南瓜の夜に

・雪の精霊シルバー×死神デュースの人外パロです。
・年齢逆転要素アリ。
・なんでも許せる人向け

 

 以上大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 奇妙な音楽の流れる、満月の夜。月夜を背にして、眼下に広がる街の喧噪を眺めた。
「それじゃ僕らも行くか、シルバー」
「ああ」
 今日は10月31日、ハロウィンだ。秋も深まり、本来は冬を司る俺たちも活動しやすい時期になってきた。
 デュースの話によれば、11月は本来、ハロウィンを区切りに冬として扱うそうなので、明日からは死神でもあり冬の神でもあるデュースが季節の担当神となる、らしい。だが、その前にひとつ、副業の死神としての大仕事が残っているそうだ。
 それが、ハロウィン。
 仮装した人間たちの祭に紛れて、死者の魂が、人間界へと向かうことを許された日。また、同時に妖が人に紛れひとときの祭遊びに興じることを許された日。
 その多くは里帰りがしたかったり、賑やかな祭に参加したい善良な魂や妖で構成されているそうだが、ハロウィンの混乱に乗じて悪さをするものや、祭の雰囲気に気分が高揚しすぎて目立ちすぎるものもいるために、デュースたち死神組織が歩き回ってそうした死者側の違反行為や迷惑行為を取り締まっているそうだ。
 それで、最後の死神であるデュースと魂が結ばれた俺も、今や雪の精霊だけでなく、死神の端くれにもなったということで、研修代わりだと言ってハロウィンの巡回に駆り出されている、というわけだ。ちなみにだが、人間界の仕事としているスーパーの夜勤に関しては、ハロウィンに加えて俺がいるとむしろ混乱を招くから、と今夜の出勤を禁じられている。なので今日は心置きなくデュースの仕事を手伝えるというわけだ。
 とはいえ、やることはそう多くない。酒に気持ちよくなって、人間に絡みすぎている妖をそれとなく止めたり、人の子を何らかの理由で拐かそうとしている妖を捕縛したり。デュースは、警察官だった頃にやってたこととそう変わりは無いな、とこぼした。
 そういえば、デュースは生前、警察官だったと言っていた。俺ははざまの世界でほとんどの生を過ごしてきたから、人間界の警察というものがどういう組織かはよく知らないが、デュースの話を聞く限り、人々の治安を守る特殊部隊なのだろうという理解をした。
 デュースの口ぶりからすれば、今日、俺たちがやっているようなことを日頃からしている組織なのだろうからな。
「じゃ、とりあえず順番に回ってくか」
「ああ」
 こなれた様子のデュースに着いて、ハロウィンの街を回っていく。人間界から見たはざまの世界というものはこういった解釈をされているのか、という雰囲気がして、いろいろと面白い。案外良い着目をしているものや、全然違うものが一緒になった街の景色は、本当に人間界とはざまの世界の境界線がなくなったかのようだ。
 ふと、街角に不審な気配を感じ、立ち止まる。
「デュース」
「ん? どうした? 何か見つけたか?」
「あそこの角に、子どもをカボチャに変えている妖がいる。何か良からぬことを企んでいないか?」
 デュースはそちらの端をちらりと見て、ああ、と言った。
「大丈夫だよ。アレは害のないやつだから」
「そうなのか?」
「ああ。あれは『カボチャのスカリー』って言って、『カカシのジャック』伝説に憧れて、ハロウィンの守り神になったゴーストだよ。ハロウィンの時期にだけ現れて、人混みに紛れて、ああやって子どもから大人までカボチャにして脅かすんだけど、すぐ元に戻すし、悪さはしないから心配ない」
「そうだったのか」
「そうだな。むしろ気を付けた方がいいのは、ああいう……」
 デュースはまた別の街角で商売をしている二人を指す。
「あの二人組のケット・シーには要注意だ。何もなければ、ただ仮装して商売してる人間に見えるかもしれない。でも、あれは妖だし、その割には割と典型的な詐欺商売しかやらない。毎年、ハロウィンに乗じて詐欺商売し、人間から金をぼったくるから、注意が必要だ。……おい、お前ら! 今年も懲りずに悪さしに来たな!?」
「やべえ、サツだ!! もう俺たちの顔は割れてる、いったん逃げるぞギデル!! いやいや我々今年こそは善良な商売人ですんで……、おっ邪魔しました~!!」
「善良な商売人がサツの顔見ただけで逃げるかっ!! ……ったく……」
「いろいろなものがいるんだな」
「そうだ。とは言っても、シルバーも羽目を外しすぎないように気をつけろよ? 僕たちだって、他人事じゃない。取り締まる側を取り締まる奴だっている。『神々を憎む執行官』っていうのがいてさ。僕たちの苦手な、燃えるような真っ赤な花の咲く森の中の屋敷に住んでいて、僕たちが何か悪事をやらかしたときはソイツに処罰されるんだ。二つ名通り、神々には上位神から下位神に至るまで本当に手厳しいから、慈悲なんてかけてくれないぞ」
「そ、そうなのか。心しておく」
「僕も一回罰は受けたけど、痛かったなあアレ。正直契約自体より、罪人の証みたいなのを焼きつけられる瞬間の方が痛かった……」
「……すまない」
 デュースがそんな刻印を受けることになったのは、俺のせいだ。気に病んでいると、気にするな、とデュースは言った。
「ごめんごめん、今のは無神経な軽口だったな。僕としてはもう過去のことだし、世間話のつもりだったんだが……シルバーは気にしちまうよな」
 さ、気を取り直してパトロール続けようぜ、とデュースは言った。それでも、俺は、何か胸に茨の棘のようなものが刺さった心地でいた。

 ハロウィンの街は、幅広い。二手に分かれて巡回を続けた方がいいのではないだろうかという俺の案に、デュースは渋りながら乗ってくれた。
「何かあったら、すぐに呼ぶんだぞ?」
「俺もそう力が弱いわけではない。何かあっても対処できる。大丈夫だ」
 まるで小さな幼子を心配するかのようなデュースの心配を振り切り、一人で巡回を進める。
 その中では、父母とはぐれて迷子になったという子どもの案内や、荷物が多くて困ってしまったという老婦人などの案内に勤めた。
 今日は仮装していない方が目立つから、という理由で、俺もデュースも死神の服装をしている。俺が雪の精霊の服装ではなく、死神側の服装に合わせた理由は、デュース曰く『その顔と元の服装だと似合いすぎて目立ちすぎるからフードでも被って顔隠してろ』ということらしい。
 ……デュースは俺の顔を過大評価しすぎていると思うが、良いものだと思ってくれているのなら、まあいいことだろう。

 それでも、デュースの心配むなしく俺は数人の女性に捕まってしまった。
「えっ、お兄さん格好良くないですか~? それ死神の仮装?」
「ちょっとフード脱いでみてくれません?」
「俺は今、別の仕事があって、急いでいるので……」
 どうにかして女性たちを撒こうとしたそのとき。後ろから一人の見知らぬ男が声をかけてきた。
「あ、お前! こんなとこにいたのかよ。ったく、探したんだぜ~?」
「貴方は……」
 親し気に肩を組んでくる男に、そっと耳打ちされる。
「しっ。話を合わせて」
「……ああ、すまない。ちょっと捕まってしまって」
「なんだよ羨ましいな~。でもお前彼女いただろ、ヤキモチ妬かれても知らねえぞ?」
 そう言って男は女性たちにそういうわけなんですいませんね、お嬢さんたちとキザにウィンクを投げつけ、俺のことをその場から連れ出した。
「ありがとう。助かった」
「いやあ、お礼なんて。つい、困ってそうだったから助けに入っちまっただけですよ。ああいうとき、女性相手の男だとどんなに困ってようが助けも入りにくいから大変すよね」
「俺にできることならば、礼をしたいが」
「いやいや、礼なんて。……あっ、でもそうだな。じゃあ、道案内してくれません?」
「道案内、か? 俺はこのあたりのことにはあまり詳しくないが……」
「実は俺、地図を読むのが大の苦手でしてね。地図はある、アプリもあるのに目的地まで辿り着けないと来た。だから、そこまで行くのを手伝ってほしいんですよ。人を待たせてるもんで」
「なるほど、そうした事情だったのか。分かった。それくらいなら、俺にも手伝えるかもしれない」
「いいんですか!? それじゃあ、お願いします」
 そうして俺は、助けに入ってくれた好青年に道案内を始めた。それが間違いだったと気づいたのは、取り返しがつかなくなってからだ。

 地図の通りに進むと、街の喧騒を外れた工場に出た。……俺は、工場は嫌いだ。以前、デュースがとても恐ろしく危険な魂に捕まり、酷い目に遭ったことがある。その情景が、目に浮かぶからだ。だが、この青年にも、工場自体にも、罪はない。悪いのはあの、今や消滅してしまった魂だけなのだから落ち着いていろと自分に言い聞かせる。
「あれ? いないな……。たぶんここなんだけど……ちょっと待っててくださいね!」
「ああ」
 辺りの様子を確認しに行った男が、じきに戻ってくる。その手には2本の缶コーヒーが握られていた。
「やー、すいませんね。ここで合ってたみたいなんですけど、向こうも俺を探して入れ違いになったみたいで。すぐ戻ってくると思うんで、その間にこれ、送ってもらったお礼に。暖かいのと冷たいの、どっちがお好きです?」
「元はと言えば俺からの礼だったのだから、気にせずとも良かったというのに。だが、せっかくなら頂こう。冷たいので頼む」
「おっ、お兄さん意外と暑がり? 最近肌寒くなったってのに……。はい、じゃ冷たいの、どーぞ!」
「では、ありがたく」
 冷たい缶コーヒーの缶を開け、男と共に雑談を交わしながら、落ち合う予定だという人間の姿を待つ。
 5分ばかりした頃に自動車と思しきライトの光が工場横についた。
「あ、来たみたいです。おーい、こっちだこっち!」
「ああ、良かったな。それでは、俺はこれ、で……」
 ぐらり。その場を去ろうとした瞬間に、俺の視界はゆらめいた。
(しまった、こんなときに、眠気、か……)
 それにしても、直前までブラックのコーヒーを飲んでいたのに。まったく効果はなかったのだろうか、と思いながら、俺の意識はどこかへと落ちていった。

 

 次に目を覚ましたとき、俺は頑丈な鎖紐で拘束されていた。身動きを取ろうとしても、まったくとれない。
「これは一体……?」
 状況を把握しようとしたとき、目の前に先ほどの男が立っていることに気づいた。彼の方は手足を縛られていない。
「貴方は……無事なのか!? ちょうどいい、ならこれを解いて――」
「解かねえよ」
「……え?」
 目の前に立つ男は、煙草の煙を俺に向けて吹かしながら言った。
「まだ分からねえのか? お前、騙されたんだよ。ちょっと助けてもらったくらいで気許しちまってさあ、チョロいったらなかったぜ。今どきその辺の高校生でももう少し警戒心あるぞ? 見習ったらどうだ?」
 そこまで言われて、俺はようやく分かった。人助けをするふりをして、ずっと、この男は、仲間と共に人をかどわかす機会を伺っていたのだ。
「あのコーヒーに、薬を……?」
「ずいぶん気づくのに時間かかったなあ。もっと早く気づいてれば逃げられたかもしれないのにな」
 男はどこからか出したナイフの刃をピタリと俺の頬につける。ずいぶん使い慣れた様子だが、結局は俺も慣れ親しんだ、刃物。剣の一種だ。それが恐ろしくなどあるものか。
「俺に何をする気だ?」
「さあね。剥いてみれば随分キレイな顔してたんで、傷はつけない予定だから安心しな。ちょっと身体の自由を奪って、趣味の良い金持ちに売り飛ばす程度だろう」
「売り飛ばす……? 俺はお前に売り飛ばされる謂れはない」
「たった今できたんだよ。納得いくまでもう一度オネンネしとくか?」
 男が注射器を持って、俺に近づく。身をよじって逃げようとするが、鉄鎖の拘束はあまりにも硬く、もう少し力を籠める時間がなければ、引きちぎって逃げられそうもない。到底、あの注射の針が俺に届くまでには、間に合わない。
 ――万事休すか、そう思った瞬間。
「オネンネするのは、テメェの方だゴラァ!!」
 俺の横から、風のように飛んできた、誰かの蹴りが風を切る音。それは、デュースが俺を助けに来た声に他ならなかった。

「デュース!」
「テメェ、よくもウチのシルバーにナメた真似してくれたじゃねえか!? 無事で帰れると思ってんじゃねえぞ!!」
 デュースは男の注射器とナイフを手際良く奪い、その注射器を躊躇いなく男の首に打ち込む。
 そして意識が朦朧とし始めた男を持ち上げ、そのナイフで男の頬をピッと切った。男の血しぶきが、俺の頬に飛んだ。
 ハッと気が付いて、俺は叫ぶ。
「デュース、やりすぎだ!!」
「やりすぎ? ハッ、何がだ。俺のシルバーに手出した時点で、コイツはこうなる運命なんだよ!!」
 デュースの手に光る短剣が、男の胸を貫いた。……ように、見えた。

 が、貫いてはいなかった。デュースの手は、男の胸からずれ、首筋スレスレにナイフを打っていた。
「優しいシルバーに感謝しろよ……次コイツに手出したら、今度はお前のここが飛ぶからな?」
 トントン、とデュースが男の喉仏を指先で叩く。そして掴まれていた胸倉が離れると、男はどさりと音を立てて倒れた。

 それを冷たい目で一瞥したデュースは、俺の元へ歩み寄り、俺の頬についた返り血をほほ笑んで拭った。
「ああ、シルバー。遅くなって悪かったな。無事で良かった。今、解いてやる」
「あ、ああ……あり、がとう」
 その、いつもと変わらない、綺麗な笑顔が、俺には、美しくもあり、同時に恐ろしくも見えた。……悪人に容赦のない、デュースを見たせいだろうか。

 それからデュースは俺が拘束されていた鎖紐と椅子を使い、男を縛り上げて放置した。
「い、いいのか? 捕縛して連行などしなくて……」
「アレは人間だからな。これ以上、僕たちがどうこうしていいものじゃない。人間の法で裁かれないといけないからな。安心しろよ、人間の警察に通報はしとくから、すぐ見つかるだろ」
 まあ、人間の法で裁かれるまで無事かどうかはアイツの運と人徳にもよるだろうが、とデュースは言ったが、俺にその意味はよく分からなかった。

「それより、シルバー。今日は大変な目に遭って疲れただろ? 先に家に戻っててもいいんだぞ?」
「大丈夫だ。祭が終わるまであと少しだろう。俺も傍にいる」
「そっか。まあ、シルバーにとっては初めての人間界でのハロウィンだもんな。ちょっとは遊びたいか」
「そういうわけじゃ……」
 デュースの手が、俺の手を握る。それはいつもより、とても強い力だった。
「じゃあ、次はこうして回るか。シルバーが今度こそ誰かに捕まらないように」
「油断したのは、悪かった。……まさか、人助けをするような人が、悪人だとは思わなくて」
 俺がそう告げたとき、デュースの動きがピタリと止まった。そして、呟いた。
「人間の悪意に、底はない」
「え?」
「だから、気をつけろよ、シルバー? 誰が何企んでるか、分かったもんじゃないんだからな。お前みたいな純粋な奴は、心配になるよ」
 そう言って、デュースはまた親指で俺の頬を拭った。もう、返り血はついていないのに。
「約束してくれ。『知らない人から食べ物はもらっちゃ駄目だ』。仮にもらっても、その場で食べちゃダメだ。……いいな、シルバー?」
 俺の胸は、その言葉を告げるデュースの雰囲気に、ドキリと音を立てた。なんというか、いつものデュースらしくない、というか。何か、違和感のようなものを感じている。だが、言っていることは正しいし、実際心配と迷惑をかけてしまったのは俺だから、素直にうなずいておく。
「わ、分かった……。約束する」
「ん。約束な」
 そう言って、デュースは俺の指に指を絡め、どうせあと少しなら、僕らもハロウィンを楽しみながらパトロールするか、と笑い出した。いつも通りに戻っていくデュースの様子に、俺の胸は、ほっと安堵をするのだった。

 シルバーがさらわれた。
 それを感知した瞬間、僕は走りだしていた。
 走りだして。蹴り飛ばして。気が付いたときには、本気の殺意を持っていた。
 シルバーの言葉で、我に返れた。返れたと、思っていた。
 シルバーを縛った鎖でぐるぐる巻きにして拘束した男は、放置した。
 廃工場に、放置した。警察に報告するなんてシルバーには言ったが、アレは嘘だ。
 そのうちあの男の「お仲間」がやってきて、あの男に何らかの処置を下すだろう。
 そのときされることが、救助なのか。制裁なのか。今までやってきたことの報復なのか。それは、あの男にしか分からないことだ。
 でも、少なくとも、ただ助けられるというわけにはいかない、ろくでもない結末が待っていることだろう。悪人ってのはそういうものだ。
 分かっていて、シルバーに嘘を吐いた。思考の繋がりでこの嘘はバレるかもしれないが、バレてもいいと思った。
 そうすれば、シルバーはもっと自分を大切にしてくれるだろうと思った。油断しないでくれるだろうと思った。
 ――僕はもう、シルバーがいないと生きていけない。だから、時に何をしてでも守ると決めた。
 シルバーの魂も僕と同じになっているとはいえ、本当に何があっても生き返ってくるなんて保証はないし、試すなんてとんでもない。
 試してみて生き返らなかったら、誰がどうしてくれるって言うんだ? だから。僕は僕が生きている限り、シルバーを死なせない。
 自分が何度死ぬ羽目になったとしても、絶対にシルバーだけは守り切る。そう、僕は決めたんだ。
 だから。
 僕からシルバーを奪う奴は、許さないんだ。

 ……数日後、身元不明の遺体が工場沖で発見されたというニュースを聞いて、僕は一人、悲しむフリをした。

*おしまい

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