、ははっと笑い声を立てた。
「チョコレートという菓子ひとつをとっても、こんなに種類があるものなんだな。デュースはどんなチョコレートが好きなんだ?」
「ん? 僕はそうだな、パフとかウエハースの入った、ザクザクの食感いいやつが好きだよ。薄いチョコレートがパリパリに固めてあるのもうまいよな」
「なるほど、そういうものを探せばいいのか」
「なんだよ、贈ってくれるのか?」
「贈る。花束とチョコレートだったな」
やけに気合入ってると思ったら、僕に贈り物をしたかったのか。まあそれはそれで困ることでもないし、なんか気合入ってるのも可愛いしな、と放っておくことにした。
しばらく、それぞれ思うままに会場をうろついていると、ふと、シルバーとはぐれてしまったことに気がついた。
(アイツ、この人混みの中、ひとりで大丈夫か?)
一応スマホにメッセージを入れてはみるが、既読はつかない。チョコレートの温度を保つためか、この会場はそんなに暖房が効いていないとはいえ、ひとりで歩かせるのは緊急時が心配だ。
今頃どこにいるのやら、とわずかに焦りを覚えながら、どうにか早く合流できるようにと入口近くで待つことにした。
『ねえ、どの味が好き?』
『これ可愛い~!』
『気に入ったの? 買ってあげるよ』
……そんな風にざわざわと騒ぐ人波を見て、なんとなく、シルバーが来る前のことを思い出した。 僕は、シルバーが来る前、今ほど明るくなかった。
長い間、今ほど笑い声を立てることも、あれこれ誰かを引っ張ってくことも、してなかったんだ。
人と交流するときはそりゃ、気丈に振る舞ってたけど、こんな風に人間界の祭りに出かけたりとか、エースやクローバーさん辺りから誘われれば付き合いこそすれ、自分からそうした発案をすることはなかった。
よく危険な仕事を引き受けて怪我をしていたから、その誤魔化しをするのが面倒で、療養中なんかでヒマなときは死神屋敷や人間界の自分の家に籠りがちになって、近隣の人間たちとの交流も最低限で済ませていたように思う。
その頃はよく、自分のことを、人間界で生きていた頃はもう少し明るい性格だったように思っていて、どうして、いつからこうなっただろうと感じていた。
自分でも気づかないうちに、落ち込んでいたというか。暗い性格になっていた、というか……。『死神』という役割や、張られたレッテルに引っ張られて、陰気に振る舞っていたのかもしれない。
だけど、今は違う。シルバーに人間界のことを教えるため、活動的になった。どこに行っても初めて新しい生き物を見つけた子どものように新鮮な反応を返してくれるシルバーがいるから、同じように自然体でいろんなことを受け止められて、自然と社交的になれた。
(……シルバーのお陰だよな)
口の端を傾けながら、もう一度、僕はスマホを手に取って、シルバーに通話をかけてみた。
するとすぐに、通話は繋がる。なんだ、向こうも困ってたんだな。
『デュース? 今、どこにいるんだ?』
「ふっ……」
電話口で迷子の子犬のような声を出すから、あんまり可愛くて笑ってしまった。
「入口だよ。ちゃんと待ってるから、楽しんできてもいいぞ?」
『回るなら、君と一緒がいい。入口にいるんだな? すぐに行く。なんなら今着く』
言葉通り、シルバーはすぐに入口へとたどり着いてきた。通話を切る間もないほどに。
シルバーの姿を見つけた僕は通話終了のボタンを押して、こっちだよと手を振った。
「あちこちの店に目を取られているうちに、はぐれてしまった。すまない」
「いいよ。楽しかったか?」
「ああ。だが、途中、いろいろな店の人に声をかけられて、歩くのが大変だった」
また知らないところでモテてたのかうちの王子様は、と笑えば、大変だったんだぞとシルバーはむくれてしまった。
「贈り物見つかったか?」
「すまない、君を探すのに夢中で忘れていた」
「僕はいいよ。もう十分、受け取ったから!」
シルバーは不思議そうな顔をする。
帰ったらじっくり教えてやるよ、と言って、フロアの影に隠れてそっとキスをした。
家へ帰り、不思議そうな顔をしているシルバーの口に、ぽいと買ってきたばかりのチョコレートを放り込む。
「!」
モグモグと咀嚼しているそれを、飲み込むか飲み込まないうちにキスをした。
舌を絡めれば、飲み込みきらなかったチョコレートのざらりとした食感と甘い香り、そして砂糖の風味が口の中に広がる。
「ん、ご馳走様?」
「……デュース、君というやつは……」
親指で唇を拭っていると、シルバーに睨まれてしまった。
「なんだよ」
シルバーは呆れたように小さな溜め息をついて、改めて問いかけてくる。
「さっき言っていた、贈り物を受け取った、とはどういうことだ? 教えてほしい」
「ああ、それな」
僕は、バレンタインフェアの会場で思っていたこと、感じていたことをシルバーへありのままに話す。シルバーが知りたいなら、なんだって教えてやる。僕が教えられることなら、なんだって。いつか巣立っていく日に、困ることがないように。たくさんの愛情を受けていたと、自信を持てるように。なんて、もはやちょっと親心みたいなものも持ってたりしてな。
「知ってるか? シルバーが来る前、僕はけっこう暗い奴になってたんだよ」
「そう、なのか? 君は明るいと思うが……」
「それは、今、シルバーがいてくれるからなんだよ」
「俺が? 俺は何もしていないが」
「そのままのシルバーが隣にいてくれるから、僕も自然体で明るくなれるってことなんだよ!」
照れくさくなってシルバーの髪を両手でわしゃわしゃと撫でると、シルバーは妙な顔をして、それからバタバタと外に出る支度をした。それから僕の両手をしかと握り、まじめくさって言う。
「……少し、待っていてくれ」
「お、おう」
どこかへ行ってしまったシルバーをのんびりと待っていると、やがてバタバタと急ぎ足で帰ってくる音が聞こえた。
「お帰り、どこ行って……」
「デュース、これを」
ずい、と目の前に差し出されたのは、チョコレート色の小さな花束で。
「花屋に行って、作ってもらってきた。君が俺の存在で変わったというのなら、俺だって、君の存在で変わっている」
「はは……そのために、走ってったのか」
シルバーから花束を受け取る。
「嬉しいよ、ありがとう。こんな可愛い花束、僕にはちょっと似合わないかもしれないけど……」
「俺は、デュース」
「お、おお」
ずい、とシルバーは迫ってくる。どうしたんだ、今日は一体。
「俺は……俺も、君と出会ってから、知らないことを知った。以前の自分とは、変わったように思う。君が笑うと、心臓が高鳴って、君が喜んでくれると思うと、ただのありふれた景色が、まばゆくて目が眩みそうなほど、燦然と輝く。君が悲しむと思うと、いろいろなものが恨めしくなって、君の目を俺から奪う他のものがやけに憎らしくて、そして何よりも、君がひとりで泣くなら、俺が傍にいるから、どうか笑ってほしいと願う」
「し、シルバー、待て待て……」
「何度でも言葉にする。君が好きだ、デュース」
直球。直球すぎる、愛の言葉だ。まっすぐすぎて、純粋すぎて、きれいすぎて、ああもう、眩しい。眩しくて……照れくさい。
「デュース、好きだ」
「分かった、分かったから、もう……どうしたんだよ、急に」
「君が俺に贈り物をもらったというから、俺も、君にたくさん貰っていると伝えたかった」
「……そっか」
シルバーの頭を宥めるようにぽんぽんと撫でると、シルバーは照れくさそうに言った。
「その……ベッドへ連れていっても、いいか?」
「……いーよ」
それから僕たちは、チョコレートの香りに眩むような甘い時間を過ごした。
*
ベッドに転がったまま、シルバーの背中に抱きつく。
「どうした? 身体が痛むのか?」
「んーん。……幸せだな、って」
「ふっ。そうか。……俺も、幸せだ」
「へへ。前もこんなこと言ったっけな?」
「いいじゃないか。何度言ったって」
シルバーは僕の額にキスを落とす。すっかり慣れた気になっちまって、まあ。なーんて、だいたい全部、僕が教えたんだけどな。……たまにどこで覚えてきたんだそんなの、ってことしてることもあるけどさ。
「僕ら、しすぎかもな?」
「そ、そうなのか?」
「んー、でもいっか。別に悪いことじゃないしな」
ならいいのだが、とシルバーは言う。あ、お前さては結構好きだな? からかってやっても良かったけど、今日はなんだかまだ、まったりといちゃつきたい気分だ。
「シルバー、もう眠いか?」
「まだ大丈夫だ。君は?」
「へーき。な、こっち向いて、ぎゅってして」
シルバーは僕の方を向いて、改めて優しく腕の中に抱いてくれる。
「へへっ、好き」
「俺も、好きだ。デュース」
「僕の名前呼ぶの好きか?」
「呼ぶのも、呼ばれるのも好きだ。……大切な名前だから」
そっかそっか、と頷いて、さらさらとしたシルバーの髪を撫でる。
「そういえば、バレンタインには親しい人たちに贈る義理のチョコレートって文化もあるんだぞ。ヴァンルージュ様やドラコニア様にも、僕らから贈ってみるか?」
「そうなのか? それはいいかもしれない。では、贈るチョコレートを考えておかなければな」
「ん。またチョコレートフェア行こうぜ。次ははぐれないように、さ」
「ああ、ぜひ」
シルバーは頷く。そして、僕の手に指を絡めて、じっと見つめてきた。
「君といると、不思議だ。好きなものも、嫌いなものも、増えていく」
「そうなのか? ……嫌いなものも増えちまってるのか」
「ああ。好きなものばかりが増えるわけではない、が……でも、悪くは無い。……どれも、君から与えられたもの、新たな気持ちなのだと思うと」
「へへ、なんかむず痒いな」
「お互い様だろう」
シルバーの額にキスをすると、今度はぺろぺろと子犬のように舐めるようなキスがたくさん降ってきた。
……2回戦、か?
「シルバー、大好きだよ」
「ああ」
頭の上からつま先まで容赦なく降りそそぐ、チョコレートよりも甘いキスの雨を、今はただ好きなだけ受け取った。
シルバーに変えられるなら、僕はどんな風になっちまってもいいんだって、そう思いながら。
*おしまい
※コメントは最大1500文字、10回まで送信できます