ラビットファー

・攻めフェラ、♡喘ぎあり
・付き合っている設定
・シルバー一人部屋設定

↓大丈夫な方のみスクロールでどうぞ

 

 

 

 

「先輩……、シルバー先輩」
 すぐ隣から聞き慣れた声がする。……ハッと気が付き、頭を振って意識を覚醒させた。どうやら俺は、また眠気に負けてしまっていたらしい。隣でじっと待っていてくれたらしい恋人を見つめ、意識を飛ばしていたことを謝罪する。
「すまない、デュース。また俺は眠気に負けてしまっていたようだ」
「気にしないでください。きっと、疲れでも溜まっていたんですよ」
「だとしても、だ」
 俺はデュースの頬に手を伸ばす。
「せっかくの逢瀬に、惜しいことをした」
「あ……」
 そのまま顔を近づけると、デュースは目を閉じる。わずかに触れた唇の感触に、そっと顔を離す。
「また、今度の休日には長く時間を作るとしよう。今日の詫びだ」
「……ふふっ、はい。楽しみにしてます」
 忙しい互いの日常の合間を縫った、ほんのわずかな逢引のことだった。

 ――後日。デュースと、改めて逢瀬の約束をした日だ。今日はあの日とは違い、ゆっくりとした時間を過ごせるだろう。今日のデュースにはどうやって時間を使ってやろうか。たとえば、母君のために優等生を目指すアイツのために、勉強を見てやってもいい。身体を動かしたいというのなら、軽い運動に付き合うのもいいだろう。さてどんな風に過ごそうか、とわずかに浮き足立つ気持ちで考えながら寮の廊下を歩いていると、突然天井へと逆さに立った親父殿が現われた。
「何やらとても楽しそうじゃのう、シルバー!」
「親父殿。分かりますか」
「分からんことないじゃろ。なにせ息子が恋人を部屋に連れ込むとなったら、のう?」
「……これが初めてのことでもあるまいに、そうはしゃがないでください」
「なんじゃ、親心の分からんやつじゃなあ、くふふ!」
 親父殿は心底楽しそうに笑っている。もう慣れたが、俺がデュースを恋人として寮の部屋へ連れてくる度にこんなからかいをされるのだ。様子を気にかけてくれているのはありがたいが、なんというか少し決まり悪い心地もある。
「いつも通り、二人で過ごせるように人払いはしてやろう。……じゃから、何をしてもいいんじゃぞ?」
「気遣いありがとうございます、親父殿。いつも通り、学生として恥ずかしくない態度で過ごそうと思います」
「なんじゃ、つまらんのう。……まあ、良いわ。その気風もいつまで持つか、それもまた見ものじゃからの!」
 そう言い残すと親父殿は風のように消えてしまった。我が父親ながら、神出鬼没な人だ。とはいえ、人払いをしてくれるのは正直ありがたい。……それというのも、よく友人たちから「そんなものないように見える」と言われる俺にだって、下心や、やましい気持ちが、まったくないわけではない。睡眠欲に吸われているのか、そういった欲が人よりは薄いかもしれないという自覚くらいはあるが、恋人と二人きりになれば、それを体の芯から欲するような激情とは言えずとも、もう少し深く踏み込みたい、近くで触れ合いたいという気持ちになることくらいはある。それに従って、己の心へ正直にデュースへと手を伸ばすことも。きっと親父殿には、俺のそういう心の機微も分かってしまっているのだろう。
 だから――たとえからかうような態度だとしても、それに隠れた親父殿の心遣いには感謝しなくては。
 目の端で時計をチラリと見た。やがて、約束の時間が来る。いずれここへたどり着くデュースを談話室で待とうと、足を進めた。

 やがて、デュースはやってきた。いつものようにトレイ先輩と共に作ったという手土産の菓子と少しの勉強道具を持って。菓子は自由に食べていいと共用の冷蔵庫に預け、デュースを自室へと連れていった。それから、またいつも通り、何をしたいかと尋ねれば、まずは宿題の分からない部分があったから教えて欲しいというので、それを教えてやった。
 デュースはいつも、俺を訪ねてきたときには最初に少しだけ勉強をする。俺に会う前には、宿題や予習復習などやるべきことをすべて終わらせて、心残りがない状態で過ごしたいのだと以前に話していた。ただ、どうにもその予定は現実に追いついていないようで、その予定からはみ出た部分をこうして俺が手伝うことも多い。
 このことを友人に話すと、せっかく恋人と二人で過ごすのにわざわざ勉強なんて、と言われることもあるが、俺はこのことを嫌だと思ってはいない。デュースが夢に向かって努力している姿を間近で見られるのも、手伝えるのも俺の特権だと思っている。それに、だ。
「できました、シルバー先輩!」
「ああ、頑張ったな」
 こうしてデュースの達成感に満ちた満面の笑みを誰よりも近くで見られるのは、案外悪くない。だから俺は、こうして過ごす時間も好きだし、大切に思っている。
 ――だが、それと同じくらい。恋人として蜜のように過ごす時間も、大切に思っている。
「それなら、ご褒美の時間だ」
「わっ」
「デュース」
「……は、はい」
 椅子に座ったデュースを腕の中に抱き寄せ、耳元で名前を囁けば、デュースは真っ赤になって大人しくなる。それが可愛らしくて、つい笑みをこぼしてしまう。まったく、これではどちらの褒美だか分かったものではないな。
「今日は――」
「あ! ちょ、ちょっと待ってください、先輩!」
「ん? どうした?」
 デュースを軽くかまい始めてやろうとすると、それを制止される。デュースはそのまま慌てたようにカバンから何かピンクがかった赤色の小瓶のようなものを取り出し、握りしめて戻ってきた。
「それはなんだ?」
「えっと。これ、僕が作った魔法薬、なんですけど……」
 魔法薬。確かに、瓶の中の液体にはいくらか魔法がかかっているようだ。軽く感知したところ、身体が元気になるような成分がたくさん入っている……という感じだろうか。魔法薬というより、栄養ドリンクに近いものを感じる。
「そうか。失敗せずに作れたんだな」
「失敗……」
 デュースはその言葉を聞いて、わずかに俯く。もしかして、この小瓶の中身は失敗作なのか? 俺は何か、悪いことを言っただろうか。
「デュース?」
「あ、い、いえ! はい、失敗せずにできたから、見てもらいたくって……、えっと、それだけです! もう、しまいますから!」
 様子が明らかにおかしい。成果を見せたいだけなら、後でも良かったはずだ。それに、デュースがしまおうとしている小瓶には、何やらタグがついている。いくらか指で隠れているが、恐らく文字は……。『To Silver(シルバー先輩へ)』……シルバー? 俺の名前だ。あの魔法薬は、俺のために用意されたものだったのではないだろうか。だが、いざ俺を目の前にすると渡す勇気が出ず、ひっこめてしまったということだろう。なんだ、そういうことだったのか。控えめでいじらしい恋人のため、俺は小瓶をこっそりと掠め取ってみた。
「そうなのか? ここには俺宛だと書いてあるようだが」
「あ! いや、それはその、違くて!」
「この間、俺が疲れているんだろうと言っていたな。俺のために栄養のつくものを作ろうとしてくれたんだろう。それなら、嬉しい。正直に教えてくれないか、デュース」
「その、それは、そうなんですけど……」
「ふっ、やはりな。だったら……」
 ごくり、と小瓶の中身を一気に飲み干した。味はといえば、甘い。あとを引く甘さがいつまでも喉に残って、どうやって苦味の強い魔法薬の原料たちでこの甘さを出したんだ、と思えるくらいには甘ったるかった。
「せ、先輩!」
 デュースは慌てた声をあげる。ただの栄養剤だろうに、そんなに焦ることでもあるのだろうか。
「どうした?」
「ど、どうしたっていうか……どうもない、ですか?」
「ああ。特に、身体に大きな異変はないが……何か心配なことでもあるのか?」
「い、いえ。それなら良かったです! 僕、魔法薬の調合が得意じゃないので、もし失敗してたらと思うと、人に飲ませるのは良くないかなって思っただけで……」
「そういうことなら、安心しろ。この魔法薬はよくできている。心なしか、疲れが取れて肩が軽くなった感じがする」
「……良かったです、本当に……。へへ。先輩、いっぱい元気になってくださいね!」
 デュースは心から安堵したようだ。まったく、不安になるのも分かるが、そんな姿も可愛らしい。可愛らしいと思ったから、デュースの顎を引いて口づけた。
「んっ、せんぱ、い?」
 口づけたそのまま、何度もデュースの唇を奪い、舌を差し入れる。
「ん、んむ、んう……っ」
 目を細め、だんだんと息が苦しそうになっていくデュースの姿に、ああ、そろそろ息継ぎをさせてやらなければと軽いキスを挟もうと考えた。そう考えたのに、俺の身体は言うことを聞かず、もっと、もっととデュースの唇を貪っていく。……なぜか今日は、我慢が利かない。この前の逢引ではほとんどこんな睦み合いができなかったから、何かそういう欲が溜まっているのだろうか。不甲斐ない。
 そう思っているうちにも、俺の手はデュースの唇を何度も貪りながら、デュースのシャツのボタンを外していっている。……押し倒すには、椅子と机が邪魔だな。デュースの身体を持ち上げて、ベッドへと放る。……しまった、もっと丁寧に扱ってやるべきだろうに。俺の欲が、コイツを乱雑に扱わせている。本当に良くないことだ。一度、頭を冷やさなければ。
「デュース」
 事に至る前に少し冷たいシャワーでも浴びてこようかと、デュースに声をかけようとした。けれど、俺の思慮はすべて無駄に終わった。ベッドに横たわり、シャツをはだけたデュースを見た瞬間、心臓がどくりと音を立てるのが分かった。
「シルバー、せん、ぱい?」
 わずかに蕩けた表情で、頬を染めて名前を呼ばれれば、もう俺には成す術などなかった。また、デュースの唇を奪い貪った。先ほどよりも、激しく。
「んっ、んぅ、んぐ……、んん……!」
 デュースの息が切れていることも、口の端から唾液がこぼれていっていることも、今は何も気に留めてやれない。気に留めていられない。おかしい。俺はもっと丁寧に、優しく、けして痛くも怖くもないように、デュースを抱きたいと思っているはずなのに。今日の俺は、むやみに乱暴だ。
「せんぱ、い」
 それでも俺を受け入れてくれるデュースの姿に、背筋にゾクリとしたものが昇る。まだ、わずかに残っているらしい理性が、次の言葉を俺に言わせた。
「……すまない、デュース。どうやら今日の俺は、おかしくなっているようだ。いつものように、優しくしてやれそうにない、恐ろしかったら殴ってでも止めてくれ……っ!」
 言い終わるか否かのうちに、デュースのものに手を伸ばす。逡巡さえなくずり下げた下着の中から顔を出したそれを擦り、親指でぐちぐちと音を立てて先端をいじり始めれば、デュースは甘い声をあげた。
「ぁ、せんぱい、そんな、いきなり……っ、ゃ、やあっ!」
「すまない、デュース……っ」
 口では謝罪の言葉を吐きながらも、俺の手はデュースを乱していくことを一向に止めやしない。俺はこんなに意思が弱かったのか……。多少ショックだが、何故かそれでも俺の欲は萎えてくれることなく猛々しいままだ。
「ぁ、せんぱい、だめ、だめそれっ、や、強く握るの、だめ……っ」
 力加減さえうまくできていないようで、デュースは普段よりも強く握り擦られる己のものに激しい感覚を抱いているようだ。どうしたことだ、無理はさせたくないというのに……! 本当に、誰か今、俺を殴ってでも止めてくれないか。その願いも空しく、デュースはどんどんと俺の手で乱れていく。
「は、はぁっ、せんぱい、シルバー先輩……っ」
「デュース……」
 キスしてやりたい。だが、先ほどからのことを思うと、また息切れさせてしまうかもしれない。今はやめておこう、とそう思った。思ったのに、気が付いたらまたデュースの唇を貪っていた。
「ん、ぐ、んぅ、んん~……っ」
 息切れなど、してしまえばいい。俺のことだけ考えて、もっと乱れて、涎を垂らして、息もできないくらいに感じろ。……そんなところまで思考が飛んだのを自覚した瞬間、ようやくデュースの唇を開放してやれた。まずい、このままでは本当に。
 本当に、デュースのことをめちゃくちゃにしてしまいかねない。
 そう自制をかけようとしたのは、悪手だった。なぜなら、想像してしまったからだ。その、めちゃくちゃになったデュースの姿を。現実にしたいと思った。目の前には、今にも食べてくださいと言わんばかりに据えられた膳がある。今ならいつもの眠気が来ても怒らない、むしろ助かるというのに、それが訪れる気配も一切感じられない。
 頭では自分を律しようとしている間にも、俺の手は、唇は、舌は、デュースの身体を味わい尽くしていた。それも、いつものように優しく撫でるように、ではない。つまんで、ひねって、こねくり回して……、同時に、デュースのものへも遠慮のない刺激をぐちぐちと与え続けて。デュースの身体への痛みや負担など度外視している。
「ひぁ! や、そんな、強くしたら……っ、やだ、せんぱい、そこ噛んじゃだめ……っ!」
 噛んで、ねぶって、白い肌にはいくつもの痕をつけて。俺のものだという証がデュースの肌に点々と残り、増えていく。その度デュースの身体がシーツの合間で兎のように跳ねるのが堪らなくて、デュースのものを口に含んだ。口からあふれた部分は手でしごきながら、後ろにも指を入れて弄り始めていく。合間合間で顔を出す俺の理性が、なんとか潤滑液をつけてやることを思い出させてくれたのは不幸中の幸いだ。
「や、やぁ、そんなっ、前も後ろも、だめ、だめ……っ」
 デュースは枕やシーツを掴み、嫌だ嫌だと頭を振っている。既に顔は赤くなり、涙も涎も十分だというのに、駄目だ、足りない。もっとだ。もっともっと、乱れて欲しい。気がおかしくなりそうだ。いや、もうなっているだろう。
 俺はいったんデュースの後ろから指を抜き、身体をひっくり返させると、性急にそこを広げた。少しでも広げるのを待つだけの理性が残っていて、本当に良かった。それでも普段よりもずっと慣らしが少ない状態で、俺はそこへ自分のものをあてがった。
「デュース……」
「せ、んぱ……」
 大丈夫か、だの、挿れるぞ、だの、そんな声すらかけてやれないほど余裕がない。ぐっとデュースの中へ押し進めると、デュースからはまた嬌声が上がった。
「んあ……っ、や、せんぱ、おっきい、ナカ、きつ……っ」
「すまないデュース、自分でも止められないんだ……っ!」
「あ、あ、あ……っ、だめ、せんぱい、止まって、イっちゃ……、ぁ、イ……ッ!」
 どうにも良すぎるほど良さげなデュースの様子を見て、止まることさえできない。デュースはどうやら全部入っただけで達したようだ。一度、止まってやった方がいい。だが、例によって俺の本能は理性を凌駕している。
 俺のものはデュースの中に入り切るや否や、デュースを貪りつくしたいと貪欲に腰を動かした。
「や、やぁ、せんぱい、僕今イッたばっか……っ、ん、んん、やぁっ、だめ、も、~~~~~~~っっ!!」
 デュースは声にならない声を悲鳴のようにあげ、ひたすら感じ入っている。……避妊具すらつけずに中へ挿れてしまったが、それでも痛みや恐ろしさを感じていなさそうなのだけは助かったというところだろうか。そんなことを考えている間にさえ、俺の身体は止まらずデュースを求め続けている。
「も、せんぱ、またイッた、むり、しんじゃう、あ、あ、ア……ッ!」
 枕に顔を埋めて必死にそれを握りしめるデュースの後ろ姿を見ていると、顔が見たくなった。ものを抜く暇さえ惜しくて、そのままデュースをひっくり返すと、デュースはさらに感じたようだった。
「やぁ、ナカ、入ったまま……っ!」
「……デュース」
 もはや言い訳も理性も何もなかった。デュースが欲しい、貪りつくしたい。それしか俺の頭には残っていない。もう何度も達しているはずのデュースをさらに容赦なく快楽へ導こうと、俺の腰は激しく動き続けている。
「ぁ、あ、せんぱ、ダメっ、もうダメッ、こんな、むりっ、も気持ちいいのやだ、おかしくなる……っ!」
「すまない、デュース……っ、今日はどうかしているんだ、俺と共に、どうかしてくれ……っ」
「あ、せんぱ、シルバーせんぱい……っ、やだ、激し、あ、奥、ふか……っ」
 ずん、とデュースの奥を突いた感覚がする。こんなにデュースの奥まで来たのは初めてのことじゃないだろうか。
「……ぁ……♡」
 何やらデュースの身体はカクカクと小刻みに震えていて、いつもとは様子が違う。変だ。本当に、止まってやらなければ。止まってやらなければ、ならないのに……!
「デュース、大丈夫か……っ」
「ぁ、なんか、なんか、いつもと、ちが……っ、んん……♡ や、おなかの奥、むずむずして……っ」
「……腹の、奥、か?」
 デュースの腹を撫でると、デュースはそれにも反応したようで、また喘ぎ声をあげた。
「や、撫で、ないで……っ、あ、だめ、や……っ♡ やあ……っっ♡」
 デュースはガクガクと足を震わせ、目をチカチカと瞬かせて、また達したような態度を見せる。けれど、デュースのものからはもはや白濁した液は出ておらず、感覚だけで達してしまったようだった。
「……デュース」
 デュースが、最高潮に達している。その事実は、ほんのわずかに残してきた俺の理性を壊すのに十分だった。
「う、ぇ?」
「あとで、俺を殴ってくれ……っ」
 それが俺が理性を保っている間に言えた最後の言葉だった。そのあとのことは、もはやまともな記憶を持っていられはしなかった。デュースの、感部という感部を弄っては攻め、声にならない声を幾度となくあげさせ、声を涸らし、涙も涎もぐしゃぐしゃになりきった顔を宥めるためにと落ち着いてキスができるようになったのはそれから一、二時間は経ったあとのことだったろう。俺の狼藉は、デュースが意識を失うまで続いた。

「……本当にすまなかった」
 事が済み、すっかり体力を使い切ったデュースが意識を取り戻しベッドから起き上がったあと、俺がまずやったのはデュースに頭を下げることだった。
「あ、頭あげてください先輩! 僕は平気ですから……」
「だとしても……、避妊具さえ付け忘れ、その上意識まで失わせてしまったんだ。一歩間違えればお前をもっと危険な目に遭わせてしまうところだった。本当にすまない……」
 すると、デュースはバツが悪そうにこんなことを言い出した。
「謝らないでください、本当に、先輩は悪くないんで……。その、する前に、僕が作った魔法薬、飲んだじゃないですか。きっと、あれのせいだと思うので……」
 言われてみれば確かに、あの薬を飲んだあとから自制が聞かなくなった気がする。
「何か、心当たりでもあるのか?」
「……えっと。あの薬作るとき、僕、先輩のこと考えちゃってて……」
 デュースは顔を真っ赤にして俯いた。その上、顔を両手で覆っている。……そんなに恥ずかしいことを考えていたのか?
「大方察しは着いてきたが……何を、考えたんだ?」
「……し、シルバー先輩に、めちゃくちゃにされてみたい、って……ごめんなさい! まさか魔法薬の効力に出るとは思わなかったんです……!! これは嘘じゃなくて、ほんとにただの栄養ドリンクを作るつもりだったんですけど……!!」
 こいつと来たら、さらりとなんてことを言うのか……。はあ、とため息を着く。なるほど、薬の効果だったのか。今回の狼藉のすべてが自分の欲によるものでなくて安心したといえば安心したが……。
「……魔法薬の調合は、間違えれば調合者自身が危ないこともある。ちゃんと集中しろ」
「はい……」
 デュースを軽く叱責したあと、その頭を撫でる。
「だが、今回は、お前が引っ込めようとした薬を俺が勝手に飲んだんだ。中身をよく確認しなかった俺の失態とも言える。……やはり、無理をさせてすまなかったな」
「先輩……、僕こそ、変なもん作って飲ませちゃって、すいませんでした」
「そうだな。じゅうぶん痛い目は見たようだし、今回はこれで手打ちと行こう。……体は痛むか?」
 平気です、とデュースは笑ってみせた。しかし、その首元に残る跡やら何やらが見える度、俺は本音ではデュースをこんな風にしたいと思っていたのかと、自分でも知らなかった自分の欲に恥ずかしさや申し訳なさを覚える。
「それにしても不甲斐ない……。薬の効果とはいえ、心の奥底ではお前にこんな傷をつけたいと思っていたとは」
 デュースの首元に残るたくさんの痕をなぞりながら告げた俺の言葉を受け、デュースは言った。
「あの、先輩。ほんとに、気に病まないでください。元はと言えば僕のせいなんだし、それに……先輩はいつも、とても優しいから、ほんとは我慢したり、無理してるんじゃないかなって思ってたんです、僕」
 だから、とデュースは続ける。
「もし先輩が、薬とかなくてもそうしたいって思うなら……、これからは、その、ああいう強引なところも……ぜんぶ抑えないで、ちょっとずつ見せてくれると、嬉しいです」
 ダメですか? とデュースはねだる。少し、躊躇もあるが……この事態を招くほどの物足りなさをデュースに覚えさせたのは、俺でもある。それに、デュースの作った薬の効きが抜群に良かったのは、俺が実際にそういった欲を抑え続けた反動もあってのことだったのだろう。そうしたことから、俺はこのデュースの願いを受け入れることにした。
「そうだな。またおかしな薬を作っても大変だ。……次は、お前がめちゃくちゃにされたいと思う暇がないくらいには遠慮せず相手してやろう」
「……お、お手柔らかにお願いします……」
 真っ赤になったデュースの顔に、優しく口づける。次はどのくらいの塩梅で事に及ぶべきなのかと、俺が頭の片隅で悩みの種を芽吹かせているのは、きっとコイツは知らないのだろうな。

 *おしまい

送信中です

×

※コメントは最大1500文字、10回まで送信できます

送信中です送信しました!