thankless role

*注意書き
・名有りモブが出張ります
・デュースとシルバー、それぞれに名有りモブとの交際および性的行為を匂わせる描写があります
・NTR描写があります
・なんでも許せる人向け

 

以上すべて大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 

 この話は、俺の後輩であるデュース・スペードが、俺の恋人を――奪ったことから始まる。

 始まりは、ひとつの出会い。街で、店の前に座り込んでいた青年に、「そこにいると店の人の迷惑になる」と注意をした。
 彼は不機嫌そうな態度でいたが、俺の目を見るなり態度を一変させ、こう言った。
「本当は俺も、こんなでいたくないんだよ。アンタみたいな人が傍に居てくれりゃ、ちったぁマシになるかもしれないのにな」
 その言葉に、絆されたと言えばいいのだろうか。それが俺と彼――『タイラー』との始まりだった。

 初めの内は、順調そのものだったように思う。俺が想定していたよりもタイラーは少々手が早かったが、恋人という名のついた関係になるのならばまあそういうこともあるだろうと、あまり気にしてはいなかった。
 出来るだけタイラーの傍にいられるような時間を作ろうと励んでいたある日、デュースが俺と話がしたいと言った。
「あの。こんなこと言うのは気が引けるんですけど、タイラー……アイツ、あまりいい奴じゃないんです。……だから、その。付き合うなら、気を付けて欲しいっていうか……」
「……心配はありがたく思う。だが、アイツはお前と同じように、誤った道を正したいと考えているんだ。俺はそれを、恋人として応援したいと思っている。まず俺が信じてやらなくて、誰がアイツを信じてやれるだろうか」
「そう、ですよね。……陰口みたいな真似して、すいませんでした」
 その日は、デュースはすぐに引き下がった。……ように、見えていた。少なくとも、俺には。
 だが、その日から少しずつ、すべての歯車が狂っていったのだと思う。

 次に会った日のタイラーは、普段よりも何か、呆けて何かを考えているようだった。
「タイラー。どうかしたのか?」
「ああ、いや……。なんでもねえよ。それより、せっかく会えたんだからさ」
「……ああ」
 タイラーにはこの頃、身体ばかりを求められている、と感じていた。だから俺は、事が済んだあとで、その気持ちを正直にぶつけることにした。
「なあ。身体を重ねることも大事かもしれないが、もう少し、気持ちだけを通い合わせるような時間があっても良いんじゃないか?」
「そうは思うけどなあ……。どうにも、淋しいんだよ。分かってくれよ、シルバー」
「……そうか」
 それならば、心が満ち足りるまでは仕方あるまいと。俺も暇ではない身だが、自身に使える時間くらいは使うことにしてやろうと、そう考えていた。
 なのに。ある日。俺は目にした。仲睦まじそうに歩く、タイラーとデュースの姿を。
 ……それだけならば、いい。それだけならば、まだ、元々の知り合いなのだろうから、そういうこともある、と思えた。
 自分を誤魔化し切れた。だが、二人は路地裏に入り、あろうことか……深く、くちづけあった。
 どういうことなのかと詰め寄りたくなり、二人の様子を影から伺った。するとちょうどいいことに、二人は俺のことを話し始めた。
「なあ、タイラー。あの人のことはいいのかよ?」
「あの人って誰だよ?」
「分かってんだろ。シルバーだよ」
「ああ、アイツな。アイツ、最初は見た目もいいし、尽くしてくれるし、いいカンジだと思ってたんだけど。だんだん鍛錬がどうだとか仕事がどうだとかで、会えない言い訳ばっかになってきたし、ヤらなくても気持ちがどうとか説教くさくて面倒になってきたし……。お前の方がよっぽどいいよ」
 会えばヤらせてくれるし、なんでも言うこと聞くしな、とタイラーは吐き捨てる。
 俺はその場に飛び出して、二人に怒号を浴びせた。
「これはどういうことだ、タイラー、デュース!」
「ああ、もうバレちまったか……」
 タイラーは煙草の煙をくゆらせて、動揺した様子もない。
「……未成年だろう!」
 口元からタバコを奪い取り、踏みつぶすとタイラーは苦々し気な顔をした。
「そういうとこだよ、シルバー」
「何?」
「どこまでも清廉潔白で、清く正しくて。それを俺みたいなクズにまで押し付けてきやがる。いい加減鬱陶しいんだよ、そういうの」
「だが、お前は……お前たちは正しい人になりたいと考えていたんじゃないか!!」
「そんなの、お前の気を引くための口実に決まってんだろ。少なくとも俺は、な。飽きたからポイってことだ、ご愁傷様」
 タイラーは俺の横を通り過ぎる。タバコの残り香が、鼻腔を掠めた。
 後に残されたのは、俺とデュースの間に落ちる重たい沈黙だけだった。
「……そういうことなんで、先輩。アイツのことは諦めてもらっていいですか?」
「そんなことを言われて、はいそうですかと頷けるわけがないだろう!」
「……そう、ですか? アンタ、浮気されて、手ひどく捨てられたんですよ。まだ未練も情も、本当に残ってます?」
 俺は、そう尋ねられて、言葉に詰まった。元の関係になりたいかと言えば、そうではない気がして。
 そもそもタイラーの心は本当に俺の傍にあったのか、それすらも、今までのことを思い返すと疑わしくて。
「だから言ったのに。アイツにはアンタみたいなの、お似合いじゃないんだよ。アイツが選んだのは、アンタじゃなくて……俺だ」
 デュースも、俺を置いて立ち去ろうとする。俺は、それでも縋る想いで、デュースに叫んだ。タイラーの方は俺に気持ちがなかったとしても、デュースは、デュースの方は。
「デュース、お前は……!」
 母君のために立派な優等生になりたいとほほ笑んでいたあの笑顔が、嘘だと思いたくなくて。
 だが、デュースは言うんだ。
「何か勘違いしてません? ……俺は、これだって決めた奴のためなら、ドブみたいな道でも落ちてけんですよ」
 そうして、一人、俺はその場に残された。ポツリと降りだした雨粒が、俺の惨めさを強調している気がした。

 学園に帰ると、すぐに親父殿やセベクに心配をされた。俺は明らかに意気消沈していて、ずぶ濡れでいたから。
 心配をかけるわけにはいかない、事の顛末を報告しようと思ったが、うまく言葉にできずにいると、お前のペースで良いと親父殿は言ってくださった。
 そうして一人、部屋に籠って考えた。なぜ、デュースはよりによってタイラーと近づいたのかと。忠告をした時点で、俺と彼が付き合っていることは知っていたはずだ。なのに、なぜ、わざわざ……人のものを奪うような真似をしたのか、と。
 考えても、考えても、最悪の答えにしか辿り着かなくて、そのうち考えること自体が嫌になった。
 鈍色の空に、雨が降り続いていた。

 ……だが。

『俺は、これだって決めた奴のためなら、ドブみたいな道でも落ちてけんですよ』

 デュースのあの言葉だけが、妙に引っかかっていた。

「デュース。せっかくだ、口直しにヤらせろよ」
「仕方ねえな。すぐ終わんなよ?」
「やっぱり最高だな、お前は」
 ……反吐が出る気持ちだ。タイラーに向けて甘い誘惑の言葉を吐く僕も、コイツの猫撫で声も。
 だけど、僕にはこれしかない。僕があの人を守る方法は、これしか知らないんだ。

 僕にはミドルスクール時代、多くの悪い知り合いがいた。悪名高い顔見知りと言ってもいいだろう。
 その一人が、タイラーだった。タイラーは兄弟にマフィアの幹部がいて、悪さで言えば洒落にならないくらいピカイチだった。
 そしてタイラー、コイツには悪癖があった。綺麗どころの男女をかまわず食って、飽きたらヤバイところに売り飛ばすんだ。
 それがどういうルートなのか、どういう風にするのかは僕には詳しくは分からない。
 ただ、僕に分かるのは、タイラーがどういう悪いヤツなのか、ってことだ。
 タイラーは飽き性で、ある程度付き合えばどんな魅力的な恋人でも飽きてしまう。せいぜい持って二、三か月くらいだろうか。
 それで、恋人に飽きたそのとき、他に夢中なものがないと、暇つぶしに恋人を売り飛ばして、その悲鳴で悦に興じる。
 最低最悪の人間、クズだ。
 じゃあなんで僕がそんな最低野郎の人間のクズとセックスなんかしてるのかって言ったら。
 ……シルバー先輩を、守るためだ。
 シルバー先輩は悪意に疎い。人の善性を信じたがるから、たとえ嘘でも「まともな人になりたい」と言われればつい応援してしまう。タイラーがそこに付け込んだのだと、そしてシルバー先輩の綺麗な見た目に目をつけたのだと、先輩から話を聞いた僕は瞬時に察した。
 ……だから。だから、寝取った。
 シルバー先輩が、鍛錬や仕事でなかなかタイラーに会えないのをいいことに。
 その間にタイラーへ近づいて。
『なあ……タイラー。俺じゃダメか? お前のこと、アイツより満足させられると思うぜ?』
 そして、すべてをタイラーの望み通りに。望み通りでいすぎると、早く飽きられるから、時にタイラーを満足させる程度に反抗的に。
 殴られても、嬲られても、何をされようが従順に、献身的に。
 そうして、コイツの興味を引き続ける。僕がコイツに飽きられるまで。
 コイツの中からシルバー先輩のことがなくなるまで。僕はずっと、タイラーの『理想の恋人』を演じ続ける。
 それが、僕の役目だと信じていた。
 ……もっといいやり方はあるんだろう。警察に、タイラーの今までのことをタレ込むとか。でも、僕にはそんな証拠を集める力がない。うまくタイラーをハメて、それを最後まで隠し通せる能がない。
 だから、僕は。本当に大切にしたい一人だけは、どんな馬鹿をやってでも守り通すことに決めたんだ。
 僕はもう、悪役でいい。アンタにとって最低最悪の、悪役(ヴィラン)でいいから。

 そうして、シルバー先輩も学園で僕に話しかけなくなって、1か月ほどが経った頃。
 ……とうとう、その時が来た。
「デュース。お前は他の奴より、ちょっとは面白かったよ。でもな……いくら面白くても、飽きってのは来るんだわ」
「……ああ」
 とうとうこの時が来たか、と思った。とっくの昔に、覚悟はできていた。
「最後にひとつ、聞かせてくれ。次の獲物は決まってるのか?」
「まあな。とびっきりの上玉だぜ、久々に女が抱きたくなってな。やっぱりお前ら男の堅い体じゃ物足りねえってこともあるもんよ」
「乱暴にできるのだけが、唯一のいいところだもんな」
「そりゃ女でも変わらねえな」
 ……正真正銘のクズ野郎だな、と、口にはせずに心で罵る。
「僕はどこに売られるんだ?」
「そりゃ、売られてからのお楽しみだよ」
 大人しく受け入れろ、とタイラーの手が僕に伸びてきたとき。突然、目の前を閃光が走った。
 ……いや、違う。閃光じゃない。これは……
「シルバー先輩!? どうしてここに……」
「説明は後だ。事態は急を要する」
 僕が驚いていると、タイラーが舌打ちをして逃げ出そうとしているところだった。
「おっと、逃がしはせんよ」
 一緒に来ていたらしいヴァンルージュ先輩が、タイラーをひとひねりして捕まえた。背後には、大量の警察の姿も見える。
 多勢に無勢、タイラーはあっという間に確保され、あまりの急展開に僕が呆気に取られていると、シルバー先輩が僕へと手を差し出した。
「……デュース。まずはこの手を取って、立ち上がれ」
「シルバー先輩……。でも、僕は……」
「……全部分かっている。全部、だ。あの日から、お前の言動を改めて考え、……タイラーのことも、調べ直した。だから……もう全部、分かっている」
 僕は申し訳なくなりながら、言われるままにシルバー先輩の手を取る。すると強い力でぐいと引っ張られ、そのまま腕の中に抱かれた。
「馬鹿だ、お前は本当に馬鹿だ……!! 俺を守るために、あんな男に自分の身を差し出すなんて……!!」
「シルバー、先輩……」
 僕のことを強く抱きしめながら、シルバー先輩はやりきれない叫びをあげる。僕はといえばなんだか現実味がなくて、ああ、本当に全部バレているんだなあ、ディアソムニアの先輩たちはさすがだなあ、なんて、ぼうっと考えてしまった。
「……二度とするな、こんなこと。大切な後輩を盾にして無事でいたって、俺はちっとも嬉しくない」
 分かったな、とシルバー先輩は言う。強く、僕を責めるように言う。それでも、僕は、はいそうですかとは頷けなかった。
「それは、難しいかもしれないです。……だって僕、アンタのことが大切なんだ」
 だから、何かあったら、馬鹿な僕の馬鹿なやり方で、全力で守りたいんだ、と言えば、シルバー先輩は泣きそうな顔になってしまった。
「……今回のことは、俺の落ち度だ。目の前の人間がどのような性根を持つのかを、正確に見極められず、お前まで危険に晒した」
 お前は忠告までしてくれていたのに、なんと詫びれば良いのか分からない、とシルバー先輩は言う。
 僕はなんだか、こんなにもあっさり解決することだったんだなって、馬鹿らしくなって、笑った。
「詫びなんて、いらないですよ。僕が勝手にやったことなんですから」
「しかし、」
 それでもシルバー先輩は食い下がる。僕は、じゃあ、と言った。
「……考えてほしいです。僕の気持ちを」
「お前の気持ち、か?」
「はい。……こんなことまでするほど、アンタのことが大事だった。だから、振られるにしても、……一度、考えてほしいって、そう思ったんです」
 ああ、言えた。やっと言えた。本当に好きな人に、好きだって。大事だって。それだけで、僕としては十分だと思った。だけど、シルバー先輩は。
「……考える、までもない」
 僕の頬を撫でて、言うんだ。
「まだ、いろいろと落ち着いていないと思うが……落ち着いたら、改めて伝えさせてほしい。今の、俺の気持ちを」
「それ、って?」
「……どうか前向きに、待っていてくれ。ということだ」
 その言葉に驚いて、何考えてんだアンタ、とつい言葉にしてしまう。
「僕、アンタの恋人寝取ったんですよ」
「俺のために、だろう」
「……ソイツと、キスもセックスもしたんですよ」
「俺も同じだ」
 なあ、デュース。シルバー先輩は言う。
「俺のために、その身を投げ出すほど一生懸命になってしまう後輩を、もう放っておけないと思う気持ち……分からないか?」
 シルバー先輩の言葉に、僕は、何も言えなかった。だけど。だけど、この先に悪い予感はしていなかった。
 ずっと僕らの上にかかっていた暗雲が、晴れていくような気がした。

*おしまい

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