兎の夢 - 4/9

 次の日から、僕はシルバー先輩に、隙あらばたくさん愛されることになった。
 休み時間にすれ違ったとき。必ず話しかけられて、頬や髪を撫でられる。放課後すれ違ったとき。物陰に引っ張り込まれて、キスされる。部活中はさすがに時々だが、頬や首にヒヤっとつけて、冷たい飲み物を差し入れられる。一緒にいられる昼休み。動物たちに教えてもらった隠れスポットを知ってるらしくて、そこに連れてかれたあと、キスもハグもされて、好きだって何度も言われて、チャイムが鳴るまで離してもらえない。昼休み、僕が勉強で忙しくて相手できない日も、図書室で向かいの席に座って、じって僕のことをずっと見ている。……ちょっとやりづらい。
 なんていうか、ものすごく……真面目で一直線で、愛情深い人だ。でも、口くっつけるキスと、ハグ以上のことはしてこない。我慢してるのか、変なところで欲がないのか、どっちなのかは僕には分からないけど、まあ、今の僕にそれ以上を求められないのは、とりあえずありがたいことだ。
 でも、まあ、そんなことをされまくったせいで、当然にというか……。とりあえず同級生には僕たちの関係がバレた。
「お前いつの間にシルバーと……。いや、いいんだが……。それは本当にお前の意思なのか? ……なら、いいのだが」
「ホントにいつそーなったの? 時々シルバー先輩に睨まれてるな~とは思ってたけど、お前側の話、オレ全然知らなかったんだけど」
 そのせいで、エースとセベクとかいう珍しい組み合わせに囲まれて、質問攻めに合ったりすることもあった。なんなら、ローズハート寮長からも釘を刺された。
「前回の部活動の際、シルバーにも言っておいたけれど……。あまり、人前ではやりすぎないようにね」
 こんな風に扱われてると、僕の方もだんだん自覚が出てくるっていうか、自覚せざるを得なくなるってものだ。……シルバー先輩側からのことばっかり考えてたけど、僕の方もそういや、シルバー先輩の『特別』になってたんだな、と。
 何度も言うけど、嫌じゃないんだ。嫌じゃないし、元々尊敬してた人から特別に思われてるんだ、まったくもって嬉しくないことはないが……。温度、そう、温度だ。先輩の言うように、僕の方の温度は、シルバー先輩の持ってる熱すぎるくらいのやつと同じになってるかっていうと、まだそうではない気がして、でも、先輩の熱にあてられて、だんだん僕の方の温度も熱くなってきてる気はして、それなのに、このまま湯煎したチョコレートみたいなどろどろに溶かされそうなくらいの扱いばっかり受けてたら……僕、最終的にはいったいどうなるんだ?

 そんなことを考えていたとき、またシルバー先輩にバッタリ会って、嬉しそうにされたんだ。
「デュース」
「あ……」
 思わず僕はその場を逃げ出してしまう。どうしてって、いや、なんでか分からないけど、急に、頬が熱くなったから。
「デュース、どうした? 何故、逃げるんだ」
「せ、先輩……っ」
 追いかけてきた先輩を振り向くと、先輩は笑った。え、笑顔なんて、珍しい……! 珍しいその笑顔に、どきりと鼓動が高鳴る。なんだ、これ? ドキドキする。シルバー先輩といると、心臓がやけにドキドキする……!
「……ふっ、くく……。そうか。いや、追いかけてきてしまい、悪かったな」
「な、何がですかっ!?」
 抗議すると、シルバー先輩は言った。
「お前が、そんなに真っ赤になって恥ずかしがってくれているとは、思わなかった」
 ぽんと頭を撫でられ、なんだよもう、と僕は頬をふくまらす程度の抵抗しかできなかった。

 こんなんだから、シルバー先輩から好きの気持ちをもらうっていう、僕の思いついた作戦は、うまくいってるんだと思う。なんなら、うまくいきすぎてる! 困ったことに、恥ずかしくてシルバー先輩の顔をろくに見られなくなってきた。
 先輩の方は、何故か今の僕の様子はあまり気にしてなくて、また思い詰めるようなことにはなってないみたいだからいいものの……。
 ……これじゃ、僕の方が落ち着かなくてしょうがない。シルバー先輩に、もう少し手加減してください、ってお願いしてみるべきだろうか。……ダメで元々だ、してみよう!

「あ、あのっ、……今日は話、したいんですけどっ!」
「ん?」
 というわけで、シルバー先輩をどうにかこうにか捕まえて(というか、僕が先輩に捕まったのをなんとかいったん中断させて)、ようやく話ができるようになった。
「その……。さ、最近、すごくこういう、キス、とか、してますけど……」
「ああ」
 ああ、じゃないだろ。ああ、じゃ。この人、悪びれる気がまったくないな……。確かに、別に悪いことではないんだが!
「……ちょ、ちょっとだけ、控えめにしてくれると、助かるっていうか……」
「何故だ?」
 シルバー先輩は僕の顔を覗き込んでくる。ち、近い近い! ちょっと離れてくれ、落ち着いて話せない!
「また、お前の心に何か影を落とすようなことがあったのだろうか」
「い、いやっ、その……っ!」
 先輩は本気で心配してくれているみたいだけど……。それでも、そうじゃなくって、ああ、もう!
「ち、違くって! 僕はそのっ、さ、最近、先輩といると……」
「俺といると、なんだ? 何か、不都合なことでも起きたのか」
 手前に出した僕の手を握りながら、シルバー先輩は問いかけてくる。不都合なことっていうか、不都合……。
「不都合、じゃないんですけど、僕、最近、先輩の顔とか見ると、その……恥ずかしくて、見てられない、っていうか……! だから、その、手加減、してほしくて……!」
「……ふっ、そうか」
「わぷっ」
 先輩は僕を胸に抱きしめて、それから額にキスをする。
「先輩、聞いてました!? 僕、手加減してほしいって言って……んっ!?」
 唇にもキスをされる。き、聞いてないだろ、この先輩!
「ちゃんと聞いている。人前では、加減すればいいんだろう? なら、こうした二人きりのときには、より濃密な時間を過ごしたい」
「え、ちょ……」
「何より、そんな可愛いことを言われて、手加減などできるものか。……デュース」
 先輩の手に顎を引かれ、またキスされる。と思ったら、口の中に何かが入ってきて、びっくりすることになった。
「ん、……んぅ……っ!」
「……」
 涙がにじむ視界から見えるシルバー先輩の目が、どこか楽しそうに細められたまま僕のことを見つめてる、気がした。ようやく口を解放してもらえて、僕は気になっていたことを聞く。
「せ、先輩、はっ」
「うん?」
「今は、苦しいの、大丈夫、なんですか?」
「……ああ。心配いらない。お前がこうして、俺だけに見せてくれる可愛らしい秘密の顔を、たくさん作ってくれたから……。もし、悋気を起こしても、お前のこんな顔を知っているのは俺だけなんだと思うことで、落ち着かせることができている」
 だから、もっと見せてくれるか? とシルバー先輩は僕の頬を撫でる。だから手加減してくださいってば、という僕の願いは結局聞かれず終いだった。

 ……それから僕は、気付いてしまった。先輩と、べろちゅーしてしまった……。ひょっとして僕、今やエースたちよりも大人の階段を上ってるんじゃないか……!? いや、それはだからなんだって話なんだけどな。でも、そうだとしたらちょっとだけこっそり優越感を感じたりして……。
 そんなことを考えていたら、また気付いてしまった。こ、このまま行くと、べろちゅーだけでは終わんないで、もっと……。身体触ったり、いっそ、せ、セックス、とか……!? なるのか!? なるんじゃ、ないのか!? 僕は頭を抱えた。ど、どうされるんだ、僕? 男同士のこと、詳しくは知らないが……。えっと、確か抱く側と抱かれる側みたいなのがあって、このまま行くと、たぶんシルバー先輩が抱く側、だよな!? っていうか仮に僕から抱こうとしても、向こうから抱かれる気しかしねえ! となると……今日以上に恥ずかしいことをされるのか!?
 これはやばい、まずいぞ! 何をされてどうなるのか、せめてあらかじめ予習しておきたい! そして僕は翌日の早朝、誰もいない購買部へ向かって、そういう本ありますかと恥を忍んでサムさんに尋ねることになるのだった。
「In stock now!!(あるよ!)」
「あるんすか!?」
 お決まりのやり取りを経て、その本を手に入れようとしたが、年齢制限があるので売ってあげられないよ、と言われてしまった。そんな、僕が早起きしてまで恥をかいた意味はどこに……!!
 しょげていると、サムさんが僕に事情を聞いてくれた。こうなったら恥のついでだ、相談してしまおう。
「……ってわけで、先輩といつかそうなるかもしれないってことの心の準備くらいはしておきたくて……」
「なるほどね、純愛ってワケだ」
 サムさんは少し考える。
「俺としてもそういう真面目に知識を手に入れたい子の応援はしてあげたいんだけどね。こういうのを未成年に売ったとなると、あとで何を言われるか分からないから……こうしようじゃないか?」
「え?」
 そうして僕は、紆余曲折を経て、何故かヴァンルージュ先輩に代わりの購入を頼むことになった。
「すいません、こんなことに協力してもらって……」
「くふふ、かまわんぞ。こういうのも青春の1ページ、じゃからのう! それにわしもちょうど同じ本に用事があったのでな。ついでじゃ!」
「えっ、ヴァンルージュ先輩もあの本に用事が……? せ、先輩にもそういう人が誰かいるんですか?」
「ああ、わしではない。ちょいと必要になるじゃろうやつが知り合いにおっての! あやつもおぬしくらい、そうした知識に積極的じゃと良かったんじゃが……どれ。サム坊、来たぞ!」
「はいはい、ご注文の品はこちらだよ!」
 ヴァンルージュ先輩が代表として代金を支払い、品物を預かる。そして店の外へ出る。僕はさらにそのあと、店の外でヴァンルージュ先輩と代金と品物を取引する、という手筈になってるからだ。
「うむ。代金、確かに。ではほれ、希望の書物じゃぞ」
「ありがとうございます!」
 ヴァンルージュ先輩から紙袋に入った本を受け取り、礼を言う。
「リドルはこうしたものにうるさそうじゃからな。見つからんよう気を付けるんじゃぞ」
「は、はいっ! このお礼は必ずっ!」
「うむ! では今度のセールのときにでも、購買部の限定プリンを買ってきて欲しいのう」
「分かりましたっ!! 必ず買ってきますっ!!」
 ではの、さらばじゃ! とヴァンルージュ先輩はその場を立ち去る。無事本を手に入れた僕はひとり、そういえばこの本どこで読もう、と迷う羽目になるのだった。

「うーん……」
「どうした?」
 シルバー先輩にキスされまくる時間にも、僕は悩んでいた。あの本、どこで読んだらいいんだ……? 寮だと絶対誰かに見つかるし、教室や図書室、なんてもってのほかだ。どうにか長時間ひとりになれる場所があるといいんだが……。
「あ、えっと。すいません。今、ひとりになれる場所を探していて……」
「……すまない。疲れてしまったか?」
「あっ、違うんです! 先輩のせいじゃなくって、えっと。ちょっと、人から隠れてやりたい用事があるだけっていうか……!」
「人から隠れて……? 何か、やましいことでもあるのか?」
「えっ、あっ、いや、その……っ!! べ、別にやましいこととかは……っ!」
「……」
 シルバー先輩の鋭い目が、細まって僕を見つめる。
「いったい、何を企んでいる? ……聞かせてもらおうか」
「う、うう……。先輩にだけは、聞かせられません……っ!!」
 その言葉を聞いた先輩は、僕から手を離す。
「……そうか」
「え?」
「お前にも、俺に隠したいことくらいはあったな」
「先輩、」
「ただやましいだけなら良いが……。悪いことをするのは、良くないぞ」
 シルバー先輩は、ぽん、と僕の頭を撫でて、その場を立ち去った。なんだろう、僕……。ひょっとして、先輩を、傷つけてしまったんだろうか。違うのに、そんなんじゃないのに……。僕はただ、恥ずかしくて。
 ひとりになれる場所を探せるようにはなったけど、シルバー先輩と気まずくなってしまって、これじゃ意味がないよな。一応、学園裏の森の方に、人気がない場所を見つけたから、そこでこっそり読むことはできたけど……。
 シルバー先輩のことばかり考えてしまって、中身は全然頭に入ってこないし、こんなの、今見ても意味がないなって思ったのと同時に、分かった。僕は最近、浮かれてたってことが。
『悪いことをするのは、良くないぞ』
 先輩の言葉が頭に反響する。……そうだよな。悪いことをするのは、良くないんだ。そして、僕がしてきた悪いことを、シルバー先輩は知らないはずだ。僕は、もうきっとシルバー先輩のことが好きだ。少なくとも、意識してる。そういう風になった。
 ……だって、シルバー先輩にあんな風にキスされて、好きになんないのなんか、無理だろ。そんなんだから、一緒にいると嬉しくて、緊張して、心臓がドキドキして破裂しそうで、触れてもらえると、すごく恥ずかしくて、つい逃げ出したくなって、でもそれ以上に嬉しくって……。
 だけど、シルバー先輩は、僕のことを好きなままでいてくれるのか? 僕がワルだった、悪いことをしてたってことを知っても。
 そう思うと、僕は、調子に乗って身体を繋げたりする前に気付けて本当に良かったって思った。僕は、やっぱりこんな馬鹿な僕を、好きじゃない。たくさんシルバー先輩に愛してもらって、好きだって言ってもらって、キスして抱きしめてもらって、勘違いしてたんだ。

 僕は悪いやつなんだってことを、すっかり忘れていたんだ。

 シルバー先輩とは、その後も気まずいままだ。すれ違いざまにも挨拶くらいはするけど、それだけ。隙あらばあんなに愛されてたことが、嘘みたいだ。僕は、その度悲しくなった。シルバー先輩は、もう僕に興味をなくしちまったんだろうな、って思ったことが。
 それで、思った。こんな風になったきっかけは、僕が先輩に隠しごとをしてしまったせいなんだ。時間が経てば経つほど、こういうのは元に戻すのが難しくなるって、僕は馬鹿だけど、それくらいのことは分かってる。
 だから、一縷の望みをかけて先輩にメッセージを送った。
『今日の放課後、じっくり話したいです。会えませんか?』
 15分くらい経ってから、返事が来た。
『分かった』
 一言だけの返事だけど、僕はそれに心底安堵した。そして、気合いを入れ直した。勘違いも、気付いたことも、全部言っていかねえと、だ。

 放課後、誰もいない空き教室にシルバー先輩を呼び出した。
「すいません、いきなり……。来てくれてありがとうございます」
「話、とはなんだ?」
 先輩は、いきなり本題に入る。もう僕にはあまり、長く時間をかけたくないのかもしれないな。悲しくなるけど、誤解されたまま終わりなのはもっと悲しい。だから、もしこれで終わりになるとしても、隠しごとも恥も、何もかもせめて全部ぶちまけてから終わりたい。
「えっと。話したいことはふたつあって、まず、こないだのこと、なんですけど……。先輩に、本当に隠したいってことや、やましいことがあったわけじゃないんです。ただ、恥ずかしくて……つい、隠してしまったんです。でも、それで先輩を傷つけてちゃ意味ないよな、って思って、だから、正直に、言おうと、思ったんですけど……」
 それでも、僕の目は泳ぐ。覚悟してきたんだろ、正直に言え、俺。
「何を、隠していたんだ?」
「……その、こういうものを……用意してて……」
「これ、は……」
 僕は本の入った紙袋を渡す。それは、タイトルからして男同士の性行為……セックスとかについて、詳しく書かれた本で。
「あのときは、いつかシルバー先輩ともこういうことになるのかも、って思って、そのために知識集めようとしてて、ただ、それを正直に言うのが恥ずかしくて、隠してしまったんです……」
「そう、だったのか」
「そ、それで、なんですけど! とりあえずこの本のことはいいです、しまってください!」
「あ、ああ」
 急いでシルバー先輩から本を受け取り、紙袋にしまってしまう。あまり長く出していたいものでもないしな。
「あのあと、僕、思い出したんです。僕はやっぱり、シルバー先輩に、あんな風に愛されていいような奴じゃなかった、ってこと」
「……どういうことだ?」
「先輩には、まだ詳しいことは言ってなかったですけど……。僕は、昔、相当悪い奴だったんです。例えば……」
 それから僕は、昔やってた馬鹿なことを全部、シルバー先輩に伝えた。魔法を使えない人にマウント取ってたり、ハロウィンに不良グループとつるんでカボチャ割り回ったり、調子に乗って舎弟みたいなものなんかできてたり……。そんな、不良時代にしてた悪さを、全部。髪を金に染めていたことも、今とは全然態度が違うことも、何もかも正直にぶちまけた。
「……先輩は、ナイトレイブンカレッジに入ってからの僕のことしか知らないから、きっと、そっちの僕を好きになってくれたんだと思う。でも、僕、こんな悪かった自分を隠したまま、先輩とそういう、もっと深い関係になっていくっつうのが、騙してるみたいで、めちゃくちゃ嫌で……っ!! だから、先輩、すいません、僕……っ、もうこれ以上、先輩に好きでいてもらっちゃ、ダメなんだって思って……、だけど、それがマジで悲しくて……っ」
「デュース」
 シルバー先輩が、僕のことをぎゅっと抱きしめた。え、なんで。どうして、だ?
「お前の隠しごとばかり、俺は気にしていたが……。俺にも、隠していたというか、言っていなかったことがあったのを思い出した。それは、俺のユニーク魔法についてだ」
 それからシルバー先輩は、自分のユニーク魔法について僕に明かしてくれた。他の人の夢に渡れること、それは親しい相手であるほど渡りやすいこととかの説明を、かいつまんで。
「本当に詳しいことは俺にもまだよく分かっていないのだが、これだけは言える。俺はその夢の中で、お前の過去の所業をもう随分前に見ている」
「え……」
 僕は驚いた。まさか、シルバー先輩がもう僕のしたことを知っていたなんて、思っていなかったから。知っていて、あんなに愛してくれていたなんて、それこそ思っていなかったから。
「初めて知ったそのとき、確かに俺は動揺した。だが、そのときにこう思った。もし、過去のことを知り、お前を嫌うことが倫理的に正しいのだとしよう。俺の心はそれができるほど、器用ではなかった。お前のことを、嫌いになろうとしても、なれなかった。だとしたら、いっそ傍にいて、これ以上間違った道を往かないよう、正しい道を示していくのが、お前を愛してしまった俺の取るべき責任だろうと思った」
「せん、ぱい」
「このことがお前を悩ませてしまうとは、思っていなかった。もっと早く、伝えておいてやるべきだった。俺の方こそ、すまなかった」
 僕の声は、震えてしまう。
「どうして、先輩が謝るんですか」
「……まだお前を、愛していたいから」
「僕、まだ先輩に、好きでいてもらって、いいんですか」
「俺はまだ、お前を好きでいていいのだろう。……そうだと言って、うなずいてくれ。でなければ、俺は……」
 僕はシルバー先輩の背中に腕を回して、自分からキスをした。
「好き、です。シルバー先輩。先輩のこと、本当に好きになった。好きでいて、もらいたいです」
「……デュース」
 僕たちは、何日かぶりに、また、たくさんキスをした。茜色の真っ赤な夕陽だけが照らす、誰もいない、放課後の空き教室で。

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