葡萄色陶酔

*ユニーク魔法の設定捏造してます
*香椎モイミさんの楽曲「葡萄色陶酔」にめちゃくちゃ影響受けてます。楽曲にリスペクトを込め、タイトルもお借りしております。
*なのでタイトルは「葡萄色陶酔(えびいろとうすい)」と読みます。
※シルバーのユニーク魔法の仕様が公式設定と矛盾していますが、メインストーリー8章Chapter2を見る前に書いたものなのでお許しください。

以上すべて大丈夫な方はスクロール↓

 

 

 
 植物園の片隅。薫る葡萄色(えびいろ)の粒をひとつ摘まみ、俺は、口に含んだ。独特の深みを含んだ甘みと酸味が、口の中に広がる。
 ――これは、俺の重ねた罪の味だ。

 まずは此処に、俺の置かれた残酷な世界のことを言葉にするとしよう。
 俺の世界には、親父殿がいた。マレウス様がいた。幼馴染であり、弟弟子の、セベクがいた。
 家族と過ごす日常、穏やかなものであった。ナイトレイブンカレッジに入学して、友達が増えた。
 まだ、穏やかなものであった。
 だが、2年目。ソイツは現れた。木陰でうとうとと昼寝をする俺の前を、「急がなきゃ」と走り回って。
 一瞬、俺の方を振り向き。その瞳を目に映した俺を、狂った世界<ワンダーランド>へと導いた。

 とはいえ、俺も最初から狂い咲いていたわけではない。
 俺は彼を目に入れ、心を奪われたその日から、デュースへの切なる想いを胸の内に秘め、重ねるようになった。
 彼にとって手本となれるような良き先達であれるようにと、日々の努力と会話をこなした。
 順調だった。順調な純情だった、何もかもが。
 だが、ある日。彼が薄く小さな唇を快活に大きく開けて、零しているのを耳にした。
「好きな人、って……。い、いいだろ別に! いてもいなくても! お前らには関係ないっ!!」
 いつもつるんでいる学友たちと、デュースの会話。その中で俺だけに響いた、その言葉。
『デュースの、好きな人』。
 いつかどこかで、誰かが。俺ではない、誰かが。アイツを求める、好きになる。
 ……俺ではない誰かが、アイツを求め、ものにし、触れ、穢す、のか?
 耐えられなかった。
 心が、葡萄色(えびいろ)に濁っていくような心地がした。
 ワイングラスの縁まで並々と、その液体を注いでいくかのように。
 デュースといつか隣りあって共に笑い合うような、そんな向こう側の景色が見えるほど透明に澄んでいた俺の心は、赤黒く濁っていった。

 グラスに罅(ヒビ)が入り始めた、そんな折のことだった。偶然なのか、それとも俺の強い想いが引き寄せたのかは分からないが。
 デュースの夢に、入れた。彼が俺を親しい先輩だと思い、心を開いていてくれる証拠だと、胸の内に白と黄緑に彩られた花が開き、葡萄の蔓が巡り蔓延るような想いがした。
 俺はその夢の中で、デュースを見ていた。じっと、ただじっと、見つめていた。
 そうすると、夢の中にいたデュースの方が俺に気づいて、駆け寄ってきた。
 「せんぱい」と、小さく柔らかそうな唇で、舌足らずに呼びかけてくる姿が可愛くて。
 じっと見つめ返してくる純粋な瞳が、可愛らしくて、愛おしくて。……気がつけば、キスをしていた。
 驚いた顔をするデュースに、俺は、すまないと言い、もう一度キスをした。
 二度目のキスは、欲じゃなかった。
 口の中に、葡萄色(えびいろ)の液体を含んでいて、それを、キスを通してデュースに飲ませた。
 何故ならこの液体は、緊急用の手段だったから。
 夢の中で取り返しのつかない過ちをしてしまった際など、その夢の記憶を忘れさせるための緊急手段として作ったものだ。
 夢の世界なら、この液体はいくらでも、どこにでも、イマジネーションで作りだせる。
 もちろん、俺の魔力から作られたものだ。効きに個人差はあるだろうが、デュースなら問題ないだろう。
 液体を飲まされたデュースはぽうとして、ガラガラと、忘れさせられた夢が崩れていく。
 俺は、自分も目を覚まそうと、自分の頭を殴った。

 翌日。デュースに出会った。
「シルバー先輩、おはようございますっ! 今日も良い天気ですね!」
「ああ、おはよう。……昨日は、よく眠れたか?」
 なんでもない顔をして、デュースの調子を尋ねる。少しの罪悪を感じながら。
「はい! ぐっすりでした! 疲れてたのか、夢のひとつも見なかったです!」
「そうか」
 良かった。デュースはやはり、あの夢のことを覚えていないみたいだ。
 だが、安堵の海に溺れる俺を差し置いて。デュースはその後、たった一言で。俺の理性を壊した。
「あ、でも。なんか、良いことがあったような気がするな! ……気がする、だけだけど!」
 なので今日もとりあえず一日頑張ろうと思います、とデュースは言い、去った。
 その場にひとり、残された俺は。
「いいこと、はっ、そうか。いいこと、なのか」
 なら……、遠慮はいらないな、もう。と、口の端が歪むのを自覚しないように努めた。

 それからも、俺の罪は続いた。
 デュースが友人と楽しそうに話していれば、肩に触れられていれば、距離が近ければ。
 その度に、夢の中でデュースに向けてくちづけて言った。
「よそ見をするな。お前は俺のものだろう?」なんて。
 現実では絶対に言えない言葉を、五月の驟雨のように与えながら。

 デュースが3年生の先輩方へ無邪気に懐いていれば、衣服を貰っていれば、顎を引き口元を見られていれば。
 俺は、その都度デュースを抱きしめた。
「お前はどうして、他のやつへ無防備に懐く? なあ、俺がいればいいだろ?」
 なんて、縋った。現実では口にしようともしない本音を、夢のデュースに叩きつけて。

 デュースが俺の同級生にからかわれていれば、遊ばれていれば、面白がられていれば。
 俺は、デュースへと触れた。
「この嗜虐心は、なにゆえ俺の心に鎮座して、消えないのだろうな? お前をこうして苛めるのは、俺だけで十分なんだ」
 本当は、純粋で眩しいデュースのことを大切にしたいのに。俺の欲が、それを叶わせない。
 何度も、夢の中で罪を重ねた。
 そうしてデュースに触れる度、俺は知った。嫌というほど、己の醜さを知った。

 そして、罪を重ねる度に、俺はその記憶を消した。忘却の毒を含んだ、葡萄色(えびいろ)のくちづけで。

 だから、当のデュースをはじめ、身近な人すらも、俺の罪について誰も知ることはなかった。
 俺さえ知らない顔で日々を過ごしていれば、誰も知ることのない罪、いわばこれは、完全犯罪だ。
 だというのに、何故なのか。チクチクと、茨の棘のようなものが心に絡みついて、食い込むような心地はしていた。
 
 日々エスカレートしていく心情と行為、そして背徳と罪悪に、幾度も「もうやめよう」と俺の理性が提案した。
 俺はその提案を受け入れ、何度もこの馬鹿で愚かな行いを辞めようと試みた。
 だが、デュースが俺ではない誰かを目に入れ、受け入れ、その眩しい笑みを向けている度に。
 俺はどうしようもなくなって、デュースの夢へと入り、また罪を重ねてしまった。

 そのうちに、夢と現実の境がなくなり始めて。
「シルバー先輩? ……どうしたんですか?」
「あ、ああ、いや。なんでも、ない」
 現実のデュースの顎すら、時にくちづけようと引くようになってしまった。
 まるで酩酊だ。今ここにいる俺たちが現実なのか、夢なのか。自分でも分かっていないのだろう。
 『たとえ明かせば汚泥でも、秘すれば花』だと自分に言い聞かせ、現実ではどうにか、デュースとの距離を保った。
 ただ、どうしてか。デュースの方も、俺のそんな間際の距離を。なぜかだんだん、受け入れ始めてくれている気がした。
 ……だが、それも。俺の都合の良い錯覚だ。きっと。
 そうでなければ。顎を引いた瞬間のデュースの少し潤んだ目が。俺と同じ温度を持って見つめ返してくれているのだと、馬鹿な幻想の罠へと嵌まりそうになってしまうから。

 今日も今日とて、俺はデュースに触れないことを試みる。
 でも、駄目だった。今日も、駄目だった。
 廊下の先に、デュースがいる。彼が立っている。そして、見つめる俺に気付いて、振り向いて笑う。
 たったそれだけのことで、視界から彼以外が消えてしまう。こんなのは、革命だ。

 そうして今日も俺は夢の中で、デュースを貪る。デュースという存在そのものを、好き勝手に貪り続ける。
 くちづけ、抱き寄せ、愛の言葉をささやき、触れ。
 そうしてこの病を誰にも悟らせまいと、葡萄色(えびいろ)の液体を呑ませ、すべてを忘れさせる。
 いっそ何もかもを現実のデュースに教えて覚えさせてしまいたい気もしたが、それは彼にとって毒になるだけだと、最後の理性が控えさせていた。
 この誠実が、俺を孤独にする。他でもないデュースだけが、うんざりなほど俺をたったひとりの孤独な男にしてしまう。
 こんな気持ちが、恋と呼ばれるに相応しいのを知る度、俺は悲しくなった。もう、昂然としてはいられなかったから。

 デュースの真っ白な心に残す、俺の葡萄色(えびいろ)の染みは、すぐに色褪せ、消えていく。
 だからこそ、俺は繰り返す。すべての理想も、事情も、無意味に零れ、帰すままに。
 何も知らないデュースを穢し続ける罪悪と背徳に苛まれながら、俺は今日もまた、罪を重ねるのだろう。
 

 ……。まただ。
 また、シルバー先輩に、ぎゅってされる夢を見た。
 最近、こんな夢を見ることがたくさん増えた。
 シルバー先輩にキスされて、好きだって言われて、ぎゅってされて。
 なんだか恋人みたいな振る舞いを、たくさんしてもらえる夢だ。
 僕はこれに、最初は戸惑っていた。なんで僕、こんな夢見るんだろう、恥ずかしいな。欲求不満なのかなもしかして、なんて。
 自分がえっちなんじゃないかって思ったり悩んだりもした。でも、途中で、そうじゃないのかも、って気づき始めた。
 夢の中のシルバー先輩は、いつも、お別れのとき。僕にぶどうジュースみたいなのを飲ませていくから。
 それを飲むと夢が崩れて、目が覚めるんだ。
 シルバー先輩の触れ方や、言葉が違っても、毎回それだけは同じで。
 となると、シルバー先輩自身が何かしてるのかな? って。
 そういえばシルバー先輩のユニーク魔法って他人の夢の中に入れるんじゃなかったっけ、って僕は思って。
 もしかしてシルバー先輩、僕の夢の中に入ってきてるのかなー、なんて思った。
 それで、キスしたり、抱きしめたりしてくれてるのかな、なんて。
 ちょっと前に、現実の世界でもキスしようとしてるのかな、なんてことがあったし。
 僕は、それを嫌だとは思っていなかった。シルバー先輩、もしかして僕のこと好きなのかな、って思ったから。
 そう思うと、僕もなんだか顔が熱くなって、ドキドキするような気がして。
 たくさん好きだって言ってぎゅってしてもらえるうちに、シルバー先輩のことをいつの間にか、好きになってしまっていて。
 今日も来るかな、今日は来るかな、来るときと来ないときは何が違うんだろうな、なんて考えながら、いつも眠りに落ちる前、シルバー先輩を待っていた。
 ま、まあシルバー先輩はちゃんとした人だし。こんなの、僕の妄想ってか、想像でしかないのかもだけど。
 でも僕はなんか嬉しくて、だから、そうだったらいいなって思ったんだ。
 シルバー先輩が僕のこと好きで、好きだって言いに来てくれてるなら、それがいちばん嬉しいからな!
 だから今はまだ、このままで待ってるんだ。
 もしこれが僕らにとってただの夢じゃないのなら、いつか夢から覚めた現実の世界で、シルバー先輩の口からちゃんと、僕のこと好きだって言ってくれる日を。僕は今、ただ、待ってるんだ。
 あ、でも。本当は僕から、好きだって言ってみてもいいのかもしれないな。待ってるだけなんて性に合わないし。
 だけど、ただもう少し、今はちょっとだけ。まだ、このシルバー先輩にふと与えられる、ふたりの秘密みたいな時間を、楽しんでたいな、と思うから。
 いつか僕が「好きです」って言うそのときまでは、待っててほしいな。そんなことを思いながら、今日も先輩との逢瀬を楽しみに、ちょっと期待しながら眠りについた。

*おしまい

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