・雪の精霊シルバー×死神デュースの人外パロです。
・年齢逆転要素アリ。
・なんでも許せる人向け
以上大丈夫な方はスクロール↓
街には軽やかなベルの音が鳴り響いて、楽し気な音楽が流れる、冬の日の今日この頃。
「シルバーは何か欲しいものとかあるか?」
「欲しいもの、か?」
「今言っておいたら、クリスマスの朝にはいいことがあるかもしれないぞ?」
……どうにも、俺の恋人は、俺のことをまだまだ小さな子どもだと思い込んでいるようだ。
「デュース……。俺は、もうクリスマスの朝にプレゼントをもらうほど、子どもではない」
「なんだよ、いい子だからプレゼントをあげようと思ったのに」
「なら、いい加減、俺のことを一人前の大人として扱ってほしい。それをプレゼントにしてくれ」
まだまだ子ども扱いされているな、と拗ねながらデュースに告げる。デュースは少し考え込んで、それなら、と言った。
「じゃあ、クリスマスデートするか?」
「デート?」
「ん。悪くないだろ?」
恋人として過ごすクリスマスだ。嫌か? とデュースは聞く。もちろん、嫌なわけはない。
「嫌じゃない。嬉しい」
「なら、決まりだな! どんなところに行ってみたいとか、あるか?」
「まだ人間界の冬の過ごし方はよく知らないから、詳しく知ってみたいとは思っているが……」
デュースは本棚から雑誌を引き抜き、適当なページを開く。
「温泉、はシルバーが溶けちゃうよな~。遊園地、は今からじゃチケットも取れないし、この時期はめちゃくちゃ混むからなあ……」
あーでもないこーでもないとデュースが雑誌を見ながら頭をひねって、最終的に決めたのはスケート場だった。
「スケートしに行くか! で、終わったら近くのショッピングモールでぶらぶらと買い物でもして帰ろう」
「スケートか」
スケートには馴染みがある。はざまの世界でも、雪ん子や氷の精霊たちが一緒くたになって、凍った池の上で滑って遊んでいることがある。俺も幼い頃はよく遊んだものだ。
「人間界のやつは、はざまの世界のスケートとはちょっと違うんだ。当日、楽しみにしてろよ!」
「分かった」
人間界のスケートは、俺たちの生きるはざまの世界のものとはどう違うのだろうか。楽しみだ。
それから。スーパーマーケットに出勤していたら、クリスマスの予定を店長に聞かれたので、素直にスケートに行く予定がありますと答えておいた。単に、クリスマスのシフトを組もうとしていただけなので、中身まで詳細に答える必要はなかったようだ。店長と予定を決めていると、同僚のご婦人方がいらして、こう言った。
「オバちゃんたちが代わりにお仕事してるから、シルバーくんは遠慮せずお兄さんとデートしてきていいのよ~!」
「そうそう、もう子どもも大きくてクリスマスとか過ごしてくれないしね!」
そう言ってくれるのならと、俺は言葉に甘えることにした。これは皆に、お礼の土産でも買っていかなくてはな。
デート当日。デュースには、待ち合わせしてみようと言われたので、別々に家を出ることになっている。俺が、慣れない人間界でひとりでも目的地まで時間通りに辿りつけるのかの訓練も兼ねているのだろう。
デュースは先に家を出て、目的地の近くで待っているそうだ。俺も、時間を気にしながら、目的地まで足を運んでいく。ひとりで切符を買ったり、交通機関に乗ったり。いつもはデュースが傍でサポートしてくれるから、新鮮な心地だ。だが、これらひとつひとつの些細なことも、俺が一人前だと認められている証拠なのだと思うと、なんだか浮き足立つ心地がした。
電車の車内では何をすればいいのかと多少まごついたが、周囲の人を観察することでなんとかなった。皆、思い思いに過ごしていたな。俺は、つり革に掴まって、窓の外の景色を眺めて過ごした。そうして、無事、目的の駅までたどり着き、降りることができた。ふっ。これで俺も人間界の移動がひとりで出来るということだな。
待ち合わせは、大きな噴水の前で、ということだった。スマートフォンを開き、事前に教えてもらったナビゲートアプリを使って、大きな噴水を探し、ナビをしてもらう。指示の通りに進んでいくと、やがてデュースらしき人物が立っているのが見えた。
「デュース」
「シルバー!」
破顔一笑、俺が声をかけると、デュースは嬉しそうに笑って俺の方へ駆け寄ってくる。なるほど。嬉しいな。これが待ち合わせというものの醍醐味か。
「ちゃんと辿り着けたみたいで、良かったよ。今心配して、連絡入れようかと思ってたんだ」
「ふっ。問題ない。ひとりで切符も買えたし、電車にも乗ることができたぞ」
「そっか、偉いな」
得意げな顔をしていると、デュースに頭を撫でられる。くすくす、可愛いとほほ笑ましそうな笑い声がまわりからするのが聞こえて、ぱっと顔を逸らした。
「そ、それより。その服は新調したのか? 似合っている」
「ん? ああ、これか。せっかくのデートだからな。新しいの見繕ってもらったんだ」
デュースは、少し幼い顔によく似合う、ネイビーブルーのダッフルコートを身に着けている。グレーのジーンズと相まって、冬らしい色合いだ。
(俺も、恰好にくらいは気を付けてくれば良かったか……)
デュースが洒落た格好をしてきてくれた事実に、いつも通りの気を抜いた格好で来てしまったことを少々後悔する。だが、今更そんなことを言っても始まらない。ここから挽回していかねば。
「じゃ、さっそく行くか、スケート場」
「ああ」
デュースに連れられ、スケート場へと向かうことになった。
「えーっと、大人2名、っと」
デュースは何かの機械から、スケート場のチケットを購入する。あれは自動券売機というものだな。電車の切符売り場にあったものと似たものなのだろう。人間界では、いろいろなものが自動の機械になっているのだな。
「よし。これを受付に出せばいいはずだ。行こう、シルバー」
「分かった」
「っとと。その前に、靴とか道具、借りないとな。あそこのカウンターで見てもらうか」
靴を借りる? 一体、どういうことだろうか。そう思っていると、デュースがいつの間にやら、両手に刃のついた靴を持って、戻ってきた。
「珍しいだろ。……人間界ではさ、靴の裏にブレードのついた靴を履いて、スケートをするんだ。人間の足は、滑れるようにできてないからな」
デュースは、声を潜めて教えてくれる。なるほど。人間界では靴裏の氷雪の代わりに、このような靴を用いてスケートをするのだな。
「サポーターはたぶん、いらないだろ。じゃ、靴箱で履き替えて、いよいよスケート開始だぞ!」
案内に従うまま進んでいくと、巨大な氷の池が俺の前に姿を現した。
「すごいな。大規模な氷の池だ。なかなか目にかかれるサイズではないぞ」
「これはスケートリンクって言って、スケートのために人工で大きなプールに氷を張ってるんだよ。あの上は自由に滑っていいんだ。ほら、行こう」
「ああ」
デュースに手を引かれ、スケートリンクの中に入る。シャッと鋭い音がして、様々な人が氷の上を滑っていくのが見えた。
「ほら、来いよ」
デュースも軽く滑って、俺を呼ぶ。俺も、スケートリンクの中に足を踏み出し、滑り出した。
「おっ、うまいじゃないか。その調子その調子」
「ふっ。スケートは得意だ。小さい頃から慣れ親しんでいる。刃のついた靴で滑るのは、初めてだが」
雪遊びをするのと同じ要領で滑っていく。刃のついた靴のバランスにも、すぐに慣れた。人間たちの中には転んでいるものも見かけるが、俺は、風や氷が味方になってくれているようで、バランスを崩すことはなかった。
「シルバー、こっちだ。追いかけっこしよう!」
「ふっ。負けないぞ!」
こちらも同じように雪や氷が味方しているのか、倒れることはなくすいすいと人波を器用に避けて滑っていくデュース。デュースを追いかけるように氷の上を滑っていると、なんだかとても楽しいような気がした。
(デュースと、こうして雪遊びが出来るとは……。人間界の技術に感謝、だな)
ふと、リンクの一角にひとだかりができているのを見かけた。何やら少女がクルクルと氷の上で器用に回っているのを、まわりの客が見物しているようだ。
「デュース、あれはなんだ?」
「へえ、珍しいな。あれはフィギュアスケートって言って、氷の上でジャンプしたり、回ったり、ダンスするみたいな競技があるんだ。その選手か、タマゴなのかもしれない。家帰ったら、動画見せてやるな」
「俺にもできるだろうか」
「はは。できるかもしれないけど、目立つから今日は普通に滑ってような。どうしてもしたかったら、はざまの世界の方でやってみようぜ」
「分かった」
デュースに宥められ、それでも十分に今楽しいと告げた。
*
――良かった。雪の精霊にスケートなんてもう飽きてるかなってちょっと思ったけど、シルバーは心底楽しんでくれているみたいだ。
それにしても、綺麗だな~うちの王子さまは。やっぱり氷が似合う。氷上のプリンスとか呼んでいいかな~。
フィギュアスケートにも興味を持ったみたいだし、はざまの世界の池の上あたりで見せてもらうのが楽しみだ。
そんなことを思いながら、シルバーとの追いかけっこを再開する。追いつかれて捕まって、タッチしたら鬼を交代して追いかけまわすだけのシンプルな遊びだけど、まるで子どもの頃を思い出したみたいに懐かしかった。
そうやってシルバーと遊んでると、ふと、僕たちのことをじっと見つめている小さな子がいた。その子の傍に止まって、かがんで声をかける。
「んー? どうした、僕」
「お兄ちゃんたち、滑るの上手だね」
「だろ。スケート得意なんだ」
「僕にも教えて」
どうしたんだと滑り寄ってきたシルバーに、悪いな、この子スケート教えてほしいんだってと告げると、シルバーは困った顔をした。
「……困った。どうしたら滑れないのかが、分からない」
「はは。じゃあ、シルバーは目印やってくれよ。そこに立ってくれ」
「分かった」
僕は小さな男の子を壁際に連れて行き、そして、まずは立ち方を教える。
「足をハの字に開いて……そうそう、いい感じだ。壁から手離してみ? ……ほら! 立てたじゃないか。あとは滑るだけだ。勇気出して!」
男の子の手を引いて、ゆっくりと滑っていく。シルバーの立つ場所をゴールにして、連れていく。
「よし、よし。滑り方覚えてきたな。今度は一人であの壁のところまで行ってみ?」
「できるかな……」
「大丈夫! 絶対できるさ」
ほら、と軽く背中を押して、男の子の滑りを後押しする。少し倒れそうになったが、そこはそれ、北風をちょっと呼んで体勢をサポートし、どうにか足を交互に出せるところまで手伝った。ここまでやれば、コツは掴めるだろ。
「……あ! 滑れた! 滑れたよ、お兄ちゃんたち!」
「そっか、良かったな!」
「おめでとう。引き続き、スケートを楽しんで」
元気に両手を振る男の子と別れ、僕たちもそろそろ行くか、とスケート場を後にした。
「あー、いっぱい遊んだ! めちゃくちゃ楽しかったな!」
「ああ。彼もうまく滑れたようで、良かった。雪遊びを楽しめる子が増えることは、嬉しい」
「だな!」
スケート場のロビーで、僕たちは間食に買ったドットアイスを食べながら談笑する。道行く人がチラチラと見ている気がするのは、この真冬に寒くないのかという視線なんだろう。ま、そういう人もたまにはいるよなってことで納得してもらうしかないな。
「この後はショッピングモール行くぞ。暖房入ってると思うけど、大丈夫か?」
「少しの間なら、大丈夫だと思う。冬になっただけあって、かなり活動しやすくなった」
「ん。それなら、行くか!」
それから僕たちは、ショッピングモールへと移動した。
*
ショッピングモールの天井には、金や銀で彩られたモールがぶら下がっている。楽し気なクリスマス・ソングが鳴り響いて、あちこちにサンタとベル、ヒイラギ、リースが飾られている。
「クリスマス一色、という感じだな」
「だな。僕たちも家のドアにくらいはリース飾っとくか。家に涼し気な小物飾り増やしてもいいかもな。雪の結晶のオーナメントとかあるだろうし……」
よし、探しに行くぞとデュースはとても乗り気だ。俺も、人間界のいろいろなものに触れていこうと、デュースを追いかけた。
雑貨屋では、クリスマス特設コーナーとして、サンタやリースがたくさん売ってあった。クッキーやキャンドルなどもある。サンタクロース伝説というのは人間界でここまで市民権を得ていたのかと、多少驚くくらいには。
「何故、同じ妖なのに、サンタクロースだけこんなに人気なんだ? 雪の精霊はあまり人気がないのだろうか」
「やっぱり、プレゼントをくれるっていうのは特別なのかもな。あ、でも、スノーマンは人気だぞ、ほら」
そう言って、デュースは雪だるまの形をしたクッキーやオーナメントを見せてくれる。……なるほど、確かに人気がないわけではないし、認知されていないわけでもないのだな。なら、いいか。
俺たちは、自分の概念……核のような部分が、人に認知されていないと力が衰えてしまうからな。デュースで言えば、”死”という概念。俺ならば、”わずかな北風””粉雪””少しの寒さ”といった概念だ。
「こいつは、ユキに似ている」
「ん? ああ、雪ウサギ型のランプだな。気に入ったのか?」
「買っていったら喜ぶだろうか」
ユキというのは、俺の初めて作った使い魔だ。雪ウサギの形をしていて、自分に似たものを見ると仲間だと思って喜ぶ。今は、はざまの世界の死神屋敷の庭を冒険しながら待機しているはずだ。
「んー、ランプだからな。あんまり近くにいると、ユキが溶けないか心配だけど……。その辺言い聞かせておいたら、大丈夫じゃないか? あ、それか、そっちは家用にして、ユキのお土産にするのはこっちのもちもちぬいぐるみなんてどうだ?」
見れば、同じモチーフのグッズがいくつか並んでいる。その中に、ユキそのものより一回り小さなもちもちひんやりとした触感のぬいぐるみがあった。
「そうだな。そうする。ユキもきっと気に入るだろう。夏に作った、うさぎの形の氷も喜んでいた。溶けてショックを受けていたから、溶けないものをあげたい」
「なら、こいつも買っていくか」
そうしてデュースといくらか買い物をする。スーパーの店長やご婦人方への土産も買って、ショッピングモールに入った暖房の熱に参り始めた頃、じゃああと一件だけ寄って帰るか、とデュースが言った。
「悪いな、すぐ済むから」
デュースが立ち寄ったのは、アイスクリームショップだった。デュースは何か、白い箱のようなものを受け取ると、それじゃ帰るかと言った。
二人で家へ帰る。
「今日は楽しかったな」
「何言ってるんだ? クリスマスのお楽しみは、まだまだこれからだぞ!」
言うなり、デュースは部屋の奥へと入っていって、冷蔵庫から何かを取り出した。
「シャンメリーと、チキン。朝買って冷やしておいたんだ!」
シルバーも食べれるようにな、とデュースは笑う。俺は、敵わないなと笑って、配膳を手伝うことにした。一通り、グラスと皿の配膳が終わった頃、デュースが言い出した。
「クリスマスはやっぱり、シャンメリーとチキン、それからこいつがないと始まらないだろ」
そう言って、デュースは白い箱を取り出す。それはどうやら、ケーキのようだった。
「ケーキ、か?」
「ただのケーキじゃないぞ。なんと……」
デュースがケーキをナイフで切ってみせる。すると、中から出てきたのは、アイスクリームの断片だった。
「アイスだ」
「アイスケーキ! 普通のケーキよりもこの方がシルバーは食べやすいし、おいしいだろ?」
「ああ。ありがとう」
そうして、デュースがテレビにフィギュアスケートの演技の映像を流してくれる。
「へえ、綺麗なんだな」
「気に入ったなら、今度、演技をまとめたDVDか何か買ってくるよ。アイスダンスとか、アイスショーみたいなのもあるし」
「見てみたい」
「なら、今度チケット探しておくか。とりあえず今は……乾杯!」
「乾杯」
デュースと共に、白いシャンメリーをグラスに傾け、乾杯をする。冷えたチキンとアイスケーキが、俺たちを包んでくれる。
本来はここに暖かなスープやグラタンが共に並ぶのが、人間界のクリスマスの過ごし方、らしい。
人間界のものとは少し違うようだが、これが俺たちなりの人間界のクリスマスなのだな、とうなずいてシャンメリーをひとくち飲んだ。
「そうだ。シルバー、子ども扱いされたくないって言ってたけど……人間界では、恋人にクリスマスプレゼントを贈るのだって、普通のことなんだぞ。ってことで、はい」
デュースは、俺にプレゼントボックスを渡す。
「ありがとう。……確かに、俺も、そのような話を聞いた。だから、ささやかではあるが、君にも用意してきている。これを」
俺も、お返しにとプレゼントボックスをデュースに渡す。ついでに、小さな缶ジュースもつけて。
「お、中身なんだろ。って、こっちの缶はなんだ?」
「それは、ミルクセーキだ。暖められてはいないが、君が前、好きだと言っていただろう。店で仕入れているのを見つけたから、買ってみた」
「ははっ、覚えててくれたんだな。ありがとう。今度、自分でも買いに行くよ」
「プレゼントの中身は、迷ったのだが……。財布とキーケースのセットだ。良かったら、使ってほしい」
「お、助かる。ちょうど財布新しくしようかと思ってたんだよな。はざまの世界用と、人間界用ので別にしようかと思ってたし……。ありがとな!」
僕からのも開けてみてくれよ、とデュースが言うので、俺もプレゼントを開けてみる。
「これは……」
中に入っていたのは、薄いグレーのコート。俺がはざまの世界で普段着ていたコートにデザインがよく似ている。
「シルバー用のコート! 特注品なんだぞ。はざまの世界のさ、雪女がやってるアトリエでオーダーして作ってもらったから、人間界で着てても涼しいんだ」
こういうの着て、冬にたくさん歩ける方が嬉しいだろ、とデュースは笑う。
「ああ。……ありがとう。これを着て、君と共にたくさん歩きたい」
「へへっ。どういたしまして。それじゃ、もっとクリスマスの夜を楽しもうぜ!」
「ああ」
そうして、星空の下、夜は更けていく。新しくできた恋人と初めて過ごす、人間界でのクリスマスの夜。
また新たな経験と、大切な人との思い出を積むことができたと、俺はただ嬉しく思うのだった。
*おしまい
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