・期間限定イベント「スケアリーモンスターズ(一年目)」のデュースPSの内容を含みます
・ユニーク魔法など、メインストーリー7章の重大なネタバレを含みます
・【恋愛脳】のおまけ話なので、前話を見ないとわからないところがあります。
晴れてデュースと恋人になった日、夢を渡った。渡った先のその夢の持ち主は、デュースだった。俺が彼の夢を見られるということは、デュースとまさしく深い関係になったということなのだろうか。だとすると、とても嬉しい。だが、そう喜んでばかりもいられはしなかった。なぜなら、そこにいたのは俺のよく知るデュースではなく、髪を金に染め、鋭い目でこちらを睨みつける、今の素直なデュースとは似ても似つかない人物だったからだ。
驚いたが、俺はこの夢を深く知ることにした。知りたいと思ったからだ。デュースはああいった姿に憧れを抱いてるのだろうか、と。そして、馬鹿なことだが、わずかな疑いがあったからだ。今日の告白では、無理やり頷かせたようなものだ。本心では、デュースは俺を好いてはいないのではないか、と。……俺から見れば、デュースは謎だらけの人物だ。彼が何を考えているのか、その胸のうちにどんな気持ちを持っているのか、知りたいと思った。これはやはり、俺が彼に特別な好意を寄せているからなのだろう。
よくよく夢の姿を観察してみれば、デュースの姿は今より幼い。身長も低く、顔つきも今よりあどけない。これは「なりたい姿」ではなく、「かつてなっていた姿」なのだと気が付いたのはそう遅くなってからのことではなかった。
デュースの過去。俺は、今現在、彼のことが好きだ。だが、彼が学園に来る前、どこで何をしていたのかはよく知らない。薔薇の王国の出身で、母子家庭だということは知っているが、その程度だ。もっと深く、彼のことを知りたい。そんな思いが、俺に彼の夢の中を歩かせていた。
若き日のデュースの様子を見守っていると、次第にまわりがカボチャのランタンだらけになった。どうやら、これはハロウィンの日のことのようだ。階段に座るデュースのまわりに、同じ年頃のほどに見える数名の男子が集まる。
「なあデュース、こんなとこで何してんだよ。ヒマならハロウィンのイタズラでもして回ろうぜ!」
「……イタズラ? なんのだよ」
「ハロウィンのカボチャだよ。割って回らねえ?」
「それ……いいじゃねえか。ちょうどムシャクシャしてたんだ。身体動かしゃ、スッとしそうだな」
あまりのことに、言葉は出なかった。だが、このままではいけない。彼らを止めなければ。これはデュースの夢の中で、止めても現実世界では無駄なことだと分かっていても、それでも身体を動かさないわけにはいかなかった。
追いかけた先では、先ほどの男子生徒たちが次々と飾り付けられたカボチャを粉々に砕いていた。ひどい光景だ。デュースも、これに加担していたのだろうか? ……そんな俺の懸念は、目の前の光景に答えが出された。
「デュース、突っ立って見てねぇでお前もやれよ!」
「ああ……これでいいかよ!?」
「ヒュー、さっすが『大釜のデュース』!」
「ハッ、テメェらの頭でもたまにはマシなことも考えつくんじゃねえかよ!」
ぶんと勢いよく上げられたデュースの足が手近にあった大きなカボチャのランタンを蹴り、粉々に砕く。無残な姿になったカボチャに俺はもはや見ていられず、つい彼らの前に姿を現してしまった。
「やめろ、なぜそんなことをする。それはハロウィンをみんなで楽しむために作られたものだ。壊すためのものではない」
「なんだテメェ!? こっちが気持ち良くハロウィンを楽しんでたところを……」
今にも殴りかかってきそうな男子を制し、デュースが前に立つ。
「おい、やめろ。……アンタ、誰だよ?」
「俺はシルバーだ。デュース、こんなことをしてはいけない。きっと母君も悲しむ」
「は、そうかよ。どこで俺の名前を聞いたのかは知らないが……アンタみたいに綺麗ごとばっか並べるようなスカしたやつが、一番ムカつくんだよ。……それにアンタ……ちょっとは後ろも気にした方がいいぜ。そこのガキ、迷子かなんかじゃねえの?」
「子ども?」
思わず後ろを振り向くと、誰もいない。子どもなんてどこにもいないが、とデュースたちのいた方を振り返ると、そちらももぬけの殻となっていた。……しまった、逃げられたか……。こんな単純な手に引っかかったとあっては、親父殿に叱られてしまう。
どうやら彼らは散り散りになって逃げているようで、先ほどの男子の集団の中の一人を人込みの中に見つけた。俺は気づかれないよう、彼のことを追ってデュースの元へと進んでいくことにした。
しばらく男子を追っていくと、どうやら逃げた先に集合したようで、カボチャを壊して回る男子集団を発見する。しかし、デュースの姿は見当たらない。ひとまず彼らの暴動を止め、デュースの居場所を聞き出すことにした。
「やめろと言っただろう。それに、デュースはどこだ?」
「ああ!? テメェには関係ねえだろ!?」
殴りかかってくる男子を軽くかわし、指を喉元に突きつける。この威嚇行動で大人しくなってくれればいいのだが。
「やめろ。お前では俺に勝てない。……もう一度聞くが、デュースはどこだ?」
「ちょ……調子乗ってんじゃねえぞ、この野郎……っ!!」
俺たちの様子を見ていたもう一人、いや……数人が、俺に殴りかかってこようとする。しかし、喧嘩は良くない。この場をどう大きな問題にせず切り抜けようかと考えていると、どこからか「サツだ! 逃げろ!!」という声が響き、すると俺に殴りかかってこようとした男子たちはあっという間にいなくなってしまった。
逃げた男子生徒の代わりに姿を現したのは、デュースだった。俺はその姿を見て、少し驚いた。暗くてハッキリとは見えないが、先ほど出会ったときとは違い、わずかに目元が赤みを帯びていたからだ。……どこかで泣いていたのだろうか? だとしたら、何故? 先ほどの様子からは、目の前のデュースがとても涙を見せるようには思えなかった。一体、この少しの間に彼に何があったのだろうか……?
「アンタ、まだいたのかよ。何してんだ?」
「助けてくれたのか。ありがとう」
「勘違いしてんじゃねえよ。一般人に手出そうとしてる馬鹿がいたから、止めただけだ。本気でサツの厄介にはなりたくないだろ? 殴り合いの喧嘩なんざ、俺たちワルの間だけでやるべきなんだよ。ワルの中にもルールってもんはあるんだ」
考えなしに暴れているのかと思ったが、どうやらこの頃のデュースにもデュースなりの考えがあるようだ。俺はそれを深く知るべきだと思った。ときに表面的なものばかり気にしていては、真実は何も見えてこないとは、親父殿の教えだ。
「一般人、とは? お前たちは違うのか」
「呆れたな。不良も知らねえのかよ。学校にも出ず、授業もサボって喧嘩ばっかしてる、馬鹿の吹き溜まり。それを不良って言うんだよ。アンタらみたいな一般人とは違って、どこにいても邪魔者、迷惑扱い。誰も本気で俺たちなんか相手にしない。この世のどこにもいらねえクズ、それが俺たちだ。分かったら、とっとと帰んな。それ、名門校の制服だろ? ここはアンタみたいなお坊ちゃんの来るとこじゃねえよ」
「それは、先ほどのような悪い行いをするからだ。お前たちだって、良い行いをすればきっと、みんなにも受け入れてもらえる」
「……っせーな……そういうのが、綺麗ごとだっつーんだよ!」
デュースは拳を振り上げそうになる。咄嗟に対処しようかと思ったが、それよりも前にデュースの方が舌打ちをしながら拳を降ろした。そのまま踵を返し、デュースはどこかへ去ってしまおうとする。やはり何か、様子が変だ。最初に見たときよりも。
「待て、どこへ行く」
「どこだっていいだろ。……離せよ」
「嫌だ、離さない」
「なんなんだよ、アンタ」
デュースは腕を振り、俺の手を振り払おうとする。頑として離さないでいると、諦めたように溜め息をついた。
「はあ……。ついてきたきゃ、勝手にしろよ。だけど仲良くお手て繋いではごめんだ、手は離せ」
「……わかった」
デュースはもう逃げる気はないようで、俺を振り払うような速度では歩かなかった。やがて着いたのは、町はずれの河川敷のような場所だった。まわりには、不良と呼ばれた男子だちも、ハロウィンを楽しむ人々も、誰もいない。
「なぜ、こんなところへ?」
「ムシャクシャしたからだよ。何もかもうぜぇんだ。アンタも、アイツらも、……俺も。本当は海にでも行きてえけどな。今日はここでいい」
「なぜ、お前はそんなに気を荒立てているんだ」
「なぜなぜうるせえな……どちて坊やかよ。なんだっていいだろ、アンタには関係ないことだ。俺がイラついてようが、何抱えてようが……アンタには、何ひとつ関係ない」
「そんなことはない!」
つい、声を大きく出してしまった。デュースは驚いた顔でこちらを見ている。
「す、すまない。つい……」
「変な奴。……普通、どうしようもねえ俺たちに、深く関わろうとする奴なんていねえのに」
デュースは河川敷の草原に座る。俺も倣って隣に座ると、目線を合わせず河原に置いたまま、ぽつぽつとデュースは語り始めた。
「こんなの、通りすがりのアンタに言うことじゃないが……通りすがりだからこそ、バカなワルの戯れ言だとでも思って聞いていけよ」
「ああ、聞いている」
「なあ、アンタ……不良がなんでワルになるか、知ってるか? それ、考えたことあるか?」
「いや……分からない」
「だろうな」
デュースはくっと笑った。
「答えは単純、馬鹿だからだよ。馬鹿で、要領が悪くて、マジメにやっても何もかもダメで……悪いことしかうまくできない。クソマジメに頑張ったって、時間とやる気のムダ。頑張っても頑張らなくてもダメなら、頑張らない方がラクでいい。必死こいて頑張って、それでもダメなんて、ダッセェし。カンタンにできる悪いことの方が、マジメな良いことよりもよっぽど上手くできやがる。だから、ワルになるんだ」
「……」
俺が学園で見ていたデュースも、そんな気持ちを胸の中に抱えていたのだろうか。とても真面目そうに見えていたのだが……。
「少なくとも、俺はそうだった」
「デュース……」
「……でも、さあ。惨めなんだ。何をしてても。いくら暴れたって、ちっとも気が晴れねえ」
デュースは河川敷に寝転がって、呟くように語った。腕を顔の前に置いていたから、どのような顔なのかは詳しくわからない。それでも、最初に見かけたときと、俺を助けてくれたあとでは何かが変わっているのは俺にも伝わっていた。
「さっき、アンタを置いて逃げたあと、家の前通ったんだ。そしたらさあ、さっきの騒ぎ起こしたせいか、ちょっと前にサツが来てたみたいで、ドアの向こうで、お袋……母さんが、泣いてたんだよ。ばあちゃんに電話してさ、『私の育て方が悪かったのかしら』って……」
「それは……」
自分の取った愚かな行動が、親を悲しませてしまう。それがどれほど悲しいことか、俺にはとても想像がつかず何も声がかけられなかった。
「分かってる。んなワケない。んなワケねえんだ。悪いのは、馬鹿な俺なんだ。何やっても駄目で、こんな馬鹿に生まれてきちまった俺が何より悪いんだ。でも、どんな顔で……どんな顔して、母さんに会えばいいのか、わかんねえ。なんだかアイツらとつるむ気にもなれねえし、家にも帰れねえ。……どこに行っても、居場所がねえんだよ!」
「デュース……」
デュースに手を伸ばしかけて、やめる。デュースは腕の下で、涙を見せている様子だったからだ。……こんなときに同情されるほど、余計に惨めなこともないだろう。人の感情に疎い俺にでも、それくらいは分かる。
「なんで、俺、こんな馬鹿に生まれてきちまったんだろう……っ、アンタみたいにさあ、もっと真面目で、賢くて、まともな優等生のお坊ちゃんにでもなれてたら、きっと母さんを喜ばせてやれたのに……っ」
せぐり上げるようなその言葉は、聞き覚えがあった。何度となくデュースの口から聞いた、母親を喜ばせたいという言葉。優等生になりたいという言葉。ずっと、今の彼とは似ても似つかない、目の前の彼がデュースなのだということに違和感を抱えていたが、彼は、いや、彼も間違いなく……デュースの一部なのだと、俺の中で何かが解けたような感覚がした。
「デュース」
俺は今度こそデュースの手を掴み、目を見て、こんな言葉を投げかけることしかできなかった。彼に正しい道を示したという警察官と母君の話を思い起こしながら。
「俺は、まだ、お前の傍にいてやれない。すぐ隣で、お前の道を正してやることができない。それでも、お前の近くに、お前自身を見てくれて……信じてくれる人は、必ずいる。その人たちの手を、必ず取れ。お前が変われると思ったなら、その機会をけして逃すな。そうすれば、お前もきっと思い描く優等生になれる。母君も、喜ばせることができるんだ」
兎のように赤い目をしたデュースは、ぱちぱちと目を瞬かせると俺を見て笑った。その笑顔には、今のデュースの見せる笑顔の面影があった。
「アンタ……ほんと、変な奴だな。でも、だからかもな……こんなにいろいろ、話しちまったのは」
ジリリリリ、とけたたましい音がする。きっと、目を覚ます時間……朝が近づいているのだろう。
「なんか……ありがとな。また、どこかで会えたら、そのときはちょっとくらい……変われてると、いいな」
夢が、崩れていく。デュースの声を遠くに聞きながら、俺の頭は目を覚ましたようだった。
「……あれが、デュースの過去……」
恋人になった瞬間知ってしまった強烈な過去に、あらゆる思いが錯綜する。本当に、何も知らないまま告白して良かったのだろうかという気持ち。デュースの抱えている不安や葛藤への、憂慮。デュースの知らないところで、知られたくないだろう心情や過去を知ってしまったことへの罪悪感。本当にデュースを好きなままでいられるのかという、不安。ずしりと重いものが心に乗ってきて、涙が一粒こぼれそうになる。
頬をぱしりと叩いて、頭をぶんぶんと振って、改めて己の目を覚まさせた。自分が最後に言った言葉を思い出せ。「まだ隣にいてやれない」「すぐ隣でお前の道を正してやれない」とは誰の言葉だ? 俺の口から出た、本心の言葉だ。今は、今なら、それができる。夢の中で寄り添いきれなかったデュースの気持ちにも、過去にも、これからのあやまちにだって、今なら、悲しむことも、怒ることも、正すことも、反省を促すことも、その裏にあった気持ちに寄り添うことだって、なんだってできる。何より、このことを知ってもまだ俺の心はアイツが好きなままで……、過去のあやまちを知っても、それでも、あの笑顔が、照れた耳が、逸る鼓動が、今現在の彼が積み上げてきた、ひたむきな態度が好きなんだと、半ば悲鳴をあげていて。まだ、いいや、できればずっと、デュースと別れたくはないと思っている。
なれないんだ。嫌いになんて。悪事を働いていた過去を知ったからって、今のアイツが積み上げてきたものが消えるわけではない。俺が見てきたアイツの姿だって、消え去りはしない。好きになった事実も、この鼓動も、落ち着きはしない。何があったって、もはやデュースを好きでいることしか俺にはできないんだ。
ならばこそ、もっと仲を深めて……機会があれば、改めて伝えなければならない。どんな過去を持っていたとしても、俺が好きになったのは、今のデュースだ、と。今、ひたむきに頑張っている、真面目な優等生のデュースなのだと。もちろん、悪い行いは反省すべきだということも伝えるつもりだが……俺が気持ちを伝えることで、より、良い方に変わって良かったと、もっと頑張りたいと、思ってもらいたい。
だから、改めて過去の事情を勝手に知ってしまった謝罪と共に、「今」のデュースにその気持ちを伝えることにした。俺の思う、正直なすべての気持ちを。
「……ということがあって、お前の過去を知っていた」
「そう、だったんですね。話してくれて、ありがとうございます」
ユニーク魔法の説明と共に、デュースに夢であった出来事を話す。デュースはあまり夢を覚えていられないタイプのようで、夢の中で俺と出会ったことはすっかり忘れているようだった。
昨晩睦み合いをしたばかりだからか、あまり照れずにデュースは俺の腕の中にいて、胸に寄り添っていてくれたのだが、この話をしだすと少し離れようとしたので、離れないように引き寄せると、もう、先輩、真面目な話ですよね? と照れくさそうに怒られた。
デュースは観念したように、夢の中と同じようにぽつりぽつりと語りだす。
「……先輩に、いつ言うべきか、って思ってたんです。僕がどんなに悪くて、どうしようもない奴だったかってことを……。ホントなら、告白してくれたとき……好きだって言ってくれたときに、言うべきだった。ホントは、先輩の考えてくれてるような奴じゃないんです、って。でも、すごく喜んでくれてたから、言い出せなくって……」
「そうだったのか……すまない」
それでも、と俺はデュースの手を握った。
「たとえすべて忘れてしまっても、それが夢の最中(さなか)でも、この現実でも……何度でも言おう。お前自身を見てくれて、お前を信じてくれる人は必ずいる。その人たちの手を、必ず取るんだ。そして願わくば、俺もお前が変わっていくとき、傍にいて信じられる、その一人であり続けたい」
「先輩……、はい! 僕、頑張ります!!」
デュースはどんと胸を叩く。夢で見た金髪の彼の姿が脳裏をよぎり、デュースが変わっていくことが嬉しく思えた。
「お前が変わっていくことは、お前と同じように、変われなくて悩んでいる人の希望にもなるだろう。頑張ってくれ、デュース」
「……はいっ! ありがとうございます、先輩!」
むん、と気合いを入れて胸を張り直すデュースの髪をくしゃりと撫でる。嬉しそうにへへ、と笑う姿に、やはり俺の鼓動は以前と同じように、いや、それよりも深く……、甘さも苦味も抱え込んだ、ローストしたコーヒーのような味わいを持ってどくりと脈打っているのだった。
*おしまい
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